アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
動きが、止まった。
司は目を見開いた。
既に涙で一杯になっていた瞳で、その光景を凝視していた。
ペンユウが、きびすを返したのだ。
一歩。また一歩。
赤い巨人は遠ざかっていく。
姿が見えなくなって、やがて音も聞こえなくなって、そのうち司はわからなくなった。
何もわからなかった。
わかることはたった一つだけだった。
それは、あの赤いACがここにはもういないということだけだった。
行ってしまった。とどめを刺さずに。
司はしばらく呆然としていた。
それは一瞬のことだったのか。
それとも永劫のごとく永い時間だったのか。
今更確かめる術は残されていない。
やがて、司は自分で自分を抱きしめた。
熱い。
体が熱かった。
生きている。
生き残った。
やっとわかった。
そんな気がした。
生き残ること。それがどういうことなのか。
護ること。
それが本当はどういうことなのか。
やっと、わかった。
*
司は後ろ手にドアを閉めた。
その表情はいつになく沈んでいる。
我が家に、アヤメの待つ住処に帰ってきたのに。
アヤメは彼の様子がおかしいのをすぐに察知した。
パソコンの前の椅子から立ち上がり、心配そうに司を見つめている。
司はうつむいて、目を合わせようとはしなかった。
そのまま奥に進んで、二階へ上がる階段を上ろうとした。
その腕を、アヤメがつかんだ。
気持ちが伝わってきた。
アヤメの心が伝わってきた。
司には、それが耐えられなかった。
何も言うまい。
そう思っていた。
でも言わずにいられなかった。
司は振り返り、暗く荒んだ瞳でアヤメを見つめた。
「お前がやったのか」
司はアヤメの胸ぐらをひっつかんだ。
そのまま乱暴にアヤメを押して、壁に叩き付ける。
苦しそうにアヤメが呻いた。
しかし彼女は抵抗しようとはしなかった。
抵抗できる立場ではないことは、彼女が一番良く知っていたのだ。
「お前がやったんだな!?
あれは全部お前なんだな!?
敵に情報を流したのも!
マスターランカーをけしかけたのも!!」
――そう――
全てアヤメ……別名ハッカー『アイリス』の仕業だった。
そもそも、今回の依頼自体が偽物……アヤメの手によって作られたものである。
そもそも、同じ企業から立て続けに依頼が来た時点でおかしかったのだ。
そしてさっき調べると……依頼主は、そんな依頼は知らないという。
嘘をついているようには思えなかった。
そんなことをすれば、司と依頼主の関係は完全に絶たれる。
それは向こうにとっても都合が悪いはずだ。
ならば。彼の知る限り、大企業やネストのデータまで簡単に改竄できるような腕のいいハッカーは、一人しかいない。
「なんでだよ……答えろよ、アヤメッ!」
司はアヤメをつかんだ腕を振り回した。
アヤメは目を閉じた。
そしてじっと耐えた。
悪いのはわかっていた。
でも、彼女がしなければならなかった。
わかってくれる。
司はきっとわかってくれる。
アヤメはそう信じていた。
やがて疲れたのか、やりきれなくなったのか……
司はうつむくと、アヤメから手を放した。
背を向け、元のように階段に向かって歩き出した。
無駄なのだ。今更アヤメに何をしたって……もはや戻ってはこない。
ずたずたに引き裂かれた、彼のちっぽけなプライドは。
司の足が、階段の最初の一段にかかった。
「……ツ……カ…サ……」
司は顔を上げた。
声は背中からかかった。
振り返る?
怖かった。後ろを見るのが怖かった。
それを見た瞬間、それを確認した瞬間、自分が不要になるような気がした。
自分はどこにもいない、死者になるような気がした。
それでも、振り返らないわけにはいかなかった。
そして彼は見た。
ゆっくりと開く。
アヤメの口が、喉が、舌が、少しずつ、一つずつ、言葉を紡ぐのを。
「ツカ……サ……」
聞こえた。
はっきりと。
アヤメがしゃべったのだ。
司はアヤメを抱きしめた。
自然と両目から涙がこぼれてきた。
よりいっそう、司は腕に力を込めた。
涙は止まらなかった。
「ごめん……ごめん、アヤメ……」
かすれる声で、司はかろうじて言葉を紡ぎだした。
今度は自分が話せなくなりそうだった。
でもそれでもいいのかもしれない。そんな気がした。
「ありがとう……わかったから……
……俺、ちゃんと全部わかったから……」
アヤメは嬉しそうに司の言葉を聞いていた。
そしてその胸に顔をうずめ、小さく呟いた。
司の言葉を真似して、「ごめん」と。そして「ありがとう」と。
月光が、二人を包み込んで優しくきらめいた。
THE END.
次回予告
R「南海の楽園、リゾート地下都市“コートデパール”!」
E「お~」
R「青い海原! 白い雲! まばゆい太陽! 疑似だけどっ!」
E「おお~お」
R「てなわけで!
シリーズ中盤のテコ入れエピソードと言えばやっぱりコレ!
水着回よーっ!!」
E「わーい! 海だー!」
J「楽しそうだな、お前ら……」
R「なによ、ノリわるい」
E「よにな、ワリのるい」
J「何が面白いんだ、海なんか」
R「ンなこと言ってないであんたも脱ぎなさいよ。
その真っ白けの貧相な体、ちったあ日焼けでもしたらどうなの?」
J「別にいいだろ。お前しか見る奴いないんだから」
R「あっ……
そう、だね……やめてよ、こんなとこで……」
E「やっべー! 爆破してー!!
次回、
『エボニー・コンツェルト』
というわけで、次回リンファちゃんたちは爆発しまーす!
おーたーのーしーみーにー♪
それではまたー!」
R&J「なんか不穏なこと言わなかった!?」