アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
突然の爆音!
外から飛来する鉛の塊は、強化ガラスの窓を突き破り、部屋の中で暴れ回る!
調度品もテレビも冷蔵庫も、部屋の中にあるものは全て、一瞬にして粉々に砕け散る。
窓の外の戦闘ヘリは、ようやくガトリングガンの連射を止めた。
「無茶しやがる……!」
ヨシュアは、バスルームのタイルに手をついてゆっくりと体を起こした。
異変を感じ取った瞬間、ジーナを連れてバスルームへと飛び込んだのである。
地面に伏せたヨシュアの下には、真っ赤な顔のジーナ。
彼に押し倒される形になっていたため、ジーナにはガラスの破片一つ当たってはいない。
「逃げるぞ」
ヨシュアは立ち上がり、まだ赤い顔で呆けているジーナの手を取った。
引っ張って、無理矢理立ち上がらせる。
これは、落ち着くまで少し待った方がよさそうである。
その間にヨシュアはバスルームの入り口から外の様子を伺った。
ヘリはもういない。
あれはただの景気付け……か。
ということは、おそらくすぐに白兵戦部隊が来る。
――上等だ。
「ジーナ、だったな」
「は……ははははははいっ!!」
ヨシュアは振り返り、彼女に微笑んで見せた。
それは、氷のように冷たい、悪魔の微笑みだった。
「あんたの依頼……引き受けさせてもらおう」
*
照りつける擬似太陽の光。
それに灼かれた砂から、足の裏に程良い暖かさが伝わってくる。
同じ間合いで、幾度となく繰り返す波の音。
鼻を衝く、不思議な塩の香り。
海。
スポーティなデザインのビキニ。
そもそもリンファは水着なんてもの自体、着るのは初めてである。
なんだかスカスカして気持ち悪いが、背筋を走っていく震えはそのせいではないだろう。
リンファの目が輝く。
その顔は、たとえるとすれば玩具を得た子供のそれである。
今まで殺伐とした傭兵の世界で生きてきて、同じ年頃の他の女の子達がするような遊びとは全く無縁だった。
所詮はガキの遊び、と馬鹿にしていたのも事実だった。
しかし実際にこうしていると……たまには、何の気兼ねもせずに遊びまわるのも悪くないと思えてくる。
「うきゃあああああ!」
隣に立っていたエリィが、突然甲高い叫び声をあげた。
砂を蹴って走る。
フリルの付いた白いワンピースの水着は、彼女のイメージにぴったりと合っていた。
眼鏡をはずし、髪をほどいたその姿は、リンファですら久しぶりに見る。
エリィの足が波打ち際に触れる。
冷たさにだろうか。
少し驚いたそぶりを見せてから、エリィは波間に飛び込んだ。
飛び込んだといっても、膝くらいまでしか深さのない辺りだ。
ばしゃんと音を立てて、水しぶきが上がる。
それを頭からかぶって、エリィはへたりこんだ。
腰から下は水に浸かっている。
頭を振る。
髪から、塩水の粒がいくつも飛び出した。
水をかけられた犬みたいだった。
「おもしろ~い~!
りんふぁちゃ~ん! おいでおいでぇ~!」
リンファは微笑むと、海へ向かって駆けだした。
ためらいもせず、エリィよりも豪快に海に飛び込む。
さっきより大きなしぶきが上がった。
エリィの顔にそれがかかりそうになって、彼女は慌てて腕で防御した。
でも、無駄だ。
最初の攻撃が失敗に終わった事に気付くと、リンファはすぐさま腕を振り上げた。
巻き上げられた水が、エリィの顔を直撃する。
第二射は、まんまと命中したようである。
「う~、やったなぁ~!」
それから、二人の壮絶な戦いが始まった。
冷たい水が飛び散り、体を濡らす。
時折それは口の中にも入っていった。
塩辛い。
慌ててそれを吐き出していると、その隙を狙ってさらに執拗な攻撃が襲ってくる。
リンファもエリィも、全く泳ぐことはできない。
それでも、泳げない者は泳げないなりに楽しむ方法があった。
リンファの足の裏を、何かがくすぐる。
ひゃっ、と声を上げ、リンファは水に浸かった自分の足を見つめた。
その側に、なにやら煌めくものがある。それは小魚だった。
リンファは呆然と、その魚を眺めていた。
すぐに魚は逃げ出す。
ものすごい速さだ。
地上のどんな生き物も、あれほどの俊敏さでは動けないだろう。
驚きだった。
まさか、人工の海に魚まで放しているとは。
二人は顔を見合わせて、そして今度は魚を追いかけるのに躍起になった。
もっとも、泳げない二人に捕まえられるわけはなかったのだが。
少し暴れ回ると、急に喉が乾いてきた。
さっき塩水を飲んだせいだろうか。
リンファはエリィを誘って、陸へ上がった。
風邪を引かないように上着を羽織り、海際のコテージへ向かう。
海岸には、白い木製の小屋がいくつも建っていた。
喫茶店のようなものである。
小屋の中に入ってもいいが、オープンテラスのパラソルの下、というのも風情があっていい。
二人はそっちを選んだ。
すぐさま近づいてきた薄着の女性に、聞いたこともない南国産フルーツのジュースを注文する。
一分も待たせずにジュースは運ばれてきた。
ストローに口を付ける。
広がっていく、甘い感触。
悪くない。
リンファもエリィも、ご多分に漏れず甘い物には弱い。
もしヨシュアだったら、こんなものは蟻の飲み物だ、と一蹴しそうだが。
そうだ、ヨシュア。
ふと思い立って、リンファはジュースから口を離した。
「ヨシュアも来れば良かったのにね」
「ん~、でもぉ~、よしゅあくんがうみではしゃいでたら~、なんかやだ~」
それもそうか。
確かに、楽しそうにしているヨシュアの姿など想像も付かないし、見たいとも思わない。
……と。
リンファははっと顔を上げた。
遠くから大きな音が聞こえてくる。
空の上からだ。
何度も聞いたことがある。
ヘリのプロペラが、空気を切り裂く音である。
そんな馬鹿な。ただでさえ騒音にうるさくて、無音の電気自動車以外使用が禁止されているようなこの都市で、あんな爆音を立てるなんて。
下手をするとガードが飛んで来かねない。
周囲の客もいぶかしがって、一斉に空を見上げている。
リンファもパラソルの隙間から上を覗いた。
まぶしい擬似太陽。
そこに浮かぶ黒いシルエット。
逆光になってよく見えないが、ヘリコプターであることには間違いなさそうだ。
ヘリは、海際にそびえ立つビルの周辺をホバリングしはじめた。
あれは……リンファ達が泊まっているホテルである。
「およよ~? あれはなんでしょね~」
「何かのイベントかな……」
リンファが呟いた、次の瞬間。
ゴガガガガガガッ!!
ヘリのガトリングガンが火を噴いた!
無数に散らばる狂気の弾丸。
それらは全て、ホテルのある一室を打ち抜いていた。
誰からともなくあがる悲鳴。
それはやがて怒号となって、浮かれた時間と空間を一気に引き裂いた。
さすがにこういうことには慣れている。
リンファは多少驚きこそすれ、少しも慌ててはいない。
しかしそれも、エリィが口を開くまでのことだった。
「リ……リンファちゃん!」
口調がしっかりしている。
リンファはエリィの顔を覗き込んだ。
瞳に浮かぶ輝きが、さっきまでとは明らかに違う。
普段のおっとりとした表情からは想像もつかない、険しい顔である。
科学者としてのエリィの顔……
リンファはそれを、一瞬で見て取った。
「あの部屋! ヨシュアくんの部屋よ!」
「……なッ!?」
思わず驚愕の声を上げ、リンファは再度ホテルを見上げた。
ホテルの、上から5番目の階。
向かって右側から数えて三番目の窓。
間違いない。
あれは1017号室……
ヨシュアがいるはずの部屋!
次の瞬間、リンファはもう走り出していた。
つづく。