アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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07 一蹴

 

 

 

 

[AC急速接近中。登録情報なし]

 

 レーザーキャノンを撃とうとしていたヨシュアは、コンピューターの報告に指を止めた。

 

 なるほど。

 自社製ACのお出ましか。

 これまでに数十体のMTを破壊したが、まだ本命を残していたというわけか。

 

 だが、今は暇がない。

 そうだな。

 彼は腕時計に目を遣った。

 長針が丁度「5」の所を指している。

 ならば、この針が隣の目盛りにたどり着く前に、かたをつける。

 

 レーダーによると、敵の位置は……真下。

 モニターを下に向ける。

 

 青く輝く2足ACだ。

 見たこともない型。

 自社規格を持っているとは、さすがは天下の大企業である。

 

 そいつは……イミタティオーンは、こちらを見上げているようだった。

 

 ヴンッ!!

 

 ブースターを一気に吹かし、イミタティオーンが上昇する。

 ワームウッドのいるビルの屋上を通り抜け、はるか上空まで昇りきる。

 

 奴の武装は、右腕のライフル、右肩のミサイルポッド、そして左肩には……全く見たことのない兵器。

 一見すると大口径のキャノン砲のようにも見えるが、そのわりにはチェーン機構らしきものも見受けられる。

 

 イミタティオーンが、その謎の兵器を構える。

 空中で撃とうというのか。

 だとすれば、あのキャノンらしきものはそうとう低反動の代物ということになる。

 

 連続した発射音。

 砲弾が雨霰と降り注ぐ。

 これは……おそらく、弾丸自体が推進力を持つジェットチェーンキャノン。

 随分と変わったものを使っている。

 さすがは自社規格、といったところか。

 

 だが。

 ワームウッドが屋根の上を滑る。

 当たらなければ、何の意味もない。

 砲弾はただ、隣の不幸なビルを砕くだけに終わった。

 

 

  *

 

 

 何十発撃っても、ただの一発もかすらない。

 何故だ。

 ノーカーは焦っていた。

 これほどの火力を以てして、なぜしとめられない。

 

 武器をミサイルに切り替える。

 十数発のミサイルが、箱の中から飛び出していく。

 追尾性能も高い。

 これが当たらないはずがない。

 

 巻き起こる爆風。

 ワームウッドはその中に完全に巻き込まれていた。

 そうだ。

 こうでなければいけない。

 こうでなければ――

 

 ノーカーは絶句した。

 

 爆炎を切り裂き、飛び上がってくる一体の青い蜘蛛。

 無傷の、敵のAC。

 真っ直ぐに、イミタティオーンの方へ迫ってくる。

 

 ノーカーは身構えた。

 しかし奴は撃とうとしない。

 ただ上昇し、すれ違う。

 

『残念だったな』

 

 ――これは!?

 

 ガクンッ。

 

 イミタティオーンの機体が揺らいだ。

 原因は、たった一発の弾丸。

 ワームウッドのガトリングガンから飛び出した弾丸。

 それが、イミタティオーンのブースターを貫いていた。

 

 

  *

 

 

 ズ……ン……

 

 巨体を支える術を失ったイミタティオーンは、ただ無為に大地へと落下した。

 

 衝撃。

 アブソーバーだけでは、とても耐えきれなかった。

 コックピット内部の隔壁がいたるところで破れ、避けた金属の破片が体を貫く。

 

 ノーカーは血を吐いた。

 

 不思議と恐怖はなかった。

 最後に聞いたレイヴンの言葉。

 その声。

 聞いたことがある声だった。

 

 同じだったのだ。

 アシャンタと。

 もちろん、声の質や高さは全く異なる。

 それでも、そこに潜む響きや色は、まぎれもなくアシャンタのそれだった。

 

 彼は理解した。

 アシャンタはあのレイヴンを待っていたのだ。

 ネーベル・テヒニケンを乗っ取ることでも何でもない。

 アシャンタの目的は、あのレイヴンと会うことだったのだ。

 

 まんまと、利用された。

 このわたしが。

 

 これでネーベル・テヒニケンは終わりだ。

 そして終わらせたのはわたしだ。

 これこそ、お笑い種だな。

 我が社のため、ネーベル・テヒニケンのためと、ひたすら苦労を積み重ねてきたというのに。

 

 オブリッチ。

 薄れゆく痛みと意識の中、ノーカーは親友に向かって呟いた。

 

 やはりお前は、死ぬのが早すぎたよ――

 

 

  *

 

 

 ワームウッドはそのままネーベル・テヒニケン本社ビルの屋上に着地した。

 レーザーキャノンを構える。

 真下に向かって。

 

 閃光が走り、爆発が起こった。

 床……つまりはビルの天井に、大穴が開く。

 

 ヨシュアは二・三のスイッチを操作した。

 ACのコアに付けられたハッチが開く。

 

 ワイヤーづたいにワームウッドから降りると、彼は自分が開けた穴へ向かった。

 下は広い部屋になっているようだ。

 手持ちのワイヤーユニットの端を手近な構造材のなれの果てに縛り付け、穴に飛び込む。

 細さのわりに人間一人くらいなら平気で支えてしまうワイヤー。

 侵入するには欠かせない道具である。

 

 すとん。

 靴音を響かせ、最上階の床に着地する。

 

 ここはオペレーションルームか。

 人っ子一人いない。

 恐れをなして逃げ出したか。

 そのほうが都合がいい。

 

 部屋の端にエレベーターを見つけ、スイッチを押す。

 動力はまだ生きている。

 扉が開く。

 無人の室内に入り込むと、ヨシュアは一つ下の階を指定した。

 

 拳銃を構える。

 おそらくドアが開いた瞬間に砲撃がくるはずだ。

 

 小さな音がして、ドアが開いていく。

 間髪入れず引き金を引く。

 数発の銃声。

 空しく虚空を裂く銃弾。

 

 誰もいない。

 その代わり、廊下には無数の死体が転がっていた。

 いずれもダークスーツに身を包み、サブマシンガンや拳銃で武装している。

 

 どういうことだ。

 俺以外の誰かが侵入したとでもいうのか。

 

 まあいい。

 こっちの仕事が楽になるというものだ。

 

 ヨシュアは走った。

 内部の構造は大体調べてある。

 最初の角を右へ。

 次の角を左へ。

 T字路を左へ曲がると、一枚の豪勢なドアが目に入った。

 ドアの上にかかったプレート。

『社長室』。

 

 ヨシュアはドアを蹴り開け、中に飛び込んだ。

 

 

  *

 

 

「あらぁ。母さんったらまたやっちゃったわぁ」

 

 今日何度目かの台詞を、シャオシュエは口にした。

 その足下には、投げ飛ばされ、首の骨をへし折られたダークスーツの男。

 手にはしっかりとサブマシンガンを持っている。

 

 そのとなりで、リンファは小さく息を付いた。

 

 一通り邪魔者は片づけたようである。

 ネーベル・テヒニケン本社ビルの内部は、これでほぼ制圧した。

 それにたった今、ヨシュアも社長室に入っていったところである。

 もう、彼女にできることは残されていない。

 

「これで、わたしたちにできることは終わりですね」

 

 父親が言う。

 確かにそうだ。

 ヘイフォンの言うとおり、これ以上ヨシュアを助けることはできない。

 ここから先は、彼の自分自身との戦いなのだから。

 ヘイフォンにも、シャオシュエにも助けることはできない。

 

 しかしリンファは――

 

 うつむいたままのリンファに気付いて、シャオシュエは夫の肩を叩いた。

 にっこりと微笑んで優しく呟く。

 

「お父さん、帰りましょ。

 リンファちゃんにはまだやることがあるもの」

 

「え? しかし……」

 

 リンファは顔をあげ、母親を見つめた。

 

 それでいいのだろうか。

 自分に何かできるのだろうか。

 ヨシュアはもう、遠いところへ行ってしまったのではないのだろうか。

 

 母親は、どんなときでも母親だった。

 リンファはまだ子供だ。

 知らないことが山ほどある。

 母親だって、それは同じ。

 知らないことはいくらでもある。

 

 でも、一つだけできることがある。

 それは、考えることだ。

 

「大丈夫よ、リンファちゃん」

 

 母の言葉は優しかった。

 

「男の子は、みんな寂しがり屋さんなんだから」

 

 

 

つづく。

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