モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

24 / 54
第24話

 辺境星系連合の艦隊が突然に現れて消えた現象は、帝国科学院の調査で、それが重力操作によるものだと解った。機動戦艦グランドクロス試作α号の戦闘データと付き合わせて判ったことだ。しかもそれは、キロから光年単位まで距離に関係なく精密移動ができるものらしい。だが、その技術の出所が分からなかった。

 そんなところに、帝国の官僚と宇宙大学との癒着が、白鳳海賊団の名ですっぱ抜かれた。

 大学出身の官僚が、一部企業へ研究データを横流しし、その謝礼を研究者に渡した通信のメール内容である。そして企業が、真っ当な取引に見せかけて行っていた技術流出を、その項目と帳簿とを付け合わせて公開した。

 それと合わせて、疑惑の証拠として、流出した技術の核心である『超次元理論による重力操作』を情報公開してしまったのだ。――これで、企業と研究者が持っていた極秘な技術の独占という価値は無くなった。

 前々から一部企業の技術突出から、その噂は流れていたが、余りに自明な事なので誰も問題にしていなかった。だが、こうして裏取引の証拠を突きつけられると、あらためて問題の大きさに気付かされた。宇宙大学の独立性は、そもそも何の為だったか。そして今回の技術流出が、敵対勢力に行われていたという事が衝撃的だったのだ。

 とくに外交部は、事態を深刻に捉えていた。すでに有力星系の幾つかから、説明を正式に求めて来ているからだ。

 帝国政府は宇宙大学に事実確認を求めたが、もう片方が政府の人間とあって、どうにも歯切れが悪い。大学当局も『現在調査中』との返事だけでである。その間にも、星系政府からの突き上げが来る。セレニティー連合王国の特使として枢密院侍従長がやって来たが、言葉の内容は穏当なものだったが、老人の鋭い眼光に、応対に当たった外務大臣は心底震え上がったという。

 セレニティー枢密院侍従長は、帝国外交部が各個対応している間に、星系代表部を纏め上げ、帝国議会の下院に当たる星系院に特別審査の議会開催を求める手筈を整えた。ここで監察局の査問と帝国政府弾劾が行われる。

 上院の元老院は、この動きに反対の立場をとったが、実は元老院も一枚岩で無い。侯帝派が多数を占めるが女王派の議員もいる。そして星系院は女王派が多数派なのだ。これでは侯帝派にとって劣勢。それに、元老院と星系院が対立する構図となれば、いくら元老院の議決が優先されても帝国が真っ二つに割れることになる。それは元老院も望む所ではない。今はまだ議会開催の正式な要請は出されていないが、これからの成り行きでどうなるか分からない。

 このところの動きに、侯帝の血圧は上がりっぱなしだった。七つ星共和連邦はリーゼさえ片付けてくれればよいものを、あろうことか帝国を挑発して来た。肝心のオデットⅡ世は、海賊業を自粛しているのか、さっぱり動きが無い。そんな所に、今度は監察局の汚職ときた。

 「長官! これは一体どういうことかね。七つ星共和連邦はリーゼを狙っていたのではなかったのか。そのための工作が、最先端技術の横流しだったのかね!!」

 「決してそのような。それはルヴァンシュ・ネメシスという者が勝手にしていた事。監察局が関与していた事ではありません」

 「一介の参事官にこれほどの機密漏洩が出来る訳なかろう! お前も小遣い稼ぎしていた事ぐらい容易に判るわ!」

 侯帝が一喝する。事実、長官はラキオン相手にキックバックを貰っている。情報部より詳細に帝国の機密が集まることを良い事に、多国籍企業や星系政府の内部情報を渡していた。その窓口に使っていたのが、ルヴァンシュ・ネメシスという小役人である。宇宙大学出身で、研究畑にも経済界にもやたら顔が利くことを良い事に、いろいろ便利に使っていた。

 だが只の小役人ではなかった。

 「いったい奴は何を目論んでいたのだ? これでは帝国に戦争を起こそうとしていたとしか思えん」

 「案外、そのような所かもしれません。戦争が起きれば、軍需産業界は莫大な利益と影響力を手に出来ますから」

 「外患誘致と内乱罪ではないか! そのような会社はネメシスともども消去してしまえ!」

 自分がリーゼにやっている事を棚に上げて侯帝は吼えた。だが、長官は困った顔で返答した。

 「ネメシスは公務員法で罰せますが、企業の方は取り締まることが出来ません。何しろ流出した技術は行政府も把握していないものでして、禁輸項目に無い物です。外患誘致も明らかに敵勢力を招き入れたという物的証拠がありません。むしろ……帝国の内紛に乗じられたとみるべきかと」

 侯帝は苦虫を噛み潰した顔で、懐から薬を取り出し口に入れた。このところ胃の調子がつとに悪いのだ。

 「……で、ネメシスはどうした。身柄は拘束したのだろうな」

 現行法で罰せられなくても、贈収賄罪で企業を締め上げることは出来る。

 「それが、事態が明るみになる前から姿を消しておりまして、監察局がハッキングに遭った直後に逃亡したようです。いま、全力で探索しております」

 ますます渋い顔の侯帝。

 「陛下、お体ご自愛ください」

 小声で身を案じた長官に、思わず錠剤を投げつけて怒鳴る。

 「いったい、誰のせいと思っているか!!」

 頭に降り注ぐ錠剤に平身低頭するしかない長官だった。

 

 侯帝は女王に拝謁し、白鳳海賊団を取り締まるよう迫った。理由は、ハッキングによる電波法違反だ。

 だが、女王はそれをきっぱりと断った。むしろ帝国の膿を晒してくれたと評価する口ぶりだった。

 当然、侯帝は激怒する。帝国の法の秩序を何と心得ているかという訳だ。ほんとうは帝国艦隊を差し向けて海賊団を掃討してしまえと言いたいところだが、無法な通商破壊をしている訳でもない相手にそれは無理筋だ。

 「白鳳海賊団を名乗る一党は、帝国のお尋ね者「辺境海賊ギルド」とつるんだ様ではないか。それでも白鳳が無法者でないと?」

 辺境海賊ギルドの名を出して、侯帝が凄む。帝国内に海賊は居ないという、交通の自由を基本とする帝国に歯向かう集団だ。

 「辺境海賊ギルドは、確かにお尋ね者ですが、実際の罪状は何です? せいぜいが密貿易ではないですか。何ら帝国の軍艦や商船に対して、破壊活動は行っておりません。辺境星系や海賊どうしの小競り合いはしているようですが」

 辺境海賊ギルドは潜在的敵対勢力だが、第七艦隊も本腰を上げて取り締まってはいない。海賊ギルドも帝国艦隊が乗り出して来るような事態は避けている。潜在的敵対勢力とはいっても、その危険度はずうっと低いのだ。

 「むしろ、辺境星系連合が喫緊の課題です。あれほどの戦力を突然展開してみせる勢力は帝国の脅威です。海賊ごときにかまけている時ではありません。――それは叔父様も同じでしょう?」

 女王の言葉に侯帝は肯んずる。

 「聞けば、辺境海賊ギルドは、辺境星系とも対立関係にあるようです。革新技術の取り次ぎをすることを拒んだとかで。それならば、海賊ギルドも帝国に引き入れてしまえばいいでしょう。辺境星域の哨戒戦力ぐらいにはなります。己の陣営の増強に海賊を使う事は、昔からよくある事です」

 女王は帝国の方針を一八〇度転回することを言い出した。

 「それには、白鳳海賊団を政府が公式に『帝国の海賊』として表明すれば、同盟関係にあるギルドを迎え入れることが出来ます。今回、白鳳がやったスキャンダル暴露も、帝国が認めたこととして国民に説明がつきます。いま帝国に不信の目を向けている星系も一応の納得が出来るでしょう。知らぬ存ぜぬでは何も良い事はありません」

 何を言い出すんだこの女は、と侯帝は思った。

 「反対だ。ここで海賊を認めてしまっては、これまでの公式表明と矛盾する。帝国の威信に関わる!」

 「海賊は、一二〇年前にオリオン腕領域が帝国版図になった後でも、ずっといたのです。帝国はそれを地方自治とはいえ認めていました。海賊は帝国に存在していたのです」

 「それは、海賊のまねごとをしている集団に過ぎなかったからだ。戦力を認めた訳ではない」

 「帝国艦隊は、くじら座宮の海賊に調査や軍事演習を依頼しています。戦力として評価しているからですよ。今更矛盾していると目くじらを立てる者は居ません」

 「戦力! だからリーゼを送ったか。本音が出たな女王、自分の脆弱な立場を海賊で補うか!」

 女王は答えなかった。が、こう言った。

 「星系議院が特別審査会の開催を決定すれば、女王として国会の召集を認めないわけにはまいりません。帝国議会は、元老院、星系院とも割れることになりますが、仕方ありません。それに、もし辺境星系連合との間で戦争という事態になれば、尚更、帝国議会の承認が必要となります。そこでは、戦争遂行の指揮を誰が執るかが議題となるでしょう。今回の疑獄事件を受けて、現行の行政府がそのまま執権することは難しいでしょうから。」

 「て、帝国を分裂させるつもりか!」

 侯帝のそれは、悲鳴に近かった。

 「皇位継承権で割れるような帝国なら、所詮そこまでの存在です。ほぼ銀河系全域まで拡大した銀河帝国ですが、これしきでぐらつく様な国家では、とても維持経営して行けるとは思えません。――叔父様、これが聖王家というだけで、たかが家の相続争いではありませんか。帝国が統合の要を必要とした時代は、既に過ぎ去っているのです。聖王家の権威にすがらなければならないほど帝国は脆弱ではありません。むしろ利用しようとする輩を跋扈させるだけです。今回の、戦争をプロデュースする者が現れたことが、それを証明しています。」

 文書に残るだけでも数万年の歴史を刻む聖王家の役割が、もう終わったものだと女王は言った。

 それは侯帝も感じていたことだ。だからこそ、帝国の威信と聖王家の権威を取り戻そうと聖流派は頑張って来たのだ。その流れにあったのが皇位継承問題、やはり、女王でなく自分が皇位に就くべきだったのだ。侯帝は怒りに震えた。

 そんな侯帝をよそに、女王は続けた。

 「聖王家よりずっと若いセレニティーは、その危機を乗り越えました。王国派と独立派に分かれた争いを一つにまとめ、新しい体制作りを始めています。彼らを統合に導いた星間移民船にあたるものが、帝国にとって何なのかは分かりません。ですが、聖王家の責任として帝国の新しい指標を示さなければなりません。私たちは彼らに学ぶべきです。セレニティーは喜んで協力してくれるでしょう。」

 なんてことだ。女王はセレニティーを通じて根回しをしていたのだ。普段は上品なだけのセレニティー連合王国が、何故あんなに強硬だったかが理解できる。星系院が僅かな時間でまとまった訳も。だが、次に爆弾が控えていた。

 「先程の戦争遂行の指揮を誰が執るかですが――」

 「それは、女王がすれば良いではないか」

 どうせそのつもりだろう。それに乗じて侯帝派を取り潰す、決まりきった事を聞くと侯帝は思った。

 「いえ、私は女王です。皇帝は君臨すれども統治せずが決まりです。非常大権を持つことは出来ません。ただ承認するだけです」

 「では、リーゼにさせる心算だろう。そうすれば大手を振って帰れるという訳だ」

 「リーゼは子供です。たとえお飾りでも国民がついて行けません」

 誰に任せるつもりだと思っている所に女王は言った。

 「叔父様に指揮を執って頂きたい。」

 政敵に非常大権を渡すという言葉に驚いた。

 「皇位継承権を越えて皇室が一つになったとなれば、議会はまとまれます。ですが、実体が伴っていなければ説得力を持ちません。監察局の解体と聖流派の活動停止は必須です。そして私が大権を叔父様に託せば、国民も安心するでしょう。帝国は安泰だと」

 これはお願いではない。そうしなければ国家が崩壊すると言っているのだ。これは恫喝だ。政治に疎いお飾りなだけの女王と思っていたが、状況を機敏に利用する、とんだ女狐だ。

 侯帝は首を横に振ることが出来なかった。

 

 

 ジェニー・ドリトルは、白鳳女学院に帰って来た。

 ジェニー自身の話では、アテナ・サキュラーからの査問?を受けて、「このまま貴方に居てもらったんじゃ、話が余計にややこしくなるから」との理由で、「追い出されて来ちゃった」とのことだった。

 いきなり白鳳海賊団の名でスキャンダルすっぱ抜きのニュースが流れて来て、その犯人がジェニーだと知り、てっきり身柄を拘束されたと思っていたヨット部一同は、ひょっこり戻って来た先輩にあっけにとられた。

 「ジェニー先輩、それにリン先輩も。いい加減にしてくださいよ、私おなか痛い」

 そう言ってお腹を押さえる茉莉香部長。

 銀河ネットの文屋たちが大挙して、たう星を訪れ白鳳女学院に取材に来ている。学園は取材を断っているが、校門の外では十重二十重と取り巻いて、取材のチャンスを待っている。お目当ては、茉莉香部長とセレニティーの王女姉妹、そしてリーゼ皇女だ。お陰でヨット部員は半ば軟禁状態。

 「それにしても、あの監視の中を、よく搔い潜って来れましたね」

 「随分人がいるなと思ったけれど、あれがそうだったのね。外へ出て来る人には注目してたけれど、中に入っていくのには注目してなかったみたい」

 ジェニーは涼しい顔をしているが、張本人が居るとなれば、ますます取材に熱が入るだろう。

 「でもジェニー先輩、大学はどうなるのです? やっぱり退学、リン先輩は合格取り消しですか?」

 グリューエルが心配そうにしている。

 「リンは大丈夫みたい。むしろ大学が欲しがる力量を見せつけてくれたと、アテナ教授は評価していたから。でも、私は放校処分かな。大学の極秘研究を勝手に情報公開しちゃったから」

 あっけらかんと話すジェニー。

 「でも、間違った事をしたとは思っていない。違法なことは判っているけれど、戦争を儲かる道具にしないようにするのに、てっとり早い一番の方法だったから」

 軍事技術を等しくしてしまえば戦争は生まれない。むしろ抑止力として働く。

 そう言ってリーゼに微笑む。

 「はい。」

 頷くリーゼ。

 「リンは何処? 私より先についている筈なんだけど?」

 部室にパートナーの姿が無いことにジェニーが訊いた。

 「先輩は、LCC(ローコストキャリア)便で来るそうです。ジェニー先輩とこのファーストクラスでは勿体なくて、乗り換えたって」

 「まあ、リンったら。自分が出す訳じゃないんだから、気にしなくていいのに」

 「だから、余計に気にしちゃうんですよ」

 「それよりも安全第一よ、あん・ぜん・だい・いち。自分がどれだけ最重要人物か解ってるのかしら」

 帝国を揺るがした情報ソースの持ち主なのだ。そう愚痴るジェニー・ドリトル。

 そのとき、リリィ・ベルが息せき切って部室に飛び込んで来た。

 「リン先輩が襲われた! いま、新奥浜宇宙港の集中治療室に運ばれたって!!」

 その言葉に、全員が顔色を変えた。

 ジェニー・ドリトルは過呼吸を起こし、気を失ってその場に倒れ込んだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。