モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第16話

 リーゼが聖王家の皇女だという事を打ち明ける事にした茉莉香。

 姫三人も了承した。

 チアキは彼女の素性が広まることを危惧した。わざわざ相手に知らせてやるようなものだと。

 「どうせリーゼを探している連中には、遅かれ早かれここは知られちゃうと思う。そうなれば、当然ちょっかいを出して来るだろうし、その時になって打ち明けるよりも断然いい。事前に何が出来る訳でもないけれど、みんなが事情を知ってた方が、訳もわからずアタフタしてしまわなくて済むもの」

 「なにより、これから何が起こるか判らないけれど、何も知らないままに、みんなを巻き込んでしまう訳にはいかないわ。それに、公然と知られていれば、相手の動きをそれだけ牽制できる」

 「そりゃ、そうだけど――」

 秘密は知っている人数の少ない方が保持しやすい。しかし周りが知らないまま相手に知られると、向こうはどんな手も使い放題になる。目が無いぶん拉致誘拐だってずっとやりやすいのだ。それは解るチアキだった。けれどそれには、どうしても周囲全部に秘密を明かすことが必要。

 「学校はどう説得するのよ。政府も知らない皇女の存在を、そのままにしておくと思う?」

 常識で考えれば、学校は星系政府に下駄を預け、星系政府は帝国政府にお伺いを立てて、自分に火の粉が降り掛かってこないうちに皇女には恙無く聖王家に帰って頂く、という所だろう。だが、皇女は侯帝派の手に落ちる。

 「その点は心配ないかな。ブラックばばあ…いや校長は、とっくにリーゼの素性を知ってると思う。彼女が入学してきた時からね。宇宙大学から中華屋のオヤジさんを通して、知ってて彼女を受け入れてる。星系政府に連絡してるかどうかまでは判らないけれど、恐らく素性が公けになっても、星系政府は何も言ってこないと踏んでいるんじゃないかな」

 「その根拠は何よ」

 「う―ん、何となく。オヤジさんの話を聞いててそう思った」

 いつもの何の証拠もない茉莉香の直感だったが、その感が侮れないことをチアキは知っている。

 「で、みんなにはいつ説明するの」

 「あしたの部活でみんなに話すわ。その上で、みんなにこのまま付き合ってくれるかどうか聞こうと思う」

 「聞くまでもないと思うけど。みんなのあのノリじゃあね」

 「それと、今度のお仕事には一寸したオプションを付けようと思うの。これからクライアントのジェニー先輩にお願いするんだけれど」

 「オプションて…また艦隊戦? 茉莉香、まさかクーデター派をご招待してドンパチなんて考えてないでしょうね」

 「あ、それ面白いかも♡」

 「茉莉香!」

 真剣になって怒るチアキ。

 「今回のオプションは、お召艦での海賊。そして、海賊の宣伝」

 「公然と、皇女はここに居るぞって、宣言しちゃうわけね。でも、言うまでもない事だけど、これから始めることは、みんなを巻き込むって事だから、潮時も考えておいて」

 真顔になってチアキは忠告した。

 「わかってる。ありがと」

 

 茉莉香は電話で、リーゼの気持ちとヨット部のみんなに打ち明けたことを、ジェニーに報告した。勿論、女王や皇女という単語を避けて。

 「まあ、話しちゃったの。で、みんなの反応はって、聞くまでもないわね」

 電話口でジェニーが呆れた口振りで言う。

 「チアキちゃんも同じこと言いました。先輩のご想像の通りです」

 「事の違いは大きいけれど、私の時もそうだったものね」

 一寸、間を置いて茉莉香が付け加えた。

 「学校も、変化なしです。星系政府からも何も」

 「そう。はじめての海賊営業が電波ジャックで公開されても、そのあと何も言ってこなかった学校ですものね」

 弁天丸の免状更新がピンチのとき、ヨット部のみんなが助けてくれて、初めての海賊営業のままヒュー&ドリトルの会社艦隊と一戦交えることになったジェニーの脱走劇。

 部活の申請内容とまるで違った事をやっていたにもかかわらず、しかも出航時にクラッキングの疑いもあったのに、詰問も注意も受けなかったヨット部。その後も女子高の部活とはとても言えない事をやって来たが、いままで何のお咎めもない。オデットⅡ世で生徒たちが堂々と白鳳海賊団をやっても、行政府から指導が来ている様子もない。

 「それで、噂が広まるのは時間の問題だと思いますので、今度の営業にオプションを加えたいと思ってるんです」

 「オプション?」

 「そうです。詳しくは、先輩が学校に戻ってからお話ししようと思ってます」

 「そうね、私からも色々話したいこともあるから。明日には戻るわ」

 「待ってます!」

 

 

 侯帝派が躍起になって皇女の行方を追っているなか、主星系連合の第一星系、惑星セナートに女王宛ての親書が届けられた。送り主はセレニティー連合王国の当主、シムシエル大公。

 親書は大使館を通じての電文ではなく、セレニティーから枢密院侍従長が直接持参し、宮中に参内して女王陛下に謁見した。

 セレニティーと帝国とは、これといった外交案件もない中で、突然もたらされた親書。内々でクーデターが進行中の宮中では、心中穏やかでない。先日には辺境海賊ギルドに繋がる要注意人物からメトセラを通じてメールが流されたとの情報も聞く。

 親書を持参したセレニティーの使者もメトセラだ。出来れば親書の内容を前もって知りたいところだが、直接女王に宛てられた正式な外交文書である以上、そんなことは出来ない。事前にスキャンしただけでも大変な外交問題に発展する。またセレニティーの機密保持から、スキャンが行えても恐らく中身を知ることは出来ないだろう。

 謁見の間で、周りの侯帝派の人々が固唾を飲んで見守る中、セレニティーの枢密院侍従長は、女王の前に進み出た。

 枢密院侍従長は女王の目の前で、誰も開ける事が出来ない文書箱のロックを外し、恭しくシムシエル大公の手紙を女王に献上した。

 『この度、女王陛下には、皇女リーゼ・アクシア様の白鳳女学院ご留学をお選びいただき、私の孫娘たちが皇女とご学友の栄を賜りましたことは、大変喜びとするところであります。 これまでと変わらぬ深い誼を、次の代も続きますことを願って止みません。

 女王陛下は、御心安んじ、幾久しくご健勝でありますよう』

 ごく普通の挨拶状だったが、文面を見た女王は、深く安堵の息をついた。

 「皇女様はヨット部に入られ、友人たちに囲まれて日々活発にお過ごしだとのことで御座います。オデットⅡ世という船で練習航海にも出掛けたとか」

 ヨートフは言葉少なく、しかし周囲にも聞こえるように皇女の近況を伝えた。

 「セレニティー連合王国の御厚意ありがとう御座います。大公には良しなにお伝えください」

 そう返した女王の目には、うっすらと光るものがあった。

 その日、帝国宮内省は、リーゼ・アクシア・ディグニティ皇女の白鳳女学院中等部留学を正式に発表した。

 中央の学校よりも地方の学校に通わせることによって、皇女が辺境の星系の文化と人々に触れあう事が目的だとされた。それは、オデットⅡ世が練習航海(という名の海賊営業)に出発する三日前のことだった。

 

 侯帝派は皇女の居場所が突然発表された事に驚いた。監察局まで使って調べていたにもかかわらず、宇宙大学からオリオンの腕の何処かに向かったらしいという所までしか摑んでいなかったからだ。その点、皇女の亡命に加担した者たちは、見事に目的を果たしていた。だがいずれは、居場所は割れると踏んでいた。

 女王にしてみれば何としても秘匿しておきたかった皇女の所在を、なんと自分から明らかにした。その行動の意図を計りかね、訝る侯帝派だったが、折角教えてくれた情報を存分に活用させてもらおうと、早速行動を起こした。

 皇女へのテロである。

 オリオン腕にあるくじら座宮たう星系、海明星に監察局のエージェントを送った。これが星系政府を相手にするなら仕事は容易い。反逆者でもテロリストでも、錦の御旗である監察局の鑑札を振りかざすだけで事は済む。だが立場は自分たちの方がテロリスト、皇女を狙っているのに身分を明かすわけにはいかない。これでは幾らすぐれた工作員であってもはぐれ狼と同じだった。

 海明星では、セレニティーの精鋭部隊が警護に当たっていることは想定していたが、その他にも秘密警察、マフィア、星系軍の特殊部隊、旧植民星連合の海賊たちが、十重二十重と彼女の周りを取り囲んでいた。正確には、加藤茉莉香とその周囲だが。

 結果は、いつぞやのビスク・カンパニーの下っ端同様、ボコボコにされ、ほうほうの体で逃げ帰るのがやっとだった。よそ者である彼らの面子はすぐにばれてしまい、彼女に近付くことさえ出来なかった。加藤茉莉香を巡る不可侵協定は、しっかり機能していたのである。

 監察局にしてみれば、帝国領内で初めてのミッション失敗だった。

 

 

 

 

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