アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
『くくく……
最強のレイヴンの名は、我等マンシャフト・アングライファーがいただ……』
――瞬間!
キュゴウンッ!!
天空から降り注ぐ光の矢。
ペンユウ達を取り囲んでいたAC達が、次々と爆発を起こす。
これは……レーザーライフル!?
しかし一体誰が?
呆然とするリンファの耳に、どこかで聴いたことのある低い声が響いてきた。
『前口上が長いのだよ、前口上が!』
この声は、まさか!?
リンファは慌ててレーダーを確認した。
すぐ近くに光点が二つ、新たに加わっている。
これは……上?
ペンユウのメインカメラが上を見上げる。
地下都市を照らす照明。
逆光を受けてビルの上に佇む、二機のAC。
ACが、飛んだ。
100メートル近い高さを一気に飛び降り、着地寸前でブースターを噴かす。
鈍い衝撃とともにACが着地した。
砂色の中量2足AC。
右腕に持った高出力のレーザーライフル。
間違いない。奴だ。
『ふふん、苦労しているようだな、タオ=リンファ』
「ミラージュ!?
あんた……生きてたの?」
『最後の一撃はコアから外したからなぁ……』
リンファの問いに答えたのはヨシュアだった。
マスターランカー、ミラージュ。
かつてリンファ、ヨシュアと死闘を繰り広げた男。
この都市では珍しい、アラブ系の男である。
間抜けな奴だが、腕は一流。
敵にするのは御免だ。
もう一機も続いて飛び降りてきた。
こちらはくすんだ青銅色の重量2足AC。
ミラージュの付き人、カンバービッチが駆る『スティンク』である。
襲撃者の残りが、一斉に飛びかかる。
その先はペンユウではなくミラージュの愛機『サンドストーカー』。
リンファの仲間だと勘違いしたか、それともライバルと認識したか。
いずれにせよ、結果は一つだった。
サンドストーカーの左腕から光の刃が生み出される。
AC達はレーザーブレードの一撃で、コアと脚部を切り離されていた。
『さあ、行きたまえ!』
「え?」
ミラージュの声。
リンファは我が耳を疑った。
奴は敵である。
自分たちを助ける理由など、ミラージュにはない。
そのはずだった。
彼女の戸惑いまで、電波に乗って流れていったのだろうか。
ミラージュは再び口を開いた。
『勘違いしてもらっては困る。
いいかね、君達を倒すのはこのわたしなのだよ。
従って、わたし以外の何者にも破れることは許されないのだ!
わかるかね? んん?』
見栄はっちゃって。
愛機のコックピットの中、カンバービッチは苦笑していた。
惚れてるなら惚れてると、素直に言えばいいのに。
もっとも、言ったところで勝算は限りなくゼロに近い……
いや、間違いなくゼロなのだが。
「礼は言わないわよ」
『期待していないとも!』
リンファは少しだけ微笑んだ。
そして操縦桿に手をかけた。
トラックがまず走り始める。
それに続くワームウッド。
ペンユウは……少し躊躇って、それからブースターを噴かした。
背中から吹き出す炎。
轟音を撒き散らしながら去っていくその後ろ姿を見つめ、ミラージュは大きく息を吸い込んだ。
『さあ、カンバービッチ君!
今日は追加弾倉を持ってきているだろうね!』
『当然ですよ、ミラージュさん!』
*
「ふぅん……結構人望あるんだぁ。あの女」
狭い部屋を満たすのは、闇。
見つめると吸い込まれそうになる。
触れると蝕まれそうになる。
感じる者全てを恐怖させる、闇。
闇の底に彼女は鎮座していた。
闇を吸い込んだ女。
闇を蝕んだ女。
闇すらも恐怖させる女。
彼女は闇の王。
このちっぽけな闇から這いだし、やがては全てを飲み込む。
闇の王の目の前には小さなモニターがあった。
ある都市の映像。
ビルに挟まれた幹線道路を、ひたすら地上に向かって突き進む赤い影。
ペンユウ。
タオ=リンファが、あの女が駆るAC。
何が真紅の華、だ。
闇の王は視線をすこしそらした。
モニターの端に表示される数字。
最初99を示していたそれは、やがて姿を変えた。
――100%。
「オズワルド」
闇の王はその男の名を呼ばわった。
闇の中にあるもう一つの玉座。
そこに腰を落ち着けている男。
茶色の短髪。
頬の古傷。
そして何より目を引くのは、人を見下したような瞳の輝き。
この男は自分の三倍近くも生きているが、おそらく友人の一人もいないだろう。
闇の王はそう推測した。
「時間だぞ」
オズワルド、と呼ばれた男はゆっくりと立ち上がった。
冷たい空気が流れる。
オズワルドは細く長く息を吐いた。
ひゅうひゅうと音がする。
嫌な音。闇の王は舌打ちをした。
「やめろ、オズワルド」
「儀式だ」
勘に障る音が止んだ。
代わりに訪れる静寂。
オズワルドは闇の王の方を向くと、口の端をにぃっと吊り上げた。
虚ろな瞳。奴はあたしの方を見ていない。
闇の王は確信した。
奴が見ているのはあたしではなく、この闇だ。
あたしの意のままに操られる闇。
「昔から……戦いの前にする儀式……
俺は決して負けなかった。儀式の力だ」
うるさい男だ。
闇の王はオズワルドを無視して立ち上がった。
奴の横を通り抜け、闇を切り裂く。
しゅっと音がしてドアが勝手に開いた。
光が闇を蝕む。
そうか。
闇の王は感じた。
闇を蝕むのが光なら、あたしは光に違いない。
「あたしはあの男を殺してくる」
「黒き疾風……ブラックゲイル、か」
闇の王が光の中に消えていって、部屋は再び闇に包まれた。
オズワルドは笑った。
せせら笑った。
黒き疾風。
小さき雪。
嶺に咲く華。
そして。
か細き華よ。
お前はどこへ行く。
闇を喰らって、お前はどこへ行こうというのだ。
笑いが大きくなった。
何者も、逃れることはできない。
支配? 統治?
それがなんだというのだ。
オズワルドの望みはたった一つ。
恐怖。猜疑。激昂。
言い換えるならば、それは。
闇。
途切れることのない哄笑は、いつまでも闇の中に木霊していた。
*
ふうっ。
ガレージの壁にもたれかかり、リンファは小さくため息をついた。
コバヤシに案内されてやってきたのは、地上の廃工場だった。
確かに地上ならそう簡単には見つからないだろうし、ここにはACを隠す広いスペースと、整備用具、そして弾薬まで供えてある。
コバヤシの話では、知り合いのレイヴンが隠れ家にしている場所らしい。
もっとも今、そのレイヴンは遠くの地下都市まで出張に出ているそうだが。
奥には人が暮らせるスペースもあったが、さすがに狭い。
ベッドにエリィを寝かせ、シャオシュエが看病に付いている他は、みんなこのガレージにたむろしていた。
機体の整備に余念がないヨシュア。
ハンディパソコンをいじっているコバヤシ。
そして、椅子代わりの木箱に腰掛け、十字架を見つめたままぴくりとも動かないヘイフォン。
「親父」
リンファは、側に座っている父親に声をかけた。
ヘイフォンの顔が上がる。
拳銃。
リンファ愛用の銃が、その口を父親の方へ向けた。
かちゃりという小さな音。
その様子に気付いているのは、彼女ら二人だけのようだった。
「知ってるんだろ?」
「何のことです」
「とぼけるな」
銃を懐にしまい込む。
リンファは腕組みをした。
黒い瞳が冷たい輝きを放つ。
ロレンスの敗北。
世界最強となったリンファ――いや、黒髪の女。
自分ではない。
そんなことをした覚えはない。
それなら、可能性はただ一つ。
「もう一人いるんだ。あたしが」
つづく。