圧縮した逸る心 稲妻の鳥を追い越したら
久々の投稿。遅れてすまぬ。モチベが上がらなかったんだ。そして本編ではないんだ。
私がアイツに出会ったのは、今から六年ほど前のことだ。
私は魔法師と呼ばれる、おとぎ話の魔法使いのような人間で、【四葉】に関わる者の中では同年代の中では強い方だった。多分、一部の魔法では大人にすら勝っていただろう。例えば、『ドライ・ブリザード』とか。この魔法はあの七草真由美にも勝てると自負しているし、ものすごく劣化しているけど、真夜さんの『
だから正直、舞い上がっていたんだろう。
あの日、陽炎が立ち込める、目も眩むような夏の日に、私は、アイツに負けたのだった。
「貴音、この子が深雪様の
今は顔も思い出せない、当時四葉に居た執事の一人。彼が指し示した先に居たのは、私よりも歳下の男の子だった。聞けば、私よりも一つ年齢が下だそうで。当時のアイツ──達也は九歳。私は、アイツの澄ました顔が最初は嫌いだった。
「へぇ、私よりも歳下なんだね。手加減、してあげよっか?」
どうせ私よりも弱い。
そう思っての発言だった訳だけど、アイツは思ったよりも好戦的で、無表情に棒読みで言ってきた。
「手加減してもらわなくても結構です。始めましょう」
「──あんた、私よりも強いっての?」
「いえ。これは訓練ですから。手加減するのは相手への不義理に当たると判断しました」
ぐぅの音も出なかった。
そして、全力で戦って、奥の手だった拳銃型CAD二丁での『
「ありがとうございました。正直に言って、負けるかと思いました」
と言いやがった。なんだ、私への皮肉か何かか?それとも私をけなしてるのか?
そう思って顔を上げると、すでにそこにアイツはいなかった。
それから三年間、事あるごとにアイツとは顔を合わせて手合わせした。何十戦、何百戦と戦って、勝ったのは十回に到達したかどうか。最後の方は訓練とかどうでもよくなって、アイツに勝ち越すためだけに挑んだ気がする。ついでに、絶対に勝てると踏んだ銃とゲームでも負けた。ゲームに関しては私と会った時は大体やるようになってくれた。そしていつも私をボコボコにして去っていく。
そして、三年前のある日、アイツと深雪ちゃん、それに深夜さんと桜井さんが旅行に出かけるという少し前。
私は深夜さんに呼び出されて、四葉本邸の地下へと潜っていった──その先で、私の身に何が起こるのかすら悟らずに。
「待っていましたよ、貴音」
「お待たせいたしました、奥様」
深夜さんとその横に居る真夜さんに会釈し、深夜さんに向き直る。
「用事とは、一体なんでしょうか」
「一つ、真夜と協力して実験しようと思ってね。その前に、真夜から許可は貰っているし、一つだけ。
貴音、この実験が成功に終わろうと失敗に終わろうと、貴女は自由の身です。四葉で守護者として働くも良し、穂波のつてを辿って警視庁で訓練するも良し。私たちに強制されない、行動の自由を与えましょう」
それだけ言うと、彼女は私を呼び寄せて、椅子に座らせた。服は事前に着替えた白い入院服のようなもので、ヘッドフォンのような機械が頭に被せられた。
そして、私の意識は闇に沈んだ。
そして、私の意識は闇に浮かんだ。
さっきの「沈んだ」は眠りについたとかそんな感じで、今の「浮かんだ」は目を開けたら闇の中にぽつんと私だけが浮かんでいる状態だった、という事だ。
「えと……どうゆう事?」
訳がわからずに、私は駄々をこねる。それがきっかけとなったのかどうかはわからないけれど、突然暗闇に四角いテレビ画面のようなものが浮かび上がった。
「うわっ!?」
思わず飛び上がった私は悪くないと思う。そもそも、「飛び上がる」って表現で正しいのかどうかすらわからないけれど。
その画面の向こう側にあったのは、実験室のような暗い部屋──というか、私が深夜さんに呼ばれ向かい、実験に参加した部屋だった。
そして、そこには様々な病院のような、いや、それよりも異様な機械が立ち並び、ただ一つだけあるベッドには、他ならぬ私が横になっていた。その側には、深夜さんと真夜さんが立っている。
「嘘……どういう事……?」
本当に何が何だかわからない。もっとよく見えないかと画面の先を見つめていた私は、二人が何かを喋っていることに気がついた。
「……うしたの?それとも……」
「わからないわ。何せ、世界で初めての試みだもの」
「そうね。私ですらできるかどうかわからなかったもの。
私は驚くしかなかった。電波回線の中?電脳世界?人の精神構造を強化?なんだそれは。私は、私の存在はどうなってるんだろう?
「それで、この魔法は成功したの?失敗したの?」
「多分成功じゃないかしら。壊れてないみたいだし……今頃困惑してるんじゃないかしら?まぁ、この近くで聴いていることでしょう。さぁ、『目』を覚ましなさい?それが、貴女が消えずに済むたった一つの方法」
「あら、姉さんったら。格好でもつけようと思ったの?」
「そうじゃないわ。この魔法──電脳世界に入り込む、貴音だけの魔法の名前よ。『目が覚める』。いい名前だと思わない?」
そこまで聴いて、私は自分の指先がブロックノイズのように消えていくのを見た。バッと深夜さんの方を振り向くと、生命維持以外の機械のデータを初期化したようで、窓の向こうに見えるディスプレイには「DELETE」と表示されていた。
「え、えーと……デレて!?……テヘッ☆」
この時の私は馬鹿だった。紛うことなく馬鹿だったと言えよう。さすがに「哺乳類を一種類答えろ」と言われて「蟹、鮭」と答えるほど馬鹿ではないが。
ともかく、私という存在が消え去る直前、私は『目が覚める』という魔法──否、能力の真髄を発揮したのだった。
暗い世界に光が走り、途端に光で満ち溢れる。そこは、私にとって馴染みのある場所──とあるゾンビFPSオンラインゲームのログイン画面。
「──私の肉体は四葉本邸にあって、今の私の居場所はどこにもない。なら、できる限り退屈しなさそうなところで、ついでに知ってる奴のところがいいよね」
素早くパスワードを打ち込み、ログインする。そしてそのまま、無機質な文字列の中へと飛び出した。
蒼い羅針盤が指す先へと、逸る気持ちを圧縮して、それでも稲妻の鳥を追い越し炎を纏った狐を追い越し、迷いに迷った丸一日の電脳紀行。最後の最後に羅針盤が指し示したディスプレイの先には、無表情ながら、珍しく表情筋が活躍した君の姿があった。
「──初めまして、ご主人。今日から、よろしくお願いしますね?」
──まあ、最初はウィルス扱いでデリートされたけど。そして、おそらく「エネミー」から取ったであろう「エネ」という名前を貰い、私は彼に──司波達也の元に居候し、彼の目を必死に奪おうと画策することになるのだった。
数日後の沖縄旅行の際に少々突飛な出来事があったけど、それはまた後日。
ところで、なんであんたは私の正体に気がつかないのかな?頭いいのに。
電子欲の旅の終わり 蒼い羅針盤が指していた
ディスプレイの向こう側で
冴えない君だけが見ていた