残るアルファベットはR、U、Zの3つ(多分)。今回からはアニメ1期終盤、Z編をやります。
本当にクソ久しぶりの原作回というやつです。アニメ見ながら書きました。
音ノ木坂学院に潜む怪物、『暴食』。
そして、その正体に迫った少年もまた、愛を知らない悪意の怪物。
ベールを脱いだ2匹の怪物が人知れず殺し合い、
生き残った『暴食』が傷だらけのもう1匹の怪物を喰らった。
───ここは、あの女の腹の中か?
わからない。何も見えない。何も聞こえない。何も匂わない。
今まで誰かから貰ったなにかが消えていく。
それは『意味』だった。それは『使命』で、『愛』で、『名前』だった。
今はもう何も感じない。ただ、冷たい。
貰った何もかもが身体から遠ざかり、懐かしい冷たさだけが残った。
_______________
『もうランキングにμ'sの名前は……無いわ』
無理をして、熱を出して、倒れて、ライブを台無しにした。
穂乃果は絵里の言葉を何度も噛み締める。
ラブライブ出場を目前にして、μ'sはランキングを辞退した。
布団の中で何度も泣いた。怪我も熱も治って外に出れば、選考はとっくに終わっていて、世間はランキング1位のA-RISEへの期待を語っていた。μ'sの躍進は過去のことになっていて、誰の目にも自分たちが映っていないのが分かった。
今までの時間は何だったんだろう。何のためにあれだけ頑張ったんだろう。
あんなに怖い思いをして、それでも続けて来た意味は、一体どこに───
「いつまでそーやってるつもり?」
「にこちゃん……」
日は経ち、穂乃果も学校に復帰し、練習も再開することに。
今回の件で理事長から叱られはしたが、活動を咎められることはなく、ラブライブという
「いい? ラブライブに出られなくたって、スクールアイドル辞めるわけじゃないのよ?」
「そうよ。廃校を阻止するためには、より一層頑張らなきゃいけないんだから」
いつも練習をしている屋上。絵里も落ち込む穂乃果に声を掛けるが、その表情は柔らかい。穂乃果の失敗など気にしていないと、そう語り掛けるように。
「私は卒業まで全力でスクールアイドルやるって決めてるんだから。そんなテンションで来られると迷惑なの。言っとくけど、気なんて遣わずバリバリ行くから覚悟しなさいよ」
「せやから、穂乃果ちゃんも元気ださんと置いてかれるよ? 気付け代わりに『わしわし』しよか~?」
「い、いえ! 結構です~!」
「そう、穂乃果はいつも通り、そんな風に笑っていればいいのです」
海未の言う通りだ。希まで来られると、穂乃果も自然と明るくなってしまう。
にこだって、ラブライブ出場は夢の一つで、それを穂乃果が終わらせたというのに、まだ一緒に歌ってくれると言っている。
穂乃果は心からこう思う。自分は、本当に『仲間』に恵まれたと。
「───っ!?」
「どうしました穂乃果!? まだ熱が……?」
「ううん……なんでもないよ。大丈夫! 学校を救うために、さぁ今日からまた頑張るぞー!」
熱は下がったし、コンディションは最高。断言できる。
しかし、仲間とか、友達とか、そういう言葉が浮かんだ時に、痛みではない感覚に襲われる。高いところから落ちるような、何かを踏み外したような、空虚な感覚に。
そんな時、屋上への扉が勢いよく開いた。
横幅に対し明らかに定員オーバーの3人───1年生たちが倒れ込む。
「ど、どうしたの!?」
「た……!」
「た……!」
「タスケテ……」
「我が天使の
一歩遅れて凄まじく煩いのが来た。μ'sの男子勢で自称コーチ、瞬樹だ。その姿を見た穂乃果は、再びさっきの感覚に陥り足元をふらつかせる。
「む、どうした! またも病魔か……?」
「や……大丈夫だよ。ってみんなどうしたの!?」
「そうだった……大変だ貴様たち!! 我が呼びかけに応じて……えっと……今すぐ下に集合! 緊急事態だ!!」
いつになく大慌ての瞬樹に穂乃果たちは首を傾げるが、すぐにその困惑は驚きの爆発へと変わることになる。
_________
人だかりが穂乃果たちを見て、ひとりでに道を作っていく。
その中心、廊下に張り出されるプリント。もうずいぶん前のことだ、そう入学式の日。同じようなことがあったのを穂乃果はしっかり覚えている。
『私の……私の輝かしい学校生活が!!』
憧れの高校生活の始まりでアレは、あまりのショックに気絶するかと思った。
でも、今回プリントに刻まれているのは
『来年度入学者受付のお知らせ』
「ってことは……」
「学校は!」
「存続するってことやん!」
穂乃果と、海未と、希が、確かめるように事実を復唱した。
まだ実感がない。学校が存続するということは、来年も学校があるということで……
「さ、再来年はどうなるか分からないけどね!」
「後輩ができるの!?」
「うん……!」
1年生も口々に歓喜を声に出す。
だんだんと、体の内から温まるように、自分たちが何を成し遂げたのか理解し始めた。
そんな時、向こうから歩いてくることりの姿を見て、穂乃果は思わず飛び出した。浮かない顔をする彼女の顔に気付かないまま、溢れる喜びのままに抱き着いて───
「やった……やったよ! 学校続くんだって! 私たち……やったんだよ! みんなで頑張ったのは……無駄じゃなかったんだよ!」
何が起きたのか分からない彼女も、後ろの海未が持っていたプリントで、全部を理解した。叶った夢が、その喜びが、憂いも何もかもを塗り潰していく。
「うそ……じゃないんだ……っ……!」
『学校を救おう』。穂乃果の閃きから始まった、無謀な挑戦。
μ'sの9人と、彼女を守り抜いた永斗と瞬樹。その物語が、遂に実を結んだ。
___________
「にっこにこにー♡ みんな~グラスは持ったかな~?
それでは! 学校存続が決まったということで、部長のにこにーから一言! 挨拶させていただきたいと思いまーす!」
部屋を簡単に飾り付け、グラスもとい紙コップを片手に、μ’sの祝勝会が始まろうとしてた。そして、廃校が無くなったとあって騒ぐのは活動してきたアイドル研究部と、もう一つ。
「いやぁおめでとうございますー!! アイドル研究部ことμ’sが学校存続に尽力していたのは、全校生徒の知るところ。ここは我ら新聞部が、総力を挙げてお祝いさせてもらいますよー!」
常にスクープに飢える異常集団、音ノ木坂新聞部。
部長の鈴島、そして3年生の男子生徒である嘉神が、祝勝会にカメラを持って参上していた。
普段なら追い出すところだが、この祝勝会自体が新聞部が物凄い勢いで進めたものだ。幹事を無碍には扱えず、同級生の絵里が頭を抱えて問い質す。
「どういう風の吹き回し……? 部屋は部室でいいとしても、わざわざこんなご馳走まで勝手に……」
「うわあ、お寿司! 回ってないお寿司だ! なんか高そうなパンもある!」
「すごいにゃ! ラーメンの出前も来てるよ!」
「どうもこうも、学校存続は間違いなく皆様のアイドル活動の功績! 学校を救った英雄を祝うんです、このくらいしないとですよ! ねぇ嘉神くん」
「そーっすよ絢瀬ちゃん。その代わりに祝勝会の様子とインタビューを記事にさせてくれればいいから。ホラおひとつどうぞ、高級チョコレート」
チョコレート、絵里の好物だ。よく見ればメンバーそれぞれの好物が揃えられている。転校して間もないのに、この男はどこまでリサーチをしているのだろうか。絵里がそんなことを怪訝に思う中、希は包帯で巻かれた鈴島の右手に気付いた。
「それ、怪我でもしたん? 鈴島さん」
「あーこれうっかりです。部室の超大重量マル秘ファイルが手に落ちちゃって。ささ、私のことなど気にせず……かんぱーい!」
「ちょ、まだ私が挨拶してるんだけど!?」
にこの挨拶を遮って、部外者の鈴島の音頭で祝勝会が始まってしまった。
μ’sのの仲間ということで瞬樹も花陽の横で盛り上がる。既に酒でも入ったのかというテンションだ。
「ずいぶんな賑わいムードですね。学校が続くのがそんなに嬉しいのでしょうか」
「烈! 貴様もμ’sの仲間だ、来てくれると思っていたぞ!」
「クロだ! こっち来てお寿司だよ! あれ? クロってお寿司好きだっけ……ドーナツ食べてるイメージはあるんだけど」
「えぇ後で頂きます。元気そうで何よりです高坂さん。
それにしてもよかったですよ、ラブライブの件でお通夜にでもなっているのかと」
「我が天使も、他の皆も、そんなに弱くなどない! この竜騎士が保証しよう」
「そうですか。無理にでも盛り上げるために竜騎士切断マジックでもしようと思ったのですが……まぁ今でも余興にはなるでしょう。そこに立ってください瞬樹」
「それはタネがあるんだよな!? いい、不要だ、結構だ! 手品は俺がやるから!」
瞬樹の相棒、黒音烈もしれっと部室にいた。未だに性別すら分かってないが、烈もμ’sを支えた仲間だと全員が認識している。ただ、そうなるとこの場にいない仲間が一人。それを妙に思った鈴島が花陽に声を掛ける。
「……士門永斗さんはいないんですか?」
「そういえば朝からいないね、永斗くん。まぁ……お休みもあんまり珍しくないけど」
「永斗くん電話しても全然出ないんだよね~もうみんなで事務所に殴り込みに行くにゃ!」
「音信不通でも、風邪とか事故とか全く心配しなくていいのだけは楽でいいわね」
鈴島は1年生組からの若干辛辣な報告を受け、笑みを崩さないまま目を細める。この一大イベントに彼が現れないのは不自然ではあるが、少なくとも彼女たちは何も知らなさそうだ。
足りない者こそいるが、ここにいる仲間みんなで掴み取った結果だ。楽しい日々だったが、本当に長く、苦しかった。色々な事があった。いつの間にか学校どころではないスケールの戦いにも巻き込まれたが、こうして今喜べているのも永斗と瞬樹、仮面ライダーたちの───
「永斗君と……瞬樹君……?」
瞬樹が変身するエデンと、永斗が変身するサイクロン。2人が組織からμ’sを守ってくれたから今がある。その言い表せないほどの感謝の中に一筋、違和感を穂乃果は覚えた。
だが、その違和感はすぐに洗い流される。こんなにもめでたい会なのだ、悩みは後でいい。
「廃校もなくなったんだ。気を取り直してこれからも頑張ろう!」
そう、廃校が無くなったからといってμ’sの物語が終わるわけではないのだ。これからも皆で歌うために、前のような失敗は絶対にしない。次こそは周りを見る。皆のことも考える。無茶はしない。そうやっていけば、これからもずっと───
そうやって穂乃果が周りを見ると、海未とことりだけが、何か思い詰めた様子で部屋の端にいた。
「ことり……」
「でも、今は……」
学校存続が決まって、皆が嬉しそうにしている。
ずっと先延ばしにしてきたのは分かっている。時間が無いのもわかっている。でも、今じゃないんじゃないかと、ことりはそれを言い出せずに口を閉ざす。
海未も強くは言えない。新聞部がいる今、下手な事を言えば悪い形でそれが広まってしまうかもしれない。
そんな2人の逡巡を浅く笑うように、ことりの様子を察した嘉神が声を上げた。
「はい注目っ!! 南ちゃん、なーんかみんなに伝えなきゃいけないこと、あるんじゃない?」
「っ……嘉神先輩!? どうしてそれを……!」
「園田ちゃんはお口閉じて。オレはさ、知ってるわけじゃない。察しただけだ。それに意味は無いんだよ。さ、教えてよキミの口から南ちゃん。みんなの結束が固まり切って、新しい道を歩き出して、それから言うつもりなのかなぁ?」
この件は海未に相談しただけで、家族や教員を除けば誰も知らないことだ。
だが、嘉神には一度、ことりがエアメールを持っていたのを見られていた。
彼の言葉で全員の目がことりへと向いた。まだ何も知らない皆が、心配する視線をことりへと向ける。その中で向けられる新聞部のレンズは銃口のようで、ことりは気付けば口を開いていた。
「私……もうすぐ、海外に留学するんです……」
あんなに喜びで騒がしかった部室が、たったその一言で沈黙に染められた。
メンバー全員がショックで断片的な言葉を零すばかり。その中でも、穂乃果は、まるで暗闇を見つめるような様子で、震える喉から声も出せなかった。
ことりが、留学?
海外ってことは、転校するってことだ。
一緒にはいられない?
「前から、服飾の勉強をしたいと思ってて。そしたら、お母さんの知り合いの学校の人が、来てみないかって……」
知ってる。μ’sの衣装を作っていたのは彼女だし、昔からずっと服飾の仕事が夢だって言っていた。
「ごめんね……もっと早く話そうって、思ってたんだけど……」
色々な事件もあって、学園祭で皆が頑張っていて。言い出せなかったという。
じゃあラブライブ出場に向けて頑張ろうと、そう言ってた時にはもう、一緒にいられないことが決まってたってこと? あのライブの時も、ずっと?
「……行ったっきり、戻ってこないのね」
「高校を卒業するまでは、多分……」
3年生として、絵里が言葉に出して聞く。ことりから帰って来たのは、思っていたよりもずっと長い年月。ことりが音ノ木坂にいることはもう無い。μ’sにはいられない。
学校が続いて、みんなでまた歌う日々も続いていくなら、頑張った意味があると思ってた。戦い抜いてよかったと思ってた。それなのに、ことりがいないなら、何の意味もないじゃないか。
「───どうして言ってくれなかったの」
穂乃果の口から、そんな言葉が溢れた。
「だから、学園祭があったから……」
「海未ちゃんは知ってたんだ」
そんなこと本当は大事じゃない。言わなきゃいけないことはもっと他にある。分かっていても、頭が熱い。その絶望のような暗い何かを、穂乃果は見当違いの怒りとして言葉にするしかない。
「なんで言ってくれなかったの!? 私と海未ちゃんとことりちゃんは、ずっと一緒だったのに……! 離れ離れになっちゃうのに! どうして!」
「……何度も言おうとしたよ……?」
ことりが返した一言が、穂乃果の声を止めた。熱くなった顔を前に向けると、そこには泣きそうなことりがいた。
「でも穂乃果ちゃん、ライブに夢中で……ラブライブに夢中で……! だから、ライブが終わったらすぐ言おうと思ってた。相談に乗ってもらおうと思ってた!」
頭から熱が引いていく。自分が言ったこと、やったことが、頭の中に戻っていく。
じゃあ、あの時はまだ間に合ったはずなんだ。ことりは伝えたがってたはずなんだ。それなのに、ライブに夢中で穂乃果は何も気付かなかった。
無理をして倒れなければ、ことりと話せていたはずなのに。
「聞いて欲しかったよ……! 一番に相談したかった! だって、穂乃果ちゃんは一番に出来た友達だよ!? ずっとそばにいた友達だよっ!?」
鈴島のシャッターが下りる。
ことりは耐え切れずに部屋を飛び出してしまった。穂乃果が思わず伸ばした手が届くことは無く、その背中は気付けば目の前から消えていた。
___________
その日、結局ことりは戻ってこなかった。
海未から事の仔細を聞き、どうしようもない後悔に苛まれた。
家に帰って、どうするべきだったのか、どうすればいいのか必死に考えた。
でも結局メールでその後悔を吐き出して謝ることしかできず、真っ暗な部屋の中で穂乃果は消え入るように籠る。
「謝ったって……もう……」
もう、現実が変わるわけじゃない。
涙を流して、苦しそうに想いを叫んでいたことりは、穂乃果には傷だらけに見えた。
少しでもことりを見ていれば、気付けたはずだ。彼女がこんな傷を負ってしまう前に、助けられたのは穂乃果だけだったのに。
そんな自分とはかけ離れた、あの日憧れた煌びやかなライブ───A-RISEのライブがパソコン越しに穂乃果の視界に入る。
「すごいな……追いつけないよ、こんなの……」
どうして成れると思ったんだろう。どうして追いつけると思ったんだろう。
悪意に曝され、命を賭けて、それでも逃げずにスクールアイドルに向き合った。怖くはなかった。頑張れると思った。でも、なんでそう思えたのか全く思い出せない。
今は、心の底から怖い。部屋の外に出たくない。
何をしたって、自分を傷付けて、人を傷つける。ただそれだけだ。
何も考えずに突っ走って、独りよがりな夢を見て、
穂乃果の熱意は、大切な友達を傷付けただけだった。
この物語に何の意味があったというのだろう。
_______________
「……ライブ?」
気付けば明日になって、いつもの放課後。いつもの屋上。
いつものようにμ’sの練習が始まろうとした時に、絵里が話を切り出した。
「そう、皆で話したの。ことりがいなくなる前に、全員でライブをやろうって」
屋上にはことりと、あと変わらず永斗がいなかった。
皆はこの一晩でことりの留学を受け止め、祝うと心に決めたようだ。夢に近付くための留学、それは確かに寂しいが、喜ぶべき事なのだから。
「思いっきり派手なのやって、門出を祝うにゃ!」
「凛の言う通りだ! 円卓を囲んだ同士、その新たなる飛翔……我らが友の羽ばたきを世界が知る、前奏となる聖なる……ん、待て。ことりは適合者だぞ、外国に行ったら誰が守るのだ!?」
「静岡に瞬樹がいたように、日本のみならず海外にも仮面ライダーはいます。噂によれば例の怪盗もそうだとか……南理事長が言うには、ある伝手を使って彼女の保護を依頼できたそうです。南さんは既にメモリを発現させていますし、問題ないかと」
「そっか、世界は広いんだね……」
「怪盗って、前に亜里沙が見に行ってたあの……? ハラショー……」
いつも通りだ。ことりの留学の話なんて無かったように、皆が明るく振る舞っている。でも、今はその光景が不自然なように映ってしまう。
きっと昨日からそうだった。ただ穂乃果が、厚かましくも、許された気になっていただけだ。とっくに『今』は歪んでいて、それを引き起こしたのは自分だ。
「私がもっと周りを見ていたら、こんなことにはならなかった」
気付けば声に出していた。
「自分が何もしなければ、こんなことにはならなかった!」
花陽の否定の言葉を掻き消して、穂乃果は叫んだ。
皆の『今』を歪めた自分を、許す事なんてできない。
「そうやって全部自分のせいにするのは傲慢よ」
「でも……!」
「それをここで言って何になるの? 何も始まらないし、誰もいい思いをしない」
絵里の言葉は正しい。でもそれは厳しさに見せかけた、ただの優しさだ。
もう穂乃果は、皆の優しさに甘える事なんてできない。そんな資格は無い。
「……ラブライブだってまだ次があるわ!」
「今度こそ出場するんだから、落ち込んでる暇なんて無いわよ!」
真姫とにこが、穂乃果を必死に引っ張り上げようとする。
でも、もう穂乃果には言葉は通じていても、そこに込められた思いは通じていなかった。
どうせまたダメにする。傷付ける。もう一緒に夢なんか追えない。
また、頭が熱い。こういう時に、誰かが冷ましてくれてたような。
でも今は誰もいない。その熱は止まることなく、言葉となって穂乃果の喉から出てしまった。
「出場してどうするの」
「え……?」
その言葉は、決定的だった。
決して言ってはならない一言だった。
「もう学校は存続できたんだから、出たってしょうがないよ。
それに……無理だよ。A-RISEみたいになんて、いくら練習したってなれっこない」
「あんたそれ……本気で言ってる? 本気だったら、許さないわよ」
「……だって、もう意味なんてないのに。だって学校なんて関係なく、いつも通り事件が起こるに決まってる! また狙われて危ない目に遭うんだよ!? スクールアイドルなんてやってる場合じゃない。だから、ことりちゃんみたいに……!」
もう何が本音か、何が建前かも分からない。熱くなる頭から出る感情が全部言葉になって止まらない。
にこが怒っている。皆が、悲しそうな目で自分を見ている。
あぁだめだ。この『熱』が、また皆を傷付ける。だったらもう───
「───やめます」
何の感情も無い。そんな冷めた言葉で、穂乃果は告げた。
「私、スクールアイドルやめます」
それは高坂穂乃果の物語を終わらせる一言。
それだけ言って、もう目を合わさない。すれ違った他人のように踵を返して、この屋上から去ろうとする穂乃果の腕を、誰かが掴む。
そして、振り返った彼女の頬を、思い切り叩く音が空に響いた。
目を合わせた先にいたのは、体を震わせた海未だった。
「……あなたがそんな人だとは思いませんでした」
自分の物語から下りた、その光も当たらない観客席で、
自分は何もかも失ったんだと、穂乃果はようやく気付いた。
「最低です……あなたは……っ……あなたは最低です!」
歪んだ夢と日常は、もう二度と戻らないほどに砕けて消える。
『μ’s』の物語は、何事も無く、予定調和の崩壊を迎えた。
______________
屋上から下りて来た烈、カメラを弄って廊下を歩く嘉神。
両者が目を合わさずすれ違う瞬間、足を止める。
「高坂さんの脱退で、μ’sは終わりました」
「やっぱそうなるよな。せっかく情報提供の契約、取り付けたんだけど。よかったな、お前の狙い通りだぜ烈」
「えぇ。『スクールアイドルを終わらせる』……心の支えの無い苛烈な環境なら、よりオリジンメモリの発現と強化が促されるでしょう。現時点で未発現があと4名、事態は急を要する」
それにしても最後の引鉄を引いたのは自分だろうにと、烈は嘉神を冷たく睨む。怒りを抱くつもりなど毛頭ないが、この男のこういう本能的な面は率直に嫌いだ。
「ま、オレはアンタら適合者のことは分かんねぇし。そっちが正解なのかもなぁ、実際のとこ。でも拍子抜けじゃねぇか? μ’sはもっと踏ん張ると思ってたんだけどなぁ。だからその時のオレはμ’sに賭けたんだろうし」
「……そうですね。これで倒れるくらいなら、組織の悪意に屈していないのが不自然にすら思えます。まぁ、ボクとしたことが情で買いかぶりましたかね」
そう語る烈を、嘉神は視線で穿つように観察する。
この冷血怪人が絆されるなど在り得ない。だとすれば、何かが起こっている。嘉神の目が、『誰からも忘れられた何か』を見落としているということだ。
「何にしても、情勢は変わります。このままμ’s……いえ、彼女たちは『暴食』に喰い散らされるか、それとも……」
____________
翌日、ことりと穂乃果は学校を休んだ。
片や、どんな顔で友達に会えばいいのか分からなくて。片や、そこに自分の居場所はもう無いと悟ってしまって。
留学への出発の準備をしていたことりに、インターホンが来訪者を告げる。
「おはようございます、南さん! ご留学おめでとうございますということで、お話よろしいでしょうか!」
「鈴島……先輩……?」
新聞部部長、鈴島貴志音。その企み全開のにやけ顔で彼女はことりに詰め寄ったかと思うと、突然深く頭を下げた。
「先日はウチの嘉神くんがスイマセン! 彼も悪気があったわけじゃないんです。いえ、悪気はありますね、ジャーナリストなので。悪気はあった上で、あれが私たちの仕事です。恨んでもらって構いません」
「恨むだなんて……私がいけないんです。私が勇気を出して、もっと早く言い出せてれば……」
「お詫びといっちゃ何なんですけど、留学の件についておひとつ提案があるんです。少しお時間、よろしいでしょうか?」
「提案……ですか?」
真っ直ぐで人懐こい笑顔を見せた鈴島に、ことりは少し心を許してしまう。
鈴島───人の業を喰らい続けて来た『暴食』は、その清く美しい
そして、穂乃果の家にも別の来訪者が。
それはインターホンを押すことも、『穂むら』に来店することすらせず、屋根からぶら下がって直接穂乃果の部屋の窓に張り付いていた。
「高坂ちゃ~ん。いるよね? ね!?」
「……え。新聞部の、嘉神先輩!?」
「ねぇ教えてよ。μ’sが終わった原因のこと。そう……君が忘れた、誰かの話だ」
嘉神留人は不敵に笑う。彼女の中にある空白を、その瞳に映して。
この作品の主人公って、永斗ですよね。
永斗不在でお送りしました。
感想、高評価、アドバイス、オリジナルドーパント案ありましたらお願いします!