アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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08 圧倒

 

 

 

 トリガーを引く!

 

 肩のミサイルポッドから垂直に打ち上げられる四発のミサイル。

 ヒュルヒュルと音を立て、まるで蜘蛛の糸のように黒鬼を絡め取る!

 

 慌てるそぶりも見せず、アビスは真後ろへ飛んだ。

 そして再び足が地面につくなり、今度は直角に向きを変え、左へ逃げる。

 

 ミサイルはその軌道を追うようにして大地を抉った。

 ただの一発も当たりはしない。

 

『Excellente』

 

 ロレンスの声は、だんだんと上擦ってきていた。

 興奮しているのだ。

 久しく無かった、戦いの緊張感に。

 

 忘れかけていたこの素敵な感覚を思い出させてくれる……

 体がむずむずする。

 そうだ、自分は失礼なことをしているのだ。

 とても、とても。

 

『素晴らしい攻撃だ。随分と息が合っているな』

 

『なんだかんだ言って、付き合いが長いからなァ』

 

「腐れ縁だけどね」

 

 大地に降り立ったペンユウは、ワームウッドと少し距離を置いて並んだ。

 

 黒鬼は動かない。

 じっと、こちらを見つめている。

 ふつふつとわき上がる、何かの感情が伝わってきた。

 

 いや、見えると言った方がいいかもしれない。

 まるで大気の質が変わったかのように、アビスの周囲には陽炎が立ち上っていた。

 

『すまなかった、真紅の華。

 やはり私は、君達を甘く見ていたようだ』

 

 ぞくり。

 突然の悪寒がリンファの背を襲った。

 

 何だ、この感覚は。

 こんなに距離が離れているのに、相手は武器を構えてすらいないのに、まるで喉元に牙を突きつけられたようではないか。

 そう、あと一押しすれば喉笛をかっ斬られる。

 そんな張りつめた空気だ。

 

 自然と冷や汗が玉を作った。

 

『戦おう。全力を以て』

 

 ―― ――

 

「消えたっ!?」

 

 ない!

 つい今まで、目の前でしっかりと存在していたアビスの姿が、今や何処にもない!

 ほんの一瞬、瞬きよりも短い一瞬のうちに、黒鬼は何処かへと消え失せていた!

 

『後ろだ、リンファ!』

 

 早かったのは、叫びか腕か。

 ペンユウは横へ飛んだ。

 後ろを確認する暇など、有ろうはずもない。

 

 光が装甲板をかすめて過ぎる。

 背後からの、いつのまにか背後に回り込んだアビスからの射撃である!

 

「こンの野郎ッ!」

 

 ペンユウが振り向こうとした、次の瞬間。

 

 ヴァシュッ!!

 

 ペンユウの右腕は、間接部を貫いたレーザーによって斬り落とされていた。

 正面に回り込んだ、アビスのレーザーライフルである。

 

 

  *

 

 

 なんてことだ。

 

 ヨシュアは爪を噛んだ。

 彼の癖だ。

 しかし、普段は滅多に見せることのない癖。

 

 一瞬だった。

 一瞬で、ペンユウは右腕ごとマシンガンをもぎ取られた。

 

 まだミサイルが残っているとはいえ、あんな機体で活動するのは自殺行為に近い。

 重量や電力供給のバランスが崩れるのがどれほど危険なことか。

 知らないレイヴンはいないだろう。

 

 案の定、バランスを失ってペンユウの巨体が倒れ込む。

 ガラガラと、不快な音が響き渡った。

 

 そして、アビスが振り向く。

 ワームウッドの方に。

 ゆっくりと、緩慢な動きで。

 

 汗が噴き出す。

 なんてことだ。ヨシュアはもう一度思った。

 圧倒的じゃないか。

 これが、これが全力を出した弧雷だというのか。

 

『知っているか。

 兵は神速を尊ぶ、という』

 

 落ち着き払ったロレンスの声が聞こえてくる。

 

 冷静になっている。

 さっきまで、あんなに興奮していたというのに。

 これが最強の風格か……

 ただ自分の感情に流されるのではない。

 必要なときには、機械のような冷酷さを一瞬で取り戻すことができる。

 

『雷は、閃光と共に現れ、閃光と共に消える。

 それは私と同じ。

 それ故、わたしはこう呼ばれている。弧雷、と』

 

「知ってるよッ!」

 

 ヨシュアはトリガーを引いた。

 ガトリングガンの弾丸が研ぎ澄まされた槍のごとくアビスに迫る。

 普通なら、横に飛んで逃げるべき状況である。

 

 ―― ――

 

 まただ!

 アビスの姿が掻き消えた。

 弾丸が空しく虚空を割いていく。

 

 だが、奴が現れるのはおそらく――

 

 ヨシュアは真後ろの光景をモニターに映した。

 そこに、突如姿を現す黒鬼。

 

 ――そういうことか!

 

 アビスがライフルを構えている。

 ワームウッドは迷うことなく真上に飛んだ。

 光の矢が足下を通り過ぎていくのがわかる。

 

『……気付いたか』

 

「俺は、リンファよりは目がいいんでね!」

 

 アビスは、何もワープだの何だのという漫画じみた技を使っていたわけではない。

 ただ単純に、こちらの頭上を飛び越えて後ろに回っていただけなのである。

 

 しかし、その飛び越え方が尋常ではない。

 機体の向きは変えずに上昇し、相手の頭上を飛び越えたらブースターをカットして自然落下する、というのが普通である。

 それをアビスは、上昇と下降の両方にブースターをフル活用していたのだ。

 

 つまり、こちらを正面にとらえたまま、半円を描くように飛んだのだ。

 そのまま進めば、もちろん頭から着地するはめになる。

 だから着地の一瞬前に、機体を横に回転させて上下を反転させたのである。

 

 そんな無茶な動きをした時の、パイロットにかかる慣性力がどれほどのものか。

 常人なら一回で失神してしまうだろう。

 

 だから、ヨシュアは上空へ飛び上がったのだ。

 これなら上から回り込まれることはなくなる。

 

『ならば、共に舞うか!

 この澱んだ空を!』

 

 ヴァンッ!

 

 アビスがブースターを噴かして飛び上がる!

 ワームウッドを飛び越え、更に上空へと。

 

「空中戦かよ!」

 

 真上から降ってくる二発のミサイル。

 

 ワームウッドの巨体がくるりと回転した。

 真上を正面にとらえ、ガトリングガンを掃射する。

 

 一つ。二つ。

 巻き起こる爆発。

 

 アビスはそれをかわすと、真上にブースターを噴かして一気に下降した。

 重力も手伝って、恐ろしいまでのスピードで迫ってくる。

 左腕の煌めき。

 レーザーブレード!

 

 ワームウッドの貧弱なブースターが懸命に火を噴いた。

 光の刃を寸前でかわす。

 しかし、アビスの勢いは止まらない。

 必死に機体を回転させ、落下スピードは押さえ込んだが、既にワームウッドの下まで落ちてしまっていた。

 

「じっとしていろッ!!」

 

 ガゴンッ!

 

 ワームウッドが、アビスに上から組み付いた!

 そのままブースターを噴かす。上に向かって。

 二機は絡まりながら猛スピードで落下していく!

 

 ――おまけだっ!

 

 ヨシュアはトリガーを引いた。

 ガトリングガンの弾丸が、ライフルごとアビスの右腕を吹き飛ばした!

 

 あとはこのまま落ちていけば……

 アビスのボディがクッションになって、運が良ければ生き残れるだろうよ!

 

「おおおおおおっ!!」

 

『ぬうううううっ!!』

 

 アビスの声。

 驚愕。

 冷や汗。

 ヨシュアは目を見張った。

 

 

  *

 

 

 轟音と砂煙を巻き上げ、二機は墜落した。

 

 ヨシュア!

 リンファは心の中で叫んだ。

 

 最後の一瞬で、ワームウッドとアビスの上下が逆転した。

 ロレンスの巧みな機体操作によって。

 

 クッションにされたのは……ワームウッドの方だ。

 

『う……』

 

 雑音が混じりながらも、通信が入った。

 ヨシュアのうめき。

 よかった、生きている。

 

 しかし次の瞬間、リンファは我が目を疑った。

 

 砂煙が収まる。

 立ち上がる黒い影。

 右腕がない。漆黒の鬼。アビス。

 

 そしてその足下に転がる、青い蜘蛛。

 四本の足のうち、二本を失った……ワームウッド。

 

 破れた。

 あの、ヨシュアが。

 

「く……」

 

 リンファはいくつものレバーを必死に動かした。

 ペンユウに残された左腕を支えにして、なんとか立ち上がらせる。

 バランスが崩れているせいだ。

 機体がふらふらしてしかたがない。

 

 でも……でも、こうするしか!

 

「こンの野郎ォォォォォォ!!」

 

 ペンユウが走る。

 アビスに向かって。

 

 

 

 

つづく。

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