アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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02 襲撃

 

 

 

 

 ヴゥ……ン……

 

 低いうなり声を上げて電気自動車が停止する。

 小型のトラック。

 コンテナには大きくツバメのロゴマークが描かれている。

 

 シュヴァルベ運輸といえば、宅配便の業界では指折りの企業である。

「どんな場所へでも荷物を届ける」というのがモットーで、金さえ払えば戦地へ補給物資を運搬することも厭わない。

 それ専用に何人かのレイヴンと専属契約しているという噂もある。

 

 今回の運搬先はスラムの一角である。

 かの有名な女レイヴンが住んでいるという倉庫だ。

 

 トラックから制服姿の男が降りてきた。

 例によってツバメのロゴが描かれた帽子を深々とかぶっている。

 コンテナの扉を開き、中から小さな段ボール箱を一つ取り出した。

 

 そのまま男は近くの倉庫へ向かった。

 入り口は二つ。

 大きなシャッターと、小さなドアである。

 迷わず男はドアをノックした。軽い音が湿ったスラムに響き渡る。

 

 帽子に隠れた彼の口が、にいっと吊り上がった。

 

 

  *

 

 

 こんっ。こんっ。

 

 いきなり聞こえてきたノックの音に、リンファは顔を上げた。

 珍しいこともあるものだ。

 この倉庫にやってくる客には、ノックをするような礼儀正しい奴は滅多にいない。

 みんなしてドアを蹴り開けるのである。

 立て付けが悪くてそうしないと開かないのだから文句は言えないが。

 

「お客さん……ですか?」

 

 ヘイフォンがふらふらと起きあがった。

 顔が青白い。

 まだ後遺症が残っているようである。

 しきりに感想を求めるシャオシュエに、彼がしてやれたのは目を伏せて「美味しかった」と言ってやることだけだった。

 もちろん、精一杯声の震えを抑えて。

 

「シュヴァルベ運輸です。

 お届け物にあがりましたぁ」

 

「あ、は~い」

 

 跳ねるように席を立ち、エリィはドアへ向かった。

 

 あいつめ。

 上手く逃げやがったな。

 

 宅配便を利用して、なんとかシャオシュエの料理のことをうやむやに済ませるつもりなのだろう。

 そうなってくれれば、リンファにとっても有難いことだが。

 

 エリィはドアノブをひねると、横の壁を蹴りつけた。

 衝撃でドアが勢いよく開く。

 外から開けるのは簡単なのだが、内側からだといろいろテクニックが必要なのである。

 

 外に立っていた男が、多少面くらいながらも微笑んだ。

 見事な営業スマイルだ。

 ああいうサービス業では、微笑み方のマニュアルまであるらしい。

 気苦労の絶えない商売である。

 

 ともかく、男はマニュアル通りに小さな段ボール箱をエリィに手渡した。

 

 一体何が入っているのだろうか。

 手のひらに載せるにはちょっと大きすぎる、というくらいの箱である。

 意外と軽い。

 

 いきなりエリィは箱を振り回した。

 音はしない。

 しっかりと梱包されているせいだろうか……それにしても乱暴な扱いである。

 

「受取証にサインをお願いします」

 

「は~い」

 

 男はそういうと、懐に手を入れた。

 ごそごそと何かを捜す。おそらくペンか何かだろう。

 エリィは荷物を近くのスクラップの上に置いて、再び男に視線を戻――

 

「!?」

 

 ダンッ!!

 

 銃声が倉庫の中に響き渡る!

 

 男が取り出した拳銃は、エリィの足を狙って弾丸を吐き出した。

 血が飛び散る。

 苦悶の叫びをあげてエリィは倒れ込んだ。

 脂汗を浮かべながら太股を押さえている。

 

「なッ……!」

 

「おおっと、動くなよ。

 動くとこの綺麗な顔が吹き飛ぶぜ」

 

 ついさっきまでの見事な笑顔はどこへ行ってしまったのか。

 男の顔は見る影もなく汚れ果てていた。

 欲望と慢心に取り憑かれたものの醜い素顔だ。

 

 しかし。

 リンファは奥歯を噛んだ。

 いくら心の中で罵ろうと、エリィを助けられなければどうしようもない。

 

「タオ=リンファ。

 俺が興味あるのはあんたの命だけだ。

 大人しく殺されりゃ相棒には……」

 

 リンファの眉がぴくりと動いた。

 

 なるほど。

 転んでもタダでは起きない。

 さすがは相棒である。

 

 リンファは必死に脳味噌を動かした。

 愛用の拳銃はどこにしまったっけ。

 そうそう、今は確かジャケットの内側にあるはずだ。

 

 ずぶっ。

 鈍い音。

 小さな刃物が男の右腕に食い込んだ。

 うめき声を上げ、銃を取り落とす男。

 

 エリィだってただ人質になっていたわけではない。

 男の一瞬の隙を見て、護身用のナイフを突き立てたのである。

 そしてそのことに男が気付く前には――

 

 加熱した銃を握ったまま、リンファはエリィに歩み寄った。

 横には眉間を撃ち抜かれた襲撃者の死体がある。

 馬鹿な奴。一体何を考えたのかは知らないが、あたしに喧嘩を売るには300年早い。

 

 そのままエリィを抱き起こし、肩を貸す。

 痛みに顔を歪めるエリィをパイプ椅子に腰掛けさせた。

 

「ちょっと、失礼しますよ」

 

 ヘイフォンが割り込んで、彼女の太股に触れた。

 別にセクハラではない。

 傷の様子を見ているだけである。

 傷口を刺激しないように太股の裏と表を覗き込み、彼は確信してうなずいた。

 

「リンファ、消毒薬と包帯を」

 

「あ……う、うん」

 

「大丈夫、弾丸は貫通してます。

 消毒と止血さえしておけば問題ありませんよ」

 

 リンファが慌てて持ってきた薬を、傷口に吹き付ける。

 エリィが小さく喘いだ。

 さすがに染みるのだろう。

 リンファはともかく、エリィはこういう怪我に慣れていない。

 

 レイヴンになって初めて腕を撃たれた日のことが、ふと頭に浮かんだ。

 あの時は確かエリィがこんな風に応急処置をしてくれた。

 

「随分……いい手際ね」

 

「いえ。これも神に仕える者の仕事ですから」

 

 言いながらも処置は進んでいく。

 最後にシャオシュエが包帯を切って、完了である。

 リンファは胸を撫で下ろした。

 憎たらしいが、もし両親がいなかったらこんなに的確な処置はできなかっただろう。

 

 エリィの額に浮かぶ脂汗。

 母がそれをふき取った。

 

 しかし疑問は……あの偽宅配便業者がどうしてリンファを狙ったのか、である。

 

「最近大人しくしてたから、狙われる心当たりなんてないんだけどな……」

 

「しかし、現に――」

 

 そこで、ヘイフォンの言葉は止まった。

 

 聞こえる。

 何かの音が。

 リンファにとっては馴染み深い音。

 

 この轟音はもしや、ACのブースター音?

 そう気付くが早いか――

 

 ゴガシャアアァァッ!!

 

 突然倉庫の天井が崩れ落ちた!

 入り口近く、丁度襲撃者の死体があった辺りに大穴があく。

 向こう側に覗く金属光沢。

 赤く輝く目。

 

 畜生、なんて事だ。

 見たこともないACが、大事な住処をぶち壊しやがった!

 

 そのACが持つライフルは、まごうことなくリンファを捉えていた。

 やはり狙いは彼女らしい。

 一体何だと言うんだ。

 さっきの宅配便といい、今日は厄日か?

 

『へっへっ、お前がタオ=リンファだな?

 ぶっ殺してや……!』

 

 ガガガガガッ!

 

 視界の外から飛来する無数の弾丸!

 知らないACの装甲がいたるところで潰れ、剥がれ、一瞬にして鉄屑と化す。

 

 ただのゴミと成り果てたACを踏みつぶすように、巨大な青い蜘蛛が姿を現す。

 なんて絶妙なタイミングだ。

 今日ばかりは、助けてくれたことを少しだけ感謝しようと思った。

 

 腐れ縁のレイヴン、ヨシュア。

 青い蜘蛛は彼のAC『ワームウッド』である。

 

 そのワームウッドの向こう側に、今度は一台のトラックが現れる。

 重要な物資を運ぶときに使う、装甲の厚いトラックである。

 

 運転席の窓が開く。

 そこから顔をだしたのは、実に久しぶりに見る男だった。

 

「コ、コバヤシぃ!?」

 

「みなさんっ!」

 

 トラックを運転していた男、シロウ=コバヤシは、喉を思いっきり震わせて声を放った。

 小柄で細身なアジア人が、今日に限っては頼もしくすら見える。

 不思議なものだ。

 人間の視覚なんてその程度のものか。

 

「乗ってください! 逃げますよっ!」

 

 

 

つづく。

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