アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
その場の誰もが我が目を疑った。
無理もないだろう。
いきなり上空から降ってきた紫色のACが、白いグレイヴを一刀両断にしたのだから!
そう……司とミーティアライトは、既にゴンドラの外へと逃げ出していたのだ。
ワイヤーを切られた。
そう感じた次の瞬間、天井をレーザーブレードで破り、外へと飛び出したのである。
そのまま突き出た資材の上にうまくバランスをとって飛び乗り、真下に敵が現れるのを待ち続けていたのだ。
そして今、彼の前にいるのは……驚きで動きを止めた、十数機のMT部隊。
言い換えれば……格好の標的たちだ。
紫色の流星が、血を求めて走った。
*
『レ……レイヴン! 聞こえるかッ!?』
焦った男の声。
止めてくれ、そんな大声で話すのは。
スピーカーがおかしくなったらどうしてくれる。
弁償してくれるのか?
無理だろう。どうせ死ぬんだから。
彼女は何も答えなかった。
向こうの男はかまわずにまくし立てる。
『応答しろっ!……くそっ、俺達じゃ手に負えない!
頼む、救援を……うっ、うわぁぁぁっ!?』
ざぁっ……
通信機が吐き出す音は、ノイズだけとなった。
やれやれ。
全く、元気のいい坊やである。
もうこれで、MTだの何だのを30機近く葬っていることになる。
しかも傷一つ負ってはいない……こっちの面々が頼りないこともあるが、それ以上に坊やの実力のたまものだった。
……とはいえ、まだまだ。
彼女はいくつかボタンを操作した。
狭い部屋――コックピットに、ほのかな灯りがいくつか点る。
低い駆動音。計器類が放つ電子音。
起動する。彼女の乗る、真紅の巨人――ACが。
本番、行こうか。
彼女の黒い髪が揺れた。
なかなか、楽しい仕事になりそうだ。
*
ゴトンッ。
爆発すらも起こらない。
ミーティアライトの振るう光の刃に切り離された、MTの上半身が地に落ちる。
これが最後の一機だった。
司はまずレーダーを確認した。
そしてモニターで周囲を見渡す。
耳を澄まし、外部の音に神経を研ぎ澄ます。
……ない。何もない。
動くもの、つまり敵はもう存在しなかった。
あるのはただ、さっきまで敵だったもの……累々と床に転がるMTの残骸のみである。
どうやら、ここの戦力はこれで終わりらしい。
もっとスマートに終わらせるつもりだったが、いつの間にか自分で全滅させてしまっていた。
まあ、いいだろう。
あとはこの爆弾を中枢部にセットして、地下基地を完全に壊滅させれば任務完了だ。
中枢への道を探して、ミーティアライトは歩き出した。
探すこと数分。
全く、このガレージは広すぎる。
探し当てた道はたったの一つ。
おそらく、そこから中枢部へと行けるはずだ。
その時、内蔵コンピューターが警告音をかき鳴らした。
[AC急速接近中]
「!?」
司は慌ててレーダーに目をやった。
確かに、凄まじいスピードで近づいてくる光点が一つ。
どうやら、この通路の奥からのようだ。
なるほど、最後の砦にレイヴンを雇っていたのか。
用心深いことだ。
だが……丁度いい。
雑魚の相手ばかりで退屈していたところだ。
同業者なら、アリーナ戦のいい練習相手になる。
そんな司の甘い考えを、次のコンピューター・ヴォイスが消し去った。
[識別信号確認。
マスターアリーナ所属AC『ペンユウ侃』]
「マスターランカーだとっ!?」
思わず司の声が裏返る。
まさか、よりにもよってマスターランカーなんてものを雇っているとは……
司はアリーナの2位。
それは確かだ。
だが、ただ「アリーナ」とだけ言うと、参加に制限がない「ノーマルアリーナ」を指す。
ノーマルアリーナには、予選を勝ち抜いた者なら誰でも参加することができるのである。
他にも脚部のタイプによって制限を受けるアリーナ、ランキングを付けずにその都度ゲストを招待してエキシビション・マッチを行うアリーナなど、様々なアリーナが存在するのだ。
その中で、最もレヴェルの高いアリーナがある。
それが「マスターアリーナ」である。
これには、いくら強いレイヴンでも無許可で参加することはできない。
アリーナでの戦績だけでなく、こなした任務の質と量、その知名度などが考慮に入れられ、管理委員会で名実ともにトップクラスのレイヴンであると認められて初めて参加することができるのだ。
つまり、他とは一線を画した強さの持ち主たちなのである。
司の最終目標もそこにある。
誰にも負けない強さ……どんな敵からでもアヤメを守れる強さ。
自分なら、それを手に入れることができる。司はそう考えていた。
彼の唇の端が、にぃっとつり上がる。
全く、運がいい。
マスターランカー『真紅の華』の噂は、彼も聞いている。
一度挑戦してみたいと思っていたところだ。
勝つ自信は、十分にあった。
ミーティアライトは後ろにステップし、敵のAC……ペンユウがやってくるのを待った。
正面から、正々堂々と勝たなければ意味がない。
やがて通路の奥から、赤い悪魔が近づいてきた。
中量級の2足AC。右腕にマシンガン、肩にミサイルを装備している。
ごく一般的な機体構成。
司は通信機のスイッチを入れた。
「マスターランカー、か」
相手は何も答えない。
ただ立ちつくし、こちらを睨み付けていた。
威圧感。
なるほど。これが貫禄というやつか。
司は額に汗が流れていくのを感じた。
「どれほどのものか……試させてもらうぞ!」
*
ミーティアライトが、ハンドガンを連射しながら右に飛ぶ。
しかしこれは牽制の一撃。
これが当たるほど甘くはない。
予想通り、ペンユウは横に飛んで軽々と回避する。
お返し、とばかりに飛んでくるマシンガンの弾丸。
司は足下のペダルを踏みつけた。
ブースターがこれでもかと火を噴き出し、ミーティアライトの巨体を空中へ飛び上がらせる。
足下を空しく過ぎ去っていく無数の弾丸。
回避は問題ない。
だが、これだけでは終わらせない。
そのままペンユウの真上まで飛び上がり、直下のペンユウに向かってハンドガンをうち下ろす!
ダンッ!
弾丸が真紅の装甲板をとらえた。
ダメージそのものは少ないが、見た目より大きな衝撃がペンユウを襲う!
司はほくそ笑んだ。
ブースターを止め、自由落下する。
その勢いを利用してレーザーブレードを振り下ろした。
空中からハンドガンを命中させて相手を地面に押しつけ、その隙に落下しながらのブレードをたたき込む。
司の常套戦術である。
これこそが、彼が連戦連勝する最大の理由なのである。
今まで、この斬撃から逃れられた敵はいない。
司は勝利を確信した。
……その次の瞬間!
ギィィィィィイイィィィンッ!!
激しい空気の震えが耳をつんざく!
二機の間に巨大な衝撃が走った。
そして地に足をつけていないミーティアライトは、大きくはじき飛ばされ、床に叩き付けられる!
「……がッ……!」
背中をしたたかに打ち付け、司は一瞬呼吸ができなくなった。
なんとか空気を肺に入れ、機体を立ち上がらせる。
額の汗がさっきより増えていた。
わからなかった。一体、何が起こったのだ?
答えは簡単なことだった。
ペンユウが、レーザーブレードで切り返したのだ。
光の刃同士がぶつかり合い、エネルギーを撒き散らしてはじけ飛んだのである。
レーザーで、そんなことが可能なのか。
不可能ではない。
レーザーが目に見えるのは、その熱量によって空気がプラズマ化され、そのプラズマが光を反射するからである。
なら、そのプラズマがレーザー光そのものを乱反射さるとどうなるのか……指向性を失ったレーザーは単なる光となり、持っていたエネルギーを周囲に無秩序にばらまくのだ。
最も、ペンユウのパイロットの方もそんな理屈を知っていたわけではないだろう。
ただ、これまでの経験から、レーザーブレード同士で弾き合わせることが可能だと知っていただけだ。
そして司には、そんな経験はまだなかった。
つづく。