アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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09 勝利の苦味

 

 

 

 ヨシュアはまず自分の傷を確認した。

 幸いにも、頭をぶつけた程度で済んだようだ。

 もし最後の瞬間、上を取られたと気付いた瞬間にブースターで速度を殺していなければ、そして折れ飛んだ二本の足がアブソーバーになっていなければ、今自分は息をしていないかもしれなかった。

 

『こンの野郎ォォォォォォ!!』

 

 これは!?

 

 ヨシュアの耳にリンファの叫びが届いた。

 モニターの機能はまだ生き残っている。

 映像が映る。

 

 走ってくる、ペンユウ。

 左腕からはレーザーブレードが伸びている。

 まさか。

 この状態で、アビスに攻撃するつもりか!!

 

「止めろ、リンファ!」

 

 止まらない。

 このままでは……

 

 ヨシュアは決意した。

 そして、指をトリガーにかけた。

 

 

  *

 

 

 ゴガァァアァアッ!

 

 レーザーキャノンの弾丸が、足を吹き飛ばした。

 

 ペンユウの、足を。

 完全に支えを失い、再びペンユウは倒れ込んだ。

 

 リンファは唇を噛んだ。

 わかっている。

 ヨシュアがどうして、自分に攻撃したのか。

 そんなことはわかっている。

 

 だから怒りなんて浮かんでは来ない。

 ただ自分の中にある感情、それは――

 

『もういい……やめろ……』

 

 ヨシュアの声は優しかった。

 そして苦しそうだった。

 自分と一緒だ。ヨシュアも、きっと自分と同じ気持ちだ。

 それは嬉しくもあり、そして悲しくもあった。

 

『俺達の――負けだ』

 

 

  *

 

 

 ロレンスとジーナは、手を伸ばせば届くくらいの距離で向かい合った。

 互いに互いの瞳を見つめ合う。

 横で見ているリンファもヨシュアもエリィも、二人の心を推し量ることはできなかった。

 

 ぱしっ。

 

 小さな音。リンファは息を飲んだ。

 

 ジーナが自分の頬を押さえる。

 兄によって撲たれた頬を。

 

「痛いだろう。悔しいだろう」

 

 ロレンスの声は、いつもの高く澄んだものに戻っていた。

 さっきまでの鬼のような低音は、ここからは一欠片も伺い知れなかった。

 

「負けるということは、その気持ちを味わうということだ。

 勝つということは、その気持ちを誰かに与えるということだ。

 それがわかっているのなら」

 

 ロレンスは踵を返して歩き出した。

 彼の愛機、アビスに向かって。

 その背に浮かんでいるのは、罪悪か。

 

「好きにするといい」

 

 

  *

 

 

「いらっしゃい……ああ、あんたか」

 

 ダウンタウンにあるちっぽけなバーのマスターは、入り口の鐘をならした男に目を遣った。

 

 短い金髪と、華奢な体。

 まったく、妹とよく似ている。

 ロレンスその人だった。

 

「いつもの」

 

「あいよ」

 

 冷蔵庫から瓶を引っ張り出してくると、中に入っていたオレンジ色の液体をグラスに注ぐ。

 酒ではない。

 ただのオレンジジュースである。

 兄妹そろって酒を飲まないのだから、マスターにとってみればなんとも儲けの少ない常連である。

 

「ジーナ、泣いてたぜ」

 

「……そうか」

 

 ロレンスはグラスの中身を一気に飲み干した。

 ことんと小さな音がして、カウンターにグラスが触れる。

 

 マスターはその隣に、もう一つ空のグラスを置いた。

 顔を上げ、マスターの顔をのぞきこむ。

 

「たまには、どうだい? カンパリのいいのが入ってるぜ」

 

 苦笑が漏れる。

 

「ああ……もらうよ」

 

 

  *

 

 

 今日も、太陽が照りつける。

 ホテルのロビーは今日もにぎわっている。

 

 一週間の休暇も、今日で最後だ。

 帰る前に一泳ぎしようと、今日も今日とてリンファ達は水着に着替えていた。

 リンファと、エリィ。

 そして何故かジーナの姿もある。

 相変わらずのヨシュアは、ただの見送りである。

 

「リンファ姉さまぁ……あたし、姉さまがいないと寂しいですぅ」

 

「いつからあたしはあんたの姉になった……」

 

 ジーナは、姉と呼んで慕うリンファの腕に、しっかりとしがみついていた。

 前から少し思っていたのだが……リンファは、男より女に好かれるタイプなのではないだろうか。

 

 そのリンファが、部屋へ帰ろうとするヨシュアの背に声をかけた。

 

「ねえ、ほんとに泳がなくていいの?

 せっかくここまで来たってのに」

 

「そうだぉ~! もったいないぞぉ~!」

 

 ヨシュアは振り返った。

 飛行機の中で機械を指さしたのと同じように、リンファの鼻先に人差し指をつきつける。

 

 そして、忌々しげに吐き捨てた。

 

「赤くなるんだよ。日焼けすると」

 

 

 

THE END.




次回予告


J「どんなものにも始まりがあり、そして終わりがある。

 永遠に続く肉体はない。
 永遠に続く心もな。

 それは辛くて悲しいことかもしれない――

 だが、忘れるな。
 それは同時に、どんな苦しみだっていつか思い出に換えられるということなんだ。

 早いもので、「アーマードコアEX」も残すところあと2回だ。

 動き始めた因縁。
 残された者たちの過去の清算。
 ついに頭をもたげる、最大の敵――

 正直、生きて帰れるって自信はない。
 ……ま、俺たちの闘いを、最後までよっく見といてくれよ。

 次回、

アーマードコアEX 第9話
『ブルーグラス・メモリーズ』


 それでは、また」
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