モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第26話

 とても話の出来る状況ではなかったので、茉莉香とグリューエルは病室を出た。

 茉莉香は、自分たちだけの世界に入ってしまっている二人にメッセージを残した。

 『理由は後でお話しします。リン先輩は、昏睡状態という事で暫らく病院にいて下さい。ジェニー先輩にはオデットの今後についてお話があります。勿論、リン先輩に関係することです。加藤茉莉香。』

 打ち終わって、ほうっと息をつく。まだ心臓がドキドキしている。グリューエルも顔が真っ赤だ。

 「同性どうしで、あんなにも愛し合えるものなのですね。」

 「驚いたわね―。先輩どうしが、そういう関係だって事は、知ってたけれど」

 「お二人は、将来を誓い合った仲なのでしょうか?」

 「さあ、聞いてないけど。あの様子なら有りかもね。」

 同性同士での結婚は決して珍しい事ではない。子供も普通にもうけている。

 女性にとって出産は、長い間、命の危険が伴う一大事業だった。それは生まれて来る子供にとっても同じで、生身を使う分娩は、一歩間違えば障害をきたすかもしれない危険な賭けだった。だから生物は、母と子の絆は種に関係なく強い。しかし科学の発展により人類はその枷からも解放された。遺伝子操作と人工子宮である。

 単純な体外受精から始まった流れは、母体を使わずに胎児を育てる技術を生み、一方で遺伝子治療の発達から、障害を予防する遺伝子コーティングを生み出す。その両者が結び付いて人工子宮が誕生した。だがそこで二つの問題が出て来た。一つは性の役割だったが、それは社会的問題で、既に女性の社会進出が当たり前の世の中では些細な事だった。もう一つは、より良い子孫を得たいという欲求だった。遺伝子コーティングは先天的な身体の障害は予防できたが、個体ごとにIQの違いはあったからだ。だがそれは古代の優生学の考え方に繋がるもので、より良い子孫とは何かを考えるとき、それは個性だという解を人類はすでに得ていた。それは、人類が恒星間移民に乗り出す頃には一般的となっていた。画一的な基準の選択は、硬直した結果しか生み出されない。世代を超える時間が必要となる移民では、あらゆる事態に対応できる多様性が必須だからだ。また親子の繋がりは、先天的なものでなく後天的なものである。それは子育てという過程で育まれる。

 性の役割からの解放は、パートナーのあり方も変えた。性染色体を乗り越えた遺伝子の交換は、同性間でもお互いの子供を持つことが出来るようになった。パートナーを求めるという本能は変わらずに有り、単にパートナーの幅が拡がったという事だ。

 分娩に命を賭ける必要がなくなったいまでは、あえて自然出産を選ぶ女性もいる。自分のお腹を痛めて、より絆を実感したいという事なのだが、むしろその方が多数派だ。加藤梨理香も重たいお腹を抱えて茉莉香を生んだ。

 「きっと素敵なlovebirdsでしょうね。」

 「あの二人のことだから、子供が出来たら『絶対、自分で生む』って言うわね。もしかしたら二人もうけて、お互いに大きなお腹だったりして」

 「お子様もさぞ凄いでしょう」

 あの美貌と才能と性格を、二重に受け継いだ子供だ。末恐ろしい。

 「グリューエルだって凄いじゃない」

 「凄くなんかありません。私たちは人工的に作られた遺伝子です」

 グリューエルとヒルデは薔薇の蕾によって調整された個体だ。だから親は居ない。二人は姉妹だが血の繋がりはない。二人は顔立ちがよく似ているが、それは遺伝子操作を同じくするもので前後に誕生しているだけだ。薔薇の蕾で最後に生まれた弟も、祖父のシムシエル大公も、高曾(曾々)祖母に当たるミスティル王女もそうだ。それはむしろ分身に近い。

 薔薇の蕾は、何故か、セレニティーが変革を必要とする時や危機が訪れている時に赤子を生み出してきた。シムシエル大公の時は銀河帝国との併合で、ミスティル王女の時は掃討戦争の帝国動揺期で、王国は意図せずに困難な時期の導き手を得て来た。それがセレニティーの血の魔法と呼ばれる由縁だ。だからヒルデは、王国の未来に渡る安泰を信じて薔薇の蕾を守ろうとしたのだ。決して王家を存続させようとしただけではない。しかし一方で、薔薇の蕾で赤子が生まれるという事は、王国にとって不吉の前兆ともされて来た。それをグリューエルは打破したいと考えた。赤子で左右される国運、セレニティーの血の魔法にすがるだけでは未来は拓けない。自ら考え動いてこそ本当の国家ではないか。しかし結局は、権力争いの道具になっただけだった。

 「それは違うよ。だって、グリューエルとヒルデ、ぜんぜん別だもん」

 え?という表情のグリューエルに茉莉香は続けた。

「性格も考え方も違うし、それにグリューエル運痴じゃん。まあ似ている所は、突拍子もない行動力と頭のいいところ。きっと弟さんも凄いだろうな」

 プッと噴き出すグリューエル。

 小さく笑いながら、「それは、よく言われます。」と答えた。

 「同性であれ異性であれ、素敵なパートナーと出会いたいものだね。グリューエルお姉さんなのに妹に先を越されてるよ、頑張んないと」

 茉莉香は自分のことは棚に上げて、彼方少年の事を言った。

 「茉莉香さんには、チアキ様がいらっしゃるから…」

 そう呟くグリューエルに、頓珍漢な顔を向ける茉莉香。ぜんぜん少女の気持ちに気付けない唐変木だった。

 

 

 リンの狙われた理由がハッキングだったからという事を、二人が落ち着いたところで茉莉香は話した。だから、当分は身を隠していた方がいいと。

 リンは不満そうだったが、ジェニーに諭されて納得した。

 茉莉香はその場では、『ハッキングが理由』以上のことを言わなかったが、帝国を脅かすプログラムだったということを、一国の王女である彼女の前で打ち明けるのは、立場上まずいのではないかと思ったからだ。グリューエルの方は、不可侵協定が働いている中での初めての凶行に、何やら感じるところがある様子だったが、茉莉香が言わない事を勘のいい彼女はあえて追及してくれずにいた。

 茉莉香は、ジェニーと二人きりの所で、改めて説明した。お腹が痛いのを覚えながら。

 「リンのプログラムが、そんな物だったなんて…」

 茉莉香からの話にジェニーは絶句した。

 易々と監察局や宇宙大学のネットに侵入出来、書き換えまで行えたことで気付くべきだったとジェニーは思った。

 「で、リンを襲ったのは、やはり侯帝派の息が掛かった監察局――」

 「いえ、情報部だそうです。直接ではありませんが――。つまり、帝国当局の意向という訳です。だからリン先輩には、ICUから出ないようお願いしました」

 容易ならざる事態だという事だ。内紛の一方ではなく銀河帝国じたいが敵という訳だ。

 「この現状を打開するには、リン先輩のプログラム・コードを無効化する必要があります。それが出来るのは銀河帝国の女王だけ。けれども、元となった私掠船免状が要るそうです。」

 「つまり、オデットが惑星セナートに行く必要がある訳ね」

 「そういう事になります」

 「でも、その情報。どこから知ったの? 犯人レベルより上でないと知り得ない内容よ」

 流石にジェニーは鋭い。さっきから微妙に隠している点を突いてくる。

 「それは――、犯人の一味からです。その人が言うには、他の誰かが必ず襲撃してくると。たう星でも恐らく守れないだろうと」

 「ふうううん――。」

 思いっ切り怪しんだ目を向けるジェニー。

 茉莉香は冷汗が出る。

 「あの、私たちとは異なる括りの海賊です。味方かどうかは分からないけれど、少なくとも敵ではないようです」

 「ふうううううううんんん――」

 訝しむ声が大きくなる。

 確かにリンは無事だ。話の辻褄も通っている。でもあの茉莉香が、襲った張本人からの言葉を鵜吞みに出来る相手など、ジェニーが思い当る限り一人しかいない。だから信用できるともいえる。

 「帝国がリンを狙うって言うんなら、いっそ破産させちゃおうかしら。リンがプログラム作ってるの私見てたもの」

 さらりと内乱勃発のスイッチを押すという。

 「そんな! 銀河系が崩壊しちゃいますっ!」

 「あら、戦争を儲からなくするには、一番手っ取り早い方法だと思わない?」

 ブンブンと首を振る茉莉香にジェニーは言った。

 「無理よ。あんな複雑なプログラム、たとえ残っていてもリン以外には扱えないわ。ショートカットだらけだったもの」

 ほっとする茉莉香にジェニーは付け加えた。

 「兎に角。次のオデットⅡ世の目的地は決まったわ。ルビコンを越えるって訳ね」

 「ルビコン…」

 「そう、核恒星系のルビコン星団。その中心の惑星セナートよ!」

 「何だか先輩、殴り込みでも掛けるような勢いなんですが――」

 テンションの高いジェニーに茉莉香はおずおずと訊く。

 「あら殴り込みよ。だって相手はこっちを敵って見てるんだから」

 ジェニーはクラッキングに自社のロゴマークを使ったが、ジェニー・ドリトルもリン・ランブレッタも白鳳海賊団の関係者だって事はもとより知っているだろう。そして白鳳には問題のオデットがある。

 「今度の航海にはリンもだけれど、リーゼちゃんを連れて行くわけにはいかないわ。セナートには彼女の母親もいるけれど、侯帝と元老院が牛耳っている聖流派の巣窟よ」

 コクリと頷く茉莉香。

 「それに、今回はグリューエルとヒルデにも遠慮してもらった方がいいと思います。帝国とセレニティーとの外交問題に飛び火しちゃいそうだし」

 「そうね。ことは慎重に、秘密裏に進めるしかないわね。クルーも最小限に抑えて」

 しかしこちらの動きは情報部も当然注視しているだろう。そんな中で極秘にオデットⅡ世を出航させることなんかできるだろうか。

 「黙っているのはヨット部だけでいいわ。すぐわかる事ですもの。宇宙大学もどうせ放校処分でしょうけれど、それまでは大学の学生、教育実習のレポートも送るつもりだし」

 決まったことはきちんと済ませる、几帳面なジェニーらしい。

 「私、何事も中途半端は嫌なの。だから――」

 と、茉莉香に向き直った。

 「リンを助けるためだったってことは、この際だから呑み込んであげる。でもリンを、もしかしたら傷付けるかも知れなかったことは、ぜええっ対許さない。至近距離で居並ぶ銃口を弾き飛ばせるブラスターの名人さんに、もし会うことがあったら伝えておいて頂戴!」

 口では冗談を交えたものだったが、目は本気だった。

 

 後日、リンには最新鋭の軍用PCマシンが、ジェニーには幻の宝石と言われる、クリスタル・ヒヒイロカネのエンゲージリンが、ペアで送られてきた。

 

 

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