モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第31話

 「なかなかの手際だったわね。」

 ジェニーが満足したように言った。何よりも負けず嫌いの彼女にとって、一番、というのが心地良かったのだ。

 「ブースターの取り付けって普段は面倒なだけだけど、これが競技になるなんてねー」

 「そうそう何が役立つか判んないものだねー」

 「これって、もしかしてセレニティーの策略?」

 部員たちの思い思いな感想にヒルデが応えた。

 「たまたまコースに超光速跳躍が必要な場面があって、たまたまブースターを持っていたオデットが有利になっただけのことです」

 あくまで澄ましたままの言いように、グリューエルがクスリとする。

 そこに銀のお盆を持った新入生たちがやって来た。

 「お茶をお持ちしました。セレニティーから良い葉っぱを頂いたのです。先輩方、どうぞお召し上がりください」

 そう言って恭しくお茶配りするリーゼら三人。それにグリューエルやヒルデも手伝いに加わる。

 ありがと、と最初にジェニーが受け取っている。

 「ちょっと茉莉香! 皇女に続いて聖王家にまでお茶汲みさせる気? 外交問題どころか滅ぼされるわよ」

 チアキはやっぱり眼を剝く。まあ部活で後輩にお茶汲みさせて文明滅亡もないだろうが、と思わない訳でもないような…でも冷汗も出る茉莉香だった。

 それぞれが自分の席でのんびりお茶している時だった。

 オデットの船体に衝撃があったのだ。衝撃はごく軽いものでアラートも鳴らない。

 しかしクルー達はすぐ自分の役目に戻った。

 これが亜空間で起きたからだ。亜空間に基本障害物は無い。行き交うものは航行している船と通信ぐらいなもので、衝突が起きないよう十分距離を取り計算もしている。

 もしかしたら、超光速跳躍に慣れてない参加船が接触したのかも。そう思った。

 「周辺、船影や障害物は探知されません。」

 「オデットにも何も損傷らしきものは出ていません」

 レーダーと機関からの報告。しかし航法が伝えた。

 「銀河回廊、現在イエローが出されています。銀河回廊交通センターによると、亜空間に衝撃波があったそうです。」

 「衝撃波!? またユグドラシルみたいな妨害があったってこと?」

 ジェニーが質した。

 「いえ、テロとは違うようです。衝撃波は亜空の中で起きたものではなく、通常空間で起きたもののようです」

 「通常空間、それってどういう意味?」

 通常空間で起きた衝撃が亜空間に響いてくるなんてあり得るだろうか。反物質爆弾でも無理だ。亜空と通常空間との壁を破るには恒星ぶんのエネルギーが要る。転換炉はその辺を誤魔化してきわめて狭い範囲の空間を歪ませ跳躍している。回廊の近くで超大型船でも爆発したのだろうか、それこそ黄金の幽霊船クラスの。そう茉莉香は思った。

 「事故でもないようです。原因は調査中、通行に支障はないが注意されたし。だそうです」

 嫌なものを感じながら茉莉香は報告を聞いていた。

 そんな茉莉香にチアキが近寄った。

 「茉莉香――。帝国とは違うと思うけど」

 「チアキちゃん、私お腹痛い」

 そう言いながらお臍の辺りを押さえる茉莉香。

 「はあ…そういった辺のアナタの勘て、妙にいいから」

 「そんなこと言わないでよ。余計痛くなっちゃう」

 お大事に、それとちゃんじゃない。そう言い残して離れる。

 

 

 亜空間はその後何も起こらずに、中継地点ポルトセルーナにダッチダウンした。

 続く船も全船無事に到着する。ここまでの第一位はオデットⅡ世、亜空間では差が生じないのでピットインでの差がそのまま出たのだった。

 かつて要塞基地だったポルトセルーナは、いまでは交通の重要な中継点としてのグランドセントラル・ターミナルだ。要塞だった面影は消え、見かけは完全に商業港である。しかし軍港としての機能は無くなっていない。事実、第五艦隊の母港でありステーションの周囲には軍艦の姿も見える。

 ポルトセルーナでは参加者全員が下船して、核恒星系への立ち入り許可の手続きを行う。

 しかしこれが問題だった。顧問のジェニーとリンは帝国電波管理法の第一級容疑者なのだ。つまりはお尋ね者。一応今回の大会にエントリーし、ジェニーの名前が載った名簿を提出して出場も出来ている。だか今まではセレニティーだった。ここは軍港で帝国の直轄地なのだ。

 「まあ捕まったら捕まった時よ。どのみち手続きしなければセナートには行けないんだし。その時はあなた達だけで行って頂戴」

 「このまま無許可で、海賊として乗り込むって手もあるぜ」

 何ともお気楽に言う二人。

 しかしなんの咎めもなく、ジェニーの手続きは通った。

 覚悟して臨んだ割りには何もない。むしろ肩透かしだった。

 「変ね。事情聴取ぐらいはされると思ったのに」

 「ジェニー先輩、お尋ね者になってから、当局から呼び出し掛かりましたか」

 チアキからの質問に、全然と首を振るジェニー。

 「まあ私が宇宙大学の学生だからかしら。放校処分が決まったら呼び出しぐらい来るでしょうけど」

 「私はまだ宇宙大学の学生じゃないけど、呼び出しないぜ。命は狙われたけどな。まあランチ楽しんでおいで」

 そう言って皆を送り出すリン。リンはここでもオデットでお留守番だ。彼女はここに居ないことになっている。

 参加者の親睦会を兼ねたランチは、気軽な立食パーティーだった。それでも帝国側の歓迎レセプションとあって主催者はポルトセルーナの総督だ。彼は第五艦隊の総司令官でもある。つまり文民ではなく軍人なのだ。こんな所にもポルトセルーナが軍事基地であることが現れている。肩苦しい式典よりも気軽な場を用意してくれたのは、合理性と迅速を旨とする武人としての心配りだった。

 気楽なパーティーといっても、出される料理は超豪華なものばかりだった。フルコースといった様式ばったものでなく、オードブル形式なのだが、使われている材料が凄い。名前でしか聞いたことがないような食材が、これでもかってくらい使われている。セレニティーの姉妹には馴染みある食材なのだろうが、そのグリューエルが、ミラ星系産ウォーフ牛のシャトーブリアン・ステーキがちょこんとクラッカーの上に載っていたのには面食らった。

 「このお肉を、こんな使い方するなんて非常識です。普通はコースのメインに持ってくるものですよ」

 「うあ、グリューエルが食べ物で驚くところなんて初めて見た。そんな物なの?」

 「これ一グラムで車が買えます」

 味なんか吹っ飛びそうな話だった。値段のことをセレニティー姉妹に聞くのはやめておこう。とにかく、育ち盛りの子の胃袋をじゅうぶんに満足させる内容だった。

 目移りばかりしていて、ぜんぜん箸がが進まない(というより、さっきのグリューエルの話を聞いて値段のことが気になって仕方がない)茉莉香に代わって、ひょいひょいと取り皿に料理を盛って行くグリューエル。

 そんな二人のところに、見知った顔が近づいて来た。

 「お久しぶり。ポルトセルーナにようこそ」

 「ホーガスさん。」

 ポルトセルーナ軍警察のピーター・ホーガス大尉だった。

 「今日は、――きちんとしてらっしゃるんですね。」

 軍服をきちんと着こなしているホーガスをじろじろ見ながら茉莉香は言った。

 「流石に総督主催のパーティーですからねえ。いつもの格好は出来ませんわ」

 襟元からズボンの裾まで、ぴしっとしている。しかも服に着せられている様子はなく着こなしているのだ。いつぞやのようなだらしなさの微塵もない。しかし別人のようなという印象はない。見違えるようでも雰囲気はホーガスのものだった。

 ふと茉莉香は襟元の階級章が、前と異なる事に気付いた。階級は大尉だが所属が違う。統合参謀本部、帝国艦隊中枢部のものだった。

 「あの時はすみません。特殊任務に就いていたので所属を偽ってました」

 弁天丸が輸送船襲撃容疑を掛けられ、事情聴取をしたのがこのピーター・ホーガス。統合戦争時にも彼のご先祖様とは関わりがある。

 「まあ一二〇年前からの縁ですからねえ。私が引きずり出されたって訳で」

 てことは、先の取り調べは、統合戦争がきっかけだったってこと?

 「今回も一二〇年前の因縁でお話があります。ご一緒願えませんか、ジェニー・ドリトル嬢と海賊の方々で。」

 ホーガスは因縁話に海賊でと言った。

 「それは、リーゼも一緒にという意味ですか」

「媛殿下にも関係することなのですが、あのお方は、その、私たちにとっても微妙なお方ですので」

 少し言葉を濁すホーガスだった。

 話は、茉莉香とチアキ、ジェニーで伺う事にした。

 

 ヨット部員たちがそのモーレツな健啖ぶりを発揮していた頃、リンはレンジで戻したレーションを電子戦席でつついていた。食堂で食べればよいのだが、ここの方が何故かしっくりした。彼女もその師匠の生態に似つつあった。

 愛用の密閉型ヘッドホンを耳に、音楽を聴きながらスプーンを口に運んでいると、不意に肩を叩かれた。

 振り返ると、スーツ姿のやさ男がにこやかに立っている。

 リンがヘッドホンを耳から外したところで男は言った。

「リン・ランブレッタさん。少しお話があるのですが、御一緒頂けないでしょうか。私は情報部のもので、ナット・ナッシュフォールといいます。」

 リンは情報部という言葉に戦慄した。

 

 

 

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