アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
ヨシュアはまず自分の傷を確認した。
幸いにも、頭をぶつけた程度で済んだようだ。
もし最後の瞬間、上を取られたと気付いた瞬間にブースターで速度を殺していなければ、そして折れ飛んだ二本の足がアブソーバーになっていなければ、今自分は息をしていないかもしれなかった。
『こンの野郎ォォォォォォ!!』
これは!?
ヨシュアの耳にリンファの叫びが届いた。
モニターの機能はまだ生き残っている。
映像が映る。
走ってくる、ペンユウ。
左腕からはレーザーブレードが伸びている。
まさか。
この状態で、アビスに攻撃するつもりか!!
「止めろ、リンファ!」
止まらない。
このままでは……
ヨシュアは決意した。
そして、指をトリガーにかけた。
*
ゴガァァアァアッ!
レーザーキャノンの弾丸が、足を吹き飛ばした。
ペンユウの、足を。
完全に支えを失い、再びペンユウは倒れ込んだ。
リンファは唇を噛んだ。
わかっている。
ヨシュアがどうして、自分に攻撃したのか。
そんなことはわかっている。
だから怒りなんて浮かんでは来ない。
ただ自分の中にある感情、それは――
『もういい……やめろ……』
ヨシュアの声は優しかった。
そして苦しそうだった。
自分と一緒だ。ヨシュアも、きっと自分と同じ気持ちだ。
それは嬉しくもあり、そして悲しくもあった。
『俺達の――負けだ』
*
ロレンスとジーナは、手を伸ばせば届くくらいの距離で向かい合った。
互いに互いの瞳を見つめ合う。
横で見ているリンファもヨシュアもエリィも、二人の心を推し量ることはできなかった。
ぱしっ。
小さな音。リンファは息を飲んだ。
ジーナが自分の頬を押さえる。
兄によって撲たれた頬を。
「痛いだろう。悔しいだろう」
ロレンスの声は、いつもの高く澄んだものに戻っていた。
さっきまでの鬼のような低音は、ここからは一欠片も伺い知れなかった。
「負けるということは、その気持ちを味わうということだ。
勝つということは、その気持ちを誰かに与えるということだ。
それがわかっているのなら」
ロレンスは踵を返して歩き出した。
彼の愛機、アビスに向かって。
その背に浮かんでいるのは、罪悪か。
「好きにするといい」
*
「いらっしゃい……ああ、あんたか」
ダウンタウンにあるちっぽけなバーのマスターは、入り口の鐘をならした男に目を遣った。
短い金髪と、華奢な体。
まったく、妹とよく似ている。
ロレンスその人だった。
「いつもの」
「あいよ」
冷蔵庫から瓶を引っ張り出してくると、中に入っていたオレンジ色の液体をグラスに注ぐ。
酒ではない。
ただのオレンジジュースである。
兄妹そろって酒を飲まないのだから、マスターにとってみればなんとも儲けの少ない常連である。
「ジーナ、泣いてたぜ」
「……そうか」
ロレンスはグラスの中身を一気に飲み干した。
ことんと小さな音がして、カウンターにグラスが触れる。
マスターはその隣に、もう一つ空のグラスを置いた。
顔を上げ、マスターの顔をのぞきこむ。
「たまには、どうだい? カンパリのいいのが入ってるぜ」
苦笑が漏れる。
「ああ……もらうよ」
*
今日も、太陽が照りつける。
ホテルのロビーは今日もにぎわっている。
一週間の休暇も、今日で最後だ。
帰る前に一泳ぎしようと、今日も今日とてリンファ達は水着に着替えていた。
リンファと、エリィ。
そして何故かジーナの姿もある。
相変わらずのヨシュアは、ただの見送りである。
「リンファ姉さまぁ……あたし、姉さまがいないと寂しいですぅ」
「いつからあたしはあんたの姉になった……」
ジーナは、姉と呼んで慕うリンファの腕に、しっかりとしがみついていた。
前から少し思っていたのだが……リンファは、男より女に好かれるタイプなのではないだろうか。
そのリンファが、部屋へ帰ろうとするヨシュアの背に声をかけた。
「ねえ、ほんとに泳がなくていいの?
せっかくここまで来たってのに」
「そうだぉ~! もったいないぞぉ~!」
ヨシュアは振り返った。
飛行機の中で機械を指さしたのと同じように、リンファの鼻先に人差し指をつきつける。
そして、忌々しげに吐き捨てた。
「赤くなるんだよ。日焼けすると」
THE END.
次回予告
J「どんなものにも始まりがあり、そして終わりがある。
永遠に続く肉体はない。
永遠に続く心もな。
それは辛くて悲しいことかもしれない――
だが、忘れるな。
それは同時に、どんな苦しみだっていつか思い出に換えられるということなんだ。
早いもので、「アーマードコアEX」も残すところあと2回だ。
動き始めた因縁。
残された者たちの過去の清算。
ついに頭をもたげる、最大の敵――
正直、生きて帰れるって自信はない。
……ま、俺たちの闘いを、最後までよっく見といてくれよ。
次回、
『ブルーグラス・メモリーズ』
それでは、また」