アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
「くそッ!」
罵りながら司は操縦桿を倒した。
ミーティアライトが全速力で走る。
ハンドガンを連射し、わざと避けさせて相手を追い込んでいく。
ペンユウの機動性は、中量級であるにもかかわらず、軽量・機動性重視のミーティアライトと大差ないレベルにある。
しかも防御力の面では、下手な重量級よりは余程頑丈にできているらしい。
しかし、追いつめてブレードを叩き込めば、いくら奴でも耐えきることはできないはず!
散発的なペンユウの反撃を難なくかわし、ミーティアライトはついに敵を壁際に追いつめた。
この好機を逃す手はない!
紫色の巨人がブースターを噴かす!
一気に間合いを詰め、光の刃ですくい上げるような一撃を放った!
ペンユウの左腕が動く。
イィィィィィィイインッ!!
まただ!
今度はなんとか踏みとどまる。
司はようやく理解した。
まぶしいのをこらえてモニターを凝視する。
光の刃と光の刃が、周囲に目映い輝きを撒き散らしながら、互いを喰い合っていた。
なるほど。
レーザーブレードで鍔迫り合いができるなどとは夢にも思わなかったが、現実に起こっているのだ。
種さえわかれば話は早い。
ミーティアライトは一瞬、ブレードを引き戻した。
すぐさま衝撃が収まる。
そして、間髪入れずに上から叩き降ろすようにブレードを振るう!
必殺の一撃。
そのはずだった。
少なくとも、司はそう確信していた。
ペンユウが、何気なく頭上にレーザーブレードを掲げるまでは。
また、刃と刃がぶつかり合い、衝撃が波のように二機を襲う。
司は驚きを隠せなかった。
まるで、こっちの行動が全て筒抜けになっているようではないか。
こんな速度で反応できるような敵は今までいなかった。
なぜだ?
なぜ読まれる?
なぜ自分の行動は全て無駄に終わるのだ!?
そのとき、ミーティアライトにかつてない衝撃が走った。
響き渡る爆発音。
慌ててモニターを確認する。
ない。
ハンドガンがなくなっている。
ペンユウのマシンガン……その零距離射撃によって、ミーティアライトのハンドガンは撃ち落とされていた。
まずい!
司の背筋を冷たいものが流れていった。
すぐさま飛びすさり、再び間合いを取る。
ハンドガンは完璧に破壊されていた。
おそらく、本格的な修復をしないかぎり使い物にならないだろう。
司は舌打ちをした。
なんてことだ……まさか、彼が最後の手段を使う羽目になろうとは。
マスターランカーを甘く見ていた報いだろうか。
まあ、いい。どうせ勝つのは自分だ。
司はおもむろに通信を送った。
「やってくれるじゃないか」
その間に、少し複雑な操作をする。
なにせ改造パーツである。
上手く動くだろうか……
それは、司自身のメカニックとしての腕前にかかっていた。
「だが、俺は負けない!」
ミーティアライトが走る!
ハンドガンを失い、残る兵器はレーザーブレードと背中の爆雷のみ。
だが爆雷の方は、相手の機動力を考えると当たりはしないだろう。
実質、この光の剣だけが頼りだった。
ペンユウが挨拶代わりにマシンガンを放つ。
しかしそんなもの、ミーティアライトの機動力をもってすれば回避はたやすい。
間合いを詰めると、またしても左手のレーザーブレードで斬りつける!
4度目!
光が互いをはじき飛ばし、周囲に不快な音と閃光とエネルギーを撒き散らす。
このまま左手の刃を振るっても、さっきのように防御されるだろう。
ならば!
斬りつける!
右腕に装備した、もう一本の光の刃で!
さすがにこれは予想していなかったのか、ペンユウは慌てて後退した。
その胸板を刃がかすめる。
どうやら少し踏み込みが甘かったらしい。
これこそ、司の奥の手の中の奥の手……
かつて、中世の日本にいた戦士達は、両手に刀を持つことを「二刀流」と呼んだそうである。
それにあやかって、というわけではないが、レーザーブレードでの戦闘を得意とする司にとって、これこそが最強の装備だった。
右手の武器を破壊された時のための非常手段。
すなわち、右腕用ブレードユニットである。
もちろん改造パーツなので、動作に多少の不安があるのだが。
ミーティアライトとペンユウは静かに対峙した。
予想外の兵器相手に、下手に攻撃を仕掛けるのは危険だ、ということだろうか。
もちろん司の方は、次の一撃でとどめを刺す気でいた。
痺れを切らし、ミーティアライトが走る。
もはやマシンガンは無駄と悟ったか、ペンユウは牽制も仕掛けてはこない。
その分回避に専念するのだろう。
そしてまずは右の刃。
ペンユウは今までと同じく、レーザーブレードによって受け止める。
これでいい。
今度は踏み込みも完璧。
そして今、ペンユウの脇腹はがら空きである。
そこに左のブレードを叩き込めば、全てが終わる!
司は狂気に取り憑かれた者の瞳で、モニターを凝視した。
勝つ!
俺は勝つんだ!
その目がそう語っていた。
勝てる。
マスターランカーに。
最強のレイヴンの一人に、勝てる。
そうだ。最強だ!
俺は誰よりも強い!
誰にも負けないんだッ!
ブレードを、振るった。
そして光は虚空を切り裂いた。
「……え?」
彼がいぶかしがるよりも早く……
ガギィィィィィィィンッ!!
いまだかつて味わったことのないほどの衝撃が司を襲う!
体が大きく震え、体中をコックピットの内壁にぶつけた。
痛み。
それよりさきに、司は心の中で叫んだ。
何故だ!?
ペンユウはどこに行った!?
ごとん。
彼の問いに答えたのは、重い音だった。
ようやく揺れが収まる。
司はモニターで、音のした方を見やった。
地面に転がっている、細いもの。
紫の輝きが目に飛び込んでくる。
どこかで見覚えがある。
――ミーティアライトの右腕。
「な……」
ペンユウは、ミーティアライトの真後ろに回り込んでいた。
左のブレードが襲いかかる瞬間、ブースターを噴かし、レーザーブレードの交わる点を支点として、宙返りしながらミーティアライトの頭上を飛び越えたのだ。
そして、落下の勢いを利用し右腕を切り落とした。
そして今。
ペンユウのレーザーブレードが輝く。
呆然とたたずむミーティアライトの左腕が、ボディから離れて床に転がった。
「何故だァァァアアアァァアァアァァアッ!?」
狂ったように叫びながら、司は操縦桿をなぎ倒した。
ミーティアライトはでたらめに辺りを駆け回る。
何故だ。
何故だ。
何故負ける!?
負ける?
俺は負けるのか!?
負けたらどうなる。
負けたら殺される。
殺される! 死ぬ。死ぬ。死ぬ!
嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌だァァァしにたくないィィィァアァアアァッ!!
さんざん走り回った後で、ミーティアライトは先のMTの残骸につまづき、転んだ。
ペンユウが一歩足を踏み出す。
司の目に無惨なMTの姿が映った。
ペンユウが一歩足を踏み出す。
助けて。
ペンユウが一歩足を踏み出す。
死にたくないよ。
ペンユウが一歩足を踏み出す。
助けてよ……助けてよアヤメッ!
司の足が、小さなスイッチに触れた。
本人は気付いていない。通信機のスイッチが入ったことに。
「やめろ……来るな!
こっち来んなよ!
嫌だ……死にたくねぇよ……暗い……怖いよ……助けて……誰か、誰か助けてよ!」
ペンユウが一歩足を踏み出す。
「くるな……くるなくるなくるなくるなくるなぁぁぁああぁぁああぁあぁっ!!」
つづく。