モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第35話

 白鳳海賊団はそれぞれの帰路にあった。オデット、弁天丸、バルバルーサは海明星へ、キミーラ・オブ・スキュラはスカルスターへ、パラベラムとグランドクロスⅡは何処とも知れぬ宙域へと旅立って行った。

 パラベラムに梨理香さんも持っていたのではと思ったが、結局姿を見ずじまいだった。女王の前に鉄の髭も姿を現さなかった。いったい何しに来たんだろうと思う茉莉香だった。

 「ミューラさんたら、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してたね」

 「うん、あんなミューラの顔初めて見た。ファウンテンブロウんときは怖い顔してたもんね。あんな顔もするんだね」

 ハラマキとリリィが言っていることはこうだ。

 閉会後、参加者たちが自分の船に戻ろうと宇宙港の出発ロビーに集まって居た時だ。そこにミューラが現れて、それを見かけた人々が取り囲んだのだ。急に自分の周りに人だかりが出来てミューラは面食らった。

 「貴方が、本当の海賊のミューラさんですね。私、以前からファンだったんです。」

 「海賊ギルドに憧れているんですが、どうすれば入れるんでしょう?」

 帳面を手にサインをねだる者や、握手を求める者、果ては入会希望を申し込む者もいる始末。まだ正式な認可が発表される前に、犯罪組織に入会希望って何なんだろう。ミューラはそれをことごとく体良くあしらいロビーから消えていったが。しかしヨット部員たちは、そんなミューラの半分照れた表情を見逃していなかった。

 「ヒルデはクイーン・セレンディピティで帰らなかったの? 夏休みなんだからセレニティーに戻ってもよかったのに」

 そう言った茉莉香にヒルデが脹れた。

 「私が帰る場所は白鳳女学院ですわ。それとも茉莉香さんは私が居ては迷惑とでも?」

 いやいやいやいや。

 焦って打ち消す加藤茉莉香。

 「でも残念です。せっかく海賊と一緒に行動したのに、帝国がクイーン・セレンディピティを海賊船と認知してくれなくて。セレニティー・海賊連合王国を名乗る絶好のチャンスでしたのに――。茉莉香さん、今からでもセレニティーが白鳳海賊団に加盟することを認めて下さいませんか」

 「駄目駄目駄目駄目。絶対に駄目! このややこしいご時世に余計ややこしくなっちゃう」

 グリューエルのお願いを茉莉香は全力で断る。でもと言いかけるグリューエルを必死で止める。ここで問答になったら絶対に負けるからだ。そしてあらん限りの外交的手練手管で既成事実化されてしまう。

 「ヒルデはセレニティー艦隊の来る前から軍服着てたわよね。あれって閉会式に侯帝の孫が出ると知ってて用意してたの? さすがはセレニティーの外交ね。あれで会場の雰囲気が一変したもの」

 チアキはセレモニーの様子を思い返していた。軍服のヒルデと王子が一緒に立つ姿を前に、評議員たちがほっとしていたのだ。帝国議会は宇宙大学と帝国政府の一部との癒着でぎくしゃくしていたと聞く。それは議会の女王派と侯帝派、元老院と星系院の対立だが、ヒルデとソリス王子を見て一様に安堵の空気が流れた。

 これがセレニティーの皇女と侯帝の孫だったから説得力があったのだ。しかも皇女が軍服を身に纏う意味でもって。セレニティー連合王国は女王派の有力星系と目されている。その星系がクイーン・セレンピディティーで乗り付け、いにしえの戦衣で侯帝の孫を護るように立つ。たったそれだけのことで対立を消して見せたのだ。

 「違いますよ。いにしえの戦衣はいつもオデットに用意してあります。クイーン・セレンピディティーにドレスを持って来させていましたが、ヨートフがこの方がいいと」

 さすがは、一人で戦争を始めて終わらせると言われる男。と思ったが、気になるフレーズがひとつ。

 「へ、いつもって?」

 「皇女が乗る船には常に戦衣が用意してあります。いついかなる時も立ち向かえるよう備えています。皇位継承者の当然の心得です。ちなみに、私のもありますわ」

 グリューエルがにこやかな外向けの顔で補足する。

 「立ち向かうって、オデットよ。戦艦じゃないのよ」

 「戦衣を身に纏う皇位継承者が乗る船は、何であれセレンピディティーです」

 そこでヒルデが、ああああああと、大きな声を出した。

 「お姉様、私はとんでもない間違いを犯しました。セレンディピディにはドレスで乗り込むべきだったのです。それでお姉さまが戦衣をお召になれは」

 「そうでした! そうすれば、このオデットがセレンディピディ。海賊団の船にしてセレニティーの旗艦。帝国も王国を海賊と認め負えなかったのに…。グリューエルは絶好の機会を逃してしまいました…」

 そう言って悔悟に暮れる姉妹。まあそんな事態はヨートフが認めないと思うが。

 「あの、いちおー言っときますけど、部活に関係ないもの持ち込み禁止ですからね」

 海明星に帰ったら、まずロッカーの一斉点検だと固く思う茉莉香とチアキだった。

 リーゼは、女王の元に還らずオデットに乗っていた。侯帝派の脅威で帰れないからではない。リーゼの望みでそのまま留学を続けたのだ。だから彼女も、海明星への帰路にある。

 帝国艦隊を前に毅然と言い放った姿に、女王派、侯帝派の区別なく彼女を認めた。彼女こそ帝国を継ぐにふさわしいお方だと。何より動揺していた帝国艦隊の空気が一変した。お神輿でと考えていたリーゼ提督の話が、本気で迎えようという話になっていた。リーゼはそれを断った。

 侯帝が折れた一番のきっかけは、女王の言葉だった。女王は彼にこう言ったのである。

 「リーゼは私の前でもアクシアを名乗らずアクアと言いました。あの子は皇位に未練を持っておりません。私もあの子が帝位に就かなくても良いと思っています。ただしそれが帝国にとって良い事であれば。

 私はソリスを養子に迎えようと思います。ソリスもリーゼに懐いておりますしね。ですから伯父様。ご隠居なされませ。」

 侯帝は項垂れるしかなかった。

 「それでリン、国家乗っ取りの容疑は晴れたの?」

 ジェニーがリンに聞いた。リンがジャンクフートまみれになっている電子戦席から振り向く。この辺も、茉莉香にとって見覚えのある光景になっていた

 「ああ、あのあと統合参謀司令部に出頭して、女王の通信室で無事書き換えが終わったことを報告したよ。それでワイルドカード無効化になったことを検証して無事放免。まあワイルドカードをもういっぺん目の前で作らされる羽目になったけどさ。女王の通信室と聞いて技術士官の連中は青くなってたよ」

 帝国艦隊を統率するためにワイルドカードを利用しようと考えていたのだ。それが、通信室で、との意味を悟って震えあがったのだ。

 リンに掛けられていた容疑は国家内乱陰謀罪。国家乗っ取り罪なんて罪状は無かったので、それによって引き起こされる事柄でつけられた。それは晴れたが、電波通信法の容疑はそのままだった。それに対する判決は『保護観察処分』だった。

 「茉莉香―、保険会社のショウさんから通信。弁天丸に繋いだけど船長こっちだからって回されてきた」

 「え?こっちで取る。廻して」

 マリィが茉莉香に送った。

 ハァイ!と、いつもの乗りでアフロ怪人がモニターに出た。

 話の内容は、弁天丸の仕事依頼だった。そろそろ私掠船免状の更新がヤバイんじゃないかと付け加えて。

 「ああああああ忘れてた! 更新! 海賊ギルドやら期末考査やらネビュラカップやらですっかりお仕事忘れてた! 受けます、受けます、是非やらせてください!」

 そうショウに手を合わせて拝む茉莉香。

 とりあえずの日常が戻って来たようだった。

 

 

 夏休みもそろそろ終盤という頃。茉莉香は部活にバイトにお仕事に、高校生最後の夏を満喫していた。それこそこれでもかって位に。勉学の方はどうかというと、やってはいるのだが受験生のそれではない。ジェニー先輩の今頃は、それこそ必死に勉強していた。それは宇宙大学を目指すという明確な目標があったからだ。

 周囲の者たちは

 「ヨット部の部長は、宇宙大学を目指すのが慣例じゃない。ジェニー先輩にリン先輩、茉莉香も当然宇宙大学でしょ」

 などとお気楽に言う。

 「海賊を続けるかどうかは、後で追々――」

 などと言っていたが、そろそろ本気で決めなければいけないのだ。海賊か、進学か、別の道か。

 決断は自分が決めたベスト。それが幼い頃からの身上だった。じゃあ自分にとってベストは何だろう。そう思いかけて茉莉香は被りを振った。逆だ逆! 決めた事をベストにするんだった。やりたい事すべき事を決めてベストに導く。

 自分がやりたいことは、ヨット部に入ったことも弁天丸の船長になったことも動機は一緒だった。――広い宇宙を見てみたい――

 「よし!」

 とりあえず茉莉香は、母親が使っていた参考書を開くことにした。

 

 九月からは新年度、しかし入学は九月一五日に行われ実際に新学期がスタートするのは一〇月からだ。だがどんなに遅くとも八月一五日までには進学できるかどうか通知される。しかしジェニーの元にはなんの沙汰も来ていない。

 リンには入学に当たっての諸連絡とタニアへの上陸許可証が来ている。オデットが海明星に帰投したその日に届いた。

 退学かそれとも停学か。通知を寄こさないのは、大学側は処分を決めず、仕出かしたことを鑑みて自分で決済せよという事なのかもしれない。退学処分となるより自主退学した方が経歴に響かないだろうという温情の積もりなのだろうが、そうなると、意地でも退学届けなんか出してやるもんかという気持ちになる。切るなら切れだ。

 しかし宇宙大学は、ジェニーとリンが仕出かした事でそれどころではなかったのだ。機密漏洩と癒着の精査もあるが、それは大学運営の問題で些細なことだ。むしろ風通しが良くなって組織の虫干しになる。問題は、漏洩した内容が大学創設の根幹に障る事態となったことだ。宇宙大学は特定の文明や勢力に肩入れしない、これが創設時からの基本姿勢である。むしろ肩入れを防ぐために創設されたものだ。これが破られた。星が消え、銀河系が戦争の瀬戸際に立っている。その原因を作ったのは宇宙大学。明らかに辺境星系連合に技術の肩入れをしてしまったのだ。これをどう解決したものか、まるで出口が見いだせない。治外法権があるため、有力星系に助力を求めることも出来ない。

 外交的努力で、帝国には辺境星系連合の独立を認めてもらい、辺境星系連合は大学から流出した技術を封印するという案が建てられたが、歴史学者からの評価は芳しくない。一度流れた技術は止めようがないというのが歴史の必然なのだそうだ。とくにアテナ・サキュラー教授はそうで、何の保証もない融和は疑心暗鬼を生み滅亡へと悪化させるだけだという意見だった。

「ジェニー先輩。オデットにお仕事の依頼が来ています。」

 ジェニーはそのまま白鳳女学院でヨット部顧問をしている。大学に戻ることも出来ず、会社の経営は白鳳に居ても出来るからだ。

 そのヨット部に仕事依頼のメールが届いた。

 ジェニーは一年生が持って来たメールを見た。フェアリージェーンの海賊営業を見て他の旅行会社が頼んで来たかと思ったが、依頼主は宇宙大学だった。

 考えあぐねた挙句、宇宙大学は権力に属さない力を使う事にした。海賊である。

 銀河系で宇宙大学が依頼できる海賊は、白鳳海賊団しかない。白鳳には宇宙大学の関係者がいるからだ。いまジェニーに大学へ戻ってもらう訳にはいかない、これが沙汰の無い理由だった。

 

 

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