アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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07 最強レイヴンの家庭の事情

 

 

 

 意外な言葉に、リンファの顔が歪む。

 やっつけろ、って言ったって……

 

 リンファは前のアビスと、足下のジーナを交互に見つめた。

 どちらも動かない。

 ただ、ジーナの瞳は冗談を言っているような色ではなかった。

 

『ジーナ!

 もう、レイヴンになろうだなんていう馬鹿な考えは捨てるんだ!』

 

 ……………レイヴン?

 

 一同の目が点になった。

 

「嫌ですぅ!

 ジーナは、絶対レイヴンになりますぅ!

 兄様みたいな強いレイヴンになるんですぅ!」

 

『ジーナがレイヴンになったりしたら、お兄ちゃんは心配で夜も眠れないじゃないか!』

 

「それならお昼寝すればいいんですわぁ!

 なんて言われたってジーナは諦めないです!」

 

『どうしてお兄ちゃんの言うことが聞けないんだ!

 毎日一緒にお風呂に入っていたあの頃のジーナはどこへ行ったんだ!?』

 

「ジーナは、もうハイスクールの頃のジーナとは違うんですぅ!!」

 

 延々と続く二人の口論を、リンファは痙攣しながら聞いていた。

 だいだい……ハイスクール?

 それは問題があるんじゃないのか……

 

 しかし、今更何を言ったって二人の世界である。

 不毛な戦いを止める手段は、リンファにはない。

 

『……馬鹿馬鹿しい……つき合ってられるか』

 

 ヨシュアの声が電波を介して伝わってくる。

 同時にワームウッドが180度向きを変えた。

 どうやら、元の倉庫にACを戻すつもりらしい。

 

 気持ちは、わからないでもない。

 実際リンファも、彼の後に続こうと操縦桿を軽く倒した。

 

 と、口論が止んだ。

 ジーナが慌てた様子でワームウッドの前に立ちはだかる。

 両腕を大きく広げ、行く手を遮っているつもりなのだろうが……

 

「ヨシュアさん! お願いします、兄様を……!」

 

『いい加減にしろッ!』

 

 びくりっ。

 

 ジーナの体が小さく震えた。

 それほどの大音声。

 外部スピーカー越しにとはいえ、如何に大声で叫んでいるか。リンファですら、一瞬驚いてしまったほどだ。

 

『レイヴンになりたいんだろう。だったら何故俺達に頼る?

 自分の力で肉親一人説得できないような奴が、戦場に出たところで真っ先に死ぬのが精々だ!』

 

 ジーナは何も応えなかった。

 何も応えられなかった。

 その肩が震えている。

 遠目にもはっきりと判った。

 彼女が、涙を必死で堪えているのが。

 

 リンファはため息を付いた。

 どうやら、今回の任務は失敗のようである。

 

『貴様ッ……!』

 

『あ?』

 

 突然、ロレンスの口調が変わった。

 

 声の高さは相変わらずだが、そこに込められた感情は全く違う。

 怒り。

 恐ろしいまでの怒りが、空気の震えという形を取って撒き散らされた。

 

『よくも……よくもジーナを泣かせたなッ!!』

 

 まて、こら。

 

 リンファは思わず、頭をコントロールパネルにぶつけた。

 そのまま肩をひくひくと震わる……

 もうここまで来たら、笑う以外にどうしろというのだ。

 

『許さんッ!』

 

『お……おいっ! ちょっと待……』

 

 有無を言わせずアビスが走る……

 速い!

 さすがは軽量二足タイプ、といったところか。

 直線上を真っ直ぐ走るだけなら、ヨシュアのワームウッドを越えているかもしれない。

 もっとも、総合的な機動性ではワームウッドに分があるのだが。

 

 アビスの肩に装着されたミサイルが火を噴いた。

 同時に二発、左右から挟み込むようにワームウッドに迫る!

 

 ――まずい!

 

 これは笑い事ではなさそうだ。

 ただ単に回避するだけなら、ヨシュアの実力をもってすれば容易いことだ。

 しかし今、ワームウッドの足下にはジーナとエリィがいる!

 

『畜生、トチ狂いやがって!

 自分の妹を殺す気かッ!』

 

 やはりワームウッドは動かない。

 ガトリングガンの掃射一発は撃ち落としたが、もう一方は……

 

 ガガガガガッ!

 

 視界の外から飛来した無数の弾丸が、ミサイルの片方を撃ち落とした。

 これは……ペンユウの装備したマシンガン!

 

「ロレンス! あんたどうかしてるわ!」

 

『……なるほど……確かに、そうかも知れない』

 

 戻った。

 ロレンスの声は、元の冷たく恐ろしい、しかし理性に溢れたものへと戻っていた。

 どうやらさっきは、怒りのあまり一瞬我を忘れてしまっただけらしい。

 

 もっとも、理性を失う理由が「妹を泣かせた」というだけのことであるのは問題だが。

 

『ジーナ。しばらく離れていなさい』

 

 ジーナは顔を上げた。

 頬を伝っていた涙を手のひらでぬぐい去る。

 

『レイヴンというものがどういう仕事なのか、教えてやろう』

 

 

  *

 

 

 ゴウッ!

 

 アビスの背後から、灼熱の炎がほとばしる。

 ブースターの出力そのものはペンユウより劣るが、機体が軽量な分だけ負荷が小さく済む。

 ACとしては、理想的なコンディションである。

 

 真っ直ぐペンユウに迫ってくるコース。

 ジーナが離れるまでは、ワームウッドには手を出さないということか。

 

 ――ええい、このシスコンめ!

 

 心の中で悪態をつきながら、リンファは操縦桿を思いっきりなぎ倒した。

 ブースターの力で地面を滑り、アビスの側面に回り込む。

 

 奴の装備しているレーザーライフルは、威力が高い代わりに極端に扱いづらいものだ。

 大きすぎる出力が災いして、発射するたび銃身を冷却しなければならないし、たとえ冷却を続けたとしても10発も撃てばオーバーヒートを起こしてしまう。

 

 ならば、狙いはそこだ。

 回避に専念して、長期戦にもつれ込ませる。

 

 ロレンスの方も、自分の機体の弱点は心得ているらしい。

 ライフルを撃とうとはせず、肩のミサイルを発射する。

 例の左右から挟み込むデュアルミサイルだが……

 たった二発のミサイルなど、リンファにとっては子供だましにも等しい!

 

「相手をなめてかかりすぎよ、ミスター・チャンプ!」

 

 ガガッ!

 

 たったの二発だけ、リンファはマシンガンの弾丸をばらまいた。

 二発で十分。

 ミサイルそれぞれに一発ずつ徹甲弾が食い込み、中空で爆発を引き起こす。

 弾の無駄遣いは御免である。

 

 しかし、次の瞬間!

 

『そうかな?

 丁度良い位だと思ったが』

 

「……ッ!?」

 

 ミサイルに気を取られている隙に、アビスはペンユウの懐に飛び込んでいた。

 想像以上に素早い。

 近づかれたことに、全く気付かないとは。

 

 そして、アビスの左腕が輝く。

 

 リンファは慌ててスイッチを押した。

 ペンユウの腕からも光の刃が生み出される。

 二つの光は、互いに交わり、騒音と光と衝撃を撒き散らして弾け飛んだ。

 

 ペンユウの足が地面を蹴る。

 衝撃を逆に利用して、アビスとの間合いを離した。

 

『成程、いい動きだな。

 斬り結びばかりに凝り固まる連中はよく見るが、なかなかそこまでは動けない』

 

「訂正よ。ミスター・テューター!」

 

 ペンユウのマシンガンから、小さな弾丸が弾け飛ぶ。

 セオリーに則った、左から右への掃射。

 

 アビスが宙へ舞い上がる。

 弾丸がその足下を過ぎ去るのと同時に、ライフルの銃口がペンユウをとらえた。

 

 ガクンッ!

 

 突如空中で方向を変え、アビスの巨体が地面へ落ちる。

 その頭上をかすめるプラズマの砲弾。

 これは、ワームウッドの肩に装備されたレーザーキャノンである。

 

『お姫様は蚊帳の外だ!』

 

 ワームウッドが地を滑りながらガトリングガンを乱射する。

 しかし、奇襲でもなければ当たりもしない。

 軽い弧を描きながら飛んでいった弾丸は、空港のビーコン塔らしきものを砕くにとどまった。

 

『……やっちまった』

 

「器物破損、1ペナね」

 

 二発のミサイル。

 アビスの肩からそれが飛び出す。

 狙いはペンユウ。

 

 大地を蹴り、ブースターの助けを借りて飛び上がる。

 ミサイルが滑走路のコンクリートに穴を穿った。

 

 リンファの指が踊る。

 黒い鬼をサイトにとらえ、ロックしていく。

 

 ……と、ロックが二つになったところで、アビスが横へ飛び退いた。

 このままでは、フルロックの前にサイトからはずれる!

 

 ガガガッ!

 

 ガトリングガンの弾丸がアビスの行く手を阻む。

 ロックは……乱されていない。

 さすがはヨシュア、完璧なフォローである。

 よくミサイルを複数ロックオンしていることに気付いたものだ。

 

『それが貯まると何かあるのか?』

 

「請求書って素敵なプレゼントよ!」

 

 

 

つづく。

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