ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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割れるゥ!食われるゥ!砕け散るゥッ!!
クロコダイル・イン・ロォォォグッ!オォォォゥラァッ!!

クロコダイルクラックボトル楽しくないですか?(唐突)
どうも146です。

さてまずは、UA20000ありがとうございます!
いや、実を言うとこれ書いてる時点で19996なんですけど、まぁニアピンということで。

ホントに更新速度落ちていく中、少しづつだけど伸びていって、お気に入り登録してくださった98名の方々、評価を下さった17名の方々、その他、読んでくださった皆様!
ありがとうございます!!これからも、ラブダブル!をよろしくお願いします!

今回は、前回の続きです。←そりゃそうだ
ファング・ドーパントになった永斗、そしてアラシの命運は…!
少し短めです。どうぞ!



第33話 怠惰なるF/剣ノ雨、最終戦争

 

 

視界が赤く染まり、足元に無数の骸が、己が摘んだ命が転がる。

 

誰かが言った。「夢はかなう」と。

だが、そんな言葉はまやかしだ。

 

欲しいものは、手を伸ばせば蝋燭の炎のように容易く消える。

 

世界が僕を拒絶する限り、愛することも、愛されることも許されない。

 

夢を見たばかりに、全てを失った。

いや、最初から手に入ってすらいなかったのかもしれない。

 

世界は僕に未来をくれなかった。夢を見ることが罪だと言った。

 

世界は僕に絶望しか与えない。

 

それなら、僕が世界に絶望を与えよう。

誰かがそう囁く。

 

終わりが見えない闇を進むしかないのなら。

背負いきれない罪を背負うしかないのなら。

 

 

いつしか叫びは笑い声に変わり、憎しみの連鎖は加速する。

 

 

誰か教えてくれ________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(お前)は誰だ

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

「死ね」

 

 

 

午前零時。絶望と共に降り立った、ファング・ドーパント。

その正体は、七幹部“怠惰”の記憶を取り戻した、永斗だった。

 

ファングはアラシの首を掴み、片手で持ち上げ、背中から伸ばす数本の牙を向ける。

 

アラシの言葉は届かない。

本当に永斗なのか?たしかに、記憶はあり、アラシの目の前で、永斗の姿から変身した。

 

だが、理屈ではない。何の根拠もないが、

アラシには、目の前の怪物が永斗だと、どうしても思えなかった。

 

 

そんな疑心は関係なく、ファングの牙は無情にもアラシに向けられたまま。

ファングは殺意もなく、道端の虫を踏み潰すかのように…

 

 

 

 

 

その刹那。ファングとは対照的に、背中を突き刺すような殺意を感じた。

アラシが目を開けると、向けられていた牙は、鮮やかな断面を見せ、斬り落されていた。

 

カオスを圧倒した、異次元ともいえるファングの強さ。

だが、アラシはその強さを見たときに、不思議と既視感を感じていた。

前にも一度だけ、あれに比肩しうる強さを目の当たりにしたことがある。

 

 

 

「我流剣 二ノ技…皇牙(こうが)

 

 

 

ファングの胴体に、一閃の斬撃が炸裂する。

その反動で、ファングはアラシを手放し、数メートル先まで吹っ飛ばされた。

 

アラシはその攻撃の主の方を向く。

やはりだ。この殺気、何よりあの技。

 

 

「ファースト…!」

 

 

剣士の姿をしたドーパント。右腕から手首にかけてはオリジンメモリの適合者である証の、生体コネクタ。

 

憤怒のエージェントNo1。コードネーム“ファースト”こと、スラッシュ・ドーパント。

 

 

 

「ラピッドから話は聞いた。ダブルとは貴様か。そして、アレがその片割れだな」

 

 

アラシはスラッシュの言葉に少し違和感を覚えるが、よく考えれば変身前で会うのは初めてだ。

スラッシュの姿を見て、カオスを拘束していたナーブも近寄って来る。

 

 

「遅いっスよ坊ちゃん」

 

「坊ちゃんは止めろと言っている。

それより、今はヤツの対処だ。援護しろ岸戸」

 

「そっちこそ岸戸は止めて欲しいっス。今のジブンはハイドっスよ」

 

 

そんなやり取りの中、吹き飛ばされたファングは何事もなかったかのように立ち上がり、今度は殺意をむき出しにしてスラッシュに対峙する。

 

 

「虫が…僕に何をした…!?」

 

 

ファングの肩から腕にかけての、両腕3本ずつの牙が分離。

それぞれが意志を持っているように浮遊し、動き回る。

 

ファングがスラッシュに腕を向けると、浮遊していた牙は一斉にスラッシュに襲い掛かる。

 

 

「僕の前から…消え失せろ!」

 

 

飛び掛かる牙は、瞬く間に目に見えない程加速する。

だが、スラッシュは鋭い感覚でそれらの軌道を捉え、刀で叩き落とす。

 

しかし、その威力は凄まじく、牙の連撃を受けた刀は粉々に砕けてしまった。

 

スラッシュは怯むことなく、手元に新しい日本刀を生成。

そして、もう片方の手にも別の刀を生成した。

 

 

「天下五剣 大典太光世。同じく童子切安綱」

 

 

スラッシュは二本の刀を構え、ファングは再生した肩の牙を、再びスラッシュに向ける。

飛び掛かる牙を今度は完膚なきまでに粉砕。

ファングは両腕から、刃のような牙を伸ばし、スラッシュを迎え撃つ。

 

 

「レベル2!」

 

 

瞬間、スラッシュの体が紫の炎に包まれ、半身が鬼のような姿に。

刀に炎を纏わせ、ファングに斬りかかる。

 

激しい攻防が始まった。

 

空間には刃がぶつかり合う金属音だけが鳴り響き、2人の姿は目で追えない程激しい。

ファングの脇腹辺りから伸びた触手状の牙が、しなる鞭のように空間を切り裂く。

その衝撃波で建物の柱が一刀両断。だが、スラッシュはその攻撃を無駄のない動きでかわし、間合いを詰め、反撃に転じる。

 

ファングは更に全身から牙を伸ばし、スラッシュに斬りかかった。

圧倒的手数。スラッシュも全ては捌ききれず、軽いとは言い難いダメージを負ってしまう。

 

それを転機に、今度はファングの反撃が始まった。

 

腕の牙の剣撃、全身から伸びる触手状の牙、肩から分離した牙は遠距離攻撃を可能とする。

異なる3つの攻撃がスラッシュを追い詰める。

 

そして、ファングは飛び上がり、大きく体をひねらせ、脇腹から伸びる牙をスラッシュに叩きつけるように攻撃。

童子切安綱で防ぐスラッシュ。ファングの攻撃の切れ味で、足元のコンクリートの床がスッパリ切込みが入る。少しでも力を弱めれば、スラッシュの体は豆腐のように切断されてしまうだろう。

 

 

ファングの攻撃を弾き、一端距離をとるスラッシュ。

ファングは一気に間合いを詰めようとするが、

 

足元から伸びてきた糸の束のようなものが、ファングの足の動きを封じた。

それは紛れもない、ナーブの神経線維だ。

 

 

「能力が効かないなら、物理的に捕まえるだけっス。

技はラピッドのパクリっスけど」

 

 

ファングは一瞬で足の拘束を引きちぎる。

だが、その一瞬は、強者同士の戦いで命取りとなる。

 

その一瞬の間。スラッシュは両手の刀を構え、精神を研ぎ澄ます。

 

 

「我流剣 七ノ技…」

 

 

スラッシュの姿が消えた。

次の一瞬にはファングの死角に。

 

そして、二本の刀は竜巻を描くように、ファングを乱撃の渦に封じ込める!

 

 

「二刀流 蝉時雨(せみしぐれ)!」

 

 

ファングに無数の剣撃が炸裂する。

止むことのない剣の雨。鳴り響く斬撃音は、耳を劈く蝉の声のよう。

 

 

「ぐあぁぁぁっ!!」

 

 

今までとは確実に違う反応。効いている。

しかし、ファングの連撃で、強度の限界に達していた童子切安綱が粉々に。

 

だが、スラッシュの神経はもはや刀と同化していると言ってもいいほど、研ぎ澄まされている。童子切安綱の限界は承知の上。

 

 

「我流剣 四ノ技…」

 

 

連撃の最中、自然な動きで、その構えを突きのものへと転じる。

そして、残された大典太光世をファングへと突き出す!

 

 

壊龍(かいりゅう)!」

 

 

繰り出された刺突は、地上に災いをもたらす龍の如く。

万物を破壊する龍の咆哮が、ファングを破滅の激流に誘う。

 

凄まじいエネルギーがぶつかり合い、生じた衝撃波が建物のガラスを木っ端微塵に。

 

が、しかし…

 

 

 

「何を勘違いしている」

 

 

 

その一撃は、整体コネクタが刻まれたファングの右掌に、完全に受け止められた。

スラッシュの渾身の一撃は、ファングに傷一つ負わせることさえ叶わない。

 

 

「物語の登場人物は、創造主である作者には絶対に逆らえない。

それと同じだよ。君たちがどう足掻こうが僕には……」

 

 

 

掌に受け止められた大典太光世は、剣先から崩れ始め、数秒後には鉄屑となって朽ち果てる。

剣士にとって刀は命。能力で刀を無限に生成できるとしても、切り札である天下五剣を破壊されたことは、圧倒的な実力差を意味する。

 

 

「勝てないんだよ」

 

 

それ即ち、スラッシュの完敗。

それと同時、スラッシュに無数の斬撃が襲いかかる。この一瞬で叩き込まれた斬撃は、誰の意識にも留まらないほど疾く、鋭い。

 

無力な呻き声。スラッシュは膝をつき、レベル2が解除される。

 

 

「一矢報いたと思った?残念。所詮は僕の手の上に過ぎない」

 

 

その時の空気は、誰からでもわかるほど沈んでいた。

 

どんな気分だろうか。絶望を目の前にして打つ手が無いと思われた時、そこに現れた一寸の希望。

それが敵だろうが、誰だろうが、皆がその光に目を向け、手を伸ばし、奇跡を期待する。

 

だが、その希望がいとも容易く摘まれた時…

そこに光は戻ることがあるのだろうか。

 

 

「絶望とは実に多彩だ。積み上げたものが壊れた時、光を奪われた時…

例えば、目の前で命が潰えた時。たかが70億分の1が消えるだけで人は容易く絶望する。

あぁ、そうだ。3年前は本当に壮観だったよ。虫の命を摘んでいけば、瞬く間に絶望の波が広がっていく……」

 

 

その言葉で、倒れていたアサルトの記憶がフラッシュバックする。

3年前、恐怖というには生ぬるい、あの時の記憶。

 

門下生の仲間、友が謂れもなく殺された。

 

拳法の師範だった父は、自分を庇って死んだ。

 

白い牙はあの日、全てを一瞬にして蹂躙し、富士宮 太陽を復讐の鬼、アサルトに変えた。

組織に入って、あの日姿を消した怠惰という幹部の存在を知り、調べていくうちに確信へと変わった。

3年間で若くしてシルバーメモリを手に入れ、憤怒のNo2まで上り詰めた。

 

全ては家族と仲間を殺された怒りの下に。

 

ファングはその時の記憶を、まるで思い出話のように語る。

そして、なんの悪意も感じさせることなく、笑って言う。

 

 

 

 

「最高だったね」

 

 

 

その笑いは、聞いた者に悪寒を感じさせる。

その場にいた全員が確信した。

 

目の前の怪物を語るのに、死神や悪魔なんていう言葉は必要無い。

 

目の前にいるのは、「絶望」そのものだ。

 

 

 

「ざ…っけんな…!」

 

 

 

振り絞るようにして出てきた声。それは、アサルトのものではない。

拳を握り固め、怒りをその目に宿したアラシの声だ。

 

 

「命を…人の命を…なんだと思ってやがる!」

 

 

勝ち目は無い。行ったら死ぬ。

だが、アラシは怒りを抑えられない。

この化け物が相棒の名を語っていることが、どうしても許せない。

 

しかし、そこで満身創痍のスラッシュが、アラシを止めるように右手を伸ばす。

 

 

「待て。貴様は怒りに呑まれるべきじゃない」

 

 

その姿は、絶望なんかしていない。

ただ、目の前の敵を。勝機だけを見据えていた。

 

 

「怠惰。貴様は今まで、そうやって人間を見下し、人々に絶望を与えてきたんだな

だが、その程度の絶望…今更、取るに足らない」

 

 

さっきの攻撃を受け止めた、ファングの右掌。ファングが仕掛けたのは、斬撃だけにあらず。

 

 

「これは…!」

 

 

ファングの掌が紫の炎に覆われ、一気に燃え上がる。

そして、炎は生体コネクタに吸い込まれ、ファングの体を蝕む。

 

 

「絶望し、闇に呑まれるのは…貴様だ」

 

 

スラッシュが周りに、3本の大剣を生成する。

エクスキューショナーズソードと呼ばれる、斬首用の大剣。それをファングに向けて放つ。

 

普通なら牙で一瞬にして弾かれてしまうだろう。しかし、何か様子がおかしい。

 

ファングは防御することもなく直撃。

連続する3発の打撃に近い斬撃が、ファングを吹き飛ばした。

 

 

「この力…“S”…!」

 

 

吹き飛ばされる勢いは止まらず、そのまま壁を突き破って、ファングは外へ。

 

 

「今だ!ビジョン!」

 

 

スラッシュの声に、上空に浮遊している白いピラミッド状の物体が反応。

ただ、その物体には赤い一つ目が備わっている。形こそ変わっているが、これはドーパントに他ならない。

ビジョンが“空間の記憶”を内包する“ゾーンメモリ”を使用して変身した、ゾーン・ドーパントである。

 

ゾーンの能力は、一言で表すと「空間転移」。

空間平面上に将棋盤のようなマス目を出現させ、マス目とマス目を空間ごと転移させる。

 

ゾーンは扱いが極めて難しいメモリであり、強力なメモリでもある。

このドーパントがいれば、多対多の戦闘で戦況は一気にひっくり返る。味方も敵も場所交換自由自在。ただ、基本的には目に見える場所しか転移できない。今回の作戦でビル内を転移させられなかったのもこのためだ。

 

今、ゾーンはかなり高い場所にいる。マス目の範囲はおよそ10㎞×10㎞。

 

ここまでゾーンメモリを扱えるのは、ビジョンしかいない。

 

 

「了解。転移します」

 

 

視力を強化し、建物から飛び出たファングを確認。

可能な限り遠く、市街地から離れた場所まで、ファングを転移させた。

 

その瞬間、アラシやスラッシュの目の前からファングの姿が一瞬にして消える。

 

ナーブは気が抜けたようにその場に座り込むが、スラッシュやゼロは警戒を緩めない。

とはいえど、切り抜けたと言ってもいいだろう。

 

 

「流石っスね坊ちゃん。あの化け物を倒すなんて」

 

「倒してはない。オリジンメモリの力はオリジンメモリを抑制できる。その上、“S”は“F”よりも序列が上だ。向こう一週間は奴を大幅に弱体化できるが…」

 

 

そこまで言うと、スラッシュの体から力が抜け、倒れこむ。

ゼロは倒れるスラッシュを受け止め座らせ、壁に寄りかからせる。

 

 

「やはりオリジンメモリ…強さの底が知れない。今度は……!」

 

「憤るな。奴は一週間以内に残りのエージェント総出で叩く。お前はしばらく待機だ。

ハイド。今回の戦いで戦線離脱しそうな奴を教えろ」

 

「人使い荒いっスよゼロ。えっと…まずラピッドとルーズレスはメモリの支給はまだ。今回でタクトが重傷、ジャミングは…まぁ大丈夫っス。ただ、屋上に向かった下位メンバーの多くがメモリを破壊されてて、リキッドとソリッドも、リッパーと騎士のライダーの戦いに巻き込まれてやられたって報告があったっス」

 

「リッパーは」

 

「依然、戦闘中っス」

 

「そうか。後は…」

 

 

ゼロはそう言って、倒れているアサルトを一瞥する。

冷たい視線のまま、ゼロはアサルトから目を離し、通信機に声を掛ける。

 

 

「ビジョン。一斉転移、一時撤…」

 

 

ゼロに掴みかかった腕が、その言葉を遮る。

それは、怒りを露わにしたアラシの腕だった。

 

 

「テメェら…!永斗に何をした!!」

 

「待って!アラシ君!」

 

 

今にも殴り掛かりそうな勢いのアラシを、今まで動くことができなかった穂乃果が止める。

 

 

「この人は何もしてないよ!この人が来る前には、永斗君は…」

 

 

μ’sの9人は見た。あの時の永斗の目。光は無く、背筋が凍るような冷徹な目。

サボり魔で、めんどくさがり屋で、それでも根は真面目で仲間思いな永斗とは、とても思えない。

いや、もはや人間のものとは思えない、あの眼差しを。

 

それに、銃で撃たれた腕が数秒で治っていた。

どう考えたって、アレは異常だ。

 

穂乃果の言葉が、少しだけアラシを落ち着かせる。

それを見たゼロは、小さくため息を吐き、アラシに言った。

 

 

「その通りだ。俺は何もしていない。

強いて言うなら、引き金を引いたのはウチのアサルトだ。それでも、アレは元々アレだった」

 

「何?」

 

 

“アレは元々アレだった”?確かに、永斗は記憶喪失だ。つまり、記憶を失う前はファング・ドーパントだったという事か…?そして、あの人格。あれが本来の永斗…?

 

考えてみれば、アラシも永斗の事は知らないことが多すぎる。

 

 

「教えろ…お前らが知っていることを全部!」

 

 

アラシはゼロの胸ぐらを掴み、鬼気迫るものを感じさせる言葉。

だが、ゼロは動じず、ただうんざりしたような表情を浮かべる。

 

 

「立場もわきまえず物を言う、その傍若無人な態度。血が繋がってないというのに本当に似ているな。それに、躊躇いもなく戦場で立ち回る恐れ知らずどもか。アイツの教え子らしい。…心底嫌気がさす」

 

「…?なんの話をしている」

 

「お前たちが嫌いだと言っている。

お前は言ったな、奴の事について教えろと。だが、知ったところでどうするつもりだ?」

 

 

その言葉に対して、アラシに迷いはない。

 

 

「決まってんだろ!永斗を救う。その為にはアイツを知る必要がある」

 

「変身能力も無いのにか?知ったところでお前にできることは無い。単身挑んでファングに殺されるのがオチだ。そうなれば、適合者が死んで困るのは我々だ」

 

 

ゼロは掴みかかっているアラシの腕を振り払い、今度はアラシに掴みかかる。

 

 

「禁断の果実を口にしたアダムとイブ。禁断の箱を開けたパンドラ。太陽を目指して翼を得たイカロス。人類が身の丈に合わないものを望むのは神話が証明している。だが、その結果どうなった?

人間は悪の知恵を得て、地上には厄災が降り注ぎ、太陽を求めたものは太陽に翼を焼かれた。手に入れたものに対して、失ったものはあまりに大きすぎる。お前がしようとしているのは、そういう事だ」

 

 

その瞬間、ゼロの姿が。いや、その場にいる全ての者の姿が薄れていく。

勿論、アラシも含めて。

 

ゾーンの奥の手。“強制転送”。

ゾーンは目に見えてる平面上しか自在に移動させることはできない。だが、視野に入っている空間の範囲を指定することによって、立体であっても、その空間内の生体反応だけを転移させることができる。

ただし、転移先はゾーンの視界の中の場所にランダム。その上、空間内の生体反応は例外なく転移されてしまうため、これも作戦では使えなかった奥の手だ。

 

ゾーンメモリの使い手であるビジョンでさえも、転移先を危険のない場所に絞るのが限界。それでも、緊急脱出用にはうってつけの能力である。

 

 

自分の姿が薄くなっていく中、スラッシュは変身を維持したまま、

ナイフくらいの小型の剣を生成し、アラシに放つ。

 

アラシは反射的に人差し指と中指で、その剣の刃を止める。

 

 

「餞別だ。貴様がそれでも真実を追うと言うのなら…」

 

 

ナーブ、アサルト、ゼロ、そして穂乃果たちの姿が消える。

他の場所でも、気絶していたブロードキャスト、炎から抜け出したサケ、重傷を負ったタクト。

屋上で交戦していたエデンとキル、倒された多数の下位エージェントとリキッド、ソリッドが転送された。

 

偶然にも、最後に残ったのはアラシとスラッシュ。

スラッシュは深手を負いながらも立ち上がり、手元に日本刀を生成。それをアラシに向ける。

 

 

 

「武運を祈る。我が好敵手よ」

 

 

それは強者から向けられた、激励の言葉。

敵でありながらも、その言葉に偽りはなく、そして…

 

アラシはその一連の流れに、どこか既視感を覚えていた。

 

 

 

「待ってくれ…お前は…!」

 

 

 

次の瞬間。2人の姿は消え、建物内のすべての人間の転送が完了。

 

憤怒VSμ’s。組織と11人の少年少女の戦いは、一端幕を下ろした。

絶望の中に、一寸の希望を残して…

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

ーアラシsideー

 

 

 

目が覚めると、そこはさっきまでとは全く違う景色だった。

手をついた地面が冷たい。そして、湿っている。そして草の匂い。

 

敵のドーパントの能力で飛ばされたのは分かった。

ここは山か?だが、街灯がある。日付が変わったばかりだと言うのに、人通りも多い。

都内の自然公園だ。

 

スパイダーショックで現在地を確認する。

 

 

「事務所から…結構離れてんな」

 

 

とりあえず、帰ることが先決だ。

俺は手に力を入れ、立ち上がろうと…

 

 

するが、何か力が入らない。

 

相棒を失った。それを思い出すと、体から力が抜けていく。

3年間だが、ずっと肩を並べ、支え合って来た。

俺が悩んでた時は、アイツが声を掛けてくれた、手を伸ばしてくれた。

 

 

「だったら…止まってる暇なんてねぇだろ…!」

 

 

無理にでも力を入れ、立ち上がる。

さっきスラッシュに渡された短剣は、とりあえずポケットに。こんなもん持って歩いてたら通報される。

 

事務所までの長い道のり。歩きながら考えろ。足と思考を止めるな。

 

 

あの時のアイツは、永斗じゃなかった。少なくとも、俺の知っている永斗では。

確かに、俺は何も知らない。永斗との出会いも、空助が永斗を連れてきたのがきっかけだ。

 

考えてみると謎が多い。地球の本棚、あの頭脳…そして、ゼロとかいう男は永斗を知っていた。

そもそも、何故、今回は永斗が攫われた?

考えられるのは、永斗が元々組織にいたということ。それがどういうわけか、記憶を失っていた。

ファングは、3年前の惨殺事件の犯人は自分、即ち永斗だと言った。

その行動に至ったきっかけは?永斗は元々どんな奴だ?どんな境遇だ?

 

どうすれば…永斗を取り戻せる…?

 

 

アイツが何者なのかは知らない。だから、知らなければならない。

さっきの永斗が本物だとしても…

 

俺達の知ってる、ニートで、怠け者で、適当なお前は…嘘じゃなかっただろ…?

 

 

増え続ける謎に向き合いながら、足を進めること数時間。

徐々に夜空も明りがさし始める。

 

たどり着いた。俺たちの事務所に。

いつ見てもボロボロで、それでも安心できる、切風探偵事務所に。

 

 

思ったより時間がかかっているが、あっという間に感じた。

他の奴らは帰れているだろうか。組織からしても、オリジンメモリの適合者は守りたいはず。危険な目には合わせないはずだが。

 

 

「なんか…すっげぇ久しぶりに感じるな」

 

 

つい10時間前くらいのはずなのに、不思議な感覚だ。

いつも通りきしむドアノブに手をかけ、扉を開ける。

 

思わず「ただいま」と口に出してしまう。

 

いつもなら、ずっと部屋にこもっている永斗がいた。

永斗が来る前は、奥で空助がいつも何かを作ったりしていた。

 

空助が手を伸ばしてくれたあの日から、俺の隣には、俺が帰る場所には、誰かが居てくれた。

 

 

いや、違うな。今だっているじゃないか。

 

昔とは違い、今の俺には友達がいる。μ’sのアイツらがいる。

今回の作戦だって、アイツら抜きでは成しえなかった。アイツらだって、俺の隣を本気で走ってくれる、大事な相棒だ。

 

俺はいつだって、誰かと一緒じゃないと何もできなかった。

だが、それを恥じるつもりはない。仲間がいるということは、それだけで誇りだ。

 

永斗だって、失ったわけじゃない。

俺達はいつだって2人で1人の探偵で、仮面ライダー。

だから俺は…お前を知りたい。交わすべきは対話なんだ。お前が悩んでるなら、俺が手を伸べてやる。お前が苦しむなら、俺が救い出してやる。お前が歪んでしまったなら、俺がぶん殴ってでも正す。

 

お前が誰でも、お前は俺の相棒だ。

 

 

だが、俺に何ができる…?

 

 

 

 

その時、中に入って辺りを見回していた俺は、あることに気づいた。

棚の上にある金庫のような箱。空助が遺していった、謎の箱だ。

 

空助はこれを、「パンドラの箱」と呼んでいた。

 

 

『禁断の箱を開けたパンドラ…』

 

 

あの時、ゼロはそう言っていた。かすかな可能性にすがるように、俺はその箱に手を伸ばす。

実は最近、この箱を開けようと試みたことがある。

 

コーヌス事件の活動記録にも残したように、今となってはオリジンメモリの出現だったあの現象を、空助なら何か知っていたのではないかと踏み、空助の遺産であるこの箱を開けようとしたのだ。記録の“当て”というのはこれの事だ。

 

しかし、その時は鍵が締まっており、全く開く様子が無かった。

何せ、鍵穴もなければ、番号入力ボタンも、それらしい仕掛けも全くない。開けさせる気が無いとしか考えられないような箱だった。

 

しかし、今回は、箱に唯一付いていたランプが赤から緑に変わっている。

蓋を持ち、手に力を入れると、パカッという音と共に、箱が空いた。

 

 

「手に入れたものに対して、失ったものはあまりにも大きい…」

 

 

俺はゼロの言葉を、思わず口ずさんでいた。

失ったものが大きい?それがどうした。行き止まりよりは何倍もマシと言うものだ。

 

一瞬で覚悟を決め、俺は箱を開ける。

 

その中には、紙を束ねた本のようなものが入っていた。

 

試しにパラパラとめくってみる。

 

 

「これは……」

 

 

 

 

分からん。

 

 

なんだこれ!?日本語か?何やら小難しい単語の羅列が続いており、紙にビッシリと文字が敷き詰められている。しばらくページをめくると、今度は図が出てきた。これも専門用語のオンパレード。その上、絵が下手過ぎて何書いてるのかさっぱり分からん。

 

間違いなく空助が書いたものだ。

アイツは昔から、自分基準で物を考えるのが悪い癖だ。何にしても人に合わせるという事を全くしない!

 

これを俺に読ませようとしてたとするなら、本気で腹が立つ。学校すら行ってない奴に読めるわけねぇだろ。解読するのに何年かかるんだ。

 

 

…とはいえ、空助の事だ。なにか考えがあるに違いない。

しばらく見ると、後半の図のページは段々なんとなく分かってきた。これは設計図だ。

俺だって長年、空助の絵は見慣れてる。これは…ダブルドライバーに似ているが、スロットが一個しかない。

よく見れば、表紙にクッソ汚い字で書いてある。

 

 

“Lost Driver”

 

 

今になってこの箱が空いた。これは偶然ではないはずだ。

きっと、永斗の記憶が戻ったタイミングで、この箱が空くようになっていた。

 

このドライバーは、見ただけだと、メモリ一本で変身するための装置。永斗がいないときの保険のようにも見える。だが、それだけではないはずだ。

 

つまり、このロストドライバーが、この状況を打開する鍵……

 

 

これを解読は多分無理だ。これを解読出来て、なおかつ作ることができる技術者に会うのが手っ取り早い。

それも、スラッシュが言っていたタイムリミット。一週間以内に。

 

 

「ん?スラッシュと言えば…」

 

 

なんとなく、しまっていた短剣を取り出す。さっきの言葉、“餞別”の意味がどうにも気になる。

するとどうだ。さっきは気付かなかったが、短剣の刃に、模様で文字が入っている。

 

“地球の扉”と。

 

さらにもう一つ気付いた。

設計図を取った後、箱の底にもう一枚、紙が張り付いている。

これも空助直筆の、醜い極まりない地図だ。住所まで書いてある。これは、ここに行けと言う空助の遺言。

 

 

ラッキーか必然か、こんなにも一気に手がかりが手に入った。

 

残り一週間。ファングが復活する前に永斗の過去を知る。永斗に向き合う方法を見つける。

俺にできるのはそれだけ、いや、それが全てだ。

 

 

俺は適当に身支度をし、念のため、緊急時の貯金箱を開ける。

…前見たときより随分減っている気がするが、取り合えずそれを財布の中に入れた。

 

そして最後に、凛が全員に作ったフェルトの人形。俺の分までずいぶんと丁寧に作ってある。

あとは、永斗が凛から貰ったっていう、ヘアピンを鞄に入れる。

永斗のやつ、嬉しいくせに、照れ臭いのか事務所に置きっぱなしにしていた。アイツが戻るまで、これは俺が責任を持って預かっておく。

 

 

荷物をまとめ終わり、俺は外に出て、扉を閉める。

そして、扉に「休業日」の手書きの張り紙を張り付けた。

 

この事務所は、俺一人には広すぎる。

 

 

 

「今度帰るときは、永斗と一緒だ」

 

 

 

まず、この住所に行く。多分、そこにドライバーを作る技師がいるはずだ。

その後は、この“地球の扉”の意味を探しに行く。他の計画は…その時に考える。

一週間でやることは山ほどある。

 

 

「…よし」

 

 

顔を叩き、貫徹明けの頭を引き締める。

そして、ハードボイルダーにまたがり、メットをかぶる。

 

キーを回す。決意を改めて心に浮かばせる。やってやるさ、相棒と向き合うためなら。

早朝、俺は目的地に向け、エンジンをかけた。

 

 

 

______________________________

 

 

 

同刻。

 

 

ゾーンによって転移させられたファング・ドーパント。

スラッシュの力で、その力が抑えられているため、変身を解除し、永斗の姿になっていた。

 

まじまじと自分の掌を眺めるファング。そこには消えない生体コネクタが刻まれていた。

 

 

「ずいぶんと力が奪われている。でも…この程度の拘束、さっきまでと比べれば生温いね」

 

 

封印の強さ、力の感覚から出された結論。それは“5日”だった。

一週間どころか、5日あれば、力は完全に元に戻る。

 

 

「5日か…まぁ、ゆっくり待とうじゃないか。

5日も3年も、退屈な時間に比べれば、瞬きするほどに短すぎる」

 

 

朝日がさす。

 

光に包まれた絶望は、太陽を嘲るように、口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 




今回でFの話は終わりです。あ、アルファベットがってことです。“F編”はまだ続きますよ。何言ってるかわかんないかもしれませんが、ちゃんと意味があるんで。

一人で永斗を取り戻す戦いに出たアラシ。そして、記憶が戻った永斗は…
残されたμ’sは何を思うのか?その辺、頑張って書きたいと思います。

何気にスラッシュ・ドーパントが久しぶりの登場。地味にサブタイでネタバレするという。
彼はこっから活躍させていくんで、他の幹部共々、応援よろしくお願いします。

次回、“Eという少年”。

今回はもう一本あるので、そちらもどうぞ!

感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案ありましたらお願いします!
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