アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
「げっ!」
汚らしい叫び声をあげながら、リンファはハンドルを切った。
オープンカーの進路を阻むように空からふってくる巨大な機械……
一見すると巨人。
だがその正体は、戦闘用の二足歩行MTである。
いつかは来るだろうとは思っていたが、ついに来たか。
そもそも、戦闘ヘリなんて物騒な物を持ち出した時点で、MTが襲ってくることは予想済みである。
しかし……
ACさえあればそれほど恐ろしい相手ではないが、今こちらにある武器は拳銃一丁だけである。
トチュチュチュチュンッ!
妙に軽い音を立てて、MTの機銃が舗装を削り取った。
リンファの無茶苦茶な操縦によって蛇行する車には、ただ一つの弾丸も当たらない。
そのまま車はMTの横をくぐり抜け、一目散に逃げ出した。
「せめてACがあれば……」
「あるよぉ」
ヨシュアの独り言にとろけた口調で応えるのは、もちろんエリィである。
意外な答えにヨシュアは硬直する。
ACがあるって……まさかとは思うが……
「あのね、くるときのひこうきにのせてたの~。
いまくうこうにあるよ~、ぺんゆうもわーむうっども~」
『そういうことは早く言えッ!!』
ものの見事に、リンファとヨシュアの台詞がかち合った。
叫ぶ間にもリンファの手は行動を起こしている。
ハンドルを左に思い切りきると、車はドリフトしながら十字路を曲がった。
空港への最短コース。
全力で飛ばせば、ものの十分もかからない距離である。
「あああああっ!
ヨシュアさんリンファさんっ!
MTが追いかけてきますぅ!」
「しつこい男はモテないぞっ!」
ガキュキュンッ!
またもや弾丸が地面に穴を穿つ。
もちろんリンファの操縦をもってすれば回避など容易い……
が、さっきより多少狙いが正確になっているようである。
敵も馬鹿ではない。
こちらの動きに、少しずつ慣れてきたのだ。
いくら回避技術が優れていようとも、攻撃してこない相手ならそのうちパターンが読めてくる。
普段は、そうなる前に撃墜されるだけの話である。
「逃げ切れるか?」
「ンなこと聞くなッ!」
それはそうだ。
そんなこと、逃げている側にわかるはずがない。
我ながら馬鹿な問いをしたものだと、ヨシュアは少し反省した。
そして、三度銃弾が飛来する。
今度は本当に目と鼻の先に着弾する。
これはいよいよまずい。
こうなったら、駄目で元々だ。
ヨシュアは慎重に拳銃を構えた。
相手は人間型の2足MT。
装甲もそれなりに厚そうである。
しかし関節部分に上手く銃弾が命中すれば、足を止めることくらいはできるかもしれない。
たとえそれが針の穴を通すような作業だとしても、試す価値はある。
ヨシュアは、引き金を引いた。
ガゴンッ!
途端に足を失い、崩れ落ちるMT。
「……本当に当たりやがった……」
「やればできるじゃない」
一番驚いているのは、撃ったヨシュア当人である。
*
「見えたっ!」
思わずリンファの口から叫び声が漏れる。
エリィの案内によると、リンファ達のACが保管されているのは滑走路の向こうに見える倉庫らしい。
迷わず車は公道を離れ、広い滑走路に入り込んだ。
そのまま真っ直ぐ進めば目的の倉庫だが……
ゴガウンッ!
夜の地下都市に響き渡る轟音!
爆風が車の動きを止める。
衝撃でリンファは頭をしたたかに打ち付けた。
額をさする……
流血もなさそうだし、怪我の方は大したことはない。
しかし、今の爆発は。
リンファは目を凝らした。
舗装がはがれた滑走路の向こう側に、いくつもの影がある。
やがてそれらははっきりとした形を取った。
MTである。
思い思いの武装をした戦闘用MTが……10機ほど。
行く手を阻むように陣取っている!
「なんて戦力だ……戦争じゃねぇんだぞ!?」
「どういう恨みの買い方してんのよ、あんたの兄貴は!?」
「あうぅ~! ごめんなさいぃ~!」
ジーナを責めても始まらない。
とにかく敵をまかないことにはACに乗り込むことができない。
リンファはアクセルを踏みつけた。
空気が抜けるような、間抜けな音が響く。
もう一度。
結果は同じ。
リンファは舌打ちをした。
なんてことだ、車が爆発の衝撃で駄目になってしまった。
『どうやらこれで終わりだな、ロレンスの妹さんよ』
声はMTの中の一機が発した物である。
外部スピーカーをガンガンに効かせながら、MTは少しずつ近づいてくる。
『俺たちゃロレンスに恨みがあるんだ……
みんな、仲間だの部下だのをロレンスに殺された奴ばっかりさ。
もちろん、ロレンスの野郎をぶち殺してやりてぇ。
でも俺達ごときがかなうわけがねぇ。
だから、お前を殺す。
これが俺達の復讐だッ!』
たわけたことを。
そんなもの、ただの八つ当たりに過ぎない。
まあ、その違いが解らないからこその二流三流なのだろうが。
『恨むなよ。
恨むんだったらロレンスの妹に生まれてきた自分を……』
――瞬間!
ずぶっ。
MTのボディは、上から降ってきた何かによって、真っ二つに切り裂かれていた。
爆発が起きない。ジェネレーターが無傷で残っている証拠である。
「兄様!」
「何ッ!?」
全員が目を見張った。
そこには、巨大な黒い巨人が立ちつくしていた。
細身の全身像。
砲身の長いライフル。
背中に背負った特殊なミサイル。
それは、一種異様な雰囲気を全身から放っていた。
漆黒の鬼。
噂に聞いたとおりの姿である。
弧雷のロレンスが駆るAC……『アビス』。
アビスが奔る。
今だ戸惑っているMTに向かって。
攻撃する暇すら与えない。
ブレードの一撃で、MTのボディは両断される。
「りんふぁちゃ~ん、いまのうち~」
エリィの言葉に、リンファは頷いた。
*
[戦闘モード起動]
無機質なコンピューター・ヴォイスが響く。
シートの具合を確かめながら、リンファは二つ三つのボタンを押した。
愛機『ペンユウ』のコックピットの中。
まさか、バカンスに来た先で乗ることになるとは思いもよらなかったが。
ようやく計器類が稼働し始めた。
外部モニター、通信機、そしてレーダー……
「!?」
リンファは息を飲んだ。
レーダーには、赤い光点で反応が記されている。
たった、一つだけ。
慌ててリンファは操縦桿を倒した。
ペンユウが保管されていた倉庫から、ゆっくりと歩み出る。
外の風景が目に飛び込んできた。
無数の残骸。
まず目に付いたのはそれだった。
累々と横たわる、無惨な姿のMT。
あるものは真っ二つに切り裂かれ、またあるものは胴に風穴を開けられ……
動いているものなど、いようはずもない。
その中心に、一匹の鬼が佇んでいた。
こちらに背中を向けていた鬼が、ゆっくりと振り返る。
ぞくりっ。
リンファは、冷たいものが背筋を駆け抜けていくのを感じた。
恐怖と呼ぶべきか、或いは畏怖と呼ぶべきか……
ともかく漆黒のACは、奇妙な重力にも似た威圧感を放っていた。
目を離すことが……できない……
やがて、レーダーの光点は二つに増えた。
ヨシュアの駆る『ワームウッド』が、さっきの倉庫から姿を現す。
そしてペンユウの隣に列んだ。
「手伝う暇も無かったみたいね」
通信を開いてリンファは語りかけた。
無視されるかとも思ったが、意外にも返事が返ってくる。
『……君たちは、ジーナに雇われたんだろう?
真紅の華……そしてワームウッド』
男性としてはやや高めの、澄んだ声である。
イメージとはギャップがあるが、それでもこの威圧感は消えない。
むしろ逆に恐ろしいほどである。
ロレンスの声は、あたかも死者を弔う葬送曲のように聞こえた。
「ヨシュアさんっ! リンファさんっ!」
ジーナが叫ぶ。
いつの間にか、彼女とエリィはペンユウの足下までやってきていた。
いや、やってきた、と言うには語弊があるようだ。
エリィは必死に、ジーナをペンユウから引き離そうとしている。
それもそのはず……もし戦闘が始まったら、あんな位置に居ては踏みつぶされかねない。
「やっつけて!
あの人を……兄様をやっつけて下さいっ!」
「はぁ?」
つづく。
今回登場したAC
■アビス
機体名 アビス
パイロット ロレンス
HEAD HD-X1487
CORE XXA-SO
ARMS AN-K1
LEGS LN-2KZ-SP
BOOSTER B-VR-33
FCS QX-AF
GENERATOR GBG-10000
BACK UNIT R WM-P4001
BACK UNIT L RZT-333
ARM UNIT R WG-RF/E
ARM UNIT L LS-99-MOONLIGHT
OPTION SP-JAM, SP-M/AUTO, SP-CND-K, SP-AXL, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+, SP-ABS/Re
●COLOR
NIGHT SHIFT/STANDARD
●備考
カラス脚にEスナ月光。「最強のレイヴンつったらコレだろ」というコンセプトでした。