モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第34話

 「それにしても、流っ石は帝国艦隊ね―。躾がしっかりしてるぅ」

 第五艦隊のノイシュバンシュタインとは演習で何回かお付き合いがある。だから艦隊行動の見事な連携や規律の高さを知っている茉莉香だったが、そこに不安もあったのだ。相手が少女らの乗る船でも、感情や私情に流されない。

 「まさに恭順の意ってやつ!」

 「しっかりなどしていません。セレニティー艦隊が羨ましいです。躾がしっかりしていれば、第五艦隊があそこに出張ってなぞいません」

 リーゼちゃん、皇女が出張るなんて言葉……。いつ覚えた、って私達か。何かと頭の痛いチアキ。

 「セナートまで距離7億キロ、内惑星領域に入ります。惑星セナート光学観測できます。正面に映します。」

 リリィによってスクリーンに映し出されたセナートは、まだ他の星と見分けがつかない。カーソルと情報表示で一点が惑星セナートだと判る。

 「ノイシュバンシュタイン停止します。後方からのレース参加船、付いてきています」

 ノイシュバンシュタインの道案内はここまでのようだ。ここからセナートまで光速巡航で四〇分も掛からない。目と鼻の先なのだ。

 「オデット微速前進。レース船が追いついて来たところでマスト展開」

 茉莉香が指示を出した。

 「じゃあ、レースに復帰するんですね。」

 「だって、このままリタイアなんて嫌じゃない。せっかく参加したレースなんだから最後までやる。弁天丸やミューラさんにはまどろっこしいスピードでしょうけど、ちょっとだけ待ってもらう」

 「クイーン・セレンディピティは問題ありませんわ。ヒルデも共にゴールしたいと思います」

 「後続船追いつきまーす。太陽帆展開。ミズンマスト、メインマスト、フォアマストの順で立ち上げまーす」

 サーシャ、チアキ、ヤヨイによってマストが立ち上がり、帆が太陽光を受ける。

 ゆっくり走り出したオデットの脇を、先に風に乗った船たちが追い抜いていくが、それほど時間を掛けずにオデットもスピードが乗って来る。

 やがて出遅れたように見えたオデットは、その(船齢二〇〇年でも)最新鋭帆船のアドバンテージによって追いつき、他の船を抜き去っていく。

 惑星セナートの静止軌道上に浮かぶインペリアル・ステーションに、真っ先にゴールしたのは白鳳のオデットだった。レースに復帰してからここまでに掛かった時間は四五分。光速巡航とほぼ変わらぬ時間だった。これは、太陽帆船が叩き出したスピードのレコード記録だった。

 

 

 セナートの国会議事堂、星系院。球形の会議場で一〇〇万人もの議員が集まる。それでも帝国の全ての星系からではない。加盟する星々は数十億にも及ぶため、文明圏や複数の星系をブロックに分けてその代表者が集うのだ。(例えば海明星はオリオン腕代表区に属し、評議員は一名)

 その大会議場で、聖王家・セレニティー修好二百年記念大会閉会式が行われた。主賓は、セレニティーからは開会式に代わって妹君のグリュンヒルデ・セレニティー第八正統皇女、聖王家からは女王陛下の従甥子であるソリス・ルクス・スプレンデンス王子。

 グリュンヒルデ姫は、凛々しくもセレニティー王家に伝わるいにしえの戦衣に身を包み、八歳のソリス王子を守護奉るように見えた。聞けばセレニティー王家は、このセレモニーのために由緒あるクイーン・セレンディピディで彼女を送ったという。セレニティーは女王派と言われていたが、侯帝の孫に寄り添う姿を見て評議員たちは安堵した。

 レースの表彰式に、白鳳ヨット部の部長の姿は無かった。トロフィーを受け取ったのは、顧問のジェニー・ドリトルだった。

 

 セナートの小高い丘に建つ聖王家の王宮。

 その謁見の間に二人は居た。それにもう二人。

 「女王陛下、リーゼ皇女と共に白鳥号の私掠船免状をお渡しに参りました」

 茉莉香が言うと、リーゼがチップを掌に載せて女王の前に進む。リンが私掠船免状が入っていたオデットⅡ世メモリーバンクのフォルダーから移したものだ。フォルダーをチップにドラックしたところで、コピーはされず、オデットⅡ世のメモリーバンクから私掠船免状は消えていた。

 女王はチップを受け取ると、聖王家の紋章が入ったジュエリーボックスの中に入れた。

 クリスタル・ヒヒイロカネで出来た、超新星爆発にも耐えるという代物だ。それ自体が宝石と言える。

 「確かに受け取りました。コード書き換えまで預からせてもらいます。」

 「書き換えまでって、どういう意味ですか?」

 女王に訊き返した。てっきり返上だと思っていたからだ。

 「そのままの意味です。事が済んだらお返しします。先々代の皇帝がお決めになったことを軽々しく替えるつもりはありません。その方が、そちらに居る方にとっても良いでしょうから」

 そう言って、銀色の髪を持つ長命種の方に顔を向けた。

 「ミューラさん。あなた方に私掠船免状を出すことは出来ません。もう新たに免状を発行することは、帝国には出来ないのです。一二〇年前に白鳥号に私掠船免状を出したのは、帝国の恥部を解決するために――あなたと交渉する為ですが――非常時特例としてでありますが、それ以上に帝国に対する監視の意味があったのです。帝国が過ちを犯さないために、二〇〇年前の軽挙妄動を繰り返さないためにです。だから白鳥号以来、私掠船免状は発行されておりません。今回、ここにあなたをお呼びしたのは、聖王家の犯した軽挙妄動をお詫びする為です。誤って済む話と時間ではありませんが、すまなかったと言わせてください」

 そう言って女王は海賊に頭を下げた。そして告げた。

 「帝国は、辺境海賊ギルドの存在を認めます。しかし私掠船ではなくギルドとしてです。その活動は帝国民法の範囲内でと承知されたい。」

 これを受けてミューラは言った。

 「いま女王は、海賊と言わず私掠船とされたことに、まず感謝したい。辺境海賊ギルドは、そのお言葉だけで十分です。女王陛下のお詫びの言葉は、いまはそれを受け入れる立場にありませんが皆に伝えます。――私個人の気持ちを言わせて貰えば、――ありがとう――。これで父の無念も果たされたと思います。」

 海賊帽を押し頂き礼を返すミューラから、女王は視線を移した。

 「センテリュオ、もう海賊ごっこは止めて家に戻って来ませんか。あなたの甥っ子も寂しがっています」

 「私はクォーツ・クリスティアだ。スプレンデンス家とは何の関係もない」

 「でも軍事企業に、いいようにされていたではありませんか。いい加減に落ち着いて、伯父様を安心させておあげなさい」

 「あれはもう父ではない。娘を政争の道具としか見ていない親だど、こちらから勘当した」

 「でも、あなたに男の子が出来たら、伯父様はその子を皇位に就けようとするかも知れませんよ。何しろあなたが伯父様にとって一番可愛く思っていらっしゃるのですから」

 「そういう女王の態度が今回の事態を招いたとは思われぬのか。リーゼの気持ちを考えているのか!」

 怒鳴るクォーツ。そんな彼女を放っておいてリーゼを見た。

 「リーゼ、本当によく成長しましたね。あなたを辺境に送ったことは正直賭けでした。でも、その試練を見事に乗り越えてくれた。帝国艦隊の提督にあそこまで言えるとは思っていなかった。嬉しく思います。大伯父様を恨んではいけません。あなたを育てて下さったのですから」

 「はい。リーゼ・アクアは今後も精進します」

 アクシアと言わずアクアと名乗った娘に、女王は満足げに微笑んだ。

 ミューラやクォーツ、リーゼとのやり取りを見つつ、自分たちは侯帝派も含めて女王のいいようにされていたのではないかと茉莉香は思った。海賊も侯帝も帝国も、全てはリーゼの元に、帝国の権威と国民の支持を集中させるために利用されたのではないか。娘も守ってやれない情けない女王と思っていたが。その実とてつもない御仁なのだ。

 「――加藤茉莉香さん」

 「はひ。」

 いきなり振られて、茉莉香は素っ頓狂な声を上げた。

「娘と従妹をお願いします」

 リーゼはともかく仏頂面なクォーツさんはどうもと思わなくもなかったが、女王に頼まれて頷くしかなかった。

 

 女王に渡された私掠船免状でワイルドカードを無効にするコードの書き換えは、統合参謀司令部ではなく王宮内で行われた。それも女王専用のプライベート通信室で。

 設定はリンによって行われた。本来なら、プライベート通信室は女王以外誰も入れない場所なのだが、今回は特別処置がとられた。女王でさえ滅多に使わない部屋に、女王と並んで入る。

 「思いのほか小さい部屋なんですね。」

 中は東屋程度の広さがある、窓のない密室。中央にモニターとキーボードだけというコンソールが置かれてある。

 「まあ電話室みたいなものだから」

 リンの感想にそう言う女王だが、全銀河のネットと端末に繋がることの出来る通信室なのだ。この部屋自体がワイルドカードみたいなもので、どこへでも侵入できる。この部屋が最後に使われたのは二〇〇年前、海賊に与えられた私掠船免状を無効とした以来だった。

 「いまは使えません。あなたが書き換えをしてしまいましたから」

 「いやあ、どうもスイマセン」

 「今後も使う予定の無い部屋なので、使えなくても宜しいのですが、帝国艦隊はこの部屋がいまも使えるものだと思っています。そうでなければコードの書き換えを司令部で行うと言いませんもの。あなたが作ったワイルドカードと通信室は別物だと考えているようですが、今ワイルドカードが帝国の通信室なのですよ。――これはナイショです」

 しいーっと口元に指を立てて言った。

 ほんとうに帝国を乗っ取れる訳だ。しかも無効のしようも再書き換えも出来ない。これでは命が幾つあっても足りない。リンはぶるっと震えが来た。

 女王はジュエリーボックスからチップを取り出すとコンソールに繋げた。

 「では、お願いします。」

 女王に代わってコンソールに就くとリンは作業を開始した。『私掠船免状』を開き『通信室』と同期させプロンプトを展開する。そして自分がワイルドカードで打ち込んだコマンドに変更していく。

 単調で根気のいる作業。普段のリンなら目にもとまらぬ速さでプロンプト画面は切り替わっていき書き換えていくのだが、今回は慎重に手順を勧めた。自分の頭の中にあるワイルドカード・プログラムと比較しながらコマンドを打っていく。したがって時間も掛かる。

 変更を終え、最後に『使用者権限』の項目に自分のコードを打ち込んだ。

 これで終わりなのだが、リンは一部を書き換えた。『使用者権限』の項目をもう一つ作ったのだ。

 「女王陛下、お願いします。」

 促されリンと代わる女王。

 「あら、これは?」

 空欄の『使用者権限』は、今までのものの上位に位置付けられている。

 「最終権限者です。たとえワイルドカードが現れても、それを無効とするように保険を掛けました。女王のコードをお願いします」

 「――そうですか」

 女王は空欄にコードを打ち込むと、Enterを押した。

 スタンドアロンだった通信室がネットと繋がったことがモニターに表示された。

 女王は通信室が正常に作動していることを確認して、コンピュータを切った。そして私掠船免状をジュエリーボックスに戻し、リンに手渡す。

 「では、オデットⅡ世にお返しします。茉莉香さんにも言いましたが、これは帝国の保険ですので」

 判りましたと、チップだけ取り出そうとするリンを女王が制止させる。

 「そのジュエリーボックスはあなたに差し上げます。婚約指輪をそれに入れて、想い人にお渡ししなさい」

 そう言ってウィンクする女王。それを聞いてリンは真っ赤になるのだった。

 

 

 

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