ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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ポケモン楽しいなぁ~あぁポケモン楽しいなぁ~やっぱ一番楽しいのは…
あおいで!まぜて!まごころ込めてぇぇぇぇぇ!!

カレーを作って失踪4か月。どうも、カレー職人の146です。

もう隠しません。ポケモンしてました。
更新は愚か、ドーパント案の返信もサボっていたのは人生初ポケモンをしていたからです。
あとテストもありましたが、余裕で単位2つ落としました。全部ポケモンが悪いです。

対戦の方はクソ雑魚ですが、やっぱポケモンで一番楽しいのはキャンプです(断言)。異論は認めない。


……というわけで、土下座しながら書きました。18000字です申し訳ない。
50話にして遂に本家2号ライダーの登場です!



第50話 アイツはK/その男、アクセル

8月。

呆れるほどに強い日差しが、屋上の床を照り付ける。

 

足元から反射する光と、上空からの日光を一身に浴び、

その男はそこに立っていた。

 

黒いタンクトップを纏ったその男は、燃えるように赤い革ジャンを羽織り、きっちりと着込む。

 

ポケットから取り出した腕章に腕を通し、ワッペンで固定。

そして男は顔を上げ、太陽を見下すように睨みつけた。

 

 

「さぁ__正義執行だ」

 

 

 

_______

 

 

 

スクールアイドル。

その名の通り、女子高生がアイドルとして活動することの総称。

 

それは昨今で急激に流行。社会現象を経て一つの文化として定着し、今に至る。

 

いわゆる部活と括ることもできるが、彼女たちをそのような尺度で測ると痛い目を見るだろう。そのパフォーマンスはプロと呼ぶに相応しく、日夜繰り広げられるアイドル達の激戦は、熾烈を極める。

 

スクールアイドルを擁する学校の中には、その地位を盤石なものとすべく、学校内ですらアイドルの選抜を行う所もあるという。

 

 

そういった学校の一つが、UTX高校。

言わずと知れた都内トップの人気校であり、学内には認証改札、劇場、複数のカフェや屋内プール、フィットネスクラブやコンサートホールすら存在するという、圧倒的な設備を誇る。

 

当然、入学のハードルも高く、その入試の倍率は15倍。入学金も庶民が易々と手を出せるものではない。

 

それでもUTXの人気は凄まじく、周辺の女子校が廃校に追いやられることもあるほどだ。

 

その人気の要因こそが、UTX高校芸能学科での競争を勝ち抜き、その環境で天賦の才を最大限に伸ばし続けた3人組のスクールアイドル。

 

 

アイドルランクは不動にして堂々の1位。

現スクールアイドル界のトップに君臨する、彼女たちのグループ名は___

 

 

「A-RISE……」

 

 

UTX高校の一室で、窓から太陽を見上げる彼女はその名を呟いた。

忘れないようにその名を噛みしめる。忘れてはならない、譲ってはならない、

 

自分が、頂点であるということを。

 

彼女は“綺羅ツバサ”。

UTX高校芸能学科3年生にして、スクールアイドルのトップ、A-RISEのリーダーその人である。

 

 

 

 

________

 

 

 

「それで、話って何?」

 

 

トップアイドルに安息は無い。

世の学生は夏休みを謳歌する時間も過ぎ去り、宿題に追われ始める頃だが、彼女たちは変わることなく今日も己を磨き続ける。

 

そんな彼女たち、A-RISEの統堂英玲奈、優木あんじゅ、綺羅ツバサの3人は、練習の最中にA-RISE専用ルーム、いわゆる部室に呼び出された。

 

3人を前に、眼鏡をかけたスーツの男性が説明を始めた。

ちなみに、彼は形式上のA-RISEの顧問。しかし、実際はプロデューサーのようなものだ。

 

 

「練習中すまない。実は、今朝方こんなものが届いた」

 

 

顧問が机に置いたのは、一枚の手紙。

その手紙には、短くこう書いてある。

 

 

『人は人として、あるべき姿に。

大自然の使徒が天誅を下す』

 

 

「…脅迫文?」

 

 

ツバサは落ち着いた様子で手紙を取った。

 

 

「こういうのも久しぶりね~」

「今回のはまた、怪文書じみているな」

 

 

あんじゅと英玲奈も落ち着いている。

それも当然だ。トップアイドルほどの有名人となると、このような事態は日常茶飯事。殺害予告だって、しょっちゅうと言わずとも、珍しくは無いレベルだ。

 

 

「これがどうかしたの?今回もどうせ、口だけの悪戯の類でしょう」

 

「こちらもそう判断したんだがな…天木の奴が…」

 

 

頭を抱える顧問の男性の後ろで、あわあわと惑う小柄な少女。

A-RISEのマネージャーを務める芸能学科の2年生、天木(あまき)華香(はなか)

 

 

「ご…ごめんなさい…綺羅先輩……この手紙、今までとは違う気がして…

私…つい…警察に連絡を………」

 

 

泣きそうな顔で俯く華香の肩に、ツバサは優しく手を置いて、声を掛ける。

 

 

「ありがとう、天木さん。でも大丈夫。私たちは負けないから」

 

「私たちの事、心配してくれたのね。華香ちゃんってば、本当にいい子♪」

 

 

あんじゅにも励まされ、華香は目に涙を溜めて小さく頷いた。

そんな華香を見て、表情を変えたツバサは話を次に進める。

 

 

「私たちが呼ばれたってことは、警察が来るってことね。

来てもらうところ悪いけれど、警察の方には帰ってもらうことにするわ」

 

 

「それは出来ない」

 

 

そんな男の声が聞こえて、思わず顧問の顔を見る。

しかし、彼のものではない。何より、聞いたことのないほど、芯の通った強い声だ。

 

ツバサたちは後ろを向く。そこには、扉の傍で壁に寄りかかって腕を組む、革ジャンを着た男性がいた。

 

 

「お前達は幸運だった。通報したそこの女学生の英断を、お前達は称賛して然るべきだ」

 

「もしかして、貴方が警察の?」

 

 

ツバサの問いかけに、男は即座に手帳を見せる。

ドラマで見るような警察手帳に、その男の顔写真が収まっていた。

 

 

「超常犯罪捜査課巡査、赤嶺(あかみね)(こう)だ」

 

 

警察とは思えない服装、真夏に長袖の革ジャン、生徒会を思わせる腕章。

思っていたものとは異なる要素が多すぎて、一同の顔に困惑の色が見える。

 

 

「えっと…警察の人で間違いのよね?」

 

「無論だ、額の広い女学生その1」

 

「…綺羅ツバサです。先ほどの話の通り、この件は私たちで対処します。警察の手を煩わせるまでもないかと」

 

「いや…待て、ツバサ」

 

 

力強く進言するツバサを止めに入ったのは、英玲奈だった。

 

 

「この刑事はこう言った、“超常犯罪捜査課”と。私も警察組織についての常識は持ち合わせているつもりだが、そんな捜査部署は聞いたことが無い」

 

「その通りだ女学生その2。超常犯罪捜査課は新設された部署、

我々は主に“ガイアメモリ犯罪”を担当する」

 

 

ガイアメモリ。赤嶺の口から出てきたその単語に、その場がざわめいた。

ツバサも当然知っていた。ガイアメモリは、人を怪物に変えるという装置。メモリの怪物の目撃情報や写真、事件も相次いだこともあり、それは既に都市伝説の枠を超え、常識となりつつあった。

 

 

「この1か月で起きた、ガイアメモリの関与が疑われる殺人事件の中に数件、その手紙と同様のものが発見されたものがあった。よって、これは脅迫などではなく確固とした殺害予告だ。それでもお前達で対処できると思うか?」

 

「…確かに、そうね」

 

 

英玲奈とあんじゅも頷く。

 

 

「この件、お願いできるかしら。刑事さん」

 

「最初からそのつもりで来ている。時に女学生、お前達は何かのイベントを4日後に控えているそうだな」

 

 

Summer Girls Festival、通称サガフェス。毎年夏に行われる一大イベントであり、4日後のイベントというのは間違いなくそれだ。スクールアイドルの頂点に座するA-RISEも、当然出演することになっている。

 

 

「えぇ、それが何か?」

「辞退しろ」

「なっ……!」

 

 

平静を保っていたツバサの表情が、初めて崩れた。

前のめりに反論しようとする彼女だが、赤嶺はその眼前に指をさし、その言葉を遮る。

 

 

「予め言っておくが、お前達に拒否権は無い。何故なら……」

 

 

神妙な顔つきで眼差しをツバサに向ける赤嶺に、その場にいる誰もが息を呑んだ。

迫力と緊張でひりついた空気で、彼は言った。

 

 

 

 

「俺が、正義だからだ」

 

 

 

 

___________

 

 

 

「大事になったな。まさかあのメモリ犯罪だとは思いもしなかった。あの刑事の言う通り、華香には感謝しなければ」

 

「そうね~、それにあの刑事さん変わった人だったわ。あぁいうのを俺様系っていうのかしら?

ツバサちゃんはどう思う?」

 

 

あんじゅは髪先をいじりながら、ツバサに視線を向ける。

 

 

「…そうね、面白そうな人だったわ」

 

 

校内の自販機から缶を取り出した彼女は、いつもと変わらない余裕を漂わせ、佇んでいる。

だが、付き合いの長い英玲奈とあんじゅが、その違和感に気付かないわけもなかった。

 

 

「ツバサちゃん…もしかして怒ってる?」

 

「怒る?まさかそんな…」

 

「ツバサ、それブラックコーヒーだぞ」

 

 

2人の指摘を受け、慌てて飲み込んだ缶の中身がツバサの顔を青ざめさせる。

普段よりツバサがコーヒーを好んでいるのはファンならば皆知っているが、実はブラックは大の苦手。

 

そんなツバサを見て笑う英玲奈とあんじゅに、ツバサはむくれてコーヒーの缶を押し付けた。

 

 

「啖呵を切ったのに言いくるめられ、かといって自分達では何もできないという歯がゆさ。

更に待ちに待ったラブライブを間近に控えて高揚している所に、スクールアイドルとして最後のサガフェスを横暴で妨害され、無力感も相まって苛立っているんだろう」

 

「…わざわざ声に出さないで英玲奈」

 

「それ抜きにしても、ツバサちゃんって前から強引なタイプ苦手だったものね~」

 

「否定はしないけど…って、好みとかそういう話じゃないの!」

 

 

仲間の前では、その毅然とした態度も自然と崩れる。

トップアイドルとて、その実態は18歳の少女。見方を少し変えれば歳相応の一面も現れるというものだ。

 

 

「横暴とは言えど、あの刑事の判断は間違いではない。どうするつもりだ?ツバサ」

 

「決まっているでしょう。このまま終わらせはしないわ」

 

 

ツバサはその表情を引き締め直す。

その目には、突き刺さるほど硬く、真っ直ぐな熱意が宿っていた。

 

 

 

__________

 

 

 

A-RISEの3人は超常犯罪捜査課に保護されることとなり、一時的に活動拠点を学院から警察署へと移すことになった。

 

そして保護された直後の朝のこと。

 

 

「早朝から大変ね、赤嶺巡査」

 

「何の用だ女学生」

 

 

ツバサ達は超常犯罪捜査課に押しかけ、件の赤嶺刑事に詰め寄った。

清々しい程愚直な方法だが、正々堂々とぶつかっていくのはトップたる由縁だろうか。

 

そんな彼女たちに、赤嶺は相変わらず鋭い視線を向ける。

 

 

「わざわざ言わなくても、聡明な刑事さんなら察しがつくのでは?」

 

「全く心当たりがないな。要件は直ちに言え」

 

 

ツバサの少し煽りを含めた言い回しがストレートに跳ね返された。

彼女の引きつり始めた笑顔を見て、ツバサに代わってあんじゅが続ける。

 

 

「サガフェスの件ですが、私たちはどうしても出場したいんです。どうにかなりませんか刑事さん?」

 

「その話なら辞退しろと言って終わったはずだ。何度も同じ話をさせるな」

 

「辞退しなければいけない理由はなんですか?このままでは納得できません」

 

「お前達の納得など必要ない。

俺は正義であり、俺の言う事が最善だ。間違えることも無ければ、訂正することもない」

 

 

ハッキリと突き刺すように話す赤嶺。他意も悪意も無く、心からそう思っているのが分かる。

 

一方で「それで納得したとでも思っているのか」と言わんばかりのツバサの気迫。表情こそまだ対話用の笑顔だが、額には青筋が浮かんできそうだった。

 

後ろで見ている英玲奈はため息を吐く。この短い会話で赤嶺が意見を曲げないというのは分かったし、このままでは話し合いが成立しそうにない。

 

 

「…仕方ない、また日を改めることにしよう。早朝から失礼した」

 

 

英玲奈は強引に話し合いを断ち切り、ツバサの腕を掴んで出ていこうとする。

だが、ツバサはその腕を振り払う。

 

 

「ツバサ!?」

「大丈夫よ、怒ってないから」

 

 

怒ってないと言いつつも、ツバサは少し呼吸を整える。

 

 

「私たちも譲るつもりは無いわ。私たちA-RISEがステージから逃げることは、絶対にない」

 

 

そう強く言い残し、3人は超常犯罪捜査課を後にした。赤嶺はそれでも表情を一切崩さない。

そんな彼女たちと入れ違うように、室内に入ってくるのは2人の刑事。

 

 

「おーっす、お疲れさん」

 

 

一人は無精ひげを生やしたやせ型の中年男性刑事、北嶋純吾。

自分の席に腰かけた彼は、ポケットから取り出したスルメをかじる。

 

 

「赤嶺…お前また一晩中ここにいたのか?」

 

 

もう一人は若い男性刑事の、喜田聡一。

容姿は荒れているわけでも、落ち着きすぎているわけでもなく、至って普通。普通の成人男性だ。

赤嶺とは同期であり、階級は巡査である。

 

小人数ではあるが、この3人が超常犯罪捜査課の刑事たちだ。

 

 

「北嶋刑事、ついさっき例の女学生3人がここに来た。見張りを怠るどころか場所も教えたな」

 

「いやー、だってあのA-RISEよ?頼まれたら断れないって…」

 

「意識が低すぎる。監視を請け負ったのならば一秒たりとも目を離すな」

 

 

北嶋に説教をする赤嶺だが、階級は北嶋が警部補で赤嶺が巡査。上司に部下が説教するという光景も、この部署では珍しくない。というより、赤嶺は最も階級が低い巡査でありながら、誰に大しても尊大である。

 

そこで北嶋の発した単語に反応したのは、欠伸をしていた喜田。

 

 

「えーっ!!?A-RISEここに来たんですか!?てか例の脅迫状が届いたスクールアイドルって、あのA-RISE!?」

 

「なんだ赤嶺、言ってなかったのか?

そうなんだよ喜田、俺昨日からずっとA-RISEを間近で見張ってたんだよ。そんでさ…さっき握手もしてもらってさ~!」

 

「羨ましすぎますって北嶋さん!俺A-RISEの大ファンなんですよ!CDも全部持ってますし、テレビ特番のライブ映像なんて録画してずっと見てますよ!ちなみに…北嶋さんは誰推しです?」

 

「やっぱり俺はあんじゅちゃんだよ。近くで見るとより可愛いのなんのって!」

 

「俺は断ッ然、英玲奈様推しです。女子人気って言いますけど、あのカッコよさは男にも突き刺さるんですよ!」

 

「分かる~!」

 

 

北嶋と喜田のA-RISEトークに拍車がかかる中、赤嶺は全く気にせず作業を進めている。

しかし、突然その手がピタリと止まり、こんな言葉で2人の間に割って入った。

 

 

「アライズ…とは何だ」

 

 

あれだけ白熱していた会話が一瞬で停止し、2人は目を丸くして真顔の赤嶺を見つめる。

北嶋は恐る恐る口を開いた。

 

 

「赤嶺…キミ、もしかして知らずに昨日UTX行ったの?」

 

「踊りと歌の部活をしている女学生に脅迫状が届いた、という事は知っていた」

 

「踊りと歌って…この感じだとスクールアイドルも知ってそうにないっすね。

いいか赤嶺!A-RISEってのはな、このスクールアイドル戦国時代でトップに君臨する、超凄いアイドルなんだよ!」

 

 

喜田の熱弁を聞きながら、赤嶺は少し思い返す。

先程の3人、特にツバサの言葉はこの上ない程に強く、真っ直ぐだった。

 

赤嶺は知っている。あの目は、声は__真に強い者の証だ。

 

 

「……喜田」

 

 

昂っている喜田を止め、赤嶺は喜田に2つ指示を出した。

北嶋は喜田に同情の視線を送る。大抵、こういう時の赤嶺はロクな事を言わない。

 

 

「えっと…まず最初のは今じゃなきゃダメ?そんで…

後者はやんなきゃダメか…?」

 

「俺は間違えない」

 

「だよな!あぁもう…せめてA-RISEにサイン貰ってからでも…」

 

「そんな暇は無い。早く行け」

 

「はいはい分かりました!!」

 

 

もう何を言っても無駄なので、涙目で喜田は走り去っていった。

赤嶺も立ち上がり、革ジャンを羽織る。

 

 

「赤嶺、どこ行くんだ?」

 

 

声を掛ける北嶋に、赤嶺は一言だけ答えた。

 

 

「秋葉原だ」

 

 

 

________

 

 

 

人通りの少ない路地裏で、その人物は浅い呼吸で歩みを進める。

そこにあるはずのソレを視界の隅に確認し、変わらない表情で安堵の息を漏らした。

 

 

「久方ぶりではないか、我が同志よ」

「好きに動きすぎじゃァないか?我が同志よ」

 

 

目の前に修道服の男が2人現れる。

その人物にとっても、馴染みがあると同時に好きにはなれない顔だ。

 

 

観測者(オブザーバー)が不在の今、我々がその責を全うしろと天は告げている!」

「我ら守護者(パニッシャー)の仕事が増えてイラつく…って神さんも言ってる気ィするな」

 

 

2人のうち、右目を隠した方の青年は、その人物にある物を投げ渡した。

 

 

「勝手な動きをされては困る、とのことだが。其方も己が使命を全うすべきだ」

「ストレスフリーで自由に伸び伸びと、が暴食の理念だからなァ」

 

 

その人物が投げ渡されたものを強く握ると、目の前からは2人の姿は消えていた。

 

 

 

「「神の御加護があらんことを」」

 

 

 

祝詞のような呪いのような、そんな言葉だけを残して。

 

 

 

 

________

 

 

それから時は過ぎる。

あの後も事あるごとに交渉にいったツバサ達だったが、当の赤嶺が全くいない。それどころか超常犯罪捜査課の刑事は全員が同様で、ほとんどの場合は別の部署の刑事が留守番しているだけだった。

 

 

そして、日数だけが消費されていき、

問題のサガフェスは、翌日にまで迫っていた。

 

 

「昼も近い。そろそろ休憩にするか」

「そうね、ツバサちゃんはどう?」

 

「ごめん。私はもう少し続けさせて」

 

 

警察に保護されている間も、A-RISEにレッスンを怠るという選択肢はない。

イベント出場が厳しく、監視下に置かれながらも、警察署の施設内でレッスンを行ってきた。

 

だが、あんじゅと英玲奈の眼には、ツバサに少し熱が入り過ぎているようにも見えた。

 

 

「…分かっていると思うが、オーバーワークは厳禁だ。サガフェスに出られなくても、ラブライブまで無くなる訳では無い。あまり焦るのは良くないぞ」

 

「えぇ、大丈夫。分かってるわ」

 

 

心配を隠さない様子だが、2人は一度訓練場から立ち去る。

一人になったツバサの顔には、明らかな焦りが見え始めていた。

 

命を狙われているのも分かっている。ここにいれば限りなく安全だというのも、無事のまま過ごせたこの数日が証明だ。だからいたずらな外出は避けるべきであり、ライブなんてもってのほか。

 

 

「赤嶺刑事は正しい。でも……!」

 

 

理解っている。

しかし、この感情が理解という鎖で縛れないということを、ツバサは知ってしまっている。

 

気を緩めてはいけない。足を止めてはいけない。

もっと、もっと高く。手を伸ばさなければ、高く飛ばなければ、そうでなければ___

 

 

「焦っているのか。とてもトップの顔には見えないな」

 

 

訓練場に足を踏み入れた声は、あの2人のものではない。

この自分に対して一片の疑いもないような声は、紛れもない彼だ。

 

 

「刑事さん……今日までどこに…!…っ?」

 

 

怒りと焦燥の混じった顔を上げるが、その感情は一瞬で霧散してしまう。

そこにいた赤嶺が余りに素っ頓狂な姿をしていたからだ。

 

警察に似つかわしくない革ジャン、ここまでは良い。

なぜかその上に法被を羽織り、うちわとサイリウムを剣でも持つかのように装備している。

 

 

「それ、何…?」

「アイドル応援グッズという奴だ。見て分からないか、綺羅ツバサ」

 

 

ライブで見慣れに見慣れた格好だが、何故そんな恰好をしているのだろうか。

その疑問が口から出る前に、ツバサはあることに対して声を漏らした。

 

 

「今、私の名前を……」

 

「綺羅ツバサ、藤堂英玲奈、優木あんじゅ。スクールアイドルランク1位の3人グループA-RISE。特に綺羅ツバサはトップアイドルのリーダーを務め、ダンスの技術はプロの中でも頂点に近いと言ってもいい」

 

 

突然饒舌に話し出す赤嶺に、ツバサは理解が追いつかない。

 

 

「この3日間、秋葉原にてスクールアイドルについて調べた。喜田に持ってこさせたA-RISEのCD、ライブ映像も全て見させてもらった。お前達のパフォーマンスは、素晴らしいの一言に尽きる。自信を持っていい」

 

「嬉しいけど、辞退を訂正するつもりはないんでしょう?」

 

「当然だ。俺の言葉に一切の間違いはない」

 

 

考えを変えてくれるだなんて、淡い期待は持たない。

ツバサには何故かよく分かっていた。この男は、そういう人間だ。

 

だが、そんな赤嶺の心にも、アイドルを追ったこの数日間で一つの疑問が芽生えていた。

 

 

「一つだけ答えろ。お前達は名実ともにトップアイドル、それも群を抜いている。ラブライブとやらが開催されるまでにA-RISEがトップから陥落することはどう考えてもあり得ない。ならばなぜ明日のイベントに固執する」

 

 

一つのステージを逃したところでA-RISEの地位は揺るがない。この男はそう言っている。

正しいと自負するだけあって、それは客観的事実だ。だが、

 

 

「言ったはずよ。私たちは、ステージから逃げないって」

 

 

ツバサの信念は、そんな低い次元に立ってはいない。

 

 

「ここが頂点だなんて思ってない。私たちはもっと上に行ける。もっとファンを楽しませられる。

スクールアイドルとして残された時間は短いわ。だからこそ、一秒も余さず全力で駆け抜けないと意味が無い!」

 

 

ツバサを突き動かすのは焦りでも、ましてプライドでもない。

ひたすらに限界を超え、上へと登り続ける、常識外れの向上心だ。

 

 

「それに刑事さん、貴方の言葉には一つだけ間違いがあるわ」

 

「俺は間違えない」

 

「ふふっ…そうね。でも、私たちのいる場所は、決して絶対なんかじゃない。

少なくとも一グループ、過激な才能と熱意で駆け上がってくるアイドルを、私は知っているわ」

 

 

この春に結成し、類を見ない速度で人気を伸ばしている9人組のスクールアイドル。

A-RISEの3人も予感していた。ラブライブで最大の障壁となるのは、間違いなく“あのグループ”だ。

 

 

「負けるつもりは無いわ。だから、立ちふさがる貴方を突き倒してでも、明日のサガフェスには絶対に出場する」

 

「そうか。ならばしっかりと備えておけ」

 

 

ツバサの力のこもった言葉に対する返答は、

あっさりとしたもので、余りに予想外なものだった。

 

自信に満ちた顔の赤嶺を、冷静になったツバサが引き留める。

 

 

「どういうこと?訂正はしないんじゃなかったの」

 

「何度も言わせるな。()()()()()()()()()お前達を自由には出来ない。

今日中に犯人を逮捕すれば、保護しておく理由は無い」

 

 

法被を脱ぎ捨て、腕章に腕を通す赤嶺を見上げるツバサの顔は、驚きと喜びが混じったようだった。

 

 

「犯人の目星は付いていた。被害無くヤツを逮捕するには慎重に調査し、証拠を集め、周到に警戒と備えをする必要があった。必要な時間は例の殺害予告が届いてから1週間。

 

だが、お前達のパフォーマンスも、その意志も、市民の平和には必要だと知った。

ならばそれを含めて守り通すのが、“正義”というものだ」

 

「…意外。傲慢な人かと思ってたけど、優しい所もあるのね」

 

「違うな。俺を形容する言葉はただ一つ。

“正しい”、それだけだ」

 

 

ツバサを指さした赤嶺は、背を向けて出ていこうとする。

そんな彼を、再び彼女は呼び止めた。

 

 

「待って。私も連れていって」

 

「練習はいいのか」

 

「これは元々私たちの問題よ。私には、それを見届ける義務がある。

それに…きっと守ってくれるんでしょ?正義のお巡りさん」

 

「……勝手にしろ」

 

 

 

 

________

 

 

 

深紅のバイクに乗り、エンジンを止めた場所は23区の外にある大学。

迷いなく足を進め、時には国家権力の力で奥へと進んでいく赤嶺に、ツバサも続く。

 

話の流れからして、ここに犯人がいるのだろう。

赤嶺の話が正しければ…だが、今更そんな疑問を抱くのは愚かだ。

 

 

「ここだ。お前は下がっていろ」

 

 

辿り着いたのはとある研究室の前。当然、鍵が閉まっている。

赤嶺は何のためらいも無く、真正面からその扉を蹴破った。

 

 

「警察だ。宮間(みやま)(けい)、脅迫及び殺人、ガイアメモリ所持の疑いで逮捕する!」

 

 

赤嶺に拳銃を向けられ、その部屋にいた一人の白衣の女性が手を上げる。

 

ツバサは犯人と思しき人物を、赤嶺から聞いていた。

宮間景。この大学の生物科学科博士課程2年生。

 

宮間は無抵抗な様子を見せながらも、余裕のある口ぶりで言葉を発した。

 

 

「何、刑事さん?そんなモノを向けられるような覚え、全く無いんだけど。人違いじゃない?」

 

「黙れ、俺は間違えない。お前が起こした脅迫状の殺人事件、その殺害方法は残酷非道」

 

 

赤嶺は写真を数枚机に叩きつける。ツバサは思わず声を漏らす。

それは現場の写真であり、()()()()()()()()()()()()()()()遺体が映っていた。

 

 

「検死の結果、被害者を喰い散らしたのは“昆虫”の可能性が高いことが分かった。

そして現場で複数見つかった“薄い皮膜”を鑑定したところ、それは飛蝗類の卵の殻だった。

 

よって犯人は“バッタの怪物”で、事前に標的の近くに卵を植え付け、捕食させたと見て間違いない」

 

「確かに私は昆虫学を専攻してる。まさかそれだけで疑われてるわけ?」

 

「事件直前の被害者周りの様子を徹底的に洗った。合同研究、資材の受け取り、引率…名目はどうあれ、ほとんどの被害者に近付いていた人物が一人いた、それがお前だ」

 

 

ツバサはその話を聞き、宮間の顔を凝視する。

そして、悪寒と共にその記憶が蘇った。

 

 

「思い出したわ…脅迫状が届く前日、UTXでこの人を見かけた…!」

 

「この女はUTXのOGだ。そして、応用生命科学科の卒業生座談会に参加していた。

そしてお前達を保護した後、A-RISEの控室の隅に孵化する前の、野球ボールほどの大きさの“卵”を発見した」

 

「知ってるよ、A-RISEのツバサちゃん。後輩にまで疑われるなんて超心外。そんなの状況証拠でしょ?」

 

 

尚も軽口を叩く宮間。そんな余裕を殴って叩き割るように、

赤嶺は机にある物を叩きつけた。

 

それはUSBメモリ。それを見た宮間は鼻で笑うが、その表情はすぐに崩れ去った。

 

 

「見てみるといい。よく知っているデータが入っているはずだ」

 

「…まさか……!」

 

「お前の自宅のパソコンからコピーしたものだ。

そこにはこれまでの被害者の名前、更にA-RISEの名前まで記されていた」

 

 

A-RISEの脅迫状の一件は、まだ報道されていない。つまり、A-RISEが次の犠牲者であることは、警察と犯人以外知りえない。

 

狼狽する宮間だが、ツバサが冷静に尋ねる。

 

 

「そのデータ、どうやって?」

「喜田に侵入させて盗ませた」

「差押許可状は…」

「無い。俺の指示は全て正義だ、誰の許しも請わない。

さぁ、観念しろ宮間景!」

 

 

赤嶺は引き金に指を掛ける。

宮間の顔が険しく変貌し、完全に追い詰めたと確信した。

 

その時、何かが割れる音がして

宮間の顔は、醜悪な笑みを浮かべた。

 

 

「…ッ!綺羅!」

 

 

瞬間、赤嶺はツバサを部屋の外へと突き飛ばした。

部屋の隙間から湧いて出た黒い集合体が、獰猛な羽音を立てて赤嶺へと襲い掛かる。

 

 

《ローカスト!》

 

 

その隙に宮間がガイアメモリを起動させる。

脚を曲げたイナゴで描かれたLを刻んだ、「イナゴの記憶」を内包したメモリ。

 

その端子を鎖骨へと挿入。

そこにあった人間の女性の姿は、昆虫の異形へと姿を変えた。

 

茶色と緑が入り混じった禍々しいグラデーションの体色。項部に生えた羽は美しいが、全身の棘やその触覚が想起させるのはむしろ悪魔。

 

ローカスト・ドーパントとなった宮間は、抵抗を続ける赤嶺に手を向ける。

腕から分離した無数のイナゴが、援軍となって赤嶺に食らいつく。

 

 

「刑事さん!!」

 

 

ツバサの声も虚しく、彼の姿どころか部屋中がイナゴの群れで埋め尽くされてしまう。

何かが引き千切れる音が羽音に混じって届く。

 

彼に手を伸ばそうとするツバサだが、そんな賢明な姿をあざ笑うようにローカストは全身をイナゴへと分裂させ、ツバサの姿を包み込んだ。

 

 

 

 

________

 

 

 

戻って来た意識が真っ先に思い出すのは、その絶望と恐怖。

それらはツバサを叩き起こし、更なる恐怖へと陥れる。

 

今いるのはどうやら駐車場。だが、今は使われていないのか車も人もいない。

 

そして、目の前には宮間景だけが、白衣を脱ぎ捨てた姿で立っていた。

 

 

「邪魔はもういないよね。んじゃあ始めちゃおっか」

 

 

赤嶺の姿は無い。最後の記憶は、イナゴから自分を庇った姿と声。

あの大群に襲われて、生きているはずがない。

 

ローカストメモリを構える宮間に対し、ツバサは振り絞るように怒号にも似た問いかけを投げる。

 

 

「何が理由なの…!?なんで貴方は、何の罪もない人たちを……!」

 

「罪が無い…?あぁ、そっか…だからァ…

キミたちの存在が!人類を罪深い生物にしちゃったの!」

 

 

宮間は狂人の如く声を荒げ、ツバサに詰め寄る。

正面から彼女を覗き込むその目は、とても人間の物とは思えないほど虚ろだ。

 

 

「生物学やってるとさぁ、思っちゃうんだよ。人間だって生態系の一つであるはずじゃん?

それなのに思い上がって、自然が作り上げたシステムを全部!壊して!傲慢にも程があるんだよ!

なんでこんなことになっちゃうのかなぁ、って考えた時、分かったわけ。

 

“夢”なんかを持つからいけないんだ…って」

 

 

《ローカスト!》

 

 

宮間は再びローカスト・ドーパントに変身。

ツバサの首を掴み、軽々とその身体を持ち上げ、その手に力を込める。

 

 

「たかが生命が何者かになれるだなんて願望を抱いちゃいけない。私が人類を一つの種として、自然の理に還す。

そのためにキミたちのような“憧れ”には、出来るだけ凄惨に死んでもらわなきゃ」

 

 

この時、やっとあの脅迫状の意味が理解できた。

狂っている。そうとしか言えない。その狂気は恐怖となり、ローカストの腕から痛みとして伝わってくる。

 

骨の軋む音が響く。ローカストから分離したイナゴ達が、牙を剥いてこちらを見ている。

誰も護ってくれる者はいない。自分は、この都市伝説の怪物に殺される。

 

 

その時、ツバサの記憶に浮かんだ、もう一つの噂。

 

 

「助…けて……!」

 

 

闇がある所に、光もある。

ドーパントと並んで噂される、もう一つの都市伝説。

 

街に蔓延る怪物を打ち倒す、そのヒーローの名は___

 

 

 

「助けて…仮面ライダー……!!」

 

 

 

その音が聞こえた時、ローカストの腕が力を込めるのを止めた。

 

それは足音ではない。もっと重く、戦意に満ちた音。

何かを引きずるような…否、何かを削り取るような音が近づいてくる。

 

近付くにつれ大きくなる、命を感じさせる呼吸、熱さすら覚える足音。

それらは混じり合い、途轍もない程に大きな生命の鼓動のよう。

 

影から現れたその姿は、食い千切られた革ジャンと、無数の傷から血を流す一人の男。

その手に持っているのは、コンクリートに減り込み、地面を斬る重量の大剣。

 

その男__赤嶺甲はその歩幅を速め、振り上げた剣でローカストの腕を叩き斬った。

 

 

反射的に腕をイナゴに分解し、斬撃を回避する。

赤嶺は放されたツバサを受け止め、その剣先をローカストへと向けた。

 

 

「よく耐えた。礼を言ってやる」

 

「刑事さん…!」

 

 

助けが来た、赤嶺が生きていたという2つの事実に一度は安堵するツバサだが。彼女はそこまで致命的な楽観はしない。今この状況は、何一つとして改善していないからだ。

 

ローカストにも、生身の人間が自分を倒せないと分かっている。

だから、余裕な素振りで問いかけた。

 

 

「あの子たちに襲われて死んでない?あり得ないんだけど」

 

「俺は死なない。何故なら、俺は正義だからだ」

 

 

その発言に呆れるローカストだが、その手に握られているものを見て、僅かに表情が歪む。

スピードメーターの両横に伸びるバイクのハンドル。両手で両ハンドルを掴んだ赤嶺は、その装置を腰へと装着し、ベルトが展開される。

 

 

「正義は何者にも屈してはならない。絶対に砕けてはならない。

俺自身でさえも、正義(おれ)を殺す事は赦されない!お前如きが砕けるものではない!!」

 

 

赤嶺が見せるのは、赤く輝き洗練されたメモリ。

 

 

《アクセル!》

 

 

「変……身!」

 

 

 

“A”のオリジンメモリが起動。

剣を足元に突き刺し、アクセルメモリをドライバーに装填。右ハンドル“パワースロットル”を掴み、そのエンジンを目覚めさせる。

 

 

《アクセル!》

 

 

赤い稲妻が彼の全身を駆け抜け、激しい熱と共にアーマーが装着される。

空気を震わすエンジン音が、この場にいる全ての者の心臓に響き渡った。

 

全身を覆う赤い重装甲。背負ったタイヤが、彼がバイクの戦士であることを物語る。

Aを象った銀の角の奥で、その単眼が青く輝いた。

 

 

「アンタ…何者!?」

 

「俺は正義。仮面ライダー…アクセル」

 

 

アクセルは突き刺さった大剣__エンジンブレードを引き抜いた。

あの重量の剣を軽々と振り上げ、アクセルはローカストの前に立ちふさがる。

 

 

「さぁ…振り切るぜ!」

 

 

エンジンブレードを構え、アクセルがローカストへと駆け出した。

振り下ろされるブレードを見て、ローカストはその強靭な脚力で飛び上がって回避。

その剛腕と圧倒的重量から繰り出される斬撃は、コンクリートを豆腐のように烈断する。

 

飛び上がったローカストは天井を足場にして、棘の生えた脚部を突き刺すようにキックを放った。

 

だが、アクセルの装甲には傷一つ付かず、とんでもない威力の蹴りの衝撃も全身で受け止めている。

 

アクセルの反撃を受け、吹っ飛んだ勢いで背中を地面で汚すローカスト。

あの戦士の攻撃出力は半端ではない。一挙一動が、とんでもなく“重い”。

 

 

「何が正義よ、思い上がるな!」

 

 

翅を広げ、高速振動による超音波が放たれる。

ツバサは耳を塞ぐが、それでも脳を手掴みで揺さぶられるような感覚。気を緩めれば間違いなく意識を持っていかれる。

 

しかし、アクセルはその音波の中心へと足を止めない。

灰色の戦闘用ギジメモリ、「エンジンメモリ」を起動させ、刀身を押し下げたエンジンブレードのスロットへと装填。

 

 

《エンジン!》

《エレクトリック!》

 

 

メモリの力で電撃を帯びたエンジンブレードを、再びローカストへと振り下ろす。

さっきと同じ単純な攻撃。ローカストは冷静にジャンプして躱そうとするが…

 

 

「はぁっ!!」

 

 

その刀身は飛び上がる直前のローカストへと届き、その身体を電撃と共に地へ叩きつけた。

 

 

「…!?」

 

 

驚きを隠せないが、ローカストはすぐに体勢を立て直す。

アクセルの猛攻は続き、その攻撃を俊敏な動きとジャンプを駆使して回避していく。

 

だが、何かがおかしい。彼女の中に違和感と焦燥が生じる。

 

徐々に回避が追いつかなくなる。余裕があったはずの体捌きは見る影も無くなり、かすっただけの攻撃で想像以上のダメージが入る。

 

そして、その違和感が確信へと変化を遂げた頃。

迫りくる赤い重戦士に、本気の恐怖を覚え…

 

 

その完璧なブレードの一撃が、ローカストの意識を振り切って炸裂した。

 

 

「がっ…ア……!何それ、ふざけてる!」

 

 

外から見ていたツバサも気付いていた。

アクセルの動きが、“段々と加速している”ことに。

 

 

アクセル、即ち「加速の記憶」。

起動時でさえ超人的なアクセルの身体能力は、エンジンが温まっていくように上昇していく。

 

戦闘が長引くにつれ、その速度からパワー、果てには防御力に至るまで、あらゆるステータスが「加速」する。それこそが「アクセルメモリ」の能力にして真価。

 

 

「分からないの?人は皆、平等にただの生物として生を全うすべき!

私は大自然の使徒。その崇高な意思に歯向かうのが、お前の正義か!」

 

 

翅をもう一度広げ、ローカストが宙に飛び上がる。

そして、全身をイナゴに分解し、一斉にアクセルへと喰らい付いた。

 

いくら剣を振り回した所で、この数のイナゴを全て斬ることは出来ない。

 

 

「黙れ、俺が正義だ」

 

 

アクセルメモリの能力は加速だけではない。

ドライバーのスロットルを回すことで、増加していくエネルギーを熱として出力する。

 

全身から解き放たれた熱は、アクセルに喰らい付いていたイナゴを焼き払った。

体中が燃えているに等しいローカストは、たまらず体を再構築。

 

 

「そしてお前は勘違いをしている。

()正義ではない。俺自身()正義だ!」

 

《ジェット!》

 

 

その隙にエンジンブレードから斬撃が発射され、飛行していたローカストの翅を切断。

飛行能力を失い落下するローカストに、アクセルの渾身の斬撃が決まった。

 

変身が解除され、地に伏せる宮間。

しかし、メモリの破壊には至っておらず、ローカストメモリはその手に握られている。

 

 

「終わりだ、宮間景」

 

「そうだね。私の勝ちよ」

 

 

宮間そう勝ち誇った台詞を吐き、指を鳴らした。

 

 

「たった今、隠していた私の子供たちが孵化した。

私を捕まえたとしても、あの子たちが思い上がった人類を食い潰す!」

 

「そうか。その様子だと

やはり卵の様子は分からないようだな」

 

 

膝をついて高笑いする宮間が止まる。

 

 

「まさか、そんな……」

 

「産み落とした卵の様子が分かる生物なんていない。だから、お前もそうだと目星をつけ、過去及びこの3日のお前の行動を全て調べさせてもらった。確認するなら目視が最も手っ取り早い方法だからだ。

最初から予想は出来ていた。お前がよく秋葉原に足を運んでいるというのは、調べがついていたからな」

 

 

秋葉原で、赤嶺はただアイドルを調べていたわけでは無い。

それと並行して捜査も全力で行っていた。常人では考えられないバイタリティーと技能だ。

 

 

「案の定、お前の卵は秋葉原にあった。時間はかかったが、お前がよく訪れる場所を洗い出し、他の卵の座標も特定。先刻、北嶋刑事から全ての卵の処理が完了したと報告があった。

 

侮ったな。これが正義を擁する警察の力だ」

 

 

本日何度目の常識外れだろうか。ツバサはまたも衝撃を受けると同時に、引き付けられる。

この、赤嶺甲という存在に。

 

この男を前に、もはやハッタリを疑う気力も失せる。

宮間は半狂乱にメモリを振り上げ、修道服の2人から渡された「錠剤」を飲み込んだ。

 

 

「こんな所で潰えない…理に還らない種なんて、不要な存在だ!」

 

《ローカスト!》

 

 

3度目の変身。しかし、様子がおかしい。

錠剤の影響で、ローカストの全身から溢れるようにイナゴが湧いて現れる。

それは先程までとは比較にならない数で、それらはローカストの全身を覆いつくし、一匹の巨大なイナゴのような姿を形作った。

 

 

飛び上がった巨大ローカストは天井を粉砕し、地上にその姿を現す。

 

 

「もしかして、地上の人達を襲いに…!」

 

「させるか。バイクになって追うぞ」

 

「えぇ、そうね。バイクに乗って……え…?」

 

 

一瞬バイクに「なって」と聞こえたツバサがアクセルに目をやると、

アクセルはバックルを取り外すと、全身の装備が変形。

 

文字通り、アクセル自身がバイクに変身した。

 

 

「何を見ている綺羅。乗れ」

 

「え……えっ…!?」

 

「見届ける責任があると言ったのはお前だ。

正義の名にかけて、安全は保障してやる」

 

 

変な所で融通が利かず、律義な男だ。

ツバサはアクセルバイクフォームに跨り、アクセルは自身のエンジンを吹かす。

 

 

「飛ばすぞ。捕まっていろ!」

 

 

ヘルメットが無い事に不安を感じるより先に、アクセルはトップスピードまで加速。

地上に出て飛行している巨大ローカストの姿を捉えると、さらに加速させた。

 

さっきの戦闘で消耗したせいか、あまり高くを飛べないようだ。

アクセルを振り切るほどの速度も無く、エネルギー弾を発射してアクセルを妨害する。

 

 

アクセルは車道を走る車の間を縫うようにローカストを追う。

自分に乗るツバサを守り、それでいて向けられた攻撃が一般人に当たらないようにしつつ、その速度を保って走っている。

 

 

「…見くびってたわ。凄いのね、貴方って」

 

「当然だ。凄くなければ正義は務まらない」

 

 

彼はきっと、「一人の犠牲者も出さない」以外の選択肢を許さない。

その理想論とも吐き捨てられる正義を全うするため、彼は常識破りを繰り返し、どこまでも自分を追い詰める。

 

何者にも縛られない無法者(アウトロー)にして、

正義と言う法に絶対遵守の番人(ローキーパー)

 

それが、赤嶺甲__仮面ライダーアクセル。

 

 

そしてツバサは理解した。

 

ツバサと赤嶺は、馬鹿馬鹿しいほど自分に素直で厳しい、

ダイヤより強固な筋金入りの狂人同士だ。

 

 

巨大ローカストは、身体を構成させるイナゴを6本脚の一本に集中。

その脚に爪を生成し、長大させたその腕をアクセルに叩きつけた。

 

アスファルトを破砕し、煙が辺りを支配する。

 

だが、ローカストに伝わるのは手応えではなく、その執念が近寄ってくる確かな恐怖だった。

 

 

「レースも大詰めだ。覚悟しろ」

 

 

伸ばされた脚を道にして、アクセルが空に留まるローカストとの距離を猛スピードで詰めてくる。

脚を分解するも、アクセルは物理の法則に従い、巨大ローカストの胴体へと宙に放物線を描く。

 

 

「翔べ!」

 

 

アクセルはバイクフォームを解除。

搭載していたエンジンブレードを振りかぶり、宙に放り出されたツバサもその動きに合わせる。

 

そしてツバサはエンジンブレードの剣脊を足場にして、アクセルは思いっきり

ツバサを天高く打ち上げた。

 

 

「っ…アぁ…綺羅…ツバサぁ!!」

 

「何処を見ている」

 

 

理性を失いかけているローカストは、飛び上がったツバサを襲おうとする。

だが、アクセルがそれを許さない。

 

エンジンブレードを上空に放り投げ、ドライバーのグリップ「マキシマムクラッチレバー」を強く握る。

 

 

《アクセル!マキシマムドライブ!!》

 

 

青き単眼(モノアイ)が、群がるイナゴの中にローカストの本体を捉えた。

その姿を目掛け、アクセルは燃え盛る身体を捻り、深紅のエネルギーを脚部に宿す。

 

これまでの戦闘で頂点に達した「加速」のエネルギーに急ブレーキをかけ、累積されたエネルギーを凄まじい勢いで出力する。

 

アクセルが放つ必殺の後ろ回し蹴り、「アクセルグランツァー」が炸裂。

ローカストの本体にタイヤ痕を刻み、その身体を地に叩きつけた。

 

 

アスファルトのクレーターの中心で悶えるローカストを背後に、アクセルは空中旅行から帰還したツバサを受け止めて着地。

 

 

「まだ…よ……」

 

 

全身の崩壊を感じながらも、ローカストの力はまだ絶えていなかった。

ハイドープとしての「全身をイナゴに分裂させる」能力で、しぶとく逃避を図ろうとする。

 

腕を分解しようとした瞬間、

天からの裁きが、倒れたローカストの胴体を貫いた。

 

 

それは、アクセルがツバサと共に空に預けた、エンジンブレードの刃。

 

 

 

「絶望がお前の……ゴールだ」

 

 

 

爆音にも勝る断末魔の中心で、ローカストは爆散。排出されたメモリは砕け散る。

 

その戦士は爆風の中で、少女を抱きかかえて佇む。

消灯する単眼が戦いの終結を告げた。

 

 

 

 

________

 

 

 

 

そうして、脅迫状連続殺人事件は幕を閉じた。

A-RISEは保護から解放され、サガフェスにも問題なく出場できるようになった。

 

そして、事件の翌日。サガフェスが開催される日の朝のこと。

 

 

「朝から大変ね。…本当に大変そうね」

 

「何の用だ、綺羅」

 

 

最初に3人が赤嶺に交渉に来た朝のように、ツバサは超常犯罪捜査課に訪れていた。

そしてこの一件の功労者、赤嶺甲はと言うと…

 

イナゴに全身をかじられ、その後の激しい戦闘も祟り、全身包帯だらけの状態だった。

それでも意地で勤務に戻っている辺り、彼の人間離れぶりがよく分かる。

 

 

「ステージがあるんじゃないのか」

 

「その前に貴方に礼をしたくてね。

どう?私たちのステージを見ていかない?いい席を用意するわ」

 

「その必要は無い。正義はただ執行されるものだ。それに、今日もメモリ事件が立て込んでいる」

 

 

赤嶺はそう言ってツバサをあしらう。

だが、赤嶺は彼女が立ち去る前に呼び止めた。

 

 

「綺羅ツバサ。お前はあの怪物に最後まで屈しなかった。お前はどこまでも頂点に相応しい女だ。この俺が認めてやる」

 

「えぇ、私も認めるわ。貴方は最高に頑固な警察官で、最高に格好いい正義の味方よ」

 

「正義の味方ではない。俺自身が…」

 

「“正義”、でしょう?」

 

 

ツバサは赤嶺の口もとに人差し指を置き、その言葉を遮った。

悪戯に微笑む彼女はウインクをして、彼に背を向けた。

 

 

「また会いましょう?甲」

 

「……俺を名前で呼ぶな」

 

 

その会話を最後に、ツバサは去っていった。

そのやり取りを見て、驚愕の表情で机の下から顔を出すのは、何故か隠れていた北嶋警部補だ。

 

 

「えぇ~……何今の。ちょっと赤嶺、昨日ツバサちゃんと一体何があっ」

「赤嶺テメェこの野郎ぉぉぉぉぉ!!」

 

 

北嶋を跳ね飛ばし、同じく隠れていた喜田が激しく取り乱して赤嶺の首を掴む。

 

 

「お前いつからツバサちゃんとあんなに親密になったんだよ!羨ましいにも程がある!」

「親密?何の話だ」

「あれが親密以外の何だってんだよぉぉぉ!!人が不法侵入した上に害虫駆除までやってる時に!ツバサちゃんと何しやがった洗いざらい話しやがれこの我儘革ジャン電波野郎ぉぉぉ!!!」

 

 

怒りのままに赤嶺の頭を揺らす喜田。一応怪我人なのだが、知ったことではない。

結局、赤嶺の頭突きが喜田にクリティカルヒットし、暴走が止まった。

 

ちなみに、彼が仮面ライダーアクセルであることは、喜田も北嶋も知らない。

この一件での戦いは、ツバサと赤嶺だけの秘密となった。

 

 

喜田に跳ね飛ばされ、壁に頭を強打してダウンした北嶋。

ツバサと赤嶺の会話と、捜査のせいでライブに行けないという悲しみで暴走して鎮圧された喜田。

 

そんな朝から大惨事な状況で、彼も彼とて大怪我をしている赤嶺は、この事件の捜査資料を手に取る。

 

 

宮間が使用した、メモリの力を異常活性させる「錠剤」。

押収したその錠剤を調べれば、必ずメモリ流通のルートへの手がかりとなるはず。

 

そして、彼女の所持品からは、僅かながら“奴ら”と接触した痕跡があった。宮間もメンバーだったと見て間違いない。

 

メモリを生産する「組織」。その中でメモリ流通を牛耳っているのは、“暴食”という最高幹部。

その“暴食”が率いる、大規模犯罪集団。

 

 

「犯罪シンジケート“悪食(アクジキ)”。奴らの尻尾、必ず掴んで見せる…!」

 

 

 

2人で1人の探偵と、廃校を救うスクールアイドル。

地獄から来た怪盗と、巻き込まれた少女たち。

正義の名を掲げる警察と、トップアイドル。

 

 

 

その物語が交差するのは、もう少し先の話である。

 

 

 




ようやく警察官にして仮面ライダー、赤嶺甲の登場です。
かなり濃ゆいキャラに仕上がりましたが、コイツはオリキャラの中で一番気に入ってるキャラです。ちなみに、年齢は23歳くらいをイメージしていただければ…

余談ですが、ツバサのブラックコーヒー嫌い設定は、とある作品の設定を勝手にリスペクトさせて頂きました。

さて次回は超久しぶりにアラシ達のターン!新学期も始まり、新キャラも出ます!

今回登場した「ローカスト・ドーパント」はτ素子さん考案です!第一号はコイツとなりました。ほら、メタルクラスタホッパーも出てきて丁度良かったので…

感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!
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