モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第14話

 帝国の規定航路から外れている辺境の宙域。アクセスする回廊もない、海図の空白地帯。そこに浮遊要塞は浮かんでいた。下部に工場施設が付随した球体の外殻に、二つのドックが口を開ける姿から、付いた名前が髑髏星。

 辺境海賊ギルドの本拠地にして、神出鬼没の放浪者。

 その奥深くで三人の海賊退治している。一人は辺境海賊ギルドの代表、ミューラ・グラント。あとの二人の右肩には、黄金の髑髏が光っていた。

 「帝国の使い走りが、こんな所までご苦労な事だね」

 ミューラが見下した態度で二人に接する。

 「私は海賊さ、自分の考えで自由に行動する。帝国政府なんざ関係ないね」

 「ふうん。それにしちゃ、例の新造戦艦のテストなんか請け負って、骨董品の集まりにこっぴどくしてやられたそうじゃないか」

 その挑発にすぐ顔に出るクォーツ・クリスティア。

 「骨董品にやられたのは、お宅のキミーラ・オブ・スキュラも同様だろ。しかも相手が丸腰の太陽帆船だったそうだね」

 珍しく、むっとした表情が長命種に浮かんだ。

 「加藤茉莉香。」

 「オデット。」

 お互い、それぞれに含む所があるようで呟いた。そして苦い笑みを浮かばせる。そんな二人に、がっしりした体格の仮面の男が溜息を漏らす。

 ――やれやれ、アイツも見込まれたものだな。もっともミューラは『山の神』の方だったが――

 とげとげしい空気のなかで二人が話を進める。

 「荷物は無事に届いたようだね」

 「ああ。でも何で協力する気になったんだい。聖王家には恨みがあるんだろ」

 「――さあ。」

 「帝国への意趣返し?」

 「聖王家に遺恨が無いと言っちゃ嘘になるが、海賊なら、あれ位のトラップは想定すべきだったんだよ。

 聖王家のお墨付きだ、天下御免だと有頂天になって、やりたい放題やって、用済みになりゃ切られる事ぐらい当り前さ。気付かなかったこっちが馬鹿だった。高くついたが、勉強代だったと思えば呑み込めるさ。だが、付いた濡れ衣は晴らさせてもらう」

 「ギルドは、七つ星連邦とも、関係がぎくしゃくしているようだね。いよいよ居場所がなくなって来たのかい」

 「ラキオンがうちの頭越しに七つ星連邦と取引し出したからね。居場所は別な所に作ればいい話だが、仁義は切らせてもらわないと」

 凄みのある眼光でクォーツを見据える。

 企業連合体ラキオンが七つ星連邦に売り込みを図っているのが、自分がテストをした機動戦艦の技術なのだ。帝国でもまだ採用されていない。

 後ろめたさもあってクォーツは目線を逸らす。

 「お前さんも、いいように使われたようだね」

 ただの新造艦テストかと思ったことが、ラキオンの宣伝に使われた。それは通常でもある事なのだが、結果は旧式艦に敗北したことで、帝国艦隊への売り込みは見送りになった。だがラキオンは重力制御の技術を売り込んだのだ。帝国と緊張関係にある七つ星連邦に。

 はじめラキオンは辺境海賊ギルドをパイプに使おうとした。だがミューラはそれを断った。ファウンテンブロウの一件以来、七つ星連邦ともラキオンとも、ぎくしゃくしていた関係がより冷え込んだ。

 「それはそうと、マイラさんがメトセラのコネクションでメールを打ったそうね。どうしてマイラさんが絡んでいるのかしら。随分ぶっ飛んだメールよね。いきなり『反逆を起こせ』だもの」

 「お姉様も加藤茉莉香と面識があるの。今回のことを知って、あの娘の所なら大丈夫だと太鼓判を押していたわ。なんだか楽しそうな顔をしてね。何でも『愛の巣号』で営業を手伝ってもらったことがあるみたい。でも、メールの真意は不明」

 悪名高い売春船で営業と聞いて、仮面の男は心穏やかでなかった。

 「大丈夫よ。パーティーを手伝ってもらっただけだから」

 「父親も大変ね。もっとも私はそんな愛情、かけてもらった記憶ないわ」

 動揺を見透かされた突っ込みに、思わず咳き込む。

 ――裏社会シンジケートの顔役までとは、どんだけアブナイ繋がり作ってんだ? それも無自覚で――

 それにしても、『加藤茉莉香に対する不可侵協定』は追いつけそうにない。

 「で、私ら二人は帝国に何らしらの蟠りがあるんだけど」

 「貴方はどんな思惑がお有り?」

 二人からの問いに、仮面の男は暫らく沈黙した。

 

 「宇宙の果て。果てしない先を見据える人間は、一人では足りない。より多き人々が目指すからこそ、宇宙の果てに何時かまみえん。」

 

 遠くを見る眼差しでひとりごちる。

 「何よ、それ」

 素っ頓狂な言葉に意味不明という二人。その二人に目を落として仮面の男は続けた。

 「海賊よ。お前は何を見詰める?」

 

 

 ジェニーは、アテナから聞いた話を茉莉香に伝えるべきか迷った末、思いとどまった。宇宙大学は象牙の塔ではないというアテナの言葉と、アカシアでも盗聴を心配する現実に、超高速回線を使う事は、相手にどうぞ聞いて下さいと言っているのも同じだ。オデットⅡ世が帝国私掠船なことは広く知られてしまっている。

 情報部は、オデットⅡ世を所有するヨット部の顧問で海賊営業のクライアントでもある、いわば実質的なオーナーであるジェニー・ドリトルの動向に注目している。聖流派はリーゼの探索に情報部の動きも追っているだろう。そんなところに迂闊なことをしたら、リーゼの居場所を知らせることになる。

 それに、弁天丸のクルーならば、そんな情報ぐらい自前で探知するだろう。

 

 加藤茉莉香は、ジェニーが得たのと同じ内容を、弁天丸のブリッジで聞いた。

 「表立っては帝国政府内に何か起きてる様子はないんだが、監察局が動いているのが気になる」

 「監察局って?」

 百目は監察局が聖王家直属の秘密機関であることを説明した。

 「諜報や謀略を専門とする、王家の目、王家の耳というやつさ。場合によっては手にもなる。こいつが動くのは、帝国に影響が大きい有力星系の反乱か、政府が手を出せない王族関係の場合ぐらいなもんだ。」

 「銀河帝国に反乱の動きがある様子はない。まあ七つ星連邦があるが、ありゃ帝国領外だ。だとすれば、聖王家に内紛が起きている。お家騒動だな。問題なのは、いまの監察局を牛耳っているのが女王じゃなくて侯帝だということ。船長とこの家出娘を追ってるんじゃないか」

 「ミーサ話しちゃったの!」

 椅子から身を乗り出してミーサを降り向く。

 「話してないわよ。船長から帝国の内情について調べろって言われれば、みんな大概の察しはつくわ」

 「あちゃー」

 クルー達の今更感な様子に、茉莉香は椅子にもたれて首を竦めた。

 「じゃあ隠し立て終了。他に分かったことは。もう調べてるんでしょ?」

 茉莉香はあらためてミーサに聞いた。

 「海賊掃討戦争時に、聖王家は私掠船免状と黄金髑髏の肩章を発行してる。で聖王家は海賊に濡れ衣を着せた。辺境海賊ギルドはその時の残党。これ、バルバルーサのノーラさんからの情報」

 「はいはい」

 「その辺境海賊ギルドは七つ星連邦と微妙な関係にある。七つ星連邦とラキオンの仲介を断ったためだ。で両者が直接取引を始めたが、何の取引かというと、重力制御推進だ」

 「グランドクロスの!?」

 シュニッツアからの報告に茉莉香は跳び起きる。

 「だってあれ、帝国でも極秘の研究なんでしょ」

 「重力制御推進を開発中の企業が三社。そのどれもがラキオンと繋がりを持ってる。ダミーやらで誤魔化してラキオンから七つ星連邦に送ってるけど、ばらばらな注文品を集めてみると、アラ不思議。重力制御推進システムの出来上がり―。帝国政府向けにはガッチガチにセキュリティー掛けてるけど、あちら行きは甘々ね。バレても大丈夫って感じ」

 メインスクリーンに出された情報チャートを示しながら、クーリエが説明する。

 「なんで情報部が動いてないの? 監察局が動いてるから?」

 「監察局は全然動いていない。帝国情報部は、動かないじゃなくて、動けないんじゃないかな。ナッシュにそれとなくカマかけてみたけど、アイツ思いっ切り白々しく惚けていた。グリューエルでなくても判るぐらいにね」

 ナッシュとは、ナット・ナッシュフォールのことだ。彼は帝国艦隊統合参謀司令部付きのエージェントで、クーリエの幼馴染のクローンである。

 「帝国艦隊も政府も手が出せない、雲の上の方々のクーデターってわけか。しかも敵である筈の七つ星連邦が絡んでいやがる。いったい何考えてんだ。外患誘致罪どころか下手をしたら内戦だぞ!」

 ケインが吐き捨てるように言った。

 「お孫さんの事で目が見えなくなってるようね」

 「内戦って、俺達に関係ないところでの権力争いで終わらないのかよ」

 転換炉の調整コンソールから三代目の声が掛かった。

 「聖流派の勢力がいるように、女王派の有力星系もいる。皇室と誼の深いセレニティー連合王国がその代表だ。権力争いが表面化すれば、侯帝派と女王派の争いになる。星系自治を掛けた争いにな。帝国外勢力が表に出て来れば尚更だ」

 シュニッツアの言葉に冗談じゃないと三代目が叫んだ。

 それをグリューエルは解っていたんだ、と茉莉香は思った。

 リーゼが侯帝派の手に落ちれば、皇室は傀儡、皇統は侯帝の流れになる。しかしリーゼをたう星が匿ったとなれば、確実にたう星系は戦乱に巻き込まれる。だからリーゼのことを隠そうとした。だけどグリューエル。匿っているのはたう星じゃなく海賊よ。

 「でも、どうして辺境海賊ギルドは、七つ星連邦の仲介を断ったのかしら」

 ふとした疑問を茉莉香は口にした。

 「だって大儲けできるじゃない。相手がそんな大口ならマージンだって吹っかけ放題だわ。それに辺境海賊ギルドは、帝国に恨みがあるんでしょ。帝国がどうなったって知らないはずよ。なぜ、帝国を助けるようなことをしたのかしら」

 「さあ、長命種の考えてることは判らないわ。私たちの二十倍も生きてる人たちだもの」

 「それとメールよ。まさか私掠船免状を押し立てて、核恒星系に殴り込みを掛けろって言ってるわけ?」

 「案外そうかもね。オデットなら一二〇年前にもやったじゃない」

 ミーサの返事に、そんな無茶なと茉莉香は思った。あれは一二〇年の電子技術差があったから出来た事なのだ。

 「それはそうと、これからどうするの船長」

 「銀河帝国はお家騒動中、それに企業連合体や七つ星連邦が絡んでいる、辺境海賊ギルドは何考えてるか判らない。ミューラやマイラさんの考えは後で聞きに行くとして」

 おいおい、聞きに行くのかよとクルー達。

 「まずは、リーゼちゃんの思い。彼女が何を望んでいるのか聞かなくっちゃね。」

 

 

 

 

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