アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
カウントがゼロになった瞬間、ペンユウは真横にブースト移動した。
ついさっきまでペンユウがいたところを、ガトリングガンの弾丸が通り過ぎていく。
リンファが相手の姿を確認したのはその後だった。
前に見た、青い蜘蛛のようなAC。
武器腕のガトリングガンと、肩に背負ったレーザーキャノンがその武装。
火力も機動力も兼ね備えた、できれば相手にしたくない奴である。
ヨシュアの性格から、最初に不意を付いて攻撃してくるのは予想していた。
だからこそかわせたのである。
『よく避けたものだ』
こんな時に、余裕があるのかバカなのか、ヨシュアが通信を入れてきた。
同時に、ワームウッドは一気に加速して近付いてくる。
『いい勘をしている。親父を思い出すな』
「そりゃどーも……」
敵に褒められても大して嬉しくはない。
ペンユウは牽制のつもりでマシンガンを撃った。
別に当たるとは思っていなかったが、やっぱり当たらない。
マシンガンは諦め、今度は自分からダッシュをかけた。
正面から二体がぐんぐん近付いていく。
『チキンレースでもする気か』
「まさか」
バシュッ!
まさに激突寸前となったとき、ペンユウが左手を振るった。
レーザーブレードがワームウッドの装甲板をかすめる……が、それだけだった。
一瞬速く反応したワームウッドが、ブレードのある腕と逆方向に逃げたのである。
これでペンユウは横を取られる形となった。
『言っただろう、データはこちらにある、とな!』
ワームウッドの肩のレーザーキャノンが火を噴いた。
このままではペンユウに直撃する!
「食らうかっ!」
しかしその瞬間、ペンユウがマシンガンを放り投げた!
レーザーはマシンガンに着弾し、爆発を起こす!
ペンユウはマシンガンを失っただけで無傷。
だが安定性のない四足ACであるワームウッドは、衝撃で大きくバランスを崩した。
すかさず、ブレードがきらめきワームウッドの右腕をもぎ取る!
そして素早くペンユウは離脱し、再び間合いを取った。
今の一瞬の攻防で、ペンユウはメイン火器であるマシンガンを、ワームウッドは両腕の武器のうち片方を失った。
状況的にはほぼ五分と五分。
次に聞こえてきたヨシュアの声に、さっきの余裕はなかった。
『やってくれるじゃないか……』
「ま、あんたの父親を思い出させるくらいの勘の良さだから」
今度はリンファは軽口を返した。
彼女の中には、少し思い当たる節があった。
「ヨシュア、あんたさっき言ったよね。
親父を思い出させる、って。
どういうこと? あんたは父親と戦ったことがあるわけ?」
ヨシュアは答えなかった。
それでリンファは確信した。
ゆっくりと強靱に、自分の確信を言葉にして紡ぎだしていく。
「父親を殺したのね、ヨシュア」
しばらく沈黙が続いた。
今ここで何も言わないということは、認めているにも等しい行為だった。
リンファは小さな彼の溜息を聞いたような気がした。
『奴は……戦うことを棄てた』
聞こえてきたのはヨシュアの声だった。どことなく疲れているようだった。
『だから死んだのさ』
ペンユウの肩に付いた、エリィ特製のレーザーキャノンが準備された。
これでいつでも撃てる。
リンファは、この男には一発お仕置きをしなければ、と思った。
『僕はあの男を越えてしまった。だから……』
「寝言は寝てからいいなさいよ!」
リンファが一喝すると、彼の声は止まった。
「あんたは父親を越えてなんかいない。
それどころかあたしを越えることだってできない!」
『面白い』
ワームウッドが、動いた!
『試してみようか!』
その時、今まで話を黙って聞いていたのだろうか、エリィから通信が入ってきた。
『りんふぁちゃん、レバー!』
「わかってるっ!」
リンファはすぐさま右手でレバーを下ろした。
これで、火器制御や機体制御にコンピューターの仲介が入らない。
自動標準も利かなくなるが、同時に余計なタイムブランクもなくなる!
近付いてくるワームウッドに対して、マシンガンで牽制……
「あああああっ! マシンガンがないっ!」
仕方なく、上空へ飛び上がってワームウッドのガトリングガンをかわす。
無防備な空中にいるところを狙って、ワームウッドがレーザーキャノンを連射する。
なんとかそれをかわしながら、ゆっくりと地上に降りていくペンユウ。
と……
『りんふぁちゃん、ワナよっ!』
「!?」
ほとんどエリィの声に驚いて、リンファは着地寸前でブースターをふかし、上昇した。
その足のすぐ下を、レーザーキャノンの弾が過ぎ去っていく。
ヨシュアはまず単調に攻撃を放ち、リンファが地上に着地するように仕向けた。
そして、着地の一瞬の隙を狙ってレーザーキャノンを撃ち込んだのである。
リンファはこのことに気付かなかった。
もしエリィの警告がなかったら、今頃直撃を食らっていただろう。
『君のメカニックはいい腕をしているようだな』
『えへへ~』
「うるさいっての! エリィも照れてんじゃないっ!」
幸い、ここは切り立った岩が連立する荒野。
ペンユウは岩の後ろに着地した。
それにしてもマシンガンを失ったのは痛い。
牽制に非常に重宝する武器なのだが。
「こうなったら……イチかバチか!」
ペンユウは岩陰から飛び出すと、ワームウッドへ向かって走り出した。
しかしこれでは撃ってくれと言わんばかりである。
『甘いぞ、リンファ!』
ガトリングガンの弾丸が飛んでくる。それをペンユウは再び空中に飛び上がってかわした。
『ダメよぉ~! それじゃさっきと……』
「同じことはしないっ!」
リンファは乱暴に言い放つと、ペンユウが肩のレーザーキャノンを構えた!
空中で撃つ気だ!
ヨシュアは内心ほくそ笑んだ。
前に戦ったとき、リンファは空中でキャノンを撃とうとして失敗している。
確かに撃つことは不可能ではないだろうが、機体に及ぶダメージも半端なものではない。
加えて、この距離ならワームウッドの機動力をもってすれば簡単にかわすことができる。
つまり、もはやヨシュアは勝ったも同然。この一発はリンファのやけくその一撃。
ヨシュアはそう読んだ。
そして、ペンユウがレーザーキャノンを撃った!
……空中で機体を安定させたまま!
『何ぃ!?』
「ほらほら、早くかわさないと直撃するぞ!」
『くっ!?』
驚きが先にでて、回避動作が一瞬遅れた。
そのせいで、なんとか回避はできたものの、衝撃でワームウッドの動きが鈍る!
「とどめだっ!」
ペンユウが放った第二射は、今度こそワームウッドを直撃した!
ぼろぼろになり、ぴくりとも動かないワームウッド。
その正面に、ペンユウは降り立った。
「さあ……」
――大人しく降伏しなさい。
リンファがそう言おうとした、その時!
バシュッ!
ワームウッドのレーザーキャノンが火を噴いた!
油断していたリンファの裏をかき、ペンユウの左肩に直撃した弾丸は彼女の愛機の左腕を切り離した!
衝撃で、片膝を付くペンユウ。そのコックピットの中、リンファは唇を噛んだ。
そう……相手が降伏していないうちは決して勝った気になってはならない。
その大原則を、リンファはすっかり忘れていた。
『ふ……油断大敵、ってのは確かアジア人の諺だったよな』
ワームウッドがゆっくりと、機体全体をきしませながら起きあがった。
全身はぼろぼろだが、まだペンユウに止めを刺す程度の余力はあるようだ。
リンファは考えた。
レーザーブレードを装備している左腕を斬り飛ばされ、残った武器は肩のキャノンのみ。
だがこれは準備に時間がかかるため、この距離で悠長に準備していたらその前に止めを刺される。
ほとんど状況は絶望的だった。
『それにしても、どうして空中でキャノンが撃てた?
前はわざと失敗したのか?』
「……別に。
ただ、コンピューターの仲介がなかったから思い通りに機体を動かせただけよ」
『なるほど……大したものだ』
キュインッ。
小さく音を立て、ワームウッドのキャノン砲が向きを変えた。
いよいよ……来る。
「全く……あんたの言う通りよ。
油断大敵ってのは……」
リンファが、にやっと口の端を吊り上げた!
「アジア人の諺よっ!」
瞬間、ペンユウの右手が地面に落ちた左腕をつかみ、ワームウッドに投げつけた!
……腕に内蔵された予備電源で生み出された、光の刃と共に!
『うおおっ!?』
ブレードは狙い違わず、ワームウッドのコアと脚部のつなぎ目を斬り裂いた!
そして、衝撃で発射されたワームウッドの弾丸もまた、ペンユウのボディを全く同時に貫いた!
つづく。