アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
(すぐに、歓迎が始まるな)
司はモニター越しに、通路の奥を見つめた。
見つけた地下への入り口に入って、まだ数分である。
ここまでいくつかの分かれ道があったものの、建設途中だったり電源が落ちていたりして、実質、道はこれ一本である。
敵も馬鹿ではない。
上の部隊が全滅したことくらい気付いているだろう。
戦闘は避けられないだろうが、無駄な戦闘は御免だった。
今回は強力な時限式爆弾を持ってきている。
これを深層部に仕掛けて、基地ごと連中を生き埋めにしてやるつもりだ。
暗い通路を、さらにミーティアライトは進んだ。
やがて分かれ道に出る。
十字路で、右は建設途中で行き止まり、左はエレベーター。
正面の道はダウンスロープになっている。
何分照明が乏しいので、遠くまでは見渡せないが。
さて、どっちに行ったものか。
エレベーターの方は、位置から言ってガレージに通じている可能性が高い。
外に出撃する場合、一番早く出られる方法が必要だからである。
スロープはおそらく、通常の車両が中まで入り込むためのものだろう。
多くの車両が動くなら、エレベーターよりスロープの方が都合がいい。
それなら……進む先はエレベーターだ。
襲撃部隊がいたということは、少なくとも防衛システムは完成しているということである。
ならば人間がいるのはこっちだ。
人がいない場所で爆弾を破裂させても、単に工事を遅らせることにしかならない。
いや、下手をすると工事の手伝いになってしまうかもしれない。
司は愛機をエレベーターの前に進ませると、腕の制御を戦闘モードからマニュピレートモードに切り替える。
戦闘時には引き金を引くとか、ブレードを振るとかいう行動をあらかじめプログラムしておいて、それをボタン一つで発動させるのだが、このモードは違う。
両側にある特殊なレバーで、指の一本一本に至るまで細かく操作することができるのだ。
もちろん、エレベーターのボタンを押すのである。
エレベーターがうなりを上げ始めた。
すぐに戦闘モードに戻し、警戒する。
エレベーターが到着した瞬間に劣化ウラン弾――いや、ここの連中ならレーザーか――がお出迎え、という可能性もあるのだ。
扉が開く。
光線が飛んでくる様子は……ない。
妙な話だ。
ここまで静かだと逆に気味が悪い。
おそらくは――この下に戦力を一点集中させているのだろう。
丁度いい。司は不適な笑みを浮かべた。
探し出して潰す手間が省けるというものだ。
迷うことなくミーティアライトはエレベーターへと足を踏み入れた。
マニュピレーターを巧みに操作し、下向きの三角形が描かれたボタンを押す。
巻き上げ機のエンジン音だろう。
再び、低いうなりが辺りを満たした。
がくんっ。
鈍い衝撃が、いきなり司を襲った。
すうっと、体中から血の気が失せていくのがわかる。
ついさっきも経験したばかりだ。
この奇妙な感覚。
まさか、これは。
――自由落下!
*
『作業完了です!』
部下の声が、電波を介して彼に届く。
彼は自分のMTのコックピットで、口の端を吊り上げた。
彼の名はシュルツェ=ミュラー。
カルナック社が極秘に組織した武装集団『ドラング』のリーダーである。
現在はこの地下基地の建設を任されている。
シュルツェは操縦桿の調子を確認した。
どうせ使うことはないだろうが、念のためである。
それにしても、今日の襲撃はシュルツェにとっては丁度いい刺激だった。
彼の本業はテロリストである。
それも、何の政治信念もない……要するに、ただ破壊に魅せられた者がその欲求を満たすためだけの、最低の集団に所属していたのだ。
最高に心地よい空間だった。
そこでは生きることと殺すことが等価だった。
そこでの戦果を買われて企業にスカウトされたが、それからは退屈な毎日の繰り返しだ。
殺すことも、壊すこともない。
あるのは創ることである。
基地。組織。
未来の破壊を思うとそれもなかなか刺激的だが、時間がかかりすぎていけない。
このままでは、手当たり次第に暴れてしまいそうだった。
だから、丁度良かったのだ。
しかも相手はアリーナ2位のレイヴン。
レイヴンと言えば、テロリストにとっては天敵……いや、宿命のライバルである。
殺しがいがあるというものだ。
とはいえ、シュルツェは自ら手を下すタイプの破壊狂ではなかった。
むしろ罠と謀略に喜びを見いだすタイプなのである。
今回もそう。
奴はまず間違いなくエレベーターに乗る。
そして乗った直後に、あらかじめ待機していた部下がワイヤーケーブルを断ち切るのだ。
十数秒のスカイダイビング。
数百メートル落下して、ACはぐちゃぐちゃだ。
中のレイヴンの血が、狭いコックピットの中に真紅の芸術作品を描き出すのだ!
シュルツェは目を見開いた。
広大な空間……彼と彼の部下が乗るMT十数機が待機するガレージである。
その壁に、エレベーターの出口がある。
鉛色の飾り気のないシャッター。
その向こうで轟音が響いた。
確認するまでもない。
エレベーターが墜落したのだ。
ぐちゃぐちゃだ。真っ赤だ。
そうだ、きっとレイヴンは千切れて、捻れて、すりつぶされて、きっとブルーベリーのジャムみたいになってるんだ。
最高だ! やった!
「よし、中を確認するぞ。
シャッターを開けるのを手伝え」
少なくともシュルツェの声から内面の狂気をはかり知ることは不可能だった。
狂気はプライベート。これは仕事だ。
とはいえ、完全に狂気を隠すことは、彼にもできない。
周囲の者がそれに気付かないだけだ。
他の誰でもない自分自身で死体を確認しようとする態度。
仕事熱心なわけではない。
シュルツェと他の部下二人が乗る汎用二足MT『グレイヴ』が、エレベーターのドアへと近づいた。
作業に役立つレーザーブレードを装備しているのは、この三機のグレイヴだけである。
他の取り巻きが乗っているハルバードという名のMTは完全な戦闘用で、こういう作業には向かない。
三機の内の二機は青の塗装。
もう一機は白の塗装である。
白いMTが隊長機、つまりはシュルツェのものだ。
白いグレイヴはエレベーターの正面へ、残りの二機は両脇へ分かれる。
まず、シュルツェの機体がドアの中心部にレーザーブレードで切り込みを入れた。
上から下へと、ゆっくり慎重に。
下手に刺激して、切り取ったシャッター部分がこっちに倒れ込んできても面白くない。
完全に切り離してから、シュルツェは通信を送った。
「やれ」
ボシュッ!
響く低い爆音。
横の二機がセットした炸薬に火がついたのである。
衝撃で切り取られたシャッターが倒れ込む。
がらがらと派手な音を立てて、金属の板が白いグレイヴの足下に倒れ込んだ。
その向こうには、見るも無惨に潰れた、エレベーターのゴンドラ部分。
もちろんドアも完全に使い物にならないが、それほど大きな問題はない。
潰れたゴンドラの上からレーザーブレードで小さく穴を開けるだけで、内部の確認くらいはできる。
シュルツェは操縦桿を奥へ倒した。
それに素早く反応したグレイヴが、潰れたゴンドラをよじ登る。
その上に乗るまでに、それほど時間はかからなかった。
さぁて。
あとは、ここにブレードで穴を開け、中で潰れているトマトの姿を確認するだけだ。
シュルツェは眉をひそめた。
彼はまだ何もしていないのに、そこには大きな穴が一つ、開いている。
――と、その時。
ザンッ!!
シュルツェの意識は、突然闇の中に消え去っていった。
つづく。