モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第52話

 銀河帝国がその勢力を増大させ、周辺の星々との併合を次々と重ねていた頃、辺境宇宙においても、独自の星圏を有する星々が存在した。辺境星系連合は、開拓星系だった。開拓地の多分に漏れず、人口が増え世代を重ねるにつれ、総主である銀河帝国との対立が深まり、遂に独立戦争が勃発。星系連合の独立政府は、脆弱な戦力を打開する為にあるものを建設した。ステラスレイヤーである。宇宙海賊達は私掠船免状を盾に辺境連合の施設を襲い、独立戦争の終結に大きく貢献した。そして意外な形での終戦を経た今、これはそれから100秒余り後の物語である。

 「みんないなくなっちゃったね…」

 「ホント、きれいさっぱり」

 「この宙域に残っているのって、私たちと茉莉香んとこだけ?」

 「みたいだね。バルバルーサまで消えちゃってる」

 「あの、クソ親父!」

 戦争終結宣言を受けて、海賊たちは高らかに笑いながら空域を離れて行った。海賊だけではない、脱走艦隊も辺境艦隊も、潮が引くように一斉に消えていった。七つ星共和連邦の連合艦隊などは、こんな空域に一秒たりともいたくないという勢いで、真っ先に居なくなった。

 一〇〇秒後には、ぽつんとオデットと弁天丸だけが取り残されていた。

 

 未知への道は開かれた。

 決断の連続の果てに見える世界は一体何なのか。弁天丸船長、加藤茉莉香はどんな決断をして、どんな未来を摑むのか。

 果たして・・・

 ――ちょっとお、まだ終わってなーい!――

 何処かで聞いたことがあるようなナレーションに突っ込みを入れる加藤茉莉香。

 『どうしたんですか、茉莉香船長』

 茉莉香の叫び声にグリューエルが聞いてくる。

 「どうしたも何も、一体なに? 総司令じゃないけど何の茶番?」

 『茶番だなんて。あれが戦争終結には一番良い方法だったのですよ。銀河帝国にも星系連合にも傷が付きませんし禍根を残しません』

 「そりゃそうだろうけど、プライドってモンがあるでしょうが。連合国家が、ましてや帝国が海賊に降伏するなんて」

 『だからこその秘密協定です。この終戦はその場に居合わせた者しか知りません。見た者も何らかの談合があったと思うでしょう。本当はネット中継したかったのですが、残念です』

 本当に残念そうなグリューエルだった。

 『それに今回の降伏劇は、もともと茉莉香さんが行った手なのですよ』

 「私がした?」

 『そうです。オリオンの腕統合戦争で見せてくれた降伏のどんでん返しです。あれを参考にさせてもらいました』

 「あ。」

 帝国と偽って偽艦隊を出現させ、キャプテン・スズカに植民星政府を降伏させた。それを銀九龍さんに渡して無事植民星連合は帝国傘下、宗主星も降伏。しかし実際には、植民星側は帝国に降伏をしていない。降伏したのは海賊に対してだった。

 ヒルデが姉に続いた。

 『宗主星は帝国に降伏したとなっていますが、交渉の窓口となったのは、海賊に降伏した植民星を通してです。ですから、宗主星も帝国に直接降伏をしておりません』

 「そおなの!?」

 そしてリーゼ。

 『なぜ占領や征服と言われず統合と呼ばれるのか。両者とも降伏した相手は海賊だからです。海賊から領土を委託されて帝国領に編入された、あの戦争が統合戦争と言われる所以です。その立ち位置を変えただけです』

 いつから、そんな手を思い付いていたんだろう。何という権謀術数だ。改めて思うやんごとなき血筋というやつ、恐ろしい子供たち。

 『私たちにそんな力はありません。お膳立てはヨートフが整えました。あと茉莉香さんのご両親も。私たちはそれに乗っかっただけです』

 そう言ってニコニコしているグリューエル。とびっきりの外交的笑顔でもって。

 いま明かされる故郷の裏歴史。

 呆然とする茉莉香にミーサが振って来た。

 「もっと他に聞くことがあるんじゃない。茉莉香」

 我に返って再び聞いた。

 「それで、どーして降伏の相手が私な訳? 白鳳海賊団の総帥はリーゼなんだし、彼女でいいじゃない」

 それにはリーゼが返答して来た。

 『それは駄目です。あの時、私は帝国の国家元首でした。自分が自分に降伏することは矛盾です。また連合も私に降伏することは帝国に降伏することになります』

 「あ、そうか」

 『それにさっきも言いましたが、宣戦布告をなさったのは茉莉香さんです。ここは加藤茉莉香で締めて頂かないと』

 ヒルデまでが黒い顔で言って来る。

 『で、どうなさいますか。銀河帝国と辺境星系連合の全権は、いま貴方様にあります』

 「全権だなんてトンデモない! まあお芝居なんだし、私だったら星系連合には独立を認め、帝国はもっと緩い連合にってとこかなぁ。その方がゆくゆく帝国に戻るにしてもやり易いだろーし」

 『流石は茉莉香様。統一銀河の首領たる度量の持ち主ですわ』

 胸に手を当ててグリューエルが感激している。

 「またまたー。グリューエル、もう冗談はよしてよー」

 傍でやり取りを聞いていたクルー達もニヤニヤしている。

 「船長、冗談なんかじゃねえ。これは非公式でも正式に結ばれた外交なんだ。しかも星系政府代表のセレニティー連合王国まで認めちまってる。いまのアンタは、全銀河の元首様なんだぜ」

 いみじくも百目が解説した。

 「加藤茉莉香大帝。」

 ぼそり呟いて、ルカが水晶玉を見ている。

 「国民は銀河系百億の星々に百億の…て幾つだ?」

 「垓だよ」

 三代目の言葉にケインが答える。

 「版図は十万光年に渡る」

 ご丁寧にもシュニッツアが付け加えている。

 「海賊帝国の、誕生だぁー」

 そう言って、派手にキャンディーをばら撒くクーリエ。

 「えええええええ???」

 悲鳴を上げる茉莉香に、スクリーンの三人の皇女が床に膝を付き首を垂れる。臣下の礼だ。

 『永遠の忠誠を誓います。マイ、マジェスティ』

 『我らをお導き下さい』

 『銀河系の幾久しき繁栄を』

 「はえええええええええ!?!?!?」

 その様子を見て、クルー達はたまらず爆笑した。

 

 弁天丸のスクリーンには、ぽつんとオデットが浮かんでいる。

 初めてオデットの船外活動で見た宇宙空間を、茉莉香は思い出していた。

 「ホントに、ぽつんだ」

 傍にはいま茉莉香が居る弁天丸が一緒に飛んでいる。オデットから弁天丸を見ても、やはり同じようにぽつんと見えているのだろう。

 「ねえ船長」

 宇宙空間を前に、舵輪を握りながらケインが振った。

 「思うんですよ。弁天丸はこの先、何処へ向かっていくのかなあと。船長は何処へ行きたいですか?」

 しばし考えてから茉莉香は答えた。

 「今の私はみんなに支えられてる。私の知らないところで、私のために私の知らない色んな人達が動いてるんだなって、今回実感した。」

 ほう、という顔をするクルー達。

 「誰がどう動いてるとかなんとかは今は解らない。みんな内緒だろうから、それは追々。

 だから、遠慮なく大学に暫らく行かせてもらうね。それが私の今!」

 そう言うとミーサから注文が来た。

 「ケイン、茉莉香、それ海賊狩りでやったから。弁天丸の船長はどうするのよ、女子大生海賊で行くつもり?」

 「女子高生海賊よか、インパクトに欠けるよなあ」

 百目が腕組みしながら思案する。

 「え、お父さん。先代の船長が居るじゃない」

 それを聞いて、気まずい空気がブリッジに流れた。

 「私が船長になったのも、先代が亡くなったからでしょ。そりゃ残念な気持ちもあるけど、生きていたんだから免状もIDリングもお父さんの物」

 「だよなあ~」

 「やっぱ、そうなるか」

 「でも、商売はガタ落ち」

 「保険会社が嫌な顔しそう」

 「将来が見えない」

 たちまち暗い雰囲気に包まれる。

 「え、え、そんなにヒドイの!?」

 意外な反応に驚く茉莉香。

 「そりゃあ、先代ときたら――ま、いいか。」

 「むしろ元の鞘に戻る訳だ。意外性より、正確な操船と硬派な演出、謹厳実直な営業にな。本人はいい加減だけど」

「茉莉香が選んだ道ですものね」

 「でもその前に、期末試験と大学入試頑張んないとねー」

 

 海明星へのジャンプを前に、加藤茉莉香はオデットに戻った。この航海は、いちおう部活扱いなのだ。管制空域に入って部長が不在では、都合が悪い。

 銀河の端にあたるオケアノス宙域からオリオンの腕くじら座宮たう星系まで、銀河中心部を越えてざっと七万光年。超光速跳躍で二日は掛かる距離をワープなら一瞬で跳ぶ。だから、月曜日からの期末試験に十分間に合うという次第。

 「あーあ、明日っから試験かぁ」

 「嫌だねえ」

 「そうだっ茉莉香。銀河大帝権限で試験チャラに出来ない?」

 「それいい! ついでにヨット部には無試験でハナマルあげちゃうとか♡」

 「駄目よ。天は自ら助くる者を助く。ズルは貴方たちの為にならないわ」

 後輩たちの勝手な言い分に、ジェニーがぴしゃりと釘をさす。でも、こうも言った。

 「全銀河から集まる税金をF・J・G・ファンドに扱わせて貰えないかしら、手数料は〇.〇一パーセントでいいわ」

 「F・J・G・(フェアリージェーン・ギャラクシー)ファンドて、先輩とこの金融会社ですよね。私は銀河を支配するつもりも王様になるつもりもありません。商船大学を目指すんです!」

 そう言った茉莉香に、ヨット部員たちから声が上がった。

 「茉莉香、とうとう進路決めたんだ」

 「宇宙大学じゃないんだ」

 「勿体ないよ。今の茉莉香なら無試験で宇宙大学だって入れるのに」

 まあ銀河の支配者だってんなら、確かに可能かもしれない。ただしそれが、より多くの知識をもたらしてくれる者であるならば。

 「知性にはそれに相応しい資格が必要。私にはそれに見合う学力がないし、宇宙大学にも私が求めているものは無いってだけ」

 そう言い切る茉莉香。

 「宇宙大学は、茉莉香にとって魅力が無い?」

 ジェニーが聞いて来た。

 「そりゃ宇宙大学には色んな星系から人が集まってますし魅かれますけど、それは他の大学でも同じです。私はもっと広い世界を見てみたいんです。ヨット部に入ったのも海賊になったのも、宇宙に出てみたかったのが切っ掛けでしたから。それは、宇宙大学では叶いません。だから船乗りになるために商船大学を選びました」

 「そう。」

 「私の学力でも、何とか合格出来そうですしね」

 屈託なく笑顔を向ける茉莉香、でもジェニーは何だか寂しそうだった。

 それは茉莉香が、宇宙大学を志望してくれなかった事に、ではなかった。自分が宇宙大学を選んだ理由に対してだ。彼女が銀河一の難関校を目指したのは、人脈作り。そこのエリート達と繋がりを持ち、それを事業に利用する。それが目的だ。大学で学ぶ内容はその副産物に過ぎない。動機の純不純では無い。それを目的とすることに疚しさは無い。宇宙大学は銀河きっての俊英が集まっていることで価値があり、いわばジェニーに選んでもらった資格がある。大学にとって学生が、知性にはそれに相応しい資格が必要なのと同じく、学生にとっても、その大学が選んでもらうに相応しい資格があるかどうかなのだ。

 だがネメシスのように、人脈構築を宇宙大学に求めて、今回の事態を招いたことも事実。そこに自身の志望理由の淋しさを覚えた。

 弁天丸は一足先に海明星に帰って行った。

 オデットは途中タニアに立ち寄り、ジェニーとリン、無限少年が宇宙大学に帰って行った。

 そして――。

「では、最終ジャンプ、行くわよ」

 キャプテンのチアキ・クリハラがヨット部員たちに呼びかける。

「座標、くじら座宮たう星系青海星。セット完了。」

「重力制御推進システム異常なし」

「出力正常に上昇中」

「タッチダウン地点、空間に遺留物無し」

 部員たちの確認を受けて、チアキが茉莉香に目配せする。

「帰りましょう、私たちの学校に。ジャンプ!」

 茉莉香の号令とともに、虚空からオデットの姿は消えた。

 

 今回もいろいろあったねえ、などと感慨に耽る間もなく、オデットは海明星管制空域にタッチダウンした。

 「早い事はいいんだけれど…」

 「何というか、あっけないというか」

 「旅の余韻ってものは無いわね」

 目の前には、出発した時と変わらぬ故郷の星と中継ステーションの様子。丁度ラッシュアワーと重なり、出入りする船が多い。

 『おい、いきなり出現したそこの船! トランスポンダーが戻ってないぞ、いい加減に慣れろ!!』

 スピーカーに飛び込んで来たお叱りの声。

 「「梨理香さんだ―♡」」

 管制官の声を聴いて、ブリッジに歓声が沸く。

 「いけね、オデットのままだった」

 航法のリリィが慌ててトランスポンダーを『白鳳女学院練習船、オデットⅡ世』に戻す。

 「梨理香さん、もう業務に戻ってるんですか?」

 驚いてサーシャが尋ねた。オケアノスで別れたのは、ほんの一時間前の事だったからだ。

 『ああ、タップリ休暇を楽しんだからね。戻って、すぐ仕事だ』

 普通、帰って来た日は空けるだろう。でもこうしてオデットの帰還を迎えてくれている。

 「有難うございました。辺境の援軍と騎兵隊、とても助かりました。」

 グリューエルがマイク越しにお礼を述べる。

 『騎兵隊? 何のことだい、私はただ自分の休暇を楽しんだだけだよ。入港はC-68埠頭でいいんだろ。さっさと入っちまいな、港が混んでるんだから、ぐずぐずしてるんじゃないよ!』

 威勢の良い差配にヒルデがクスリとする。

 「流石は梨理香さん。情け容赦のない管制ですこと」

 オデットⅡ世は、流れるような一連の挙動で、バックから閉鎖ドックに一発入れした。姿勢制御の微噴射もほとんど使わなかった。

 一二〇年前から使われている専用のドックに、優美な船体が係留される。海賊団のマークも、いまは白鳳女学院のエンブレムに戻っている。

 オデットⅡ世が見渡せるデッキにヨット部員たちが整列している。展望窓を背に茉莉香たち三年生が、正面には後輩たちが向かい合っている。

 「私たちに追い出し航海を計画してくれた、あなた達に感謝します。今回の航海で、オデットを安心して後輩たちに任せる事が出来ることを、皆さんは示してくれました。三年生は正式に、ここにオデットⅡ世をあなた方に委ねます。」

 茉莉香が部長として、後輩たちに訓示を述べる。

 「計画したのは、私たちヨット部じゃないけどね」

 「これって、追い出し航海になるのかなぁ」

 「なんか海賊部の追い出しみたいですね」

 二年生が口を挟んで失笑が漏れた。

 「「先輩方、三年間有難うございました。私たちはこれからも、オデットを一〇〇年後の後輩達まで引き継いでいきます」」

 二年生以下、中等部を含めた後輩たちが、一斉に三年生に頭を下げる。

 それを受けて、加藤茉莉香、チアキ・クリハラ、サーシャ・ステイブル・リリィ・ベル・原田真希、ウルスラ・アブラモフら、三年生は踵を返してオデットⅡ世に向かい合った。そして深々とお辞儀をした。

 

 「「「三年間、本当にありがとうございました。」」」

 

 こうして、茉莉香ら三年生の、最期の練習航海は終わった。

 

 

 

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