アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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06 本当の依頼

 

 

 

「げっ!」

 

 汚らしい叫び声をあげながら、リンファはハンドルを切った。

 

 オープンカーの進路を阻むように空からふってくる巨大な機械……

 一見すると巨人。

 だがその正体は、戦闘用の二足歩行MTである。

 

 いつかは来るだろうとは思っていたが、ついに来たか。

 そもそも、戦闘ヘリなんて物騒な物を持ち出した時点で、MTが襲ってくることは予想済みである。

 

 しかし……

 ACさえあればそれほど恐ろしい相手ではないが、今こちらにある武器は拳銃一丁だけである。

 

 トチュチュチュチュンッ!

 

 妙に軽い音を立てて、MTの機銃が舗装を削り取った。

 リンファの無茶苦茶な操縦によって蛇行する車には、ただ一つの弾丸も当たらない。

 そのまま車はMTの横をくぐり抜け、一目散に逃げ出した。

 

「せめてACがあれば……」

 

「あるよぉ」

 

 ヨシュアの独り言にとろけた口調で応えるのは、もちろんエリィである。

 

 意外な答えにヨシュアは硬直する。

 ACがあるって……まさかとは思うが……

 

「あのね、くるときのひこうきにのせてたの~。

 いまくうこうにあるよ~、ぺんゆうもわーむうっども~」

 

『そういうことは早く言えッ!!』

 

 ものの見事に、リンファとヨシュアの台詞がかち合った。

 

 叫ぶ間にもリンファの手は行動を起こしている。

 ハンドルを左に思い切りきると、車はドリフトしながら十字路を曲がった。

 空港への最短コース。

 全力で飛ばせば、ものの十分もかからない距離である。

 

「あああああっ!

 ヨシュアさんリンファさんっ!

 MTが追いかけてきますぅ!」

 

「しつこい男はモテないぞっ!」

 

 ガキュキュンッ!

 

 またもや弾丸が地面に穴を穿つ。

 もちろんリンファの操縦をもってすれば回避など容易い……

 が、さっきより多少狙いが正確になっているようである。

 

 敵も馬鹿ではない。

 こちらの動きに、少しずつ慣れてきたのだ。

 いくら回避技術が優れていようとも、攻撃してこない相手ならそのうちパターンが読めてくる。

 普段は、そうなる前に撃墜されるだけの話である。

 

「逃げ切れるか?」

 

「ンなこと聞くなッ!」

 

 それはそうだ。

 そんなこと、逃げている側にわかるはずがない。

 我ながら馬鹿な問いをしたものだと、ヨシュアは少し反省した。

 

 そして、三度銃弾が飛来する。

 今度は本当に目と鼻の先に着弾する。

 

 これはいよいよまずい。

 こうなったら、駄目で元々だ。

 ヨシュアは慎重に拳銃を構えた。

 

 相手は人間型の2足MT。

 装甲もそれなりに厚そうである。

 しかし関節部分に上手く銃弾が命中すれば、足を止めることくらいはできるかもしれない。

 たとえそれが針の穴を通すような作業だとしても、試す価値はある。

 

 ヨシュアは、引き金を引いた。

 

 ガゴンッ!

 

 途端に足を失い、崩れ落ちるMT。

 

「……本当に当たりやがった……」

 

「やればできるじゃない」

 

 一番驚いているのは、撃ったヨシュア当人である。

 

 

  *

 

 

「見えたっ!」

 

 思わずリンファの口から叫び声が漏れる。

 エリィの案内によると、リンファ達のACが保管されているのは滑走路の向こうに見える倉庫らしい。

 

 迷わず車は公道を離れ、広い滑走路に入り込んだ。

 そのまま真っ直ぐ進めば目的の倉庫だが……

 

 ゴガウンッ!

 

 夜の地下都市に響き渡る轟音!

 爆風が車の動きを止める。

 衝撃でリンファは頭をしたたかに打ち付けた。

 

 額をさする……

 流血もなさそうだし、怪我の方は大したことはない。

 

 しかし、今の爆発は。

 

 リンファは目を凝らした。

 舗装がはがれた滑走路の向こう側に、いくつもの影がある。

 やがてそれらははっきりとした形を取った。

 

 MTである。

 思い思いの武装をした戦闘用MTが……10機ほど。

 行く手を阻むように陣取っている!

 

「なんて戦力だ……戦争じゃねぇんだぞ!?」

 

「どういう恨みの買い方してんのよ、あんたの兄貴は!?」

 

「あうぅ~! ごめんなさいぃ~!」

 

 ジーナを責めても始まらない。

 とにかく敵をまかないことにはACに乗り込むことができない。

 

 リンファはアクセルを踏みつけた。

 空気が抜けるような、間抜けな音が響く。

 もう一度。

 結果は同じ。

 

 リンファは舌打ちをした。

 なんてことだ、車が爆発の衝撃で駄目になってしまった。

 

『どうやらこれで終わりだな、ロレンスの妹さんよ』

 

 声はMTの中の一機が発した物である。

 外部スピーカーをガンガンに効かせながら、MTは少しずつ近づいてくる。

 

『俺たちゃロレンスに恨みがあるんだ……

 みんな、仲間だの部下だのをロレンスに殺された奴ばっかりさ。

 

 もちろん、ロレンスの野郎をぶち殺してやりてぇ。

 でも俺達ごときがかなうわけがねぇ。

 だから、お前を殺す。

 これが俺達の復讐だッ!』

 

 たわけたことを。

 そんなもの、ただの八つ当たりに過ぎない。

 まあ、その違いが解らないからこその二流三流なのだろうが。

 

『恨むなよ。

 恨むんだったらロレンスの妹に生まれてきた自分を……』

 

 ――瞬間!

 

 ずぶっ。

 

 MTのボディは、上から降ってきた何かによって、真っ二つに切り裂かれていた。

 爆発が起きない。ジェネレーターが無傷で残っている証拠である。

 

「兄様!」

 

「何ッ!?」

 

 全員が目を見張った。

 

 そこには、巨大な黒い巨人が立ちつくしていた。

 細身の全身像。

 砲身の長いライフル。

 背中に背負った特殊なミサイル。

 

 それは、一種異様な雰囲気を全身から放っていた。

 漆黒の鬼。

 噂に聞いたとおりの姿である。

 

 弧雷のロレンスが駆るAC……『アビス』。

 

 アビスが奔る。

 今だ戸惑っているMTに向かって。

 攻撃する暇すら与えない。

 ブレードの一撃で、MTのボディは両断される。

 

「りんふぁちゃ~ん、いまのうち~」

 

 エリィの言葉に、リンファは頷いた。

 

 

  *

 

 

[戦闘モード起動]

 

 無機質なコンピューター・ヴォイスが響く。

 シートの具合を確かめながら、リンファは二つ三つのボタンを押した。

 

 愛機『ペンユウ』のコックピットの中。

 まさか、バカンスに来た先で乗ることになるとは思いもよらなかったが。

 

 ようやく計器類が稼働し始めた。

 外部モニター、通信機、そしてレーダー……

 

「!?」

 

 リンファは息を飲んだ。

 レーダーには、赤い光点で反応が記されている。

 

 たった、一つだけ。

 

 慌ててリンファは操縦桿を倒した。

 ペンユウが保管されていた倉庫から、ゆっくりと歩み出る。

 外の風景が目に飛び込んできた。

 

 無数の残骸。

 まず目に付いたのはそれだった。

 累々と横たわる、無惨な姿のMT。

 あるものは真っ二つに切り裂かれ、またあるものは胴に風穴を開けられ……

 動いているものなど、いようはずもない。

 

 その中心に、一匹の鬼が佇んでいた。

 こちらに背中を向けていた鬼が、ゆっくりと振り返る。

 

 ぞくりっ。

 

 リンファは、冷たいものが背筋を駆け抜けていくのを感じた。

 恐怖と呼ぶべきか、或いは畏怖と呼ぶべきか……

 ともかく漆黒のACは、奇妙な重力にも似た威圧感を放っていた。

 

 目を離すことが……できない……

 

 やがて、レーダーの光点は二つに増えた。

 ヨシュアの駆る『ワームウッド』が、さっきの倉庫から姿を現す。

 そしてペンユウの隣に列んだ。

 

「手伝う暇も無かったみたいね」

 

 通信を開いてリンファは語りかけた。

 無視されるかとも思ったが、意外にも返事が返ってくる。

 

『……君たちは、ジーナに雇われたんだろう?

 真紅の華……そしてワームウッド』

 

 男性としてはやや高めの、澄んだ声である。

 イメージとはギャップがあるが、それでもこの威圧感は消えない。

 むしろ逆に恐ろしいほどである。

 ロレンスの声は、あたかも死者を弔う葬送曲のように聞こえた。

 

「ヨシュアさんっ! リンファさんっ!」

 

 ジーナが叫ぶ。

 いつの間にか、彼女とエリィはペンユウの足下までやってきていた。

 

 いや、やってきた、と言うには語弊があるようだ。

 エリィは必死に、ジーナをペンユウから引き離そうとしている。

 それもそのはず……もし戦闘が始まったら、あんな位置に居ては踏みつぶされかねない。

 

「やっつけて!

 あの人を……兄様をやっつけて下さいっ!」

 

「はぁ?」

 

 

 

つづく。




今回登場したAC

■アビス
機体名 アビス
パイロット ロレンス
HEAD HD-X1487
CORE XXA-SO
ARMS AN-K1
LEGS LN-2KZ-SP
BOOSTER B-VR-33
FCS QX-AF
GENERATOR GBG-10000
BACK UNIT R WM-P4001
BACK UNIT L RZT-333
ARM UNIT R WG-RF/E
ARM UNIT L LS-99-MOONLIGHT
OPTION SP-JAM, SP-M/AUTO, SP-CND-K, SP-AXL, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+, SP-ABS/Re
●COLOR
 NIGHT SHIFT/STANDARD
●備考
 カラス脚にEスナ月光。「最強のレイヴンつったらコレだろ」というコンセプトでした。
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