アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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第7話 ムーンライト・セレナーデ
01 追う者


 

 

 男は、慌てて車に飛び乗った。

 

 何の変哲もない、藍色の車である。

 安物というわけではないが、この地下駐車場の中にあっては妙に安っぽく見える。

 それもそのはずである。周囲にあるのは、一台が100万コーム近い超高級車ばかりなのだ。

 彼が20万コーム一括払いで買ったこの愛車が、安く見えるのも無理はない。

 

 だが今は、そんなことはそれこそどうでも良かった。

 車は値段ではない。

 走ればいい。走らなければならないのだ。

 

 男は乱暴にアクセルを踏んだ。

 危うく車がエンストを起こしかける。

 黒い煙を吐き出して、車は動き始めた。

 

 スピードの出しすぎだ。

 駐車場の中だというのに、スピードメーターは高速道路並の数値をはじき出している。

 もし事故でも起こしたら?

 男には、そんな細かいことを気にしている余裕がなかった。

 

 死ぬ。

 走らなければならない。

 走らなければ、死んでしまう。

 殺されてしまう。男は必死だった。

 

 そして恨んだ。

 上司と、会社と、この世界と、50年前に起きた大戦争と、そして彼自身を。

 彼をこんな目に遭わせた、全てのものを恨んでいた。

 

 車はあっという間に駐車場を突っ切って、外へと飛び出した。

 

 外は暗い。当然である。

 ここは地下に建設された都市なのだから。

 しかも今は、「夜」の時間帯だ。

 人々に擬似の暦を与え、時間感覚を麻痺させないために作られた「夜」である。

 地下都市の天井に備え付けられた電灯は、ほとんどがその明かりを消していた。

 

 闇に覆われた道路に、車は乗った。

 

 この道路は都市の中で最も主要な道路である。いわば幹線道路というやつだ。

 道なりに進めば、地下都市の外へ出ることもできる。

 

 汚染され、人が住めなくなった地上へである。

 しかし、背に腹は代えられない。

 彼の居場所は、外にしか残っていなかった。

 どこか別の地下都市まで逃げて、ひっそりと隠れ住むしかないのである。

 

 車の遙か後方で、重い金属音が響いた。

 

 ――来た!

 

 男は、自分の足に全体重を乗せた。

 ありったけの力で、アクセルを踏みつける。

 車は一層速さを増した。

 

 しかし、後ろの金属音はどんどん大きくなっていく。

 近づいているのだ。

 彼を追ってきているのである。

 彼を、殺すために。

 

 バックミラーに、小さな光が映った。

 男は目を見開くと、ハンドルを左に切る。

 

 ガキュンッ!

 

 いつ聞いても嫌な音だ。

 何かが、ついさっきまで車がいた辺りのアスファルトを削り取った。

 

 ちくしょう、まさか都市の中で発砲するとは!

 彼は唇を噛んだ。

 警察――「ガード」が来る前に片を付けるってことか!

 

 彼はそのまま、交差点を左へ曲がった。

 信号などこの際無視である。

 どうせ、他に車などいはしない。

 

 この道の先にも、地上への出口はある。

 

 道の両側には、高層ビル群が建ち並んでいる。

 どれもこれも、名の知られた大企業のものばかりである。

 窓の灯りもちらほら見える。

 

 残業に勤しむ、仕事熱心なサラリーマンたち。

 ご苦労なことだ。

 男も、ついさっきまでは彼らの仲間だった。

 仕事の分野は違えども、自分の所属する会社の利益のため、必死に働いていたのだ。

 

 それが今はどうだ。

 彼はいらなくなったのだ。

 男は思った。最悪のリストラだ。

 

 その時だった。

 

 突然、前方のビルの影から巨人が一人、姿を現した!

 

 いや、それは巨人ではない。

 戦闘用の巨大ロボット。

 ACと呼ばれる汎用兵器である。

 紫色の機体が、車のヘッドライトを受けて照り輝く。

 その手に持ったハンドガンは、紛れもなく彼の方を向いていた!

 

 ――回り込まれた!

 

 男はアクセルから足を放すと、一瞬だけブレーキをかけ、すぐさまアクセルに足を戻した。

 その間にハンドルは左に目一杯切られている。

 

 後輪がけたたましい音を立てて地を滑り、車は180度回転した。

 そのままアクセルを踏みつけ、全速力でACから逃げる。

 

 ガシュッ。

 

 紫色のACが、一歩足を踏み出した。

 そしてもう一歩。

 そのたびに低い音が響き渡る。

 

 音の間隔は、少しずつ狭くなっていった。

 音そのものも、少しずつ大きくなっていった。

 近づいている。男は後ろを振り返る気も、バックミラーを確認する気も起こらなかった。

 

 怖い。怖い。助けてくれ、死にたくない!

 男の全身から冷たい汗が噴き出した。

 

 音が大きくなっていく。

 男の息づかいが荒くなった。

 音が大きくなっていく。

 男の口から叫び声が飛び出した。

 

 銃声が響く!

 

 男はハンドルを右へ左へと忙しく操作した。

 車もそれにつられて道路を蛇行運転する。

 

 後ろから飛んできた数発の弾丸は、全てアスファルトをえぐるだけに終わった。

 男は知っている。

 どんな動きをする目標が、一番狙いにくいかを。

 それは皮肉にも、彼が今まで手こずってきた動きに他ならなかった。

 

 しかしそれでも、弾丸は執拗に車を狙い続けた。

 男は気付いていた。

 だんだんと、狙いが正確になってきている。

 自分の動きに、相手が慣れてきている。

 

 さすがにいい腕をしていやがる。

 男は奥歯をかみしめた。

 

 バシュッ!

 

 突然、車が大きく傾いた!

 後ろの方でギャリギャリと嫌な音がする。

 弾丸がタイヤをかすめたのだ!

 

 男は必死にハンドルを操作した。

 しかし車は全く言うことを聞こうとはしなかった。

 そのままの勢いで、車は道ばたの街路樹に突っ込んだ。

 

 反動で男は頭をしたたかに打ち付けた。

 しかしぼうっとしている暇はない。

 

 アクセルを踏む。

 反応は……ない。

 完全にダメだ。

 

 男はなんとか歪まずに保っていた助手席のドアを蹴り開けると、外へ飛び出した。

 

 しかし、もはや全ては手遅れだった。

 男を待ちかまえていたのは、ほんの一メートル先にある、ACの銃口だった。

 

 男は紫のACを見上げた。

 巨大なロボットは身動き一つせず、そこに佇んでいた。

 男はゆっくりとその場に尻餅をついた。

 

 その時、彼の中で何かが途切れた。

 男は突然けたけたと笑い出すと、やがて大声で騒ぎ立てた。

 

「レイヴンだな……お前はレイヴンだろう!?」

 

 ACは微動だにしなかった。

 

「俺も昔はそうだった……ネストはもう抜けちまったがな。

 わかるだろ?

 企業からオファーがかかったのさ。

 俺はその話に飛びついた。

 

 当たり前だよな!?

 企業のエージェントになるんだ。

 明日の飯もどうなるかわからねぇようなならず者じゃねぇ!

 普通の暮らしができる。

 人並みに暮らせるって、そう思ったんだよ!」

 

 ACは微動だにしなかった。

 

「だが俺はいらなくなった。

 お前がいるからだッ!

 噂は聞いてる。

 アリーナの2位なんだってな?

 さぞかしいい腕してるんだろうよ!

 

 気を付けろ、レイヴン。

 奴らはお前を狙ってる。

 俺の代わりに今度はお前を食い物にするつもりなんだッ!

 そしていつか、お前も捨てられるんだ!

 俺みたいにな!

 

 ……ふ……ふはっ、くあっははははははっ!」

 

 ACが、動いた。

 

 

 

つづく。




今回登場したAC

■ミーティアライト
機体名 ミーティアライト
パイロット 宝条司
HEAD HD-HELM
CORE XXA-SO
ARMS AN-25
LEGS LN-501
BOOSTER B-PT000
FCS QX-AF
GENERATOR GBG-10000
BACK UNIT R WM-X10
BACK UNIT L -
ARM UNIT R WG-HG235
ARM UNIT L LS-99-MOONLIGHT
OPTION SP-MAW, SP-JAM, SP-CND-K, SP-AXL, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-ABS/Re
●COLOR
 DUCK HUNTER/PSYCHEDELIC
●備考
 ハンドガン剣士……何もかも懐かしい。ハンドガン硬直からの垂直落下切り、通称「メテオ」を得意技としているので、この機体名です。
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