ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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地球は青かった。だが、神はいなかった。
ユーリイ・ガガーリン(1934~1968)

しゃっす、146です。上のはサブタイ補足ととある人の影響です。気にしないでください。遅れた理由はバイトとかテストです。いつものです。

えーまず言っておくべきなのが、仮面ライダーエデンが被りました。
劇場版ゼロワンの限定ライダーですね。まぁ安直な名前ですから直に被る気はしてたんですが…しかも今やってるヘルも少し被るという。ヘルライジングホッパーっすね。

それに対する処置はそのうちするとして、取り合えず僕が先にやってたので!(切実)


今回も暇な人、ここすきお願いします!


第56話 Hの審判/神はいなかった

永斗にμ'sアンチ傷害事件の捜査を任せたアラシ。彼は血眼になり別の捜査を行っていた。そう、音ノ木坂に潜むメモリセールス『暴食』を探しているのだ。

 

 

「で、どうだ。なんか情報は無いか?」

 

「ふむ…いや、部員にも聞いてきたんですけどね。それらしい情報は特に…」

 

 

アラシが情報を求めて訪れたのは、音ノ木坂の新聞部。誇張、脚色、嘘、無許可、なんでもありのクソ新聞を刷りまくっており、学院中で叩かれまくっている部活だ。

 

アラシもこの部、特に部長の鈴島には良い意味と悪い意味の両方で世話になったことがある。新聞の質はともかく、集まってくる情報とその速度は相当だ。

 

だからこうして頼って来たのだが、そう簡単には行かないようだ。アラシは鈴島から返された暴食のマーク付きの布をしまう。

 

 

「それで、今回はどんな事件追ってるんです?何なら記事にしたいんで教えてもらっていいですか!もしかしてヤバイやつですか!大歓迎ですよ!」

 

「頼りに来てなんだが、正直お前には何も教えたくない」

 

「また~憎まれ口お得意ですね切風さん!ヤバイ話ってなら…実は心当たりあったりしますよ?」

 

 

あまり期待せずにいたアラシだが、コソコソと鈴島が取り出した物で顔色を変える。それは紛れもなく、ドーパントのガイアメモリだった。

 

 

「お前…これをどこで!」

 

「秋葉原駅で置き忘れられてた鞄の中に。持ち主は分からないままでしたが…その反応、やっぱりビンゴみたいですね!」

 

 

すると鈴島は妙に明るい笑顔で、机の引き出しから透明な袋を出す。その中にあるのは紫色の欠片。見慣れているアラシには分かるが、これはメモリの破片だ。

 

 

「この間のインタビューの時、言ったじゃないですか。理事長室で知った『もっと面白い事』がこれです」

 

「ッ…!じゃあこれは…!」

 

「理事長室の盗聴器を回収するとき、見つけたものです。これは件の怪物になれるというモノですよね。さらに私の推測ですが、切風さんの調べてる件はコレに関係しているのでは?」

 

 

驚きを見せるアラシの顔を見て、鈴島はニッと笑う。この女はふざけた新聞を書く癖に、情報を集めさせれば一流だし頭は切れる。これを厄介とみるか、思い切って心強いと見るか。

 

 

「きな臭い話なら協力を惜しみませんよ!お礼はアイドル研究部の面白話でいいので!これからも懇意によろしくお願いします!」

 

「アイドルは情報にデリケートらしいからな。お前に教えるかバカ」

 

 

アラシと鈴島の会話はそれで終わり、部室からも撤退。しかし、収穫は大きかった。彼女の話が確かなら、理事長室にメモリがあったということになる。つまり疑うべきは……

 

 

「どうよ、豊作でしたー?こ・う・は・い・君?」

 

「テメェ嘉神…!何しに来やがった!」

 

「会いに来たと思った?残念、自意識過剰だねー。俺はただ新聞部の部活動見学だよ。やっぱ俺ってばジャーナリストなワケだし。

 

それで?仮面ライダーになる方法、話してくれる気になったかい?」

 

 

部室の前で待ち構えていたのは、三年生として編入してきた男子生徒の嘉神留人。アラシとは知り合いのようだが、どうも円満な関係ではないようだった。

 

 

「その顔は…分かるよ、否だね」

 

「ったりめぇだボケ」

 

「駄目かぁー。それにしても、情報探しなら俺んとこ来ればいいのに。代金もお安くしますし、今ならあんな情報こんな情報も付けまっせ?例えば…こんな情報はいかが?」

 

 

嘉神はノートパソコンを開き、リアルタイムの掲示板を表示させる。文字より先に目に入ったのは、街を歩くドーパントの写真。

 

 

「こいつは…場所何処だ!」

 

「ヘイヘイここから有料。さぁさ知りたければ俺に色々と…」

 

 

ノートパソコンを閉じた嘉神を、アラシは躊躇なく首を掴んで締め上げる。たまらずすぐにパソコンを開いて場所を明かした。

 

 

「…なぁんだ。やーっぱし変わってないね、アラシ」

 

「あぁ?」

 

「嫌いな奴には全く容赦が無い。いや、()()()()()()()()()()()()、の方が正しかったりしちゃう?」

 

「んだと……!?」

 

 

嘉神の言葉を聞き逃せず、怒りで開いた瞳孔を向ける。しかし、この男に構っている暇はないという理性の警告が、アラシを舌打ちの後に走らせた。

 

 

 

_______

 

 

 

嘉神のパソコンに書いてあった場所に急行。騒ぎの中心に向かっていくと、そこにはゆったりと無気力に歩くドーパントの姿があった。

 

 

「変身だ、永斗。行けるか」

 

(…オーケー、わかった)

 

「…何かあったのか」

 

(いや。話はとりあえず後でいいよ)

 

 

嘉神がいないことを確認すると、ドライバーを装着して永斗と意識を繋げ、サイクロンメモリが転送されてきた。それに合わせてアラシもジョーカーメモリを装填する。

 

 

《ジョーカー!》

 

「変身!」

 

《サイクロンジョーカー!!》

 

 

仮面ライダーダブルに変身した二人。人々に向けて鎌を振り上げるドーパントの前に立ちふさがる。

 

 

『っ…こいつ…!ヘル…!?』

 

 

街を徘徊していた真っ黒でグロテスクなドーパント。動きこそ先ほどとは若干異なるが、間違いなくヘル・ドーパントだ。

 

 

「知ってんのか永斗?」

 

『さっき瞬樹が倒したドーパントだ。そんで…変身者が死んだはずだった』

 

「死んだ!?そりゃ一体どういうことだ!」

 

『検索が必要だけど…まずはこのヘルを止めるよ』

 

 

手首をスナップさせ、風を纏った拳でヘルを殴りつける。さらに切れ味の鋭い蹴りで武器を破壊し、最後に人のいない場所にヘルを思いきり蹴り飛ばした。

 

 

『変だ。さっきよりも弱い?』

 

 

武器も脆い。動きも鈍い。体も軽い。妙な点を挙げれば余裕で両手が塞がる。しかし、ヘルはいくら攻撃してもゾンビのように立ち上がり、虚ろな雰囲気で去ろうとする。

 

 

「埒が明かねぇ。一気に決めるぞ」

 

『…そうだね』

 

《ジョーカー!マキシマムドライブ!!》

 

 

ジョーカーメモリをマキシマムスロットに装填し、浮かび上がったダブルは背中を見せるヘルに狙いを定めた。

 

 

「『ジョーカーエクストリーム!!』」

 

 

分割した体で放たれる二連キックがヘルを貫き、爆散。

だが、爆炎の中心からは黒い霧が溢れるだけで、ヘルの変身者と思われる影は見えない。メモリの残骸も見当たらない。

 

 

「訳が分からねぇ。一体どういうことだ…?」

 

『…早く事務所に戻ろう。嫌な予感がする』

 

 

 

______

 

 

 

事務所にはヘルの騒動に巻き込まれた凛と花陽、真姫がいた。

アラシは真姫から事の詳細を聞いた。凛と花陽の昔馴染みがドーパントだったこと、瞬樹が新たな装備を使ってドーパントを倒したこと、そして…ドーパントの変身者が死に、死体が消えたこと。

 

瞬樹は茫然自失となり、どこかに消えてしまったらしい。とても声を掛けられるような状態ではなかった、と真姫は言っていた。

 

花陽と凛も同様だ。友人が死に、消滅したという現実を目の当たりにし、言葉が出ないほど塞ぎ込んでしまっている。

 

 

「お待たせー。検索終わったよ」

 

 

奥の部屋から出てきた永斗。どうやらヘルに関する検索は問題なく完了したようだ。欠伸をする永斗に真っ先に駆け寄ったのは、さっきまで言葉を発する様子も無かった凛だった。

 

 

「永斗くん…さっちーは…さっちーはどうなっちゃったの…?」

 

 

当然の質問だ。後ろの花陽もそれが聞きたいのは分かる。

答えるのは簡単だ。しかし、永斗は少し悩んだ後、こう返した。

 

 

「ごめん。詳しいことは伏せることにするよ」

 

「なんで…?ちゃんと教えてよ!」

 

「今起こってることは、ここにいる誰の想定よりも複雑で、深刻だった。灰垣珊瑚のことで心いっぱいの二人が聞いても、無駄に混乱するだけだ」

 

 

「でも…」と続こうとする凛の言葉を遮るように、永斗は続ける。

 

 

「言っておくのは二つだけ。まず一つ、あのヘルはこれからも各所に現れる。でも、これ以上は絶対に倒してはいけない」

 

「倒しちゃ駄目だと?」

 

「次からは捕獲ね。さっきうっかり倒したのも実は相当マズかったりする。

そんで二つ目。このヘルの騒動、これは灰垣珊瑚の暴走でも、瞬樹が起こした事故でも、ついでに組織の暴食や傲慢が企てた策略でもない。

 

これはもっと別の誰かの陰謀だ。その誰かが、灰垣珊瑚も、瞬樹も、僕たちも、果てには組織をも利用した」

 

「つまり、まず探るべきは…灰垣珊瑚のルーツってことか」

 

 

最初の指針は決まった。だが、永斗は知っているこれは気休めでしかない。

 

今回の件の黒幕は、それ相応に頭が切れるのは間違いない。

もし、それが永斗の想定を超えるレベルなら……

 

 

_______

 

 

 

翌日

 

灰垣珊瑚に関する検索も済ませた。彼女の父親は新興宗教団体の教祖であり、信者の数もそれなり。珊瑚も幼少時からその活動に付き合わされていたらしい。

 

しかし、新興宗教なんて見るからに怪しさの塊。実際は後ろにいるヤクザの資金源として利用されているだけで、やっていることと言えば形だけの教えを街中で垂れ流し、入信した人から金を搾り取り、薬・暴力・淫行その全てを神の教えとして正当化してやりたい放題。

 

珊瑚の父親は教祖と言うだけあって酷く、信者の女性に何度も手を出し、まだ小さかった珊瑚の育児を放棄した上に日常的に暴力を振るっていたらしい。彼女があんなふうになるのも分かる。

 

そしてその父親だが、4年前に死亡している。

その後はバックにいたヤクザが別の暴力団に潰され、その宗教団体の管理権限は宙づりに。

 

そこで珊瑚の親代わりと新たな教主に信者の一人が名乗り出て、それからは見違えるように比較的真っ当な宗教として活動しているという。教主と珊瑚はあちこちを転々として、全国的に信者を増やしているとか。

 

 

しかし、未だ怪しい点も多い。

その宗教団体を解放した暴力団というのが朱月組だ。しかもタイミングは朱月王我が「傲慢」に就いた直後。他にも知れべれば調べるほどメモリと関わっている可能性が浮上する。調べる価値は大いにありだ。

 

 

「悪いな。依頼でもないのに急に頼んじまって」

 

「何を今更という話です。言ってくれればいつでも手を貸しますよ」

「大丈夫だよ!私も、アラシ君たちの力になるって決めたから!」

 

 

呼びかけに応じてくれた海未とことりが頼もしい返事をする。

これから彼女たちに入信と言う名目で潜入調査をしてもらう。本来ならアラシが行きたいところだが、組織の息がかかった団体なら顔が割れている可能性が高い。

 

 

「よーし!潜入調査、頑張るぞぉー!」

 

 

ちなみに穂乃果もいる。ふわふわした返事に急に不安になってきた。

 

 

「…やっぱり穂乃果は留守番にしましょうか」

 

「えー!?なんで私も行くよー!」

 

「お前の一挙一動が不安なんだよ。行ってもいいけど潜入中は極力喋んな。あと勝手に行動もすんな。いいな」

 

「それ潜入する意味あるのかな…?」

 

 

潜入するのは灰垣珊瑚が育った宗教団体「ノアの天秤」。

入信の話をしたところ、驚くほど簡単に教主と会えることに。三人に通話・録音が可能なオタマポッドを持たせ、潜入捜査が始まった。

 

 

「やぁどうも。貴女方が入信したいという…

自己紹介が遅れて申し訳ない。僕がノアの天秤の二代目教主、山門(やまと)です」

 

 

やたらと明るい部屋に入れられ、そこに一人の男が現れる。

 

白いローブを羽織った男は「山門」と名乗った。

格好こそ少々派手だが、その風貌は何とも地味。特筆するような特徴は無いが、かといって何処にでもいる容姿でもない。ただ、すぐに忘れてしまいそうな、そんな見た目だった。

 

 

「え…えっと、私たちは…」

 

「いえ、自己紹介の必要はありませんよ、高坂穂乃果さん。それに園田海未さんに南ことりさん。スクールアイドルμ'sの方々ですよね」

 

「御存じなのですね…ありがとうございます」

 

「自分で言うのは烏滸がましいですが、そういった趣向には造詣が深い方だと思いますよ。先日のイベントのライブも、拝見させてもらいました。実に素晴らしいステージだった」

 

 

にこやかに山門はそう言う。

嘘のようには聞こえない。しかし、心から喜ぶ気にもなれない、不思議な声だ。

 

 

「しかし…高坂穂乃果さん。貴女の踊りには少し淀みがあった。何か悩みを抱えているんじゃないですか?」

 

「私…ですか?いや、別に悩みなんて…」

 

「おっと、そうなのですか。てっきり悩みがあるから、我がノアの天秤の門を叩いたのかと」

 

「あ…あー!あります!ありますよ!悩みですよねっ!」

 

 

早々に穂乃果がやらかした。宗教入信手続きに来ておいて悩み無しは無いだろう。今のはただの話の流れか、それとも鎌をかけて来たのか…なんにせよ不用意な発言には気を付けた方がいい。

 

 

「そうでしょう。そうでなくとも、人間誰しも悩みがあるものです。報われない努力、生まれながらの格差、他者への嫉妬。僕らノアの天秤の教えは『万命平等』。命には違いがある、しかし差など何処にも無いのです」

 

「ばんめい…びょうどう…?」

 

「高坂穂乃果さん、貴女の悩みを当ててみせましょう。それは不安、焦り。μ'sの躍進は凄まじいが、ラブライブ出場決定には一歩及ばず。廃校の件も不透明なまま。そういった事もあり、かつては希薄だった仮にもリーダーの責任感が芽生え始めている…そんなところでしょうか。それに加え、その身には大きすぎる何かを抱えていると見た」

 

 

海未はすぐに違和感に気付いた。この男はいくらなんでも事情を分かりすぎている。それは穂乃果も気付くはずだが、どうも彼女の様子がおかしい。

 

 

「僕はラブライブには消極的なんですよ。明確な優劣をつければ、そこには負の側面も現れる。それはよくない。勝たなければと貴女が気負う必要はない。ラブライブも廃校も所詮は強者の利益のため。誤っているのは環境の方なのですから」

 

「そう……かも…しれない…ですね…」

 

(穂乃果…!?)

 

 

正論の皮を被っただけの滅茶苦茶な現実逃避だ。心が動く要素など皆無。少なくとも海未はそう感じた。

 

それなのに穂乃果の反応が肯定的なのは、いくらなんでも不自然だ。

 

 

「貴女もですよ。園田海未さん」

 

 

矛先、と言っていいのか。山門は海未に言葉を向けた。

敵意は無い。そうとしか思えない。海未もまた、彼に敵意を向けられない。

 

 

「見ていれば解ります。人前、得意じゃないですよね」

 

「それは…」

 

「ステージの度に無理をしている。弱音を吐いても拒絶しないのは、貴女もまた強い責任感を持っているから。それから左右のお二人との友情も意識していますね。ですが、貴女が背伸びをして合わせようとするのは違いますよ。貴女だけが劣っているなんてことは無い。命は皆、平等なのです」

 

 

山門の言葉が耳に入る度に、海未の中の何かが掠れていく。

反論する気が起きない。彼の言葉こそが正しいとしか―――

 

 

「ご…ごめんなさいっ!ちょっと急用思い出しちゃったので、また今度来ます!」

 

 

異変を感じて立ち上がったのは、ことりだった。

ほぼ直感だが、これ以上ここにいるのはマズい。何かを言われる前に。穂乃果と海未を連れて部屋から逃げ出すように出て行った。

 

 

______

 

 

穂乃果たち3人の背中を見送り、山門は口元に笑みを浮かべてその部屋を後にする。

 

扉の先で頭を下げる、乱れた長髪の女性。歳は二十に満たない程だろうか。

その頭が上がると、睨み付けるような角ばった眼と余裕がなく硬い表情が見えた。ピアスをしていたのか、口元に一か所穴が開いている。

 

 

「彼女らがオリジンメモリの適合者…まさか山門様のお言葉で正気を保つとは。

しかし、そんな貴重な検体を逃がしてしまってよかったのですか」

 

「はは、別に逃がすつもりは無かったんだ。そう怒らないでくれたまえ里梨(さとり)くん」

 

「別に怒ってません」

 

「いやはや、少し驚いてしまったんだ。メモリへの耐性があるとは聞いていたんだが…実に素晴らしい具合だ」

 

 

失敗した、という顔では無かった。そんな切迫感は、山門のどこからも感じられない。彼の体はその隅々まで、気味の悪い自信で満ちている。

 

 

「時に里梨くん。そういえば、つい先日に宮間くんが捕まったばかりだ。彼女は敬虔な信者で、行動力に溢れた素晴らしい人物だった。来るべき日への戦力としても申し分なかったのが惜しい。我が教団としては、彼女に代わる人員をいち早く確保しなければいけないのだが…僕はどうするべきかな?」

 

「……あの中の二人は、既にメモリを発現させているそうです。手に入れては如何でしょう」

 

「あぁ、やはり君は素晴らしい。全ては天使の導きのままに」

 

 

山門がその手に、銀のメモリを携えた。

 

 

______

 

 

 

ことりは外で待機していた永斗たちと合流。穂乃果と海未も普段通りに戻ったようだが、結論から言って潜入作戦は大失敗だ。

 

 

「ごめん…珊瑚ちゃんのことも、何も聞けなかった…」

 

「いや、ことりちゃんはグッジョブだよ。僕も通信で聞いてたし、ほのちゃん達に指示出しても聞こえてないみたいだった」

 

「え…本当に?永斗くんの声なんて全然…」

 

「本当本当」

 

「そうでしたか…あの山門という方の言葉、不思議でした。おかしな事を言っているのは分かるのですが、どうにも疑えないというか、同調したくなるような…」

 

「めっちゃ口が上手いってことか?海未がそう言うんだしな、穂乃果ならともかく」

 

「口が達者。それならいいんだけど……」

 

 

永斗の中に渦巻く、一つの大きな不安要素。

それを明かすべきか。永斗は僅かではない時間を思考に回す。

 

しかし、結論を待たずにそれは降り立った。

 

 

「…天使」

 

 

その姿を見た穂乃果が、思わずそう零した。

天から降り立ったのはドーパントだった。だが、アラシも戦闘態勢に入るまで数秒かかった。一瞬だけ、それを「敵」として認識できなかった。

 

それほどに神々しい姿。黄金の体を纏う聖職者のローブに金の装飾、何より真っ白な翼と頭上の輪っか、それに加えて大理石で形作られた微笑みの顔がそのドーパントの名を示している。

 

 

「エンジェル…!?早くも最悪に王手は笑えないなぁ…」

 

 

アラシもドライバーを装着し、永斗はサイクロンメモリを装填。ファングでは行かないようだったが、ジョーカーを取り出したアラシを制止する。

 

 

「トリガーでお願い。アイツの事はよく知ってる」

 

 

アラシは無言で頷き、トリガーメモリを装填。

 

 

「「変身!」」

 

《サイクロントリガー!!》

 

 

ドライバーを展開してダブルへと変身。

胸部に現れたマグナムを手に取り、永斗の意識のままその銃口はエンジェルの上空へ向けられる。

 

 

「おい永斗!どこ狙ってる!」

『これでいい。攻撃よりもまずこっちだ!』

 

 

放った銃弾は店の看板の支柱を射抜き、大きめの看板が落下。ダブルはそれを穂乃果たちに投げ飛ばす。

 

ダブルの動きを意に介していなかったエンジェルは、背後に後光を象った紋様を展開。そこから放たれた眩い光が、周囲の空間を塗り潰した。

 

 

『“グロリア・サールス”…!やっぱ使えるか……』

 

 

光は看板に遮られ、穂乃果たちには届かなかった。

ダブルはその光を浴びてしまったのだが、身体ダメージは皆無。放出されたのは本当に光のみ。

 

だが、その光の持つ能力を、永斗は熟知している。

 

 

「テメ…今何しやがった!」

「銃を下ろしなさい」

「ッ……!?」

 

 

エンジェルの声で、ダブルの指が引き金にかかったまま止まった。

引き金を引こうとする意志を、アラシの中の別の何かが妨害する。

 

だが、アラシの対処も見事だった。仮面の下で即座に舌を噛んで意識を戻し、エンジェルに乱れ打ち。光の矢で全て撃ち落とされてしまうが、エンジェルの能力を引きちぎることに成功した。

 

 

「っクソ!悪ぃ永斗」

 

『今のがエンジェルの能力だ。心に曇りがある者があの光を浴びると、一種の洗脳状態に陥る。しかも奴はシルバーメモリだ。オリジンメモリの抵抗力でも油断は出来ないと踏んでたけど…思ったよりずっと面倒な性能してるっぽいね』

 

「一瞬だけアイツが本物の天使に見えたが…生憎俺は神様クソ喰らえの無宗教だ。もうテメェのチンケな営業スマイルには引っ掛からねぇぞ!」

 

「そんなことは無い。一瞬でも僕の救済が届いたのが、君が迷いの中にいる証拠。いずれ僕の心を理解するのも時間の問題だ」

 

 

穂乃果たちは看板に身を隠しながら逃げたようだ。永斗の咄嗟の的確な判断に、エンジェルは舌を巻く。悔しいが、目的は果たされないことが確定した。

 

ならば折角だ、敵の力を測っておくのがいいだろう。

 

 

「命は皆、平等。力を得た愚かな命に死の粛清を」

 

 

翼を広げると同時に、無数の羽根が分離。それは吹雪となって広範囲でダブルに襲い掛かった。

 

更にエンジェルは天秤の杖を掲げる。そこから指した光はダブルの上空に収束し、羽根吹雪の中心で苦しむダブルに、強烈な雷を叩きつけた。

 

 

「銀メモリの馬鹿げた強さにも…いい加減慣れてきたな」

『そだね。じゃあ反撃だ』

 

《ライトニングメタル!!》

 

 

ダメージを受けながらも、ダブルはライトニングメタルにチェンジ。

メタルの防御力で羽根吹雪をシャットアウトし、雷はライトニングで吸収する。

 

エンジェルメモリは永斗が作ったメモリ。攻撃手段は知り尽くしているし、他のシルバーメモリに比べて戦闘力は頭一つ劣っているのも知っている。

 

よって対エンジェルにおいて、ライトニングメタルが最適解だと断言できる。

 

 

計算通りエンジェルは成す術なく、雷撃の棍棒による攻撃をその身に浴びる。

 

だが、そのまま戦闘が終わるなんて甘い結末は待っておらず、エンジェルは光の剣でダブルに反撃。一瞬だがライトニングを上回る速度を見せ、無数の羽根と一体化した剣がダブルの体を弾き飛ばした。

 

 

「つっても銀メモリ。そう簡単には行かねぇか」

 

『当然のように知らない技使うし、性能も設計段階より上がってる。間違いなくハイドープだろうね。エンジェルはとんでもなく面倒な奴に渡ったと見た』

 

 

警戒レベルを上げざるを得ない。作戦も一から立て直しだ。

 

しかし、そうシンプルな勝負では無くなるようだ。

思考を回す永斗と敵を警戒するアラシの視界が、新たな存在を知覚する。見ただけで全身を貫く嫌悪感。ヘル・ドーパントだ。

 

 

「ヘル…!永斗、アイツは…」

『捕獲だ。それに多分、エンジェルはヘルを狙う』

「つまり守りゃいいんだな!」

 

「珊瑚…素晴らしいよ…!君の命が、世界を楽園に変える」

 

 

永斗の言葉通りにエンジェルは光の矢と羽根をヘルに射出する。

ダブルはその間に入り、それらをシャフトを振り回すことで弾いて防御。

 

ヘルに対する攻撃は通さない。確固たる力と意志で、それを示した。

 

 

だが、その程度は狡猾な天使の手の上だ。

 

 

「…ご苦労。敬虔な僕の同志よ」

 

 

咄嗟にダブルが振り返ると、守っていたはずのヘルの体は引き裂かれていた。呆気にとられるダブルを見下ろすのは、浮かび上がった上半身のみの大きなミイラ。エンジェルとは別のドーパントだ。

 

引き裂かれたヘルは、これまでと同じく黒い霧になって拡散。

しかし、霧は空間に溶けきらず、大気を赤黒い血の色に染め上げた。

 

永斗は頭を抱える。これも想定以上だ。想定よりも、ずっと早い。

 

 

『第二段階……!』

 

 

エンジェルともう一体のドーパントが消えた。だが、それも気にならない程、永斗の心理状態はかき乱されていた。

 

やはり黒幕はエンジェルだった。証拠は無いが、使用者はあの山門とかいう男で九割九分九厘間違いない。しかも極めて厄介なレベルでメモリを使いこなし、既に手下も揃っていると来た。

 

 

前代未聞、未曾有の危機だ。

このままでは、世界が終わる。

 

 

______

 

 

 

異変に気付いたのは仮面ライダー陣営だけではない。

暴食の下の身を置く烈も、この状況に焦りを見せていた。

 

 

「瞬樹が暴走した…それにヘルのメモリがどうして…」

 

 

ヘルは特異なメモリ。量産が容易であるにも関わらず、一定条件下で発動するその性質は極めて危険かつ制御不能。よって最初の一本のみで開発が打ち止められ、保管されていたランク「禁断(フォビドゥン)」のメモリだ。

 

あのメモリを持ち出せるとすれば七幹部か、その側近クラスの人物。

心当たりはある。烈と同じく『悪食』の管理人の一人…いや、二人。

 

 

「ここにいますよね。ヒデリ、カゲリ」

 

 

宗教団体「ノアの天秤」が管理する教会。烈はそこで疑わしき者たちの名を呼ぶ。

 

 

「我らの居場所くらいお見通しってワケか、観測者(オブザーバー)

「我らに一体何の用であろうか、観測者(オブザーバー)

 

「白々しいです。貴方たちですよね、ヘルを持ち出したのは」

 

 

烈の呼びかけに悪びれも無く現れた二人。表情こそ変わらないが、烈の口調からは苛立ちが見える。

 

 

「ご明察。しかしこれは全て暴食のため」

「真に力を得たエンジェル、そしてヘルの力を得ることで、暴食は神にもなれる」

 

「だから独断でやったと。分かっているはずです、ヘルの能力が完遂されれば、それどころでは済まない。それにノアの天秤が掲げる理念…アレのせいで、()()()()()()()()()()()()。誇張なしで全てがお終いです」

 

「当然分かってらぁ。だからこそ、我らが適切に管理する」

「山門様が作る楽園にこそ、暴食が求めるモノがあるのだ」

「神さんも言ってんぜ。山門の理想こそ暴食の理想だって」

「神の思し召しが成就する時、山門様が全てを手に入れる」

 

「…今一度聞きます。ヘルを持ち出したのは何故ですか」

 

「「全ては暴食のために」」

 

 

駄目だ。この二人はもう奴の傀儡になり果てている。

いや、自分はそうじゃないと言い切れるか?

 

観測者として、暴食が管理するシルバーメモリの所持者である山門は監視していた。だが、ハイドープにまで覚醒しておいて目立った動きは無し。しかし、処刑というには早計という判断をせざるを得なかった。そんな絶妙な立場にいた。

 

結果、観測者である烈も、暴食さえも彼を意識の外に置いていた。あれだけの力を隠し、七幹部すらも欺いて利用してみせた。気付いた頃にはもう手遅れの状況。

 

 

あの山門という男の危険性は、七幹部にも匹敵する。

 

 

「ボクは少し前に一度だけ山門に会っている。もしあの時、仕掛けられていたとしたら…」

 

 

瞬樹にロードドライバーを渡すとき、頃合いだと思った。

どうしてそう思った。何を根拠に。精神が不安定だからこそ、新たな力で立て直そうとしたのか。今考えれば暴走の可能性は無視できない。どう考えたっておかしいほど、あの判断は即決だった。

 

 

烈もまた、彼の思惑通りに導かれた。

ヒデリとカゲリをけしかけ、烈を操り、瞬樹を暴走させたのはヘルを殺すためか?

 

それだけじゃないとすれば、山門が打つ次の一手は―――

 

 

 

______

 

 

 

家にも帰らず、一晩を超えた。

瞬樹はただ目の前の道を進み、倒れ、また進み、それだけを繰り返している。

 

彼の心を満たすのは、言葉にできない罪悪感。そして己への失望。

自分が殺した灰垣珊瑚の死に顔が、花陽の泣き顔が、顔を上げればいつでも浮かび上がって瞬樹を絶望の奈落深くに叩き墜とす。

 

 

瞬樹が掲げた、騎士の心。そんなものは、もう消え失せていた。

 

 

「酷い有り様だ。楽園の騎士ともあろう者が」

 

 

瞬樹は普通の少年だ。騎士の名を剥げば、その一面は容易く見える。

そんな彼は、愚かにも、誰かの許しを求めていた。

 

そこに現れたのは、山門だった。

 

 

「実に憤りを感じます。何故あれほどまでに人々のため奔走していた君が、こんな目に合わなければならないのか」

 

 

限界にあった瞬樹の心。その目には、山門の背から光が指しているように見えた。

 

 

「一体誰がこんな仕打ちをしたのでしょう。散々施しを受けておいて、彼を許さないのは実に身勝手極まりない。しかし、世間は君を許さない。何故なら、この世界は間違っているからです」

 

 

何も考えられない。考えたくない。

今はただ、彼の言葉を浴びていたい。

 

 

「悪いのは君ではありません。君は力を持たない少年だった。それなのに担ぎ上げ、期待し、君にそうまでさせたのは誰だ?なんとも残酷な話です。命は平等、君はこんなものを背負うべきじゃなかった」

 

 

山門は目に光を捉え始めた瞬樹に微笑みを向け、その手を差し出した。

 

 

 

「僕が君に、もう一度羽ばたくための翼を与えましょう。

全ては、天使()の導きのままに」

 

 

 

 




今回登場したのはFe_Philosopherさん、及びτ素子さん考案の「エンジェル・ドーパント」です!もう一体の方もオリジナル案ですが、その紹介は追々。
案のベースはFe_Philosopherさんの方がメインです。そっちの方が先で、エピソードも組んじゃってたので…τ素子さんからは「エンジェルは女性で!京美人敵幹部で!」という要望があったのですが…すいません。天使って軒並み男じゃないっすか…あと男キャラの方が書きやすいという……

さて、今回登場した山門。こいつは準七幹部ともとれる難敵です。七幹部との決戦の前哨戦みたいなイメージです。そして最後に瞬樹に翼を与えようとするレッドブル山門。


感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!

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