銀河系を巻き込む全面戦争の危機を目前に、――実は大艦隊同士の激突が起こっていないだけで、加藤茉莉香茉が宣戦布告した時点で銀河大戦は始まっていたのだが――、大きな問題が銀河系の命運に立ち塞がっていた。
それは、銀河大戦の中心にいるのが、女子高生達だということだ。一部には中学生も混じっている。学生の本分は勉学である。定期試験は、宣戦布告が中間考査後の十月十日に行われた事でクリアされているが、いくらこの航海(戦闘行為)が練習航海(という名の実戦)であったとしても、勉強をしなくていいことにはならない。だいいち出席日数に響く。
そこで白鳳女学院が執った手は、『出席日数は練習航海を部活の遠征扱いとし出席と見なす。ただし、単位は座学レポートを提出すること。』である。
幸いオデットには、教員資格を持った宇宙大学の学生が二人もいる。リンは入学したてだが、卓越したハッキングの知識から、高校数学程度ならという限定で特別に認められた。ジェニーは文科系全般である。生物化学は保険教師のミーサがいる。体育は顧問をしていたケインだ。数学や地学はどうしたかというと、なんと無限彼方が担当した。彼は年少ながら宇宙大学の客員講師である。亜空間を潜航しXポイントを研究する彼の物理や地学の素養は伊達じゃない。幼い頃から父である無限博士に叩き込まれている。一種の英才教育だ。
そこでいまオデットのブリッジでは、ジェニー、リン、無限少年に、弁天丸から出張して来たミーサとケインによって、集中特別講義中である。茉莉香も参加している。何しろオデットがいま白鳳女学院だからだ。
入れ代わり立ち代わり講師が立ち、生徒たちに容赦ない詰め込みが行われる。
「和歌とソネットとの特徴的違いは何? 言葉が違うじゃ許さないわよ。それと古今和歌集は当然暗記してるわよね?」
「いいか、数学はいかに楽をして大きな成果が得られるかだ。どうだ、お前たちにピッタリだろ? ハッキングは向こうの暗号を読み裏をかくことだが、暗号には数論や代数幾何、離散数学が必須だ。離散数学なんかは行列,集合,順列組合せ,論理と証明,帰納法と漸化式、数列などが総動員される。みんなお前たちが習ってきたものばかりだぞー。負けたくなかったら、苦労してでも楽を見つけろ!」
「今の時代、二重螺旋での遺伝情報だけでは済まないから。遺伝子組み換えにおける最も基本的な概念は? はい、茉莉香さん」
「健全な精神は、健全な肉体に宿る。これは五体満足という意味じゃないぞ。常に切磋琢磨し己を鍛えるという意味だ。コンジョー!」
「確率論には古典的確率論と公理的確率論がありますが、基礎概念では、標本空間とその部分集合のうち特別に選んだものを事情と言って、集合上で定義された実数値関数でF可測であるものを確立定数と呼ぶ……て、皆さん。ついて来てますか?」
目が点のヨット部員。これではブラックばばあの補習の方が(今年から授業を持っていないが)数段ましだ。特に年下の無限少年から講義を受けるのが辛い。一人、ヒルデは楽しくて仕様がない様子だったが。
『だあ~疲れた――』
茉莉香とミーサが同時に椅子に倒れ込んだ。茉莉香は教わる側で、ミーサは教える側でだ。
「やっぱ、女子校の教師なんてやるもんじゃない。解ってははいたんだが――」
ケインもげんなりしている。
「特別ボーナスに目が眩んだんでしょ」
クーリエが見向きもせずに言い放つが、ケインは言い返せない。事実、白鳳女学院(のスポンサーであるジェニー)から魅力的な報酬が提示されたからだ。
「でも何で、あらゆる方法を使ってサボろうとするのよ、あの子達…」
「まああのリンの後輩だからな。あいつらリンの『いかに楽をして大きな成果が得られるか』で目を輝かせていたぜ。喩えを実践しちまうんだもんな~。参ったぜ」
「遺伝情報のレポートを書かせたら、二重螺旋を∞で閉じた図だけで提出した子もいたわ。あながち間違っていないけれど。――ねえ船長。ヨット部って、普段どんな活動方針でやってるの?」
「活動方針と言われましても…、いかにサボるかです。はい…」
一日五時限のスパルタ講習に加え、部員たちの気ままな行動に、心底疲れた茉莉香が力なく言う。まあ、去年までの時自分もそうだった。それを纏め上げていたジェニー先輩やリン先輩の凄さが解る。
「シュニッツア、体育教師代わってくれ。ボーナスぜんぶ渡すから…」
「いや、断る。」
ケインのたっての頼みも、すげなく断るシュニッツア。ケインのやつれ様から、本能が警報を鳴らしている。女子高教師はジャングルでの撤退戦より過酷だという事を。
植民星の海賊船たちは、オデットを先頭に、現在、辺境の緩衝地帯に向けて進出中である。
第五艦隊との戦闘を終えて、海賊団は統合参謀総司令部に向けて電文を送った。
『ステラスレイヤーは破壊させてもらいました。これより、辺境星系連合のステラスレイヤーも片付けます。銀河統一も独立も、殲滅兵器は必要ありません。正義の海賊は、相互確証破壊などという考え方に鉄槌を加えます。』
これをわざわざ平文で打った。聞き耳を立てている相手にも聞かせるためにだ。
二一隻の海賊船は、刻むように超光速跳躍を繰り返し、派手にプレドライブ現象を起こしながら辺境に向かっている。特にステルスもかけていない。盗み見している相手に現在位置を知らせるためだ。
何故そんな目立つ行動を取るかというと、見せびらかすためだ。第五艦隊との戦闘は辺境星系連合も掴んでいる。戦域に展開していた無人プローブがその証拠だ。恐らくリアルタイムで観ていただろう。その他にもギャラリーが一人。
「ねえ、まだピケット(斥侯艇)は居る?」
百目は戦闘開始からずっと宙域をモニターしている。
「ああ、戦域をかなり離れているのに、奴さんずっと張り付いてる。」
よしよしと頷く茉莉香、余程演出が効いたと見える。派手なやり方で一〇倍の戦力を消し去って見せたのだ。アピール度は満点だ。さしずめスタンディングオベーションという所か。
「でも誰なんだろう」
小首を傾げた。とっくに無人プローブも消えたのに、単独で追い掛け続けている。その様子から、こちらが監視していることに気付いてないらしい。よっぽど自分のステルスに自信を持っているか、或は他に目的があるのか。事実、タニアでチューンアップされていなかったら見落とすほどに微弱な反応だった。
やがて辺境との緩衝地帯に近くなると、そのギャラリーも消えた。
何度目かの跳躍ののち、水素原子もまばらなオケアノス宙域に到着した。辺境星系連合との国境地帯、ここが最初の目的地だ。
「着いたぜ、オケアノス7187g3。緩衝地帯だ。」
百目がコントロールパネルを確認する。元々オケアノス宙域はグレーゾーンだった。帝国の法律もここまでは届かない、そこに海賊ギルドが目を付けて活動の場としていた。帝国が海賊ギルドの存在を認めたために帝国領内に組み込まれたが、ギルドが参加している白鳳海賊団が銀河帝国に宣戦布告して、また緩衝地帯に戻された。
「前方に重力波反応、質量から要塞と思われる。――出て来る。」
空間サーチするルカが知らせる。
何もない空間の、二一隻の近距離に、球形の巨大な要塞が出現してくる。
特徴的な眼窩のように見える二つの穴、髑髏星だ。
茉莉香にとって、ここを訪れるのは四度目になる。一年前と一二〇年前と、数か月前にそして今回。
『こちらスカルスター管制。そちらのトランスポンダーは確認しました。オデットと弁天丸は、右桟橋のアップサイド・オープンポートに入港して下さい。他の海賊船は錨泊空域で停泊をお願いします。修理等が必要な船があれば申し出て下さい。ダウンサイドのクローズドポートで整備ドックが使用できます。――オリオンの腕の海賊団の皆さん、ようこそ。』
通信画面に出たオペレーターの対応は、ずいぶん友好的なものだった。
「あっらー、前とは全然違うわね。スカルスター周辺空域での戦闘は厳禁、挑発行為でも戦闘と見なすから極力穏やかな飛行を、なんて警告してたのに」
クーリエは、以前来た時との変化に驚いた。茉莉香たちとサイレントウィスパーで訪れた時には、「変な動きを見せたら、即撃つぞ。」とホールドアップを噛ませてきたのだ。
「そりゃ帝国艦隊と、『軍事演習』っていう接触のあとに乗り込んで来てたんだから、警戒するのも当たり前よ。けれど今は、こちらとは同盟関係。それ以上に、海賊ギルドに長年掛けられていた濡れ衣を、オデットが晴らせてくれたって事が大きいようね」
ミーサの意見に、そうなんだと思う茉莉香。けれど、リーゼを白鳳に送り届けるよう手配し、『ルビコンを越えろ』と檄を飛ばしたのはミューラだ。
オデットと弁天丸は、髑髏星の右側の眼窩に進入し、揃ってエアシールドの桟橋に着けた。
桟橋はオデットと弁天丸が並んで接岸できるほどに大きい。他にも幾つもの大型船が、対岸や上部の桟橋に接岸している。その中には、深紅のキミーラ・オブ・スキュラやピンク色の愛の女王号の姿もあった。
茉莉香ら弁天丸の乗組員とオデットのクルーたちは、宇宙服無しで桟橋に降り立った。
いま入港して来た大きな入口の向こうに、宇宙空間が見える。港はほぼ無重力で、ポンと跳躍しながら、巨大な空間のなかで行き交ったり作業する人の姿が見える。
エアシールドの解放型宇宙港は、開発星のステーションや古い宇宙港にありがちな、淀んだ空気は無かった。見た目はガントリークレーンやロボットアームが剥き出しで雑多な印象を受ける宇宙港だが、機械や油の臭いがしない。中央やポルトセルーナのような大型のジャンクションで見られる地上と同じような澄んだ空気だ。これだけでもかなりな設備が施されている港だと解る。
桟橋には、白鳳ヨット部に続いて、連絡艇で乗り付けた海賊たちが続々と上陸してくる。
桟橋に降り立った茉莉香たちを迎えたのは、ミューラ自身と姉のマイラ、そしてクォーツ・クリスティアだった。
「来たわね、茉莉香」
「はい。帆船レースではお世話になりました」
「――見たわよ。リーゼにあそこまでさせるなんて。叔母としては、ちょっと言いたいことがあるわね。あなたの学校のヨット部は、普段どんな方針で部活動しているのかしら」
いきなりのジャブである。部長として、『あれは私も知りませんでした』とは言えない。
「お前さんも、大分海賊ってものが分かって来たようだねぇ。でも、何だい?あの衣装は。海賊じゃないじゃないか。まあ派手で良かったけどさ。でも、演出が足りないねぇ」
今度はミューラからストレートが来た。
「…は。はは……」
乾いた笑いで堪える。
「まあまあ二人とも、それぐらいにしてあげなさいな。――そう、あの子。まだ小さいのに海千山千の男共を蕩かしてあしらっていたけれど、セレニティーの皇女だったのね。誰の影響なのかしら。聖王家の世継ぎをあのように化けさせたのも貴方なの?凄い手練手管だわね。ねえ貴方、愛の女王号を継いでくれない?」
ここで必殺のアッパーカット炸裂。とんでもない誤解の嵐に、茉莉香はマットに沈むしかない。
髑髏星に来た理由は、ミューラと合流することもあったが、ここで辺境星系連合の情報を得てこれからの行動を擦り合わせるためだ。闇雲にステラスレイヤーに向かっても、相手の戦力が判らなければ危険極まりない。
『ザ・海賊会議!・イン・スカルスター』というところか。
海賊会議は、髑髏星にあるパレスホテルで行われた。ここが訪れた海賊たちの宿泊所にもなっている。会議は船長らで行われ、会議が終われば、乗組員全員参加の大宴会だ。
オデットからはチアキと海賊団総帥の立場のリーゼ、そして各海賊船の船長。ギルドからはミューラと、オブザーバーとしてマイラ。黄金髑髏はクォーツひとりで鉄の髭は来ていない。
「よく集まってくれた。辺境海賊ギルドは、あなたたちを歓迎する」
会議を仕切るように、ミューラ・グラントは、その鋭い目で全員をねめるように見渡しながら言った。
「歓迎するのは俺達の方だ。よく白鳳海賊団に参加してくれた。ギルドに集まったんじゃなく、あんたらの方が来てくれたんだ。」
何でも見通す目を平然と受け流しながら、バルバルーサのケンジョーが釘を刺した。
「ギルドには数千隻もの海賊が所属していると聞いたが、いまここに居るのがキミーラ・オブ・スキュラと愛の女王だけというのはどういうことだ?」
クルップ侯爵がワインを傾けながら質問する。
「知っての通り、ここは辺境星系連合との最前線だ。宣戦布告となる前から、海賊ギルドは連合とは険悪な状態にある。越境攻撃も頻繁に受けており、たいした装備を持たない海賊は、いまギルドを離れている。戦力は総勢一二〇〇隻といった所だ。それで防衛に対処しなければならない。――今回の遠征は、私と姉だけで十分だ。ミューラは強いからな」
そう言って凄みのある笑みを浮かべる。
「まあ、こっちも消し飛びそうな二一隻だがな。でも十分強い」
それは強がりでも何でもなく、第五艦隊の精鋭二〇〇隻あまりを散々引っ掻き回した実績がものを言っている。キミーラ・オブ・スキュラも、以前サピエント自治軍の艦隊をたった一隻で撃退していた。しかも帝国の諜報部員を前に手の内を晒したくないからと適当に手を抜いて、相手を本気にさせずに諦めさせて追い払った。
「グランドクロスを忘れてもらっては困る。重力操作には一日の長があるフネだ。戦い方は君たちを参考にさせてもらう。跳躍推進を攻撃でなく防御に使うとは中々面白かったよ。田舎の海賊も侮れない」
ツンとすました顔でクォーツ。
「あのー、鉄の髭さんは参加しないんですか?」
そう茉莉香が訊いた。
「アイツは勝手気儘に動いている。いまは連合の動向を確かめているかな。正面衝突になれば戦いに参加するかもしれん、だそうだ」
自由行動で行くらしい。
「戦うったって、重力操作も無い艦でどう行動するつもりなのか…」
「えっ、改造してないんですか!?」
「勘が鈍るとか言って宇宙大学には立ち寄っていない。いったい何考えてるんだか分らん。」
あいつのことなんか知らんと、話を放るクォーツ。
「さて、今後の作戦なんだが、どう動く?」
話を作戦会議にミューラは戻した。
「敵の戦力は、どうなってる」
「軍事衝突がまだ無いからな。総勢一七〇〇〇まるっと残っている」
総数一七〇〇〇という事は、初めて銀河帝国に現れて見せた一五〇〇〇隻の大艦隊は、その戦力の殆どだった訳だ。残りの二〇〇〇隻余りは補給艦や星系の哨戒部隊。
「辺境星系連合は、一五〇〇〇の戦力を六つに分けている。二〇〇〇を五つと五〇〇〇、二〇〇〇づつが各星系の防衛に、五〇〇〇が進出して来た帝国とやり合うって算段だ。」
ミューラが敵戦力の情報を説明した。
「最初に喧嘩売って来た割りには、専守防衛に徹した布陣だな。しかし、第七艦隊相手に五〇〇〇てえのは力不足じゃないのか?」
その布陣にウィザー・スプーンが疑問を差し挟む。
「ステラスレイヤーに賭けているのだろう。そのステラスレイヤーの護衛に二〇〇〇を割り当てている」
「そのステラスレイヤーの位置は解っているんですか?」
茉莉香が質問した。これからぶっ壊しに行く場所だ。
「ああ、七つ星連邦の主星に設置されている」
「自分とこの母恒星に!?」
茉莉香は、驚いて素っ頓狂な声を上げた。超兵器はいちばん狙われやすい対象だ。それをわざわざ母恒星に置くなんてどうかしてる。遠距離攻撃されたらどうするつもりだ。例えば帝国のステラスレイヤーなんかに――。
「だからこそ人口密集地に置いたんだ。人口が密集する場所に遠距離攻撃仕掛ければ大変な被害になる。そうなれば、後は全面的な殲滅戦突入しか選択肢がない。それに、ステラスレイヤーのリスクを自らが負うことで、連合の信用を得る意味合いもあったのだろう」
銀河帝国がステラスレイヤーで相手のものを攻撃しても、そのリスクに合う効果は得られない。そのまま殲滅戦に移っても戦力に勝る帝国側が勝利するだろうが、銀河帝国も大きな痛手を被る。そして帝国の威光は地に堕ちる。
「銀河帝国だってそうよ。何故ステラスレイヤーをガーネットAに設置したのか、周囲に何もない宙域で基礎データも揃ってることもあったけど、そもそも宗主星があそこにアレを置いたのは、植民星側を灼くためだったのよ。あそこがステラスレイヤーで攻撃されたら、帝国版図にある旧植民星は全滅、近隣にある星系だって只じゃ済まない。その中には、有力なセレニティーだってある。――そのまま殲滅戦に移行よ」
チアキが耳打ちした。だから、双方ともに長距離攻撃できない。
「超兵器の傘…」
まさに相互確証破壊の考え方だ。でも間違っている。
「ステラスレイヤーを沈めるには、近距離から精密攻撃するしかない。しかしそれには敵の中枢域に突入する必要がある。当然守りも分厚い。さっき二〇〇〇は星系の防衛に当たると言ったが、それとステラスレイヤーの守りの二〇〇〇とは別だ。つまりステラスレイヤーは四〇〇〇の兵力で守られていることになる」
それに引き換え、こちらはたったの二四隻。二〇〇〇でも無謀な差だというのに。しかし、ミューラは言った。
「二〇〇〇だ四〇〇〇だと言っているが、所詮烏合の衆だ。各星系からの寄せ集め艦隊だよ。中心となる七つ星連邦は各方面に艦隊を振り分けている。他の星系軍も同様だが、自分の星系が属する方面軍に戦力を多く振り分けている傾向が強い。だが、盟主を気取っている七つ星連邦はそれが出来ない。――どうしても参加している星系軍を信用し切れないんだろうな、御目付艦隊となっている。後ろから銃を突き付けられているような気分の中で一致団結できると思うか? つまり、各方面軍とも内では疑心暗鬼が渦巻いているという訳だ」
「じゃあ、ステラスレイヤーを守っている七つ星連邦軍はどの位なんですか」
「星系方面軍とプラント防衛軍合わせて一〇〇〇といった所だろう」
四〇〇〇からすればかなり減った。だがまだ辛い。
「そこで、私事で恐縮なんだが――」
そう唐突に前置きして、ミューラが続けた。
「先日、辺境星系連合の攻撃を受けてね、うちの海賊船が大破させられた。沈みはしなかったが、かなりの被害を受け怪我人も大勢出た。船長も人事不省で、その船長が結構仲間内に人望がある奴だったものだからギルドの連中がいきり立ってしまってね。御礼参りだって収拾が付かないんだ。この業界、舐められたら終わりだから。それで、髑髏星を防衛するはずの一五〇〇隻が出入りとなってしまった。いま必死でとどめている。――目標は、七つ星連邦だ」
海賊団の中からどよめきが起こる。一気に戦力が一五〇〇増えたのだ。
「勝算は、十分ある。」
チアキの眼鏡がキラリ光る。けれど異論が出た。ケンジョー・クリハラだ。
「しかしそれは、相手の戦力を都合よく微分した計算だろ? いくら寄せ集めでも、海賊が攻めて来るってんで各方面軍が駆けつけてきたらどうするんだ。一五〇〇は結構目立つ戦力だ」
娘と違ってケンジョーは現実を見据える。
「各方面軍の足止めが必要だ」
その言葉に、リーゼが立った。
「その足止めには、元帝国艦隊が当たるでしょう」
元?と、一同が訝しんだ。それに帝国艦隊とはどういう意味だ?
「実は、プラント破壊以来、帝国艦隊で脱走が続出しているようなのです。第五艦隊を中心にナンバーズフリート全般で艦隊ごと」
「えええええ?? そうなの!?」
茉莉香が大声を上げた。そんな話は弁天丸でも聞いていない。
「ええ、お母様が電話で嬉しそうに嘆いていました」
リーゼがそう茉莉香に返事する。しかし、嬉しそうに嘆くって何よ。
軍隊で脱走は重罪だ。危急存亡の秋にあっては尚更だ。しかし綱紀粛正がはかられたという情報は弁天丸に入っていない。つまり、部隊の大規模な戦線離脱を、統合参謀総司令部は見て見ぬふりをしている――
「脱走した艦隊は、海賊を名乗っているそうです。お母様、楽しそうでした。私も乗りたいって!」
いやいや、女王陛下が脱走して海賊って…。
「それは初耳だね。で、脱走艦隊の頭は誰なんだい」
「フリードリヒ・フォン・カイデル将軍だそうです。降格を不服にとの事だそうです」
表向きは…とミューラの目が、面白い話だと細くなった。
「どうやら、役者が揃ったようだねえ」