アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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04 脱出

 

 

 

 

 いくつかの靴音が響き渡る。

 

 先頭を切って階段を駆け下りているのはヨシュアだ。

 ジーナがその後ろに続く。

 

 しかし靴音は二つだけではない。

 下から上ってくる音。

 

 階下で、拳銃を構えた男が待ちかまえていた。

 銃口はヨシュアに向いている。

 

 ――邪魔だッ!

 

 タイミングを計らって、ヨシュアは身をかがめた。

 その頭上を銃弾が通り過ぎる。

 

 そして瞬き一つする間には、ヨシュアは男の懐に飛び込んでいた。

 左腕のエルボー。

 体勢を崩した男の足に、一発銃弾を撃ち込む。

 

 男は小さく呻くと、為す術もなく床に転がった。

 すぐさまヨシュアの足が、男の拳銃を蹴り飛ばす。

 

 まるで滝を流れ落ちる水の如く、ヨシュアの動きは俊敏で無駄がなく、美しかった。

 神がもたらした最も残酷な刑。

 天より飛来する聖なる流星。

 大地を汚染し、人々を緩慢な苦しみの内に滅ぼす狂気の災厄……

 ワームウッドという名は、彼にこそ相応しい。

 

 ヨシュアは上を見上げた。

 

 さっきの攻防に驚いて、立ちつくすジーナがそこにいる。

 戦い慣れていない奴は、これだから困る。

 ヨシュアは仕方なく声をかけた。

 

「急げ。呆けている暇はない」

 

「は……はいっ!」

 

 ようやくジーナは正気を取り戻した。

 慌てて階段を駆け下りてくる。

 

 もう一階のロビーは目の前だ。

 これまで倒した襲撃者は二人。

 おそらくエレベーターから攻めてくる奴や見張りもいるだろうが、それでも大した数ではない。

 ごく小規模なテロリスト、といったところだろうか。

 

 やがて二人はロビーへとたどり着いた。

 そこは既に、阿鼻叫喚のさまだった。

 人々は当てもなく逃げまどい、ホテルの従業員が必死にそれをなだめている。

 中には平然と事態を見守っている者もいたが、そういう連中は例外なくSP付きだ。

 

 だが、この状況は都合がいい。

 こうも混乱していては見張りにも見つかりにくい。

 

「身を屈めろ。

 人混みに紛れて逃げるぞ」

 

「わかりましたぁ」

 

 二人は人々の間を、弾丸のように駆け抜けた。

 思った通り、誰一人として彼らに目を向ける者はいない……

 

 いや、前方に男が一人。

 こっちを見るなり、あわてて懐に手を入れた。

 

 ――遅い。

 

 少しもスピードを緩めることなく、ヨシュアは拳銃の引き金を引いた。

 狙いは、男が取り出したばかりの小さな拳銃。

 

 固い音が響き、銃はどこかへ跳ね飛ばされた。

 男は、思わず手のひらを押さえた。

 ヨシュアに対してこんな隙を見せた時点でもはや手遅れだ。

 

 身をひねりながら放った跳び蹴りは、一寸違わず男のみぞおちに食い込んだ。

 白目を向いて倒れる男。

 

 それを踏みつけながらヨシュアはホテルの外へと飛び出し……

 

 がつんっ。

 

 鈍い音。

 頭がくらくらする。

 どうやら、前から来た誰かと正面衝突してしまったらしい。

 

 ふらつきながらヨシュアは前を確認した。

 彼と同じように頭を押さえてうずくまっているのは……

 

 黒髪で、水着の上から上着を羽織っただけという姿の女性……

 

「リンファ?」

 

「あ……ヨシュア! 無事だった……」

 

 リンファが言いかけた、その時だった。

 ヨシュアの後をついてきたジーナが、リンファの目に留まったのは。

 

「ワームウッドさん! 大丈夫ですかぁ!?」

 

 ぴくぴくっ。

 

 リンファの眉が揺れた。

 固く握った拳を震わせ、ドスの利いた声で問いかける。

 

「誰……? その女……?」

 

 その迫力たるや、あのヨシュアが思わず後ずさったほどである。

 こんな鬼気迫る表情のリンファは久しぶりに見る……

 なんて、冷静に分析している場合ではなさそうである。

 色々と誤解を招いてしまったようだし……

 

 ……と。

 

 ガキュキュキュキュキュンッ!!

 

 空中のヘリが放ったガトリングガンの弾丸が、ついさっきまでリンファのいた辺りの地面を削り取る!

 もしヨシュアが彼女を押し倒すのが一瞬遅ければ、間違いなく周囲は鮮血で染められていただろう。

 

 ――切れてやがる!

 

 ヨシュアは内心舌打ちをした。

 やることに見境がない。

 白昼堂々、戦闘ヘリを導入しての襲撃。

 高級ホテル内に戦闘員を送り込むことも無茶だが、周囲の人間を巻き込むことも全く厭わないのも、大概は大問題である。

 

 ヨシュアは自分に押し倒されて、頬を赤らめているリンファに目を遣った。

 なんだかついさっきも同じ事を誰かにしたような気がするが、この際それはよしとしよう。

 

「話は後だ。逃げるぞ!」

 

「了解ッ……」

 

 二人が立ち上がるのとほぼ同時だった。

 ホテルの前の道に、一台の真っ赤なオープンカーが現れたのは。

 

 運転席の窓が開く。中から顔を出したのはよく見知った顔だった。

 

「みんな!」

 

 オープンカーのハンドルを握ったまま、エリィは腹の底から声を張り上げた。

 その額には汗が浮かんでいる。

 しかも口振りからすると、真面目な方のエリィのようである。

 

「乗って! 早く!」

 

 

  *

 

 

 行楽に来ていた、とある企業のボンボン息子。

 自分の車がなくなったことに気付いて彼が悲鳴を上げるのは、それから数十分後のことだった。

 

 

  *

 

 

 ガキュウンッ!

 

 ガトリングガンの弾丸が、またしても道路を削り取る。

 

 エリィが蛇行運転していなければ、ああなっていたのはオープンカーだっただろう。

 それにしても、ヘリは執拗に追ってくる。いくらなんでもこれではいつか撃ち抜かれてしまう。

 

 助手席に座っていたヨシュアは、振り向きざまに銃弾を放った。

 しかし……この揺れの中では、当たる方が奇跡というものだ。

 弾丸はヘリをかすめることすらなく飛び去っていった。

 

「へたくそっ! 貸して!」

 

 トランク・スペースに体を押し込んでいたリンファが、もぎ取るように彼の拳銃を取り上げる。

 

 そのまま体を反転させ、両手で握った銃を頭上のヘリに向けてしっかりと構えた。

 その間にも、二、三度ガトリングガンが車をかすめていく。

 

 パゥンッ!

 

 貧弱な銃声が響き渡った。

 そして次の瞬間!

 

 がごんっ!

 

 ヘリの回転翼が、いきなり本体からもぎ取られた!

 揚力を失ったヘリは、もちろん墜落し、何度か地面を転がって動かなくなる。

 一方の翼は、近くに立っていた木を巻き込んで、盛大な砂埃を巻き上げた。

 

 リンファの銃弾が、撃ち抜いたのだ。

 回転翼の接続部分を。

 

「どう?」

 

 呆気にとられた表情のヨシュアに、リンファは言った。

 得意げな顔が、今は憎たらしくもありがたくもあった。

 

「銃はこうやって撃つのよ」

 

 

  *

 

 

「今日は休業……

 なんだ、ジーナかい」

 

 ダウンタウンの一番端に、小さな古いバーがある。

 もう日も落ちたというのに、ドアには「CLOSED」の看板がかかっている。

 

 ジーナはそのドアを迷わず押し開けた。

 そして中でカウンター席についていた男の第一声が、これである。

 

「後ろのお客さん方は?」

 

「あたしのぉ、護衛をしてくれる人たちですぅ」

 

 後ろの、というのは言うまでもなくリンファ達のことである。

 リンファとエリィは、いつまでも水着のままでいるわけにもいかず、その辺りのブティックで適当に見繕った服を身に纏っている。

 

 男は多少いぶかしがりながらも、カウンターに手を突いて立ち上がった。

 

「何か、飲むかい?」

 

「よろしくぅ、マスター」

 

 ジーナがテーブル席につくと、リンファとエリィはその正面に腰掛けた。

 ひねくれ者のヨシュアは、一人カウンターへ向かう。

 そしてバーのマスターに注文を付けた。

 

「スコッチだ」

 

「あたしも、それ」

 

「えりぃはキュラソーがいいにゃぁ~」

 

 マスターは苦笑すると、それぞれの注文の品を探して、棚をかちゃかちゃとやりはじめた。

 その様子を眺めながら、ヨシュアが独り言のように呟く。

 

「……あんた、何者だ?」

 

 マスターのこと……ではない。

 もちろんそれは、ジーナにかけられた問いである。

 

「ただの民間人相手に、あそこまで手の込んだ襲撃はしないぜ。普通はな」

 

 

 

つづく。

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