アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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02 ヨシュアとの再会

 

 

 

 仕方がない。

 悪いけど、相手の男にはしばらく眠っていてもらおう。

 

 リンファは決意して、5番の部屋へ向かった。

 ポケットには即効性の睡眠薬が入った注射器が入っている。

 

 しかし、そんなことをすれば正体がばれるのは必至。

 もう一刻の猶予もない。

 ここを乗り切ったらすぐにでも行動を起こすつもりだった。

 

 部屋はすぐに見つかった。

 渡された鍵を使って、ドアを開ける。

 あとはここにやってきた不運な男を眠らせれば当面の安全は確保できる。

 

 リンファは部屋に踏み込んで、中を見回した。

 薄いピンクに内装は統一され、お世辞にも品がいいとは言えない。

 ただ、さすがにベッドだけはいいクッションを使っているようだが……

 

 リンファの思考はそこで止まった。

 

 かちゃっ。

 

 小さな音がして、背中に硬い物が触れる感触があった。

 今まで何度か同じ経験をしている。

 

 ――拳銃。

 

 迂闊だった。

 まさか、もう正体がばれていたとは……

 リンファは背中を冷たい汗が流れるのを感じた。

 

「こんなところで何をしている?」

「……?」

 

 後ろからかかった声は、聞き覚えがあるものだった。

 まだ若い、優男の声である。

 

 リンファはゆっくりと振り返り、そこに見知った顔を認めた。

 

「ヨシュア!」

「バカ、声が大きい!」

 

 男はリンファの口を手のひらで無理矢理塞ぐと、周囲を確認してドアを閉めた。

 この部屋は消音設計。

 ちょっとやそっとの音は外には漏れないようになっている。

 安心して話が出きる状況になってから、彼は手を放した。

 

「リンファ、こんなところで何をしている?」

「バイト」

「レイヴンが娼婦まがいのバイトとは、堕ちたものだ」

「冗談よ。本気にしないでくれる?」

 

 リンファは憮然として答えた。

 

 この男は以前知り合った同業者で、名をヨシュアという。

 百九十を越える身長と鋭い眼光が特徴的な、それなりのナイスガイだが、手足が長いせいか、少し痩せすぎて貧相なようにも見える。

 

 しかしレイヴンとしての腕前は文句なく一流で、そのことは身をもって体験したリンファが最もよく知っている。

 

「で、本当は何をしていたんだ?」

「仕事に決まってんでしょ」

「もしかしてイリーガル社か?」

 

 ずばり言い当てられ、リンファは顔をしかめた。

 ひょっとしてイリーガル社とアルバートの癒着の話は有名なのだろうか?

 

 リンファの顔色を見て図星と見抜いたのか、ヨシュアは興味を失ったように溜息をついた。

 

「それで? あんたこそ何してんのよ?

 まさか、本気で遊んでたわけ?」

 

「まあな。たまにはこういうのもいいだろう」

 

 冗談めかして答えると、ヨシュアは突然リンファの腕をつかんだ。

 不意のことに驚き、リンファは目を見開く。

 

 呆気にとられるリンファの腰に、ヨシュアの手が伸びた。

 

「君を指名したのは僕だ。相手をしてくれるんだろ?」

「げっ!? 冗談じゃな……!」

 

 必死にリンファはヨシュアを振りほどこうとするが、見た目の細さにそぐわない力で硬く握られた腕は全く動かない。

 逆に体勢を崩してベッドに押し倒された。

 

 薄笑いを浮かべたヨシュアの顔が目の前にある。

 

 自然と顔が紅潮していくのがはっきりとわかった。

 自分の腕を押さえつけるヨシュアの力強さ、その体の重みと温もり、小さな金属音、彼の顔に浮かぶ妖艶な笑み……

 

 ……小さな金属音?

 

 リンファが異状に気付いたときには、もうヨシュアはリンファを放して立ち上がっていた。

 

 手が動かない。

 リンファが自分の背中の方を見ると、そこには後ろ手に手錠をかけられた自分の両腕があった。

 

「おやぁ?」

「何をその気になってんだ。

 僕があんたみたいなガキ相手に本気になるとでも思ってるのか?

 

 こっちの仕事を邪魔されては困るんでな。そこで大人しくしておけ」

 

「ガ……ガキィ!?」

 

 激高したリンファが立ち上がる……が、両腕を拘束されているせいでバランスが取れず、ヨシュアの軽い足払いでまたベッドへと倒れ込んだ。

 

 呆れたような表情でリンファを見下ろしながら、ヨシュアはドアを開けて外へ半歩踏み出した。

 

「そうやってすぐムキになるところがガキなんだよな。

 あのメカニック……エリィだったか?

 あいつも来てるだろうから、後で助けに来るように言っておいてやるよ」

 

「あっ! ちょっと待……」

 

 リンファの文句から逃げるようにヨシュアはドアを閉めた。

 鍵をかける音が小さくリンファの耳に届いた。

 

「あンの野郎ッ!」

 

 叫びながらリンファは立ち上がろうとして、もう一度転んだ。

 

 

  *

 

 

 パーティ会場は広い。

 

 一階部分には幾つものテーブルが並べられているだけだが、二階のVIP専用フロアにはカウンターバーやビリヤード台も置かれ、幾人かが女性をはべらせてそれに興じている。

 

 人々はみな、それぞれにこの闇のパーティを楽しんでいた。

 彼らのほとんどは企業のトップか、でなければ裏の世界の大物である。

 見る者が見れば戦慄を覚えずにはいられないほどの顔が揃っている。

 

 そんなパーティの客達のなかに、ざわめきが起こった。

 

 最初は二階の壁際、ドアのすぐそばからだった。

 そこではある男がブランディーのグラスをを片手にビリヤードに興じていたが、彼は弾かれたようにドアから入ってきた男を見上げた。

 

 銀色の短髪。

 若く頑丈な彼の肉体を象徴する広い肩幅。

 それによく似合う黒のスーツ。

 そして何よりも、まるで飢えた野犬のような青白く不気味に輝く瞳。

 

 アイザックシティの闇を牛耳る狼、アルバート=マックスその人である。

 

 アルバートは左右の客達と挨拶を交わしながらゆっくりと歩いた。

 彼の後についてざわめきも移動する。

 バーテンダーが近づき、ワイングラスを手渡す。

 その中身には口を付けずに、アルバートはたっぷり時間をかけて会場の中央にあるステージへ上った。

 

 側に仕えていた黒服の男がアルバートのスーツの胸に小さなマイクを取り付けた。

 アルバートは周りを見回し、ざわめきが収まるのを待った。

 ざわめきはなかなか収まらなかったが、逆にそれが彼を満足させた。

 

 アルバートは静かに右腕を持ち上げた。

 ただそれだけで、会場の全ての人々が水を打ったように静まりかえった。

 そして、徐にアルバートは口を開いた。

 

「諸君」

 

 アルバートの声は適度に低く、えも言われぬ迫力があった。

 

「今日は我が宴へようこそ。

 思う存分楽しみ、そしてストレスと金を棄てて帰っていただこう」

 

 小さくだが、笑いが起こった。

 そしてアルバートが手に持っていたワイングラスを掲げると人々はそれを真似た。

 

「乾杯」

 

 あちこちでガラスがふれあう音が響いた。

 アルバートはその様子を見届けると、ステージから降りた。

 

 不意にアルバートに黒服の男が近付き、何かを耳打ちした。

 アルバートはワインを一口飲み、男に小さな声で告げた。

 

「すぐに行く、と伝えろ」

 

 男は敬礼一つすると素早く立ち去った。

 アルバートはまた周囲の客達に愛嬌を振りまきつつ会場を後にした。

 

 

 

つづく。

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