ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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146です。思ったより遅れました。何故かというと…
あつ森してましたぁ(前科二犯)(繰り返されるポケモンの過ち)(成長しない男)

いや、無人島ライフは正直言ってポケモンバトルより性に合ってました。ただしブラックバス、スズキ、テメェらは悪意に満ちているから絶滅すべき。

今回からちょっとだけラブジェネ宣伝挟みます。
まずは皆さんご存知、ラブジェネ主催者にして「ラブドライブ」でお馴染み希ーさん。マジで何故か垢凍結されてしまいましたが、pixivと暁で「ラブドライブ」と「異形の仮面」の連載を続けられております。是非見に行ってください!

そして今回ですが、オリジナル案大放出です。どうぞ。




第52話 Pは牙を剥く/バケモノの楽園

地下闘技場とは、

法外な格闘試合が行われる闘技場。地下にあるというよりは“裏社会の闘技場”という意味合いが強い。表社会では考えられない莫大なファイトマネーが動く分、命が保証されることは無い、ルール無用の試合が毎夜繰り広げられているという。

 

そこの調査をすることとなった探偵部。

アラシ、凛、穂乃果、絵里、希の目と鼻の先にある倉庫こそが、その地下闘技場へのゲートだ。

 

 

「ここから先は別行動だ。何か分かったらすぐに連絡しろ」

 

「わかった!」

 

 

アラシはそう言って、倉庫の裏へと向かう。

この治外法権の戦場に赴くのは、変装をした4人の少女のみだ。

 

 

話は遡る事、2時間前。

 

 

「お前らはアイドルだ。有名人に片足突っ込んでると言っていい。

顔が割れてる可能性も無視できねぇ。だから、お前ら4人には変装をしてもらう」

 

 

アラシがそう提案する。「有名人」という単語に穂乃果とにこが嬉しそうだが、もう放っておくことにした。

 

 

「配役、設定も大事だよね。女の子だけってのはアレだから、一人男装させた方が…」

 

 

永斗は潜入部隊4人を眺める。

絵里と希は目線が素通りし、一瞬だけ穂乃果に止まる。だが、永斗は首を横に振った。

 

そして今度は凜に止まる。永斗の視線は、彼女の顔より少し下に向けられ…

 

 

「よし、凛ちゃんだね。男装決定」

「待って。今どこ見たの?」

「身長は低くてオッケー。マフィアのボスっぽくすればいける」

「そうじゃなくて。永斗くん?」

 

 

こんな感じで色々決定。各々が衣装を揃え、いざ潜入。

 

 

「…これやっぱり露出多くないかしら?」

 

「絵里ちゃんは似合ってるからいいよ!凛なんておっさんだよ!?納得いかないにゃー!」

 

「あ、そうそう。えりちは喋るといい子なのバレバレやから、黙って愚民どもを見下す感じで!ちょっと前の嫌ーな生徒会長をイメージするとええと思う!」

 

「学校の許可ァ?認められないわァ」

 

「ちょっと、私そんなこと言ってないわよ!?」

 

 

絵里は胸元の開いた大人っぽい赤いドレスにピアス。永斗と希がノリノリで選んでいた。

目元には仮面舞踏会のようにマスクを着けている。

 

凛はサングラスを着け、さらに付け髭とメイク、帽子、高そうなコート。なんちゃって葉巻まで咥えている。成金具合を表す時計や指輪は、どれも100均で買った偽物である。

 

希と穂乃果はネタに走ったと言わんばかりの不良ファッション。サングラスでは隠しきれない程の、人生を舐め切った顔面を完全再現している。

 

 

「卍ィ!」

 

 

ちなみにボキャブラリーが乏しすぎた穂乃果は、さっきからこれ以外の言葉を発さない。

 

変装したとはいえ、緊張は凄まじい。

倉庫の入り口でスーツ姿の男が2人、見張りをしている。狼狽を悟られないように、4人は足を進めた。

 

 

「会員か。会員証を見せてもらおう」

 

 

呼び止められる。波打った心臓を鎮め、堂々と4人は立ち止まった。

会員証を出そうとしない凛たちを怪しむ見張りの男たち。だが、凛がネクタイ替わりに着けていた“布”のマークを見て、その態度が変わる。

 

 

「こ…これは失礼を。“悪食”の方々でしたか」

 

「そ…そうだ!全く…そのくらいすぐに分らんのか!」

 

「おぉん!?なんやウチのボス舐めとんのかぁ!?」

「卍ィ!」

 

 

凛は慌てて偉そうに振る舞うが、無事に通過できて死ぬほど安心している。

 

やっぱり永斗の言う通りだった。地下闘技場への侵入に成功し、凜はせき込むように口元に手を置き、小さく呟いた。

 

 

「あの布で中に入れたにゃ。アラシくん」

 

 

凛が語り掛けたのは、小型のマイクガジェット。

それと入場券の役割を果たした“布”は、永斗が持たせたものだった。

 

 

 

 

 

「これは“オタマポッド”。フロッグポッドを介することで、通話、録音、再生ができる超小型ユニット」

 

 

永斗は潜入隊5人に一つずつ、そのオタマジャクシの形をしたガジェットを渡した。

そして、凜には更に一枚の布を手渡した。

 

布にはサメの口の骨の中に目玉が描かれたマークが。

 

 

「これはボックスとの戦闘の後、キルが落として行ったやつ。倉庫の写真を解像したところ、このマークを身に着けた人間が散見された」

 

「このマーク…何?なんか怖いにゃ…」

 

「“暴食”のマーク、って考えた。そんで、さっき検索したところ…そのマークは犯罪シンジケート“悪食”のものってことが判明した」

 

 

犯罪シンジケート「悪食」。犯罪者たちに対し、メモリや戦力、装備、果てには証拠隠滅まであらゆる面から犯行をサポートする組織。表社会での知名度は皆無。地球の本棚によって、やっとその輪郭が見え始めたレベルだ。

 

永斗の考えでは、その「悪食」のトップにいる人物こそ、七幹部の暴食。

 

 

「その布を身に着けて、もし入れたのなら間違いないよ。

この地下闘技場は、組織の息がかかっている施設だ」

 

 

 

_______

 

 

 

「組織がただの喧嘩大会を応援するか?絶対に何か秘密がある。

俺は俺のやり方で…まずは!」

 

 

オタマポッドから凜の連絡を聞いたアラシは、既に倉庫の中へと侵入していた。微かに聞こえてくる歓声は遠い。どうやら、ここはいわゆる選手控室辺りのようだ。

 

通路を通る、袋のようなマスクを被った選手を見つけた。

アラシは即座に背後へと回り込み、一撃。その選手は声を出す間もなく気を失い、倒れた。

 

 

「おい!そこのお前、次が出番だぞ!」

 

「あぁ、今行く」

 

 

奥から聞こえた声に、マスクを被ったアラシは、小さく答えた。

 

 

 

______

 

 

派手な恰好をしている者、凜たちと同じように顔を隠す者、身なりのいい者、大勢の裏社会の住人が集い、倉庫の地下を熱気で満たしていた。

 

リングではルール無用のデスマッチが繰り広げられる。ルールは簡単。素手での勝負、そして片方が戦闘不能で試合終了。命の安否は問われない。

 

 

「本当にいるのかなぁ…この人」

 

 

穂乃果が捜査対象の人物の写真を取り出す。

松井卓郎。太めの眉に大人しそうな顔、メガネが特徴的な男子学生だ。

 

目の前の死闘と写真を交互に見る。

容赦なく顔面に叩きつける拳、なんなら蹴りも顔面に入る。こんな貧弱そうな男子があそこに立てるとはとても思えない。

 

 

「やっぱりこの人、観客側にいるんとちゃう?」

 

「でもここで動くお金って、さっき見たけどとんでもない額よ?競馬や競艇とは訳が違うわ。それに、そもそも普通の高校生がここに入れるとも思えないし…」

 

 

絵里が頭を悩ませる。ここに居ないのならば、別室の賭博場にいるはずだ。

しかしやはり、アラシの言っていた“何か”があるのかもしれない。

 

鈍い音が聞こえ、試合が終わった。観客の一喜一憂の声が聞こえる中、負けた側は意識が無いようだ。率直に、この場所は狂っているとしか思えない。

 

 

「あっ、みんな!あれ…」

 

 

すぐに次の選手が出てくる。

袋を被ったようなマスクの選手。顔を隠しているが、布を纏わぬ上半身に刻まれた傷は、海に行った時に見覚えがあるものだった。

 

 

「もしかしてアラシくん!?」

 

「ハラショー…確かに手っ取り早いけど、まさか選手になるなんて…」

 

 

相手は体格が二回りも大きい巨漢。案の定、賭け金も相手側に集中しているようだ。

四人も心配そうな視線で見守る。そして、ゴングが鳴り…

 

 

アラシの蹴りが相手のガードを崩壊させ、鳩尾に左ストレート。畳みかけるように回し蹴りが顔面にめり込み、一瞬で試合は決した。

 

 

「容赦ないにゃ…」

 

 

流石にこれは…なんてチラリと思いはしたが、全くそんなことは無かった。アラシに関しては心配する必要は毛ほども無いだろう。

 

しかし、観客席からは気になる会話が聞こえてきた。

 

 

「あの男、もしや…」

「あぁ。久しぶりに一般からVIPに上がるかもしれんな」

 

 

“VIP”確かにそう聞こえた。

 

 

「ビップ…って何?絵里ちゃん」

 

「穂乃果…VIPっていうのは、更に上のランク、特別なランクのことよ」

 

「つまり、こことは別に特別な試合をしてる…ってことやね」

 

 

永斗は潜入前に、“ある可能性”を提示していた。それがVIPの正体であるならば、卓郎がそこにいる可能性は高い。

 

 

「なんじゃ。ゴロツキにしちゃ勿体ないくらいのべっぴんさんがおるやないか」

 

 

VIPを探しに行こうとしていた矢先、観客の男に絡まれてしまう。

長髪を後ろで結んだ、ガタイのいい男。リングに立っていてもなんら不思議ではない。

 

男はどうやら、絵里をナンパしようとしているようだ。

 

 

「暴食にこんな娘おったか?まぁええわ。どや、ちょっとワシんとこ来ぃひんか?」

 

「おぅおぅ!なんや、ウチの婦人に手ぇ出そうっちゅうんか!?」

 

「卍ィ!」

 

「あー、イキらんでもえぇぞ。ワシは鼻がえぇんじゃ。オタクらが弱っちいことくらいは分かっとる。でもこの姉ちゃんからはメモリの匂いがするなぁ。若とも違う濃い匂い…オリジンメモリか?」

 

 

希と穂乃果の虚勢が看破されている。凛が持つ、悪食のマークにも動じてない。

それどころか、オリジンメモリや暴食のことを知っている。組織の人間確定だ。

 

想定よりも早い非常事態だ。捜査が打ち切りになる恐れもあるが、これしか方法が無い。

絵里は隠し持っていたライトニングメモリに手を伸ばす。

 

 

「よしておけ」

 

 

別の男の声が、その状況に割って入った。

メガネを掛けている。が、松井卓郎のような弱腰な顔ではない。

冷徹と断ずることのできる、切っ先のように鋭い視線。穂乃果と凜はその男に見覚えがあった。

 

 

「ラピッド…!?」

 

 

憤怒のエージェントの一人、ラピッド。

ファストフード店で一度襲われたことがある。絵里がドーパントになった時の事件で、ダブルに敗北してから永斗奪還戦にも現れなかった。そんな男が、何故ここに?

 

 

「久しいのう、憤怒の足長。コイツらは知り合いなんか?」

 

「貴様の姿が癪に障るだけだ、鉄頭。この期に及んで口説きとは、余程暇らしいな」

 

「アンタさんには負けるわ。憤怒がボロボロなときに呑気に賭けとは。最強…ハハッ、じゃったか?あの男の部下も堕ちたもんじゃ」

 

「黙れ。その臭い顔に風穴を開けられたくなければ、さっさと失せろ」

 

 

男は両手を放り出すように上げ、ポケットに手を突っ込んで何処かへ行ってしまった。

ラピッドはその眼差しを凛たち4人に向ける。

 

 

「…今、リングで戦っているのは切風アラシだな。その時点でお前達の目的は把握した」

 

 

当然のように変装がバレている。

 

 

「今すぐここから去れ。今のこの場所はバケモノの巣窟だ、獅子丸土成がいたのがその証拠。お前達が手に負える相手ではない」

 

「え…?」

 

 

敵として相見えた記憶がある穂乃果から、戸惑いの声が漏れる。

アラシから、憤怒が襲ってくることは暫く無いという話は聞いていた。それと関係しているのか、ラピッドに敵意は無いようだ。戦闘にならなくて、一先ず胸をなで下ろす。

 

 

「あの馬鹿を救った借りは返した。次は無しだ」

「待って!…ください!」

 

 

消えようとするラピッドを、誰かが呼び止めた。

その声は、穂乃果だ。

 

 

「穂乃果…!?あなた、何を…」

 

「ここに来たことはあるんですよね。だったら、私たちをVIPに連れていってください!」

 

 

正体を隠しながらVIPを探すのは難しいだろう。仮に調べられたとしても、入るのは更に困難なのは容易に想像できる。反面、ラピッドは組織の上級職。VIPに出入りできてもおかしくはない。

 

永斗の予測が正しければ、松井卓郎を一分一秒とて放っておくわけにはいかない。

だから、穂乃果は思いついたこの可能性に賭けた。

 

 

「忠告はした。が、撤退はそもそも論外というわけか。

話にならないな」

 

 

ラピッドが眼鏡を上げる。その一挙動だけで、心臓を握られたような気分だった。

 

 

「借りは返したと言ったはずだ。All covet, all lose(大欲は無欲に似たり).軽々しく下げた頭が、一秒後に胴と別れることを想像しないのか。その程度すら理解できない者の言葉など、聞くに値しないな」

 

 

威圧感のある言葉がのしかかる。正論だ。

放っておいて上手く行くなんて世界ではない。アイドルも、探偵も、考えて動いた結果でしか何も成しえない。

 

絵里と凛は引き下がることを進めてくる。希は何かを考えているようだ。

 

 

(アラシ君が、私たちに任せてくれたんだ。だから、アラシ君みたいにしなきゃ!)

 

 

アラシの戦いを間近で見てきたはずだ。その武器も。

そこに必ず、答えはある。

 

 

「……ラピッドさん。私たちと協力しませんか?」

 

「何だと?」

 

 

考えた末、穂乃果の口から出たのはそんな提案だった。

 

 

「アラシ君も言ってました。私も実際に会って思いました。

ラピッドさん。戦い、好きじゃないですよね?」

 

 

ラピッドの眼や放つ空気は、これまでに出会ったドーパントや、他のエージェントとは全く異なっている。事実、ラピッドはさっきからリングを極力見ようとしない。

 

 

「それなのにこんな所に来た。ってことは、何か別に目的があるはずです。それが“誰かをやっつける”ことなら、アラシ君に永斗君、瞬樹君が手を貸します!」

 

「その代価としてVIPに連れていけと?仮にそうだったとして、仮面ライダーの力を借りる必要が何処にある」

 

「怪我してますよね?アラシ君がよく無茶するから、よく見てます。ラピッドさんの歩き方や立ち方が、その時とよく似てる。その身体で戦うのは危ないと思います」

 

 

穂乃果の推理は見事に的中していた。ラピッドの足は、アサルトとの戦いで折れてから完治していない。さらに、この状況だと「憤怒VS他幹部」の構図を作るのは危険。一方、仮面ライダーを代理で戦わせれば、実に自然な構図となる上に、失敗したところで仮面ライダー側が痛手を負うだけで、ラピッド側には不利益が最小限となる。

 

そこまで穂乃果が分かっているのか定かではないが、少しの推理で見事に「頼み」から「取引」へと昇華させた。

 

 

「…断る理由は無いか。ついてこい」

 

 

苦虫を噛んだような顔をした後、ラピッドは背を向けて歩き出した。

後ろで、穂乃果は安堵を込めて息を吐きだした。希から「グッジョブ」と言われ、親指を立てて返す。絵里と凛も感心して、力の抜けた穂乃果を支えた。

 

闘技場を後にし、オタマポッドでアラシに報告。

しばらく歩くと、また見張りの男たちが立っていた。

 

ラピッドの顔を見ると、すぐに道を開けた。

もう一段地下に続く広い階段が、目の前に広がる。

 

 

「40点だ」

 

 

階段を下りながら、ラピッドは開口してそう言った。

 

 

「よんじゅ…ってん?」

 

「さっきの貴様の交渉だ、高坂穂乃果。理由は三つ。

まず第一に、俺は誰かと戦いに来たわけじゃない。人探しが目的だ。最初からこの交渉は破綻している」

 

 

疑問が穂乃果の口から出る前に、ラピッドは足を速めて続ける。

 

 

「二つ目、ここにいる化物は俺と仮面ライダーが組んだところで、どうにかなる相手では無い。そして最後…俺はここにいる連中も、貴様たちも、心の底から嫌いだ」

 

「え…?なら、なんで私たちを…?」

 

「端からどうでもよかっただけの話だ」

 

 

戦わずして生きることが出来る命に生まれ、それを自分から投げ捨てて不幸面する。死と隣り合わせでないと生きられなかった命が、争いが無ければ真っ当に生きられた命が、どれだけあるのかも知らないで。

 

 

『あたしを…たたかわせて』

 

 

15年前、拙い日本語でそう声を掛けられた。その声の主は、幼い女の子だった。

その思いを声には出さない。が、この少女を見るたびに湧き上がるのは、嫌悪感か、それとも在りし日の“彼女”の面影か。

 

 

「着いたぞ」

 

 

穂乃果たちが疑問を口にする前に、もう一つの地下闘技場が見えた。

上の階よりも数倍広い空間。そして、歓声も充満する狂気も比ではない。

 

 

「ここがVIP…凄い人にゃ…」

 

「約束通り連れてきた。対価は貰っていくぞ」

 

 

ラピッドは絵里の前に立ち、仮面を被ったその顔を見下ろす。

彼女たちに戦慄が走った。もし、対価がオリジンメモリを持つ絵里とするなら、とても守り切ることは出来ない。

 

 

「ルーズレスの見舞い品に丁度いい」

 

 

しかし、ラピッドの手は絵里の耳に伸び、安物のピアスだけをその手に収めた。

彼はそれを仕舞うと、それ以上何も言うことなく踵を返し、人ごみの中へと消えていく。

 

例え敵だとしても、それを忘れてはいけないと思った。

声を出すと目立つ。だから、穂乃果たちは感謝の意を込め、深く頭を下げた。

 

 

「あの人も、もっと違う所で逢えてたらなぁ…」

 

 

そんな穂乃果の呟きをかき消すように、大きな歓声が反響した。

人をかき分け、リングがその視界に飛び込んでくる。それは、信じられない光景だった。

 

フェンスに囲まれた広い空間の中で、命を削り合うのは人に非ず。

黒い外套を纏って牙を剥いた蝙蝠男と、全身刃物の歪な怪人。

 

目に映った瞬間、それがドーパントであることは分かってしまう。

この時、永斗の予想は見事に的中していたことが確定した。

 

 

「永斗君の言った通りやね」

「えぇ。まさかとは思ったけど…“ドーパント同士の拳闘試合”なんて」

 

 

予想を裏付けるように、リングでは理性の欠片も無い猛戦が続く。

二体のドーパント―――ドラキュラ・ドーパントとエッジ・ドーパントの戦いは既に佳境。ドラキュラが小さなコウモリに分裂し、エッジへと襲い掛かる。黒い渦の隙間から飛び散る鮮血と悲鳴が、その末路を物語る。数秒後には、瀕死の男と破壊されたメモリが地を転がった。

 

 

「でも…やっぱりそうだよね?この卓郎っていう人、ドーパントになって戦ってるんじゃ…」

 

 

凛が怯えた声で言う。その推測は、ほとんど確証に近いだろう。

ドーパントになれば、変身前の身体能力など容易くひっくり返るのはよく知っている。

 

リングではドラキュラが雄叫びを上げる。

しかし、仕合終了のゴングは鳴っていない。その直後、上空から触手がドラキュラに襲い掛かった。

 

そう、この戦いは三つ巴。ドラキュラはコウモリを放ち、触手の根元の駆逐を試みる。

だが、コウモリは二度と戻ってこない。代わりに聞こえるのは、観客席まで響く身の毛がよだつ様な“租借音”。

 

 

「ひっ……!?」

 

 

その姿を見て、絵里が思わず悲鳴に近い声を上げた。

天井フェンスに張り付いていた三体目のドーパント。頭部には触覚と顎、体中の節足動物の脚は、個別にワラワラと蠢いている。

 

その正体は一目瞭然。“ムカデの記憶”で変貌した、センチピード・ドーパントだ。

 

ムカデは極めて凶暴な肉食節足動物。大きいムカデは洞窟の天井から体を伸ばし、飛行するコウモリさえも捕食するという。その生態を再現するように、センチピードはその強靭な顎でドラキュラのコウモリを噛み砕いている。

 

 

「ギ…チ…」

 

 

骨が軋むような音を立て、センチピードが体から触手を伸ばす。

その触手はムカデそのもの。自我を持つ触手は飛行するドラキュラを追尾し、爪がドラキュラの胴体をかすめた。

 

途端にドラキュラの様子が急変。真っ直ぐ飛行することもままならなくなり、能力も上手く使えていない。狩り時と言わんばかりに、センチピードの触手がドラキュラを締め上げ……

 

 

バキッ、ゴキッ。

 

 

耳を塞ぎたくなるような、痛々しい音が聞こえた。

派手に地面に叩きつけられたドラキュラは、変身が維持できず、泡を吹いて倒れた男の姿に戻る。

 

センチピードの勝利だ。

 

一段と観客席が盛り上がる。

「ドラキュラも勝てないか」や「あのルーキーはまだ稼がせてくれそうだ」などと、嬉しそうに語る身なりの良い男や女。何処かに運ばれてしまった瀕死の敗者の身を案じるのは、穂乃果たち4人だけだった。

 

 

「めちゃくちゃだよ…こんなの!」

 

「そうだよ!こんなことしてたら、みんな死んじゃうにゃ!」

 

「落ち着きなさい。残酷だけど…私たちの目的は、この地下闘技場を叩くことじゃないわ。まずは選手の中から松井卓郎を探さないと」

 

「いや、その必要は無いみたいやよ」

 

 

リングの中心で佇むセンチピードが、変身を解除した。その姿に一同が目を見張る。

雰囲気が少し荒いが、その姿はまさしく、写真の松井卓郎に間違いない。

 

 

「大変だ…次の仕合が始まる前に、早く助けないと!」

 

「穂乃果!?」

 

 

絵里の制止も聞かず、穂乃果は真っ先に飛び出してしまった。

 

 

 

______

 

 

地下闘技場の最深部。そこでは昼夜問わず、この闘技場のオーナーが“食事”を行っている。

フォークもナイフも使わず、オーナーの男は一人で料理を口に押し込む。これが彼の食事会だ。しかし、今日に限っては、そこに客人の席が用意されていた。

 

 

「下品な味ね。上等なのはお酒くらいかしら」

 

 

上品に料理を一口食べると、今日の客人である“暴食”はそう吐き捨てた。

 

 

「まぁそう言うもんじゃないぜ、暴食ちゃん。ここのシェフは“強欲”から借りたんだろ?クソ成金の趣味が狂ってるのはいつものことじゃない」

 

 

そう返すのは、もう1人の客人。こちらも七幹部の“傲慢”、朱月王我。

 

 

「勝手に押し掛けといて好き勝手言うじゃねェか、七幹部ども。アンタらは客じゃねぇんだよ」

 

 

一心不乱に食事を続けていたオーナーの男が、食べるのをやめた。

不機嫌そうな声で、幹部だろうが構わず食いかかる。

 

 

「勝手にとは心外ね。愛しい貴方に会いに来てあげたのよ?ねぇ、氷餓(ひょうが)

 

「“愛しい”…だぁ?よく言うぜ。なら夜這いに行ってやるから股広げて待ってやがれ」

 

「あら怖い。そんな大それたことは、せめてハイドープに覚醒してから言いなさい」

 

「まー、冗談はさておき。実際は近況確認だよね。

なにせ、この地下闘技場は“朱月組”がバックに付き、“悪食”による運営及び、選手提供と選手育成。言うなればオレと暴食ちゃんの、愛の合作だからねぇ。獅子丸から“憤怒”のラピッドくんが来てるって聞いたし、存外面白い場所になっててオレは満足だよ」

 

 

「じゃあ帰れよ」と氷餓が睨みつける。

そんな時、暴食はそのテーブルに、もう一つ空席があることに気付いた。

 

 

「珍しいわね。誰か客人がいたのかしら?」

 

 

その席には一杯だけ、ワインが置いてある。

 

 

「あぁ。俺様の客はアンタらじゃなく…仮面ライダーだ」

 

「さっき烈クンから聞いたのね。でもはしゃぎすぎよ、サンタを待つ子供じゃあるまいし。果たしてそんなすぐに来るのかしら?」

 

「一度、二色の仮面ライダーの戦いを見た時に確信した。アイツは俺様と“同種”だ。

俺様が作ったこの場所はなぁ、そんな奴らの“楽園”なんだよ!それを黙って我慢なんてできる訳ねぇ」

 

 

モニターに映る、一般闘技場の仕合が終わった。

仮面の男がこれで7連勝。いずれも瞬殺だ。

 

その戦いっぷりを見ていた朱月、そして氷餓の表情が変わる。

飢えた笑みを浮かべた氷餓は、机に置かれたメモリを掴んだ。

 

 

「待ってたぜ…仮面ライダーダブル!」

 

 

 

______

 

 

選手控室に戻ったその少年、松井卓郎は、センチピードメモリを握りしめて追憶にふける。

 

この手でドラキュラの全身を砕いた。その感触も、音も、鮮明に身体に刻まれている。“彼女”に誘われ、ここに来てから全てが滅茶苦茶になった。人生、常識、価値観。何もかもが痛快なくらいに。

 

 

「松井さん…松井卓郎さん!」

 

 

記憶の反芻をとある声が遮った。

彼の腕を引き、物陰に連れ込んだのは、見るからに不良の少女。

 

その少女、穂乃果は卓郎の前で変装を解いて見せる。

 

 

「…君は……」

 

「えっと…探偵です!あなたのお母さんの依頼で、卓郎さんを助けに来ました!早くここから逃げましょう!」

 

 

穂乃果が強く腕を引いて、ここから離れようとする。

だが、卓郎はそれを突き放すように振りほどいた。

 

 

「バカにしてるの?」

 

 

拒絶を予想もしていなかった穂乃果の肩を、強く押す。勢いのまま壁にぶつかった穂乃果は、戸惑いのあまり動けない。卓郎の顔は、実に楽しそうに笑っていた。

 

 

「ここは僕たちの“楽園”なんだよ。クソ婆は口を開けば“進学”、“いい会社”、“楽な人生”。どうせ自分の経歴に傷がつくのが嫌で、探偵なんて雇ったんだろ?そんな表の世界よりこっちの方がマシだよ」

 

「でも…あんなことしてたら、いつか死んじゃいますよ!」

 

「いいよ別に。あんな人生を生きるくらいなら、ここで死んだって」

 

 

永斗を“F"から奪還した時と似ているようで、全く違う。

彼は、心から助けなんて求めてない。ただ軽率に、自分の命を捨てようとしている。

 

 

「なんで……何にも悪くないのに…!なんであなたが死ななきゃいけないの!?」

 

「は?」

 

 

涙が落ちるように、その言葉は自然と穂乃果の口から零れた。

自分でも驚いているようだ。その言葉に対する驚きではなく、“前にこの言葉を言ったことがあるような”感覚に。

 

 

 

「君、知ってる。µ’sの高坂穂乃果でしょ?学校でも話題だよ。

いいよね、才能が有って。自由に好きなこと出来て。色んな人に愛されて。

でもさ、僕だってココじゃ強いんだ。この楽園の中でだけ、僕は自由になれる!!」

 

 

感情が昂った卓郎は穂乃果を睨みつけ、メモリを振り上げる。

しかし、その手は別の腕に捕まれ、止まった。

 

穂乃果を守る形で、袋仮面の選手がそこに立っていた。

連勝し、VIPまで最短で上がって来たアラシだ。

 

 

「何?お前…!」

 

「暴れたければ相手してやる。リングに上がれ」

 

 

上等。そう言うように、卓郎の足は真っ直ぐリングへと向けられた。

同じようにアラシもリングへと向かう。その際、穂乃果の頭に手を置き、一言だけ囁いた。

 

 

「後は任せろ」

 

 

 

______

 

 

 

上と四方は強固なフェンス。恐らく、並大抵のドーパントでは破壊も出来ないソレは、さながら牢獄のよう。そして、その牢獄から無事に出られるのは勝者の片方のみ。

 

その拳闘の場に、松井卓郎とアラシが立つ。

 

 

「話は聞いてた。お前、死んでもいいんだって?」

 

「はぁ…?それが?そうだよ、どうせ生きてても言いなりの人生だし」

 

「よし分かった。テメェは、とんでもない勘違い野郎だ」

 

 

アラシはメモリを取り出す。

が、渡されたドーパントメモリを投げ捨て、代わりに取り出したのはダブルドライバー。

 

 

「あー、聞いたことあるよ。お前が仮面ライダーか!」

 

「ついでに探偵だ。依頼通り、テメェを自由から引きずり戻してやるから覚悟しろ」

 

「冗談じゃない!」

 

 

仮面ライダーの登場で、会場が一気に沸いた。

今度はジョーカーメモリを取り出して起動させ、転送されてきたサイクロンメモリと同時に押し込んだ。

 

 

「変身!」

 

《サイクロンジョーカー!!》

 

 

旋風を帯び、足元からその姿が仮面ライダーへと変わる。

 

 

《センチピード!》

 

 

卓郎もセンチピードメモリを首裏に挿入。人の形は瞬く間に異形へ。

マフラーをたなびかせる戦士とムカデの怪物が、仕合という場で相見える。

 

ゴングが鳴った。

 

先に仕掛けたのはセンチピード。ムカデ触手が同時に2本伸び、ダブル目掛けて喰らい付いた。

ジャンプで回避し、足場だけが削れる。

 

その隙にセンチピードが一気に加速。

ムカデの走行速度は節足動物界ではトップクラス。ドーパントとなったその走力を用い、瞬きの間にこの広いリングを縦横無尽に駆け回る。

 

 

「どうだ!僕に追いつけないだろ!!」

 

 

高速移動するセンチピードの爪が、ダブルの腕をかすめた。

その瞬間、アラシの体を異変が襲った。熱、痛み、吐き気、寒気、痺れ。異なる5つの苦痛が、渾然一体となって体を蝕んでいく。

 

 

『センチピードの毒か…どーする?毒効かないし、僕に代わる?』

 

「いや、必要ねぇ」

 

『だよね』

 

 

ダブルは平衡感覚が狂いながらも、構えを取る。

好機とばかりに、センチピードは背後を取って触手攻撃を繰り出した。

捕えれば締め上げて勝負ありの一撃必殺。

 

 

(獲った!―――)

 

 

 

 

「甘ぇ」

 

 

その攻撃を完全に読んだダブルの回し蹴りが、触手を弾いた。

いや違う。旋風を帯びた蹴りは、斬撃にも似る。その蹴りは、センチピードの触手を“切り裂いた”のだ。

 

 

「意味わかんない…まだ…!」

 

「そうか、じゃあ…これで分かんだろ!」

 

 

毒が回っているはず。まともに立てもできないはず。

そんなのは理由にならない。その現実を

 

ダブルの左腕が、渾身の一撃と共に叩きつけた。

 

 

「は…ァ…!?」

 

 

その衝撃のままフェンスに叩きつけられたセンチピード。

動くことが出来ない。今の一撃で、完全に戦意が折られてしまった。

 

数年分の修行を経て、さらに暴食の強敵と立て続けの連戦。

この夏休みで、アラシの戦闘力は爆発的に上がった。

 

もう素人の一般ドーパントなど、相手にすらならない。

 

 

「弱いな」

 

「ッ…!うるさい!」

 

「そりゃそうだ。生きようともしない、失うものもない。

この世にそれ以上弱いもんなんてねぇよ」

 

 

センチピードの姿が人間へと戻った。

ダブルは卓郎の胸ぐらを掴み、力ない彼に語り掛ける。

 

 

「これが自由か?んなわけねぇ。今ここで死ねば、テメェはそこらの虫未満の存在で終わりだ」

 

「じゃあどうしろって言うんだよ!戻っても母さんは僕を道具としか思ってない!周りの奴も僕を必要となんてしてない!生きてたってしょうがないじゃないか!」

 

「誰かに求められねぇと生きていけねぇのか?違ぇだろ!!」

 

 

熱が込められた声が、その場に木霊した。

上っ面じゃないのが伝わってくる。信念から滲み出たような、そんな言葉だった。

 

 

「ただ生きろ!!そのクソみてぇな人生の泥沼から、光る石を必死で探せ!

そいつが生きる価値か死ぬ価値か、命を投げ出すのは見定めてからでも遅くねぇよ」

 

 

手を放された卓郎が、膝から崩れ落ちた。

終了のゴングは鳴らない。歓声も皆無だ。だが、確かに勝負はここに決した。

 

 

会場はざわついている。混乱と落胆を含んだ声が乱雑に聞こえる。

 

それに割って入るように、拍手の音が聞こえた。

ゆっくりと近づくその拍手は、会場を静まり返らせる。

 

そして、その姿が現れた時、観客の熱気は最高潮に達した。

 

 

「良いこと言うじゃねぇか、仮面ライダー」

 

「察しはつくよ。お前がここのボスか」

 

 

ゲートを通ってリングに足を踏み入れた氷餓は、サングラスを外す。

 

 

「人生には光が必要だ。だから俺様はこの場所を作った。闘争を求める獣たちの“楽園”としてなぁ。だから…ソイツみたいな半端な奴は、見ててゲロほど白ける」

 

 

氷餓の言葉は卓郎に向けられる。

この一言から発する気迫で分かる。この男は、強い。

 

 

「自己紹介が遅れた。俺様は氷餓!苗字は胎盤の中に捨ててきた。

さぁ!第二ラウンドだぜ、仮面ライダーダブル!」

 

《プレデター!》

 

 

氷餓が掲げるのはシルバーメモリ。獲物を喰らう獣で、Pと刻まれている。

プレデターメモリが起動し、氷餓が出した長い舌の上に生体コネクタが出現。飲み込むようにメモリを突き刺す。

 

目の無い顔には牙が生え揃った大きな口、左腕は口の付いた触手でまるでウツボ。右腕には長い針と、手のひらにタコやウニのもののような口。とにかく口が多い。それだけでなく、発達した四肢は狼すら想起させる。まさに狩りに適した姿。

 

 

「随分と食い意地張った格好だな。

穂乃果、コイツを連れて逃げろ!」

 

 

控室から騒ぎを聞きつけ、リング近くまで穂乃果が来ている。

ダブルは卓郎をここから逃がそうと、放り投げるように後ろへ…

 

 

手を離した瞬間。

床を突き破り、飛び出した口を持つ物体。それが、卓郎へと喰らい付いた。

 

 

「いい恐怖の味だ。うっすら希望の味もしやがる。食前酒にゃ丁度いい」

 

「……!?テメェ!」

 

 

確かに喰らい付かれたが、卓郎に外傷はない。その生物のようなものは、卓郎を透過し、プレデターと一体化した。

 

 

「何しやがった…!」

 

「精気を喰った。まァ、要するに感情と体力だ。敗けた奴は俺様の食事になる、そういうルールだ知らなかったか?」

 

 

卓郎の呼吸に変化はない。意識を失っているわけでもない。

ただ無気力に、そこに倒れている。目を開けたまま、逃げようともせずに。

 

 

「精気は腹に溜まんなくて困る。が、弱者の肉はマズくて食えたもんじゃねぇ。

お前はどうだ?一口喰わせろやァ!!」

 

「食い意地は見た目だけにしやがれ、この口だらけ野郎!」

 

 

姿勢を低くしたプレデターが、間合いを詰めると同時に攻撃を仕掛けてくる。

蹴りで叩き落そうとするが、宙で体をよじり逃げられた。荒々しいが、洗練された体捌きだ。

 

 

「食い意地上等!“食”とは命を求める尊い欲求!日々飢え、求める俺様は!そこらの上部を飾った雑魚とは格が違ぇ!!」

 

 

繰り出された右腕の突きはフェイント。左腕の触手がダブルの命を狙う。

だが、それはダブルも読んでいた。風の補助で身体能力を強化し、紙一重で触手を躱した。

 

触手は勢いを止めず、床を削りフェンスへと激突。

その通り道全てが、触手によって“喰われて”いた。

 

 

「口だけじゃ…ねぇってことか」

 

「当然。俺様は捕食者(プレデター)!この世界の全てを、喰らい尽くす男だ!!」

 

 

ダブルが加速し、距離を取る。

控室付近まで逃げると、ダブルは変身を解除した。

 

傍から見ると「逃げ」以外の何物でもない。客席はブーイングが飛び交っている。

 

 

「早すぎるぜ、まだ幻滅させてくれんなよ!」

 

 

プレデターがそれを見逃すわけもない。

アラシとて、逃げられると考えるほど楽観的ではない。穂乃果が近くに来たことを確認すると、アラシはドライバーからサイクロンメモリを抜いた。

 

 

「変身」

 

 

プレデターが迫る中、再びドライバーを展開する。

そもそも、この場所には戦いに来たのではない。戦闘態勢が万全ではない中、こんな強敵を相手するのは危険。

 

だが、その可能性を考慮しないわけもない。

万が一を考え、µ’sの司令塔は“保険”を用意していた。

 

 

《ファングジョーカー!!》

 

 

強固なフェンスが切り裂かれ、そのリングに新たな戦士が降り立つ。

穂乃果がアラシの体を連れ出したのを見届けると、永斗が変身したファングジョーカーは、プレデターを挑発するように尋ねた。

 

 

「あ、選手交代って…ルール的にオッケー?」

 

「ヒハハッ!大歓迎だぜぇッ!」

 

 

 

_______

 

 

 

探偵部による地下闘技場潜入作戦。

重大な戦力である瞬樹は、招集にも応じず不参加だった。

 

その理由はただ一つ。瞬樹は昼に花陽から受けた“頼み”に、盲目ともいえる熱意で取り組んでいた。

 

 

『珊瑚ちゃんを…見ててくれないかな?』

 

 

この一言を受けてから、瞬樹は灰垣珊瑚を徹底的に付け回している。

花陽の頼みを違えているわけでは無いが、ストーカーと化している辺り何かがズレている。

 

既に夜も遅いが、珊瑚が家に帰る様子も無い。放課後からこの一日、あてもなくあちこち歩き回っているだけだった。

 

 

「あの女…どういうつもりだ?」

 

 

瞬樹が疑念を持ち始めた頃、珊瑚の足が止まった。

人通りが少ない公園。珊瑚は左手首を握り、項垂れた。

 

 

 

うっとうしいなぁ…

 

 

 

小さな呟きは、瞬樹の耳に届く前にかき消された。

珊瑚を照らしていた街灯が、いきなり音を立てて折れたのだ。

 

突然の事で、瞬樹の意識が珊瑚から離れてしまう。

 

次の瞬間、何かが瞬樹の耳元の空気を切り裂いた。

 

 

「くっ…!?ドーパント…か…!?」

 

 

その姿を見て、瞬樹の頭から言葉が消えた。

暗闇に佇む雰囲気は、確かにドーパント。だが、異形と称するには余りに“醜い”。

 

暗闇に浮かび上がる髑髏に顎は無い。嗅覚を侵すような焼ける匂いと腐った匂い。体が黒いのか随所は見えないが、全身で鈍く輝くのは溶岩のように赤く、ドロドロと流れる血液。

 

瞬樹は思わず口を押える。見ただけで吐き気を催す程の嫌悪感。

このドーパントは、疑う余地も無く異質だ。

 

 

「こけおどしなら…効かん!気持ち悪いが、それで怖気づく竜騎士ではない!」

 

 

すぐさまドライバーを構え、メモリを装填。

ドーパントに一撃を浴びせ、トリガーを引く。

 

 

「変身!」

 

《ドラゴン!!》

 

 

仮面ライダーエデンへと変身し、エデンドライバーの刺突でドーパントに攻め入る。

“地獄の記憶”を宿したそのドーパントは、「ヘル・ドーパント」。ヘルは錆びついた大鉈を振るい、大きい動きでエデンに斬りかかった。

 

エデンとヘルの打ち合いが続いた。だが、この数手で把握した。ヘルの動きは鈍く、攻撃力も特段高いという訳ではない。これまで戦ってきた組織の刺客たちと比べれば、数段見劣りするレベルだ。

 

 

「容赦はしない。騎士の名の下に、貴様を裁く!」

 

 

隙を見つけ、そこの力を込めた一撃を突き刺す。

しかし、その槍の一撃は、ヘルに届く前に弾かれた。

 

 

「弱き者を加害する…許されざる行為っ…!」

「どーでもいいが…今そいつ殺されちゃ困るんだよなぁ、空気読んでくれや騎士さん」

 

 

ヘルとエデンの間に現れたのは、修道服の二人組。

それぞれ右目と左目を髪で隠した二人は、片目ずつでエデンを睨んでいる。

 

 

「ほら、早く逃げなさい。神の思し召しは今日ではない」

「来たる日まで自由にさせてやっから、勘弁してくれや。って、神さんも言ってるな」

 

「何者だ、邪魔をするな!」

 

「邪魔?そりゃこっちのセリフだよ、なぁヒデリ」

「その通りだカゲリ。我らは神の思し召しがまま、この者を守護するだけだ」

 

 

信仰的な方の「ヒデリ」と、気だるげな「カゲリ」。

その二人は、それぞれドーパントメモリを出し、それぞれ左手と右手の掌にメモリを挿した。

 

 

《アベンジャー!》

《リベンジャー!》

 

 

その姿が変わる頃には、ヘルの姿は闇の中に消えていた。

だが、それを追う余裕などない。少しでも目を離せば刈り取られる。瞬樹の直感が、そう最大音量で告げている。

 

ヒデリと呼ばれた男は、報復者=アベンジャー。サイのような逞しい一本角を持ち、纏った鎧は鎖で覆われ、血の色が染みついたような盾と大剣を構える。

 

もう一人のカゲリは、復讐者=リベンジャー。鋭い2本の角が後ろに伸び、全身に埋め込まれた化石の意匠を囲む有刺鉄線。両手の手甲には刀のような爪が二本ずつ。

 

 

「いいだろう。この竜騎士の名に懸け、返り討ちにしてくれる!」

 

《グリフォン!》

《グリフォン!マキシマムオーバー!!》

 

 

二体一の構図を確認した瞬間、エデンはグリフォンのマキシマムオーバーを発動させ、空中へ跳び上がった。

 

ウィガルエッジで空中を足場に、予測不可能の高速移動を可能にする。初見でこの動きを制した者は、存在しない。

 

 

「跳ね回るが脱兎の如し…カゲリ!」

「はいよ。ピョンピョンすんなよイラつくから」

 

 

リベンジャーの姿が、陽炎が揺らぐように消えた。

構わずエデンは残るアベンジャーに攻撃を仕掛ける。しかし、その死角からの攻撃が何処かから防がれた。

 

 

「…!?」

 

 

その一瞬、リベンジャーの姿がエデンの視界に映った。

エデンは空を蹴り、さらに速度を上げる。縦横無尽に空中を駆けまわるが、肝心なタイミングで何度もリベンジャーが妨害に入ってくる。

 

ここまで来れば間違いない。リベンジャーは、エデンの動きを完全に見切っている。

 

 

(信じられない…この動きを初見で見切る反射も、それについてくる速さも、化物か!)

 

 

体勢を整えるためエデンが動きを止めた瞬間、待ちくたびれたようにリベンジャーが眼前へ。

刹那の怯みが敗北に直結する。それが分かっているから、エデンは即座に攻め入った。

 

グリフォンの力で、あらゆる動きのスピードが上がっている。

その状態で放たれるエデンの連続突きは、疾風怒濤の百裂ラッシュ。

 

 

一つ問題があるとするならば、

リベンジャーがそれらを全て、余裕で弾いたことだけだった。

 

 

「微妙ぉーだな。遅くはないけど…言うて速くもねぇ」

 

 

動きを止めたエデンに複数の斬撃が、遅れて襲い掛かった。

攻撃を捌くどころか、あの連撃の隙間を突き、超速のカウンターを返す神業。どう考えても、この男の実力は常軌を逸している。

 

 

「終わ…るか!まだだ!」

 

《ユニコーン!マキシマムオーバー!!》

 

 

今度はユニコーンのマキシマムオーバーを発動。防御とパワーを底上げし、軽い攻撃は一切受け付けない要塞と化す。そしてエデンは、リベンジャーに向けて全力の一撃を突き出した。

 

そこに割って入るは、アベンジャー・ドーパント。

しかし何を思ったか、盾と剣を手放している。無防備なアベンジャーに、容赦なくエデンの一撃が炸裂した。

 

 

「哀れだ…我々に背いた時点で、神は貴殿を見放した」

 

 

アベンジャーは一歩も退かず、その一撃を“片手で”受け止めていた。

剣を持つことも無く、アベンジャーの右拳がエデンの装甲を強襲。防御が意味を成さない威力が、エデンの体に響く。

 

パワーも、防御も、エデンが出せる最高値を圧倒的に上回っている。

絶望的事実に、瞬樹の心まで折れそうになる。だが…

 

 

「まだ…だ……!」

 

《フェニックス!マキシマムオーバー!!》

 

 

エデンドライバーを地に刺し、体を支え、倒れる体を留めた。

ここにフェニックスのマキシマムオーバーを使用し、イモータルフェザーが展開。聖炎がエデンの傷を癒す。

 

 

「まだ立つ…諦め悪いのは美点だとは思わねーな、これだから」

「救わねば…この愚かな生命を、戦いの監獄から!」

 

「無限の時を生きる者よ。我が望みは慈愛なり。

我が牙と一つとなりて、愛より生まれしその命を導け。滅さず、滅びずの刃となれ!!」

 

《フェニックス!マキシマムドライブ!!》

 

 

ドライバーをバックルにかざし、マキシマム状態に移行。炎を纏ったエデンは飛び上がり、炎剣の蹴撃を解き放った。

 

 

聖炎の不滅剣(フレイム・デュランダル)!!」

 

 

再生能力を帯びた必殺攻撃は、その名の通り不滅。敵を穿つ瞬間まで朽ちることは無い。

その赤き炎撃を受け止めたのは、アベンジャーではなく防御の薄いリベンジャー。

 

確かな手ごたえが感覚を刺激した。

だが、倒せた気はしない。何故なら…リベンジャーは、()()()()()

 

 

「あー…!痛ぇ、痛ぇ痛ぇ痛ぇっ!!なんで我がこんな目に遭うんだ?おかしいよなぁ!ムカついてムカついて、頭に血が上ってしゃあねぇ!!神さんもそう言ってるぜ、なぁヒデリ!!」

 

「あぁ神よ!この者は分不相応に我が兄弟を傷つけた!この愚か極まりない子羊を、この手で罰することをお許しください!そうさカゲリ、我らはいつでも神のお告げのままに!!」

 

 

リベンジャーから黒い炎が吹き上がる。エデンの足元から何かが飛び出て、それはアベンジャーに白い炎を宿した。その時、瞬樹は確かに感じた。

 

忘れたと思い込んでいた、「恐怖」を。

 

 

「「神の名の下に―――」」

 

 

白炎と黒炎が激しく輝く。

何が起こったのかは定かではない。だが、結果だけは残酷にそこに遺ってしまう。

 

 

「報復を」

「復讐を」

 

 

エデンの装甲が砕け、爆散。

簡潔なその事実は、何よりもエデンの敗北を意味していた。

 

 

 

_____

 

 

戦いの場は、地下VIP闘技場へ。

 

プレデターVSダブル ファングジョーカー。

過去、これ以上に盛り上がる仕合は無かっただろう。敵であるダブルが来てもなお、楽しむ余裕のある観客たち。仮面ライダーなんて脅威じゃない程の存在が後ろにいるという事だ。やはりこの闘技場は果てしなく黒い。

 

だが、そんなことを考えている余裕も無い。

 

戦況を一気に優位にするための交代だったが、予想を大きく外し、現時点で完全に力が拮抗している。

プレデターの実力が予想以上だった。この男は、前情報なしで戦うには危険過ぎる。

 

 

『永斗、まだ踏ん張れるか』

「クロの鬼訓練のおかげで多少はね。でも限界近いんで逃げても…」

『却下だ。ふざけんなクソニート』

「だよねー。知ってた知ってた」

 

「“二人で一人”はマジだったか。面白ぇ芸だなオイ!面白ついでにもっと盛り上げてくれやぁ!!」

 

 

ダブルのショルダーファングを、プレデターの口が受け止め、噛み砕いた。

勢いを止めないプレデターの突進。猛スピードで弾丸のようなパンチが迫る。

 

ダブルはそれに突っ込んでいく形で応戦。アームファングでプレデターを迎え撃つ。

 

二人が交差する瞬間、一瞬きで凄まじい攻防が繰り広げられる。

通り過ぎた後、ダブルの脚が、プレデターの触手が、それぞれ斬り付けられていた。

 

 

「やるじゃねぇか。そんならコイツは知ってるか?俺様は拳闘士であると同時に…“剣闘士”だ!」

 

 

再び繰り出したアームファングの斬撃が、何かとぶつかり合った。

この感触は、間違いなく“太刀”。

 

プレデターの体から引きずり出された、身の丈程もある肉の大剣。無数の牙と口が備わったその剣は、まるで生物のように脈打っている。

 

 

『おいおい!ペットはともかく、剣が使い手に似るなんて聞いたことねぇぞ!?』

 

「ヒハハッ!コイツの名は喰墮折(くいだおれ)、洒落た名前だろ?ついでに言っとくが…食い意地も俺様譲りだぜぇ!」

 

 

飛び掛かったプレデターが、軽々と大剣を振るう。ダブルの首目掛けた斬撃はすんでの所で回避され、その後ろにあったフェンスが食い千切られた。

 

「食う」と「斬る」を同時に行う武器。しかも出鱈目に振り回しているのではなく、一撃で命を狩り取るために的確な太刀筋をしている。

 

 

「厄介過ぎるでしょ、その性能は」

 

 

攻撃を回避した瞬間、プレデターの姿が消えた。

ほぼ直感。咄嗟に振り返った背後に、剣を振りかぶるプレデターが。

 

ダブルは後ろに蹴って、間合いから出ようとする。

しかし、振られた刃は斬撃の途中で“伸びた”。肉で出来た剣は、長さも自在という事か。

 

 

「こう見えて小細工大好きだ。さぁ喰い甲斐見せてみろやぁッ!!」

 

 

急所を狙う刃を、ダブルはアームファングで受ける。さらに刃同士を滑らせつつ、加速してプレデターに接近。アームファングで剣を根元から断ち切った。

 

剣から鮮血が噴き出す。完全に間合に入った。ダブルの刃はプレデターの胴体に牙を剥く。

が、アームファングに蓄積された衝撃が、最悪のタイミングで敵に回った。

 

敵前にして、無慈悲に砕け散るアームファング。

途端に状況は攻勢から、絶体絶命に。

 

今のダブルは口を開けたワニに裸で突っ込んでいくに等しい。

いや、もう例えでも何でもない。プレデターは顔の口を大きく開け―――

 

 

 

ダブルの右腕を、噛み千切った。

 

 

 




バトル書くの楽しくて5000字くらい増えちった(反省)。
今回登場した案を一気に紹介!まず、ブラッドマスカレイドさん考案の「センチピード・ドーパント」。こんころ狐さん考案の「プレデター・ドーパント」、MrKINGDAMさん考案の「イーター・ドーパント」、Fe_Philosopherさん考案の「ハンガー・ドーパント」、鈴神さん考案の「イート・ドーパント」を一つにまとめたのが「プレデター・ドーパント」。希-さん考案の「ヘル・ドーパント」。MrKINGDAMさん考案の「ビートル・ドーパント」「スタッグ・ドーパント」にτ素子さん考案の「リベンジャー・ドーパント」をまた合体させ、「リベンジャー・ドーパント」と「アベンジャー・ドーパント」。です!

今回登場しなかった案は、今出すべきではないと考え、保留しました。多分今回に限らず、今後オリジナル案放出のスピードは上がってくるので、よろしくお願いします!

感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!
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