モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第5話

 リン先輩やケインを交えてのシミュレーション訓練を終え、新年度初めての練習航海の日がやって来た。

 春のうららかな日差しを浴びて、ヨット部員たちが整列する。

 「皆さん、歓迎航海の日がやってきました。新入部員の中には、初めて宇宙に出る方もいると思います。宇宙は時に冷徹ですが、冷徹だからこそダイレクトに皆さんに感動を与えてくれると思います。皆さん、おおいに見て楽しみましょう」

 顧問のジェニーに続いて、部長が今回のフライトについて説明に立つ。

 「今回のフライトプランは、たう星系の母星たう星を回って第一惑星、砂赤星をフライバイして中継ステーションに戻って来る行程三日間の航海です。これは、私やジェニー先輩、いやジェニー先生が初めて航海した思い出深いコースでもあります」

 思えばこの航海が、自分が海賊になると決めたきっかけだった。

 「今回の航海に、申し訳ありませんが部長である私は同席しません。でも弁天丸でしっかり参加させていただきます。弁天丸はオデット二世の護衛を兼ねて、皆さんに一寸したイベントを用意しました。それは、鬼ごっこです」

 オデット二世が銀河帝国海賊船と公示されて二度目の航海だ。亜空の深淵のときはまだ日も浅く乗りと勢いオデット=バルバルーサで乗り切ったが、それから時間も経っている。ライトニングⅪのようにちょっかい出して来る者が居ないとも限らない。弁天丸はその護衛も兼ねている。これは白鳳女学院ヨット部から依頼された。免状更新にも余裕が生まれる。

 「航海の途中に弁天丸は皆さんにちょっかいを出してきます。電子戦、操船でそれを振り切ってください。短指向性射撃管制ビームを当てられたらタッチダウンです。電子戦で船のシステム乗っ取られてもゲームオーバー」

 「これは、こっちからの攻撃でも同じって事ですよね」

 リリィが質問する。

 不敵な問いに茉莉香やミーサとケインは瞠目した。

 「そうですね。でも海賊は、そう易々と勝たせてはくれないわよ」

 ヒョゥと一同テンションが上がる。

 「さあ、皆さん出発です!」

 

 白鳳女学院の連絡艇が中継ステーションのポートサイドに接岸し、ヨット部員たちはオデット二世が係留されているC-68埠頭に向かった。閉鎖型の大型船専用のドック、この船だけに使われている専用埠頭。他に使い道のない構造のため格安で借りられると聞いていたが、きちんと整備された状態で百年以上も使い続けていられた本当の理由を、今の茉莉香たちは知っている。

 巨大な閉鎖空間一杯に、すらりと流線型をしたスマートな船が浮かんでいる。

 間近で見る大型船の威容に、新入部員たちはみな驚く。閉鎖空間であればその大きさは尚更だ、歓声が沸き起こる。

 「ちょっといい?」

 埠頭に着いて、チアキが茉莉香とグリューエルを別室に呼んだ。

 「今度の新入部員についてだけれど、グリューエル、あなた何か言うことがあるんじゃない」

 グリューエルは口を閉じたまま俯いている。

 「センテリュオのこと? 確かに最近のグリューエル、いつもと調子が違っていたもんね。なんかワケアリって感じ。それも彼女だけじゃなくヨット部を気遣うってゆーか」

 「それに気付いてて、部員の素性を確かめようとしないの茉莉香」

 「そりゃジェニー先輩は、部長たるもの部員の素性は知っておくものですって言ってたけど、わたしはよーゆーのしない。みんなそれぞれ事情や都合を抱えてヨット部に集まってるじゃない。私やチアキちゃんもそうだった。グリューエルやリン先輩も」

 「そりゃまあ、そうだったけど…」

 「だから詮索はしない。もし問題が起きたときは向こうから話して来てくれると思う。そして問題解決に仲間として協力する」

 「まあ部長がそれでいいって言うんなら、私から口を差し挟む事は何もないわ」

 「そうして頂けると有難いです。私は立場上彼女を知っていますが、今後どう推移していくか判らない事ですので、今はまだ私の中だけにしておくのが一番適当だと思うのです」

 「知ってしまうと関わらざるおえない?」

 グリューエルは答えない。

 「でも、これだけは承知しておいて。白鳳ヨット部が巻き込まれるかも知れなくでも、自分だけ背負いこまないで。セレニティー王家までで問題を止めるみたいに」

 はっとして、グリューエルは「はい」と返事した。

 

 出航準備の荷積みに、フリーフライトチェックを済ませ、いよいよ出航。

 リンと顧問のジェニー、保険医のミーサは残り、茉莉香とケインは弁天丸に帰って行った。ここからのオデット二世の船長はチアキ。

 何度も経験しているだけあって上級生たちの手際はいい。そんな上級生たちの姿に新入部員たちは憧れの眼差しを送っている。

 「緊張しなくていいからね、私たちも初めはダメダメだったんだから。先輩に付いて学んで頂戴」

 ヤヨイ・ヨシトミの言葉にハイと答える一年生たち。

 「白鳳女学院ヨット部のチアキです。これからオデット二世はC-68埠頭より出航します。許可願います」

 チアキの通信に、聞き覚えのある声がブリッジに流れた。

 『こちら海明星中継ステーション。オデット二世、出航を許可するよ、気張って行ってらっしゃい』

 「「あ、梨理香さんだ」」

 海明星中継ステーションで知らぬ者のない、鬼管制の加藤梨理香の声に送られて、オデット二世は滑るように埠頭から出ていく。

 補助エンジンを吹かして海明星を離れる。

 確認を待たずに次々とクルーから報告が入る。

 「海明星管制空域からの離脱を確認。第三宇宙速度突破、座標軸をたう星に移行」

 「全天スキャン、周辺空域に船影なし」

 「システム、オールグリーン」

 クルーからの報告を受けてチアキが下命。

 「太陽帆展開。ミズンマスト、メインマスト、フォアマストの順で」

 「「了解」」

 「キャシー、メインマストは絡みやすいから、一気じゃなくじわっと滑らすように立ち上げるのよ」

 航法担当のリリィとアイが後輩を気遣いながら三つのマストを展開する。何の問題もなく帆を拡げ、オデット二世は帆船としての優美な姿を現す。

 「太陽帆、無事伸張を確認しました。帆圧六〇パーセント速力三分の二。現在位置、たう星系GPS、天測ともに誤差無し。予定航路に乗っています」

 補正推進を使うことなく、ピタリとフライトプラン通りの線に乗せたクルーたち。かかった時間もかなり短縮されている。

 「まずまずね。あとはゆっくりたう星に落ちていくだけだわ。新入生の皆さんもご苦労様、歓迎会は帰還した後だけれど、宇宙に出て初めての食事しましょう。ヨット部名物、カレーよ。明日は宇宙遊泳を行うから、英気を養って頂戴」

 リリィのカレーは、大財閥のお嬢様(ジェニー・ドリトル)や王族のお姫様(グリューエルにヒルデ)を唸らせるほどの絶品だ。たまに情熱の味<カプサイシン>が仕込まれたりするが。

 

 練習航海初日の夜、当直は二年のナタリア・グレンノースと一年のグエン・ティ・ファムだった。茉莉香が初めての航海のときはチアキとの一年同士だったが、レーダー監視の訓練で上級生とのペアを組んだのだった。

 「リン先輩の話では、敵が何か仕組んでくるとしたら今夜のうちだって。ファムちゃん、通信とレーダーの動きはどう」

 「別段変わったところは見られませんが…、仕組んでって、何をして来るんですか」

 ナタリアに言われて幾分不安げなグエン・ティ・ファム。

「直接攻撃とかじゃなくって、その前の仕込み。電子攻撃するためのデフリとか符牒とかを仕組んでくるの。ほらドロボウも仕事の前に相手のセキュリティ調べるでしょ。通信波に載せてこっちのシステムに忍び込むんだ。それがノイズになってログに残るんだけど…」

 定時連絡の通信ログとレーダーの記録をトレースするが、特にノイズなどは見られない。

 「うーん、ぜったい何かやってると思うんだけどなあ」

 「じゃあ見えないうちに、こっそり弁天丸は近付いて来ているのですか」

 「恐らくね、こっちの動きを見てると思う。茉莉香部長の時は、射撃管制レーダーで相手の手の内を見破ったんだって」

 「射撃管制って…、大丈夫だったんですか。あからさまな敵対行為ですよ。軍艦だったら警告なしでズドンです」

 「おっ、良く知ってるねー。だから近所に誰もいないのを確認してからぶっ放したんだ」

 「いちおう、周囲五〇万キロに船影はありません」

 「じゃあ、撃っちゃう?」

 「撃つんですか先輩!」

 驚く一年生。

 「うん、隠れてる方が悪いっ」

 そう言って、射撃管制レーダーのスイッチを押すナタリア・グレンノース。

 大出力のレーダー波が全天にわたって放出される。もし近くに船外活動中の者が居たら、たちまち蒸発してしまう程のエネルギー波だ。宇宙船を確実に炙り出し、正確な位置を計る。

 ――ただし彼女らが放ったのは、茉莉香の時のように短距離ではなく、高周波の全天長距離射撃管制波だった。

 「いた! え?一二〇〇万キロ後方?? ずいぶん遠いな」

 「反応、消えました」

 レーダーに反応が現れたのは一瞬だった。だがログには残っている。二〇〇〇万キロ離れたところに確かにいた。しかし距離があり過ぎた。超光速回線ならまだしも、通常回線でのクラッキングにはタイムロスがあり過ぎるのだ。

 

 「うひぇ、いきなり射撃管制波かよ。しかも高周波長距離スキャン、星系軍が警邏してたらどーすんだ」

 レーダー波を浴びた弁天丸では、三代目が呆れた声を上げていた。

 「思いっきりの良さも部長仕込みか」

 いきなり攻撃を受けたに等しいシュニッツアは、砲撃手として青筋を立てている。

 「なにやってくれるのよー」

 船長席で茉莉香が青くなっていた。

 「距離は十分離れてる。レーダーその他に影響はない」

 「オデット二世の周囲二〇〇〇万キロに船影はない」

 レーダー・センサーの百目と航法士のルカが現状を報告する。

 「勘所はいいんじゃない。仕掛けて来るなら今時分、ちゃんと状況分析出来てるわ。でも電子戦はクラッキングだけじゃないのよねー」

 と、電子戦担当のクーリエ。

 「ケイン、オデット二世にあまり近付きすぎないで。距離はこのまま、高周波射撃管制レーダーを喰らっちゃたまんないわ」

 「了解、船長」

 つかず離れず、弁天丸はオデット二世のあとをつける。

 

 「長距離射撃管制波をぶっ放したぁ!?」

 当直からの報告を受けたチアキは目くじらを立てていた。まあ、弁天丸のクルーが呆れたのと同じ理由だ。

 「でも、弁天丸を捉えました。オデットの後方二〇〇〇万キロです」

 「後をつけてるって感じね。仕掛けてくるとしたら、やはりたう星を回ったところか」

 ライトニングⅪの時と同じく、自分でも狙うならそうする。しかしタイミングは砂赤星をスイング・バイしたあとじゃなく、その手前。オデット二世が最もスピードを落とす地点。太陽帆の操船がいちばん複雑になり動きも限定されるからだ。

 「恐らく会敵と戦闘は二日目の夜になります。ミーティングは昼に行いましょう。ご苦労だったわ、あと代わってあなたたちは休んで」

 「「はい。」」

 しかしあの時、茉莉香は初めての航海でそれを見抜いていた。経験も無しで? 対抗手段まで思いつくなんて今になって思えば、あれは天性のものなのか。船長を任されてそう思ってしまうチアキ・クリハラだったが、その思いを振り払う。

 (だめだめ、出来るかじゃなくやるんだ。)

 でも、何か見落としてる気がする…。

 深夜に報告を受けたチアキ。眠れない夜になりそうだった。

 

 昼にミーサ、ジェニー、リンも交えての全体ミーティングが始まった。

 ブリッジ中央に浮かんだ立体ディスプレイに跳んで、チアキが状況説明する。

 「間もなくオデット二世はたう星を回って砂赤星重力圏に向かいます。砂赤星をスイング・バイするのは明日の朝。昨夜の報告では、弁天丸は本船の後方二〇〇〇万キロの地点にいます。推進動力を持たない本船は、これからスイング・バイ時に周回軌道を離脱しないよう、太陽風を利用しての減速に入りますが、一方の弁天丸は無推進でもたう星の重力で加速し、その差は縮まります」

 そこまでを球形の立体映像に映し出された二つの軌道を指示しながら述べる。うんうんと頷くクルーたち。

 「弁天丸はレーダー波ステルスを掛けながら無推進航行で、電子戦やビーム攻撃が有効な距離まで近付いてくるでしょう。こちらからは敵が見えません。でも相手はこちらが太陽帆船であることを利用して、ある程度の航路が予測できます。こちらが敵を見ることが出来るのは、相手がジャマ―など妨害電波を浴びせかけてきた時、つまり目の前に迫って来てからです」

 何というハンデだろう。攻撃を仕掛けてからならエンジンを噴かせて機敏な操船も可能だ。たがオデット二世は太陽帆船、補助推進で軌道を変える事も出来るが急速な運動は望めない。しかも攻撃を受けるのは必殺必中の距離になってからなのだ。

 「弁天丸が襲ってくるとしたら、ここ。」

 と、砂赤星にスイング・バイを掛ける手前の地点を指し示した。

 「いい状況分析ね、茉莉香ならそこを狙うわ。あの子普段は大雑把に見えるけど、結構慎重派なのよ。船長なら尚更」

 とミーサ。

 彼女の人物評価にチアキは意外な顔をする。

 迅速な判断と思いっきりの良さが信条の茉莉香に、そんな一面があるとは。いつも引っ張り回しているばかりだと思っていたが。

 「で船長、どう対処するの。茉莉香はライトニングⅪの時のことは知っているのよ」

 あのときキャプテンだったジェニー・ドリトルが訊いた。

 「こちらがライトニングⅪになります」

 そう答えるチアキ。

 「茉莉香は、自分がライトニングⅪだったらと考えていると思います。だから生半可な電子戦で応対したら、忽ち乗っ取られてしまう。システムがメインかダミーかなんて、クーリエさんならすぐ見破ってしまうでしょう。だから裏をかきます!」

 一通り作戦内容を説明し、質疑応答のあと、作戦開始時間は今夜9時と決まった。

 

 「さあ、野郎ども。持ち場につくわよ!」

 「「「おー!!!」」」

 鬨の声がブリッジに響き渡る。

 

 

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