ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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お久しぶりの146です。コラボ編は時間がかかってしまうんですね、すいません。この挨拶も既に恒例行事。コラボ編のラストスパート、駆け抜けて行きたいんですが…

遂に最終決戦に突入。今回はソニック側とダブル側で大きく話が変わっています(具体的に言えばあっちの方が1万字くらいボリューム多いです。楽してすいません)。

https://syosetu.org/novel/91797/
ソニックサイドはこちらから。アイツが大活躍です。

今回も「ここすき」をよろしくお願いいたします!


コラボ編 第8話 最後の戦いはどこへ向かうのか

エルバが告げたタイムリミット、36時間が経過。

勝算がその手にあるのか定かではないが、戦士たちはそれぞれ戦地へと赴く。組織の元大幹部“憂鬱”、最強の敵との最終決戦。

 

 

「準備はいいか?」

 

「とっくに一回突撃してんだ、準備も何もAll readyだぜ!」

 

「ちなみに俺は全くだけどな。ドライバー見つかってねぇし」

 

 

エルバのアジトを前にするのは、アラシと隼斗と憐。永斗は何かを仕上げる必要があるらしく、居残り。瞬樹は音信不通。その上、アラシは変身できないと来たから状況はお世辞にもいいとは言えない。

 

集った場所は隼斗(あと瞬樹)が一度攻め入った、エルバのアジト。順当にいけばここにエルバと人質の果南がいるはずなのだが、アラシの直感がその足を止める。

 

 

「このアジト、どうにも怪しい感じすんだよな」

 

「罠ってことカ? まぁこんなバリア張ってあるくらいだしナ…」

 

 

少なくとも一日前には無かった透明なバリアが、アジト周辺の敷地を覆っていた。これのせいでファングメモリやシグナルバイクといった偵察が役目を果たせなかったのだ。

 

仮に罠だとして、その内容は? そもそもエルバの目的は? その打開策は?

その全ての答えは、結論から言って用意できなかった。それだけエルバと仮面ライダーたちの戦力の差は甚大だったのだ。

 

 

「……あぁもう、しゃらくせぇ!! どうせ分かんねぇんだ! フクザツに考えるのはもうやめだ!」

 

「気が合うじゃねえかアラシ! そうだよな、こーいうのは…Dashで突破あるのみだぜ!!」

 

《SignalBike!》

「Ready! 変身!!」

《Rider!Sonic!!》

 

 

隼斗が仮面ライダーソニックに変身し、突風を伴った進撃がアジトのバリアを突き破った。罠だろうと全速力で駆け抜ける、それが仮面ライダーたちの答えだ。あるはずの無かった出会い、その化学反応に賭ける。エルバを凌駕できる奇跡があるとすればそこにしかない。

 

 

「しゃあ! 突入成功!!」

 

「マジで雑だなハーさん…アラシサンももうちょいクールだった気ガ…」

 

「永斗曰く脳筋らしいぞ、俺は。知らんけど。んで…どうにも予想通りガッツリ罠だったみてぇだな」

 

 

破ったバリアはすぐに再生したが、内部への侵入に成功した3人。

しかし、アジトで待ち構えていたのは、案の定エルバではなかった。

 

 

「クク…待っていたぞ愚かな下等生物共が。まんまと罠に嵌ったな!」

 

「ロイミュード!? ナンバーは050…!」

 

「テメェは…見覚えある番号だな。海底でスクラップになったかと思ってたぜ」

 

「あの程度で死ぬとでも思ったか! この上なく不愉快だ。借りは返させてもらおうか切風アラシ!」

 

 

050は千歌と逃走していた際にアラシが遭遇したロイミュード。あの時はジョーカーメモリから引き出された「謎の力」で撃退して難を逃れたが、050が生き残っていたとなれば厄介だ。なにせ、アラシはまだ変身ができないのだから。

 

戦えないアラシの代わりに憐とソニックが前に出る。仮面ライダー2人がいれば、ロイミュード1体に時間稼ぎすらさせないだろう。

 

 

「ハッ! たかが下級1匹、お前に何ができるってんだ! 今は西堀令子もいねぇ、進化態にもなれねぇお前が、俺たち相手にどうするつもりだ?」

 

 

しかし、050は笑って余裕の様子を隠さない。その鋼鉄の手に握られたのは、青いドーパントメモリ。

 

 

「これが何か、お前たちに分かるか?」

 

「なるほどな…東京で出くわした奴みたいに、ロイミュードでもドーパントに変身できるんだったな、そういえば!」

 

「凡人の発想だ。ロイミュードがガイアメモリを使ったところで、できあがるのは多少強力なドーパント。進化態と大差は無い、077が良い例だ。だがもし、進化態とドーパントの力を融合できれば? これはそういう実験だ!」

 

《アクアリウム!》

 

 

050が肩にメモリを突き刺すと、「水族館の記憶」のアクアリウムメモリがロイミュードのボディと融合する。

 

魔法使いのような姿を侵食する、無数の鋼鉄質の水性生物の意匠。かつての050の融合進化態「シーカーロイミュード」に、「アクアリウム・ドーパント」が融合した姿、アクアリウム・ドーパント・シーカーが誕生してしまった。

 

 

「実験は成功だ! 次は性能検証に移行しよう!」

 

 

アクアリウム・シーカーの右腕がウツボに変化し、変身する寸前だった憐の体に絡みついた。その腕はそのまま窓ガラスを突き破り、憐を高所から放り投げる。

 

 

「くっ…憐!」

 

 

伸びた腕には珊瑚と貝殻の装甲。斬り落とすより受け止めに行くのが安定択。ソニックは落とされた憐に追いついて受け止めたが、そこはバリアの外側だった。

 

 

「…これが狙いかお魚天国」

 

「最初の実験モルモットはお前と決めていたんだ。おっと、逃げようとしても無駄だぞ? 変身したことでバリアの強度は上がっている」

 

「水族館の水槽ってとこか。アクリル板を何層にも重ねてるっつう」

 

 

ソニックがバリアを破ろうとしているが、手こずっているのが分かる。こんな手下一体に足止めされているこの状況こそ、敵の思う壺。そう判断したアラシは、破れた窓ガラスから腕を伸ばして向こう側を指さした。

 

 

「何のつもりだ?」

 

「俺に構わずさっさと行けってサインだよ。テメェみたいな研究者気取りの三下、俺一人で十分だって言ってんだ」

 

「…クッ、ハハハ! これが屈辱という感情か興味深い! 001が超進化にまで至ったというのも納得だ!」

 

 

_________________

 

 

アラシがアジトに閉じ込められ、隼斗たちはエルバを探しに向かった。アジトに罠を張り、ロイミュードたちにガイアメモリを渡し、エルバが身を隠した先は。

 

 

「…そろそろ気付いた頃か」

 

「待ってるんじゃなかったの? こんな山の中に逃げ込んでさ」

 

 

呆れた果南がエルバに噛み付くが、今はしっかりと身動きを封じられているため軽口を叩くくらいしか抵抗ができない。

 

ここは鷲頭山。さほど高い山ではないが、『沼津アルプス』とも呼ばれる有名な観光スポットだ。エルバはアジトを捨て、そこに潜伏している。

 

 

「切風アラシと狩夜憐の足止めには成功したようだが、天城隼斗は間もなくここに来るだろう。松浦果南、君を助けに。こちらも見つからないよう場所を移すか」

 

「だからなんで逃げるの!? 隼斗と勝負したいんじゃないの!」

 

「勝負? 勘違いを正すが、このまま彼と俺が遭えば、俺は天城隼斗を殺す。殺せる。間違いなくだ。それが君の望みか?」

 

「隼斗は負けない」

 

「根拠のない自信は笑えない…が、君と彼の関係性は興味深い。それもまた肯定しよう。しかし、俺から見ればその結果は必然なんだ。それで終幕では、余りに退屈で俺は死んでしまう」

 

 

エルバの冗談めいた台詞回しも、果南には嘘には聞こえなかった。

 

 

「力量差があるのに挑みに来る彼は理解できないが、それならこちらは計画を完遂させるだけだ」

 

「結局、計画ってなんなの? 昨日から暇潰しだとか、世界征服だとか言ってるけど、まさか具体的なこと何も考えてないとか無いよね? これだけ私たちの街と、友達と、色んなもの巻き込んどいて」

 

「それは理解する気があると解釈してもいいか?」

 

「……まさか」

 

「まぁ聞いてくれ。君との会話は悪くない」

 

 

そう言うエルバの表情は、なんというか「生きている」感じが少しだけした。

彼女に限った話ではないが、果南は「悪」というものにあまり触れない恵まれた環境で育ってきた。しかし、ロイミュードとの戦いの中では何度もその悪意に触れ、その恐ろしさを身をもって知った。

 

そんな悪の像と、エルバは少しズレて感じた。もちろん善人では断じて無いが、会話が全くできないような悪意でもない。ただ憂鬱に囚われた孤独な存在なのだとしたら。

 

もし彼と理解しあえるとしたら、隼斗と戦わせずして場を収めることができるかもしれない。果南はその時、そうとすら思ってしまった。

 

 

_________________

 

 

四方の逃げ場を封じた巨大な水槽の中で、外骨格で武装したタコの触腕が床を破壊しながら生身のアラシを追う。状況は完全に狩人と獲物のそれだった。

 

 

「しぶといな…曲芸はそろそろやめにするか」

 

「曲芸って自覚はあったんだな。能力がちゃっちくて何処の3流ドーパントかと思ったぜ」

 

「減らず口を叩く余裕があったとは驚いた! それならこれを聞いて絶望し黙るがいい、俺はまだ『進化態』としての能力を一切使っていない! さぁ新たな実験に段階移行だ!」

 

 

アクアリウム・シーカーの攻撃から逃げている内に、意図的にこの場所に追い詰められていたようだ。息をつくと同時に周囲に目を向けると、数十人単位の人間が意識を失い倒れていた。

 

 

「どういうこった…」

 

「もう少し動揺すると思ったが、見て分かるだろう。俺の実験モルモットたちだ。言うまでも無いが、全員に俺の能力をマーキング済みだ」

 

 

アクアリウム・シーカーが手を開くと、眼のような紋章が。倒れた人々全員の掌にも同様の模様が入っている。

 

 

「俺は人間の悪感情を増幅できる。それにアクアリウムガイアメモリの能力を掛け合わせる! この実験モルモットたちの負の感情を、俺の傀儡として召喚できるのさ!」

 

 

アクアリウム・シーカーの掌が光る。呻く人々の体から半透明なエネルギー体が抜け出て、それは様々な水性生物の形状へと変化し、アクアリウム・シーカーの周囲を泳ぎ回る。数多の非道の上に成り立った幻想的な光景だ。

 

 

「行け。その悪感情のまま、あの人間を喰らい尽くせ!」

 

「冗談じゃねぇぞ…!」

 

 

今まで1対1だから保っていた生命線がプツンと切れた音がした。襲い掛かる無数のカサゴ、ウミヘビ、カクレクマノミ、etc…どんな闇深い人間から出たか知らないがサメも何匹かいる。

 

 

「サメは海に帰ってろ! 陸を泳ぐな!」

 

 

永斗曰く陸に出るサメやら頭が3つあるサメやら、核が搭載されたサメまでいるらしい。どこまで本当なのかは知らないが。

 

半透明だが実体はあるようで、サメが壁にぶつかってコンクリートを齧っているのが見えた。しかも猛スピードで、本気でアラシを喰う気で襲ってくる。

 

こうも通路が狭いと逃げられない。3階まで来ていたがアラシは迷わず窓ガラスに飛び込み、アジトの外へと脱出した。しかし依然としてそこは「水槽」の中。動き回れる場所が増えただけだ。

 

 

「ここから飛び降りるのか。人間の癖によく動く!」

 

「んの野郎…高みの見物か!?」

 

「そしてもう一つ言っておこう! その魚たちは人間の精神と密接にリンクしている。もし殴り殺せば…人間共がどうなるか想像できるな?」

 

「狡い事しやがって、これだから理系は…!」

 

 

魚類の数も確実に増えている。このままでは消耗する一方。

隼斗に「行け」と言ったことに後悔は無いが、ジョーカーメモリだけでは魚を殺さず凌ぐなんて器用な真似はできる自信がないし恐らく無理だ。

 

アラシは考える、この状況を打開する方法を。ソニックでも破れなかったこの水槽を突破する方法。魚を無視してあの魔法使い気取りを殴る方法……

 

考えているうちにアラシは水槽の端にまで追い詰められてしまう。そんな時、水槽のバリアをドンドンと叩く音と衝撃が、アラシの背中に伝わった。

 

 

「アラシくん! これなに!? 隼斗くんたちは!?」

 

「千歌!?」

 

「わーっ! サメ!? えぇっ、サメが飛んでる!!」

 

「絶賛パニック中だよ俺も! で何しに来たんだお前は!!」

 

 

バリアの外側からアジトに駆け付けたのは千歌。勢いで尋ねたアラシだったが、その手を見て理由を把握する。そもそも千歌は海で探し物をしていたはず。それなのにここへ来たということは、つまり───

 

 

「ダブルドライバー! 本当に見つけたのか!」

 

「うん! 遅くなっちゃってごめん! 待ってて、すぐこれを……」

 

 

そこで問題発覚。千歌とアラシの間には分厚いアクリルガラスのバリアが。

 

 

「どうやって渡そう…?」

 

「畜生そうだった!」

 

 

止まっていては魚に喰われるので、壁に沿いながらアラシは逃げ回る。千歌もそれを追って動くが、四方が完全に塞がっている。壁を突破する方法は見つけられない。

 

 

「…そうだ、上は!? 横がダメなら上から!」

 

「上!? …そうか盲点だった! 水槽なら天井は開いてるはずだ!」

 

 

空を見上げると、ガラスに阻まれていない太陽が見えた。千歌の発想通り、上部に関しては吹き曝しのようだ。だが、だからどうしたという話だ。空が飛べでもしない限り、この高い壁を越えることはできない。

 

 

「よし! ちょっと待っててアラシくん!」

 

「待ってろって…何する気だお前!」

 

「登る!」

 

「はぁ!!?」

 

 

特に凹凸もないツルツルな壁に足をかけ、千歌は壁をよじ登ろうとしている。当然、そんなことが出来るわけもなく、すぐに滑り落ちる。しかし諦めず、もう一度壁を掴んだ。

 

 

「クハハッ! なんだそれは! 愚かだとは思っていたが、そこまで知能が低いとはな!」

 

 

いつの間にか地に降りてきていたアクアリウム・シーカーが、アラシの前に現れて千歌を笑い飛ばした。完全に舐め切った態度と、千歌への侮辱が、アラシの怒りに火をくべる。

 

 

「わざわざ降りてきて言うことがソレか? 知能が低いアホはどっちだ」

 

「もう追いかけっこの必要も無い。気付いているだろ切風アラシ。もう逃げ場なんてどこにも無いことに」

 

 

壁を背中にそれ以外の逃げ場は全て魚に塞がれた。後ろには千歌がいる。オリジンメモリの適合者だから殺されないいつもとは違い、ロイミュードはそんなことを考慮してくれない。

 

久々に感じる、圧倒的な窮地。

 

 

「…ムカつくんだよ」

 

「何?」

 

「上を気取ったその態度がだよ。ムカつき過ぎて吐き気がする。なんで俺や千歌が、テメェらみたいな奴に生き死にを決められなきゃなんねぇんだ? なんでテメェなんかに笑われなきゃなんねぇ」

 

「単純な摂理。俺の方が強いからだ! 人間よりもロイミュードの方が遥かに優れている! 支配して当然なのさ!」

 

「そりゃ実にシンプル。そんでクソ喰らえだ木偶の坊」

 

 

アラシの左手に握られたジョーカーメモリが輝きを増す。湧き上がった感情のまま、紫に光るその拳を、アラシはバリアに向けて叩きつけた。

 

アクアリウム・シーカーはそれに既視感を覚え、恐怖を禁じ得なかった。それは前に重加速を突破し、自分を殴り飛ばした時と全く同じ光景。

 

バリア全体が震える。余りの衝撃に壁の傍にいた千歌が腰を抜かし、アクアリウム・シーカーもその動きを止めた。しかし……バリアが壊れることはなかった。

 

 

「は…はははははははッ! 驚かせやがって! そうだ、俺のバリアは無敵だ! 人間如きに砕けるものでは───」

 

 

アクアリウム・シーカーの笑い声は、バリアの崩壊と共に切断された。

崩壊は少し表現が異なる。正確に言うなら、それも「切断」。バリアを破壊したのはアラシの拳ではなく、斬撃だった。その主はアラシにとって想像できる相手。

 

 

「ファースト!!」

 

「オリジンメモリの波動を感じたが、“J”のものだったか。道理で異様なわけだ。答えろ仮面ライダーの片割れ、憂鬱はここにいるか」

 

 

千歌とアラシの間に現れたのは、スラッシュ・ドーパント。桁外れに硬く分厚いバリアを三角に切り取り、何でも無いようにバリアの内側へ侵入してきた。

 

 

「聞いてはいたが、本当に来てやがったかこの野郎……!」

 

「生身…? あぁ、なるほどそう言う事か。という事は、憂鬱は別の場所か。邪魔をしたな」

 

「待て!!」

 

 

スラッシュが去ろうとするのを止めたのは、アラシではなくアクアリウム・シーカー。震える指で剣を指し、怒りと屈辱と混乱の言葉を吐き連ねる。

 

 

「…どういうことだ!? 斬ったのか? 俺のバリアを? その剣で!!?」

 

「そうだ」

 

「馬鹿を言うな! 俺のバリアは硬い! 鉄の棒きれ如きで斬れるわけがない! 優れた頭脳の人間から奪った物理理論で構築したバリアだぞ!!」

 

「異世界のロボットは随分と学が無いみたいだな。いいか、剣に斬れないものは存在しない。理論だろうが斬れる」

 

 

スラッシュの言葉が全く理解できないようで、アクアリウム・シーカーが動きを止めてしまう。アラシもその滅茶苦茶具合を呆れ気味に笑うと、立ち上がり、倒れた千歌に手を貸した。

 

 

「…諸々の礼は言っとくぞ」

 

「礼をするつもりがあるなら憂鬱から手を引け。裏切り者のヤツは俺が斬る」

 

「そいつはできねぇ相談だな。ここまでされて今更引けるか」

 

「そうか」

 

 

スラッシュは短い会話を終えると、剣を仕舞って山の方へと走り去った。流石に居場所の目星は付いているということか。

 

 

「お前にも礼を言わなきゃいけねぇな、千歌」

 

「大丈夫。お礼よりも、この力で隼斗くんや果南ちゃんをお願い!」

 

「当然だ」

 

 

バリアの穴を通し、千歌からダブルドライバーを受け取ったアラシ。そこでバリアの穴は塞がれてしまったが、最早そんな事は問題にはならなかった。

 

 

「待たせたな、永斗。手は空いてるか?」

 

(ちょうど暇になったとこだったのに…しょうがないから手下の雑魚は手早く倒して、早い事ラスボス戦に行こうか)

 

《ジョーカー!》

 

 

ダブルドライバーの装着とジョーカーメモリの装填。そしてサイクロンメモリが転送され、変身準備が完了。ドライバーを展開し、水槽の中で逆転の風が魚たちを吹き飛ばす。

 

 

「変身!」

 

《サイクロンジョーカー!!》

 

「覚悟はいいか、お魚天国」

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

「実験サンプル風情が俺に指図するなあああ!!」

 

 

我に返ったアクアリウム・シーカーが魚たちを一斉にダブルへと仕向ける。だが、先程まで脅威だったそれらも変身すれば話は別。

 

空を泳ぐ魚、つまり水流は風と置き換えられる。そこでダブルは風を操作して魚の動きを制限し、アクアリウム・シーカーに続く一本道を作り出し、真っ直ぐその顔面に一撃を叩き込んだ。

 

 

「馬…鹿なッ…!!」

 

『イライラしてるでしょアラシ。気分転換にコレ行っとく?』

「こっちも実験ってことだな」

 

《ルナ!》

《リズム!》

《ルナリズム!!》

 

 

ダブルにとっても初めての組み合わせ。左がピンク、右が黄色のルナリズム。

その動きは幻惑そのもの。舞い、流れる予測不能な体の動きはバイオリンの演奏のように見る者、聞く者を魅了し、視覚さえも錯覚させる。

 

故に魚たちもダブルの姿を見失い、訳も分からず泳ぎ回るだけ。それがかえってアクアリウム・シーカーの動きを阻害し、周囲の魚を避けた捻じ曲がるパンチが次々とヒットする。

 

 

(ふざけるな…! 有り得ない! 融合進化態を越えたこの俺が、負ける!? 完璧な作戦だったはずだ! そうだ途中までは完璧だった! それなのに…!!)

 

 

怒りに任せたアクアリウム・シーカーの能力が暴走。蟹のハサミ、イソギンチャクやクラゲの触覚、アザラシの尾ひれ、ペンギンの翼……水性生物の部位が出鱈目に発現するが、戦略性の無いそれは、どれも十分な効果をもたらさない。

 

 

『アクアリウム…察するに無数の能力を使える『全内包タイプ』のメモリ。シルバーに準ずるとも言っていい強力なメモリだ。優れた使い手が持っていたら、さぞ脅威だっただろうね』

 

「強い方が支配する、単純な摂理だったか? そのルールに則って、俺たちがテメェの命の行き先を決めてやる」

 

《リズム! マキシマムドライブ!!》

 

 

リズムフィストにメモリを装填。

不可思議なメロディを発する拳を、アクアリウム・シーカーの生体装甲の上から炸裂させる。

 

 

「『リズムシンフォニー!!』」

 

 

音波に乗った衝撃はアクアリウム・シーカーの全身の隅々にまで伝播する。まるで何かを探しているように。そして、衝撃波は「それ」を見つけた。

 

 

「くっ、認められない! 俺は今度こそ成し遂げるのだ! 優れた俺が、俺自身の力で!!」

 

 

アクアリウム・シーカーは傀儡のマンタの背に乗り、空高く逃走を始めた。

ロイミュード050は、かつて人間の悪意を調べる実験をしていた。しかし、それは001の策略のうち。最高の犯罪を成し遂げるという目的も、融合していた西堀令子の目的に協力するもの。その強烈な悪意に扇動され、050は死まで付き合わされたのだ。

 

誰かの手の内で生きるのはもう嫌だ。まだ終われない。優れた存在として、必ず生命の頂点に───

 

 

「マズいな。引き剥がすぞ」

『ラジャ』

 

《サイクロンオーシャン!!》

 

 

フォームチェンジしたダブルの弓矢、そして突風がアクアリウム・シーカーを射抜き、アクアリウム・シーカーはマンタの背から弾き落とされた。そして、その瞬間に体の中心で起動する時間差攻撃。

 

 

『ロイミュードはボディとコアが完全独立。撃破してもコアが逃げれるようになってるっていうから、考えたよ。そこで思い付いたのがリズムシンフォニーだ。この技は『すり替え』だ。衝撃波の発信源を、リズムフィストからロイミュードのコアに入れ替えた』

 

「どんだけ逃げようが、技はテメェの中に潜伏してる。分かるか? コイツは逃げる雑魚専用の時限爆弾だ」

 

「そんな…違う、俺は、こんな所で終わる存在では……!!」

 

 

コアから鳴り響く鎮魂歌。内から爆裂する衝撃波が、アクアリウム・シーカーのボディ、コア、メモリの全てを粉々に爆散させた。

 

 

「気付いてなかったかのか? ロイミュード050、お前、弱いぞ。勘違いしてたとすりゃ…お前を使ってた奴らが強かったってだけだ」

 

 

能力は戦闘に向かず、メモリを十分に使えず、生身の相手に油断し、土壇場で重加速を使うことにすら頭が回らない。アラシと050では、潜り抜けた戦いの数が違った。

 

 

「さて、アイツを使ってた優秀野郎を追うぞ」

『勝算が薄い戦いって、マジでやる気起きないね…』

 

 

 

_________________

 

 

「ねぇ、聞かせてよ。私たちを巻き込んで、あなたが何をしようとしてるのか」

 

 

果南がエルバに真っ直ぐ視線を合わせ、改めて問いを投げかけた。エルバにとって、誰かの目をこんな対等に見たのは久しい経験だった。

 

果南はエルバの真意を引き出そうとしていた。

彼は「自分の中の欠陥」に気付いていない。それは外から見れば簡単なものなのだが、何年探しても見えないものだという。人の中に巣食う煩雑な問題というのは大概そういうものだ。果南や鞠莉、ダイヤの問題もそうだったように。

 

その答えで手を伸べることができれば、分かり合うこともできるかもしれない。

 

 

「この憂鬱を晴らすために、俺は世界を統べたい。そのために───

この街を俺の城にする。俺の憂鬱を晴らせない凡夫は、もはや価値もない。『憂鬱世界』で永久に静止させる」

 

 

その言葉を聞いて、果南の表情の動きが止まった。まるで凍り付いたように。

 

 

「どういうこと……!?」

 

「どうした。あぁ、表現が分かりにくかったか」

 

 

そう言うとエルバは近くに居たディファレントロイミュードを操作し、映像を空中に投影した。それは果南の実家のダイビングハウスの「映像」で、そこでは父と母が完全に動かなくなっていた。窓から見える動く雲がなければ、静止画だと思ってしまう光景。

 

言葉を失った果南は、悲鳴を喉に留めることで精一杯だった。そんな様子に気付くことも無く、エルバは揚々と話の続きを吐き出す。

 

 

「この街を拠点に陣地を広げ、ある程度の憂鬱に耐えられる器だけを手駒として置く。労働力にしても君の両親程度の者はいらない。そして、俺が設計した『兵器』を始めとした戦力を生産した末、あの世界への侵攻を行う。そのために、こちらの世界のメモリと、この『ゴールドメモリ』を用意したのだ。この戦争に勝利した時、俺の憂鬱が晴れるはずさ」

 

 

長台詞が頭に入ってこない。急に隣にいるそれが「ヒト」に見えなくなって、同じ言葉を使っているように思えなくなった。

 

 

「……つまり、あなたは…大勢の人を動かない人形にして…奴隷にして…! 人を殺す兵器を作らせて、化け物にして! 戦争に使おうって言うの!?」

 

「そうなる。だが安心していい、兵力として『消費』するのは中の上レベルの人間。松浦果南、君はそんな真似をすることはない。君もまた、俺の憂鬱を晴らす可能性がある存在だからな」

 

「なに…それ…!!」

 

 

何が「自分を悪と自覚している」、だ。その口ぶりは自分の言った事の悍ましさをまるで理解していない。果南が彼を悪と思えなかったのも、決して分かり合えるからなんて理由ではなかった。

 

 

「やっぱり…分かり合うなんてできない! だって、あんたは人の気持ちをまるで理解できないから! 理解できるなら、そんな恐ろしいこと言わない! やっと分かった、あんたは自分が退屈だ、憂鬱だって、自分のことしか考えてない!」

 

「…何をそんなに怒っている? 君には危害は加えないと言ったはずだが…そうか、もしかして両親や天城隼斗のことか。それならこうしよう、君が選んだ人間は特別待遇にする。君の意見次第で、俺の計画を変えてもいい」

 

 

取って付けたような配慮で、エルバが手を伸ばしているのが分かる。誠意の表明か、果南の体を縛っていた拘束具も消えた。だが、もう易々とその手を取ることは果南にはできなかった。そして最後にトドメを刺すような、エルバの言葉。

 

 

「特に君と天城隼斗は俺にとっての鍵、もはや手荒な真似はしないと約束する。君たち2人は…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

言葉を聞き切った直後、その音が山に木霊する。

気付けば果南は、自由になった右手でエルバの頬を引っぱたいていた。久々どころか確実に経験に無い痛覚に、エルバは眼を見開く。

 

見えたのは、敵意以外の何も感じない果南の瞳。

 

 

「ふざけないで…! 隼斗は命を懸けて、私を助けようと戦ってくれる。それなのに…隼斗に誰かが傷つくのを安全圏から見てろって!? しかもあんたなんかの下で! 隼斗を…私のヒーローを馬鹿にするな!!」

 

 

エルバは理解ができなかった。自分に歯向かう果南という存在も、思い通りにいかなかった展開も、冷えた心臓と脈、そして込み上がって来るこの感情も全てが。

 

 

「……!」

 

《ディストピア!》

 

 

思考が巡らないまま、エルバはディストピアメモリを腰のドライバーに挿入し、ディストピア・ドーパントへと姿を変えた。逃げ出そうとする果南の頭を掴み、解析できない感情のままその力を注ぎ込む。

 

 

「やめ…て…!!放して……っ……!!?」

 

 

「絶望郷の記憶」の能力の一つ、それは衆愚を統制する支配の力、「感情の植え付け」。これまで必要としていなかったこの能力を、エルバは反射的に果南に使った。拒絶を拒絶するため。離れて行く彼女を、ここに縛り付けるため。

 

しかし、感情が制御できない。果南に注ぎ込まれるのは、純度の高い「悪意」のみ。

 

 

「……何故だ、君は俺の憂鬱を晴らす存在ではなかったのか? 何故俺に反抗する…?」

 

「違…う…! 私も、隼斗も…あんたの都合のいい道具なんかじゃ…ない…!!」

 

「馬鹿な……どういうことだ。思い通りにいかない、それなのに何故俺の心は晴れない。何故こんなにも気分が悪い…!?」

 

「やっぱり、分かるわけ…ない…! それが分かんないなら…あんたの『憂鬱』は、一生………」

 

 

言葉を否定もせず、ただ払いのけるように、ディストピアは果南の腕に握っていたメモリを突き刺した。コネクタの無いその腕にズブズブと入り込んでいくのは、エルバが所有していたもう一本のゴールドメモリ。

 

それは組織から持ち去った、エルバの切り札。本来はエルバが構想した『殺戮兵器』に『非生物をドーパント化させる技術』を適用し、究極のドーパントを作る計画のためのものだった。

 

果南の姿が悲鳴と共に変異し、体積も膨れ上がっていく。

爬虫類のような鱗、大地に突き刺さる爪、巨大で長い角、空を覆う翼、木を薙ぎ倒す骨槌。自然界を制するに相応な特質がちぐはぐに混ざり合った、馬鹿馬鹿しい程に強大な姿をした『最強生物』。

 

その名は「ダイノエイジ・ドーパント」。「恐竜時代の記憶」を内包し、あらゆる恐竜の力を『全内包』した巨大な怪物。松浦果南は悪意に浸食され、そんな怪物に成り果ててしまった。

 

 

 

「何をやっている…俺は……」

 

 

木を薙ぎ倒し、遠のいていくダイノエイジを見ながら、自分への啞然でディストピアは足を動かすことができなかった。

 

ダイノエイジは組織が保有する「エクスティンクトメモリ」の対となる存在。暴食の手によってそれが失われた今、ダイノエイジの抑止力となるメモリは存在せず、他の幹部に対する決定力になるはずだった。それをこんな形で使ってしまったのは、愚作と言わざるを得ない。

 

 

「この俺が、感情に駆られただと。馬鹿な。俺に何が起こった。俺に何をした、松浦果南…!」

 

 

全身が硬直したように動けないディストピア。しかし、空気を裂いて駆け寄ってくる殺気が、その体を動かした。首筋めがけた刃を躱し、剣で急襲者の胴体を叩き切る。

 

だが手応えが無い。その反撃を予期していたダブル ファングジョーカーは、避ける前提の動きでディストピアの剣を回避していた。

 

 

「クソデカ恐竜のとこ行くつもりが、ラスボスにエンカしちゃうとか…」

『願ったり叶ったりだぜ。恐竜退治より、手っ取り早く一件落着だ』

 

「仮面ライダーダブル…そうか、俺の悪手がお前たちを呼び寄せたか」

 

 

ディストピアの態度に余裕が見られない。これまでのような虚無を感じさせる口調とは一転し、強張った喉から出る声から、彼の苛立ちを感じ取れる。

 

 

「そうか思い出した、この感情は『不快』か」

 

『今更人間らしいこと言ってんじゃねぇよバケモノ。そいつは常々俺らがテメェらに向けてる感情だ。テメェだけだと思うな』

 

「物覚えよくて偉いね憂鬱さん。次に覚えるとしたらオススメは…『痛み』とか『敗北』とかだけど」

 

「憂鬱以外の何かを感じるのは久々だが、いいものではないな。無性に何かを切り刻みたい気分だ。俺が憤死してしまう前に、お前達にあたるとしよう。同郷の仮面ライダー」

 

 

空間を斬り裂く『絶望郷の剣』が山肌を削り、木を削る。太刀筋が出鱈目な怒りに任せた攻撃だ。しかし、それでも一分の隙もないのは流石に冗談が過ぎる。

 

 

『人にあたんな、ガキかテメェは!』

「まぁ幹部って大体こんな感じよ。朱月とか暴食とか会話通じないでしょ」

 

「朱月…“傲慢”か。懐かしい名を聞いた。そういえば、今戦っている体は士門永斗、“怠惰”だな」

 

「元同僚ですよ、どうも」

 

「悪に興味はない。それに、オリジンメモリと同化し不変だと聞いている。つまり、うっかり切り刻んでも問題ないということだな」

 

『テメェも適合者は殺せないクチか?』

 

「オリジンメモリの適合者よりも価値のあるものは、世界にそう存在しない。全てのオリジンメモリを集められたのなら、それはそれで俺の憂鬱は晴れるのだから」

 

 

組織がオリジンメモリを26本集めている理由は未だ分からない。その話を彼から聞き出したいところだが、余計な考え事をしていてはそれこそ微塵切りにされて終わりだ。

 

大幹部クラスとここまで踏み入った戦いをするのは初めてだ。だからこそ、痛感してしまった。ファング・ドーパントと似た感覚、この男は立つ次元が違う。

 

 

「怒りも冷めてきた。故に、感じるな。お前たちはつまらない。俺の憂鬱を晴らし得ない」

 

 

ダブルが投げたショルダーファングの軌道を完全に読みきり、高速で飛び回る牙を剣で串刺しにして消滅させた。更に、防御不能の剣とアームファングでは斬り合いにすらならず、ダブルは回避に集中した防戦を強いられる。

 

 

「ファングの売りの攻撃力が完全に死んでる。こうなったら…」

『相打ち覚悟は却下だ馬鹿野郎。超えるんだよ、アイツのスピードを!』

「はいはい…しょうがないね」

 

《アームファング!》

 

「ほう…」

 

 

ダブルは斬られたアームファングを再度展開し、駆け出す。ファングはゴールドメモリのエクスティンクトの攻撃を全て、真っ向から叩き斬るだけの攻撃力があるのは証明済み。攻撃が入りさえすれば、必ず大きなダメージになる。

 

触れた場所から無に還すディストピアの剣は避けるしかない。だが避けるではなく、「抜ける」のだ。ディストピアの攻撃を通り抜け、懐に潜り込む。

 

 

「無駄だ」

 

 

ディストピアもファングの攻撃力を警戒しているから、攻勢ではなく退き気味に斬撃を繰り出している。ダブルの息切れを待つだけの余裕があるのは事実。だから、ディストピアに攻撃を届かせるために、ダブルはそのスピードを越えなければならない。

 

 

「言っとくけど体力には自信ないよ」

『分かってんだよそんな事。こっからは俺の仕事だ!』

 

 

ジョーカーメモリのフィジカル増強がダブルの動きを加速させる。的確に放たれるディストピアの斬撃に反応し、予測し、退避することなく足を前に進ませ続ける。

そして、到達した。その速度は最高値に達し、ディストピアの攻撃の隙間に踏み入った。

 

 

(───違う…!コイツは誘いだ!)

 

 

ダブルはその間合いに入るのを躊躇した。その直感は正しく、それはディストピアが仕掛けた巧妙な罠。もしそこに足を入れれば、ダブルの攻撃が届く前に軽く6回は胴体を両断されるだろう。

 

だが、ここで退く選択肢はない。その瞬間、今度は永斗がその打開策を弾き出した。

 

 

「止まった…やはりその程度か」

 

 

ダブルは止まり、ディストピアの間合いには入らず腕を振るった。

一見するとディストピアに怖気づいた苦し紛れの攻撃擬きだ。

 

 

「違うね。僕らの牙は、君に届く」

 

《アームファング!》

《アームファング!》

 

「何……!?」

 

 

間合いの範囲外からの斬撃。しかしダブルはアームファングを()()()()、攻撃範囲を瞬間的に三倍にしたのだ。

 

完全に虚を突いた最適解にして、反撃の狼煙となる一撃。

 

 

 

『それが……なんで防がれんだよ…!!』

 

 

完全に虚を突いていたはずだった。それなのに、ディストピアはダブルの拡長アームファングを斬り落としてみせた。

 

エルバはその不意を突いた見事な攻撃を、見てから反応し、異次元の動きで防いだのだ。

 

 

「悪くない攻撃だったが速度が足りなかったな。俺を屠りたければ、それこそあの輝くソニックくらいは欲しい。お前達には無理な話だが」

 

 

体勢を崩したダブルを幾多の斬撃が撫で、最後にディストピアの剣が突き刺さる。剣が体を貫通しているため、尋常じゃない痛覚が襲い掛かって来る。永斗の体じゃなければ死んでいた。

 

ディストピアが剣を抜くと、ダブルは距離を取った。しかし体力の限界か、膝を地に付けたまま上手く体を動かせない。それに加え体の再生まで遅い。

 

 

「そういうことね…切断されたり、飛び散ったりした分は分解+再構成ですぐ修復できるけど、ディストピアの剣は物質を『無』にする。一から体組織を作り直すから、再生に手こずってるんだ。これもしかして天敵?」

 

『ざけんな…! 相性まで悪いのは聞いてねぇぞ!』

 

 

ファングジョーカーの強みは攻撃。永斗の体は不死身であるため、ある程度のダメージのリスクを無視すれば超攻撃的に立ち回れる。そのアドバンテージですらも、ディストピアには通用しない。

 

これが組織の大幹部の実力ということか。

 

 

「組織を敵に回しながら、その強さでは幹部の一人も倒せてないだろう。天城隼斗とは違い、お前達には何の可能性も感じない。生憎だが何も出来ない者の気は知れないんだ。このまま両手両足を斬り、俺は望むものを手に入れる」

 

『望むもの…? あぁ、2つの世界か。退屈で仕方ねぇから世界征服だったな。だったら教えてやるよ、お前に世界は手に入れられねぇ』

 

「何?」

 

『世界は広いんだよ。ただでさえ広いと思ってた世界が、もう一つ…まだまだ何個もあるってんだから冗談じゃねぇ。そんなもんが誰かひとりの手に負えるわけがねぇんだ』

「うん、そうさ。世界は広い。地球の全てを知れる僕ですら、見ていたのは世界の一部ですらなかった。憂鬱、エルバ…君は何も分かってない」

『どの世界にも、どんな場所にも、いやがるんだよ。自由のために、大事なもんを守るために戦う…仮面ライダーっていう馬鹿野郎が!!』

 

「俺の才能に届かない程度の存在が何を言う。俺が届かない物など何も無かった。今度も同じだ。世界を手に入れ、俺は必ず笑ってみせる」

 

「笑えないよ、そんなことじゃ。誰のための笑顔かも分かんないなら」

『逆に聞くが、テメェが何を叶えたって? 適当に手を振り回して掴んだのを手に入れたとは言わねぇぞ。本当に望むものを手に入れるのを叶えたって言うんだ』

「僕らはまだ負けてない。君の強さを前に、僕らは誰一人折れてなんかない」

『俺らを黙らせたいか? 屈服させたいか? 組織に背を向けて逃げたのは誰だ? 少なくとも、俺が知るテメェは何も達成できちゃいねぇ。分かったらデカい口仕舞えよ、負け犬野郎!』

 

 

ディストピアの心に再び広がる「不快」の煙。鉄が軋むほど強く握られた剣を振りかざし、ディストピアが狙うのはダブルの首。首を落としてしまえば、この不愉快な言葉は消え去る。

 

 

『……一旦切り替える。暫く頼むぞ』

 

 

ダブルの変身が解除され、地に転がるのは傷が再生しきらない永斗の体。ディストピアはその無防備な首に、刃を振り下ろし───

 

 

「エルバああああああッッ!!」

 

 

大地を抉り迫る暴風。その声よりも早く、仮面ライダーソニックは苛立ちに飲まれていたディストピアの体に、厳密に言えば心臓を目掛けた一突きを炸裂させた。

 

貫くには届かなかったが、想像を超えた全身全霊、怒りの一撃にディストピアがたじろぐ。

 

 

「ッ…! 大丈夫か永斗少年!」

 

「気付いてたよ、厳密に言えばアラシがだけど。ね、言ったでしょ憂鬱さん。君は…何も成し遂げられない」

 

 

それだけ言うと永斗はサイクロンメモリを起動し、気を失った。

ディストピアの怒りが再燃し、空間を抉る剣を振り抜く。しかし、空間切断が発動するコンマ数秒前のタイミングで、剣戟がその一撃を弾いた。

 

 

「ようやくお目にかかれたな、組織の離反者…“憂鬱”!」

 

「君は、憤怒の…! それに仮面ライダーソニック…まさか、ダイノエイジを倒したのか」

 

 

ソニックと共に現れたのは、こちらの世界にやって来ていた憤怒最強のエージェントことファースト、スラッシュ・ドーパント。ダイノエイジの対処で共闘することとなった彼らは、紆余曲折あって対憂鬱の共同戦線を張ることになったのだ。

 

 

_________________

 

 

また、この最終決戦に集結したのはファーストだけではない。

 

 

「我こそは黒澤一家の鉄砲玉、極道竜騎士卍シュバルツ卍! 道を開けろカチコミだオラァ!!」

 

 

ぶっちゃけると大体の面子が忘れていたであろう瞬樹もまた、この鷲頭山に赴いていた。アラシの招集を無視し、各地でロイミュードを討伐し続けた後、最終決戦の知らせを聞き一足遅れて駆け付けたのだ。

 

隼斗や憐とは別の方向から登山を試みた瞬樹に待っていたのもまた、ガイアメモリを使うロイミュード。しかしエデンはそれを比較的すんなり突破し、速度を落とさず山を登る。

 

 

「見つからない!! どこだー! どこにいる憂鬱ー! 蒼騎士ー! 黒騎士ー! アラシでもいいから返事してぇぇぇぇ!!」

 

 

刺客がいたからそんなわけはないのだが、もしや場所を間違えたとか、そういう可能性が過ぎって凄まじく焦る瞬樹。ただでさえ招集知らせの文章が明らかにキレていたから、次アラシに会った時にどう怒られるか分かったものではない。

 

冷や汗が仮面の下を伝いだした時、木々が踏み倒される音が聞こえ、大地が揺れた。

 

 

「あれは、恐竜!!! 恐竜だと!!? なんでここに恐竜が…フッ、関係ないこれは運命だ! 今行くぞ古代のドラゴン!!」

 

 

エデンが目にしたのは巨大なダイノエイジ・ドーパントの姿。それに対して抱いた感情は当然、「カッコいい!!」だった。瞬樹が「竜」の付く存在にときめかないはずがない。

 

もちろんエデンは全力疾走。竜と戦えるなんて竜騎士冥利に尽きすぎるのだから。結果としてだがそこはエルバがいた場所であり、エデンは戦地に向かうことができた。そして、その道中にいたのは別の存在。

 

 

「クッソ…やっぱコイツ強すぎ…ッテ、シュバルツ!? オイ、どこ行ってんダ!? シュバルツ!!?」

 

「…ん? 黒騎士! こんなところで何を…貴様、あの時の黒い機械生命体か!!」

 

 

ダイノエイジ目指してスルーしそうになっていたエデンを呼び止めたのは、戦いの最中のスレイヤー。その相手は、瞬樹たちを爆発で散り散りにさせたディファレントロイミュードだった。

 

 

「シュバルツお前、ダイヤサンとルビィちゃんは!?」

 

「親分とお嬢ならば無論置いてきた! 今頃仲間たちと合流しているはずだ!」

 

「親分? お嬢…? まぁイイヤ手を貸してくれ! さっさとコイツ倒してハーさんのとこ行かなきゃいけねーんダ!」

 

「え…俺、あの恐竜の方がいい……ってアレ!? いない! 恐竜いなくなってるぞ!?」

 

 

丁度その時、ソニックとスラッシュの協力によりダイノエイジが撃破されていた。テンションを下げてしばらく沈黙した後、エデンは槍を構え……

 

 

「我こそは竜騎士シュバルツ!! 覚悟せよ異界の機械兵! 黒騎士と竜騎士が、貴様の鉄の心臓を穿つ!!」

 

「さっき俺っちを無視しようとしたよナ!?」

 

「…細かい事は良い!! 奇跡の絆が結んだ盟友がここに揃った。もはや負ける事は有り得ない! 共に征くぞ黒騎士スレイヤー!」

 

「ったく…そうダナ! 2人揃ったからには、この世界も…向こうの世界も!これ以上お前らの好きにはさせネェ!お前は、俺っち達が狩ル!!」

 

 

__________________

 

 

「…っ、ここは!」

 

 

変身解除から目を覚まし、アラシは開口一番場所の確認を始めた。

感じるのは何かが下敷きになっている感触。「重い…」と呻いているそれは、千歌の背中だった。

 

 

「悪い」

 

「ううん、平気…急に動くからびっくりしちゃったけど」

 

 

アクアリウム・シーカーを撃破し、ファングジョーカーに変身する際、アラシは自分の体を千歌に預けた。そして、「俺の体をあの山の方へ運んでおいて欲しい」と頼んだのだ。

 

現在地は随分と近い。山は目と鼻の先だ。しかし、気になるのはアラシと千歌が狭い何かしらの機内にいること。狭さに耐え兼ね外に飛び出すと、それはバイクが2つ合体したような四駆だった。

 

 

「なんだこりゃ」

 

『ライドXガンナー(仮)さ。隼斗と憐のバイクを合体したビークル』

 

「車が喋った…あの博士女か。通信できねぇんじゃなかったのかよ。わざわざコイツも改造したのか?」

 

『この天才にかかれば通信を取り戻すなんてお茶の子さいさい! しかしこちらの居場所を特定される危険性があったんだ。今はもう関係無いがね! なにせあの盗っ人憂鬱はここでお終いなのだからな!』

 

「アラシくんに言われて、おんぶで山まで連れてこうとしてたんだけど…」

 

「そこをコレに拾われたと。おんぶでって…愚直過ぎんだろ」

 

「いやぁ、それほどでもぉ」

 

「半分は褒めてねぇよ。でも助かった。これですぐアイツをぶっ飛ばしに行ける!」

 

 

アラシは装着したままのダブルドライバーからジョーカーメモリを引き抜き、再び装填。そうすることでサイクロンメモリが転送され、変身者の切り替えが完了した。

 

 

「安心しろ千歌。Aqoursと隼斗たちの世界は、こんなとこで終わらせねぇ。この街に広がってる憂鬱なんて…全部吹き飛ばしてやる。変身!!」

 

《サイクロンジョーカー!!》

 

 

アラシの姿が二色の戦士に変わり、白いマフラーがたなびく。千歌がその姿を見たのは初めてだが、その頼もしさだけは何度だって見て来た。彼もまた、仮面ライダーだから。

 

海風と混ざり合った疾風が、大地を踏み鳴らして山を駆け上っていく。見据えるは頂点。その頂上決戦。

 

 

「待たせたな、第2ラウンド…いや、最終ラウンドだ!」

 

 

あっという間にディストピアVSソニック&スラッシュの戦いに追いつき、張り詰めた戦闘に殴りこんだ。その一瞬だけディストピアが圧され、3人の連携がディストピアを退けた。

 

 

『で、なんでファーストいんのさ』

「そうだ。しれーっと並んでんじゃねぇよ帰れ」

 

「さっき一緒に戦おうってなったんだよ! 協力してアイツに勝とう、ってな! いやぁ本当なら小一時間は喋り倒してえ所だ!あんなに充実した戦いは初めてだったからな!」

 

「やはり手は引かないか。が、ヤツを斬るのは俺だ。そしてその次は貴様らだ。そのメモリはついでに頂く」

 

「うるせぇなやってみろや。エルバのついでに勢い余ってぶっ飛ばされないよう気ぃつけろ」

 

「え、何? お前ら仲悪いのか?」

 

 

ダブル、ソニック、スラッシュが並び立つが、ディストピアは焦りの感情なんて微塵も見せはしない。ただ憂鬱そうに、害虫でも見たかのような態度を貫く。

 

 

「不思議だな。ソニックにファースト、相応の才が集っているのに期待ができない。俺の憂鬱は増す一方だ。それも全て…貴様のせいか、仮面ライダーダブル」

 

『そうやってさ、人のせいにするのやめてもらっていいかな?』

「そうだ三下野郎。自分とこどころか人様の世界で…俺の()()の居場所で好き勝手やった報い、受けさせてやるよ!」

 

「あぁ…エルバ! お前はやっちゃいけねえことをやった。町を…仲間を…そして果南姉ちゃんを……! 大切なものを傷つけまくったてめぇだけは、絶対に許さない!! 俺の…俺達の『正義』が、お前という『悪』を討ち滅ぼす!!!」

 

 

果てしなく遠い強さを持った、黒い虚悪。隼斗たちにとっては自分の世界を脅かすかつてない侵略者であり、アラシたちにとってはこれから戦う事となる巨大な敵の一角。

 

無謀な賭けだった。ダブルが勝てる相手では無かったが、奇跡の出会いがここまで導いてくれた。隼斗たちがいなければ挑戦にすらならなかった。

 

 

「勝つぞ。ここまでお膳立てしてもらって勝てなけりゃ先はねぇ。ここで大罪の一柱、へし折ってやる」

 

 

世界に空いた穴から始まった、かつてない戦い。その決着の足音が耳元にまで迫っているのが分かる。憂鬱を祓い、勝敗を決する鍵は

 

───2つの世界を斬り拓く、剣。

 

 

 

 




今回登場したのは、τ素子さん考案の「アクアリウム・ドーパント」、MrKINGDAMさん考案の「ダイナソー・ドーパント」改め「ダイノエイジ・ドーパント」です。ダイノエイジなんて単語はありません。あと、τ素子さん考案の「バレット・ドーパント」もソニックサイドで登場しております。

次回は正真正銘最後の決戦VSエルバ!ここまでお付き合いいただき感謝です。決着をどうか見届けて頂ければ!ネクストラブダブルズヒント、「剣」です。

感想、高評価、アドバイス、オリジナルドーパント案ありましたらお願いします!
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