モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第17話

 「駄目です。絶対ダメ!」

 チアキがかぶりを振ってモーレツに反対した。

 「あらどうして? 今回のオデットは海賊船だってだけじゃなく、皇女のお召艦でもあるのよ。護衛ぐらい居なくちゃおかしいじゃない」

 「だからって、弁天丸はいいとして、どうしてバルバルーサなんです? 迦陵頻伽やビラコーチャでもいいでしょう。ビラコーチャなら船長も女性ですし」

 「あら女海賊で揃えるのもいい案ね。でも前に頼まれちゃったのよ。今度海賊する時は是非うちにと、キャプテン・クリハラから。あの強面で迫られると断りづらくって」

 仕方ないといった顔で説明するジェニーだが、しっかり船長名をクリハラ姓で呼んでいる。

 ギリギリと歯ぎしりしながら口撃の対象が茉莉香に飛んだ。

 「茉莉香! アンタがお召艦で行こうなんて言い出すから、こんな事になっちゃったじゃない!」

 「ええええええ、私のせい!? ってそうか」

 チアキの剣幕に仰け反ってから、ペロと舌を出す茉莉香。お召艦の護衛が弁天丸だけでは格好がつかないと、もう一隻をと思い付いたのがバルバルーサ。まあよく知っている同業者だったからだが、ジェニーにその名前を出したのは茉莉香だ。保険会社のショウを通じて、既に契約は成っている。

 「もう諦めなよチアキちゃん。すっかり外堀は埋められてるよ」

 と、チアキの肩に手を置いて慰めるウルスラ。頭の飛び出た毛がぴょこんと跳ねる。

 「そうだよ。娘の成長は、父親なら誰だって見たいもんだよ。チアキちゃん」

 うんうんと腕を組んで訳知り顔で頷いている玉葱頭のハラマキ。

 「女には、思い切りが必要なときもあるもんさ」

 「親孝行はなさった方が良いと思います」

 「このまま聖王家艦隊の顔になっちゃえば」

 外野がそれぞれ勝手なことを言っている。

 今回も、オデットⅡ世の船長はチアキだ。

 「帝国政府が正式に発表してくれたから仕事もやり易いわ。いちいち『皇女様はここに居るぞ』って宣伝しなくて済むし」

 「やり易いんですか?」

 と尋ねるヒルデ。

 「そりゃ自前で言うより信用度が段違いよ。なにしろ帝国政府の証明付きですもの。ウチの旅行会社にツアーを申し込めば、もしかしたら深窓のお姫様と御目文字が叶うかもしれないなんて超レアものよ。宣伝なんて手間かける必要もないわ。リーゼさんて社交界デビューもまだなんでしょ、元老院の貴族だって見たことがない幻の存在なのよ」

 やっぱ、お金?と思わない事もない茉莉香だった。

 「じゃあ今度の海賊が、リーゼさんの社交界デビューという事になりますね」

 自分の社交界デビューの時をヒルデは思い出していた。青い妹の離宮で、姉のエスコートを受けながらサロンの中央に進み出て、周りには色んな思惑を持った人々が私たちを取り囲んでいた。掛けられる鋭い視線に針の筵のようだった事を覚えている。あの時にもう王国派と独立派の争いが始まっていた。

 「格式も華やかさもない海賊でのデビューは、やっぱりお嫌ですか」

 「とんでもありません。むしろ国民の皆さんに楽しんでもらえる、心から喜んでもらえる社交界デビューなんて幸せです!」

 身分を隠している事に、どうしても引け目を感じていたリーゼは、今回その枷がとれて明るい顔で喜んでいた。

 「でも、どうして急に帝国はリーゼの留学を発表したのでしょう」

 サーシャが顎に指を立てて疑問を口にした。

 「セレニティーから親書が届いたそうよ。皇女とセレニティーの姫様たちがお近付きになれたことに感謝するって。それで皇女が居ないことが他所にもバレてるって解って、慌てて公表したみたい」

 そう言いながら、貴女のせいねとグリューエルに目配せするが、グリューエルは余所行きの笑顔で応えるばかり。

 「お客さんには色んな人達がいるんでしょう? リーゼをいじめてる伯父さんの手下が中に混じって来るかも」

 元気印のキャサリンが真顔で指摘し、大人しいファムが怖がる。

 「皇女様との対面があるかも知れないので、うちの会社の船は今後セキュリティーを一層厳重にします。お客の皆様はそれでも当社のツアーに喜んで参加下さるでしょう。でも皆さんも、もしもに備えて防弾シールドの着用をお願いします」

 ブラスターなど高出力のビーム束は無理だが、フェイザーや銃弾などは防いでくれるローションタイプの防護膜だ。肌に直接塗り込むもので、三〇分位なら裸で宇宙遊泳が出来るほどの優れ物だが、多少べたつくため評判は悪い。しかしエネルギー兵器や爆発物は計器で検知できるが、暗殺に用いるような携帯型の小火器は巧妙に隠されると見落とす危険があるため使用を求めたのだった。

 一同頷く。

 「では今度の日曜は海賊です。皆さんヨロシクね♡」

 そんな部員たちにウインクするジェニー・ドリトルだった。

 

 

 「全滅だと!?」

 周囲を睥睨する眼光に睨まれて、報告した監察局の長官は身を縮めた。

 「送り込んだエージェントが、目標に近付くことも出来ずに全滅しただと? いつから監察局はそんなに質が低下したのかね」

 「恐れながら、エージェントは影として動くものでございます。対象から伸びる影に紛れ、調査し工作します。今回の対象は、その、影がございません。当地の行政府に揺さぶりをかけようにも、事が事であるため使えません」

 「聞けば、片田舎の女子校だというではないか。人に紛れて近付くことなど造作もないはず。それとも、セナートの王宮より警備が厚いとでもいうのかね」

 語気を強める主人に、男はやっとの思いで返答した。それが言い訳にもなっていないことを重々承知しながら。

 「その田舎というのが問題なのです。皆顔見知りというか、余所者はすぐ面子が割れてしまい…、旅行者を装っても動きが封じられてしまいます。それに、女子校の周りは有象無象の集団が取り囲んでおりまして、あの、すぐ見破られてしまいました」

 「監察局であることは、ばれていないんだろうな!」

 「はい。」

 それは確信をもって答えることが出来た。

 「地元警察に、女子校に忍び込もうとした変質者という事で捕まりました」

 軽蔑する目で、返答した男をねめつける。

 「有象無象の集団と言ったな」

 「はい。地元警察の公安から星系軍の特殊部隊、マフィアの実働体、海賊、そしてセレニティーの近衛小隊……」

 最後の方はほとんどゴニョゴニョだった。

 「セレニティーは解る。なんでも姫が二人留学しているそうだからな。だが何だ、その雑多な集団は。立場も利害関係もばらばらじゃあないか」

 「なんでも、海賊を巡る秘密協定があるようでして…」

 「海賊。」

 気になるワードだった。いまでは遺物となった存在。たがその遺物は、かつて海賊掃討戦争という名の聖王家の内紛に使われたもの。

 「その女子校には、海賊がいるのかね」

 「二名ほどおります。その女子校には練習帆船がありまして、オデットⅡ世という太陽帆船で、かつては海賊船『白鳥号』を名乗っていたようです」

 帝国発行の私掠船免状が出て来たことは報告を受けて知っている。その船も、オデットⅡ世とかいう骨董品の太陽帆船だという事も。だがオデットⅡ世が白鳥号!?!

 「何故それを早く言わん!!」

 突然の 責に男は狼狽した。なにを怒っているのか咄嗟には解らなかったのだ。主人は監察局の失態に御立腹だった。それがいきなりの太陽帆船(骨董品)。とりあえず調べて来たオデットⅡ世の情報を主人に話した。

 「オデットⅡ世は昨年までバウ・スプリットに単結晶を装着していたようですが、現在は有りません。辺境海賊ギルドとの諍いで対消滅したようです。それが縁で、オデットⅡ世を所有する白鳳女学院に在籍する加藤茉莉香という女子高生海賊は、帝国艦隊の依頼で辺境海賊ギルドの本拠地『髑髏星』に情報部員を案内したそうです。ちなみにセレニティーの第七皇女も同行しました。近々では、辺境空域に発生した時空歪の調査にオデットⅡ世は協力しています」

 バウ・スプリットの単結晶は、海賊掃討戦争に次ぐ帝国の黒歴史だ。それに辺境海賊ギルドに時空歪の調査だと? 時空歪は時間跳躍の調査だ。帝国でも秘中の秘だ。

 黒歴史のオリオンの腕統合では、白鳥号は整合性のない動きがあったと聞く。違う場所に二隻同時に存在していたとか、侵入不可能な核恒星系にアンノウンな船が居たとか。それらが時空歪の調査をしていた船だったとすれば…。

 オデットⅡ世とやらは、帝国の負をぜんぶ知っている!

 そして、今回のリーゼの失踪には、外交問題や治外法権があるため深くは追及できないが、メトセラが関与した形跡がある。メトセラは当時を知る者たちだ。

 老人は頭がくらくらした。

 そんな船に孫の障壁が乗り込んでいる。

 「オデットⅡ世を徹底的に調べろ! 田舎のローカル海賊もだ!」

 侯帝は語気荒く厳命した。

 

 

 「C-68埠頭オデットⅡ世、船長のチアキ・クリハラです。出航の許可をお願いします」

 一寸の間を置いて、スピーカーから男性からの返答が流れて来た。

 『こちら海明星中継ステーション、白鳳女学院オデットⅡ世のトランスポートとフライトプランを確認しました。現在、出航に支障となる船舶や障害はありません。オールクリアです。出航を許可します。――良い旅を』

 「有難うございます。出航します」

 インカムを切り通信を終えると、C-68の閉鎖ドックのハッチが開き、細身の船体がゆっくりと宇宙空間に滑り出て来た。

 補助動力を使い、静止軌道に浮かぶ中継ステーションから離れて行く。

 「海明星管制空域から離脱しました。ラグランジュ点L2ポイントにブースターを確認。ランデブーに入ります」

 「ドッキング後、作業班はユニットの取り付け作業を。終了後、補助動力のまま第三宇宙速度で航行」

 ブリッジに軽い振動があり、オデットⅡ世はラグランジュ点に係留されている外付けの超光速跳躍ユニットとドッキングした。

 チアキの指示に従い、船外作業の部員たちは、てきぱきとユニットをオデットⅡ世に接続し、ブリッジでは流れて来るユニットからの情報をオデットのメインシステムと同調させていく。

 「同調終了、外作業班の収容を確認。第三宇宙速度で惑星間空域に入ります」

 「超光速跳躍の計算終了」

 「該当の空域オールグリーン」

 「ブースターの反応炉、出力上昇順調。跳躍に問題なし」

 操舵、航法、レーダー、機関、それぞれから報告が入る。

 「もう一度空域を確認してから超光速跳躍の用意」

 空域の安全を確かめた後、ブリッジに警告音が鳴り赤い照明に変わる。

 クルー全員がチアキの号令を待っているあいだ、一寸間が空いてチアキが言った。

 「――トランスポンダーを白鳳女学院から白鳳海賊団に変更。超光速跳躍!」

 蒼い光の条が船首に集まり、オデットⅡ世は跳んだ。

 メインスクリーンには、星のない藍色の空と、超高速通信が飛ぶ輝線が走っていた。変な歪みもなく、亜空間は凪いでいる。

 無事に超光速跳躍に移り、ヨット部員たちにも余裕が生まれる。みんな緊張をほぐして三々五々お喋りしている。出航から超光速跳躍までの手順も手慣れたものだ。そこいらの船乗りよりずっと場数を踏んでいるベテラン並みだとチアキは思った。

 が、お喋りしている内容は、やっぱり女子高生だった。持ち込んだお菓子の話だったり、最近オープンしたブティックの話題だったり。

 「ねえ、中継ステーションの管制官、ちょっといい男だったじゃない?」

 「梨理香さんじゃなかったね」

 「梨理香さん、豪華クルーザーでバカンス中だそうよ」

 「うあ、アヴァンチュール? 帰ってきたら茉莉香に新しいお父さんが出来てたりして」

 「なにそれー」

 本人が居ないことをいいことに、好き勝手言ってるクラスメイトたち。自分も居ないと、なに言われてるんだろ。

 「それにしても、私たち、今年に入って海賊ばかりしてない?」

 「そう言やそうか。新歓航海も戦闘演習だったし」

 「でも、その方が面白い!」

 「そうそう、面白い」

 キャッキャと黄色い声。

 確かにみんなの言う通り、統合戦争に巻き込まれてこの方、ヨット部はこの船での戦闘以外していない。女子高のヨット部なら、もっと別の活動がある筈だ。例えばディンギーとか、戦闘とか想定していない練習航海とか。少なくとも海森星校だったらそうだろう。でも、これは絶対『ヨット部』じゃない。

 おーい、茉莉香―。このままじゃ本当に海賊部になっちゃうぞー。

 まあ部長と船長が海賊じゃ、そうなるか。

 そう嘆息するチアキだった。

 

 「嫌、絶対に嫌。」

 またチアキがごね出した。

 「普通の格好でいいじゃない。印なら帽子で十分だわ」

 「海賊行為は軍務に準じていて、制服を着なければならない事ぐらい、知らないチアキちゃんじゃないでしょう?」

 クールビューティーのサーシャが嫌がるチアキを説得する。

 「今更、海賊服が嫌だなんて通じないよん。この前の営業では、ノリノリで着てたじゃん」

 「海賊服が嫌なんじゃなく今回が嫌なんだってば。それに、ノリノリじゃない!」

 リリィが突っ込むのを否定する。いつもリリィの突っ込みは辛みが効いている。

 「もうすぐ通常空間に復帰ですよ。四の五の言わずにちゃっちゃと着替える」

 「だがら嫌だって、おい私の話を聞け―」

 ハラマキの号令一下、ヨット部員たちに寄って集って着替えさせられるチアキ・クリハラ。

 三分後には、海賊姿のチアキがムスッとした顔て船長席に沈んでいた。

 「あと三〇秒でタッチダウンです。警報慣らします」

 「あ、そ」

 「当該予定地、障害物無し。オールグリーン」

 「あ、そ」

 渦上のプレドライブ現象の中から、スリムな船体が出て来る。

 通常空間に飛び出すと同時に全天走査が行われる。

 「レーダー異常なし。一〇時と二時の方向にブレドライブ現象を確認。本船から二キロの距離です。近い。流石ですね」

 レーダー担当のヒルデが感心した。宇宙空間で視認できる距離というのは、衝突しているのと同じなのだ。

 「トランスポンダー取れてます。一〇時は弁天丸、二時はバルバルーサ」

 報告にチアキは、ますますムスッとして椅子に沈み込む。

 「通信入ります。」

 グリューエルが繋ぐかを確認するが、チアキは黙ったままだ。

 「あのう、一応手順ですので。繋ぎますか」

 「わかってるわよ。回線開いて」

 チアキからの許可に双方向回線が開かれる。

 「こちらキャプテン・茉莉香。チアキちゃん。オンラインに間があったけど、何かあった」

 スクリーンで船長服姿の茉莉香が訊いた。

 分割されたスクリーンにもう一方が映し出されると。

 「うおおおおおおおお………」

 形容し難い嗚咽がブリッジに響いた。

 「ち~~あ~~き~~よおおおおお……、目の黒いうちに、二度目だあああ~~~」

 ああこのせいね、と茉莉香は心の中で合掌した。

 「キャプテン・チアキです。この度は、御二人方にご協力感謝します」

 仏頂面で挨拶すると、一段と嗚咽が大きくなった。

 「キャプテン~チアキ~。生きている間にその名乗りが聞けるとは。この前はキャプテン・茉莉香の代役だったもんなあ。亡くなった婆ちゃんに、いい冥土の土産ができたああ」

 もう髭面が、涙と鼻水でぐじゅぐじゅだった。まあ年頃の娘なら、こんな親父の姿をクラスメイトには見せたくないだろう。

 「親父!いい加減にしろ!!」

 チアキが切れた。

 

 

 

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