「新入生の皆さん、まずは入学おめでとう。白鳳女学院は皆さんを歓迎します。」
「わが白鳳女学院は、今年で創立一二〇年を迎えます。その節目の年に皆さんはこの学園にやってこられました。一二〇年前と言えば、植民星独立戦争のさなか、突如現れた銀河帝国によって植民星連合と宗主星が併合され、ともに銀河帝国の一員に加わりました。こんにちでは平和裏に終結したこの戦争を統合戦争と呼んでいます。その舞台となったのが、皆さんが居るここ白鳳女学院です。」
「白鳳女学院は、もと植民星連合の統合参謀本部でした。その当時の建物がいまも校舎として使われています。戦争をするための施設がなぜ学校となったのか。それには一人の女性の強い想いがあったと聞いています。その女性は、戦争の時代の中で育ちました。当時の子供たちはみんな幼少のころから戦争に向き合って生きる事を強いられていそうです。学徒招集、軍事教練、そこには部活動も普通の授業もありません。家庭に帰っても戦争の影がいつもあった。その女性は、自分が楽しむことの出来なかった学校生活を、次の世代の人々には普通に味わえるよう願いました。それが白鳳女学院の創立となりました。
勉学にいそしみ、部活動に打ち込み、学友と語らう。これから皆さんが経験する学生生活には、そんな先人の強い思いが込められている事を心に止め置いてください。そして一日一日を存分に楽しんでください。白鳳女学院での三年間は、皆さんにとってかけがえのないものとなるでしょう。」
「最後に、今――楽しいと思えることは、今が一番楽しめるのです。だから、いずれは変わっていく今を、この素敵な時間を、大切にしてください。」
新入生たちを前に、校長が祝辞を述べる。
校長は四月をもって定年退職、それに伴い教頭先生が新しい校長となった。白鳳女学院の生徒たちが親しみ(?)を込めて呼ぶ、あのブラックばばあだ。
前に並んだ新入生たちは、みな真新しい制服を身に着け、緊張した面持ちで式典に臨んでいる。いちばん後ろに並んでいる茉莉香は、ああ三年前は自分たちもあんなだったんだなと思い返す。中等部から持ち上がりで高等部になり、水色の蝶タイとピンクを基調にした中等部の制服から緋のネクタイと青い襟元が印象的な白いブレザーに変わった時は、急に自分が大人びたように感じて気持ちが引き締まったものだった。中身はどうだったかというと、あんまり変わっていなかったように感じる。
それよりも、高等部に進学してからの変化の方が凄かった。
会ったことのない自分の父親が死んだと聞かされて、突然海賊船の船長をする羽目になり、セレニティー連合王国や大企業のお家騒動やら、辺境海賊ギルドや七つ星連邦との丁丁発止やら、ランプ館でアルバイトしていた日常とは全く違った非日常の連続。
海賊連合での艦隊戦に、時間旅行まで経験して、銀河帝国を巻き込んだ星間戦争まで体験してしまった。高校生活ってこんなにハードなものだろうかと思わなくもないが、それも自分が選んだベスト。だってそのおかげで、グリューエルやヨット部のみんなや弁天丸のクルー達と出会えた。そして過去にこの星を救おうと努力してくれた海賊たちを知った。なによりそれが宝物だ。
続いて生徒会長が歓迎のあいさつに立つ。サーシャ・ステイプルだ。ヨット部の中では一番しっかりしていて女らしい。いわゆる才色兼備というやつ。茉莉香も推されたが、部長でしかも海賊業との兼任ではさすがに無理で、丁重にお断りした。そういえば先々代部長だったジェニー・ドリトルも生徒会長を兼任していたし、去年は小林丸翔子が生徒会長だった(リン・ランブレッタの方が呼び声高かったが、保護観察中という事が災いしたらしい。本人は雑用をしなくて済むと喜んでいたが)。生徒会長はヨット部から出すという決まりでもあるのだろうか。
「うん、やっぱサーシャは花があるねぇ」
などと茉莉香は頷いている。
式は粛々と進んでいく。
居並んだ生徒たちの中に、幼馴染の遠藤マミやヨット部のみんながいる。横に並んだ教師たちの中にはジェニー先輩の姿もある。
「今年は、どんな子が入って来るんだろう」
前にいる新入生たちの後ろ姿を見つつ茉莉香は思いを馳せた。高校生活最後の年、いったいどんな年になるのだろう。
次に、新入生挨拶が回って来た。
壇上に上がったのは、グリューエルとは対照的な、流れるような銀髪の少女だった。華やかというより古風な印象を与える整った顔立ち。
「わお♡ 美人」
物静かな、しかしよく通る声が講堂に流れた。
「このたび、歴史ある白鳳女学院への入学に当たり、新入生の私たちに温かいお言葉で迎えて頂いたことをお礼申し上げます。
先輩方が残し築いて下さった想いと伝統に、恥じることのないよう勉学と学生生活にいそしむ覚悟です。どうか宜しくご指導のほどをお願い申し上げます。
新入生代表、センテリュオ・ルクス・スプレンデンス」
一礼して壇上から降りる。
ごく普通の答辞、なのにしばらく講堂は時間が静止したように固まっていた。茉莉香を含めた全員が少女に見とれてしまったからだ。
その中で、一人だけ別の意味で固まっていた。
「あのお方は、確か」
少女が席に戻ってから暫らくして、我に返った教師が式次第を進めた。全員も気を取り戻して式に臨んでいる。ほわーとした余韻を残しながら。
「どうして、このような所に…」
グリューエル・セレニティーは、その整った顔に深刻な表情を浮かべながら式に臨んでいた。