七つ星共和連邦領域を担当する二〇〇〇の艦艇のうち、ステラスレイヤーがある第一星系と総司令部がある第二星系とに約半数が割り当てられている。総司令部要塞を防衛している五〇〇の艦艇は一〇の艦隊群に編成されて要塞宙域に展開されていた。
けたたましく警報が鳴る。
ブリッジの中は、何が起こっているかを確認する士官たちで慌ただしい。次々に上がる報告で混乱をきたしている。ここに展開している他の艦隊も同様だった。
「現況!」
イライラしながら艦長が怒鳴った。自分も困惑しているのだが、そんな顔を見せれば、余計に士官たちが動揺する
「敵船は三隻。艦隊の中にいきなり現れました。艦隊陣形の中を飛び回ってミサイル攻撃を仕掛けています。行動は、例のジグザグです」
「他の艦隊からも、二ないし三隻から攻撃を受けているとの報告!」
何処から来たんだ?
プレドライブ現象なんか無かったぞ!
防空識別圏は何をやってたんだ!?
士官たちが対応に追われながら首を傾げる。こちらの臨戦態勢はまだ取れていなかった。ついさっき総司令部から命令を受けたばかりのところだ。全くの奇襲だった。
「被害は軽微ですが、敵はこちらのレーダーと主機関を集中的に攻撃中! 索敵と操船に影響が出つつあります!」
装甲が厚い戦艦クラスに豆鉄砲のようなミサイルは通用しない。だが、剥き出しになっているアンテナやエンジンノズルは別だ。そのような場所は、通常の戦闘ではまず当たらない。電子妨害で射線は逸らすことが出来るし、何よりそんなピンポイントな攻撃は、撃ち合う距離から無理だからだ。余程の接近戦でもない限りは――。
「応戦はどうなってる!」
艦長は声を荒げた。
「それが、距離が近すぎます。艦隊の中で撃つと同士討ちの危険性があります!」
艦長は席の肘掛をこれでもかというほど強く握り締めた。こちらは砲も実体弾も強力過ぎるのだ。味方に当たればただでは済まない。
「対空弾で弾幕を張れ! それなら味方に当たっても装甲が剥がれる程度で済む!」
襲撃を受けているそれぞれの艦隊が、一斉に火箭を開いた。
五〇〇隻とは言っても、その全てが大型戦闘艦ではない。輸送艦も含まれるが、軍用である以上武装はしている。その小型船までもが果敢に攻撃してくる。
だが、当たらない。敵の動きが複雑すぎて、弾幕が追いついて行かない。むしろ、装甲が薄い小型船の方に弾が当たって被害が出ている。
「艦隊を散開させて距離を取れ。そして、小型船を下げさせろ!」
「うひょー、派手に同士討ちしとるわい」
手をかざしてコジャ船長が言った。
「鬼さんおいで、甘酒しんじょ」
スリーJが軽口を叩いて、手に持ったグラスの氷をカラリと言わせる。
「お前さんのは甘酒じゃなくて、ウイスキーじゃろうが」
「違いねえ!」
すっかり出来上がっているスリーJは、キャプテン・ザ・ピースの突っ込みに、酒焼けした額をぴしゃりと叩いた。
「それにしても、重力操作てのは便利なものじゃのう。スラスターの調節無しで自在に飛びよるわい」
ロウ・オブ・ウォーが自分の数倍もある戦艦の脇を擦り抜けながら、アンテナ類を狙い撃ちにする。
「全くじゃ、圧力調整やら過重移動やら、面倒な計算をせずに済む」
ラブマシーンが不規則な飛行を取りつつ、相手に防空弾幕を撃たせ、味方の船体に風穴を空けさせる。
「船体アライメントやショックアブソーバーを気にせんでいいとは、ほんに楽じゃのう」
ダークスターは素早く戦艦の背後に回り込み、メインエンジンのノズルにミサイルを叩き込む。
オリジナル・エイト、ナイン、テンの海賊たちは、自在に敵艦隊の中を飛び回りながら確実にスコアを上げていく。その動きに、要塞護衛艦隊の射線は全く追いついていけない。
「ほほう、僚艦どうし距離を置いての挟叉攻撃に移るか? それじゃあ、折角の弾幕が薄くなるぜ」
ビッグキャッチが、ヒヤシンス、クロッカス、クローバーとともに弾幕の中を掻い潜りながらメインエンジンを叩いていく。断続的に推進ノズルを攻撃されて、ノズルが変形しエンジンがオーバーヒートをきたした戦艦も出て来た。
「今更戦列を整えようとしても、この慌てようじゃあ無理だ。それ故付け入る隙だらけだ」
ウィザースプーンが、スプーンを曲げながら僚艦を指揮しつつ敵の艦隊行動を妨害する。エル・サントとビッグキャッチは、僚艦がたった三隻ながら立派に艦隊と言えた。それぞれが単身一〇〇隻の敵艦群に飛び込み攪乱している。
「ぬおおおおおお、根性ぉー!!!」
たった一隻で飛び込んで行く猛者も居た。村上丸の擂り粉木船長だ。持ち前のタフガイ精神で吶喊を敢行し、敵のブリッジ目掛けてミサイル攻撃を仕掛ける。が、最も装甲の厚いバイタル・コアだ。効果は薄い。人はそれを無謀という。しかし相手を怯ませるには十分な攻撃だった。
快刀乱麻、居合宜しく擦れ違いざまに相手を断つ。
「成敗!」
マスター・ドラゴンが結んだ印とともに、敵戦艦上に起こる猛烈な火焔。
シャングリラが撒いた反物質爆弾だ。戦艦を焼くことは出来ないが、装甲にダメージを与える事は出来る。そこに味方の弾幕が当たって傷口を大きくさせていく。
「まだ海賊を黙らせることが出来ないのか! 敵はたった二〇隻足らずだぞ、いったい何をやっとるんだ!」
総司令は肘掛をダンと両手で叩いて吼えたてた。
「あれがここに配備されていたなら、一斉に焼き払ってやるものを…」
その呟きに、ここに居る士官たちはぎょっとした。
あれの配備が終わっていたら、味方がいる中にぶっ放すつもりなのかと。
ステラスレイヤーは恒星のエネルギーを利用するため、いまは第一星系の母恒星に設置されている。しかし行く行くはこの要塞にも設置される予定になっている。この司令部要塞は移動要塞。変幻自在に恒星に現れて、予期せぬ場所から攻撃することが出来るようになる。
そうなったら、この司令官は手段を選ばず、見方を犠牲にしてまで目的を果たすのか!?
その空気を察してか、参謀がそっと耳打ちした。
「総司令、言葉を選びませんと…兵の士気に関わります。それに、盟軍の司令部付きの目もありますので…」
幾分気まずい思いで、こほんと咳払いをする指揮官。
「現在の、我が方の損耗率はどうなっているか」
いきなり振られて、軍令セクションが艦隊の状況を確認した。
「大破はおろか中破した艦もありません。損害は軽微ですが、ただ、艦隊行動不能で撤退、もしくは停船を余儀なくされた艦艇が多数出ております。」
「なんだと? 損害軽微で行動不能とはどういう訳だ」
「先程の報告にあったように、レーダー・センサー系や推進系を集中的に攻撃を受けており、味方からの被弾もそこに命中するよう、敵は巧妙に仕向けております。目と耳、そして足回りをやられては艦隊行動がとれません。ドック入りすればすぐに修理が可能ですが、それには戦列を離れるしかありません。そうした現在の損耗率は、二六パーセント…」
総司令は言葉を失った。死者が出たという報告はまだ入っていない。しかし行動不能となった艦が三〇パーセント近いとは。これが艦隊戦での損耗率なら全滅という判定が視野に入って来る数値だ。
この戦闘は艦隊戦というより、まるでゲリラ戦だ。隊列を整えた正規軍に突然殴りかかって来た夜盗の集団。神出鬼没でちまちまとこちらの戦力を奪っていく。ふつう海戦では動きが鈍くなった敵艦に集中攻撃を加えて確実に仕留めていく。たとえ動きが止まっても砲撃が出来れば戦力だからだ。水に落ちた犬は棒で叩くが戦闘艦のセオリー。だがこの海賊は、身動きが取れなくなった艦艇に見向きもしない。ひたすら目と耳、足を奪って、早々に御退場願っている。――そうこうするうちに、確実に敵はスコアを上げている。
「これが海賊の闘い方か」
総司令は唸った。限られた戦力で最も効果的な戦果を上げる。それは勝つことを目的としていない。ならば敵の目的は陽動か、こちらに動揺を引き起こさせるための宣伝工作か。
陽動ならばステラスレイヤーが考えられる。だが一つプラントを破壊したところで状況は変わらない。第二第三のプラントが造られるだけだ。海賊にとって利益にならない鼬ごっこだ。帝国がスポンサーなら筋が通るが、奴らは帝国のプラントを破壊している。とするとやはり宣伝工作。
そこまで考えて総司令は自分の言葉に気付いた。
『スポンサー』、『宣伝』というキーワードにだ。
正規軍の艦隊を虚仮にして、ステラスレイヤーを破壊して、一体だれが一番得をする? それは、兵器を売る軍事産業ではないか。不甲斐ない戦艦群にはバージョンアップを勧める、破壊されたプラントには新たに注文が入る。濡れ手に粟の商売だ。
「そうか、奴らのスポンサーはコングロマリットか!」
総司令は戦争をプロデュースしている者の存在に気付いたが、導き出した答えは見当違いなものだった。海賊にとって利害は重要だが、白鳳海賊団は算盤勘定だけで動く者達ではない。
突然叫んだ総司令に驚きながら、言いにくそうに参謀が報告した。
「総司令。この戦況について。お耳に入れておかなければならないことがあります」
「何だ。帝国艦隊がこの機に乗じて乗り出して来たか?」
「いえ、帝国に動きはありません。ただ先日の第五艦隊との戦闘と同様に、この戦闘も銀河系にネット配信されております。連合に所属している星系にもです」
不味いと総司令は思った。
取るに足らない海賊共に、いいように小突き回されている辺境星系連合きっての精鋭艦隊。これでは、連合を仕切っている七つ星共和連邦が足元を見られる。
「艦隊を下げさせろ」
「は? いま何と??」
「艦隊が、射線の邪魔だと言って居る。要塞の全出力をエネルギー・ダイナモに回せ!」
総司令の命令に射撃管制セクションから異議が出た。
「しかし単結晶は未配備、狙いが定まりません。高エネルギー波を広範囲にまき散らすだけです」
「それでもいい。高エネルギー波の輻射で海賊の船を電子レンジにしてやる!」
最初にビラコーチャが変化に気付いた。必死で海賊船を追い掛け回していた対空砲火が乱れ始めたのだ。そして艦隊が散開しようとしている。
『敵艦隊群に動きあり!』
カチュア・ザ・レディーが素早く変化を伝えた。
「どうした、尻尾巻いて逃げるような相手じゃないだろ?」
報告を受けて海賊たちは戦闘空域を確認した。
確かに艦隊群が動いている。しかも自分たちを引き連れたまま。そして、散開していく。丁度、漁の網を手繰り寄せといて開くように。
『空域が空いていく。正面は…司令部要塞だ。おい、司令部要塞の軸線に乗ってる!』
サザンアイランドのジョンが言った。
『ステラスレイヤーほど高出力、精密でなくても、エネルギー・プラントがあれば拡散波を撃てる。俺にはあの目がそう見えるねえ』
カーン伯爵が言うように、黒い球体をした司令部要塞の真ん中に、巨大なパラボラ状の射出口が出来ている。丁度それは目玉のように見えた。
『古代の映画で見たものに似てるいな。そいつはエネルギー集束波をぶっ放してた』
クルップ侯爵も嫌な胸騒ぎを覚えつつ呟く。
『それ、ステラスレイヤーじゃないのか?! 司令部要塞はまだ未配備じゃなかったのかよ!』
悲鳴に近いバックスラッシュの見習い船長。
――要塞に、高エネルギー反応!――
クルーからの報告に、海賊船長たちは戦慄した。
「「「ヤ・バ・イ」」」
一様に危険を感じ取り、それぞれが申し合わせたように、一斉に空域から跳んだ。
その直後、凄まじいエネルギーの津波が空域を襲った。
三〇万キロの扇上に広がったそれは、辺りに重力場異常と電磁波の嵐を撒き散らしながら拡散していった。
まだ空域に残っていた艦艇と要塞が反動で被害を被り、第二星系全体が停電を起こす事態となった。しかし、成果は海賊を打ち払っただけだった。