モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第49話

 先に仕事を終えて撤収した海賊たちのところに、六隻が戻って来た。

 ここは、帝国と辺境星系連合との国境地帯。星系連合の大艦隊が銀河帝国の前に現れ、大規模軍事演習を行った場所だ。

 『おう、やり遂げたな弁天丸』

 『一部始終は放送で見ていたよ。効果は抜群だ、って所か』

 『うちらとそちらさんの二元中継で、視聴者はさぞ忙しかったことだろう』

 総司令部要塞への殴り込み攻撃も、ステラスレイヤー沈黙も、ガーネットAの時と同様に全銀河へネット配信されていたのだ。

 「皆さんご苦労様でした。でも、もう一仕事あります。これが済まなくちゃ宇宙大学との契約は終わりせん」

 『そうだったな。プラントを破壊しただけじゃあ、ステラスレイヤーは仕舞いにならないものな』

 ビラコーチャのカチュアからの返しに、茉莉香はニッコリと営業スマイルで答えた。

 「そうです。じゃあリーゼ総帥。全銀河に宣言しちゃって下さい!」

 画像が切り替わって、モニターには白鳳海賊団のエンブレムが映る。これからの放送も全銀河に流されている。

 そしてグランドクロスⅡの船内が映る。大きな海賊旗の前に立つ、リーゼとグリュンヒルデの二人。リーゼは古式にのっとった海賊の衣装、ヒルデはいにしえの戦衣といういで立ちだった。

 「まあヒルデったら、グランドクロスⅡにまで持ち込んでいたのですね」

 それを見てグリューエルが言った。少し羨ましそうだ。王家の人間たる者、何処であっても最前線に立つ覚悟が必要。と言っていたが、あの姿で居るって事は、グランドクロスⅡがクイーン・セレンディピティってことに成りはしないか?? と茉莉香は思った。

 

 『全銀河の皆さん、白鳳海賊団のリーゼです。

 私たちはステラスレイヤーを沈黙させました。ここで白鳳海賊団は、銀河帝国と辺境星系連合が和平のテーブルに着くことを提案します。

 相互確証破壊の思想は、人類は古代に乗り越えたはずです。それをまた復活させて利権を画策した者たちがいます。利益追求は人類の幸福の上で求めるべきものです。恐怖で得ようとすれば自分の首を絞めて必ず破たんします。

 この先、同じ施設を建設しようとしても兵器としての用は成しません。それより、新しい可能性を秘めた宇宙開発技術として、皆さんの前に現れるでしょう。』

 

 リーゼの宣言とともに、技術情報が開示された。今回のステラスレイヤーの攻撃を無効化させたエネルギー転送とXポイントの座標位置だ。

 これは、茉莉香の思い付きを基にしたものだった。避雷針、ステラスレイヤーのエネルギー波を単結晶アンテナで受けてXポイントに流すというもの。その名もまんま『ライジングロッド・システム』。単結晶の技術と転送に必要な重力制御は銀河帝国も辺境星系連合も既に持っているもの、Xポイントは亜空の深淵で知られている。逆もまたしかりで、膨大なエネルギーの海からエネルギーを利用することも出来る。

 宇宙大学の注文は、超兵器の破壊と技術の無効化だ。既に流れてしまった技術の封印が不可能なら、兵器として使い物にならなくすればいい。これが白鳳海賊団が導き出した回答だ。

 ライジングロッド・システムは、本来のステラスレイヤーの使い方なのだ。ステラスレイヤー・システムが持つ兵器としての負の面に対する安全弁でもある。白鳳海賊団は、宇宙大学の依頼を見事に応えた。それ以上の、新たなエネルギー革命をもたらすという結果でもって。

 重力制御推進にしたってそうだった。海賊たちの闘いぶりで、それが艦隊戦には全く不向きなことが証明された。ジグザグ行動やいきなり雲霞のごとき大艦隊を出現させるなど外連味のある使い方は出来るが、一対一でタイマン張るかしかない戦術では艦隊での意味がない。重力制御推進が通常推進でも対処可能な事は、既にくじら座宮海賊たちによって示されていたのだが――。むしろジグザグ行動で浮遊岩石群からの危険回避とか、長距離を一気に飛ぶ移動方法などは、輸送船や商船にこそ使い道があった。

 

 「ジャッキーは…」

 リーゼの演説を聞きながら、茉莉香はバルバルーサに尋ねた。

 『生体反応は無し。中の様子は――。聞かない方がいいと思う、コーティングを残して金属蒸着しちゃってる』

 チアキの言葉は、ジャッキーの消息は絶望だと知らせていた。

 嫌な奴だと思ったが、こんな最後だなんて。と茉莉香は言葉に詰まった。散々な目に合わされ続けていたリンをはじめとして、ヨット部クルーも、ノエルやミューラも同じようだった。

 リーゼの演説は続いていたが、重い空気が海賊団の中に流れていた。

 最後に、『知性にはそれに相応しい資格が必要』と、宇宙大学の理念を引き合いに、『銀河系は助け合ってこそ資格が生まれ、次へのステップに繋がる知性を得ることが出来る。』と結んだ。

 演説が終わっても、みんな押し黙っていた。ヨット部員の中にはすすり泣く者もいた。そんな湿っぽい空気の中で、聞きなれないすすり泣きが聞こえて来た。男のものだが、弁天丸のクルーや他の海賊からのものではない。

 『うぐ…う、うう…、クシュン!』

 鼻を噛む音までする。

 「『ジャッキー!!』」

 ヨット部員たちは叫んだ。

 『あんの野郎! 何処からだ!?』

 リンが通信の痕跡を追うが、それより早く相互ネットをモニターしていたヒルデが言って来た。

 『オデットです! オデットからの通信です!!』

 「『ええええええ??』」」

 一様に上がる驚きの声。

 『不法侵入だ!』

 『出てけえ!』

 『乙女の船に、いつの間に!』

 『きゃあああ!!』

 『家宅侵入罪と痴漢行為で訴えるぞ、こらあああ!!』

 轟々と非難が上がる。最も乗り込まれたくない殿方が自分たちの家に居るのだ。それはもうゴキブリでも出たような騒ぎだ。

 「ジャッキーさん、生きてたんですね。てか、いつの間に!?」

 茉莉香が尋ねた。

 『いやあ、茉莉香ちゃん…おいらの事をそんなにも心配してくれて…リーゼちゃんのカンドー的なスピーチも相まって…おらあ…おらあ……嬉しくって泣いちゃうよおおお~ん』

 また泣き声が聞こえて来た。

 「ふざけてないで質問に答えて下さいっ。いったい何をするつもりですかっ!」

 『いつの間にって? ステラスレイヤーがぶっ放してくる前からだよ。正確には、ルナライオンが先頭に立つ前だ。オデットがステラスレイヤーに対する鍵だってことは、この船が一番安全だって事だろ? だから緊急避難させてもらった。ステルスを解く前に船外に出て、ルナライオンを遠隔操作しながら様子を見させてもらっていた』

 「そんな前から――」

 『輪形陣で航行し続けてるから、サポート受けてるって思ってたんだが、いやあ、本当に無人航行だったんだな。』

 しかしオデットに、外部ハッチが開けられたという記録はない。

 『お前、相互ネットでクラッキングかましたな!』

 『そこは、緊急避難という事で――』

 リンの非難を躱すジャッキー。

 『実際、それ以上の事はやっていないぜ。オデットの航行もコントロールも何もなかっただろ。俺がやったのは、無人のブリッジから自分の船を遠隔操作してた事だけ。自分の船を犠牲にしてまでな。お役に立っただろう?』

 以前、オデットⅡ世を無人にして居るように見せかけたリンの手口を、そのままされたわけだ。

 「肝心の事を聞いてません。緊急避難だって後付けでしょう? これから何をするつもりですか」

 『白鳳海賊団としての働きは果たさせてもらった。だから本来の仕事に戻らせてもらうよ。オデットを頂く』

 茉莉香に戦慄が走る。オデットは無人、そこに電子戦の超ウィザードが乗り込んでいる。

 「ハイジャックしたつもりでしょうけど、まだオデットは相互ネットの中です。コントロール権はこちらにあります」

 『おいおいこの船が太陽帆船だってことを忘れていませんか、ネットを切断されても機関を止められても、この船は動けるんだぜ』

 「周囲には海賊が居ます。船足の遅い帆船では逃げられません」

 『重力制御推進は相互ネットでそっちにあるからな。帆船航行では逃げられないだろう。でも、俺の目的は船体じゃない。オデットのメインコンピューターにある情報だ。それと私掠船免状。それさえ頂けば、オデットそのものはヨット部に恙無く返却する。』

 じゃあ、どうやってジャッキーは逃げ出すつもりだ? そう思っているところに愛の女王号のリリィから知らせが入った。

 『オデットの格納庫が開いています。それと、サイレントウィスパーが無人でバルバルーサから発艦しました。遠隔操作されてます!』

 サイレントウィスパー! それなら早い。電子戦も戦艦並みの出力がある。逃げられる!

 『駄目だ、相互ネットからオデットを切り離せない。フレームをロックされてる!』

 リンが色々試すが、すべてコマンドを弾かれる。

 「こっちも駄目、サイレントウィスパーのコントロール完全に乗っ取られてる」

 クーリエも焦っている。

 「じゃあ、相互ネット上の弁天丸やバルバルーサも危ないって訳!?」

 茉莉香が慌てた。

 「そこまで深刻じゃない。今のところハッキングはオデットとサイレントウィスパーだけのようだけど――」

 このままじゃ相互ネット自体が乗っ取られることも有り得るという訳だ。何しろ常時監視状態にあったオデットの管制を、気付かれずに乗っ取ったような奴だ。

 『茉莉香ぁ! オデットのライブラリがアクセスされてる!』

 『データが圧縮されてコピーされてる様子!』

 ウルスラとナタリアがモニター席から悲鳴を上げた。

 『イカレポンチめ、始めやがった』

 『でも不正の警告がありません。――どうやって』

 キャサリンが、これも超ウィザード級のなせる技かと思っている所に、リンが答えた。

 『不正でも何でもない。オデットの中からなら誰でもライブラリにアクセスできる。私もそうやって、オデットの過去ログをコピーして持ち帰ったことがあったからな。――意味不明のファイルばっかで、メインフレームのまま開けるのは危険だったから』

 『で、開けたんですか?』

 『いや止めた。ハル坊にどんな影響があるか知れないから、そのままコピーは初期化したよ』

 先輩が二の足を踏むデータって、どんなヤバイ物なんだと思ったが、そうこうするうちにもコピー圧縮は進んでいく。コピーを持って行かれる事にオデット自体に影響はないが、中身が問題だ。それをジャッキーがどう使うが知れない。

 「オデットの船体コントロールはどうなってる?」

 「まだこちらに回ってる」

 クーリエが答えた。ということは、環境もまだコントロール下という事だ。それを聞いて茉莉香はジャッキーに続けた。

 「ジャッキー、降伏しなさい。まだ船内環境はこちらにあります。船内大気を窒素で満たすこともゼロ気圧にすることも出来ます」

 『一応こちらはまだ生身だが、いざとなれば宇宙服を着込むさ。知らない間に毒ガス仕込んだって無駄だぜ。こっちはそういう物に耐性があるんでね。それに、茉莉香ちゃんはそういう事は出来ないだろう?』

 「人と場合によります。やる時はやります!」

 お―怖い怖いと、ジャッキーは取り合わない。そしてやる事があるからと通信を切ろうとしたところに、リーゼが割り込んで来た。

 『聞いたところでは、オデットのライブラリは時系列に齟齬や矛盾があるそうです。意味不明の内容も多いとが。そんな物を持ち帰ってどうするつもりですか?』

 『お、皇女様か。君たちには意味不明でも、別のデータや記録と照らし合わせると意味ある物に変わるという事はよくある話でね。こちとら、そんな情報が商売なんだよ。特にオデットのように来歴に訳アリの船のはね』

 『わかりました。こちらからでは止めようがないようですので、お好きになさって下さい』

 ちょっとおおおおお――。

 何を言い出すのかと茉莉香は心の中で叫んでいた。

 『でも、私掠船免状はやめておいた方が宜しいですよ。あれは王家の者にしか触れない代物、後でどんな結果をもたらすか判りません。――警告文はお読みになりましたか?』

 どうもリーゼは船を開ける際に、何やら書き残して行ったらしかった。

 『ああ、「資格無き者、我に触れる能わず」てか。血の認証の事だろ。大層な言い様だが、お宅んとこの魔法使いのお嬢さんは触れれたんだ、あんま説得力ないなあ――』

 『それはリン先輩だから出来たのです。貴方が持ち出すとなると、別です』

 『はいはい。』

 ジャッキーに抑止効果は無い様子だった。

 『諦めてくれませんか』

 『イヤ』

 『ねえ、止めません?』

 『ダメ』

 はあーと大きく息を付いて、リーゼは仕方なくそうに言った。

 『決断は自分の決めたベスト、と言いますが、必ずしも良い結果とは限らない事をご了承下さい。警告はしましたから』

 とても残念そうなリーゼを残して、ジャッキーの通信は切れた。

 そんなうちに、ライブラリからコピー転送終了の知らせが入って来た。

 『ねえ、あなたどんな警告文を残していったの?』

 バルバルーサからチアキが聞いて来た。聖王家に伝わる秘密の呪文か、それとも防壁のプログラムか。

 『ジャッキーの言ったとおりです。資格無き者、我に触れる能わず、て紙をモニターに…』

 『貼っ付けただけかい! それじゃ「部外者禁止」とまんま変わんないじゃんか!!』

 『そうですか!? でも危険ですって書いてあれば、普通手は出さないかと』

 『普通じゃないから、アイツは普通じゃないから。てか、子供でも通用しないっ!』

 チアキが目を剝く。

 『それに、リン先輩だから出来たんですって、それ完全に誘ってるよ』

 『えええええええええ』

 その剣幕に驚いているリーゼ。

 『どうしましょう――。部長! ミーサ先生をオデットに寄越して下さい。早く!!』

 どうしてジャッキーが私掠船免状に手を出してミーサが必要になるのか解らないが、リーゼは本気で急いでいた。

 

 茉莉香もミーサも理由が呑み込めないまま、兎に角オデットに行く事にした。このままジャッキーに、オデットを蹂躙されるままにして置く訳にもいかない。シュニッツアも同伴する。

 私掠船免状が起動したとの知らせを受けたのと同時に、茉莉香たちを乗せた連絡艇はオデットの格納庫に着いた。

 そこで、シュニッツアの身体に異変が起きた。

 「船長、体が言う事をきかない…。…凄い可変電磁波の嵐だ…」

 「電磁波って、あなたサイボーグじゃない」

 サイボーグは磁気や電磁波が飛び交う、真空の宇宙空間でも生身で居られる。そのシュニッツアが苦しんでいる。

 「サイボーグ…そうか! シュニッツアはオデットの中に入っちゃ駄目、連絡艇で待機してなさい。電磁シールドを忘れないようにね!」

 そう言うが早いか、オデットに飛び込んでいくミーサ。

 慌てて茉莉香が後を追う。

 「ねえ、ミーサ。一体どうしたの? ジャッキーとシュニッツアの変調と何か関係でもあるの?」

 メインシャフトを飛翔しながらブリッジに向かう。

 「大有りなの! もし推察が当たっていたら、ジャッキーは大変なことになってる。――茉莉香は、見ない方がいいかも」

 ブリッジに上がって、二人が見たもの。

 それは、卒倒して痙攣を起こしているジャッキーの姿だった。

 口から泡を吹き、白目をむいて、全身がのた打っている。目や鼻や耳から血や体液が流れ出している。

 意識があるらしく、二人に気付き、痙攣しながらこちらを見るジャッキー。

 「あば、あば、あば、やぁっば…ヤバいもの、だぁっだ……。は、は、は、体じゅゔが俺ゔぉ、攻撃じで…やがる」

 何を言っているのか、よく解らない。

 「喋っちゃ駄目! いま鎮静剤を打つ。茉莉香、医務室から急冷モグル(死体袋)持って来て!」

 「し、死体袋ぉ!?」

 「ここでは治療できないから、早く!!」

 言われるまま、茉莉香が医務室から寝袋のような物を持って来た。その袋にジャッキーを納め、急速冷凍のスイッチを押すミーサ。

 袋の中で全身痙攣していたジャッキーが静かになる。

 見た目はまるでミイラ。名前は死体袋だが、重傷者にダメージが拡げないよう冷凍して救急搬送するためのものだ。まあ死体を運ぶことにも使われるが――。

 

 ジャッキーは、愛の女王号の集中治療室に運ばれた。

 VIPを乗せることの多い愛の女王号の方が、医療設備が整っているのだ。それに電子戦に特化しているこの船は、治療に必要なデータベースが揃っている。

 緊急手術は結構な時間が掛かった。

 疲れた顔でニーサが集中治療室から出て来た。

「あ、まだ面会は出来ないわよ。意識も戻ってないから、顔を見るだけならそこから見れるわ」

 そう言ってモニター控え室の窓をしゃくった。

 その先には、寝台で眠っているジャッキーがいた。

 吊架板から何本ものチューブと配線が体に伸び、ピクリともしない。表情も急速冷凍された時のまま、上目を剥いてだらしなく口を開けている。眉や無精髭にはまだ霜が残っていて、まるで冷凍マグロのようだった。

 「凍ってるみたいじゃなくて、凍ってるの。身体の恢復もあるけれど、意識が戻った時に何するか判らないから、そのままコールド・スリープして貰ってる」

 どっかとソファーに身を沈めて、紙コップのコーヒーに口を付ける。

 「てことは、ジャッキーは助かるのね」

 茉莉香の質問に頷くミーサ。

 煮立ったコーヒーの苦さと熱さに、心地よい疲労の痺れを感じながら言った。

 「私が執刀して助からなかった者は居ないわ。助かる見込みがあっても自分が生きようと思わない限りはね」

 やっぱ苦いと、飲みかけのまま、傍らのダストボックスにコップを投げ入れた。

 「かなりひどい状態だったけど…」

 「普通なら死ぬけど、奴の生命力が尋常じゃ無かったわ」

 流石は海賊狩りでのビッグキャッチや、統合戦争時の白鳥号で見せた腕前だ。神話に出て来る、顔に傷を持つ天才医師もかくやと思う。

 「でも、助かる見込みのない者は?」

 「それは聞かない事。医者に対するエチケットよ」

 ジャッキーを捕まえたと聞いて、みんながやって来た。ずっと追いかけて来たノエルも。

 「ミーサ先生!」

 ミーサにリーゼが詰め寄る。自分が手を出した訳ではなくても、自分が封印を空けた私掠船免状で人が亡くなるのは辛いのだろう。

 「電子の魔人も、とうとう年貢を納めるか。奇天烈な野郎だったが、死ぬ間際になってもイカレポンチな顔してやがる」

 締まらない顔で固まっているジャッキーにケンジョーが言った。

 「親父、まだ死んでない」

 チアキが蒼白な顔をしているリーゼを見て、肘で小付く。

 「大丈夫だって」

 茉莉香の言葉にほっとする。

 

 「ジャッキーの身に何が起こったの?」

 茉莉香が尋常で無かった様子を思い返して尋ねた。

 「私掠船免状がジャッキーに電子攻撃を仕掛けたの」

 「電子攻撃!? だからシュニッツアが動けなくなったのね。というよりも、人体に電子攻撃ってアリなの?」

 その問いにミーサは首を横に振った。

 「シュニッツアのは電波酔い。攻撃で出た電磁波に当てられただけよ。そして人体への電子攻撃は、条件によっては有り得るわ」

 みんなミーサの言葉に注目した。海賊たちにとって電子戦は当たり前な事、その手際で仕事の良し悪しが決まる。日々電子攻撃に晒されている彼らだが、それで体に変調をきたしたなんて聞いたことがない。それとも自分たちの知らない特殊な症例があるのか。

 「それって、俺達にも起こりうることなのか」

 ケンジョーが真顔で質した。

 「ええ、条件によってはね。でも大方の海賊や電子戦を生業としている者達は大丈夫だと思う。それに、この症状は私掠船免状だから起きた事だし」

 帝国の私掠船免状って、そんなに恐ろしい物なのか。茉莉香の不安に気付いて付け加えた。

 「あ、オデットのみんなも大丈夫よ。ヨット部でそんなこと起こってないでしょ。私掠船免状に手を出したリンも含めてね」

 リンは私掠船免状を解析してワイルドカードを作った。私掠船免状に手を出したわけだ。でもあんな目には合っていない。

 「ナノマシンよ。」

 「ジャッキーの奴、私掠船免状を丸ごとコピーか持ち出すかしようとした。でもそれには血の認証が必要になるわ。そこで生体認証を誤魔化そうとしたの。恐らく身体に飼っているナノマシンを使ってね」

 生体認証をハックするのにナノマシンを使う事はよくある事だ。認証で求められた身体情報をナノマシンで生身のそれとすり替える。

 「遺伝子を誤魔化そうとしたのね。とくにあれの血の認証は聖王家直系が条件だから。でもその誤魔化しを私掠船免状は電子攻撃と捉えた。で、ナノマシンに攻勢を掛けた」

 「ナノマシンに電子攻撃掛けたってこと!? でもそれであんなんになっちゃうなんて」

 茉莉香は絶句した。

 「ナノマシンもプログラム情報で動いている。そして遺伝子もDNA情報で成り立っている。双方に齟齬があって触れてこようとすれば自分への攻撃だと判断される。それにジャッキーは体中にナノマシンを飼ってる。彼の身体はナノマシンのジュースみたいなもので、相反する働きをするものやそれを中和させるものとかで、自分にも何がどうなってるのかわからない位よ。そのナノマシンが一斉に暴走を始めた。生身には大変な負担よ。内臓器官はズタズタ、脳細胞だって破壊されナノマシンもろとも真っ新になるわ。」

 脳味噌が真っ新…。

 ミーサの説明にリンはぞっとした。

 「リンちゃんはオデットのコンソールでプログラムを開いて中身を見ただけで、それ自体を書き変えようとか持ち出そうとかしなかったから、攻撃と判断されなかったようね。でも、彼女もナノマシンを飼ってたら危なかったわ。コピペでもしてたら一発だったわよ。そこは天性の勘?」

 「いやあ、一応やばい物に手を出すときは、安易な方法を取らずを自分の決まりにしてるもんで……」

 そう言いつつ頭に手を置くリンだった。

 「で、透析を掛けて体中に飼ってたナノマシンを除去したの。あとは彼の肉体次第ってとこだけど、でも凄い生命力よね。あれだけ痛めつけられたのに、余り後遺症は残らない様子だわ。普通だったら命があっても廃人よ。回復力もありそうだし」

 ミーサの言葉に、一同いま一度ジャッキーを見つめる。

 「じゃあ、あの人間離れした身体能力は、もうジャッキーには無いという事ですか」

 ノエルが質して来た。

 「そうよ。いまの彼はショートタイマーとしての体だけだわ。」

 自分の手を擦り抜け続けて来た、あの神出鬼没な運動神経も、驚異的な頭の回転の速さも、電子戦の魔人だった彼はいない。

 「本当に仕舞っちまった訳だ。で、とうするんだ?」

 ケンジョーのどうするとは、賞金首を何処に届けるのかという意味だった。

 「丁度ミューラもいるし、手っ取り早く海賊ギルドに引き渡すか?」

 「いや断る。生死をこの目で確認した以上、賞金は払う。だがコイツを髑髏星には入れたくない」

 ミューラは露骨に嫌な顔をした。まあ受け取っても始末に困るだろう。

 「それじゃあ何処にする? 辺境星系連合とは戦争状態だし、星系政府、多国籍企業、犯罪コネクション……。こいつに恨みのある奴はごまんと居るぜ」

 「賞金はミューラさんから頂きますから、二重取りなんかしません。ここは銀河警察に引き渡します。そうすれば、いろいろダークな流れも引き出せるでしょうし」

 そしてミューラに向い直して言った。

 「それで賞金の事ですけれど、白鳳海賊団に掛かった経費を差し引いた分を、こちらに振り込んでもらえませんか」

 そう言って口座振替の容姿を渡す。それには、フェアリージェーン財団髑髏星支店の口座番号が記されてあった。

 「そうかい。丸々振り込ませて貰うよ、今回の掛かった経費は、元々海賊が請け負った仕事の必要経費なんだ。保険会社と依頼者が支払ってくれる。そうだろ、茉莉香」

「はい。」

 

 後日、髑髏星孤児への教育福祉事業財団に、賞金額の倍の金額が振り込まれた。倍増の分はグラント姉妹からの寄付として。

 

 

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