ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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短編から2か月ぶりです、146です。お久しぶりですが、研究と大学院試験で高校受験ばりの激務です…しばらく更新頻度はお察しになってしまいます。申し訳ございません…時間をかけた分、良いものをお送りしたい所存です。

アルファベットも少なくなってきました、今回は遂に「A」です。残るは4つの文字…これらすべてを使い、一期編最終4部作が始まります。まずは待ちに待った文化祭…ラブライブアニメをご存じならそこで何が起こるかご存じでしょうが…本作では果たして。

今回も「ここすき」をよろしくお願いいたします!


第61話 Aの別れ /文化祭迫る!

国立音ノ木坂学院。秋葉原・神田・神保町という恵まれた立地に校舎を構える、古くから多くの人々に慕われた伝統的な女子高。数えきれない程の青春がこの学校で芽吹いては、飛び立っていった。

 

そんな音ノ木坂学院も少子化に伴い統廃合の危機に晒された。

しかし、そんな常識的な問題に目を奪われるだけで、多くの人々は知らない。この清い心と美しい友情に重きを置く伝統校は、およそ人と呼べない怪物の「餌場」となっていることを。

 

 

「…オリジンメモリは地球の意思が形を得たもの。彼らは適合者を選んでは、適宜見合った記憶を地球から引き出し、力を与える。そして人間の進化に応じてオリジンメモリも進化を遂げていた」

 

 

組織の最高科学者、天金は空に字を描くように歴史を振り返っていた。それを興味無さそうに聞き流す朱月は、未だ失ったままの天金の片側を叩く。

 

 

「右腕、まだ作んないんだ。不便じゃないのぉ?」

 

「僕の頭脳は常に腕を動かす速度を遥かに凌駕する速度で回転しているんだ。腕が二本ある場合と今の状況、不便さの変性は誤差の範疇なんだよ。それで話の続きだけれど…」

 

「うげぇ…まだ続くの?」

 

「オリジンメモリは常に最適な形を求めて進化する。今の形になったのはおよそ50年前。素晴らしいだろう。かつては石や本、札の形状だった彼らはUSBメモリなんて誰の脳内にも無かった時代に今のメモリの形状へと辿り着いたんだ。そしてそれを基にし、人工的に彼らを再現する研究が始まった。そうして生まれたのがドーパントメモリ……実用化されたのはもう20年以上前だったかな。それでもUSBメモリが一般普及される前だけどね」

 

「うんうん、それは知ってるぜ? オヤジが教えてくれたし」

 

「そう、君のとこの先代組長やその少し後に“憤怒”になった卓羽零治…『ゼロ』の意向でドーパントメモリの未成年への販売は禁止された。まぁデータ収集が目的だったしそれも容認されたね。でも……12年前に一度だけ、未成年にメモリが渡った事例があった」

 

 

ようやく本題のお出ましだ。朱月が大きく伸びをすると、体を前に傾けて話に興味を示した。

 

 

「それが最初だったんだねぇ。七幹部『暴食』───石井美弥の胎動は。今は名前変えてるから久々の感じだ」

 

「彼女の経歴は組織では余りに有名。メモリの魅力に囚われた彼女は、音ノ木坂学院に入学後すぐにメモリセールスとして成果を上げた。未成年にメモリを使わせる意義を充分に見せつけた上で、だ。その功績で『暴食』を襲名し犯罪シンジケート『悪食』を樹立し、彼女は餌場を広げていった」

 

 

それは組織に対する献身か? それは絶対に有り得ない。

彼女が地位を欲したのも、未成年への効果的なメモリ使用法を成立させたのも、『悪食』を作り優秀なハイドープを多数生み出したのも、全ては己の欲のため。

 

清々しい程に公私混同。そして恐ろしく狡猾で、巧妙で、慎重で、邪悪。

 

そして名を変えて未だ音ノ木坂に巣食う『石井美弥』は、その食欲で全てを食い散らそうとしていた。

 

 

「…オレはワクワクするねぇ。オレ、憂鬱くんと同じくらい美弥ちゃん大好きだし」

 

「僕は観察させてもらうよ。若き幹部の君たち2人が、どんな世界を作るのか……とてもいい実験になりそうだ」

 

「そりゃあ最高に酷い世界に決まってんじゃん!」

 

 

『暴食』と『傲慢』が動き出す。その果てしない悪意の前に、この世界と平和は脆すぎる。

 

_______________

 

 

音ノ木坂学院の文化祭。μ'sはそこでライブを行い注目を集め、ラブライブ本戦への出場を目指していた。全ては音ノ木坂学院の廃校を阻止するために。そして、文化祭が間近に迫った今、ある小さな事件が起こった。

 

それがきっかけで暴かれたのは、切風アラシの『本性』だった。

 

 

『殺される前に殺してやる…死んでやらねぇ…一人で、俺は…どいつもこいつもぶっ殺してやる!』

 

 

忘れたかった過去だったのは言うまでもない。隠したかった過去なのも言うまでもない。ずっと濁し続けた過去は、最悪なタイミングで最悪な相手に知られてしまった。

 

事務所には戻った。学校は休まなかった。ただ、アラシは永斗とも穂乃果とも、言葉を交わすことはなかった。

 

 

「俺…やっぱ何も変わってねぇな…そりゃそうだ、忘れたふりしてたのは…俺だけだ」

 

 

バレたからといって誰が傷つくわけでも無い。ただ信頼していて、好いていた相手に幻滅されるだけの話。たったそれだけがとても怖いのだ。誰かとの繋がりがなければ、アラシはただの薄汚い『バケモノ』なのだから。

 

 

「へいへい、インタビューいいですか? 素敵な顔してるマネージャーさん」

 

「……嘉神…!」

 

 

その日、アラシが初めて言葉を交わした相手は嘉神だった。しかし、その返答には最大の敵意が込められる。この男に対する大きな疑心が、アラシの中にはあったからだ。

 

 

「テメェの仕業か」

 

「ほぉ…何が? 主語と述語だけじゃ伝わんないぜ」

 

「チルドだ。全く騒ぎにならず職員室に侵入し、騒ぎにしないまま教員を子供にした。そんな芸当は内部からの手引きなしじゃ不可能だろうが」

 

「他の根拠をお聞きしたいね?」

 

「あのメモリには見覚えがある。ノアの天秤騒ぎの時、新聞部部長の鈴島が俺に見せたメモリがチルドだった。その時、テメェも近くにいたはずだ」

 

「なるほど。で、俺は今や新聞部員…そりゃ確かに怪しい!」

 

 

相も変わらず軽口を叩く嘉神を、アラシは壁に叩きつける。チルドの変身者はメモリを受け取った時の記憶を失っていたらしいが、嘉神が奴にメモリを与えた可能性はある。理由なんてなんでもいい。嘉神はそういうことを平気でする男だ。

 

 

「何が狙いだ。この学校に来て、何をする気だ!」

 

「言っただろ、俺は仮面ライダーになる方法を知りたい。あとは新進気鋭のアイドル、μ'sに注目してるだけ」

 

「μ'sになんかしてみろ…殺すぞ」

 

 

その言葉は虚勢でもなんでもない。今のアラシなら、きっと嘉神を殺す。そんなアラシを見て満足そうに、降参の意味も含めて嘉神は両手を上げた。

 

 

「惜しいなぁ…でもやっぱその顔だアラシは。この世の全てを信用しない、誰も愛せない。その気になればあの子らも相棒も勘定に入れる、そういう男」

 

「…黙れ」

 

「分かるよ、アラシは空助さんとは違って探偵にはまるで向かない。だって本当は他人のことなんて心底どうでもいい。素顔で俺と向き合えよアラシ、俺はジャーナリスト…この目で見たいのはお前の本性なんだ」

 

 

手に力を込めかけ、やめた。ここで殺しても意味がない。どうせもう隠す必要もない本性だ。

 

 

「…殴りもしないんだ?」

 

「こんな時に学校で暴行事件なんて起こせるか。ただでさえ事件だらけで廃校にリーチかかってんだ」

 

「廃校ねぇ…不思議だよなぁ、今年度だけでも音ノ木坂関係者がメモリを使った事例は多すぎる。それなのに世に出回ってる悪評は少なすぎだ」

 

 

清掃員の小森、3年生の斎藤、教師の夏目、卒業生の内藤、転入生の灰垣。厳密に言えば永斗や絵里もそうだ。音ノ木坂に関連付けられる事件となれば更に多い。

 

それも全てメモリセールスの『暴食』がいるから。ヤツをこの学校から排除すれば、悪意の柵から音ノ木坂を、μ'sを解放できる。それでμ'sを守れるはずだ。

 

 

「この学校を守るため、すぐに『暴食』を倒す」

 

 

この思考には何度も至った。ただ、穂乃果たちが自分たちを支えたいと言ってくれたからずっと巻き込み続けていただけだ。でも、もうそれも終わった。あんなアラシを見て、誰が支えたいだなんて思うか。

 

μ'sは19位にランクインし、ラブライブ本戦の出場資格を得た。きっともう彼女たちに手助けは必要無い。

 

 

「『暴食』を倒して……探偵部も高校生もマネージャーも終わりだ」

 

 

 

部活には顔を出すことなく、アラシは真っ直ぐに事務所へ帰る。

その扉の前で、酷く焦燥した様子の女が縋るように戸を叩き続けていた。

 

 

「俺の事務所に何の用だ?」

 

「探偵……こんな子供が、そんな……!? でもっ……!」

 

 

探偵が高校生だということに驚き、絶望したような顔をした女だったが、それでも構わないとアラシの前に跪く。そして、命乞いのような「依頼」をした。

 

 

「お願い…! 私を守って!」

 

 

______________

 

 

 

「μ'sが20位に入った!」

 

「うんうん」

 

「ラブライブ出場が決まったんだよ!?」

 

「そうだね」

 

「だったらなんでこんなにピリピリしてるの~! もっとパーッとパーティーとかしたいにゃ~!」

 

 

凛が部室で永斗にだだをこねているが、絵里や海未たちもいるので大き目の愚痴とでも呼ぶべきだろうか。当然、そんな意見は真面目派閥に食い気味に却下される。

 

 

「そんなことをしている暇はありません!」

 

「そうよ。学園祭まで一週間を切ってるんだから。それに…」

 

「まだ出場が決まったわけじゃないわ。トップのA-RISEだって連日ライブをやってるのに、μ'sなんてボケっとしてたらすぐ追い越されるわよ!?」

 

 

にこが馬鹿意見側に回らない。瞬樹が先生に呼び出しを喰らって不在というのもあり。凛が完全に孤軍となってしまっていた。

 

 

「にこちゃんはいっつもこっち側だったのに~! にこちゃんが正論言い出したらもう終わりにゃ!」

「確かに、それもそうね」

「なによ後輩2人して!? 凛にマジカルマッキーの癖に!」

「マジカル…! その話はもう忘れてって言ったでしょ!」

 

 

先日の真姫中身だけ幼児化騒動を経て、にこと真姫の力関係が変化したようだ。しかし、にこの意見は真っ当。彼女も夢にまで見たラブライブ出場が目前まで来ているせいで、喜びを通り越して過敏なほど用心になっている様子。

 

だが、ラブライブ出場権の獲得自体はもっと喜んでもいいはずだ。

そうできない理由は、一重に居るべき人物がここにいないから。

 

 

「でぇ…なんでアラシは来ないのよ!? まさか無断欠席!?」

 

「いやいやいや、アラシ君に限ってそれは無いって…にこっちが一番分かっとるやん?」

 

「……そうとも言い切れません。今日のアラシは教室でも様子が変でした。ことりと穂乃果は何か知っていますか?」

 

「え…ううん! 私は…何も…穂乃果ちゃんは!?」

 

「それは………えっと…」

 

 

永斗に目配せしようとした穂乃果だったが、その前に考えた。アラシがおかしいのは幼児化で見せたあの異様な言動が理由に違いない。しかし、あのアラシは正直に言って怖かった。そして、アラシはそれを見られたくなかったのだと、なんとなく推察することができた。

 

いくら仲間だからといって、それを勝手に広めてしまうのはよくない。

何より穂乃果の中で引っかかっている妙な感覚。あのアラシを見た時に生じたこの感覚に対し、まずは自分で答えを見つけるべきだ。

 

 

「ごめん…言えない」

 

「知らないとは言わないのがほのちゃんらしね。大丈夫だよみんな、アラシは僕がなんとかするから任せて。今は時間もないし、文化祭の話しよ」

 

 

永斗が大きく一度手を叩き、話題を断ち切った。彼が話を仕切るのも珍しい。

 

 

「……うん! 切り替えよ、みんな! そうそう文化祭のライブの話で…」

 

「穂乃果は素直ね。普通はそんなに早く切り替えれないわよ?」

 

「まずはライブを成功させるが第一だよ絵里ちゃん! 帰って来た時にラブライブ出れないってなったら、アラシ君に怒られちゃう!」

 

「そうね。それで、そんなに気合を入れて穂乃果は何を提案してくれるのかしら?」

 

「文化祭のライブ、新曲やろう!」

 

 

穂乃果が発した爆弾はμ'sの中心にてノータイムで爆裂した。

息を揃えた驚愕の声色。自信満々な穂乃果は、それでも話を続ける。

 

 

「この間、真姫ちゃんに聞かせてもらった新曲がやっぱりよくって! これ一番最初にやったら盛り上がるんじゃないかなーって!」

 

 

意見自体の筋は通っている。しかし、余りに無茶だ。真姫も曲を褒められて嬉しそうではあるが、まさか学園祭で使うとは思ってなかったのか驚きが勝っているようだった。

 

 

「待って! 文化祭まで一週間を切ってるのよ? 振り付けも歌もこれからなのに…絶対に間に合わないわよ?」

 

「歌詞は海未ちゃん作ってるでしょ?」

 

「えっ…!? 確かに書き溜めていたフレーズはありますが…」

 

「音源は永斗君が作ってくれる!」

 

「…はい、ガンバリマス」

 

「でも、そんなに一気に覚えられるか…私、自信ない…」

 

「ラブライブもかかってる。アラシ君にも心配かけられない。このライブは、μ'sの集大成にしたいんだ!」

 

 

花陽の不安も最もだった。しかし、穂乃果は理想を貫く。

誰かがアラシを救わなければいけないことを、9人の中では穂乃果だけが知っている。救わなければいけないと思ってしまっているのだ。出来ることは、精一杯のステージしかない。

 

 

「アラシ君はこれまでずっと守ってくれた。ラブライブに出て、廃校を阻止するのが、その一番の恩返しだと思う! だからみんなで最高のライブにしよう!」

 

 

それを出されて断れる者はここにはいない。8人は首を縦に振った。

きっとこれはあるべき流れ。望ましい流れなのだろう。ただ、ここにいる穂乃果以外の者はうっすらと、感じてしまっていた。

 

最悪なバランスで天秤が狂っている。この現在が酷く歪であると。

 

 

________________

 

 

依頼を受けるべきか否かアラシは迷った。

今は暴食探しに注力したい。しかし、ここで見捨てれば探偵としての生き方に傷がつく。下手をすればただでさえ危ういアラシのパーソナリティを揺るがしかねない事態だったが、事情を聞けばその迷いは払拭されることとなった。

 

 

「その話は本当か? アンタを追ってるのが、『朱月組』って話は」

 

 

依頼人の名は蜂須賀鈴子。指定暴力団『朱月組』傘下の団体の構成員。依頼内容は追って来る朱月組から自分を守って欲しいというものだった。暴力団と関りのある人間だから警察を頼れず、ここを探し出したらしい。

 

 

「お金ならいくらでも…私ができることならなんだってする! だから、『あの男』から逃がして! じゃないと殺されるっ! 死にたくない!」

 

 

蜂須賀はさっきから震えてこれしか言わない。命の危機を前に到底まともな精神状態ではないようだった。会話にならないのが少々面倒ではあるが、アラシにとってこの依頼は好都合だった。

 

朱月組の長は『傲慢』、朱月王我。そこから暴食の情報を引き出すことだって可能なはずだ。

 

 

「その追って来る男ってやつ、名前はなんだ」

 

「片島……朱月組の幹部、非道な男…あいつと組長だけには目を付けられないよう、上手くやってたはずだったのに…!」

 

「朱月じゃねぇのか…だったらアンタから引き出す。よりにもよってここに来たってことは、多少なりともメモリのことを知ってるってことだろ」

 

 

蜂須賀は頷いた。朱月はアラシの顔と居場所を知っており、一度それを利用して鎌をかけられたこともある。それでも奴らが直接攻めに来ない理由はその情報を幹部団で独占しているからであろうが、それを知り得たということは、この女は内部事情に深く精通しているに違いない。

 

 

「報酬はただ一つだ。組織…七幹部の連中について、知ってる事を全部話してもらうぞ」

 

 

_______________

 

 

音ノ木坂文化祭までの日数は更に刻まれていく。

既に生徒たちの心は授業に入っておらず、永斗に至ってはもはや教室にも姿を見せていなかった。

 

 

「何…!? 新曲だと!」

 

「うん…穂乃果ちゃんの提案でやることになったんだけど…私ちょっと自信なくて…」

 

「何を言う花陽! お前の歌唱力は神にも届くほど素晴らしいものだ、自信を持て我が主よ!」

 

 

休憩時間。もう教室でも定番となりつつある花陽と瞬樹の組み合わせが、そんな会話を繰り広げる。そこに口を挟むのは凛。

 

 

「そうにゃ、かよちんはやれば出来る子だよ!」

 

「ありがと凛ちゃん。でも、本当に大変なのは私より永斗くんかも…」

 

「そうね。珍しくやる気になってたけど、編曲や振付、作詞の大半を一人でやるなんて無茶よ。穂乃果も穂乃果だけど、永斗もなんか変っていうか…」

 

「僕が……なんて?」

 

 

噂をすればなんとやら。授業も休んでいた永斗が疲れ果てた様子で教室に現れ、不安がっていた真姫に紙束を受け渡した。そこには新曲の楽譜と歌詞、振付が丁寧に記されている。

 

 

「できてるにゃ…」

「うそ…曲のデータ渡したの昨日なのに…まさか一晩で!?」

 

「一晩ちょいかかったけどね…海未ちゃんの詩を元にそれっぽく並べたけど、振付に関しては自信ないよ。音楽も歌詞も本棚にあった分のメソッドと、統計的な傾向から形にしてるだけ。あとは悪いけど、みんなの感性でブラッシュアップして……」

 

「十分すぎるわよ…やればできるってレベルじゃない」

 

 

気味が悪いほど永斗がやる気を出したのには、当然理由がある。それは昨日の会議のあと、アラシからかかってきた電話のせいだ。

 

 

「…依頼受けた? マジ…!?」

 

 

そんな電話越しの事後報告に、永斗は頭を痛めた。幸いこの場には誰も居ないため聞かれずに済んだが、彼女たちに知られたらまた面倒なことになりそうだ。

 

 

『朱月組との追いかけっこになる。俺はしばらく事務所離れて身を隠して行動する』

 

「ちょっと待って、μ'sのことはどうすんのさ。さっきもほのちゃんが新曲やるって言いだしたし、皆も心配してるんだからまずは顔くらい見せたら…」

 

『…必要無い。俺ができるのは組織を潰してアイツら守ることだけだ。μ'sのことはお前がなんとかしてやれ、永斗』

 

 

それだけだった。事務所に帰れば作り置きの夕飯だけが置いてあった。

アラシとこんなにも距離を感じたのは初めてのことだ。信頼しているような口ぶりとは裏腹に、その言葉は冷たかった。

 

アラシのことは相棒である自分がなんとかすべきだと、そう思って、そう宣言した。でもそれができないと、アラシはそれを望んでいないと分かってしまった。

 

 

「無理しちゃダメだよ永斗くん…」

 

「別に無理じゃないよ凛ちゃん。できるからやってる。僕は僕にできることを…みんなに恩返ししたいのは、僕やアラシだって同じだからさ」

 

「恩返し…なるほどいいな! ならば俺は……そうだ、ダンスだ! 花陽が不安なのはダンスのはずだ、俺が力になろう。この竜騎士シュバルツ、体を動かすことには自信がある! 我が秘伝の竜騎士ズブートキャンプを伝授しよう!」

 

 

瞬樹が馬鹿なことを言っていると無条件に安心できて良い。ともあれ、学園祭のライブは9人+3人が全力を注いで作る集大成のライブになりそうだ。そのはずなのに……

 

 

「あー…不穏臭いなぁ……」

 

 

激務に掻き消されそうな一寸先の暗雲。そして、見えない相棒の胸中に、永斗は不安を呟いた。

 

 

_________________

 

 

暴食の情報を掴むため、朱月組から匿って欲しいという蜂須賀鈴子の依頼を受けたアラシ。まず思いついたのは海外逃亡だが、ダメだった。そんな手段は朱月組も読んでいる。空港は使えない。

 

かといって海も駄目だ。他国に船を出すだけの人脈は、空助ならともかくアラシには無い。

 

方法を考えながら身を隠し逃げ回ってほぼ一日。まだ姿も不明瞭だった追手が、遂にその背中を捉えてしまった。

 

 

「はぁ……また新しい男、しかもガキ。節操が無ぇとは自分で思わないか。なァ蜂須賀」

 

 

乱暴な運転で行く手を塞がれたアラシと蜂須賀。

後ろから追ってきていた朱月組の奴らも追いつく。思ったよりも格段に早い万事休すだ。それに加え、蜂須賀の怯え具合を見るに、車から出てきた派手めなサラリーマン風の男こそが……

 

 

「テメェが片島か。思ったよりヒョロいな、それでもヤクザか?」

 

「いかにも俺は片島夜鷹だが、初対面の子供に体格云々口を出される筋合いは無いな。今の教育カリキュラムには年上への礼節が含まれないのか?」

 

「悪いが教育を受けた覚えはねぇよ」

 

「子供が首を突っ込むなよ。そいつはウチのメモリを無駄にした欠陥品だ、適切に処分してやるからさっさと引き渡せ」

 

「そうはいかねぇ。コイツは俺の依頼人なんでな!」

 

 

奴らは銃を抜いてない。それなら好都合だ。

襲い掛かってくるヤクザ共を蹴り飛ばし、突破口を生み出す。敵が十数人だろうと、相手がヤクザなら容赦は不要。アラシの敵ではない。

 

 

「…とんだモンスターチルドレンだな。蜂須賀が頼ったってことは、例の変身する探偵…オリジンメモリの適合者。殺せねぇのはかなりウザったい…!」

 

 

バイクで逃走したアラシに銃口を向けた片島だったが、すぐにそれを下ろした。舌打ちして代わりに黄色いドーパントメモリを構えるが、こめかみに指を当て、大きく息を吐いて踏みとどまる。

 

 

「落ち着け落ち着け…そうやってすぐに手ぇ出ンのは悪手だろ、若のお遊びに付き合ってやんのも俺達の存在意義だ。ただし遊びは遊び…投入コストは最小限。採算は取る」

 

 

アラシに倒された構成員の一人を強く踏みつけ、力づくで叩き起こすと、片島はその男の額に自分のメモリを挿し込んだ。

 

 

《アンバー!》

 

 

黄色く輝く液体が男の身体を包み込み、ドーパントの姿を顕現させ生命力を吹き返させる。そして目的は当然、アラシと蜂須賀の捕獲。そして『暴食』から頼まれた事がもう一つ。

 

 

「あの女の命令は把握してるな。鬼ごっこしてやれ、最大効率でだ」

 

 




今回登場したのはτ素子さん考案の「アンバー・ドーパント」です!この案、めっちゃ気に入ってて温存に温存を重ねていたんですが、遂に出番と相成りました。そういう案はたくさんあるのでドンドン使いたいです。あと、既に書き終わってる次話を投稿しましたら溜めに溜めてるオリジナルドーパント案返信も再開致しますので……

感想、高評価、アドバイス、オリジナルドーパント案ありましたらお願いします!
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