モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第36話

 ジェニーは茉莉香、チアキ、リーゼの三人を呼んだ。部員でではない。茉莉香は弁天丸船長、チアキはバルバルーサの船長代理、リーゼは海賊団の総帥としてだ。場所は宇宙港の中華屋。いまはさしずめ海賊団のアジトか。ここにミューラとグリューエルが揃ったら白鳳海賊団最高幹部会議だ。

 「ここに来てもらったのは、部活じゃなくて白鳳海賊団としてのお話なの」

 そう切り出してジェニーは三人に仕事依頼のメールを見せた。

 「差出人は宇宙大学、宛先が白鳳海賊団。依頼内容は、ステラスレイヤーの破壊と技術の無効化ですって。自分たちから流れた技術を封印したいようね」

 「ステラスレイヤーって、あの超新星爆弾!」

 「オリオン腕統合戦争時の、宗主星側の殲滅兵器の名前ですね」

 「リーゼちゃん、知ってるの!?」

 「ええ聞き齧り程度に。正史には出てきませんが、聖王家に伝えられています」

 旧植民星連合出身の三人は複雑な気分だった。自分たちと無関係な星系を巻き込んで大量殺戮をしようとしたオリオン腕文明をいまだ帝国は警戒しているのか。

 「帝国にとっても伏せておきたい事情があるのでしょう。通史では稀に見る理想的な併合だったと言われていますし、オリオン腕文明は自分たちの手で解決したではありませんか」

 その事情とやらを茉莉香たちは知っている。

 「その元となった高エネルギー転送システムをそう呼んでるようなの。もともとそれが本来の目的だったし」

 「その技術を封印したいって大学は思ってるんですね」

 「でもプラントを破壊したって、出てしまったノウハウは無くならないわ。辺境星系連合のステラスレイヤーが、いまはまだ独自開発じゃなく借り物の技術の寄せ集めだとしても、やがで知識の集積が進んで自前で作れるようになる。一度使われてしまった以上、」

 チアキはそこまで言って、ちらとリーゼを見て続けた。

 「帝国も対抗して作ろうとするだろうし、むしろ拡散するわね。帝国の企業を通じて流出したものだもの、それを封印するには使わないし使わせないと決めた強力な勢力のコントロールが要る。でもそうなると全面戦争になるしかない。結局は銀河帝国が勝つだろうけど、それまでに幾つも星が消えるわね。大きな犠牲を払っての全銀河統一では、帝国もこれまでのように自治と不干渉のままではいられない」

 それに頷いてジェニーは言った。

 「宇宙大学もね。宇宙大学は研究員も大学を管理運営する理事たちも、その殆どが銀河帝国出身者で占められてるわ。様々な星系からの出身者で文明も異なるけれど、帝国が銀河系全般に拡がったいまでは右を見ても左を見ても帝国市民。でも一部には帝国に属さない人々もいる。でもその人たちの名誉のために言っとくけど、今回の事件にその人たちは関わっていない。流出させたのは帝国出身者よ。むしろ彼らの方が大学設立の理念をよく理解してる。自分の周りが同じ勢力ばかりの帝国出身者はその認識が甘くなっていたようね。そこを、戦争をプロデュースする連中に付け込まれた。銀河系統一の暁には、宇宙大学はこれまでのような治外法権や大学自治は認められないでしょう」

 「アテナ先生の話では、統合戦争の時でみんなも知ってるように、未接触の文明にはとても気を使うわ。でも交流のある文明にはそれ程じゃない。辺境星系は銀河帝国に属していないだけで既知の文明、本当はそうしたものにこそ神経質になるべきだったのに怠っていた。

『知性にはそれに相応しい資格が必要』。文明が次のステップに飛躍するためには、踏み出すだけの十分な基盤と変化を受け入れられる能力が必要である。それを知性と呼ぶ。

――銀河帝国も含めて勢力というものにね。」

 そう語るジェニーは少し寂しそうだった。それを見て茉莉香は、ああ先輩は本当に宇宙大学の人なんだなと思った。

 「それで白鳳海賊団の方々に集まってもらった訳。大学の尻拭いを海賊が受けるかどうか」

 「話の流れは判りました。でもなぜ私たちなんです? むしろこういった依頼は海賊会議やミューラたち大人の前ですべきなのでは」

 チアキがジェニーに向き直って尋ねた。

 「海賊依頼が船に対してならね。でも船の指定はされてなく『白鳳海賊団』とあるわ。大学に問い合わしてみたのだけれど、海賊団に加盟している辺境海賊ギルドや植民地連合の海賊には出されていないの。茉莉香やチアキの所には来てる?」

 ううんと被りを振る二人。

 「つまりオデットがある私たちに依頼して来た。」

 「でも太陽帆船ですよ。ろくなというより、全く武器もない船ですよ。大学は何を考えているんです」

 「船の人選と作戦はこちらに任せるようね。それと参加する海賊船はタニアに立ち寄られたしとのことよ。当方に希望する技術供与の準備がある――と。」

 「流出させておいてなお出すつもりなんですか!」

 チアキがくあっと眼を剝いた。

 「それだけ切羽詰まってるんでしょうね。前代未聞の大判振る舞いよ」

 「依頼を受けるかどうかの前に、確認しておきたいことがあります。流出を企んだ人たちや戦争をプロデュースするはどうなっているんですか」

 と茉莉香は聞いた。

 「流出させた研究員の特定と内容の精査は終わっているわ。それを帝国政府には報告済み。私とリンがすっぱ抜いた内容とそれほど変わらないようだけど」

 「帝国政府は、それをもとに捜査を進めています。戦争をプロデュースするという企業間提携は解体され、その責任者も含めて拘束されています。まあこの手の話は後を絶ちませんが。それと、プロデュースを企画した元監察局参事官は行方知れずです」

 ジェニーとリーゼの話に、今回は宇宙大学が絡んだだけで後を絶たないのかと茉莉香は思った。

 「じゃあ、とりあえず戦争をプロデュースする流れは断ち切ったんだ。黒幕の参事官は行方不明でも帝国内に居場所はないし、辺境星系連合に逃げたとしても、持ってる情報は帝国のスキャンダルぐらいなもの。いくら優秀だっていってもネゴシエイターの手腕でしょ、そのパイプはもうない。辺境星系連合でも利用価値ないでしょうね」

 かつての、パク・リーの末路を思った。

 「この話、受けようと思います。本当は総帥のリーゼが決定することなんだろうけれど、彼女には帝国皇女って立場もあるし、海賊として判断します」

 「海賊としてとは?」

 ジェニーが茉莉香に訊いた。

 「ステラスレイヤーです。超新星爆弾ではないけれど、もともと私たちの文明が生み出したアイデアです。それ自体は素晴らしい考えなのにそれを兵器として転用してしまった。そしてもっと恐ろしい兵器として生まれ変わってしまった。かつて海賊たちはステラスレイヤーを葬り去ろうと必死で戦いました。ここで落し前をきちんとつけないと、戦ったご先祖様に顔向けが出来ません。」

 チアキが、ふんと黙って頷いている。

 「それに単結晶です。ガーネットA星で白鳥号が持ち去ってからの因縁がオデットにはあります」

 「そうよね。考えてみれば一二〇年前からずっと繋がっているわよね」

 ジェニーが思い返した。ステラスレイヤーのガーネットA然り、単結晶を巡ってのラキオンや七つ星連邦然り、時空跳躍のきっかけとなった時間旅行然り。全部にオデットⅡ世が関わっている。

 「オデットって船齢二〇〇年余りでしたね。ちょうど帝国が掃討戦争をやっていた頃です。初めは実験船として造られたそうですが、なんの実験だったのですか」

 そうリーゼが尋ねた。

 「そういえば何の実験だったんだろ。その当時でも太陽帆船なんてとっくに時代遅れなものだったのに」

 「どこで造られたかもはっきりしてない。私たちのオリオン腕だとは思うんだけど、何処の何製か記録がないわ。ログが二〇〇年前から始まっているから船齢が解るだけで」

 物理領域の枷が無くなって以来、船は建造から廃船になるまで行動がログとして残される。もっともその記録の多くが正体不明のファイルに置き換わっているが。

 「超光速跳躍のユニットだってそうよ。帝国製らしいというだけで出所が明らかでない。あれってオデット用の特注品だそうだけど、船体構造が詳しく解ってないと造れない。併合前から何らかの交流があったって証拠なんだろうけど、取り付けるオデットの側も、予め想定した船体構造を持ってたようなのよね。バルバルーサとの連結や今回のレースでそれがよく解った」

 三者三様に思い巡らすが、オデットの謎は深い。

 「受けるにしても非武装のオデットだけで海賊は出来ないわ。商船を襲うのと訳が違うのよ、海賊たちに召集掛けるの?」

 チアキが茉莉香に言った。

 「受けたことをお知らせはするけど招集は掛けない、だから『海賊の歌』も流さない。知らせを受けて来てくれた戦力で作戦を考えます」

 海賊の歌は流さないと聞いてチアキはほっとした。あれがまた宇宙に流れるのだけは御免だ。

 「最悪、弁天丸とバルバルーサだけって事もありうるわけね。」

 「その時は尻尾巻いて逃げる。ステラスレイヤーの破壊は帝国艦隊の方が戦力あるし。でも、所在位置の確認と流出した技術情報は何とかしたいなあ」

 「尻尾巻いてって…まあ、勝てない戦はしないのが海賊よね。でも流出した技術情報を何とかするって、実際問題どうするつもり? 技術のノウハウを消し去ることは出来ないのよ」

 うーんと顎に指を立てて思案しながら茉莉香は言った。

 「消し去ることが出来ないんなら、無意味なものにしちゃえばいいんじゃない? 下手に隠そうとするから問題が起きる、対抗策も限られる。みんなが知っちゃえば、それだけ知恵も出し合えるし――」

 「そんな! 火種が全銀河に広がるようなものよ!!」

 当然、眼を剝いたチアキだけでなくみんながあっけにとられた。

 「相互確証破壊ね、むしろ抑止になるって言う。でも危険だわ。その陥穽に落ちて滅びてしまった文明も多いのよ。その段階に至らずにステップを越えようとすれば、技術革新に押し潰されるか疑心暗鬼に囚われて自滅するか」

 ジェニーはアテナの自宅で聞いたアリシア文明の話を思い出していた。

 「抑止力とかそんなんじゃないです。単結晶で思い付いたんですが、あれって同じ反物質でないと対消滅させられないんでしたよね。だから恒星並みエネルギーの精密照準に使われてる。なら、やって来るエネルギー波の避雷針に出来ないかなーって」

 「それにステップに届いているかどうかは、その時代の人たちが判断することです。たとえば未来からの情報伝達があって、それが与える影響に今の人たちが未来に責任が持てるかって話ですけど。まあ宇宙大学の技術は未来からの情報みたいなものですから」

 その言葉にジェニーは刮目した。それは、アテナ教授の言うジェニー例題。

 「宇宙大学に技術の公開をお願いします。」

 そう加藤茉莉香は要求した。

 

 

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