アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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03 波間の美女

 

 

 

 突然の爆音!

 外から飛来する鉛の塊は、強化ガラスの窓を突き破り、部屋の中で暴れ回る!

 

 調度品もテレビも冷蔵庫も、部屋の中にあるものは全て、一瞬にして粉々に砕け散る。

 窓の外の戦闘ヘリは、ようやくガトリングガンの連射を止めた。

 

「無茶しやがる……!」

 

 ヨシュアは、バスルームのタイルに手をついてゆっくりと体を起こした。

 

 異変を感じ取った瞬間、ジーナを連れてバスルームへと飛び込んだのである。

 地面に伏せたヨシュアの下には、真っ赤な顔のジーナ。

 彼に押し倒される形になっていたため、ジーナにはガラスの破片一つ当たってはいない。

 

「逃げるぞ」

 

 ヨシュアは立ち上がり、まだ赤い顔で呆けているジーナの手を取った。

 引っ張って、無理矢理立ち上がらせる。

 これは、落ち着くまで少し待った方がよさそうである。

 

 その間にヨシュアはバスルームの入り口から外の様子を伺った。

 ヘリはもういない。

 

 あれはただの景気付け……か。

 ということは、おそらくすぐに白兵戦部隊が来る。

 

 ――上等だ。

 

「ジーナ、だったな」

 

「は……ははははははいっ!!」

 

 ヨシュアは振り返り、彼女に微笑んで見せた。

 それは、氷のように冷たい、悪魔の微笑みだった。

 

「あんたの依頼……引き受けさせてもらおう」

 

 

  *

 

 

 照りつける擬似太陽の光。

 それに灼かれた砂から、足の裏に程良い暖かさが伝わってくる。

 

 同じ間合いで、幾度となく繰り返す波の音。

 鼻を衝く、不思議な塩の香り。

 海。

 

 スポーティなデザインのビキニ。

 そもそもリンファは水着なんてもの自体、着るのは初めてである。

 なんだかスカスカして気持ち悪いが、背筋を走っていく震えはそのせいではないだろう。

 

 リンファの目が輝く。

 その顔は、たとえるとすれば玩具を得た子供のそれである。

 

 今まで殺伐とした傭兵の世界で生きてきて、同じ年頃の他の女の子達がするような遊びとは全く無縁だった。

 所詮はガキの遊び、と馬鹿にしていたのも事実だった。

 

 しかし実際にこうしていると……たまには、何の気兼ねもせずに遊びまわるのも悪くないと思えてくる。

 

「うきゃあああああ!」

 

 隣に立っていたエリィが、突然甲高い叫び声をあげた。

 砂を蹴って走る。

 

 フリルの付いた白いワンピースの水着は、彼女のイメージにぴったりと合っていた。

 眼鏡をはずし、髪をほどいたその姿は、リンファですら久しぶりに見る。

 

 エリィの足が波打ち際に触れる。

 冷たさにだろうか。

 少し驚いたそぶりを見せてから、エリィは波間に飛び込んだ。

 

 飛び込んだといっても、膝くらいまでしか深さのない辺りだ。

 ばしゃんと音を立てて、水しぶきが上がる。

 それを頭からかぶって、エリィはへたりこんだ。

 腰から下は水に浸かっている。

 

 頭を振る。

 髪から、塩水の粒がいくつも飛び出した。

 水をかけられた犬みたいだった。

 

「おもしろ~い~!

 りんふぁちゃ~ん! おいでおいでぇ~!」

 

 リンファは微笑むと、海へ向かって駆けだした。

 ためらいもせず、エリィよりも豪快に海に飛び込む。

 

 さっきより大きなしぶきが上がった。

 エリィの顔にそれがかかりそうになって、彼女は慌てて腕で防御した。

 

 でも、無駄だ。

 最初の攻撃が失敗に終わった事に気付くと、リンファはすぐさま腕を振り上げた。

 巻き上げられた水が、エリィの顔を直撃する。

 第二射は、まんまと命中したようである。

 

「う~、やったなぁ~!」

 

 それから、二人の壮絶な戦いが始まった。

 冷たい水が飛び散り、体を濡らす。

 

 時折それは口の中にも入っていった。

 塩辛い。

 慌ててそれを吐き出していると、その隙を狙ってさらに執拗な攻撃が襲ってくる。

 

 リンファもエリィも、全く泳ぐことはできない。

 それでも、泳げない者は泳げないなりに楽しむ方法があった。

 

 リンファの足の裏を、何かがくすぐる。

 ひゃっ、と声を上げ、リンファは水に浸かった自分の足を見つめた。

 その側に、なにやら煌めくものがある。それは小魚だった。

 

 リンファは呆然と、その魚を眺めていた。

 すぐに魚は逃げ出す。

 ものすごい速さだ。

 地上のどんな生き物も、あれほどの俊敏さでは動けないだろう。

 

 驚きだった。

 まさか、人工の海に魚まで放しているとは。

 二人は顔を見合わせて、そして今度は魚を追いかけるのに躍起になった。

 

 もっとも、泳げない二人に捕まえられるわけはなかったのだが。

 

 少し暴れ回ると、急に喉が乾いてきた。

 さっき塩水を飲んだせいだろうか。

 

 リンファはエリィを誘って、陸へ上がった。

 風邪を引かないように上着を羽織り、海際のコテージへ向かう。

 

 海岸には、白い木製の小屋がいくつも建っていた。

 喫茶店のようなものである。

 小屋の中に入ってもいいが、オープンテラスのパラソルの下、というのも風情があっていい。

 二人はそっちを選んだ。

 

 すぐさま近づいてきた薄着の女性に、聞いたこともない南国産フルーツのジュースを注文する。

 

 一分も待たせずにジュースは運ばれてきた。

 ストローに口を付ける。

 広がっていく、甘い感触。

 悪くない。

 

 リンファもエリィも、ご多分に漏れず甘い物には弱い。

 もしヨシュアだったら、こんなものは蟻の飲み物だ、と一蹴しそうだが。

 

 そうだ、ヨシュア。

 ふと思い立って、リンファはジュースから口を離した。

 

「ヨシュアも来れば良かったのにね」

 

「ん~、でもぉ~、よしゅあくんがうみではしゃいでたら~、なんかやだ~」

 

 それもそうか。

 確かに、楽しそうにしているヨシュアの姿など想像も付かないし、見たいとも思わない。

 

 ……と。

 

 リンファははっと顔を上げた。

 遠くから大きな音が聞こえてくる。

 空の上からだ。

 

 何度も聞いたことがある。

 ヘリのプロペラが、空気を切り裂く音である。

 

 そんな馬鹿な。ただでさえ騒音にうるさくて、無音の電気自動車以外使用が禁止されているようなこの都市で、あんな爆音を立てるなんて。

 下手をするとガードが飛んで来かねない。

 

 周囲の客もいぶかしがって、一斉に空を見上げている。

 リンファもパラソルの隙間から上を覗いた。

 

 まぶしい擬似太陽。

 そこに浮かぶ黒いシルエット。

 逆光になってよく見えないが、ヘリコプターであることには間違いなさそうだ。

 

 ヘリは、海際にそびえ立つビルの周辺をホバリングしはじめた。

 あれは……リンファ達が泊まっているホテルである。

 

「およよ~? あれはなんでしょね~」

 

「何かのイベントかな……」

 

 リンファが呟いた、次の瞬間。

 

 ゴガガガガガガッ!!

 

 ヘリのガトリングガンが火を噴いた!

 

 無数に散らばる狂気の弾丸。

 それらは全て、ホテルのある一室を打ち抜いていた。

 

 誰からともなくあがる悲鳴。

 それはやがて怒号となって、浮かれた時間と空間を一気に引き裂いた。

 

 さすがにこういうことには慣れている。

 リンファは多少驚きこそすれ、少しも慌ててはいない。

 しかしそれも、エリィが口を開くまでのことだった。

 

「リ……リンファちゃん!」

 

 口調がしっかりしている。

 

 リンファはエリィの顔を覗き込んだ。

 瞳に浮かぶ輝きが、さっきまでとは明らかに違う。

 普段のおっとりとした表情からは想像もつかない、険しい顔である。

 

 科学者としてのエリィの顔……

 リンファはそれを、一瞬で見て取った。

 

「あの部屋! ヨシュアくんの部屋よ!」

 

「……なッ!?」

 

 思わず驚愕の声を上げ、リンファは再度ホテルを見上げた。

 

 ホテルの、上から5番目の階。

 向かって右側から数えて三番目の窓。

 間違いない。

 あれは1017号室……

 ヨシュアがいるはずの部屋!

 

 次の瞬間、リンファはもう走り出していた。

 

 

 

つづく。

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