ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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どーもー!最近Twitterで調子に乗ってる146です!
2日で書き上げました。受験が近づいてきて地獄もいいとこでございます。

F編最終章といったな?あれは嘘だ。
纏めて書きたかったんですが、勉強しないといろんな意味でヤバイので、ここで一回切らせていただきます。

今回は永斗の真実を明かします。


第36話 Eという少年/切り札はジョーカー

8月9日 早朝。

宮城県の仙台、とある山奥。鹿とか鷹とか普通にいるくらいの山奥。

人の気配が全く無い空間の中、何故かポツンと佇む古びた洋館。さらにその中の一室で、少年は目を覚ました。いや、“戻ってきた”という方が妥当であろう。

 

目を開けると、視界がぼやけている。まったく別の空間にいたためか、音もよく聞こえず、力も入らない。ただ、なんとなく見知った女の姿は認識できた。

 

女に導かれるままに動くと、段々と感覚が戻っていくのがわかる。それと同時に、数年分の食欲を刺激する何かを感じた。

 

何かはわからないが、少年は反射的にそれを手に取り、口に入れた。懐かしい感触だ。体より、心がソレを欲し、次々と手が伸びる。満たされる感覚とともに、おぼろげだった視界や聴覚も元に戻っていく。体に力もみなぎる。そして、自分の目的も思い出した。

 

彼は日付を問う。女は「8月9日」と答えた。体感時間では数年が経過しており、数日しかたっていないことが信じられないが、今はそんなことはどうでもよかった。

 

 

ほんの少しだけ身支度をし、多少の身なりを整える。

まだ少々の違和感があるが、そんなことを気に留めないほど、彼は昂っていた。

 

 

「もう行くの?」

 

 

彼はうなずく。

 

 

「そ。そんじゃ、忘れ物だよ」

 

 

女___山神未来が放った物体を、少年は受け止める。

それは赤く、何かが入る空洞が“一つだけ”ある装置。

 

 

「それとさっき渡した“アレ”を一緒に使えば、地球の本棚に入れる」

 

 

少年は少しだけそれを見つめると、懐にしまい、ポケットからバイクのキーを取り出す。そして、緑と黒の半々という風変わりなバイクにまたがり、キーを回した。

 

 

「うん、わかるよ。顔つき変わったね。

期待してるよ、少年」

 

 

ヘルメットをかぶる前、少年は未来に振り向く。

 

 

「行ってきます」

 

 

少年___切風アラシは、そう言って微笑んだ。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

同刻、ハイドが潜伏する診療所。壁に空いた穴も完全にふさがっている。

起きたばかりのハイドは、髪をセットする前に白衣を羽織り、能力サポートの眼帯を付け、物憂げに携帯の画面を見る。

 

表示されたのは8月9日の文字。真姫に諭され、ファング討伐作戦を延期していたが、言い訳にしていたタクトの容態も回復し、でっちあげたケガの話もバレるのも時間の問題。時間稼ぎは限界だった。

 

 

「ダメだったっスか…」

 

 

ハイドは少し残念そうに呟く。本当に彼女たちが士門永斗のことを解決してくれたらどんなに良かったか。だが、どうやら叶わなかったようだ。

 

致し方なく、ハイドはメンバーにメールを一斉送信。

 

 

 

“本日正午、怠惰討伐作戦決行”

 

 

 

_______________

 

 

 

それから数時間が立ち、お昼ごろ。

 

でかでかと「ほ」の文字が書いてあるオレンジの練習着を着て、息を切らしながら少女が走る。μ’sのメンバーである、高坂穂乃果だ。

 

彼女が止まった先には、ほかのメンバーも集まっていた。

 

 

「どう!見つかった!?」

 

 

深く息を吸い込みながら、開口一番そう大声で問う。

しかし、海未はバツが悪そうに目を下に向ける。

 

 

「いえ…やはりダメでした」

 

 

ハイドに交渉に行ったあの日以来、μ’sは永斗の捜索をしていた。

ガジェットでの見回りや、メンバーで手分けして広範囲にわたって聞き込みもした。9人で思いつく限りのことはした。しかし、いまだに何の手掛かりも得られなかった。

 

 

「確か、岸戸先生は一週間って言ってた…もう時間がない……」

 

「そんな…」

 

 

真姫もいつになく思い詰めた様子だ。時間がないのは皆が百も承知。それ故に、無力感がより一層募っていく。

 

そんな中、凛が口を開き、ついにその言葉が出た。

 

 

「やっぱり凛たちじゃ何もできないんだよ…」

 

「凛ちゃん!」

「凛!私たちが諦めたら誰が…」

 

「かよちんも絵里先輩も分かってるでしょ!?凛だって嫌だよ…このままじゃ永斗くんが……!」

 

 

無力感、焦り、絶望。凛が言わずとも、誰かが言っただろう。

誰も言い返せない。タイムリミットを目前にして、誰もが心が折れる寸前だった。

 

 

「難航しているみたいだな」

 

 

その時吹いた、一陣の風。

9人は思い出し、期待した。幾度となく自分たちを救い、導いてくれた、あの探偵の姿を……

 

 

 

「竜騎士降臨!」

 

 

 

9人は落胆し、絶望した。よりにもよって、このアホが来たと。戦闘ならまだしも、こういう活動にはクソの役にも立たない自称竜騎士が来てしまった。

 

 

「なんだ、いたんですか。それで何かありました?」

 

「辛辣だな!?いや、ただ顔を見せに来た、否!我が天使を拝みに来たに過ぎない。

無論、手掛かりは我が神魔眼をもってしても見つけられなかった、というわけだ」

 

 

それを聞くや否や、全員が立ち去ろうとする。このアホに付き合うだけ時間の無駄である。さっきまでの絶望ムードも、なんだかどこかへ行ってしまった。

 

瞬樹の行動のおかげだろうか。その時、穂乃果は何かを思いついたように声を上げた。

 

 

「そうだ!みんな、提案があるんだけど……」

 

 

 

___________________

 

 

 

 

「提案って…これ?」

 

「そうだよ、ことりちゃん!困ったときはやっぱりここでしょ!」

 

 

穂乃果が全員を引き連れてやってきた場所。

それは、μ’sの第二の本拠地にして、μ’sの活動を支え、見守ってきた場所。

目の前に伸びる長い階段。

 

そう、神田明神だ。

 

 

「神頼みって…いくら何でも雑過ぎない?」

 

「ええやん。こういう時って、神様にお願いするのが案外良かったりするんよ」

 

 

にこは水を差すような発言をするが、内心どこか安心していた。

やはりここには謎の落ち着きがある。近頃は焦り、バタバタしていたためか、ここには集まっていなかった。

 

 

「よーし!じゃあ、誰が一番乗りか競争だー!」

 

「ちょ…待ってください、穂乃果!」

 

 

元気よく飛び出す穂乃果。それを追って他も階段を駆け上がっていく。

 

長い階段を上っていき、神田明神の本殿の屋根が視界に覗き始める。

スピードを上げ、一気に駆け上がる。何の理由もない、単純に息が上がっているからだろうか、それでも確かに、彼女たちの気分は高揚していた。

 

穂乃果が最後の一段を踏みつけ、一番に到着。

 

数日ぶりの神田明神の空気を、思い切り吸って吐き出す。

すると、風や木の音とは違う音が聞こえた。

 

チャリンという音の後に、手をたたく音。

さっきまで風景と同化していたかのように、気配を感じなかったが、その音でその姿が穂乃果の視界に移った。

 

その姿を見た瞬間、穂乃果の中で何かが込みあがってくる。

 

他のメンバーも到着すると、それと同時にその姿が目に入る。

 

たった数日のはずだった。

でも、何故だかわからないが、その姿を見て喜びを隠せない。

 

ある者はその姿を見て微笑み、ある者は駆け出す。

そして、その名前を呼んだ。

 

 

「アラシ君!!」

 

 

神田明神本殿の前に立っていた人物。

それは、仙台から帰還した探偵の姿だった。

 

 

アラシはμ’sの姿を見て、最初にこの言葉があふれ出てきた。

 

 

「…久しぶりだな、みんな」

 

「まだ三日くらいだよ?」

 

「あぁ、そうだったな。それでも…久しぶりだ、この場所も、お前らと会うのも…」

 

 

アラシの言葉に、穂乃果の頭には?しか浮かばない。

しかし、不思議なことにこれだけは感じ取った。

 

 

「アラシ君、どこか…変わった…?」

 

 

「アラシ先輩!」

 

 

今度は真姫が、すごい嬉しそうに駆け寄ってくる。

アラシはその姿を見て、半ば不可解な顔をしながらも微笑む。

 

が、そこに飛んできたのは真姫ではなく、にこの飛び蹴りだった。

 

 

「痛ぇじゃねぇかバカにこ!」

 

「うっさい!何日もどこ行ってたのよ!」

 

「あぁ!?テメェに教える筋合いなんかねぇよ!一人で街に降りて不愉快スマイルでもまき散らしとけ!」

 

 

そのやり取りを見て、さっき感じた雰囲気が気のせいのようにも感じる。

だが、穂乃果には、その背中が以前よりも大きく見えた。

 

みんなが集まる中、瞬樹だけはじっとアラシを見つめていた。

 

 

「お前、本当に何をしていた?」

 

「何って、ちょっと山籠もりをな」

 

 

他の9人とは違い、戦闘職の瞬樹はアラシの変化を見逃さない。

肉体的な変化はあまり見られないが、風格はまるで別人だ。澄ました静けさの中に、以前よりも大きな暴威を感じる。

 

 

「さてと、それはそうとお前ら。看板見たよな?

俺の言いつけちゃんと守ったか?」

 

 

アラシはそう言って、穂乃果の顔を指さす。

一方の穂乃果は胸を張って、鼻を高くして言う。

 

 

「実はね……!」

 

 

 

 

 

 

かくかくしかじか

 

 

 

 

「……!」

 

 

穂乃果の事情説明が終わり、アラシは頭を抱える。

話によると、こいつ等だけでハイドのところに行って、作戦延期の交渉をしたという。しかも成功したらしい。

 

 

「アホか!あれはそういう意味じゃなく、永斗を取り戻した後はライブもあるから、ちゃんと練習しとけっていう…」

 

「えぇ!?でも、じゃあなんで…」

 

 

そんなことになった発端を思い出すと、全員が顔を真っ赤にして下を向いている真姫の方を向いた。「期待されてる」とか色々言っていたのが全部的外れで、よほど恥ずかしかったのだろうか。

 

 

「ホントにお前らは…俺の考えなんて飛び越えていきやがる。

でも、ありがとな。おかげで俺も準備ができた」

 

 

 

アラシはそう言って、ロストドライバーを取り出す。

 

 

「これって……」

 

「永斗を救う方法が見つかった。お前らの力が必要だ」

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

山神未来曰く、このロストドライバーはメモリ一本で変身する用のドライバー。そして、それと同時に地球の本棚に入るための“裏口扉”らしい。本棚とつながっている永斗の意識は、本棚にあるはず。空助はそこまで見越して、このドライバーを設計したということだ。

 

つまり、実体が見つからなくても、精神世界でなら干渉できる。そのための“鍵”も手に入れた。

 

そして、手に入れた真実と、体感時間数年分の修行。

これがあれば、永斗を取り戻すことができる。

 

方法は簡単。ドライバーに“鍵”をセットして展開。しかし、試したところ、アラシ一人の体では負荷に耐えられなかった。そこで、オリジンメモリの適合者であるμ’sの一同に協力を仰いだというわけだ。

 

とは言っても、道中で儀式を行うわけにもいかない。人目が少なく、できれば共通の思い入れの強い場所の方が意識のシンクロが高まる。となると…

 

 

 

「やっぱここだな」

 

 

やってきたのは、神田明神に並んでμ’sの本拠地、音ノ木坂学園の屋上。

この高さから感じる風も、景色も、数年ぶりのものだった。

 

しかし、懐かしんでいる暇もない。

 

 

「よし、時間が惜しいから始めるぞ」

 

「ちょっと待って、確認させて。今から私たちはアラシの意識と繋がって、その“地球の本棚”に行くと…」

 

「絵理の言うとおりだ。これは師匠が言ってたことなんだが、そこでなら俺たちがWに変身するような要領で、11人の意識を一つにできるらしい」

 

「ハラショー…でもどうやって?」

 

「わからん。とにかく色々やってみるしかないだろ」

 

 

その発言に反応したのは希だった。何か企んでいる顔をしている。

 

 

「せやね。それじゃあ、手をつないでみよっか!」

 

 

すると希は瞬樹と花陽の手を取り……

 

 

「こんな風に」

 

「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 

 

二人の手をつながせる希、苦笑いする花陽、興奮し、絶叫する瞬樹。

 

 

「もっと繋がったほうがいいよね?花陽ちゃん、指とか絡めてみて」

 

「えぇっ!?こ…こうかな?」

 

「グッフォォッ!!」

 

 

困惑しながらもやって見せる花陽に、瞬樹は鼻血出して死にかけている。

 

 

「オイオイ!作戦前に一人減らしてどうすんだ!」

 

「俺はもう満足だ……我が騎士道に…一片の悔い無し……!」

 

「死ぬな!お前の騎士道それでいいのか!」

 

 

今度は穂乃果とにこが、

 

 

「手をつなぐっていうと…」

「こうよね」

 

 

穂乃果の手の上から、にこの手がかぶさるように手をつなぐ。

 

 

「「バルス」」

 

「目がァ!目がァァァァァ!!」

 

 

「うるせーぞ!凛まで何やってんだ!!お前ら3バカ纏めて天空の城と一緒に沈んどけ!」

 

 

 

馬鹿どもの茶番はアラシの制裁によって幕を閉じ、とりあえず手をつなぐことになった。

並びは適当で。瞬樹は両隣女子は命にかかわるということで、端に。問題はアラシの隣だが…

 

まぁ早かったのが真姫。有無を言わせないスピードでアラシの隣を確保した。

もう片方の隣はノリで穂乃果に。とりあえず手をつないでみると…

 

 

「……両手ふさがってんじゃねぇか!」

 

 

ということで儀式不可ということに。

 

 

「じゃあアラシ君は端っこにするとか♪」

 

「なんか締まらねぇだろ、それ」

 

 

今度は穂乃果が、

 

 

「じゃあ、みんなでアラシ君を持ち上げよう!」

 

「試合後の野球監督か、俺は!」

 

「よーし、みんな行くよー!せーの!」

 

「わ、ちょ…待……」

 

 

勢いでアラシは全員に胴上げされるが、下の連中がキャッチに失敗し、アラシは背中を痛めることに。

 

 

「いや、儀式何処行った!!」

 

 

アラシはいつものようにツッコむが、自然と笑いがこみあげてくる。

そうだ、この感じも久しぶりだ。戻るんだ、この日常に。永斗と一緒に!

 

 

アラシが先頭に立ち、その背中を全員が抑える。

まもなく正午、太陽が頂点に輝く。

 

 

「行くぞ!」

 

 

アラシはロストドライバーを腰にかざす。ベルトが展開され、ドライバーが装着される。そして、ポケットから一本の緑色のメモリを取り出す。脳のような模様で“M”と描かれたメモリ。山神未来に適合した、“M”のオリジンメモリにして、“記憶の記憶”を内包する“メモリーメモリ”。このメモリの力は、あらゆる記憶を閲覧、干渉する、全知の能力。この力で地球の記憶そのもの、つまり“地球の本棚”にアクセスする。

 

 

 

《メモリー!》

 

 

儀式の直前、凛がアラシに聞く。

 

 

「凛たちも、力になれるの?」

 

「何度も言わせんな。お前らの力が“必要”なんだ。

俺たちで永斗を取り戻そう」

 

 

その言葉を聞いた凛は、涙を浮かべ、心の底から嬉しそうな表情を見せた。

 

ドライバーにメモリーメモリを装填し、ドライバーを展開!

アラシの意識に複数の意識が統合される感覚に襲われ、その意識はまとめて何処かに吸い込まれていく。

 

 

 

 

 

頭の中に凄まじい量の情報が流れ込む、今にも頭がパンクしそうだ。

激流に逆らって泳ぐようなもので、少しでも気を緩めれば、意識が流されてバラバラになってしまいそう。

 

その時、誰かの影を見た。

 

よく認識できない。だが、その影は溺れる意識の手を引っ張り、導くように放り投げる。その先には白い扉が。

 

扉にたどり着く寸前、その影がもう一度だけ見えた。

その影は、髪の長い女性のようで。その姿には、どことなく既視感を感じ……

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、真っ白な空間にいた。

体はアラシのもの一つだけ。でも、中には確かに10人の意識を感じた。

 

現実世界とは違う感覚だが、アラシは修行でこの環境に適応済み。何食わぬ顔で進んでいく。すると、空中に浮く本棚を発見。しかも無数に存在する。

 

 

「ここが地球の本棚。文字通りだな……」

 

 

「あれ?来ちゃったんだ。もう少しだったんだけどな」

 

 

来た。その声を聴いてすさまじい戦慄を感じるアラシ。だが、もはやそこに恐怖はない。

上空の本棚に腰掛けるその姿だけを考え、力を磨いてきた。

 

 

「ファング…!」

 

「違う違う。僕は…」

 

 

ファングは本棚から飛び降り、アラシと同じ目線の場所に静かに着地。

永斗の姿のまま、混じりけのない邪悪な眼をアラシにのぞかせる。

 

 

「僕は士門永斗。君の相棒だよ。忘れたの?」

 

「違う…とも言い切れねぇな。確かにお前を呼んだのは永斗だ」

 

 

憤ると思っていたファングは、予想外の反応に思わず笑みをこぼす。

その顔は、明らかに高揚していた。

 

 

「へぇ…そこまで行ったんだ。でも…」

 

 

空間を切り裂くような衝撃波が本棚を烈断する。

永斗の腕から触手のような牙が伸び、目の前のアラシを切り裂いた…

 

かのように見えた。

 

 

目の前にいたのは肉塊ではなく、依然として人の形を保ったままのアラシだった。

 

 

「最初に違和感を持ったのは、お前の言葉だった」

 

 

再びしなる触手がアラシに襲い掛かる。

が、またしても斬撃は空を切るのみでアラシには当たらない。

 

 

「“物語の登場人物は作者には勝てない”。この表現に違和感があった。確かにお前は強い。だが、数年前の永斗の人格だとして、この表現は的を射ているとは思えない」

 

 

またもファングの攻撃が外れる。

いや、当たらない。

 

 

「ゼロの言葉にも同様なものを感じた。パンドラの箱、太陽、禁断の果実。これらはすべて、“人間が届かないもの、届いてはいけないもの”だ。不思議とお前の表現に通づるものがある。そして、俺は組織の施設跡でガイアパーツについて知った」

 

 

違う。当たらないのではない。この男は、すべての攻撃を最小限のモーションで避けている。

この空間での戦闘を数年間続けたアラシは、精神空間では現実世界よりも素早い動きをすることを可能にしていた。加えて、修行で得た超人的な集中力。それが神速の攻撃を回避させている。

 

 

「ガイアゲートの近くにあった物質が変異したもの。俺はこれを放射能のようなものと解釈したが、違った。そもそも、ガイアゲートとは何だ。地球の意思にこちらから干渉できる穴と聞いた。ならば、逆も然りのはずだ。ガイアパーツとは、ゲートから放出された“地球の意思”の力を受け取った物質。近くにあるだけで変異するのに、その中に人間が二度も落ちればどうなる?」

 

「余裕だね。いつまで避け続けられるかも分かんないのに」

 

「解答は探偵の義務だよ。話を変えて、次はオリジンメモリの話だ。俺は一つ大きな勘違いをしていた。オリジンメモリは分離した“地球の意思”。そう、意思なんだ。俺はあの時、確かに誰かの声を感じた。あれは“J”だった。そしてその直後、俺のパワーが飛躍した。そして、ファーストが使った“レベル2”。適合者の強さは、“どれだけメモリの意思と繋がったか”に左右される。違うか?」

 

 

アラシの中の絵里の意識が、永斗奪還戦の際に感じた謎の声を思い出す。そう、あれが“L”の意思だったのだ。

 

 

「なんでそれを僕に聞くのかな?」

 

「黙って聞いてろ。お前のその異常な強さにも違和感があった。さっきの理屈では、お前はかなり深くオリジンメモリ“F”と繋がっていることになる。ここでファーストの言葉が俺を真実に導いた。奴はこう言った、“オリジンメモリ。強さの底が知れない”と。同じ適合者である相手に対し、この言葉は不自然だ」

 

 

この言葉で、アラシの中にいる何人かは気づいた。

目の前にいる怪物の正体に。

 

 

「地球の意思を干渉させ、物体を変異させるガイアゲート。これは仮定だが、その穴が“オリジンメモリの出入り口”、つまり、地球の意思という精神世界から、現実世界にやってくるための扉だとしたら?そこに入った人間は?そして、お前の強さ。そう、“繋がっている”んじゃない。もっと高次な存在だとしたら?永斗の体の傷がすぐに回復したのは、“永遠に生き続ける体として、相応しいものに変異させた”のなら?

答えは一つだ。“お前”は永斗の体で現世に現れ、何かのトリガーによって永斗の感情によって覚醒した。丁度、適合者がメモリを呼び出すときのように。

 

お前の正体は……永斗と一体化した、オリジンメモリ“F”!そのものだ!!」

 

 

 

 

真実が地球の本棚に木霊し、永斗いや、“F”の動きが止まる。

 

 

「フ…ハハ……ハハハッ!97点ってところだ、素晴らしい!ヒントはあれど、“自力で”答えを手に入れたのは君が初めてだ」

 

 

嗤う“F”。アラシは再び戦慄を感じる。

 

 

「あぁ……複雑な気分だよ。下等生物ごときに見抜かれたのは屈辱だ。でも、どこかで興奮を感じている。僕は数千年間、君のような存在を待っていたのかもしれない」

 

 

“F”の手の中に、白いメモリ__ファングメモリが形成される。

 

 

《ファング!》

 

 

「お前は目覚めてすぐにファーストに邪魔された。だから永斗との融合は不完全のままだ。つまり、この精神世界でお前を倒せば、お前と永斗を切り離せる!」

 

「正解。でも、間もなく封印が解け、意識は完全に一つとなる。

惨劇(パーティー)はすぐそこだ」

 

 

自身の分身でもあるメモリを手の甲に挿入。白と青の禍々しい鬼火が体を包み込み、鬼火を切り裂き、ファング・ドーパントが姿を現す。

それと同時にアラシはロストドライバーを装着。ジョーカーメモリを取り出し、掲げる。

 

 

《ジョーカー!》

 

 

ロストドライバーにジョーカーメモリを装填。

右腕を左側に運び、腕でJを描くように構えを取り、紫の波動がアラシの体を変異させていく。

 

 

「変身」

 

 

《ジョーカー!》

 

 

空いた右腕で、ドライバーを展開!

紫電が走り、装甲がアラシの全身を纏った。

 

その瞬間、ファングの全身の牙が一斉に伸び、剛質化してアラシに襲い掛かる。

激しい衝撃音。さっきまでアラシがいた場所は白銀の牙で埋め尽くされた。

 

 

「へぇ。前座にしては楽しませてくれそうだ」

 

 

ファングが伸ばした牙は、一部が完全に粉砕され、人一人分の空間を残していた。

そこに佇むは、全身が漆黒に包まれ、胸から肩にかけ紫のラインが刻まれた戦士。絶望の中、滾る闘志を示すかのように輝く赤い複眼。

 

黒のW、否、仮面ライダージョーカー!

 

 

「メモリ一本の劣化版W。どこまで戦えるかな?」

 

「悪いが、負ける気はしねぇな。今の俺には、アイツの帰りを心から望む、10人の心と力が宿ってんだ。今の俺、いや俺たちは____

 

μ’s(みんな)で一人の仮面ライダーだ!」

 

 

アラシを合わせて11人、各々の思いを込めて、仮面ライダーは強大な敵に、この言葉を投げかける!

 

 

 

「さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

 

 

 

 

 




結構短くなりました。あと、次回はマジで未定です。受験の都合上、かなり遅くなると思われます。
ジョーカー登場で、戦闘は次回!マジで次こそはファングとの決着つけさせます。展開の遅い長編にしてしまい、猛反省しております。お許しください。


感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!


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