モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第22話

 加藤茉莉香は、弁天丸の連絡艇で中継ステーションに乗り付け、そこからからシャトル便で新奥浜宇宙港へ降り立った。第一種航宙免許を持っている茉莉香は、自分でシャトルを運転できるので直接弁天丸から降りられるのだが、それはあくまで自家用シャトルを持っていればの話。一介の女子高生にそんなものは持ち合わせていない。新奥浜宇宙港からだって、茉莉香の自家用車は一年の時から愛用しているマウンテンバイクだ。

 街から離れた丘の中腹に建つ茉莉香の家まで、結構距離がある。しかも上り坂。マウンテンバイクのギアを落として一気に坂を駆け上る。

 家に辿り着いた頃には、日も落ち夕闇が迫っていた。

 薄暗くなった中で、玄関のセキュリティー・ロックの暗証番号を打ち込み、ドアを開ける。

 家の中は明かりが灯っていた。そして漂ってくるいい匂い。茉莉香は鼻をひくひくさせた。

 「ポトフだ。」

 キッチンに向かうと、エプロン姿の母親が鍋を火に掛けている。

 「梨理香さん。いつ戻ったの?」

 「お帰り。今日の昼さ。もうすぐ出来るから、制服着替えてテーブル用意しな」

 「はあい」

 久し振りの母娘の団欒だった。

 「豪華クルージングはどうだったの」

 茉莉香は梨理香が行っていたという旅行の事を聞いた。

 「楽しかったよ。銀河の中心から端の辺境までね。まあ疲れることもあったがね」

 梨々香はグラスに注いだテーブルワインを、ぐっと飲み干して言った。

 「茉莉香の方も、銀河の端まで行って来たそうじゃないか。なんでもこちらの海賊と、海賊ギルドとの連合話が持ち上がっているとか」

 「どこで聞いたの? まだ決まってないんだけれど」

 「宇宙(そら)に居るとね、いろいろ聞こえてくるものなのさ」

 「豪華クルージングなのに?」

 茉莉香のかま掛けにも動じず梨理香は応じる。

 「旅先がゴージャスなら、豪華クルージングさ」

 ホント、どこ行ってたんだろと思う茉莉香。

 「で、どうするんだい。ギルドの申し込み受けるのかい」

 「弁天丸のみんなにも言ったんだけど、受けようと思う。まあヨット部のみんなにも、海賊会議にも図らなくちゃいけないけど、リーゼがその気でいる」

 ほこほこと湯気を立てているポトフに、視線を落としながら茉莉香は言った。

 「この前の営業の時、グリューエルが撃たれたの。」

 その様子は、銀河に生中継中だった。

 「ああ、見てた。」

 「犯人は鉄の髭さんに捕まったんだけど、その時ね、チアキちゃんが言われたのよ。身体に怪我は無くても、人に撃たれるという事は、結構心に傷を負うものだって」

 茉莉香の言葉に梨理香は飲みかけワインを噴いた。

 ――なに格好つけてんだ。人のこと言えた義理か――と、心の中で思った。

 「前に梨理香さん、私が初めてブラスターを撃った時、それがいまお前が手にしているものが力だって言ったよね。海賊を指揮すれば、もっと巨大な力をふるう事になる。海賊は、いつ射つか、射たないのか、全部自分で決めて自分でやらなきゃならないって」

 「ああ」

 「それは、船長は結果だけじゃなく、クルーにも責任を負うっていう事」

 「そうだ」

 「私、解ってたつもりだったんだけど、全然わかっていなかった。弁天丸のクルーは私なんかよりずっと前から海賊してて、そんな覚悟言うまでも無いって感じだったし私もそれに乗っかってた。でもオデットのクルーは違う。みんな私が巻き込んだ普通の女子高生」

 梨理香は娘の独白を黙って聞いていた。

 「でね、撃たれたグリューエルが言ったの。誰が盾になればよかったのですかって。誰も盾になっていい人なんていない。それにヨット部のみんなも言った。銃を直接向けられたことはないけど、砲口を向けられたことはあるんだよって。相手がちょっかい出して来たんなら、きっちり対抗すべき。植民星の海賊も含めて、今後舐められないようにこちらの態度を示すべきって言ってくれた」

 「あのひよっこ共がねえ。言うねえ。思いっきり詰め込んだ即席教練でも、音を上げずに楽しんじまうだけのことはあるねえ」

 かつてオデットⅡ世の指揮を執った母親は言った。

 「茉莉香。弁天丸のクルーは、そりゃ経験も豊富で年数も経ている。でも覚悟ってもんは経験や年数で価値が変わるものじゃないんだよ。その人が自分で決めたベストって事だ。

 オデットのクルーは、もう立派に海賊の覚悟を持ち合わせているよ」

 「それはチアキちゃんも言ってた。」

 そして笑い合う二人。

 「だが、相手は大人だ。どうオデットを利用しようとしてくるか分からない。そこん所は用心しな。こっちの海賊は、まあオデットが自分らの保証人みたいなもんだからいいが、ギルドや帝国は別の考えを持っている。」

 「うん」

 「あたしが宇宙海賊になったのは、それが宇宙を知る一番手っ取り早い方法だと思ったからだ。」

 「茉莉香、お前はどうしたい? それを考えるとき、自分がなぜ海賊になったのかを考えてみるのもいいかもしれないね」

 そう言ってグラスをあおる。

 「まあ海賊狩りで、海千山千の海賊たちを連合艦隊で纏めちまったお前だ。期待してるよ」

 「連合艦隊って、それって辺境星系連合…」

 「ばらばらなのはどっちも同じ。この際、海賊ギルドだけじゃなく、帝国艦隊も引き入れたらどうだい」

 ははははと、破顔する加藤梨理香だった。

 

 

 ジェニー・ドリトルは、核恒星系の第四星系第五惑星メルクリウスにいた。

 宇宙大学のいち学生ではなく、急成長著しいフェアリー・ジェーン社の社長であり帝国を代表する大財閥ヒュー&ドリトル社の有力な次期社長候補、若き新進気鋭の経済人としてである。

 その経営手腕は大胆かつ繊細。現当主の伯父や、その弟で覇を競っている父親よりも上だと専らの噂だ。一部ではヒュー&ドリトルを越えている部門もあり、ヒュー&ドリトル(財閥)とフェアリー・ジェーン(新興)を両天秤にかけて取引している企業も多い。

 海賊観光ツアーでは、やりすぎとの批判を受けて自粛しているフェアリー・ジェーンだが、会社経営は揺るぎもしていない。むしろ観光クルーズは売り上げを続伸中である。

 それは、あの実況中継が本当にヤラセだったのかという疑惑があるからだった。これまでクレームや悪どい商法の噂を聞かなかった会社が、皇女相手にそこまでするかという疑問。そんな中で辺境星系連合という敵対勢力が現れたことは、その勢力が実際に皇女暗殺に乗り出して来ていて、それをフェアリー・ジェーンは未然に防いでみせたという印象を持たせた。むしろヤラセを喧伝している報道は、当局が帝国に敵対する者がいることを認めたくない事の裏返しではないか。そんな穿った見方もある。

 フェアリー・ジェーンの海賊ツアー再開を望む声は大きかったが、ジェニーは再開する積もりは無かった。濡れ衣の方を付けるまでは。

 重厚なネオ・バロック様式の建物が並び立つ本通り。帝国銀行や帝立中央証券取引所をはじめとして、銀河帝国を代表する大企業の本社が集中する地区である。

 その中で、円柱のファザードが特徴的なヒュー&ドリトル財団のビル。もとは、ヒュー星間運輸会社の本社だった建物だ。ヒュー星間運輸会社は一一九年前にドリトル商社と合併して(というより乗っ取られて)ヒュー&ドリトル星間運輸となった。来年は創立一二〇周年を迎える。ヒュー&ドリトル星間運輸の本部はドリトル商社があったオリオン腕にあり、かつてのヒュー社社屋は文化事業の法人ビルとなっている。もっとも核恒星系での本店業務も担っているが。

 ジェニー・ドリトルは、ファザード前の石段を上がって太い円柱の間を通り、正面玄関の回転扉をくぐる。回転扉は、最初少し重い抵抗を見せ、すぐ慣性でジェニーを取り込み中に引き入れる。その後に、スポーツバックを肩に掛けたショートカットの茶髪の女性が続く。ジェニーの恋人、リン・ランブレッタだ。

 リンは空色のジャケットとパーカー・キュロットにハイソックスという、相変わらずボーイッシュないで立ち。一方ジェニーはエレガントなホワイト・ノースリープ・ビジネスドレスを着こなしている。

 エントランスホールに入って来たジェニーの姿を見て、受付嬢が恭しく応対する。

 「これはお嬢様、よくいらっしゃいました。今日は社長にご用件で?」

 「社長にアポは取っていないわ。今日は、ここの『商談室』を使わせてほしいの。うちの会社まだ日が浅いから、メルクリウスにあるオフィスも代理店程度しか無くて。――核恒星系と辺境星域をカバーできる相互会議室程度の規模がいいわ」

 「カンファレンス・ルームですか。少々お待ちください。」

 ちらと隣のリンのバックに目を遣りながら、受付嬢は二人から離れる。

 「受付嬢でも一目でジェニーが解るのか? 流石は次期当主候補だな」

 「そんなんじゃないわ。さっきの回転ドア、スキャン・ルームになってんの。危険物持ち込みの確認から生体認証までしてるわ。リンのバックの中身もね」

 核恒星系で危険物の持ち込みは、惑星ごと不可能だ。だが危険物は武器や生命体だけとは限らない。ビジネス街にとって危険物とは情報のやり取りである。

 「こんなところに、コイツを持ち込んで大丈夫なのか」

 リンは肩にかけたバックをひょいと揺すった。

 「だから商談室なの。どうせ覗き窓だらけの部屋でしょうけど。それに三〇メートル以上離れられないんでしょ」

 「そりゃま、そうだけどさ」

 立ち話をする二人に、さっきの受付嬢が戻って来て伝えた。

 「お部屋は空いております、どうぞご自由にお使いください。」

 2003のルームキーをジェニーに手渡す。

 「借用書は?」

 「一族の方にそんなものは必要ありません。社長が良しなにと申しておりました」

 ここの社長は伯父の息子だ。伯父は息子に会社を継がせたいと思っている。だからここ(核恒星系)の店長に置き、帝国中枢との顔繫ぎをさせている。

 「ありがとう。」

 そうとだけ返して、二人はエレベーターホールに向かった。

 二〇階にある会議室の並びの3号室。広さは、カンファレンス・ルームといいながらさほど大きくない。楕円形のテーブルにモニターが並んでいる、ちょっと広めの会議室といったところ。

 しかし人が集まって商談する場所ではない。そのようにも使われるが、ほとんどはネットを介した双方向テレビ会議だ。大企業の責任者が集まる会談には、席に立体映像が映し出されるが、実際は学校の相談室程度のスペースもあれば事足りる。

 リンは、バックをテーブルに降ろして中身を取り出した。出てきたものは、タワー型のサーバーと愛機のHAL坊。

 テーブルに並ぶPC端末をサーバーに繋いで立ち上げる。PCのモニターには、幾つかの企業のロゴが表示されている。それぞれの会議用プラットフォームにログインされたのだ。

 「用意はよし。行こうか」

 リンはプログラムが作動したことを確認すると、HAL坊を持ってジェニーと共に部屋を出た。ドアを閉めれば、会議室は気密性の高い電子暗室となる。

 無人となった会議室では、モニターに相互通信でジェニーと相手会社の役員が出ている。だが、それはダミー。ログインは本物だが、実際にリアルタイム会議などはされていない。サーバーに予め録画されている架空の会議。

 ジェニーが先頭に立ち、社内LANの端末がある一室に向かう。そこは普段は、社員が事務に使うビジネスルームだ。デスクが一つ置かれているだけの、用務員室より狭い空間。しかしここが、これから始める電子戦の指令室となる。

 リンはデスクの端末にHAL坊を接続し、戦闘を開始する。まずは社内端末を先程の会議室にリンクさせる。もちろん、ここから繋いだ形跡など残さない。

 各企業のプラットフォームをバックドアに、それぞれの企業の内情を探るのだ。

 「じゃ、始めるぜ」

 幾つかのショートカットを組み合わせて、企業の外部からのアクセスを防ぐファイアウォールを次々と突破して、正規でない取引が記録されている中枢領域へと侵入する。あまり公には出来ない内容だ。

 「手慣れたものね。流石はクラッキングのおリン」

 「そこ変な二つ名付けない。まあ、自覚はあるけどね」

 流れるような手際にジェニーが感心するのに、リンが手を休めずに答える。

 「よし。開いたぜジェニー」

 先ずは、正規軍を中心に手広く商売をしている、軍需会社シャイロック・テクノロジー。

 「ここは携帯火器が主ね。辺境に近い星系を窓口にしてる。口利きは――、やっぱり地元選出の帝国議員と元老院議員。まあ、小遣い稼ぎってとこかしら」

 そして、ジェニーの実家、ヒュー&ドリトル星間運輸。

 ヒュー&ドリトルも辺境星系連合に武器輸出をしていたが、もっぱら完成品だった。一件ごとの取引額は大きいが回数はそれ程でもない。多国籍企業が有力議員に働き掛けて、潜在的敵対勢力に武器輸出、その利益を議員にキックバック。誰かさんの伯父がよく使う手で、うんざりするほど見飽きてる。

 辺境と最も手広く通商を行っているのは、企業連合体ラキオンだった。企業連合体というだけあって、所属している各社がそれぞれに商売をしている。各社ごとの取引は小さいが、コングロマリットとしてならかなりの量だった。

 一件一件の取引額は小さくても、頻繁にやり取りしている。秘密裏な技術提供の裏にあるものは、巨大な利権。何処かの実家でよく見た構図だ。ホント解り易い。

 「茉莉香の話では、七つ星連邦は海賊ギルドを介さずにラキオンと取引を始めたそうよ。重力制御のね。システムそのままでなくても、一見バラバラな品物の中に部品となるものを忍ばせて、組み立てると重力制御推進システムの出来上がりって寸法。密貿易でよく使う手なんだって」

 「密貿易って、弁天丸もしてるのか?」

 「もともと海賊がやってた事だそうよ。それで、システムになりそうな品物のリストで、百目さんからの情報。比較してみてくれる?」

 ジェニーが情報の入ったチップをリンに渡す。

 ものの見事に、ラキオンの取引が一致する。

 そのなかで、突出した取引額がひとつ。

 「結晶体固定プリンター」

 工作機械の切り出しに使うエッジを作る機器だが、

 「これって…」

 「単結晶を造り出すことも出来る。」

 許可なく持つことが禁止されている。ラキオンの傘下にある企業のうちで許可を受けているメーカーはいるが、当然、輸出することは出来ない御禁制の品だ。

 「ビンゴ、ってとこか?」

 「そのようね。」

 二人は、HAL坊に表示された書類を見てニンマリした。

 「この取引でキックバックを渡してる相手判る?」

 「一寸待ってな」

 コマンドを打ちこむと、次のファイルが現れた。

 「まあ、どこの会社も外部からのアクセスは用心してても、いったん入り込まれるとザルだな。こりゃ」

 「内部文書までセキュリティー高くすると、書き入れや管理に手間だものね。――うちの会社は違うわよ」

 「ジェニーとこは、ガチガチだものな。海賊ツアーのファイルに辿り着くまで一苦労だったよ。花丸をあげよう」

 「それは光栄ね。と言いたいけれど、うちまでハッキングしたの!?」

 ジェニーがリンを睨む。

 「そう怒るなよ。セキュリティーをテストしたと思ってくれ」

 ブラインドタッチの手を休めすにウインクするリン。

 「よし、出たぜ」

 真っ黒黒のラキオンと、役人との繋がりを探っているうちに、一人の官僚が浮上した。

 「ルヴァンシュ・ネメシス。監察局参事官。出身は、あら宇宙大学。――私たちの先輩だわ」

 「学歴詐称てこともあるぜ。宇宙大学校とか、銀河宇宙大学とか」

 「宇宙大学と言えば、無印の宇宙大学。待って、卒業名簿調べてみるから」

 ジェニーは自分の学生証から、大学学生課にアクセスし、卒業者の名簿を照会した。

 「あった。本当に宇宙大学出身――」

 「てことは、宇宙大学にも繋がりが有るって訳だ。茉莉香からの話、聞いてるだろ」

 「重力操作がタイムトラベルと関係があるって話ね」

 ジェニーは、初めてアテナ教授の自宅を訪ねたときに見た、恒星エネルギーを丸々使う巨大なプラントを思い出していた。

 リンも帝国人事院が出している公務員経歴から、ルヴァンシュ・ネメシスという人物について当たってみた。公務員経歴は公式に出されているものだから、ハッキングでも何でもない。聖王家の宮内省書記官から始まり、枢密院、総務省通商部、統合参謀本部付官僚とキャリアを重ね、現在は監察局参事官。

 「待てよ、ネメシスって一族、もと帝国貴族だ。一二〇年前に平民に降下されてる。その時の氏名は。――無い、記録から抹消されてる。一族の一人が消去処分で平民となってる」

 「それって、まさか――」

 自分たちにとって、ほんの数ヶ月前に関わった人物の子孫の可能性があった。

 「とにかく、これで濡れ衣を着せた相手は判ったわ」

 「侯帝派に繋がる監察局ってわけか?」

 モニターを確信に満ちた目で見つめるジェニーにリンが問いた。

 「ううん。」

 ジェニーが被りを振った。

 「侯帝派とか監察局じゃなくて、今回の騒動をプランニングしてる者が居るってこと。侯帝派や監察局は自分の勢力争いに乗じて利用されてるだけ。恐らく七つ星連邦などの辺境連合も」

 「構図は一二〇年前と変わらないのよ。オデットⅡ世の単結晶が狙われた時と一緒、銀河帝国はぜんぜん進歩してない、紛争で一儲け企んでる者達が居るってこと。」

 「グリューエルが前に言ってた、戦争をプロデュースするってやつか!」

 ジェニーは深く頷いた。

 「今回の仕掛け人は、恐らくこのルヴァンシュ・ネメシスって奴だわ。でも彼を排除できたとしても、同じような考え方が残る限り、別のネメシスが後を引き継ぐでしょう」

 「でも、それでどうするんだい? 相手はいろんな思惑が寄せ集まってる集合体みたいなもんだ。誰か一人に狙いを付けるのと違って、雲を摑むようなものだぜ」

 「ユグドラシルだって似たようなものだったじゃない。ユグドラシルって一つの形をとってたから解り易かったけど、あれも企業のコングロマリット、集合体だわよ」

 「じゃあ今回集まっている中心にいるものは?」

 「人間の、欲よ。」

 「欲って――、それじゃ排除できないぜ。人間である限り」

 「別に聖人君子にならなくてもいいのよ。もっといい儲け口があれば、それに人は飛び付くわ」

 「具体的には?」

 「いまはまだビジョンが纏まっていないけど、とりあえず紛争が儲かる事業にならなければいい。」

 「てことは、青写真みたいなものはあるようだな。いったい何だい」

 「まだ夢想のようなものよ。無限彼方君が拓いたXポイントを見て思い付いたんだけど、全く思い付きのもので、自分でもイメージ出来てないわ」

 そう言ってジェニーは肩をすくめた。そんなジェニーにリンの顔が赤くなった。それを語るジェニーは、まるで子供のような目をしているなとリンは思ったからだ。

 「とりあえず、宇宙大学と監察局にクラッキングを掛けられないかしら」

 不敵な事を言い出す時の戦闘モードに戻ったジェニーは、またとんでもない注文をしてきた。

 「おいおい、どっちも超の十乗も付く所だぞ。それに宇宙大学って、俺も秋から行く大学だぜ。そんなところにクラック(書き換え)掛けたら合格がフイだ」

 「出来ないんなら出来ないでいいのよ。無理はしないで」

 リンを慮るようにジェニー。

 「なあ、それってアドバイスになってないぜ。煽ってるよ」

 背伸びをしながら手を前に組んで伸ばし、指をぽきぽき言わせてキーボードに向かう。

 「あーあ、九月から浪人生活か。来年も宇宙大学、無理だろーな」

 そうぼやきながら、凄まじいスピードでコマンドを打っていく。HAL坊のディスプレイはコマ落としのようにファイルが現れては消え流れている。

 ものの五分で外部からのファイアウォールの関門を突破できたようだった。内部に侵入を果たしたリンが指を止めて訊く。

 「で、どの場所にクラッキングを掛けるんだ?」

 「監察局は例の参事官とラキオンとのプラットフォーム。宇宙大学の方は、ユニバーGs1にある高エネルギー粒子研究ステーションの超次元宇宙論研究室」

 「何を研究してるところなんだ?」

 「プラント施設は恒星制御が表向きだけど、ほんとうの目的は時間跳躍」

 書き換える内容はこうよと、リンに文面を渡す。それは、ジェニーの会社、フェアリージェーンのロゴマークだった。

 「おいおい、そんな物送ったら、こっちのクラッキングを教えてやるもんじゃないか。足跡を消す意味がない。それに、品行方正な社名に傷がつくぜ」

 「別に取り潰しになったって構やしないわ。これは私からの果たし状なの。全部知ってるぞってね」

 端正な顔が凄みのある笑みを浮かばせていた。

「解った。パートナーだもんな、付き合わせてもらうよ」

 そう言うと、リンはロゴマークに一言付け加えて文書を送り付けた。

 文書には、フェアリージェーンのロゴと一緒に、by.リン・ランブレッタの署名がしてあった。これでジェニー・ドリトルとリン・ランブレッタは、銀河帝国通信法第一級容疑のお尋ね者になった。

 

 

 

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