アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
『目標地点到達まで後30秒。
AC投下のカウントダウンを開始します』
無人輸送機のコンピューターが報告する。
いよいよだ。
司は操縦桿に手をかけた。
外の様子は見えないが、今いる場所は広大な針葉樹林の上空である。
この森に、ターゲットとなる地下基地が建設されているらしい。
宵闇に紛れて進入し、破壊する。
それが任務だ。
しかし森というのも不思議な存在である。
この汚染された地上では、水は全て強烈な酸性雨として降り注ぐ。
普通の樹ならとても生息できる状況ではないのだ。
しかし、森は存在している。
適応してしまったのである。
少々の酸性雨では、びくともしないような抵抗力を、森は手に入れたのだ。
大破壊からたったの53年だが、そんな短い期間でも生物は進化できるのだ。
『10秒』
司の全身を、緊張という名の電流が駆け回った。
今まで何度も死地に赴いてきたが、この緊張感を忘れることは一度たりともなかった。
それはまだ自分が未熟ということなのか?
それとも、忘れてしまった人間の方が狂人なのか。
『……3・2・1・投下』
がぱんっ。
足下の床が、音を立てて開いた。
爽快感とも恐怖とも思える奇妙な感覚が司を襲う。
自由落下特有の感覚。
彼の愛機『ミーティアライト』は、その名の通り流星のごとく眼下の森へと落下していく。
ある程度落ちてから、司はブースターの起動スイッチを押した。
ACの背面に備え付けられたブースターが火を噴き、落下の勢いを殺す。
ドズッ!
重苦しい音と砂煙を立てて、ミーティアライトは大地へと降り立った。
紫色のボディが月の光を浴びて燦然と輝く。
狼の目が、戦いを予感してぎらぎらと光を放った。
*
「来たぞ! 情報通りだ!」
地下基地の一角、いくつもの機動兵器が立ち並ぶ格納庫へと、男が一人駆け込んだ。
既に格納庫の中で作業をしていた人々が、一斉に彼の方へ振り返る。
その中の一人が口の端を吊り上げる。
風体からすると、この一団のリーダーらしい。
「馬鹿な奴だぜ。
待ち伏せされているとも知らずに……
相手はアリーナの2位らしいが、大したことはねぇ!
なんたってこっちにはマスターランカーが付いてるんだからな!
気合い入れろよ、落とした奴は特別ボーナスだ!」
一同から鬨の声が上がる。
そろって自分の愛機に乗り込む男達。
中には、どうせボーナスが入っても周りからたかられるだけだと高をくくった、冷めた連中もいたが。
異様な熱気に包まれる格納庫の隅に、派手な真紅の塗装のACが一機、佇んでいた。
人間型2足の、ごく一般的な機体構成である。
その傍らには、壁に背を預け、周囲の様子をつまらなそうに眺めている女。
彼女は肺にため込んでいた息を吐き出すと、おもむろに自分の愛機のコックピットへ向かった。
*
上空から落ちるときに見た光景を、司は思い起こした。
ここのすぐ北に、木の生える間隔が妙に広い場所がある。
どうしてそんな場所が存在するのか……
もっとも高い可能性は、重機が活動しやすいように、何者かが樹を間引いたということだ。
おそらくは、ターゲットの武装集団が。
司は操縦桿を動かした。
狭い木々の間を、ミーティアライトは器用にくぐり抜ける。
何も撃ち合いだけがレイヴンの仕事ではない。
巨大な兵器であるACを、いかに見つからないように移動させるか。
それもレイヴンにとっては重要な技能である。
やがて視界が開けた。
やはり、樹が間引かれた跡がある。
司は外部カメラで地面の様子を拡大した。
巨大な足跡、車輪の痕跡。
熊や鹿でないのは確かだ。
全長7、8メートルにもなろうかという熊がいるのなら、それこそ例のゴシップ誌が飛びついてくるだろう。
ここから先は、何が起きてもおかしくない。
司はもう一度機体の確認をした。
右手のハンドガン、肩に背負った爆雷投射機。
左手の甲に備え付けられたレーザーブレード。
各部駆動系。
ジェネレーター出力。
どこにも問題はない。
よし。
司は気合いを入れ直した。
慎重に、ミーティアライトは歩みを進めた。
地面の足跡を伝い、まばらな木々に隠れながら地下基地への入り口を探す。
そう広いスペースがあるわけではない。
探すことそのものはそれほど難しくないだろうが――
背筋を駆け抜ける悪寒!
司は乱暴に操縦桿をなぎ倒した。
ミーティアライトの巨体が振り向きもせずに横に飛ぶ。
ついさっきまでミーティアライトがいた地点で巻き起こる爆発!
スピードを殺さないように移動しながら回転する。
背後には、一機のヘリコプター。
さっきの爆発は奴が放ったミサイルだろう。
[敵機確認。
カルナック・オプトエレクトロニクス・システムズ製、戦闘ヘリ『ボーラ』、機数3。
及びMT『ハルバード』、機数4。
戦闘リグ『ハチェット』、機数3]
たいそうな部隊編成である。
司は顔をしかめた。
見つかった、というよりは待ち伏せられていたという感がある。
もしや情報が漏れていたのか……
まあいい。
どうせ破壊しなければならないのだ。
早いか遅いか、それだけである。
空を飛んでいるのは中型のヘリコプター。
ミサイルは一機に2つずつ装備されている。
機関砲も付いている。
そして、まるで大砲に足が生えたかのような形のMT。
地面すれすれを高速でホバー移動する特異な戦闘機、「戦闘リグ」は、これまた大砲とエンジン以外はコックピットしかないような作りである。
カルナックといえば、オプトエレクトロニクスの分野ではそれなりのシェアをもつ企業。
元はパソコン用のモニターが主な製品だったが、最近では光学兵器で有名だ。
ということは、あの大砲は強力な光学兵器である可能性が高い。
……ならば、敵の取る戦法は……
ミーティアライトが地を蹴った。
そのままブースターを吹かして空中に飛び上がる。
鋭い音を立てながら、足下を過ぎ去っていく光線。
レーザーが大気を電離させ、プラズマ化させる為に生じる輝きである。
それを見るが早いか、司はもう一度操縦桿をひねった。
空中で進路を変え、ミーティアライトは水平移動を始める。
また、その背をかすめるレーザー光。
やはりそうか。
複数で手分けして、徐々にこちらを追い込んでいくつもりなのである。
レーザーの貫通性と弾速を考て、こちらが防戦一方になると踏んだわけだ。
……だが、甘い!
ミーティアライトのブースターが、全力で火を噴き出した!
目指す先は、地上のMT一機!
完全に衝突するコースだ!
MTは慌てて後ろに下がる。
それが司のもくろみ通りであるともしらずに。
MTの目前に降り立ったミーティアライトは、レーザーブレードでMTから大砲を切り離した!
衝撃で地面に倒れ込むMT。
ミーティアライトが振り向く。
敵は誰一人としてレーザーを放とうとはしない。
当然である。
貫通性のあるレーザーをこの状態で撃てば、仲間も巻き込むことになるのである。
いつまでも戸惑っていることはないだろうが、司にとっては一瞬で十分だった。
ダンッ!
ハンドガンの弾丸が手近にいた戦闘リグに食い込んだ。
ダメージはそれほどでもないが、衝撃で一瞬動きが止まる。
そして次の瞬間には、リグは光の刃によって真っ二つにされていた。
これで2機!
そこを狙って飛来するミサイル!
どうやら、最初にふっきれたのはヘリのパイロットのようである。
だが、甘い。
二機のヘリがホバリングしながらミサイルと機関砲を乱射している。
ミーティアライトは前にステップしてヘリの真下に潜り込んだ。
地を蹴り、空中へ飛び上がる。
そして……不意に肩の爆雷を放った!
この兵器は、本来放射状に爆雷を撒き散らすためのものである。
しかし今回は違った。
斜方に撃ち出された爆雷は、落下を始める前にヘリに命中した。
巻き起こる爆発。
まとまっていた2機が2機とも、煙を吹き出しながら大地へ落ちていく。
4機!
そのまま大地に着地して、ミーティアライトはブースターで地を滑った。
例の光線が周囲の樹をなぎ倒しながら迫ってくる。
わずかにコアにかするが、リフレック塗料に弾かれ、何処かへと消えていった。
それを皮切りにMTと戦闘リグが一斉にレーザー砲を構える。
ミーティアライトの周囲は360度、全て囲まれている。
つづく。