アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
細く長い通路を抜け、ペンユウは再び広大な空間へとたどり着いた。
さっきとは違う、ドーム状の空間。
あまりにも巨大な空間。
このドームに比べたら、ACなど豆粒のような物だった。
そしてその中央に、静かに佇む紅い巨人。
自分と同じ姿をした巨人。
右手に持ったレーザーライフル。
左肩のレーザーキャノンと、右肩のミサイルポッド。
大した重武装だ。
リンファにとっては、その姿がまるで天使のようにも見えた。
――『プルス』。
「待っていたぞ、姉さん。
今日、この時を」
通信機からではなかった。
シーファの声は、直接彼女の耳に届いた。
不思議と不信感はなかった。
まるでそれが当然のことであるかのように感じている自分がいた。
それを疑問に思おうとすらも考えなかった。
「あたしはあんたの姉じゃない」
リンファは応えた。
機械の助けなど借りてはいない。
ただ声を出すだけで、それはシーファの元まで届くのだ。
「なくしたぬいぐるみを探しに来た、ただの女よ」
微かな笑い声が聞こえた。
甲高いシーファの声だった。
なくしたぬいぐるみ。シーファ。
あたしはあんたを探しに来た。
そう、ずっと探していたんだ。
15年前の、あの日から。
「さあ」
シーファは言った。
静かに、穏やかに、冷たく。
「始めようか」
*
口火を切ったのはマシンガンの掃射だった。
雨霰と降り注ぐ弾丸が、プルスの装甲をかすめていく。
プルスは右に飛んだ。
右腕のレーザーライフルが、光の槍を撃ち出す。
死をもたらす輝き。
リンファは慌てることもなく操縦桿をひねり倒した。
ペンユウのブースターがこれでもかと炎を吹き出す。
前へ。
一気に間合いを詰める。
火力で劣るペンユウにとって、唯一プルスを上回っているのは機動力だ。
近距離で、相手を攪乱するしかない。
おざなりにマシンガンで牽制しつつ、プルスを壁際に追い込んでいく。
瞬間、プルスが宙へ舞い上がった。
肩のレーザーキャノンを構える。
射出される光の砲弾。
あんなもの、まともに喰らったらひとたまりもない。
マシンガンで砲弾を撃ち落とす。
衝撃を受けた光の弾は、周囲に爆炎を撒き散らしながら消滅した。
「ヒャハッ!」
シーファの歓声。
爆炎を切り裂いて姿を現す真紅の機体。
プルス。
奴の左腕が輝いた。
レーザーブレードだ。
ペンユウが身をひねる。
光の刃が胸の装甲をかすめた。
「おおッ!」
それに応えるようにリンファが吠える。
自らもブレードを生み出し、プルスへと斬りかかる。
プルスが左腕を振るった。
ぶつかりあう光と光。
激しい衝撃。
飛び散る無秩序な光。
ペンユウは自らの意志で力に流された。
はじき飛ばされ、間合いが広がる。
ピピピッ。
電子音。
FCSが総力を挙げてプルスを捉えていく。
ロックオンが終了するなり、リンファはトリガーを引いた。
肩のポッドから打ち上げられる四発のミサイル。
それが頂点に到達するよりも早く、ペンユウはマシンガンを放った。
プルスが横に飛んでこれをかわす。
着地。
衝撃で一瞬プルスの動きが止まる。
ミサイルが降り注いだのは丁度その瞬間だった。
「みえみえなんだよ馬鹿姉がぁッ!!」
プルスは突如レーザーキャノンの砲身を真上に向け、光の砲弾を放った。
ミサイルと衝突し、再び爆炎が巻き起こる。
残り三発のミサイルもその炎に巻き込まれ、誘爆を起こした。
そのままプルスは肩のミサイルを放った。
飛来する一発のミサイル。
それが中空で4つに分裂した。
拡散ミサイルだ。
マシンガンが火を噴く。
四発のうち上空から迫る2発を撃ち落とし、低空を飛ぶ2発を飛び上がってかわす。
上空から降り注ぐマシンガンの弾丸。
プルスの回避行動が一瞬遅れた。
弾丸が肩をかすめる。
ジョイントを貫かれ、弾け飛ぶミサイルポッド。
シーファの舌打ちが聞こえる。
プルスはペンユウを追って空中に飛び上がった。
レーザーライフルを連射する。
キャノン砲並の威力を持つ光の槍が真下からペンユウを襲う。
しかしそんなもの、ペンユウの機動性を以てすれば回避するのは容易い。
ブースターの微かな動きだけで、全てを見事にかわしきる。
ペンユウの左手に点る光。
レーザーブレードを構え、下のプルスに向かって急降下する。
ガッ!
ブレードは、プルスの左肩をかすめた。
レーザーキャノンが切り離され、地面に落ちる。
しかしその瞬間ペンユウの動きも一瞬止まった。
それを見逃すシーファではない。
レーザーライフルの光。
光の槍はペンユウのミサイルポッドを貫いた。
巻き起こる誘爆。
衝撃で二機は大地に叩き付けられた。
「強化人間がどういうものか知ってるかッ!」
シーファが叫ぶ。
プルスはペンユウを蹴り飛ばして間合いを取った。
すぐさまレーザーライフルを乱射する。
ペンユウが斜め後ろに飛んで光をかわしきる。
「あたしは知ってる。
毎日体を切り刻まれたッ!
15年間毎日だ!」
リンファは歯を食いしばった。
知ったことか。
お前の15年間がどうであろうと、今することはたった一つ。
お前をこの場で殺すことだけだ!
ペンユウがマシンガンを撃ちながら走った。
「だがな、麻酔は使わないんだ。
人工器官が拒絶反応を起こすからな!
わかるか!
お前にわかるかッ!
手足を縛られ、口を塞がれ、はっきりした意識の中で延々体を切り刻まれる気分がッ!!」
ペンユウの足が、一瞬止まった。
コックピットの中でうずくまるリンファ。
痛い。
何だこれは!
腹が痛い!
まるで刃を差し込まれているかのようだ。
シーファが言葉を紡ぐたび、シーファと心が繋がるたび、リンファの体に閃光のような痛みが走っていく!
「痛いだろう!
苦しいだろう!
それがあたしの痛みだ。
あたしが毎日感じてきた痛みだ!
見えるかッ!
あたしが見ていた光景がァッ!」
気が狂いそうだ!
目の前に見たこともない光景が浮かぶ!
白衣を着た男。
白い灯り。
煌めく刃。
腹に刃が食い込んだ。
激痛。
飛び散る血で白衣が汚れる!
あたしの血。
紅い血!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いこんなことが昨日も今日も明日も明後日もその次も毎日毎日毎日毎日ッ!
「ウアアアアアアアアアッ!!」
ペンユウは狂ったように走った。
光の刃を生み出して、プルスに正面から斬りかかる。
プルスの腕にも刃が生まれた。
耳を劈くほどの轟音が鳴り響き、世界が反転するほどの衝撃が二機を襲う。
刃と刃は互いに弾かれ合った。
もう一度。今度はお互いに突き上げるような一撃を繰り出す。
衝撃。
レーザーライフルが根本から斬り飛ばされた。
マシンガンがその真ん中を突き刺された。
小さな爆発が二機を揺らす。
このままで終わらせてなるものか。
リンファはもう一度操縦桿をなぎ倒した。
ペンユウの左手が横に振られる。
ザンッ!!
手応え。
プルスの頭部が消し飛んでいた。
シーファの目の前のモニターが一瞬砂嵐を映し出す。
直後にコアに内蔵されたサブセンサーが起動する。
畜生。
よくもやりやがったなッ!
プルスの左手が縦に振るわれた。
ゴッ!
鈍い音。
ペンユウの右腕が、肩口で切り落とされていた。
その残骸が弾け飛び、地面に転がる。
一瞬、ペンユウのバランスが崩れた。
「リンファアアアアアァァァァァアァァッ!!」
プルスの右腕がペンユウを殴り倒した。
地面に転がる巨体。
プルスはその上に馬乗りになり、狂ったように両手を振り下ろした。
拳がコアに食い込む。
つづく。