アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
ヘイフォンは何も答えなかった。
目を伏せ、十字架を握りしめる。
舌打ちをして、リンファは父親の胸ぐらをひっつかんだ。
抵抗すらしようとしない父親を、壁に乱暴に叩き付ける。
異変に気付いたヨシュアとコバヤシが、慌てて二人を引き剥がした。
流れる沈黙。
「止めろ、リンファ……
一体何を狼狽えているんだ。
お前らしくもない」
「狼狽える……?
狼狽えるって何よ。
あたしがおかしいっての!?
覚えもないのに狙われて、エリィが撃たれて!
こいつが悪いのよッ!
親父が来てからいいことなんて一つもないじゃないッ!」
ヨシュアに羽交い締めにされたまま、リンファは藻掻いた。
目を見開き、顔に怒りを露わにして。
理由のない激昂。
気分が高ぶって、冷静な判断ができなくなっているのだ。
その姿は、どこか幼さを感じさせた。
収まる気配のない激情を感じ取って、ヨシュアは彼女を椅子に押しつけた。
肩をしっかりと押さえつけられてはぴくりとも動けない。
リンファはようやく大人しくなった。
ふと、その瞳が目に付いた。
小さな輝き。
まさか。
ヨシュアは目を見張った。
涙が、彼女の瞳に浮かんでいる。
そのままリンファは彼の胸に顔をうずめた。
一体どうしたというのだ。
この程度のことで、泣くような女じゃなかったはずだ。
もしヨシュアが心理学者だったなら、彼女の心で起こっていることに気付いていたかもしれない。
「わたしは――」
ヘイフォンがなにやら口を開こうとした、その時。
ピピピピピッ。
小さな電子音がガレージの中に響き渡った。
コバヤシが懐を探る。
小型の携帯電話を取り出し、スイッチを押す。
機敏な動作でそれを耳に押し当てた。
聞こえてくる声。
どうやら、アリーナ管理委員会の同僚かららしい。
「なんですってッ!?」
いきなりあがった甲高い叫び声に、全員が顔を上げた。
*
「主任」
オペレーターは椅子から顔だけを後ろへ向けた。
アイザックシティ・ガード、第二管制室。
ガードに寄せられた通報の内、ACやMTによる凶悪テロに関する情報はここに集められる。
いわば、管制官にとっての花形である。
数十人のオペレーターが集う中に、その一報が飛び込んできたのだ。
「所属不明のACが多数、C区画で破壊活動を行っているようです」
「また、例のレイヴンじゃないのか?」
管制主任は報告を入れたオペレーターに歩み寄った。
彼の前のモニターを覗き込む。
ACが出現したのは、丁度さっきまでレイヴンたちが喧嘩を繰り広げていたあたりである。
一度おさまったようだが、また暴れ出しても不思議はない。
「いえ……今度の奴は、全機が同じ型のようです。
しかも未登録機のようですね。
規格もネストとは異なっています。
どこかの企業の自社規格か、でなければ密造品かと……」
「映像は出せるか?」
「今ロード中です……来ました。
メインモニターに出します」
管制室の中央にあった巨大なモニターに、映像が映し出された。
ざわり。
誰からともなく、ざわめきが起こる。
映像はアイザックシティ・C地区の一角である。
周囲の喧噪を遠くに聞きながら、主任は画面に見入った。
そんな馬鹿な。
これの何処が破壊活動だ。
これは、これではもはや。
「地獄だ……」
誰かが呟いた。
そうだ、あれは地獄の光景だ。
青く塗られた、奇妙な形状の2足AC。
その手の銃が火を噴く。
吹き飛ばされる建造物。
逃げまどう人々。
画面は、ACに踏みつぶされる親子の姿を鮮明に映し出した。
誰かの悲鳴。
火。
赤い火。
もはや人も街も、原型をとどめてはいなかった。
一面の焼け野原。もうもうと立ちこめる煙が、地下都市に充満する。
やがて、青いACがこちらを――いや、カメラの方を向いた。
単眼が不気味に光る。
銃口が画面一杯に映し出され――
映像は、そこで途切れた。
管制室には沈黙が流れた。
データだけが次々と流入してくる。
F地区。
T地区。
アイザック・シティのいたるところが襲撃を受けている。
全てのACを合わせれば、おそらく100近いだろう。
信じられなかった。
一体どんな勢力だというのだ。
アイザック・シティそのものを襲撃するなど!
最初に正気を取り戻したのは、管制主任だった。
「何をしている!
早くガード全機に出撃命令を出せ!」
「り……了解!」
*
ドアが音を立てて開く。
顔を出したのはエリィだった。
松葉杖の代わりにシャオシュエの肩を使い、ふらつきながらも歩いてくる。
そして、一同が集まって見つめている画面に目を遣った。
コバヤシが持っていたハンディ・パソコン。
その画面は今や即席のシアターと化していた。
もっとも、みていて胸くその悪くなる最低の映画だが。
炎と、怒号と、悲鳴と、銃弾と、血と、煙と、巨大な青い悪魔と、死。
画面にはそれが満ちていた。
次々と映像が切り替わり、アイザック・シティ各所の様子を映し出していく。
100機近い数のAC達は、まるで作業のように都市を破壊していく。
「アイザックの全区域に、謎のACが出現……
無差別な破壊活動を行っています。
……いや、アイザックだけじゃない。
わたしの同僚の言葉を信じるなら……
世界中の全ての地下都市で、これと同じ事が起こっている」
コバヤシの額を、汗が流れ落ちた。
あっさりといい放ちはしたものの、冷静に考えれば尋常なことではない。
全ての地下都市にそれぞれ100機のACを配置するとなると、総戦力は数千機に及ぶ。
一体どこの企業が、そんな戦力を持ちうるというのだ。
一方でヨシュアは、画面に映ったACの姿を凝視していた。
目がすうっと細まる。
同じだ。
あの青いACと。
かつてネーベル・テヒニケン本社ビルの前で、襲ってきたあのACと。
これはお前の仕業なのか、ナターシャ。
まだ終わっていないというのか。
「そんな……」
ヘイフォンが声をあげた。
顔を覆い、床に崩れ落ちる。
全員の視線が集まる。
エリィを椅子に座らせたシャオシュエがその背に手を触れた。
「どうして……どうして今更『ゲシュタルト』が……
『あの子』が……まさか本当に、あの子が!」
――あの子!?
リンファが問いただすよりも早く――
ゴガアアアァァァアッ!!
ガレージの天井が崩れ落ちた!
上から降ってくる赤い影。
巨人が舞い降りる。
真紅の巨体。
2足AC!
追っ手……ではない。
リンファは目を見開いた。
ただの追っ手なはずがない。
だって、あのACは。
あの赤いACは。
「ペンユウ……!」
空から舞い降りた災悪、もう一機のペンユウ。
そんな馬鹿な。
何から何まで信じられなかった。
襲ってきたACは、まぎれもなくペンユウ。
武装は変更されているが、基本構造は全く同じ。
リンファは直感した。
こいつがもう一人のあたしだ。
ロレンスを倒したのは、こいつなのだ。
「シーファ……!」
ヘイフォンは立ち上がった。
虚ろな瞳。
不確かな足取り。
ふらふらとACに歩み寄っていく。
何をするつもりだ。
シーファとは一体何なんだ。
リンファは呼び止めようとした。
しかし動かなかった。
足が動こうとしなかった。
見たことがある。
自分は、この光景を前に見たことがある!
そして、ヘイフォンは手を大の字に開いた。
のどの奥から声を絞り出す。
「シーファ……君なのか」
ヴゥンッ。
ペンユウは右手を掲げた。
巨大なレーザーライフル。
その銃口が、小さな小さなヘイフォンを捉える。
ヘイフォンの肩は震えていた。
恐怖ではない。
泣いている。
あの父親が泣いている。
「ごめんよ……シーファ……
わたしは、君に許してくれなんて言えない……
でも」
震えが、止まった。
「わたしはリンファまで失うわけにはいかなかったんだッ!」
「何処見て言ってんだこの屑がッ!」
銃声。
つづく。
今回登場したAC
■プルス
機体名 プルス
パイロット シーファ
HEAD HD-H10
CORE XXL-DO
ARMS AN-25
LEGS LN-1001B
BOOSTER B-PT000
FCS TRYX-QUAD
GENERATOR GBX-TL
BACK UNIT R WM-X201
BACK UNIT L WC-IR24
ARM UNIT R WG-1-KARASAWA
ARM UNIT L LS-99-MOONLIGHT
OPTION SP-ABS, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-E+
●COLOR
NIGHT SHIFT/BLOOD STRUCTURE
●備考
基準違反、強化人間仕様。当初は「ペンユウ+」という名前になる予定だった。