まぁ、もうすぐ学校始まるんですけどね初見さん。
今回は短めです。何を思ったかまた3話構成にします。反省はしてません。
「どうだった?」
「うん…やっぱりにこちゃん、すごく落ち込んでる」
永斗の問いかけに、屋上に上がってきたことりが答える。
屋上には、永斗、花陽、真姫、ことり。そして、不気味なほどに静かなアラシが座り込んでいた。
針を刺した物体から「音」を消す怪人、サイレンス・ドーパント。
にこがアラシと仲違いし、一人になった隙を突かれ、にこは声を失ってしまった。
にこは声が消えた事実が受け入れがたい様子で、一人部室に籠って面会謝絶状態。
そこで、メモリの能力を無効化するメモリ、ブレッシングメモリが使えるのではないかと、ことりが向かったのだが…
「その様子だと、やっぱり駄目だったっぽいね」
永斗の言葉に対し、ことりは辛そうに黙って頷いた。
「ブレッシングは強いけど、能力発動条件がシビアなんだ。
まず継承してない僕らは使えない。そして、ことりちゃんの“守る”っていう気持ちにしか反応しないんだろうね。
刺される前の針は消せても、刺された後の“症状”は消せない。どうしても、“守る”より“治す”っていうイメージが先行しちゃうから」
ブレッシングはあくまで防御専門。ボックス戦で箱を壊せたのも、そうしなければWが危ないという状況を身近で感じ、ことりの中で“守りたい”という気持ちが強く働いたからだろう。
今回のケースで上手く使えないのは、仕方のないことだった。
「それで、にこちゃんの声を戻す方法は無いの!?永斗、なんか検索したりしなさいよ!」
「真姫ちゃん…首…絞めないで」
「あ。ごめんなさい」
真姫も焦っているのが分かる。イベントの事もあるが、何よりにこの事を案じているのだろう。永斗は自分の扱いが雑化しているのが気に入らないようだが。
「検索はもうした。サイレンスはメモリとしては弱い部類だから、仕組みもシンプル。
あの能力を消せる方法は、メモリブレイクだけ。逆に言えば、倒せば万事解決なんだけど…」
永斗が何か言おうとした時、穂乃果の大声が聞こえ、その直後に屋上に彼女が駆け込んできた。
「みんな!大変だよ、瞬樹君が!!」
穂乃果に肩を貸してもらいながら現れたのは、ボロボロの瞬樹。そんな彼に花陽と真姫が駆け寄る。
「ちょっと貴方、何があったのよ!」
「鉄の…魔獣にやられた……」
「えぇっ!?瞬樹くん、トラックに轢かれちゃったのぉ!?」
「なんで花陽分かったのよ…」
そこそこ付き合いも長くなったお陰か、花陽が瞬樹語を解読できるようになったことに驚く真姫。一方、永斗は瞬樹の手に握られている紙に気付いた。
瞬樹の手から紙を取り上げ、永斗はその文面を読み上げる。
「謹啓、仮面ライダーの諸君。矢澤にこの声は頂戴した。
一度だけチャンスを与える。明日の正午、指定された場所に来い。
なるほど、舐め腐ってるって訳ね」
「いつの間にか背中に張り付けてあった……
無論、俺も行く。騎士の名に懸け、このままでは済まさん……!」
「瞬樹はしばらく安静よ。一応、医者の娘の名に懸けて…ね」
悔しそうに拳を握り固めるも、瞬樹はそれ以上反抗しなかった。
真姫は瞬樹をたしなめた後、ふと静かなのが気になってアラシの方を向く。
しかし、そこに彼の姿は無かった。
「アラシ…?」
_________
アラシは静かに部室の前に佇む。ドアノブに手を掛けようともせず、ただ扉に寄りかかるだけ。
確かに人の気配はある。しかし、中からは全く音はしない。
無念の叫びも、むせび泣く声も聞こえはしない。
__一瞬だけ、空気が震えた気がした。
アラシはそのまま表情を変えず、廊下を歩いて行った。
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翌日、正午。サガフェスまで、あと一日。
アラシは指定された工事現場に到着した。人の気配は感じない。放置されたまま暫く経っているようだ。
「出やがったな」
「流石。この距離だと音無しでも気付かれるか」
アラシの背後を取った、魔術師の男。瞬樹の話の通り、奇抜な恰好をしている。
アラシはドライバーを装着し、男はサイレンスメモリを構えている。互いに戦闘態勢だ。
「何のつもりだ。俺を呼んだ理由を言え」
「一つ言い忘れていたことがあってね」
男は拳銃をアラシに向け、一切の音を立てず接近する。
アラシが後ろに距離を取った瞬間、男は無音で発砲。しかし、銃弾は空を打ち抜いた。
「銃口と動き見えてりゃ避けれんだよ、舐めてんのか」
「まさか」
男は更に拳銃を上空に向け、引き金を引いた。
すると、今度は銃声が響き渡り、銃弾はアラシの頭上の鉄骨を束ねるロープに命中。
瞬時に退避し、鉄骨から逃れることは出来た。特に外傷も無い。
しかし、アラシにとっては、ある事実が不可解だった。
「おい永斗、能力はメモリブレイクでしか消えねぇんじゃねぇのか!」
(そう書いてあったはずなんだけどね…)
この男は音の消えていたはずの拳銃で、発砲音を出した。
それだけではない。足音や動きの音を消していたにもかかわらず、この男は今こうして話している。
永斗の情報と一致しないが、地球の本棚に嘘が書かれることはまずない。
「どういうこった」
「やはりこのメモリの力は知っているみたいだね。ならば種明かしだ。
僕は“ハイドープ”に覚醒した。それにより、能力のオンオフが“自分の意志”に切り替わったのさ」
「ハイドープ…白府リズの言ってたヤツか!」
「彼女も優秀なハイドープだったが…残念だよ。
分かったかな?つまり君たちは、僕を倒しても声を戻せない。というわけさ!」
ハイドープ、その詳細は永斗も検索済みだった。
極めて相性の良いメモリを継続的に使い、特定の条件を満たすことで覚醒を果たす領域。それは生身での超能力や、ドーパントの能力の拡張を授ける。
白府リズが使った、箱状の光の壁がこれに該当する。
そして厄介なのが、“ハイドープによる能力は、地球の本棚に記載されない”という事だ。これが永斗が懸念していた点だった。
「あぁ…そうかよ。だがな、
ここで俺に捕まって火炙り市中引き回しにされるとは考えなかったか?三流手品師!!」
《ジョーカー!》
メモリを起動し、ドライバーに永斗からメモリが転送されてくる。
しかし、そのメモリはサイクロンではなく、ライトニング。アラシはすぐにその意図を理解した。
ライトニングメモリを押し込み、ジョーカーメモリを装填。
アラシがドライバーを展開すると同時に、相手もサイレンスメモリを手首に挿入。相対する探偵と犯罪者が、同時にその姿を変えた。
《サイレンス!》
「変身!」
《ライトニングジョーカー!》
無音の一歩目で逃げようとするサイレンス。しかしダブルは変身した瞬間、間髪入れずにサイレンス・ドーパントに超速の蹴りを叩き込む。
鈍い音を立て、衝撃のままに吹き飛ばされる。しかし、すぐに体勢を整える。やはり上手く流されたようだ。
「ヒュウ、容赦が無いね」
『ステータスを身体能力に全振りしたフォームだからね』
「逃げられると思うなよ!」
ライトニングの能力で急激加速。吹っ飛んで行ったサイレンスに狙いを定め、その距離を縮めようとする。
しかし、ダブルの視界からサイレンスの姿が消えた。
「……んだと…!?」
やむを得ず一度停止。サイレンスはダブルよりも上の空間を跳躍していた。
その手元にある装置からフック付きロープが射出され、引っかかった瞬間に一気に巻き戻す。この仕組みで空中を移動したようだ。
分かってしまえばチープな手品。ダブルは再びサイレンスに向かって跳躍した。この距離なら間合いを詰めるのに1秒とかからない。
だが、向かった先にもサイレンスはいない。
場所は工事現場、鉄骨の骨組みも多いし物も多い。サイレンスがすぐには見つからない。
「クッソ…!」
「その形態、ライトニングは厄介だ。当然、対策はしている」
「そこかッ!」
声が聞こえた場所に跳躍し、キックを放つ。
しかし、崩れた機材の中からレコーダーが顔を出す。どうやら、予め録音した音声のようだ。
上空に目を向けると、サイレンスが高くそびえる骨組みの上で、手を振っているのが見えた。
「野郎…!」
ダブルが動いた瞬間、サイレンスは別の鉄骨にフックを掛け、大きく移動。
間一髪ではあるが、確実にダブルから逃げ続けている。
「ソレの弱点は僕が思うに2つ。一つ目は、その高速移動に、君自身の運動能力や意識が追いついていないことだ。その証拠に、君たちの高速移動は決まって直線しかない」
レコーダーから音声が続く。
確かにそれは事実。この速度では視覚はほぼ機能しないため、移動は点と点でしか行えない。敵を見失えば、一時停止を余儀なくされる。
そしてこの物が多い工事現場、音を消したことによるステルス機能によって、見つけるまでに数秒のラグが生じる。その隙にサイレンスはまた別の場所に逃げることが出来る。
空中に居ても、ワイヤーを使って移動可能。そして、高速移動するダブルにそれを見定める余裕はない。
『なるほど、ゴキブリが消えるのと同じ原理か』
「悠長に解説してる余裕はねぇぞ!」
縦横無尽にサイレンスを追う。しかし、紙一重で回避され続けてしまう。
言うは簡単かもしれないが、ライトニングから逃げ回るのは至難の業。やはり相当な技術を持っていると認めざるを得ない。
「そして、2つ目は…」
動きを止めた瞬間、ダブルの背中に鋭い痛みが走った。間違いない、無音ではあったが、銃弾だ。暗いが確かに人影が見える。
『駄目だ、アラシ!』
焦ったアラシは反射的に脚の力を込め、その方向に突撃。
しかし、永斗の予想は当たった。そこにあったのは、三脚で固定された自動発砲の拳銃と人形だけ。
「そのタイムリミットは10秒そこそこ。それを過ぎれば、君は無力な肉ダルマだ」
ダブルの全身から力が抜ける。ライトニングの能力の代償だ。
速度を付けて滑るように倒れたダブルに、サイレンスは手榴弾を遊ぶように投げる。
無音の爆発が炸裂し、崩れた骨組みは鉄骨の雨となり、爆炎と共にダブルを襲った。
__________
「本当、怪我人が増えるなんてことが無くてよかったわ」
「……」
真姫はそう言って、部室でアラシの擦り傷を手当てする。
アラシはサイレンスにしてやられた事が、どうにも悔しそうな様子だ。
万が一に備えて海未と凜が近くにスタンバイしていて助かった形となった。
爆炎はオーシャンメモリを入れたスタッグフォンが、鉄骨はファングメモリが上手く対処し、アラシに目立ったダメージは残らなかった。
「追跡にガジェットを送ったのですが…」
「全部見失っちゃったにゃ…」
「まぁ、だろうね」
海未と凜の行動も成果には繋がらなかったようだ。
「すぐにライトニングを変えるか、能力をセーブ。それか、まぁ対策はされてたとしても、最初からファングジョーカーで行けばワンチャンってとこだったけど…どっかの誰かが冷静なフリして冷静さ欠きまくってたからねー」
「……うるせぇ」
「そうね、最初から永斗が行けば、こんな手当の必要も無くて楽だったんだけど」
「あれ?やっぱり真姫ちゃん、僕の扱い雑になってない??」
「冗談よ。それで、結局どうなのよ。
明日のライブまでに、にこちゃんの声は治せるの?」
サガフェスは明日。真姫の投げた質問に、一同の期待と不安が、永斗へと集まった。
永斗は少し考え、黙り込む。そして、間を開けて口を開いた。
「勝利条件が“サイレンスを捕獲。交渉、強要で能力を解除させる”なら…
不可能だね。にこちゃんの声は戻らない」
その時、アラシが何かに反応し、立ち上がった。
驚いている真姫を押しのけ、アラシは部室を強い足取りで出ていく。
廊下の先。アラシの思った通り、その人物はそこにいた。
「にこ!」
にこはすぐに走り去ってしまい、足音すら残さない。ただ居心地の悪い静寂が、人の居ない校舎に漂っていた。
どうやら先程の話を聞いていたようだ。タイミングが悪すぎた。
「永斗くんがあんなこと言うから逃げちゃったにゃ!それに、声戻らないってどういうこと!?」
「ホント、にこちゃんってアラシに似てるよね。話を最後まで聞かない所とか」
「どういう意味ですか?」
「まぁ、2人とも落ち着いて」
海未と凜に詰め寄られる永斗。にこの背中を見ていたアラシの顔を一瞥し、呟いた。
「ちゃんと言葉にしないと伝わんないよ。
まぁ…分かってるだろうけど」
_________
矢澤にこは走った。
『にこちゃんの声は戻らない』
この言葉が頭の中で旋回を続ける。
あの永斗の言葉だ、それだけで信じるに足りてしまう。でも、信じたくはない。
頭を抱えて、何度も何度もその言葉を殺そうとする。
その叫びは聞こえない。
信じなかったところで、何が変わるわけでもない。何もできない。
どうしようもない現実なんだ、悪い夢なんかじゃない。
絶望が黒い霧になって、頭も心も真っ黒に曇っていくみたい。
その嗚咽は聞こえない。
矢澤にこは走った。もうどこを走っているのかもわからない。
太陽は偉そうに頭上に鎮座しながら、彼女の目の前を照らしてはくれない。
『人を笑顔にできる人になれ』
今はいない父から貰った、たった一つの夢。
__ごめん、もう無理みたい。
だって、もう自分でさえも、笑顔にできない。
あれだけ夢見たステージで、
自分の声だけが、少しも聞こえない。
もう、何も聞こえない。
夢が崩れた音も
誰かが私を笑う声も
胸の鼓動も
どうせ誰にも聞こえないなら
__泣いててもいいよね、パパ。
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「報酬です」
マスクを着けた烈が、ホームレスの恰好をしたサイレンスの男に札束を投げ渡した。
報酬は300万円。男はその重さを確かめ、付け髭の中で笑い、懐に札束を忍ばせた。
「随分と羽振りがいいみたいですね」
「茂枝ミズノ、演劇界期待の若き名女優って言われてた娘ね。
あぁいう声の出せない美人を可愛がるお偉いさんって多くてね、随分と高く売れたよ。
前金でもかなり貰った。あとは声を戻すことをチラつかせば、彼女を好きに動かせる」
得意げに男は話す。やり方は外道も良いとこだが、烈はやはり表情を全く動かさない。
外道の集まり、それが“暴食”だ。
「欲を出さない事をお勧めします。
このまま矢澤にこを利用しないのであれば、さらに上乗せを約束しますよ」
「分かってるさ。慎重さが僕の取り柄だからね」
そう言いつつも、その醜悪な笑顔は
「食い足りない」、そう雄弁に語っていた。
___________
「見つかった?にこちゃん」
「あぁ」
日も落ちた頃、永斗の待つ事務所に帰ってきたのは、アラシだった。
「一人で泣いてたよ、アイツ」
「変な意地張ってないで、声かけりゃいいのに。面倒くさい」
「うるせぇ、別に必要ねぇだろうが」
アラシは自分のデスクに視線を落とす。
明日のサガフェスの準備は完璧に済ませている。曲も衣装も全て。
これがμ’sの答え。明日のライブ、辞退するつもりは毛頭ない。
永斗は白い本を閉じ、ソファに投げ捨てる。
明日のプランは全て永斗の頭の中で構築された。
「サイレンス攻略のオペレーション、結構キツいけどいけるよね?アラシもどう?そろそろ落ち着いた?」
「誰に言ってんだ」
アラシのこの感じは、永斗も久しぶりに感じる。いや、ここまでのものは初めてかもしれない。思わず身の毛がよだつ。
この、空気が震えるような、激しい闘気に。
「俺はハチャメチャに冷静だ……!」
アラシぷっつんモード入りまーす。まぁ、殴って解決!とはならないので、一体どうするのかは次回。
多分次回も短くなると思います。まとめろやって話ですね、えぇ分かってますも。
感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!