ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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昨日ぶりの人は昨日ぶり、146です。
今回はプレデター戦の続きから。そして、ようやく暴食と傲慢が本性を見せます。

若干グロ注意。



第54話 Pは牙を剥く/『暴食』と『傲慢』

 

「『トリガーフルムーン!!』」

 

 

 

銃口から同時に射出された、無数の光弾。ここまではトリガーフルバーストと同じだ。

違うのはここから。光弾は即座に破裂し、辺り一帯を光で包み込んだ。

 

 

「また目くらましかァ…!?しゃらくせぇ!!」

 

 

 

プレデターが目を開けると、視界に飛び込んできたのは優しい光。

四方八方、いや、プレデターを中心に光を放つ空間が広がっている。広い空間だ。見た感じ、球体の中に入り込んだようだった。

 

 

「何だ此処は…」

 

「トリガーフルムーン。ルナの力を最大限に増幅させ、トリガーの力でそれを射出し、幻想空間を作り出す技だ」

 

 

プレデターの目の前に浮かぶのは、ルナトリガーのダブル。

しかし、目の前に広がるのはもっと解せない光景だった。

 

 

「幻想…ねぇ、コイツがそういうことか?」

 

 

プレデターの前にいるのはルナトリガーだけではない、サイクロンメタル、ヒートジョーカー、その他合計9人。基本の6メモリで変身が可能な全ての姿が、そこに勢揃いしていた。

 

 

「俺達、仮面ライダーダブルの全部でお前を叩き潰す」

 

「お前を倒すまで消えない、脱出不可能の無限地獄」

 

「今度はお前が狩られる側だ」

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ!!』」

 

 

9人のダブルが、一斉にその言葉を投げかけた。

プレデターが雄叫びをあげた。喜びに打ちひしがれた叫びだ。

 

 

「罪ィ?本能に従い、喰らうことが罪なわけあるか!!

全員纏めて!喰らってやるよ切風アラシぃ!!」

 

 

ヒートトリガー、ルナトリガー、サイクロントリガーが一斉に銃口を向け、プレデターの周囲を弾丸が支配した。光弾、炎弾、風弾、それらが相乗効果を発揮し、量増しされた火力がプレデターの防御を穿つ。

 

爆発に呑まれるプレデター。が、次の瞬間には爆炎の中から触手が伸び、サイクロントリガーを締め上げると、その首を食い千切った。

 

 

「まずは…一体!」

 

 

再生能力で無傷のプレデター。しかし、サイクロントリガーは光の粒子になって消えた。

プレデターは次の獲物に飢えを向ける。何が無限地獄だ、全員食い殺せばいいだけの話。

 

次に仕掛けたのはルナメタルだ。生物のように動くシャフトがプレデターの触手を縛り上げ、無力化。ヒートトリガー、ヒートジョーカー、ヒートメタルの超火力攻撃が火を吹く。

 

プレデターは甲高い呼吸をしたかと思うと、それらの攻撃を全て拳で迎え撃った。

さらに大剣をもう一度生成。今度は喰ったアスファルトやフェンスの材質でコーティングし、耐熱性能を上げている。

 

 

「ヒハハハハハッ!!これだけか!?こんな人形劇で俺様を倒すつもりか!!笑いが止まんねぇぞぉッ!!」

 

 

更に凶暴性を増した大剣は、触れるものに見境なく、全てを喰い尽くす。

その斬撃の餌食となったのは、ルナメタル、ヒートトリガー。反撃に転じようとしていたヒートジョーカーは、その一瞬の隙を突かれ、首を食い千切られて消滅。さらにサイクロンメタルはファングの牙で凶化された針に刺し貫かれ、何もできずに消えてしまった。

 

 

「あと4体…か…?」

 

 

残っているのは、ルナトリガー、サイクロンジョーカー、ルナジョーカー、ヒートメタル。

光の幻とは言えど、それぞれが本物と同じ戦闘力を持つはずだ。それがこうも一方的に、瞬く間に5体も蹂躙させられたことから、ハイドーププレデターの凶悪的な強さが伺える。

 

「どれが本物だ」プレデターはその思考を巡らせ、一瞬で結論を導き出した。

ならば最後だ。まずは幻を喰い散らし、最後に本物を喰らう。

 

 

「はぁっ!」

 

 

ルナジョーカーが鞭のような腕を叩きつける。プレデターが反撃の素振りを見せると、ルナトリガーの連射がそれを妨害。生じた隙にサイクロンジョーカーとヒートメタルが畳みかける。

 

小賢しい。そう一笑に付すように、プレデターが翼を広げ、飛翔する。

連射されたルナトリガーの光の弾。プレデターはそれと同数の羽を、翼から分離させ、射出。分離した羽は牙へと変化し、光弾を全て撃ち落とした。

 

 

「邪魔だァ!!」

 

 

超高速で急降下。片手間のようにルナジョーカーを斬り倒し、消滅させる。

残りは三体。減っていく皿の上の料理を惜しむように、もしくは最後の一口を待ちきれないように、プレデターは舌なめずりをして飛び掛かった。

 

 

《トリガー!マキシマムドライブ!!》

 

「『トリガーフルバースト!!』」

 

 

《メタル!マキシマムドライブ!!》

 

「『メタルブランディング!!』」

 

 

ルナトリガーとヒートメタルがマキシマムドライブを発動。

息の合った同時必殺攻撃は、ツインマキシマムの火力にも匹敵する。

 

無数の光弾は予測不能の弾道を描き、ヒートメタルはその間を通って、両端から炎が噴き出したシャフトを凄まじい勢いで炸裂させる。一つの兵器と言って差し支えの無いその威力は、プレデターを爆炎で包み込んだ。

 

 

「……効いたぜェ、今のはなァ!!」

 

 

ヒートメタルが両断され、消えた。

回避の動作も、もう遅い。伸びた触手が胴体を貫通し、ルナトリガーも光となって消えてしまった。

 

爆炎を散らし、プレデターが姿を現した。

右腕が使い物にならなくなり、体が焼け焦げ、剣が消し飛んでいる。これまでの攻撃よりも間違いなくダメージが入っているが、既に再生が始まっている。完全回復も時間の問題だ。

 

 

だが、ここまでは想定通りだ。

 

 

残るは一体。削りに削れたプレデターを仕留めるため、最後の一人が爆炎の中から―――

 

 

「やっぱりテメェだよなぁ」

 

 

トドメを刺そうとしたサイクロンジョーカーの動きが、止まった。

 

毒だ。プレデターは予め、サイクロンジョーカーにだけ毒の攻撃を仕掛けていた。

毒もまた、生物が捕食に用いる武器の一つ。プレデターはこの時のために、最後の最後まで切札を隠していたのだ。

 

 

「すぐに分かったぜ、テメェと俺様は同種なんだ。最後の一口は万全で迎えたい。銃でも、棒でもなく、生まれ持ったその拳で!全身全力で叩き壊す!ぶち殺す!虐げる!その快感を余すことなく貪り尽くす!そうしねぇと飢えが収まんねぇからなァ!!バケモノならそうだ、その甘美な誘惑に!勝てる訳がねぇんだよ!!」

 

 

拳を構える。毒で全く動けないダブルを触手で吊るし上げる。

この長かった晩餐会も、これで終わりだ。

 

 

「楽しかったぜ、切風アラシ。テメェは骨も残らず、この俺様が喰らってやるよ!!」

 

 

プレデターの拳が、ダブルの体を貫いた。

 

プレデターは笑った。

待ちに待ったその味を、拳を伝う感覚を味わい、笑った。

 

 

 

 

 

 

「んだよ、俺様の見当違いかァ………」

 

 

 

 

そう、()()()()()()

目の前で消えた、サイクロンジョーカーの陰を眺め、己を嘲った。

 

 

最初からこの空間に、本物なんていなかった。

アラシは獲物を喰らう悦楽に浸る獣ではない、彼が見据えるのは、ただ敵を屠るその瞬間だけだ。

 

 

《オーシャン!マキシマムドライブ!!》

 

 

地上に残った本物のダブルは、ヒートオーシャンに変身し、オーシャンアローを宙に浮かぶ球状の幻想空間に向ける。オーシャンの能力は「エネルギーのチャージ」。ルナトリガーのツインマキシマムは、プレデターを確実に倒すエネルギーを溜めるまでの時間稼ぎに過ぎない。

 

 

「『オーシャンブラスター!!』」

 

 

アローから発射される一撃は、矢という定義から外れ、もはや砲撃。

水と炎、相反する属性が混然一体となった砲撃が、夜空に浮かぶ満月を射抜いた。

 

 

「氷餓。お前の気持ち、他人(ひと)よりは分かるよ。…でもな」

 

 

マキシマムドライブの反動、そして蓄積されたダメージがダブルを襲い、仮面の下でアラシが血を吐く。

幾度となく喰い飽きた、吐き気のする味だ。だから、痛みも、戦いも、嘘も、飢えも―――

 

 

「俺はもう、二度と御免だ」

 

 

幻想空間が破裂。アスファルトに光の雨が降り注ぎ、胴を貫かれた捕食者の肉体が、そこに墜落した。

 

 

 

______

 

 

VIP闘技場。アラシ達が仕掛けた作戦の一部始終が聞かされ、モニター内の戦闘ではプレデターが敗北した。それはつまり、ここにいる観客は全て、逮捕を待つ状態になってしまったことを意味する。

 

 

「ふざけるな!ここから出せ!!」

「待て!俺が先だ!」

「クソ!開かない!なんで私たちがこんな目に!」

「ちょっと!聞いてないわよこんなの!!」

 

 

出入り口に殺到する観客たち。我先にと、一秒でも早く逃げ出そうとする。

しかし、穂乃果たちによって無駄に固く閉ざされた扉は、身体能力の低い生身の人間では開かない。息を合わせて扉に体当たりでもすれば開くかもしれないが、頭に血が上った彼らに、協力の選択肢は見えはしない。

 

地獄絵図だ。人間の醜悪さが濃縮された空間、まさに地獄。

そんな地獄に降り立つのは、悪魔か鬼と相場が決まっている。

 

 

「喚いてるねぇ、お金持ち諸君」

 

 

闘技場の中心に現れたのは、頭髪に金メッシュを入れた、赤い瞳の青年。

お茶らけた声で、バカにするように佇む。彼の名は七幹部“傲慢”、朱月王我。

 

 

「朱月組の組長か!」

「そうだ…この闘技場には朱月組が付いてるんだ!」

「アンタならここから出せるんでしょ!?」

 

 

観客たちが口々にそう浴びせかける。

朱月はニコニコと手を振って、まるで凱旋パレードでもしているようだ。

 

その一言が、観客席から飛び出すまでは。

 

 

「早くここから出せ!私がこの闘技場にどれだけ金を使ったと思ってるんだ!」

 

 

朱月の表情が変わった。

 

 

「———はぁ?」

 

 

死んだ。

 

それを言ったのは、肥満質な男だったと思う。でも、どんな顔かは分からない。

血飛沫が飛散。顔面が破裂し、ボトリと眼球が落ちたからだ。

 

観客は一斉に黙った。その全ての視線が朱月に向いた。

その目に焼き付いたのは、得体の知れない闇。それか悪意。

 

 

「金を払った。で?なんでそれにオレが答えなきゃいけないワケ?

金を落とすのはオマエらの役目でしょ?オマエらがオレの思い通りになるのは、『義務』なんだ。当然なんだよ。それが出来たくらいでオレに指図??それってさぁ……ちょっと傲慢過ぎじゃない?」

 

 

朱月が指を向けた方向から、老いた男が操られるように闘技場に降りてくる。

抵抗しようとする意志に体が従うことは無く、その男は朱月の前まで来てしまった。

 

恐怖することしか出来ないその男に、朱月は明るく問いかける。

 

 

「オマエ、さっき死んだ奴と同じこと思ってたでしょ?」

「い…いえ!断じて!神に誓って思っておりません!」

「いや、思ったんだよ。オレがそう思ったって思ったんだから、オマエはそう思うべきなんだよ」

 

 

無茶苦茶だ。自分で行ったことが可笑しかったのか、朱月だけが笑っている。

笑い声の隣で、その男の四肢が弾け飛ぶ。朱月は無造作に男の死体を投げ捨てると、観客席に向けて手を伸ばした。

 

 

「そんじゃあ…ここで問題です!このオレの気分が害されたワケですがぁ……

ここにいる数百人の中で、これから一体何人死んじゃうんでしょうか?」

 

 

観客の中から、若い女が必死になって扉を殴りつける。

もう誰でもいい。警察でもいい、仮面ライダーでもいい、どんな畜生だろうが鬼だろうが悪魔でもいい。

 

 

「助けて…誰かっ……!ここから出して…出してぇぇえェっ!!!」

 

 

扉を殴る音が消えた。

扉が血に染まった。頸が、恐怖に引きつった顔のまま、落ちた。

 

 

「全員だよ」

 

 

数百人の命が、その瞬間に一つ残らず消え去った。

血と臓物の海になった闘技場の中心で、朱月は退屈そうに息を吐く。

 

悪魔でも、鬼でもない。

 

この男を表現するのは、「傲慢」という言葉しかない。

 

 

 

 

______

 

 

 

 

プレデター・ドーパントVS仮面ライダーダブル。

その勝負は決した。しかし、一つ解せないのは

 

その肉体が、ドーパント態のまま変わらないということだ。

 

 

「ァ……!残念、だったなァ…!!」

 

 

プレデターの体が、急速に再生していく。

ヒートオーシャンの限界火力でも、プレデターの再生を上回れなかった。その事実に、ダブルは打ちのめされてしまう。

 

 

「この大食い野郎…!」

『どーする?これマズいでしょ』

 

「身構えんじゃねぇ。流石の俺様も、これで負けを認めないほど意地汚くねぇよ」

 

 

プレデターは腹に溜めていたエネルギーを使い切った。事前に喰っておいたあれだけのエネルギーを全て使い、なんとか再生することが出来た状態だ。

 

完敗だ。氷餓の猛執をも手玉に取った、見事な作戦。闘技場も潰された。

何より、アラシは氷餓の求めていた人間では無かった。もうアラシに対する飢えも失せ、氷餓はハイドープへの覚醒という目的も果たしている。

 

 

「満足だ。テメェは同種じゃなかったが、強い奴は軒並み好きだぜ。

もう喰いには行かねぇが、暇つぶしで殺しに行くかもなァ」

 

「冗談じゃねぇよ。負けを認めるってんなら、卓郎の感情と気力を吐いて行きやがれ」

 

「使ったもんは仕方ねェだろ?代わりに一つ教えてやるよ、喰った感情はそのうち“再生する”。このメモリを壊せば、の話だけどなァ」

 

 

プレデターは舌を出して、ダブルに背を向ける。

 

 

「…そう長くは待たせねぇよ。すぐにでもそのメモリぶっ壊してやる」

 

「いいじゃねェか。また会おうや、切風アラシ」

 

 

 

 

 

 

 

「あら、その必要は無いわよ?」

 

 

その声が、去ろうとするプレデターを呼び止めた。

嫌いな声だ。食欲が失せる声だ。殺したくなる声だ。

 

 

「暴食…!!」

 

「ご馳走を前にして帰るなんて、貴方らしくなくってよ?氷餓」

 

 

ダブルが身構える。パーカー姿の女。その下には音ノ木坂の制服。七幹部“暴食”だ。

しかし、ダブルはそこから動くことが出来ない。ダブルの四方上下を、透明な壁が囲っている。いや、これは壁というより「箱」だ。

 

 

「この能力…まさか…!」

 

「そこで見てなさい、仮面ライダー。

ここからは私の食事よ」

 

 

暴食がガイアドライバーを装着し、ゴールドメモリを取り出した。

様々な物が混ざった悪魔の横顔のような形で、Cと刻まれたメモリ。暴食はそのメモリを起動させ、その名を叫ばせた。

 

 

《キメラ!》

 

 

 

_______

 

 

 

闘技場には間もなく警察がやって来る。

エデンは槍の一撃をマスカレイドに突き刺し、その戦いを終えた。

 

これで全てのドーパントを撃退した。獅子丸という男とラピッドは外で戦っているようだが、とにかく、もう警察の突入を妨げるものは無くなったと見て間違いないだろう。

 

槍を床に刺し、瞬樹は昨日の戦いの結末を思い出す。

 

 

仮面ライダーエデンは敗北した。

リベンジャーとアベンジャーの前に、完膚なきまでに叩きのめされた。

だが、彼らはトドメを刺さず、代わりにこの言葉を残して行った。

 

 

『弱き者を加害するのは、神の慈悲に反する行いだ』

 

 

「弱い」。その単語が昨日からずっと、瞬樹の頭を蝕んでいる。

 

 

「弱いだと…ふざけるな、俺は竜騎士だ!弱いはずが無いんだ…!!」

 

 

瞬樹は強さを求めた。だから騎士道を信じ、竜騎士を名乗った。

強くなりたかったから。強くあらねばならなかったから。

 

竜騎士は、強さの象徴だから。

 

強くないと、天使を護れないから。

 

 

 

「“D”のメモリ…来てたんだねぇ!」

 

 

靄のような空間を通り、エデンの前に朱月が降り立った。

床に降ろした靴や、その服は、血で汚れて生臭い。それに反して嬉しそうな彼の表情が、心底不気味だ。

 

何より。この男は七幹部の“傲慢”。組織の最高幹部の一人。

 

腕が震え、呼吸が乱れる。呼び起された恐怖が、逃げろと全力で警告する。

でも、ダメだ。ここで逃げてしまったら、大事な何かが土台から崩れ去ってしまう。

 

 

「…来い!“傲慢”!この俺が…竜騎士シュバルツが相手だ!!」

 

「へぇ、やるんだ。いいよ、オレが直々に相手してあげる。

オレ機嫌悪いからさぁ、気分転換くらいにはなってよ?」

 

 

朱月は腰にガイアドライバーを装着し、黄金のメモリを掲げた。

扉が書いてある。そこから伸びる腕。象る文字は…G。

 

 

《ゲート!》

 

 

朱月が、メモリをドライバーに挿した。

 

ゲート、「門の記憶」。闇の靄の中から顕現したその姿は、一言で表すなら「皇帝」。

赤黒い血が染みついたような衣服、頭には冠のように黄金の角が6本。顔には目も口も無く、ただ装飾が施されている。体の中央や顔を始めとして、全身に走るのは「縫い目」。胸や腕の縫い目は広がっており、そこから指や大きな瞳が覗く。

 

 

「ゲート・ドーパント…」

 

 

エデンが無意識にその名を繰り返す。

その存在感は、これまで対峙したドーパントと比較する事すら烏滸がましい。

エクスティンクトや暴食のドーパント態。ゴールドメモリのドーパントは数回見てきたが、コイツはそれらとは別格だ。考えるまでも無く、記憶にある敵の中で最強。

 

 

「く…うあぁぁぁぁッ!!」

 

 

エデンは恐怖を誤魔化すように、槍を構えて一直線に突っ込んでいく。

半狂乱とは言えど、相当なスピードだ。だが、ゲートはそれを避ける素振りすら見せない。

 

気付くと、エデンの前には誰もいなかった。

確かにゲートに接近し、槍を突き出した。だが、そのゲートはエデンの背後に。

 

 

「ほら、次」

 

 

ゲートに煽られ、エデンは再び槍を突き出す。

今度はハッキリと視界が捉えた。エデンの攻撃は、ゲートをすり抜けている。

 

 

「そんなバカな…!?」

 

 

よく見ると、すり抜けているのではない。

ゲートの前に出現した靄に触れ、その槍先が別の場所に転移されている。

 

手数を増やそうと、連続刺突を繰り出す。しかし、それらは全て靄に呑まれ、エデンの背後に出現した別の靄からエデンの攻撃がそのまま返ってきてしまう。

 

 

「空間を切って、繋げて、操るのがオレの能力。どう?強いっしょ」

 

 

強いなんてものではない。理論上、あらゆる攻撃は意味を成さないことになる。

しかし、逆に言えばその能力は…

 

 

「今、オレの能力は防御だけで、攻撃は大したことないって思ったでしょ?その考えは傲慢だねぇ。

確かに、オレは“憂鬱”くんみたいに空間を削ったり斬ったり出来ないけど…そうだ!」

 

 

ゲートはエデンを突き放し、腕を組んだ。

顎をエデンに向け、いかにも隙だらけの姿勢で佇む。

 

 

「何のつもりだ!」

 

「かかって来なよ。オレは一歩も動かないで、右足しか使わない。あ、もちろん“門”で防御もしないからさ」

 

「貴様…舐めるな!!」

 

 

エデンは一歩目を踏み出し、爆発的に加速。

ゲートの前で攻撃のモーションを見せるが、それはフェイント。一瞬で横に回り込み、全力を込めた一撃を浴びせた。

 

だが、ゲートは右足を上げてその攻撃に合わせ、易々と全ての威力を受け止めて見せた。

 

 

「ふざけるな…あぁッ!!」

 

 

エデンが次の攻撃をする前に、ゲートの蹴りがエデンの手から槍を弾く。

そして、ゲートはボールでもリフティングするかのように、エデンを蹴り上げた。

 

攻撃力が低い?とんでもない。蹴りがまるで至近距離で砲撃を喰らったようなダメージだ。

 

エデンが天井に叩きつけられる瞬間、門が出現し、ゲートの前に転移される。

ゲートは転移されたエデンを再び蹴り飛ばし、こんどは凄まじい勢いで前へ。壁にぶつかる寸前で、またしてもゲートの前に転移され、今度はかかと落としが突き刺さった。

 

エデンの変身が解除され、ゲートに踏みつけられた瞬樹が呻く。

 

 

「なんでだ…なんで…手も足も出ないなんて…ッ!」

 

 

無念を叫ぶ。悔しそうに涙を浮かべるその姿は、騎士ではなく普通の少年のようだった。

力尽きた瞬樹が気を失った。ゲートはそれに興味が失せたように、足に力を込めた。

 

 

ゲートが瞬樹を踏み砕く前に、地面から生え出てきた血色の紐が瞬樹を包んだ。

それはすぐに圧縮され、手のひらサイズのボールとなって、ゲートの足元から消える。

 

 

「今の技、嫉妬…いや今は暴食ちゃんとこの烈だっけ?

まぁいいか。聞いてた程じゃないし、もうアイツに興味ないや」

 

 

変身を解除した朱月は、瞬樹への失望の台詞を残し、靄の中に消えた。

 

 

 

_______

 

 

 

暴食は羽衣を纏った獅子のドーパントに変身した。

内包する記憶は「合成生物の記憶」、キメラ・ドーパントだ。

 

 

「ハッ!俺様を喰いに来たか、暴食」

 

「えぇ、貴方がやっとハイドープに覚醒したんだもの」

 

「そうかよ…ふざけてんじゃねェっ!!」

 

 

プレデターが構えを取り、剛腕から弾丸の殴撃を繰り出す。

無駄のない動きで躱すキメラ。プレデターは殺気の込められた拳を、何度も突き出し続ける。

 

 

「俺様は喰う側だ!誰よりも飢え、求める俺様こそが!暴食に相応しい!!」

 

「可哀想な子ね…まだ、()()()()()()()()に踊らされてるなんて」

 

 

「偽物の記憶」たしかにそう言った。

プレデターの動きが止まった。何を言っているのか分からなかった。激しく首を横に振り、否定する。だが、その言葉が鍵とでも言うかのように、その事実は氷餓の記憶を激しく揺さぶった。

 

 

「そうだ、仮面ライダーには言ってなかったわね。

私のメモリはキメラ。“食べたメモリの能力を奪う能力”を持つわ」

 

 

その説明で合点がいった。前回キメラと戦ったときに見せた、多様な能力。永斗の検索も行ったが、それに引っかからなかった理由も、後付けの能力なら当然だ。

 

ならば、現在ダブルを封じているこの箱は…

 

 

「喰ったのか、白府リズのメモリを」

『いやアラシ、それはおかしい。僕たちはあの時、確かにボックスのメモリを砕いたはずだ』

 

「そうね。だから私は、()()()()しか食べられなかった。だから能力も半端なのよ」

 

「食べた…だと!?白府リズをか!?」

 

「えぇ」

 

 

驚くほどあっさりと、キメラは答えた。

驚くことではないのかもしれない。現にプレデターメモリも、人を喰うメモリだ。だが、氷餓はむやみに人を喰わなかった。それだけでなく、予想は出来てもその事実は、余りに吐き気を催す。

 

 

「ふざけんな…有り得ねぇ!俺様の記憶が嘘だと…?俺様の飢えは…俺様のものだ!」

 

「本当よ。せっかくだから、全部教えてあげるわ。

私はプレデターメモリを食べたかったの。同系統の能力を食べると、その能力は飛躍する。私のキメラメモリを強くするのに、プレデターメモリは必要だった。

 

メモリはただ食べればいいってものじゃないの。適合者によって力を引き出す…即ちハイドープに覚醒して初めて、食べるに値する美食となる。私はプレデターの適合者を探したわ。探して、探して、でも最も高い適合率を出したのは………私自身だった」

 

 

頭を抑え、悶え、プレデターはその言葉を遮ろうと、腕を振り回し、能力を暴走させ、暴れ回る。叫び声が全身の口から溢れ出る。その叫びは聞いたことのないような、悲痛の叫びだった。

 

 

「それで天金に相談したのだけど、そこでいい計画を思いついたの」

 

 

キメラは笑いを含んだ声で、口元に手を当てて言った。

 

永斗がキメラの能力を鑑みて、一つの結論を導き出した。ただしそれは、人の道から外れ過ぎた行為だった。

 

 

『暴食、答えろ。君の能力ストックの中には記憶改竄と……()()がある。違う?』

 

 

アラシもそれを聞いて察しがついた。その事実に、震えるほどの怒りがこみ上げる。

きっとそれは、氷餓も同じだ。そんな彼らを嘲るように、キメラはその言葉を突き付けた。

 

 

「知ってる?適合率って、遺伝するのよ」

 

 

 

寒気がする。吐き気がする。どうか、それが嘘であって欲しかった。

でなければ、例え悪人だろうが、氷餓が救われない。そんな人生が有ってはいけない。

 

 

「もう分かったでしょう?氷餓。貴方は4年前、私が産んだ子よ」

 

 

話はこうだ。この女は自分で産んだ子供を、メモリの力で大人の体にし、プレデターの適合率がより高くなるように飢えの記憶を植え付けた。

 

 

「…………嘘だ」

 

 

この女の年齢がいくつだとか、一先ずどうでも良くなった。

 

氷餓が両膝を震わせ、痙攣するように息を荒げ、呆けている。

彼は、暴食に喰われるためだけに生み出された命だ。彼を突き動かしていた記憶も、飢えも、全てが食材としての価値を高めるためのもの。

 

彼の、氷餓の人生に、意味なんて何一つ無かった。

 

 

 

「殺す…殺してやる……殺してやる…ッ!ふざけんな…俺様は…おれは…あ゛ぁッ…あぁぁぁァぁぁッ!!」

 

 

泣き叫び、殺意を剥き出しにして、恐怖も絶望もさらけ出す。

反吐が出る。吐き出したくなる。流れる血が憎くて、運命が残酷過ぎて、命が空虚で。

言葉が出ないほど、彼には何もなくて。

 

 

抵抗さえも虚しくて、

差し出されたキメラの腕が、プレデターの胸を貫いた。

 

 

「長かったわ。必要なメモリの適合者を探して、相応しい遺伝子を見つけて、貴方を育てて…4年もかかった。やっと…貴方を食べられる」

 

 

キメラの体に亀裂が入り、開いた。

涎の糸を引き、内側まで牙が生えた、大きな口だ。

 

開いたキメラの胴体の内側は、脈打つ肉の壁。

そこから這い出るのは、一糸纏わぬ姿の暴食の身体。

彼女は焦がれるように、プレデターに―――氷餓に腕を伸ばす。

 

 

「おいで」

 

 

消えゆく意識の中で、氷餓は初めて母に抱かれた。

それは余りに無情で歪で醜悪な、食慾に塗れた愛だった。

 

 

「愛してるわ、氷餓」

 

「………死ね…!」

 

 

口が閉じた。

骨が砕ける音がした。肉が千切れる音がした。血が流れ落ちる音がした。

命が食い荒らされる音がした。踏みにじられる音がした。

 

快感に浸るように恍惚とした声で、キメラは艶めかしくその言葉を捧げる。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

「暴食……!!!テメェぇぇぇぇッ!!」

 

 

サイクロンジョーカーに変身したダブルが、箱を突き破った。

抑えの効かない怒りが全身を動かす感覚だ。脳からつま先まで走る嫌悪感が、コイツを殺せと叫んでいる。

 

ひょっとこ男、白府リズ、魔術師。外道は今まで散々叩き潰して来た。

信じたくは無かったが、この女は外道共の首魁に相応しい、常軌を逸した怪物だ。

 

喰うために手段を選ばず、喰うものに見境が無い。

 

それは古き時代、最も重き罪として戒められた罪。

善も悪も欲も感情も、全てを食らいつくす。純然で純粋な、欲の権化。

 

故に、“暴食”。

 

 

「冗談じゃねぇ…冗談じゃねぇんだよ!アレが親か?喰うために産んだだと?命を何だと思ってんだ……テメェの子を何だと思ってんだ!!!」

 

「あら心外ね。私は氷餓を愛してるわよ?そこらの親子よりもよっぽど」

 

『君のソレは愛なんかじゃない!ただ自分が欲しただけの、どこまでも意地汚い欲望だ!』

 

 

ダブルの怒りも届かず、その拳はキメラの眼前で止まる。

 

材料の記憶(マテリアル)×磁石の記憶(マグネット)

金属に変化したダブルの拳は、磁力の壁に阻まれて攻撃が出来ない。

 

 

「食後の余韻は楽しみたい主義なの。消えてくれるかしら?」

 

 

箱の記憶(ボックス)×材料の記憶(マテリアル)

またしても、ダブルを箱が覆った。しかし、今度はより強固な鋼鉄の箱だ。

 

ディノニクスの記憶(ディノニクス)×爆発の記憶(エクスプロージョン)×捕食者の記憶(プレデター)

キメラの腕に生えた、鋭い爪。それを身動きが取れないダブルに振ると、喰い裂くような斬撃に爆発が付与され、箱ごとダブルを切り裂いた。

 

 

「が…ぁ…ッ!」

 

 

変身解除したアラシが地面でのたうち回る。

この女は強い。この怒りが遠く、分厚い壁に阻まれる。それが体が裂けるほど悔しい。

 

 

泥沼の記憶(スワンプ)

苦しむアラシを見下し、笑い声を上げながらキメラは泥沼の中へと姿を消した。

 

 

 

_______

 

 

9/3 活動報告書

 

 

あの後、地下闘技場に突入した警察が見たのは、数百人の観客の惨殺死体だった。

賭博の証拠も残っていた。オーナーである氷餓が死亡した。地下闘技場を潰すという目的は達成された。

 

 

逆に言えば、それだけだ。

 

 

プレデターのメモリはキメラに吸収され、卓郎は未だに無気力状態のまま、回復の兆しを見せない。瞬樹も気を失っている状態で烈によって発見された。朱月と戦いになったが、まるで相手にならなかったと、瞬樹は悔しそうに語っていた。

 

ダブルも、エデンも、七幹部相手には全く歯が立たなかった。

 

µ’sの9人が無事だったのは良い。

だが、新学期初めての依頼は、大失敗で終わった。

 

 

「終わらせねぇ…終わらせてたまるか!」

 

 

例え依頼人がクソ親だろうが、探偵が依頼を投げ出す事は有り得ない。

 

音ノ木坂に巣食う暴食を見つけ出し、メモリを壊す。

そして卓郎を救い出す。一刻も早くあのバケモノをぶっ潰す!

 

 

俺達の新学期は、その決意から始まる。

これが、七幹部との戦いの始まりだった。

 

 

 

______

 

 

 

こんな噂が立っていた。

毎夜毎夜、ビルの屋上に立って天を仰ぐ、美人の女がいると。

 

別の噂ではこうだ。

毎晩、都市の夜空をロボットが駆け回っていると。

 

 

それらの噂は両方真実であり、一つの事実を指していた。

 

 

ビルの屋上で、スーツの女は天を見上げ、腕を広げた。

その女の顔つきから、彼女は中国人だと推測できる。

 

彼女はメモリを起動させ、鎖骨へと突き刺す。

 

 

《サテライト!》

 

 

「衛星の記憶」を宿したメモリで、その女はサテライト・ドーパントへと変化。

そう、この女は3年前、組織の研究施設に切風空助が侵入した事件の際、アラシと無悪冬海を射撃したドーパントだ。

 

サテライトの様子が変わった。

喜びに打ちひしがれた様子で膝を付き、手を組み、神に謝辞を述べるように感涙の言葉を吐き出す。

 

 

「嗚呼…ようやく…ようやくっ…!この時をお待ちしておりました!

『受信』しましたエルバ様、貴方様の崇高な思念を!さぁ、今こそ晴らしましょう…貴方様の『憂鬱』をッ!!」

 

 

 

世界の壁が開く。

『憂鬱』が、目を覚ます―――

 

 

 




最後に出てきたアイツは永斗過去編に登場した奴です。あのシーンはコラボ編と繋がっていますので、仮面ライダーソニックの方と併せて読んでいただければ。

暴食と傲慢のメモリが明かされました。「キメラ」と「ゲート」です。キメラは本当に最初から登場予定だったので、「能力を奪う系」の能力を持つドーパント案は軒並みボツにせざるを得ない形になってしまいました。申し訳ございません。

氷餓の設定は…「人間家畜」のコンセプトです。暴食の幹部として、このくらいはやりかねないと思って決定しました。一応結構それらしい描写は入れてあります。ネームドのキャラが死んだのは初めてかな?

次回は負けまくった瞬樹のメインエピソード。ヘルやリベンジャー・アベンジャーが再び現れます。

感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!
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