濛々と沸き起こる煙、そしてチャブの嵐。
――撃てぇ――
何処からか強制入力された声を共に、無数の実体弾が、連合艦隊の背後から跳んでくる。
巻き上がった火焔と『轟音』に包まれる連合艦隊。
が、被害はない。
「何事だぁ!」
鼓膜を劈く轟音に耳を押さえながら、総司令は叫んだ。
「敵からの攻撃ですぅ」
同様に耳を押さえながら士官が言う。
「そんなことは判っとる。何者だぁ」
「模擬弾と思われ被害はありませんっ、これは警告です!」
「警告だと? それよりこの音何とかならんのか!」
「指向性レーザー通信による直接強制入力ですぅ。切れません!」
「レーザーだと?! こっちは一万の艦隊だぞ!」
一万の艦艇に、それぞれ同時に直接入力している。千や二千の船では聞かない筈だ。いったいどうやって?
ドラム缶の中でガンガン叩かれているような音に、ブリッジでの会話もままならない。
やがて攻撃が止み静かになると、これまた大音量で男の銅鑼声が響いて来た。
『暫く。アイヤ、暫くぅ!!!』
カンカンカンカンと、六方の拍子木とともに立ち現れる、異形の姿。
『知識余りあって足らざる時は、宇宙にとって万人に援け、前後する所無しとか。何ぞその帝国と辺境とを問わん!』
升紋の入った柿染素襖に、前髪付油込の五本車鬢。身の丈ほどもありそうな大太刀を手に、赤い隈取の入った顔で大見得を切っている。
『問わでもしるき源は、銀河の星に身体ばかりか肝玉まで、すすぎ上げたる無法者。
ゆかり黄金髑髏の海賊と人に呼ばるる鉄の髭。
当年ここに十八番、久しぶりにて顔見世の、昔をしのぶ筋隈は、
色彩見する寒牡丹、素襖の色の柿染も、渋い男の相伝骨法、
機に乗じては藁筆に、腕前示す荒事師、
銀河一流の豪宕は、家の技芸と、御免なせえと、ホホ敬って白すぅ~』
それを見て、百目がげんなりして言った。
「またあの御仁だよ。」
ルカもミーサも呆れた顔をしている。
「白波五人娘に焦った様ね」
「あの性格も相当ね。家の技芸って…家族がどう思うかしら。それより、あの人今まで何やってたの?」
茉莉香だけが突然の鉄の髭の出現に訝しんでいた。確かに黄金髑髏も白鳳海賊団に加わっている。クォーツがそうだが、それは従姪がいるからで、黄金髑髏の海賊は団ではなく一匹狼だからだ。鉄の髭がどう関わっているのか、得体が知れない。
そんな自分と違い、特に鉄の髭を警戒する様子でもないクルー達の態度が不思議だった。
「ねえミーサ。鉄の髭って何者なの? 海賊の巣でもそうだったけど、なんだかみんなは知ってるんじゃない?」
「知らないわよ、あんなカブキ者さん。ただ以前に見知ってた人とよく似てるってだけ。ところで茉莉香、梨理香はいま何やってるの」
「梨理香さん? 何でもまた旅行だって。このところ家を空けてることが多いわ。連絡もあまり来ないし、旅行を楽しんでるみたい」
茉莉香の答えに、クルー達はピーンと来た。梨理香があの御仁と一緒だったら、あんな台詞は言わせないだろう。という事は別行動を取っている、それも連携を取りつつだ。そして帝国から親書が届き鉄の髭が現れた。
連合艦隊の背後に現れた大型戦艦、「大宇宙を駆ける大いなる海賊船パラベラム号」の後衛には、総司令がよく見知っている艦隊群が並んでいた。その数、なんと二五〇〇。
現れた艦隊の砲門はこちらの方を向いている。
「連合に加盟する星系軍の寝返りです!」
レーダー士官が悲鳴を上げた。
さっきの指向性レーザー通信は、あの艦隊が放ったものだ。そしてそれは、射撃管制波でもある。
ここに参集していない戦闘艦の約半数だが、残りは各星系の守りに就いている。そして星系政府ごと寝返っていると見ていい。辺境星系の連合は破れた。
「うろたえるな。数の上ではこちらが有利だ。それに実戦経験も我が七つ星共和連邦が上。敗残の裏切者にいかほどの事が出来ようぞ!」
横列を取っていた艦艇を縦に回頭し、正面はそのままに、左右の艦隊の船首を後ろに向かせる。
海賊を攻撃しようとした直前だったから、砲門のエネルギー・チャージは済んでいる。そのまま総司令は撃とうとした。そこに参謀士官から意見具申が来た。
「総司令、本当に攻撃するのでありますか?」
「当たり前だ。攻撃して来る敵に撃たせる馬鹿がどこにいる」
「ですが、相手はまだ撃っていません。先程のは空砲です。確かに敵対行為は取っていますが攻撃行動は行っておりません。何らかの意図があると見るべきです。それに統合政府からも連合破棄の報告は入って来ておりません。連合解消は政府と議会で決定されるものです。ここで我々の方が先に攻撃すると、我々が連合への反乱軍となってしまいます」
「そんな馬鹿な話があるか! 連合艦隊は我々が主力だぞ」
「そうですが、条約上ではそうなります」
これが七つ星共和連邦軍なら撃てる。しかし名目上この艦隊は辺境星系連合艦隊なのだ。ちょっと挑発を受けたくらいで、政府の許可なく同士討ちを始めたら、確かにそうなる。総司令は歯ぎしりした。
「統合政府に確認を取れ!」
両者睨み合いの中、鉄の髭が言った。
『史記に曰く。
陳勝なる者は、陽城の人なり、字は渉。呉広なる者は、陽夏の人なり、字は叔。二世元年の七月、閭左を発して漁陽に適戌せしめ、九百人大沢郷に屯す。陳勝・呉広 皆次として行に当たり、屯長と為る。たまたま天大いに雨ふり、道通ぜずして、度るに已に期を失す。期を失すれば、法として皆斬らる。陳勝・呉広乃ち謀りて曰く、「今、亡ぐるも亦死し、大計を挙ぐるも亦死せん。等しく死すれば、国に死するは可ならんか」と。
それより先、陳渉少き時、嘗て人の与(ため)に傭われて耕す。耕をやめて壟上に之き、長恨することこれを久しうして曰く、「苟も(いやしくも)富貴ならば、相忘るることなからん」と。傭者笑ひて応へて曰く、「若は傭耕を為す。何ぞ富貴ならんや」と。陳渉太息して曰く、「嗟乎、燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」と。
いま春秋の秋。銀河の趨勢この一戦にありと言えど、後顧に憂いを持ちて何ぞ野心を果たせんや。汝らの大志とは如何。』
小難しい事を言っているが、芝居気たっぷりだった。
「ねえ、あれ何て言ってるの」
言ってることがちんぷんかんぷんの茉莉香は、そっとミーサに尋ねた。
「煙に巻いてるだけで、大したことは言ってないわ。前に海賊の巣で茉莉香に言ったでしょ、あれと同じ。『宇宙の果て。果てしない先を見据える人間は、一人では足りない。より多き人々が目指すからこそ、宇宙の果てに何時かまみえん。お前は何を見詰める?』よ」
「なにそれ?」
「でしょ、それを『今、亡ぐるも亦死し、大計を挙ぐるも亦死せん』とか、やれ『燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや』とか、まったく持って回った言い方!」
説明を受けても、やっぱりちんぷんかんぷんな茉莉香だった。
そんなところに、海賊たちから声が掛かった。本人からすれば、屋号での大向うを掛けて貰いたかった所だろう。
『おい、ゴンザ。何気取ってやんだ? まあ見栄えを気にするお前らしいって言えば、らしいか――』
『あれだけ娘に決められた後じゃ、二番煎じ』
『辺境星系で焚き付けて来たな。根回しはメトセラ・コネクションだろ?』
『その辺はバルバルーサが詳しいんじゃないか。ノーラが居るからさ』
親父? バルバルーサと聞いてチアキが飛び上がった。
ゴンザ? それが鉄の髭の名前? どこかで聞いたよーな…。でもなんで海賊船長たちが知ってるの?
不審に思う茉莉香やチアキに、ミーサもケンジョーもしまったと思った。『加藤茉莉香に関する不可侵協定』で、内緒にしてあるはずのものだったからだ。どうも船長たちは、久し振りに見る歌舞いた姿に忘れてしまっているらしい。続けてこうも言ってきた。
『もうすぐ、かみさんも駆けつけて来るんだろ。今回はどんな一物携えて来るんだ?』
え、え、え、鉄の髭さんの奥さんまでやって来るの?
戸惑う茉莉香をよそに、今度は、白鳳海賊団の背後が爆発した。
パッパラッパ、パッパラッパラー。パッパラッパラー。
強制入力される、突撃ラッパの音。
わざわざ、プレドライブ現象を派手にまき散らしながら、戦艦が次々と通常空間に姿を現して来る。
パッパラッパラー。パッパラッパラー。
一カ所二カ所ではない。宙域全体に渡って、雲霞のごとき大艦隊が出現してくる。その中には、見知ったノイシュバンシュタインの姿もあった。
「帝国艦隊!?」
耳をつんざく突撃ラッパのなかで、それを見た茉莉香は椅子から立ち上がった。
――『お待たせ。騎兵隊の到着だよ!』――
とてもよく知っている声。
「「梨理香さん!!」」
通常空間に復帰すると同時に、射撃管制波を浴びせ、間髪を入れずに一斉掃射する。
こちらは、辺境星系の艦隊と違って容赦がない。全部実弾、エネルギー・フルチャージだ。忽ち、白鳳海賊団に向いている連合艦隊の幾つかが被弾する。
『おー、今回のブラスターは、また剛毅だなー』
『いつもながらの抜き撃ち。見事なもんだ!』
惚れ惚れした様子でウィザー・スプーンやミスター・ドラゴンが言っている。
現れた帝国艦隊は、何と、十万隻だった。
「一挙に形勢逆転?」
「力で押す奴は、力に弱い」
「十万て、帝国艦隊の殆どだよね?」
「てことは、帝国は空? 総力戦?」
「でも、私たちも、まだ帝国の敵であって…」
「あれ、茉莉香のお母さんだよね?」
「何がどーなってるのか。サッパリ判らん!」
オデットのブリッジでは、クルー達がハテナマークを飛ばしまくっていた。それは茉莉香も。連合艦隊の総司令も同じだった。
『帝国艦隊が、海賊に加担するだと? さては始めからグルだったな!!』
総司令は叫んだ。そこにノイシュバンシュタインから通信が入った。
『元第五艦隊司令、ハインリッヒ・フォン・カイデルである。我々は帝国艦隊ではない。帝国を離れた脱走艦隊である。第三から第七艦隊の有志たちは、これより独自に行動し、海賊団に加勢する――』
それを聞いた茉莉香やヨット部クルーたちは悲鳴を上げた。
「「「え―――」」」
これは一体どうした事だと思っている所に、グリューエルはニコニコしながら言った。
「先程言ったではありませんか、帝国でも脱走が相次いでいると」
「相次いでるって、十万だよじゅうまん、帝国艦隊の大半じゃない。それ、脱走とは言わないわ」
「残っているのは、核恒星系を担当する第一・第二艦隊と、僅かな各艦隊の艦艇だけです。第一・第二艦隊も参加したがっていたそうですが」
トンデモない事態にも関わらず、三人の皇女たちはいたって涼しい顔。
「アンタ達、事情を予め知っていたわね!」
そんなお姫様をチアキは睨んだ。
「事態を知ったのはヨートフがやって来た時です。ソリス王子の言葉から、これは女王陛下も了承していることを確信しました」
「だから、それはもう、脱走とは言わない」
そんなやりとりをしている所に、弁天丸から通信。
『チアキちゃん!!』
「茉莉香、アンタお母さんから何も聞いてないの? それと、ちゃんじゃないから」
ぶんぶんと被りを振る加藤茉莉香。
「海賊船から何か言って来てる?」
これも、弁天丸にも問い合わせがない様子。
そう言えばさっき、カーン伯爵が鉄の髭に辺境を焚き付けて来たなと言っていた。カチュアもブラスターがどうのとか。その辺の事情はバルバルーサが詳しいんじゃないかとも言っていた。大人たちは、この艦隊の規模までもかは知らないが、いまの事態を想定していた!?
「あんのクソ親父ぃ~」
大人たちはこちらに黙って互いに連絡を取り合っていたのだ。
「茉莉香! まんまと乗せられた。親たちに一杯食わされたよ!」
チアキの怒声に、茉莉香もようやく気付いた。梨理香さんは旅行だと偽って、帝国艦隊の取り纏めをしていたのだ。根回しは恐らくあのヨートフだろう。そして鉄の髭は辺境で。
鉄の髭と梨理香さんは海賊狩りの時も行動を共にしていた。
え、ちょっと待って。さっきカチュアさんが「かみさんも」って言ってた。
船長たちは鉄の髭を知っている様子、そして弁天丸のクルー達も。
と、ゆーことは…。
茉莉香に冷たいものが走る。
クルップ侯爵の言うゴンザとは、ゴンザエモン加藤……
――えええええええええ!!!!!――
これ以上ない悲鳴が、弁天丸のブリッジを越えて宇宙に響き渡った。
「あなた達、知ってたわね! あの、あの」
「あのトーヘンボク」
わなわなと指差す茉莉香に、ミーサが言った。
「私を騙していたの!!」
語気強く迫る。そりゃいきなり父親が食中毒で死んだと知らされ、それで海賊船の船長になって、海賊狩りで現れた怪人が実は父親ですって、なんなんじゃ~となる。
「騙してた訳じゃないわ。黙っていただけ。ほら加藤茉莉香に関する不可侵協定があるでしょ、アレよ」
クルップ侯爵にカチュアさん、とんだ協定破りよ。とブツブツ言っている。
「バレちゃったから改めて言うけど、鉄の髭はあなたのお父さん、ゴンザエモン・加藤芳郎よ。クルーと船長たちは知っているわ。あとはグリューエルかしら、あの子先代と面識があったから」
ぐりゅ~えるぅ~~~。
思わず脱力する茉莉香。
「それはそうと、使い時じゃないの?」
ミーサが放心している茉莉香に指摘した。
「あ、白紙免状」
圧倒的戦力の差を見せつけている今が、相手に逃げ道を用意してあげる好機なのだ。白紙免状で帝国に対する反乱は反故に出来ることを提示する。向こうがどうすればいいか迷っているうちでないと、破れかぶれになる可能性がある。
オデットに連絡すると、意外にもグリューエルが待ったをかけて来た。
『ここで白紙免状を使う事は、適切ではないと思います。それは向こうにとって帝国の傘下で居ることを認めることと同じで、独立宣言した意味がありません。平和協定が結ばれた後で外交的に使うものです』
「じゃあ、ほかにどんな手があるの。まさか、このまま力押しで――」
いえいえと、にこやかに首を横に振る。
『もっと、上手い手があります。』
そこでリーゼが代わった。
『茉莉香さん。私に連合艦隊の総司令さんとお話しさせてもらえないでしょうか』
「え、そりゃリーゼが海賊団の総帥なんだから、いいんじゃない。でもなに話すの?」
『いえ、海賊の総帥よりも、帝国の代表としてですが』
「帝国の代表って、ああ、セレニティーの船で王子様が一緒に乗って来たっけ」
『そうです。実は帝国から密書が届きました。それで女王は、私に辺境星系連合との交渉を任せると』
密書、只ならぬ言葉の響き。
たいてい密書と名のつくものに碌なものはない。周りに内緒にしておく内容で『陰謀』が付いてくる。まあそれで戦争に片が付くのならそれでもいいのだが、問題はそれをリーゼがするという事だ。確かに聡明な彼女だが若干一三歳。そういう駆け引きにはもっと適任者がいるだろう。例えば情報部の辣腕諜報員とか外交に長けた枢密院侍従長とか――。
『これは、リーゼにしか出来ない事です』
不安な茉莉香に、そうグリューエルが言ってきた。
『どうかリーゼ皇女を信じて下さい。それに、茉莉香さんの出番はちゃんとありますから』
え、私の出番?
聞き直そうとしたところに、通信は連合艦隊と切り替わった。
『辺境星系連合の皆さん。聞いて下さい』
秘密回線でオデットからリーゼが語りかけた。秘密回線だというのに弁天丸にも交信の内容が聞こえている。
『どうか矛を収めてください。戦力の差は歴然です。ここで敵対しても益はありません。あなたたちが独立を訴えていた銀河帝国は、白鳳海賊団に降伏します』
・・・・・・・。
しばしの間を置いて、今度はオデットに悲鳴が起きた。
「助詞の使い方が逆なんじゃない?」
「あの子、核恒星系の人だから田舎とは文法違うのよ」
「どっちも銀河標準語じゃない」
「いきなり何言いだしてるの??」
「リーゼちゃん!!」
喧しいオデットの外野陣。でも突っ込みどころはそこじゃない。
『貴様は帝国にとって敵対者、海賊団の首領だろ。何の権限あって帝国を代弁する? ましてや降伏などと…』
総司令は苛立ちながら言った。こんなところで小娘の冗談に付き合っては居られないのだ。
『カイデル将軍を出せ、なぜ帝国艦隊を脱走などと偽る? さては帝国は手を汚さずに、海賊の仕業として七つ星共和連邦を根絶やしにするつもりだな!?』
よくもまあ悪い方に考えるものだと茉莉香は嘆息した。しかしこれだけ正体不明の大艦隊に取り囲まれては、そう危惧するのも無理はない。
『カイデルです。我々は正真正銘の脱走兵ですよ。辺境で、あれだけ大規模に反乱を起こされて、何一つ手を打てない帝国政府に嫌気がさしたのです。帝国に戻れば反逆者として処分される身ですので、ここは第三の勢力である白鳳海賊団に加わった次第』
『嘘だ!』
と、総司令は叫んだ。『そんな猿芝居、誰が信じる!』
『実は、女王はこの戦争が終結するまで退位なされました。帝国艦隊が崩壊した責任を取ってです。いま帝国政府に独立を求めても、それを判断する者はおりません』
『侯帝はどうした。戦争遂行の最高司令官だろ!』
『侯帝は謹慎なさっております』
艦隊が崩壊? 帝国が空位状態!?
何処に交渉すればいい?
――まさか。
そこにリーゼが続けた。
『ここに親書があります。一通は私に宛てたもので、帝位を私に譲るというものです。この戦争が終結するまでとの期間限定ですが。先程、何の権限あってと申されましたが、そういう理由があっての事です』
そう言って、親書の中身を総司令に示した。確かに帝国全権をリーゼ・アクシア・ディグニティ―に禅譲すると記されてあり、女王の署名と見届け人として侯帝のサインがあった。
『もう一通は、辺境星系連合政府に宛てたものです。密書扱いですので、外部に漏れる心配はありません』
総司令は密書を受け取り、しばし沈黙した。
『吾輩の一存では決めかねる。統合政府に問い合わせるので、しばらく待って頂きたい』
そう答えるのがやっとだった。
統合政府からの返事は意外と早かった。リーゼ、グリューエル、ヒルデの三人は相当時間が掛かるものと覚悟していたが、ものの一時間で来た。しかし待つ方の総司令としては、途轍もなく長い時間に思えた。何しろ、国家の運命を決める内容だったからだ。
『聖王家の助言に従い、要求を呑むとの決定だ――』
絞り出すように総司令は言った。
『では、代表は?』
『私がせよとのお達しだ。全権大使の任命書も届いた。いくらなんでも…あんまりだ。田舎芝居もいいところだ!』
総司令は苦渋に満ちていた。
そんな総司令の心の内を他所に、グリューエルが嬉々として言ってきた。
『田舎芝居でも決定は決定です。付き合ってもらいますよ。では茉莉香さん、お待たせしました。出番ですよ!』
「へ、私??」
いきなり振られた茉莉香は、自分を指差しながら問い返した。
『そうです。茉莉香さんが居なかったら終わりません。なにしろ、銀河大戦を始めた張本人なのですから』
ヒルデまで。
オデットが、海賊船が、辺境と連合の艦隊が、帝国の脱走艦隊が見守る中、オープンチャンネルでそれは行われた。
静かにリーゼが言った。
『銀河帝国女王の名に於いて、帝国は「白鳳海賊団の加藤茉莉香」に降伏します。』
苦々しく、総司令が言った。
『辺境星系連合は加藤茉莉香の宣戦布告に対し、降伏を表明する。』
しばらく間が空いた。
インカム越しにグリューエルが急かして来た。
――茉莉香さん!――
『は、はひ。』
茉莉香の応え(?)に、すかさずグリューエルとヒルデが続いた。
『ここに終戦の交渉は、セレニティー連合王国が見届けました。第七皇女グリューエル・セレニティー』
『銀河帝国と辺境星系連合の処遇は、加藤茉莉香に一任されたことを確認します。第八皇女グリュンヒルデ・セレニティー。』
『『以上で、戦争。終わり!!』』
うえあああああああああああああ~~~
悲鳴とも歓声ともつかぬ声が宇宙空間に響き渡った。もちろん、誰かさんの強制入力で。