今回でラスト!F編長かったですね。受験勉強もありましたが、まさか1年半かかるとは…なめとんのかって話ですよね。
ラブライブ要素は限りなく極薄となったこの作品ですが、これで一段落です。
予告したとおり、今回は誰かの正体を明かします。
───なんで僕は生まれてきたの?
崩れた本棚が無数に存在する世界が燃え上がる。
その中で泣きじゃくる子供が一人。
───なんでみんな死んじゃうの?
───なんで僕を一人にするの?
その叫びは誰にも届くことなく、少年は消えない炎の中に呑まれていった。
翌日、朝。
目を覚ましたアラシは、外で精神を統一させる。今回は絶対に負けられない戦い、この街の命運が、アラシと瞬樹にかかっているのだ。
「つっても、負けていい戦いなんて一度もなかったけどな」
心は不気味なほどに落ち着いている。こうしていると修行の事を思い出すが、今回は一人じゃない。瞬樹もいるし、中には既にμ’sの皆が集まっている。
「まぁ、あの時も一人じゃなかったか。見えてなかったけど、傍には師匠が…」
精神統一で閉じていた目を開けると、診療所の敷地外にどうも見たことのある人影が…
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「やっほーーーー!みんなおはよー!弟子のピンチに駆けつける、出張ミミックお姉さんだぞ☆」
「何してんですか朝っぱらから!」
朝から元気のいい大声で病室に入ってきたのは、仙台の山奥に住む仙人こと、山神未来。そして、既に疲れが見えるアラシだった。
中にいる全員、「誰?」と言わんばかりの表情。
「あそっか、お前ら初対面だったな。この人は山神未来、ロストドライバーを作った技師で、切風探偵事務所の元・探偵、そんで俺の師匠だ」
「じゃあ、私たちの先輩ってこと!?」
「それにしても、アラシが敬語とは珍しいですね…」
関心を示す海未と、はしゃぐ穂乃果。そして、それ以上にはしゃぐ未来。
「君たちがスクールアイドルのμ’sだね!わー、聞いてたよりずっと可愛い!えーっと…うん、分かるよ。君が穂乃果ちゃんで、そっちが海未ちゃん、花陽ちゃんに絵里ちゃん、希ちゃんと…にこちゃんは聞いてた通りバカっぽい!」
「ちょっとアラシ!何を吹き込んだのよ!」
一人だけバカ扱いされたにこは納得いかない様子だが、未来のテンションは止まらない。
「そっちは…うん、よく似てる。南ことりちゃんに、西木野真姫ちゃん。あと凛ちゃんだね!悩み事かな?浮かない顔だぞ?」
いつもなら凛がハイテンションに共鳴する所だが、バツが悪そうに目をそらす。
すると、騒ぎを聞いたハイドも病室に入ってきた。
「朝からうるさいと思ったら…珍しい客っスね。山神未来…ゼロから聞いてるっスよ。その見た目で、千年以上生きてる“仙人”だって」
それを聞いたアラシ以外の全員が「千年!?」と驚きの声を上げる。
「やだなぁ。実年齢は紛れもなく23歳だよ!」
「それで、何しに来たんですか師匠。俺達は今から…」
「ゴールドメモリのドーパントと戦いに行くんでしょ?だからわたしは、そこで寝てる永斗くんを診に来てあげたんだ。ダッシュで来たから、結構時間かかっちゃったけど」
なんで事情を知ってるのかとか色々気になるが、この人がツッコミ所満載なのはいつものことなので、黙っておく。
未来は未だに眠ったままの永斗に近づき、手のひらに生体コネクタが残っていることを確認する。
「切風少年、わたしのメモリあるよね?」
「ありますけど…なんすかその呼び方」
アラシはメモリーメモリを未来に手渡す。メモリーメモリは元々未来に適合したオリジンメモリで、司る感情は「真実」。あらゆる記憶に干渉し、閲覧する全知の力を持つ。
《メモリー!》
未来がメモリを起動させると、彼女の指先に生体コネクタが現れ、それを永斗の生体コネクタに接着させた。2人の体が薄く緑に輝く。しばらくすると光は消え、未来が目を開けた。
「なるほど…色々とわかったよ。まず今の彼は、“F”と半分つながった状態にある。前よりは大分弱いつながりだけどね。でもそのせいで、“F”を倒したとき一緒に意識にダメージを受けてしまったんだ」
「じゃあどうすれば…」
「このままじゃ絶対に目を覚まさないね…でも、一つだけ方法があるよ。やっぱり王子様を目覚めさせるのは、お姫様のキス…!」
「そういうのいいですから。ていうか逆です」
「わたしの弟子のくせにノリ悪いなぁ…オリジンメモリと同化してるってことは、感情に反応するはず。そのメモリが司る感情がいいんだけど…“F”は“絶望”だし、アカンですな。誰かが彼に感情のこもった言葉をかけてあげるのがいいと思うよ。出来れば彼に対する思いを。大勢よりも一人の方がより強く感情が伝わるハズだよ。その後は、彼自身の意思次第だね」
一人と言われ、アラシはメンバー全員を見渡す。
まずアラシと瞬樹は戦闘に行くため無理。そんで、永斗に語り掛けるとなれば…
悩む時間は圧倒的に少なかった。アラシは即断し、その名前を呼ぶ。
「凛、頼めるか」
「え…!?凛!!??」
自分が呼ばれたことに驚いている凛。永斗が目覚めるかどうかは勝敗に深く関わってくる。そんな責任重大な仕事をこなせるとは思えなかった。
しかし、他のメンバーは納得したような顔で凛を見る。
「私も…凛ちゃんがいいと思う」
「かよちん!?何で…?凛は、永斗くんに言えることなんて何も……」
「凛ちゃんの気持ちでいいんだよ。正直な思いを伝えれば…きっと永斗君にも届くと思うよ…」
花陽に諭されても納得のできない凛。しかし、タイムリミットは構わずに迫る。
「時間だ。瞬樹、いけるか」
「無論。次こそ奴を葬ってくれる」
「ほどほどに頼むっスよ。さてと、こっちも連絡を…」
μ’sの9人と未来に見送られ、2人の戦士は戦いに赴く。
永斗を巡る長い戦いの最終マッチの火ぶたが、今、切って落とされようとしていた。
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数十分後。時刻は朝の10時を回っている。
近くの廃工場というアバウトな場所指定だったが、なんとか特定して2人が到着。
そこにはやはり、アサルト一人が佇んでいた。
「随分と早いなァ。それにしちゃあ、怠惰の姿が見えないようだが」
2人はドライバーを変身待機状態にセットし、メモリを取り出す。
アサルトも既にガイアドライバーを装着しており、エクスティンクトメモリを取り出した。
「永斗の奴、まだぐっすり寝てるみたいでな。でもアイツは必ず来る。それまでは…俺達が相手してやるよ」
「リベンジマッチというやつだ。覚悟しろ、復讐に囚われた哀れな獣よ!」
「笑わせんじゃねぇよ。肩慣らしくらいにはなってくれんだろうな!!」
《ジョーカー!》
《ドラゴン!》
《エクスティンクト!》
「「変身!」」
《ジョーカー!》
《ドラゴン!》
廃工場に2人の戦士、ジョーカーとエデン、そして一体の獣、エクスティンクト・ドーパントが顕現する。
「征くぞ!」
「あぁ!」
「失せろ、雑魚どもがァァ!」
エクスティンクトは開戦と同時に大規模な氷河を展開。一気にカタを付ける気だ。
しかし、その行動を呼んでいたエデン。フェニックスメモリでマキシマムオーバーを発動させる。
《フェニックス!マキシマムオーバー!》
イモータルフェザーの炎が冷気を相殺させ、氷河を消し去る。さらに熱を放出しながらエデンは飛翔。上空から急降下の刺突を繰り出す。
エクスティンクトは小型の隕石で迎撃するが、エデンが受けた傷は一瞬で治癒される。その上、氷河で防御できないため、一撃を喰らってしまう。
そこにジョーカーがさらに拳を叩き込み、エクスティンクトが怯んだ。だが流石の性能。そこまでダメージは残っていない。
「効かねぇんだよ!」
エクスティンクトの周りから巨大な植物が生え、急速に成長し、2人に襲い掛かる。
被子植物の大量発生によって二酸化炭素濃度低下が起こり、生物が絶滅したという説がある。この能力はその再現だろう。
植物はフェニックスの炎で焼き消すことができる。やはりエクスティンクトに炎の能力は有効。対策を練った甲斐があった。
しかし、ジャングルのようなフィールドは2人の視界を奪う。そこにエクスティンクトは草刈り機の刃のようなエネルギー弾を放ち、植物もろとも仮面ライダーを攻撃。死角からの攻撃をまともに喰らってしまう。
さらにジョーカーの足元にヒビが入り、直感的に回避。次の瞬間、その場所に火柱が、いやマグマが吹き上がる。
2人は攻撃の回避を続けるが、それでは消耗するだけで直にフェニックスメモリの能力も切れる。
そうなれば氷河を展開され、厳しい戦いとなってしまう。その前に有効打の一発でも加えておきたい所だが…
「あぁクソ!しゃらくせぇ!!」
焦りもあってか、エクスティンクトがいるであろう方向にダッシュしたジョーカー。だが、やけくそという訳ではない。エクスティンクトの姿を見つけると、切断された植物や残っている氷河を足場に、縦横無尽に立ち回る。ファング戦での本棚を足場に使った戦術を、体が覚えていた。
エクスティンクトの黒い頭部に蹴りが炸裂。だが、攻撃が浅い。それなら…
《ジョーカー!マキシマムドライブ!!》
「ライダーキック!」
ジョーカーメモリをスロットに装填し、マキシマムドライブを発動。エネルギーが込もったキックがエクスティンクトの身体に突き刺さった。だが…
「効かねぇっつってんだろ!!」
エクスティンクトに脚を掴まれ、宙に放り出されるジョーカー。マキシマムドライブが効かなかった事に驚きを隠せず、対応が遅れてしまう。
「テメェはコイツを避けられねぇんだったな。ここで死んどけ、片割れライダー!」
地面から出現するのは、氷の巨槍。カオス戦で一度使われた技だが、威力が比較にならない。
エデンが炎を放出しても間に合わない。迫りくる氷山が、ジョーカーを貫く───
「助太刀するぞ。我が好敵手」
刹那。キンと高い金属音が聞こえ、次の一瞬には氷山が微塵に切り裂かれていた。ジョーカーの視界に映るのは、剣士の背中。
なるほど。助っ人がこれなら一人でも十分すぎる。
アラシの知る限り、最強の助っ人。
「ファースト…!」
「餞別は役に立ったようだな。本当なら敵として相見えたいところだが、不完全な貴様と戦っても価値はない。まずはあの馬鹿を共に倒すぞ。立てないというのならそこで寝ていろ!」
ファーストことスラッシュ・ドーパントは日本刀を手に攻め入る。一瞬で間合いを詰め斬りかかるが、エクスティンクトの防御を前にダメージを与えられない。
「ならば…重い一撃を浴びせるまで!」
スラッシュは持っている日本刀を上空に放り投げ、手元に別の刀を生成。数歩だけ後ろに下がったと思うと、敵に反撃をさせる隙も与えず再び接近!
「天下五剣 数珠丸恒次。我流剣 八ノ技…
エネルギーで固形化された、飛ぶ斬撃。大地を抉り、その勢いは止まらない。そして、その斬撃はエクスティンクトの体をも抉る!
「グアァァァっ!!」
初めてエクスティンクトに深い傷が刻まれる。そのタイミングで宙に投げた刀がスラッシュの手元に戻り、エクスティンクトの傷に突き刺した。これで簡単には再生できない。
エクスティンクトは小型の隕石を無数に生成し、スラッシュに放つ。しかし、スラッシュは後ろに飛びながら、向かってくる隕石を全て叩き斬る。
「貴様ばかりにいい格好はさせんぞ、侍!」
炎で障害物を焼き尽くして現れたのは、エデンドライバーを構えたエデン。炎を纏った槍がエクスティンクトを貫く。出力は言うまでもなく全開。不死鳥の一撃が、エクスティンクトを燃え上がらせた。
「話には聞いている。貴様が騎士のライダーか」
「フッ…竜騎士シュバルツと呼べ。貴様の事も聞いているぞ。道は違えど騎士と剣士、互いに一つの道を征く同士だ」
「……一緒にするな」
槍と刀の乱舞がエクスティンクトの攻撃を捌き、確実にダメージを積もらせていく。
だが、それだけでは終わらない。この状況で、アラシが黙っているはずもない。
「俺を無視してんじゃねぇよ!」
《ジョーカー!マキシマムドライブ!!》
「ライダーパンチ!」
再びマキシマムドライブを発動させ、今度は拳にエネルギーを込め、エクスティンクトに叩き付ける。一撃では効いている様子はない。ならば…
「何度だって叩き込む!」
言葉の通り、エクスティンクトに連撃を叩き込むジョーカー。スペックは貧弱であるが、何十発も殴っていれば流石にダメージとなる。
渾身の一撃が炸裂すると、エクスティンクトの体が衝撃に負け、吹っ飛ぶ。ファースト加勢、それによる相乗効果も相まって、形勢は逆転したといってもいいだろう。
「ファースト…!何でテメェが邪魔しやがんだ…!?」
「適合者が死なれると困るだけだ、貴様にもな。それにしても、少し見ないうちに半端な男になったものだ」
「んだと…!!」
エクスティンクトがマグマを放出。凄まじい出力だが、スラッシュ及び仮面ライダー2人はそれを躱す。
「気付かんのか。まずそのメモリ、能力の範囲は目を見張るものがあるが、対個人では能力を十全に発揮できない。復讐の手段としては、少々的外れだ」
それを聞いたアラシは感じていた違和感の正体に気づく。
「そうか…カオスの上位互換に見えるが、その規模を比べるとまるで別物だ。カオスが能力を周辺に留めるのに対し、エクスティンクトはぶっ放す。拳法を基本スタイルとするアサルトとは、能力が噛み合わねぇ!」
道理で戦っていて以前のような無駄のなさを感じなかったわけだ。単に能力に合わせた戦い方が、肌に合っていなかったということだった。
「だからどうしたってんだ!どんな力だろうが構わねぇ!俺は怠惰をブチ殺すだけだ!!」
「口は達者だが、貴様の戦いに迷いを感じるのは気のせいか?」
ファーストの思わぬ指摘。エクスティンクトの動きが止まる。
「迷い…?何ぬかしてやがんだ…俺は!」
「お前も聞いたはずだ、怠惰の真実を。それを聞いて自身が持てなくなったのではないか?自分が選んだ、“復讐”という選択に!」
アラシの中でまた一つ腑に落ちた。メリットは一つもないのにタイムリミットを指定した理由、それは、無意識のうちに迷いが生じていたから。永斗が本当に、殺すべき仇なのかに。
腑に落ちたのはアサルトも同じだ。殺そうと思えば、エクスティンクトのウイルス能力で街ごと殺せたはず。なのに、そうしなかった。自分でも分からなかった理由が“迷い”だった。
受け入れるわけにはいかない。でも、事実であることは自分が一番わかってしまう。
一瞬でも恨み続けた相手を許してしまった事実は、彼自身の信念、目的、存在意義さえも揺るがす。
「だから言っている。“半端者”とな」
「黙れ…黙りやがれぇぇぇぇ!」
そして、揺らいだ心は
メモリを暴走させる。
「ガ……グァ…アァァァァァァ!!!」
エクスティンクトの体に無数の赤いラインが走る。まるで充血した眼球のように。
暴走した能力はブレーキを失っているため、出力は大幅に上がっている。
暴風、マグマ、氷河、ウイルス、植物、地割れ。あらゆる天災が廃工場を跡形もなく消し飛ばした。
なんとか耐えきった3人だったが、正直、受けたダメージは軽いとは言い難い。
嫌に澄み切った青空の下。佇むのは、理性を失った正真正銘の怪物。
そして瞬樹は気付いてしまった。
「アラシ!あれは…」
「オイ…マジかよ!」
上空の小さな点が、さっきよりも大きくなっている。能力の暴走で、隕石の落下が予定よりも早く始まってしまったのだ。
「戦意を折るつもりが、どうやら失敗のようだな」
「失敗どころじゃねぇよ、ファースト!やっぱ慣れねぇ共闘はロクな事ねぇな!」
もうそんなこと言ってる場合ではない。手が付けられなくなったアサルトに、隕石。状況が詰みに漸近している。これを覆せるとすれば……
「永斗…!」
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診療所の永斗が眠る病室。眠ったままの永斗の横に凛が座っているだけで、他は誰もいない。
永斗を目覚めさせる重要な役目。それに自分が選ばれたことが、未だに理解できない。それでも、やるしかない。
とは言っても何を言えばいいかわからない。何かを言う資格は無いとも思えてしまう。
「…やっぱりわかんないや。だから、凛の思ってたことを言うね」
それはメッセージというよりは、愚痴か、それとも自責か。少なくとも凛の口から出てきたのは、そういう言葉だった。
「凛ね、昔っから怖がりだったんだ。かよちんよりもずっと。でも、永斗くんに背中を押されてμ’sに入って、探偵部にもなって、力にもなれて…少し変われた気がした。でも…そんなことはなかったんだ」
凛は初めてハイドと対峙した時を思い出す。あの時振り絞った勇気は、一瞬で恐怖にかき消されてしまった。
「穂乃果先輩が真っ先に声を上げて、真姫ちゃんも自分のできることをやり遂げて、皆が永斗くんを助けるために戦ってた。でも凛は…何もできなかった。すぐに弱音を吐いて、怖くなって……あの時、永斗くんに助けなんかいらないって言われた時も、迷っちゃった…永斗くんはとっても大切な友達で、助けたいって思ってた。でも、それと同じくらい、凜は自分が死んじゃうのが、怖かった……」
───“自分”っていう器をどう飾って、何を入れるかはその人の自由だと思う
凜は永斗と初めて会った頃、言われた言葉を思い出す。
臆病で泣き虫、冷静に物を見れなくて、少しのきっかけで揺れてしまうほど心が弱い。きっとそれが星空凛という器なんだ。どう努力したって、そう簡単に変えられるものではない。
そして、その器は恐怖でいっぱいで、勇気が入る余地なんてなかった。
自分は皆より弱い。皆のようにできない。自分の小さくて弱い器がこの上なく恨めしい。
無理に張り詰めた器には傷が入り、貯めこんでいた弱さが、本音が溢れ出す。
「怖いよ…もう戦いたくないよ…!だから帰ってきてよ……ずっと一緒にいて、凛のこと守ってよ、永斗くん…!」
あふれた感情が言の葉となり、涙となって現れる。
ゲーム研究会の一件、ハイドとの2度の対峙、どれもそこには永斗がいた。
凛が勇気を出せたのは、永斗がそこにいたから。信頼でき、親しく、自分よりずっと先の憧れる姿があったから。
凛を変えたのは、永斗だった。
「凜は凜のことが嫌い。ほかの皆みたいにかわいくなれなくて…弱くて、勇気も出せないし、自分のことしか考えられない。でも、そんな凛を、永斗くんは“かわいい”って…“弱虫なんかじゃない”って言ってくれた。自分でもびっくりするくらい、すっごく嬉しかったんだ。だから……永斗くんじゃなきゃ嫌だ!凛は永斗くんのこと────
大好きだから」
それは想いが生んだ結果。弱々しく、我儘な、飾りのない本心のままに
凜は目を閉じて、眠る永斗に顔を近づける。吐息が鮮明に聞こえる。精一杯の勇気が彼女を動かし、
その小さな唇は、永斗の唇と重なった。
「会いたいよ………永斗くん」
一筋の涙が永斗の顔に落ちる。
やっと分かった。永斗のことを知ってしまったのも、この選択も、間違いかどうかなんて分からない。ただ、大好きな人といる時間は、絶対に“間違い”なんかじゃない。
目を開けた凜が目にするのは、涙でぼやけた世界。そして、そこには永斗の姿はなかった。
さっきまで閉まっていたはずの窓。そこから吹き抜ける乾いた夏風が、凜の涙を乾かした。
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「ア゛ァァァァァァッ!!」
呻き声を上げ、エクスティンクトは暴走を続ける。
能力のブレーキが外れ、近づくことすらもままならない。スラッシュのレベル2を持ってしても、都市を壊滅させるほどの力を突破しきれるかは分からない。
本来ならこのままエネルギー切れを待ち、耐久戦に持ち込むのがセオリーだが、隕石は刻一刻と地表に近づいてきている。そんなことをしている暇はない。
数十メートル上から隕石を無数に落とすエクスティンクト。それはさながら流星群。スラッシュが同程度の手数の剣を生成して迎撃するも、同時に襲い来るマグマの砲撃は捌ききれない。
少しでも油断すれば氷河が自由を奪う。フェニックスは力を使い切り、ジョーカーが使うヒートでは火力不足。一度足を捕らえられたら、逃げることは容易でない。
しかし、空気中に充満する瘴気が問題だった。生命を蝕む感染型ウイルスだ。死ぬことはない分即効性で、数分と立たずに目まいと頭痛が襲ってくる。そんな状態で戦いを続行するのは無理というものだ。
「動けるか、仮面ライダーの片割れ」
「誰に言ってやがる…目まい及び頭痛は大体気のせいってのが常識だ」
「竜騎士は風邪を引かん!」
3人の戦士は気迫でなんとか意識を保っている。
そんな中でも攻撃は手を止めない。氷河の槍がスラッシュへと飛ぶ。
巨大剣を生成し、一刀両断。そのままエクスティンクトに突っ込み、巨大剣で斬り付けた。
暴風のバリアが攻撃を阻み、届かない。間近まできたせいで、スラッシュはエネルギーカッターを喰らってしまう。
だが、その瞬間、防御が弱くなったのをエデンは見逃さない。
《ユニコーン!マキシマムドライブ!!》
「白亜の竜よ、紫苑の角獣よ。誇りを掲げしその牙で、勇猛なるその角で、今こそ其の罪を祓い、敵を穿て!
モノケロスギアを装着したエデンは、マキシマムドライブを発動。エネルギーを振り絞った一撃が、エクスティンクトの防御を引きはがすことに成功した。
「今だ!アラシ!」
「あぁ!」
そのタイミングを待っていたジョーカー。渾身のエネルギーを込めた拳を、エクスティンクトに叩き込む!
が……
「ッ…!ッソが…」
やはりメモリ一本では貧弱。そのパンチは届く前に受け止められてしまう。エクスティンクトはそのままジョーカーの腕を掴み、つるし上げた。
そして、エクスティンクトの手に、冷気を纏わりつく。
「…!やめろ!!」
「させん!」
危機を察知し、エクスティンクトに立ち向かうスラッシュとエデン。しかし、既に防御は元の状態に回復してしまっている。意識も朦朧とする中、そう簡単に防御を突破できない。
ジョーカーの体を放り投げるエクスティンクト。そこに、冷気を帯びた腕を氷槍へと変化させ……
ジョーカーの腹部を貫いた
「アラシ!!!」
抉れ、砕ける肉体。刹那の惨状にエデンが叫ぶ。しかしエクスティンクトの一撃はロストドライバーに直撃し、アラシは一命をとりとめた。
だがロストドライバーは大破。変身も解除されてしまう。さらに生きていたとはいえど、その痛々しい傷は戦闘不能と判断するには十分だった。アラシの手元に残ったのは、壊れないジョーカーメモリのみ。
暴走したドーパントに慈悲は存在しない。目の前の獲物を狩るだけの獣は、アラシに腕を振り下ろした。
その時だった。
白い斬撃がエクスティンクトの攻撃を砕き、さらに加速してエクスティンクトを迎撃する。
予想外の攻撃に怯むエクスティンクト。白い斬撃は恐竜の声のような電子音を鳴らし、アラシの前に降り立った。
それは白く、薄透明なメモリガジェット。その風貌は恐竜のヴェロキラプトルのよう。
そして、そのメモリガジェットは回転しながら、ある人物の手に収まった。
アラシでも、エデンでも、スラッシュでも、エクスティンクトでもない。
病院から抜け出したような服装で、髪はボサボサ。相も変わらず顔には覇気が微塵も感じられない。
アラシに湧き上がる得も言われぬ感情。
言葉にするにはあまりに大きく、複雑なそれは、ただ彼の心を熱くする。
「ーッ…!遅ぇんだよ……!」
「ごめん。待たせたね」
その姿に、その場にいた誰もが驚いた。
「帰ってきたのか…!」
「士門…永斗…」
その男の名は士門永斗。仮面ライダーダブルの片割れで、アラシの相棒。数多の戦いと苦悩、覚悟を経て、今ここに戦場へと舞い戻った。
「面倒くさがりのお前を引っ張り出すなんて、凜に何言われたんだ?」
「さぁ、よくは覚えてない。でも…ずっと欲しかったモノを貰った気がした。そうだアラシ、アレ持ってるよね?」
アレと言われて、アラシはすぐに思い当たった。懐から箱を取り出す。
それは凜から貰ったヘアピン。永斗はそれを受け取り、寝ぐせのついた前髪を留めた。
そのせいだろうか。どこか以前とは雰囲気が変わって見える。
「…ガァ……!ア…タイダァ……!」
その姿を見たエクスティンクトは様子を変えた。心の歪みが大きくなり、暴走は激化する。纏うオーラはより禍々しいものとなる。最早、生命ではない。一種の災害と言って然るべき存在となってしまった。
「永斗…アイツは…」
「状況は分かってる。アレは僕が作り出した化物だ。だからここで……ケリを付ける!」
アラシはダブルドライバーを装着。それと同時に永斗の腰にもダブルドライバーが現れる。
《ジョーカー!》
ジョーカーメモリを起動し、ドライバーに装填。
しかし、アラシの体はメモリの力に耐えられず、膝から崩れ落ちてしまう。
「クッソ…!こんな時に……!」
「その傷じゃ無理だ。僕がやる」
「何言ってんだ!俺も戦うぞ!!」
「わかってるよ。だから……
約束通り、半分だけ力を貸して」
永斗は手元に収まった恐竜型メモリガジェットをライブモードから変形。通常ならサポートツールに変形するが、このガジェットはそれとは異なる。
手足、頭部を畳み込み、隠れていた“ソレ”を弾く様にタッチし、その姿を出現させる。
それは紛うことなきガイアメモリ。そのメモリを見たスラッシュは驚きの声を上げる。
「馬鹿な…アレはファングメモリ!」
ファングメモリは組織が厳重に管理していた。何より、オリジンメモリをガジェットと同化させるなど、聞いたことがない。
《ファング!》
メモリの起動と同時に、ジョーカーメモリが永斗のドライバーへと転送される。
アラシも何が起こっているのか分らない。この現象はいつもと逆であり、それは“永斗の体でダブルに変身する”ことを意味している。
ただ、これだけは分かった。
俺にできるのは、永斗を信じることだけだ。
「「変身!」」
永斗はジョーカーメモリを押し込み、ファングメモリを装填。そしてドライバーを展開!
永斗の体にアラシの意識が流れ込む。そして、ファングメモリの力が永斗の中で暴走する
「負けるか……!決着を付けよう……"F"ッ!!!」
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「まさか僕を使うとはね。てっきり消すものだと思ってた」
永斗がいたのは、地球の本棚。しかし、先の激闘によって既に崩壊しており、それどころか空間が燃え上がっている。その中心にいるのは、小さな子供。直感的に分かる。これが“F”の本当の姿だ。
「力を貸すつもりはないよ。お前らのせいで向こう200年は身動きできなくなったからね。でもこれで道連れだ」
「分かってるさ。だから……
僕と一つになれ、“F”」
それが、永斗の決断だった。“F”との分離のために戦ったアラシ達とは相反し、永斗は敢えて一つになる道を選んだ。エクスティンクトを倒し、人々を救うにはそれしかない。“F”が消耗しきった今ならば、永斗の人格をメインに融合することができるかもしれない。だが……
「はっ…正気か…!?自由に恵まれ、命に恵まれたお前たち人間が!この呪われた運命を自ら選ぶというのか!?」
「やっぱり。それが君の本音なんだね」
“F”は自分の口から出た言葉に驚く。永斗は“F”と融合している間、感情を共有することで気付いた。彼は人間を見下していたんじゃない。そうするしかなかったのだ。
「君は人間が好きだったのかもしれない。でも、“絶望”を司る君は、出会った適合者を不幸にしかできなかった。ずっと独りで、バッドエンドを繰り返しながら、永遠の時を生きるしかなかった。だから壊れた、壊れるしかなかったんだ」
「だったら分かるはずだ!!この運命がどれだけ残酷なのか!僕がどれだけ…自分を呪ったのか!!僕を消さなければ、待っているのは絶望だけだ!」
「それでも!!守りたい…大切な人達がいるんだ。
絶望しかないのなら、僕は絶望しながら前に進む、誰にも認められなくても…終わりなんてなくても…この罪を償う!」
信じられなかった。どうして人間がそんなことを言える。
同じだったはずだ。関わる人をみんな不幸にしてきた。命にも、自由にも恵まれなかった。どこまでも憐れな、呪われた運命。だからこそ、“F”は永斗を選んだ。それなのに、コイツは選んだ。永遠の絶望の中、それでも諦めず、前に進む道を。
“F”がずっと、選べなかった道を。
「バカな…勝てるわけがないんだ。“人を不幸にする”それが僕たちの運命なんだ!」
「勝つさ。だって僕は───」
激情し、永斗に殴り掛かる“F”。だが、その腕は永斗の眼前で止まった。
誰かが“F”の腕を掴んでいる。燃える空間の中、現れたのは……切風アラシの姿だった。
あぁ、そうか。一つだけ、違ったんだ。
「妬けるなぁ………」
“F”の姿が、永斗の体に吸い込まれていく。
残された2人を中心に、空間が修復される。炎は消え、本棚は再生する。眼前に広がっていくのは、真っ白な、美しい光景───
再生した世界で、白き獣が雄叫びを上げる。
_______________
《ファングジョーカー!!》
「『ウアァァァァァァッ!!』」
アラシの体が倒れ、永斗の足元から装甲が展開されていく。
右半分は白いボディに黒のライン。左半分は黒いボディに紫のライン。全身に牙が生えたような獰猛な姿だが、それでいて洗練されている。鋭さを増した赤く輝く複眼から延びるのは、涙の痕のような黒いライン。
ドライバーに装填されたファングメモリは変形しており、さながら恐竜の頭蓋骨。
これが、仮面ライダーダブル ファングジョーカー!!
「タイダァァァァ!!」
エクスティンクトは中型の隕石を生成し、発射。だがダブルは避けるそぶりを見せず、逆に突っ込んでいく。
《アームファング!》
ファングメモリの角ように見える部分を押すと、能力が発動。右手首に刃が装備される。
そしてその刃で、隕石を一刀両断。
エクスティンクトは次々に攻撃を続ける。しかし、ダブルはそれらを全て切り裂き、進む勢いを止めない。
「ずっと罪から目を背けてきた。“面倒だ”って、考えもしなかった。そのせいで…皆を傷つけた!」
暴風のバリアも2、3撃で破壊。凄まじい推進力とスラッシュ・ドーパントをも凌駕する攻撃力。それこそがファングジョーカー最大の武器。
『信じてるなんていいながら、俺は相棒の事を何も知らなかった!一瞬でも、永斗を疑った!』
防御が消えたエクスティンクトに斬撃を浴びせた。その攻撃スタイルは、まさしく暴れ狂う獣。
それでもなお、エクスティンクトは暴走を続ける。
理性を失い罪を犯した人間に、2色の戦士はこの言葉を投げかける!
「僕たちの罪は数えたよ。さぁ…」
「『お前の罪を数えろ!!』」
白亜の斬撃がエクスティンクトを穿つ。
エデンとスラッシュの出る幕がない程に、ファングジョーカーはエクスティンクトを圧倒していた。それもそのはずだ、エクスティンクトは近距離戦ではカオスメモリに劣る。そして、理性を失った攻撃は読みやすく、正面の攻撃なら確実に突破できるファングジョーカーの前には無力。
そして、オリジンメモリと同化し不変となった永斗に、ウイルスは効かない。
これは運命が引き寄せた最適解。エクスティンクトにとって、ファングジョーカーは最強の天敵と言ってもいい。
だが、永斗は知っている。このメモリにはもう一つ、恐ろしい能力が眠っている。
「タイダ……オレハ…オマエヲ…!!ガァァァァァッ!!!」
エクスティンクトの纏っていたローブが広がり、肉体が隆起する。いや、隆起なんてものじゃない。これはまさに、ティラコスミルスのような巨大化能力だ。
その姿も人型から変貌する。大きな翼、七つの頭を持ち、十の角を生やした竜。体を走っていた赤いラインが全身を巡り、体全体を紅蓮に染め上げた。黙示録の獣を彷彿とさせるその異形を、永斗が言葉にする。
「エクスティンクト・ドラゴン。あれがエクスティンクトメモリの真の力だ。力尽きるまで暴れ続け、このまま倒しても、変身者の命はない」
「ドラゴンだと…?俺とかぶっている!」
『かぶってねぇ黙ってろ』
「それで、アレをなんとかする方法はあるんだろうな」
スラッシュが上空で飛翔するエクスティンクト・ドラゴンを指さして問いかける。暴れる異形には、もう微塵の理性も感じない。
「もちろん、彼を救う方法が一つだけ。力を貸してくれるなら…だけどね」
永斗は全員に作戦を伝えた。それを聞いたスラッシュは所定の位置に移動。エデンはエデンドライバーのドラゴンメモリを引き抜き、エデンドライバーに装填した。
《ガイアコネクト》
「我と契約せし白亜の竜よ。神々の力と我が魂が命ず。
我が信念を糧とし、我と一つになれ。我が身を光輝の神竜と成せ!!」
《ドラゴン!マキシマムオーバードライブ!!》
エデンがドラゴンのマキシマムオーバードライブを発動させ、全身に竜の装甲を装備し、神獣となった姿、エデン・オーバードライブに変化。エデンが翼を広げると、ファングジョーカーはその上に乗り、飛翔した。
エクスティンクト・ドラゴンはエデンめがけて攻撃を開始。それぞれの首から異なる攻撃が繰り出される。
《ショルダーファング!》
ファングメモリの角を2回押すと、今度は肩に刃が出現。ダブルは刃を取り外し、エクスティンクト・ドラゴンに投げつけた。
刃は空中を旋回しながら、吐き出される氷河、隕石といった固形物を破壊し、エクスティンクト・ドラゴンを斬り付ける。だが雷や風の攻撃、中心の首からの黒い炎は対処できない。
そこはエデンの飛行スピードでなんとか回避する。特に黒い炎は一度付いたら対象が炭化するまで消えない、呪詛の炎。そのことを事前に聞いていなければマズかった。
ショルダーファングは自在な軌道を描き、攻撃と防御を行う。さらにエデンも攻撃に参加しているが。決定打に欠ける。そこでダブルは、エデンの背中を足場に、エクスティンクト・ドラゴンに飛び掛かった。
「××××!!×××××××××!」
声にならない奇声を上げ、ダブルに襲い掛かるエクスティンクト・ドラゴン。ダブルはショルダーファングを操り、足場とすることでもう一段ジャンプ。エクスティンクト・ドラゴンの攻撃を避け、アームファングでエクスティンクト・ドラゴンの片翼を切断した。
「瞬樹!ここで決める!!」
「承知!」
ダブルの落下方向に先回りしたエデンは、右腕に備わった巨大なクローとパワーで、ダブルを高く打ち上げる。
それと同時にマキシマムオーバードライブが解除されてしまった。
だが、問題はない。最高到達点に達したダブルは、ファングメモリの角を3回弾く!
《ファング!マキシマムドライブ!!》
右足に刃が装備され、ダブルは右足を突き出したポーズで、体を軸にしたチェーンソーのように回転。
落ちていくエクスティンクト・ドラゴンよりも速いスピードで距離を詰める。
「これで終わらせる。行くよ、相棒!」
『あぁ!!』
回転は加速し、刃にエネルギーが充填される。言うなれば、今のダブルは万物を狩り取る、斬撃の嵐。
「『ファングストライザー!!』」
全てのエネルギーを一撃に収束。蒼白い斬撃が、恐竜が獲物に噛みつくように刻み込まれた。
刻まれたFの残光───それは、絶望のピリオド。
「××××××××××××!!!」
ダブルが着地すると同時に、エクスティンクト・ドラゴンは爆散した。
炎を纏った巨体が、まるで隕石のように落下する。そこに、スタンバイしていたスラッシュが飛び上がり、抜刀。
「我流剣 六ノ技…」
目で捉えられないスピードで、ただ一太刀だけが繰り出された。
「
その一太刀は、エクスティンクト・ドラゴンのガイアドライバーのみを破壊。その姿はアサルトに戻り、エクスティンクトメモリは空中で砕け散った。同時に、迫っていた隕石は砂塵となって消滅したのだった。
落下するアサルトをスラッシュがキャッチ。メモリだけを破壊できたため、息はあるようだ。
「助けろだなんて…頼んじゃいねぇ…!」
ダブルとエデンは変身を解除。すると、アサルトがそう言って立ち上がり、永斗の前に立つ。
「……ざけんなよ、怠惰…!これで…許されたつもりか…?俺はまた、お前を殺しに来るぞ……!」
「それでいい。僕はもう忘れちゃいけないんだ、僕の…罪を。だから、ずっと恨み続けてくれ。もう二度と、忘れてしまわないように……」
混沌とする頭じゃ理解できなかった。
それを聞いたアサルトは呆れるように吐き捨てる。
「んだよ…それ……」
それだけ言って、アサルトは意識を失った。
恨み言なのかもしれない。だが、その顔はどこか笑っているように見えた。
「これで今度こそ一件落着…だな」
意識が戻ったアラシが、傷を抑え合流。しかし、スラッシュは持っていた刀をアラシに向けた。
どうやら、まだ一件落着ではないらしい。
「これで停戦も終結だ。任務通り、怠惰を抹殺する」
「な…待て!」
そう言って、スラッシュは永斗の首をめがけ、刀を───
「と思ったが、やめだ。どうやら“F”の危険は去ったらしい」
刃は永斗の首に届く寸前で止まり、消滅した。
アラシと瞬樹はほっとしたような文句言いたげなような顔でスラッシュを睨みつけている。
「組織を裏切った“怠惰”は記憶を失う前の士門永斗。記憶が戻ったかどうかは、こちらでは判断しかねる。それに、組織は既に士門永斗は不要との判断を下した。我々が貴様らを狙う理由はなくなったということだ」
「つまり、もう戦わなくていい…ってこと?」
首はね寸前だったというのに、永斗は冷静に聞く。
「少なくとも、今回の共闘が明るみに出れば“憤怒”の地位は下がり、表立った任務は減るだろう。だが忘れるな。近いうちに必ず、お前たちのメモリを頂く」
そう言って、スラッシュはアサルトを連れて去っていった。今回戦わなかったのは、ファーストなりに恩義を感じているからかもしれない。
何にせよ、これで正真正銘の一件落着だ。
体から力が抜け、アラシが大の字になって寝ころんだ。
「終わったぁー……帰ったらまずメシだな。いや、その前に病院か。腹に穴開いてるし」
「フッ…この程度の傷、我が天使を目にすれば一瞬!今行くぞ!我が天使!!」
「変態が行ったぞ、止めろ永斗」
「はいはい…」
戻ってきた、永斗はそう実感する。
自分が消えることで、この時間を守ろうとした。でも…やっぱり、僕はここに居たい。
「まだ夏休みだからな。あいつ等もお前と遊びたがってたし、ライブだって予定通り進める」
「アニメは?」
「全部録画してあるよ。だから……
一緒に帰るぞ、俺達の家に」
「面倒くさいなぁ…でも、付き合うよ。ずっと…」
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8/11活動報告書
事務所に到着した俺達は、休業の看板を取り、扉を開けた。電気をつけると、そこに待っていたのは穂乃果たち。まるで誕生日パーティーでもするようなテンションで、ケーキやら料理やらを並べていた。
俺と瞬樹が中に入り、最後に永斗が皆の前に姿を見せた。
穂乃果達が永斗に駆け寄る。だが、誰よりも早かったのは凛だった。
凜は泣きながら、永斗に抱きついて、この言葉をかけた。
「…おかえり!」
「ただいま」
色々あったが、報告書に書くことと言えばこれくらいだ。
俺達の事務所に、永斗が帰ってきた。
ー“F”編、完結ー
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「こんな所に呼び出して、何の用だ。リッパー」
呼び出されたゼロの前に佇むのは、キル・ドーパント。“憤怒”のNo6 リッパー。ファング討伐作戦にも不参加で、暗殺部隊から配属されたばかりの最も謎の多いメンバーだ。
「いえ。ただ、今回の件で“憤怒”の信用は地に落ちたものですから」
「信用なんぞハナから気にしていない。ウチが不要と判断したのなら、さっさと抜ければいい。俺達は俺達の目的のために動くだけだ」
「そのつもりですよ。ですが……」
キルは短剣を構え、ゼロに襲い掛かる。
「ゴミはすぐに片づける主義でね」
しかしゼロは何食わぬ顔で攻撃を捌き、キルに蹴りを入れた。生身だというのに、その身体能力はドーパントに比肩する。
「やはりメモリは使わないんですね?」
「無駄遣いはしない主義…ってやつでな」
しばらく激闘が繰り広げられた。
生身vsドーパントだというのに、互角の戦いを繰り広げるゼロ。まだ余力を残しているようにも見える。やはりこの男、どこまでも化物だ。これが組織最強の戦士、“憤怒”。
リッパーは一本のナイフをゼロに投げる。
ナイフは真っ直ぐ心臓に。しかし、当然のように二本の指でナイフがキャッチされ……
「な……!?」
刹那。
キャッチしたナイフから、極小の弾丸が発射された。無論、警戒はしていた。そのはずなのに、弾丸は意識の間を縫うようにゼロの心臓を、つまり左胸を貫いた。
血を吐き、倒れるゼロ。
「キルの基本能力は“血液を操る”。これは貴方の血から作られた弾丸、凶器は残りません。
さて、これでいいですか?」
「えぇ、合格よ」
奥から現れたのは、“暴食”の姿。倒れるゼロを見て、愉快そうに笑っている。
「流石は“嫉妬”のジジイに次ぐ暗殺者。太陽クンがやられちゃったのは残念だったけど、貴方がいるならいいわ。それにしてもあっけないものね、最強さんは」
とはいえ、キルもかなりのダメージを負った。この男は、限りなく危険な存在。生物の限界に、最も近づいているとさえ言われるだけはある。
「これで邪魔な憤怒は力を失った。アハハッ…!天下を取るのは…“暴食”よ!」
高笑いが響く。キルも全く動かないゼロの体を一瞥し、つぶやいた。
「何でもいい。ただ…」
キル・ドーパントが変身を解除し、肩からキルメモリが排出される。
血で出来た衣服が剥がれ落ちるようなエフェクトの奥から現れたのは、リッパーの姿。
背は低い。髪は赤黒く、女性にしては短髪で、男性にしては少し長い。
そう、“男とも女ともとれない姿”。
そこに現れたのは、黒音烈の姿だった。
「ボクは…勝ち馬に乗るだけです」
一つの事件が幕を閉じた。
だが、物語は終わらない。新たな真実、交錯する運命……
物語は、次のステージへ───
ファングジョーカー来ました!長かったやっと中間フォーム!まぁ、後期中間も控えてますが。
あと若干恋愛要素入ってきました。うん、やっぱ苦手だ。経験無いし。
そんで、キルの正体ですが…感づいていた人もいると思います。これがまた色々かき乱していく予定です。
次回は…何書こうかな。コラボももう少しで始められそうですし。
感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!