モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第19話

 下手人は帝国艦隊の巡洋艦に引き渡され、沢山の戦利品(プレゼント)と共に、白鳳海賊団はフライミー・トゥー・ザ・ムーン号を離れて海賊営業が終わった。

 オデットで彼女たちを迎えたのは茉莉香だった。

 部員が撃たれ、部長として安否を確かめずにはいられなかったのだ。

 「茉莉香さん。弁天丸の方はいいのですか?」

 何事もなかったかのように、グリューエルが茉莉香に言う。

 「グリューエル! 立場を考えてよ。何もなかったから良いけれど、いくら相手が皇女だからって、あなたが盾になることは無いわ!」

 半分涙目で怒る茉莉香に、グリューエルは静かな声で言った。

 「では、誰が盾になればよかったのです?」

 そう返されて言葉に詰まった。

 リーゼも涙目だった。フライミー・トゥー・ザ・ムーン号では気丈に振る舞っていたが、自分のせいで友人が撃たれたことにショックを受けていた。

 盾になっていい人なんて居ない。

 相手はプロだ。どんなにセキュリティーを厳重にしても、その網の目を潜って狙ってくる。今回狙ってきた者も、義手の中に短針銃の部品を仕込んで、フライミー・トゥー・ザ・ムーン号の船内で組み立てて持ち込んでいた。そうすれば、乗船時の透視スキャンでも分からない。自分の手足を切り落とす事も厭わない、そんな連中が相手なのだ。茉莉香は、自分の見通しが甘かったことを痛感した。

 「でも、リーゼの留学発表からお仕事まで間があったわよね。どうして海明星では何もなかったのかしら」

 「襲ってましたよ。キャサリン小隊長の話では、10人ばかりが潜入して来たそうです。みんな地上に降りたと同時に、マフィアやら特殊部隊やらに捕まってしまいましたが」

 「それを知ってて、なんで出航前に教えてくれなかったのよ」

 「だって知らせたら、茉莉香さんのことです。きっとお仕事をキャンセルしてしまいますから。それに、フライミー・トゥー・ザ・ムーン号のセキュリティーなら大した武器は持ち込めません。何事もならず仕事にならないという事です」

 「なにごと、もあったわよ!」

 ニッコリ営業用の笑顔で微笑むグリューエルに、茉莉香はなじった。でももっととんでもないことを続けた。

 「重要なのは、今回のことで、皇女を狙う何者かがいる事が帝国じゅうに知られたことです。――図らずも、私が撃たれてしまいましたが、少なくともセレニティーは、何が起きているのかと問い合わせて来るでしょう。正規のルートで」

 これは正式な外交問題となる。一人で戦争を起こし終結させる者というのは、本当はこの子のことなんじゃないかと思えて来る。

 「先程の続きですけど、弁天丸はどうしたのですか」

 「弁天丸は、コーバック級の追跡をクルー達にお願いして来た。ずっと場数を積んでいる乗組員だから、私が居るより安心。小型船の方はバルバルーサが追ってる」

 そう答える茉莉香だった。

 

 チアキ・クリハラは、船長服のままひとりキャビンで沈んでいた。

 ずっとすれ違いざまに聞いた、鉄の髭の言葉を反芻していた。

 そんなチアキに茉莉香は謝った。

 「御免、見通しが甘かった。部長として失格。みんなに怖い思いをさせてしまった」

 チアキは茉莉香の方を振り向かずに言った。

 「鉄の髭がね、私に言ったのよ。身体に怪我は無くても、人に撃たれるという事は、結構心に傷を負うものだと。私や茉莉香は海賊だから、普段あまり気にしてなかったけど、彼女たちは違う。本来そういうドンパチとは無縁な世界の娘(子)なのよ、それをどこかで失念していた。クルーを預かる船長失格ね。」

 「もともとみんなを海賊に巻き込んでしまったのは、私だから。私が海賊免許の更新でみんなに頼んだ。梨々香さんをキャプテンに、ファンテンブローに行った時も、タイムトラベルで独立戦争に行った時も、私も考えていなかった」

 チアキの隣に座って茉莉香は振り返っていた。

 「乗りと勢いのみんなだと思ってたけど、一番の乗りと勢いは、私だったなー。」

 「それが解ってりゃ、上等。」

 そう言って、ほうっと息を吐くチアキ。

 「きちんと、みんなにお話ししなくちゃね。」

 「そうね、そしてこれ以上関わらない方がいいとお願いしてみる。それから私とチアキちゃんで、ルビコンを渡っちゃいましょ」

 そう言う茉莉香にチアキは笑みを浮かべて言った。

 「私と茉莉香でか、いいわ。でもちゃんじゃない」

 

 

 ケンジョー・クリハラは、スクリーンに映る小型船を追いながら怒り心頭に達していた。

 「チアキの顔に泥を塗りやがって、絶対に許さん。あの鉄の髭とかいう野郎もだ。多分に芝居掛かりやがって、何が、事が及ぶ前に片付けることが出来れば良かっただぁ。とんだ大根役者だよ」

 娘の晴れ舞台を台無しにされたことが、黒髭船長の逆鱗に触れたのだ。

 「あん時、咄嗟に暗殺者の手を捩じったって事は、とっくに目星がついていたって事だろ。事が及んでから手を出したって事だ!」

 鉄の髭、いったい何を企んでやがる。

 「おい、距離を取りつつ絶対に逃がすなよ!」

 荒ぶる銅鑼声に、ピリピリした空気がバルバルーサのブリッジに満ちていた。とんだ八つ当たりだ。

 捕まえることも撃沈することも、こちらの火器からすれば容易い。でもそれでは小型船がどこから来たものか判らない。下手な手出しは相手の自爆を誘ってしまう。

 小型船はコースもばらばらに超光速跳躍を繰り返している。こちらに気付いているのか、用心して韜晦しているのか。向こうから走査を掛けて来る様子もなく、ステルスも使わずに航行している。あくまで民間船を装っている。

 何回目かの跳躍ののち、そこが前に通った亜空間の回廊であることに気付いた。

 「あの野郎、こっちが追っていることに気付いてやがる。何か仕掛けてくるぞ。非常警報! 艦内戦闘準備!!」

 ブリッジに赤いランプが灯り、警報と共に隔壁が降りて耐衝撃モードに移る。

 スクリーンには相手の距離、火器の射程、予想進路が投影される。本来は航法担当のチアキがするのだが、いまはここにはいない。

 「距離こちらの射程からはまだ遠すぎます。近付きますか?」

 副長のノーラがチアキに代わってトレースした。

 「距離このまま。誘っているのかもしれん。機雷や留置魚雷に注意しろ」

 ケンジョーが言ったそのすぐに、亜空間に異常が起きた。

 航法とレーダーのコンソールが、一斉に緊急のアラートを表示する。

 「亜空間航路前方に強振動発生!」

 「航路が滅茶苦茶です。隣接する亜空間航路まで影響が出ているっ」

 「光速の三倍のスピードで膨張中。巻き込まれる!」

 次々と緊迫した報告が入る。前にも同じことが起こった。ユグドラシルによる亜空間航路の破壊工作で、請け負った貨物をパージする羽目になった時だ。

 「急速反転、出力全開で亜空から脱出しろ!!!」

 ケンジョーは船長席から身を乗り出して叫んだ。あの時と同じものなら、空間もろとも船体が圧潰される。

 バルバルーサは一八〇度回頭して、メイン及び補助ブースターをぶっ放し、亜空から消えた。

 

 「そんなことがあったの。で、船は大丈夫だった?」

 弁天丸では、メインスクリーンに映った黒髭船長と、船長代理のミーサが会話をしていた。

 「ああ、前にあったからな。クルー達がすぐに対応してくれたよ」

 「流石バルバルーサね。その優秀なクルーにこう言っちゃ何だけど、オデットⅡ世にクラッキング掛けたでしょう。オデットの電子戦プログラムをチューニングしたの、ウチのクルーだったの。お陰で電子戦担当(クーリエ)、へこんじゃって」

 「そりゃ済まなかったな。まあ蛇の道は蛇、ウィザードは弁天丸だけじゃないって事だ」

 そう言って髭面が派手にウインクする。

 「仲間だからと油断したのが間違いでした。あれだけはっきりと通信乗っ取られるなんて、プログラム走らせてあったら、システムまで持って行かれます」

 ジャンクフードだらけの電子戦席で、黒髭に振り向きもせずバンザイするクーリエ。大分ヤケ食いした様子だった。

 「それで、相手の素性は判った?」

 「それが、亜空の擾乱でまんまと逃げられた。だが気になるのが、やり口がユグドラシルと同じってとこだ。ユグドラシルは先の騒ぎで解体された筈だろ、残党が絡んでいたとしても、大規模な空間テロを起こすだけの力はない」

 「ユグドラシルか…ちょっと、待ってくれ」

 そう言って百目がキーボードに指を走らせる。

 出てきたデータに目を通しながら、百目は続けた。

 「コングロマリットとしてのグループは分割解体されてる。いまは只の独立した中小企業の集まりだ。それも当局の監視付きと来てる。」

 「その中で、幾つかが他のグループに吸収されてる。例えば、ラジル運輸はヒュー&ドリトル星間運輸、機械メーカーやオーマ電脳なんかは企業連合体ラキオン……他のグループに溶けちまえば、当局の監視も対象外」

 「ラキオンて、辺境星系で手広く商売している複合企業体か」

 「ああ、七つ星共和連邦とも繋がりを持ってる。オデットⅡ世とは単結晶衝角で因縁付きだ。」

 「ラキオンの来歴を調べたんだが、これが一二〇年前のコンサル会社サーティナインに行き着く。当時の代表者の名前はゲドー・アインザッツ。ともうひとり名無しの人物。」

 「名無し?」

 「帝国から消去された人物で、居なかった事にされている人間さ。だが一二〇年前に関わった者なら知っている。パク・リー帝国貴族元老院議員だよ」

 「ステラスレイヤーの黒幕だった人間か」

 ケンジョー・クリハラは腕を組んで唸った。今回の帝国の騒動は、二〇〇年前の海賊掃討戦争に繋がっている。それだけでなく一二〇年前にも因縁を持っている。侯帝と女王の跡目争いは、きっかけに過ぎないのかもしれない。帝国の擾乱に乗じて蠢めいて来た奴らが居る。

 目的は、何だ。

 「弁天丸、そっちはどうだったかい?」

 ケンジョーはコーバック級の行方を訊いた。

 「逃げ隠れもせず、一直線にポルト・セルーナに入港。」

 両手を上げてミーサは答えた。

 「トランスポンダー無しでか」

 「そ。無条件で空間シールドの桟橋に乗り付けて行ったわ。そこからは音沙汰無しでドック入り」

 「帝国艦隊もあえて素性は聞かない、いや聞けない相手という事か」

 「そーゆーこと。でもそのコーバック級、そこから艦隊司令部のラインを使ってお話ししてたわ。相手はセナートの監察局よ」

 「おい! 軍要塞の高位機密ネットをジャックしたのか!?」

 「ええ、前にも入ったことあるもの」

 「以前って、それは一二〇年前のことだろう? 相変わらず凄まじいウィザード振りだな」

 軍要塞の、それも帝国の心臓であるセナートへのネットとなれば、防壁はただ事で無い。不正アクセスしただけで重罪だ。それを事も無げに言うミーサにケンジョーは舌を巻いた。

 「もっとも、通信の内容までは解らなかったけど」

 「とても怖くて、アクセスする気にならねえよ…」

 

 

 惑星セナートにある侯帝の宮殿。もともとは皇帝の離宮であったものを、皇帝の弟君だという事で、期限付きで下賜され、皇帝が崩御した後もそのまま住み続けている。本来ならば女王に返還し、第一皇位継承者が住むべき場所だ。

 その謁見の間で、侯帝は獅子の如く吼えていた。

 怒れる竜顔に拝し、奏上する男の顔は、緊張で汗だくになっている。侯帝の御前というだけでなく、報告する内容が問題だったからだ。

 「衆目のある前で小娘を狙うとは何事だ!」

 侯帝は激怒していた。

 「王家の諍いを市井に知らせるつもりか。今回のことは、帝国じゅうに放送されたんだぞ!」

 「いえ、私たちではありません…」

 かすれる声で弁明する長官。

 「リーゼ様を公然と害して、こちらに得るものは何もありません。それが知れれば帝国は分裂、侯帝陛下の勢力が痛手を被る事ぐらい解っております。決して私どもでは御座居ません」

 「では、誰だというのだ」

 持って回った長官の言いように、侯帝は顔を赤くして怒鳴りつけた。

 ますます縮こまる男。

 「只今調べておりますが、辺境の星系勢力が絡んでいるかと…」

 「辺境? 例のギルドか」

 「いえ、辺境海賊ギルドに、帝国と面と張り合える戦力も度胸も有りません。恐らくは、帝国と反目している七つ星共和連邦――」

 上目遣いに、長官は七つ星共和連邦の名前を出した。

 「今回は、セレニティーの第七皇女が襲われました。連合王国は正式に詰問してくるでしょう。ここは、シムシエル大公には外部の勢力であることをお伝えし、帝国に動揺が走らぬよう、公式発表ではご協力をお願いすることが肝要かと。」

 「あのご老体が協力すると思うか。あの方は女王派だぞ!」

 今回の騒動に乗じて、侯帝派の切り崩しを図ってくるかもしれない。

 「いくら侯帝様を快く思っていない御仁でも、帝国の分裂は望んでいない筈。必ずや協力すると思います」

 苦々しく長官の意見を聞く侯帝。

 「齢一三〇を超えて、なお矍鑠とした老人めが!」

 そう吐き捨てるように言った。

 

 

 帝国のヘッドラインニュースでは、今回のリーゼ皇女へのテロ騒ぎは、ツアーを盛り上げようと仕組んだ旅行会社のイベントだったと説明された。襲われた白鳳海賊団の少女たちには全く知らされていなかったらしい。だから迫真の映像だったと――。

 だが旅行を企画したフェアリー・ジェーン社からは、何のコメントも出されていない。帝国政府もセレニティー連合王国も声明は無かった。ただ、ニュースでコメンテーターがそう解説しただけだった。いわば『噂話』の信憑性しか与えていなかった。

 銀河帝国外の勢力が絡んでいるとなると、どう流動するか判らない。だから正式な声明を出すわけにはいかなかったのである。

 因みに濡れ衣を着せられたフェアリー・ジェーンはというと。

 「ほんと営業妨害だわ!」

 ジェニー・ドリトルはかんかんだった。皇女へのテロ騒ぎで自粛を求められ、フェアリー・ジェーンの海賊営業は凍結。一般の観光業は続けられたが、売り上げはがた落ちだった。

 「今回の黒幕、ぜったい炙り出して、落し前付けてやる!」

 ジェニー先輩、だんだん自分より海賊になってきていると感じる茉莉香だった。

 

 オデットⅡ世が海明星中継ステーションに帰った翌日、辺境海賊ギルドからオデットⅡ世宛てに、『ルビコンを越えろ』の檄文が届いた。

 それと、短い追伸が一つ。

『過去の経緯を水に流し、白鳳海賊団に加わりたい。』

 白鳳海賊団への参加申請だった。

 

 

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