アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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04 もうひとりの“あたし”

 

 

 

『くくく……

 最強のレイヴンの名は、我等マンシャフト・アングライファーがいただ……』

 

 ――瞬間!

 

 キュゴウンッ!!

 

 天空から降り注ぐ光の矢。

 ペンユウ達を取り囲んでいたAC達が、次々と爆発を起こす。

 

 これは……レーザーライフル!?

 しかし一体誰が?

 

 呆然とするリンファの耳に、どこかで聴いたことのある低い声が響いてきた。

 

『前口上が長いのだよ、前口上が!』

 

 この声は、まさか!?

 

 リンファは慌ててレーダーを確認した。

 すぐ近くに光点が二つ、新たに加わっている。

 これは……上?

 

 ペンユウのメインカメラが上を見上げる。

 地下都市を照らす照明。

 逆光を受けてビルの上に佇む、二機のAC。

 

 ACが、飛んだ。

 100メートル近い高さを一気に飛び降り、着地寸前でブースターを噴かす。

 鈍い衝撃とともにACが着地した。

 

 砂色の中量2足AC。

 右腕に持った高出力のレーザーライフル。

 間違いない。奴だ。

 

『ふふん、苦労しているようだな、タオ=リンファ』

 

「ミラージュ!?

 あんた……生きてたの?」

 

『最後の一撃はコアから外したからなぁ……』

 

 リンファの問いに答えたのはヨシュアだった。

 

 マスターランカー、ミラージュ。

 かつてリンファ、ヨシュアと死闘を繰り広げた男。

 この都市では珍しい、アラブ系の男である。

 間抜けな奴だが、腕は一流。

 敵にするのは御免だ。

 

 もう一機も続いて飛び降りてきた。

 こちらはくすんだ青銅色の重量2足AC。

 ミラージュの付き人、カンバービッチが駆る『スティンク』である。

 

 襲撃者の残りが、一斉に飛びかかる。

 その先はペンユウではなくミラージュの愛機『サンドストーカー』。

 リンファの仲間だと勘違いしたか、それともライバルと認識したか。

 

 いずれにせよ、結果は一つだった。

 サンドストーカーの左腕から光の刃が生み出される。

 AC達はレーザーブレードの一撃で、コアと脚部を切り離されていた。

 

『さあ、行きたまえ!』

 

「え?」

 

 ミラージュの声。

 

 リンファは我が耳を疑った。

 奴は敵である。

 自分たちを助ける理由など、ミラージュにはない。

 そのはずだった。

 

 彼女の戸惑いまで、電波に乗って流れていったのだろうか。

 ミラージュは再び口を開いた。

 

『勘違いしてもらっては困る。

 いいかね、君達を倒すのはこのわたしなのだよ。

 従って、わたし以外の何者にも破れることは許されないのだ!

 わかるかね? んん?』

 

 見栄はっちゃって。

 愛機のコックピットの中、カンバービッチは苦笑していた。

 惚れてるなら惚れてると、素直に言えばいいのに。

 

 もっとも、言ったところで勝算は限りなくゼロに近い……

 いや、間違いなくゼロなのだが。

 

「礼は言わないわよ」

 

『期待していないとも!』

 

 リンファは少しだけ微笑んだ。

 そして操縦桿に手をかけた。

 

 トラックがまず走り始める。

 それに続くワームウッド。

 

 ペンユウは……少し躊躇って、それからブースターを噴かした。

 背中から吹き出す炎。

 轟音を撒き散らしながら去っていくその後ろ姿を見つめ、ミラージュは大きく息を吸い込んだ。

 

『さあ、カンバービッチ君!

 今日は追加弾倉を持ってきているだろうね!』

 

『当然ですよ、ミラージュさん!』

 

 

  *

 

 

「ふぅん……結構人望あるんだぁ。あの女」

 

 狭い部屋を満たすのは、闇。

 見つめると吸い込まれそうになる。

 触れると蝕まれそうになる。

 感じる者全てを恐怖させる、闇。

 

 闇の底に彼女は鎮座していた。

 闇を吸い込んだ女。

 闇を蝕んだ女。

 闇すらも恐怖させる女。

 

 彼女は闇の王。

 このちっぽけな闇から這いだし、やがては全てを飲み込む。

 

 闇の王の目の前には小さなモニターがあった。

 ある都市の映像。

 ビルに挟まれた幹線道路を、ひたすら地上に向かって突き進む赤い影。

 

 ペンユウ。

 タオ=リンファが、あの女が駆るAC。

 

 何が真紅の華、だ。

 闇の王は視線をすこしそらした。

 モニターの端に表示される数字。

 最初99を示していたそれは、やがて姿を変えた。

 

 ――100%。

 

「オズワルド」

 

 闇の王はその男の名を呼ばわった。

 闇の中にあるもう一つの玉座。

 そこに腰を落ち着けている男。

 

 茶色の短髪。

 頬の古傷。

 そして何より目を引くのは、人を見下したような瞳の輝き。

 

 この男は自分の三倍近くも生きているが、おそらく友人の一人もいないだろう。

 闇の王はそう推測した。

 

「時間だぞ」

 

 オズワルド、と呼ばれた男はゆっくりと立ち上がった。

 冷たい空気が流れる。

 オズワルドは細く長く息を吐いた。

 ひゅうひゅうと音がする。

 嫌な音。闇の王は舌打ちをした。

 

「やめろ、オズワルド」

 

「儀式だ」

 

 勘に障る音が止んだ。

 代わりに訪れる静寂。

 オズワルドは闇の王の方を向くと、口の端をにぃっと吊り上げた。

 

 虚ろな瞳。奴はあたしの方を見ていない。

 闇の王は確信した。

 奴が見ているのはあたしではなく、この闇だ。

 あたしの意のままに操られる闇。

 

「昔から……戦いの前にする儀式……

 俺は決して負けなかった。儀式の力だ」

 

 うるさい男だ。

 闇の王はオズワルドを無視して立ち上がった。

 奴の横を通り抜け、闇を切り裂く。

 

 しゅっと音がしてドアが勝手に開いた。

 光が闇を蝕む。

 

 そうか。

 闇の王は感じた。

 闇を蝕むのが光なら、あたしは光に違いない。

 

「あたしはあの男を殺してくる」

 

「黒き疾風……ブラックゲイル、か」

 

 闇の王が光の中に消えていって、部屋は再び闇に包まれた。

 オズワルドは笑った。

 せせら笑った。

 黒き疾風。

 小さき雪。

 嶺に咲く華。

 そして。

 

 か細き華よ。

 お前はどこへ行く。

 闇を喰らって、お前はどこへ行こうというのだ。

 

 笑いが大きくなった。

 何者も、逃れることはできない。

 支配? 統治?

 それがなんだというのだ。

 

 オズワルドの望みはたった一つ。

 恐怖。猜疑。激昂。

 言い換えるならば、それは。

 

 闇。

 

 途切れることのない哄笑は、いつまでも闇の中に木霊していた。

 

 

  *

 

 

 ふうっ。

 

 ガレージの壁にもたれかかり、リンファは小さくため息をついた。

 

 コバヤシに案内されてやってきたのは、地上の廃工場だった。

 確かに地上ならそう簡単には見つからないだろうし、ここにはACを隠す広いスペースと、整備用具、そして弾薬まで供えてある。

 コバヤシの話では、知り合いのレイヴンが隠れ家にしている場所らしい。

 もっとも今、そのレイヴンは遠くの地下都市まで出張に出ているそうだが。

 

 奥には人が暮らせるスペースもあったが、さすがに狭い。

 ベッドにエリィを寝かせ、シャオシュエが看病に付いている他は、みんなこのガレージにたむろしていた。

 

 機体の整備に余念がないヨシュア。

 ハンディパソコンをいじっているコバヤシ。

 そして、椅子代わりの木箱に腰掛け、十字架を見つめたままぴくりとも動かないヘイフォン。

 

「親父」

 

 リンファは、側に座っている父親に声をかけた。

 

 ヘイフォンの顔が上がる。

 拳銃。

 リンファ愛用の銃が、その口を父親の方へ向けた。

 かちゃりという小さな音。

 その様子に気付いているのは、彼女ら二人だけのようだった。

 

「知ってるんだろ?」

 

「何のことです」

 

「とぼけるな」

 

 銃を懐にしまい込む。

 リンファは腕組みをした。

 黒い瞳が冷たい輝きを放つ。

 

 ロレンスの敗北。

 世界最強となったリンファ――いや、黒髪の女。

 自分ではない。

 そんなことをした覚えはない。

 

 それなら、可能性はただ一つ。

 

「もう一人いるんだ。あたしが」

 

 

 

つづく。

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