アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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08 最後の手段

 

 

 

 

「くそッ!」

 

 罵りながら司は操縦桿を倒した。

 

 ミーティアライトが全速力で走る。

 ハンドガンを連射し、わざと避けさせて相手を追い込んでいく。

 

 ペンユウの機動性は、中量級であるにもかかわらず、軽量・機動性重視のミーティアライトと大差ないレベルにある。

 しかも防御力の面では、下手な重量級よりは余程頑丈にできているらしい。

 

 しかし、追いつめてブレードを叩き込めば、いくら奴でも耐えきることはできないはず!

 

 散発的なペンユウの反撃を難なくかわし、ミーティアライトはついに敵を壁際に追いつめた。

 この好機を逃す手はない!

 

 紫色の巨人がブースターを噴かす!

 一気に間合いを詰め、光の刃ですくい上げるような一撃を放った!

 

 ペンユウの左腕が動く。

 

 イィィィィィィイインッ!!

 

 まただ!

 今度はなんとか踏みとどまる。

 

 司はようやく理解した。

 まぶしいのをこらえてモニターを凝視する。

 

 光の刃と光の刃が、周囲に目映い輝きを撒き散らしながら、互いを喰い合っていた。

 なるほど。

 レーザーブレードで鍔迫り合いができるなどとは夢にも思わなかったが、現実に起こっているのだ。

 

 種さえわかれば話は早い。

 ミーティアライトは一瞬、ブレードを引き戻した。

 すぐさま衝撃が収まる。

 そして、間髪入れずに上から叩き降ろすようにブレードを振るう!

 

 必殺の一撃。

 そのはずだった。

 少なくとも、司はそう確信していた。

 ペンユウが、何気なく頭上にレーザーブレードを掲げるまでは。

 

 また、刃と刃がぶつかり合い、衝撃が波のように二機を襲う。

 

 司は驚きを隠せなかった。

 まるで、こっちの行動が全て筒抜けになっているようではないか。

 こんな速度で反応できるような敵は今までいなかった。

 

 なぜだ?

 なぜ読まれる?

 なぜ自分の行動は全て無駄に終わるのだ!?

 

 そのとき、ミーティアライトにかつてない衝撃が走った。

 響き渡る爆発音。

 慌ててモニターを確認する。

 

 ない。

 ハンドガンがなくなっている。

 ペンユウのマシンガン……その零距離射撃によって、ミーティアライトのハンドガンは撃ち落とされていた。

 

 まずい!

 司の背筋を冷たいものが流れていった。

 

 すぐさま飛びすさり、再び間合いを取る。

 ハンドガンは完璧に破壊されていた。

 おそらく、本格的な修復をしないかぎり使い物にならないだろう。

 

 司は舌打ちをした。

 なんてことだ……まさか、彼が最後の手段を使う羽目になろうとは。

 マスターランカーを甘く見ていた報いだろうか。

 まあ、いい。どうせ勝つのは自分だ。

 

 司はおもむろに通信を送った。

 

「やってくれるじゃないか」

 

 その間に、少し複雑な操作をする。

 なにせ改造パーツである。

 上手く動くだろうか……

 それは、司自身のメカニックとしての腕前にかかっていた。

 

「だが、俺は負けない!」

 

 ミーティアライトが走る!

 ハンドガンを失い、残る兵器はレーザーブレードと背中の爆雷のみ。

 だが爆雷の方は、相手の機動力を考えると当たりはしないだろう。

 実質、この光の剣だけが頼りだった。

 

 ペンユウが挨拶代わりにマシンガンを放つ。

 しかしそんなもの、ミーティアライトの機動力をもってすれば回避はたやすい。

 間合いを詰めると、またしても左手のレーザーブレードで斬りつける!

 

 4度目!

 光が互いをはじき飛ばし、周囲に不快な音と閃光とエネルギーを撒き散らす。

 このまま左手の刃を振るっても、さっきのように防御されるだろう。

 

 ならば!

 

 斬りつける!

 右腕に装備した、もう一本の光の刃で!

 

 さすがにこれは予想していなかったのか、ペンユウは慌てて後退した。

 その胸板を刃がかすめる。

 どうやら少し踏み込みが甘かったらしい。

 

 これこそ、司の奥の手の中の奥の手……

 かつて、中世の日本にいた戦士達は、両手に刀を持つことを「二刀流」と呼んだそうである。

 それにあやかって、というわけではないが、レーザーブレードでの戦闘を得意とする司にとって、これこそが最強の装備だった。

 

 右手の武器を破壊された時のための非常手段。

 すなわち、右腕用ブレードユニットである。

 もちろん改造パーツなので、動作に多少の不安があるのだが。

 

 ミーティアライトとペンユウは静かに対峙した。

 予想外の兵器相手に、下手に攻撃を仕掛けるのは危険だ、ということだろうか。

 もちろん司の方は、次の一撃でとどめを刺す気でいた。

 

 痺れを切らし、ミーティアライトが走る。

 もはやマシンガンは無駄と悟ったか、ペンユウは牽制も仕掛けてはこない。

 その分回避に専念するのだろう。

 

 そしてまずは右の刃。

 ペンユウは今までと同じく、レーザーブレードによって受け止める。

 

 これでいい。

 今度は踏み込みも完璧。

 そして今、ペンユウの脇腹はがら空きである。

 そこに左のブレードを叩き込めば、全てが終わる!

 

 司は狂気に取り憑かれた者の瞳で、モニターを凝視した。

 勝つ!

 俺は勝つんだ!

 その目がそう語っていた。

 

 勝てる。

 マスターランカーに。

 最強のレイヴンの一人に、勝てる。

 

 そうだ。最強だ!

 俺は誰よりも強い!

 誰にも負けないんだッ!

 

 ブレードを、振るった。

 そして光は虚空を切り裂いた。

 

「……え?」

 

 彼がいぶかしがるよりも早く……

 

 ガギィィィィィィィンッ!!

 

 いまだかつて味わったことのないほどの衝撃が司を襲う!

 体が大きく震え、体中をコックピットの内壁にぶつけた。

 

 痛み。

 それよりさきに、司は心の中で叫んだ。

 

 何故だ!?

 ペンユウはどこに行った!?

 

 ごとん。

 

 彼の問いに答えたのは、重い音だった。

 ようやく揺れが収まる。

 司はモニターで、音のした方を見やった。

 地面に転がっている、細いもの。

 紫の輝きが目に飛び込んでくる。

 どこかで見覚えがある。

 

 ――ミーティアライトの右腕。

 

「な……」

 

 ペンユウは、ミーティアライトの真後ろに回り込んでいた。

 左のブレードが襲いかかる瞬間、ブースターを噴かし、レーザーブレードの交わる点を支点として、宙返りしながらミーティアライトの頭上を飛び越えたのだ。

 そして、落下の勢いを利用し右腕を切り落とした。

 

 そして今。

 ペンユウのレーザーブレードが輝く。

 呆然とたたずむミーティアライトの左腕が、ボディから離れて床に転がった。

 

「何故だァァァアアアァァアァアァァアッ!?」

 

 狂ったように叫びながら、司は操縦桿をなぎ倒した。

 ミーティアライトはでたらめに辺りを駆け回る。

 

 何故だ。

 何故だ。

 何故負ける!?

 負ける?

 俺は負けるのか!?

 負けたらどうなる。

 負けたら殺される。

 殺される! 死ぬ。死ぬ。死ぬ!

 嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌だァァァしにたくないィィィァアァアアァッ!!

 

 さんざん走り回った後で、ミーティアライトは先のMTの残骸につまづき、転んだ。

 

 ペンユウが一歩足を踏み出す。

 司の目に無惨なMTの姿が映った。

 ペンユウが一歩足を踏み出す。

 助けて。

 ペンユウが一歩足を踏み出す。

 死にたくないよ。

 ペンユウが一歩足を踏み出す。

 助けてよ……助けてよアヤメッ!

 

 司の足が、小さなスイッチに触れた。

 本人は気付いていない。通信機のスイッチが入ったことに。

 

「やめろ……来るな!

 こっち来んなよ!

 嫌だ……死にたくねぇよ……暗い……怖いよ……助けて……誰か、誰か助けてよ!」

 

 ペンユウが一歩足を踏み出す。

 

「くるな……くるなくるなくるなくるなくるなぁぁぁああぁぁああぁあぁっ!!」

 

 

 

つづく。

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