モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

6 / 54
第6話

 夕食を終え、いつもなら入浴や自室で暇している時間。ヨット部員たちはブリッジに集合していた。

 全員が持ち場につき作戦開始を待っている。

 「航行系異常なし」

 「補助推進動力、圧力OK。たう星からの太陽風問題なし」

 「レーダー、まだ弁天丸らしき影、確認できません」

 「オデット二世後方五時の方角からレーダー波あり。弁天丸のものと思われます」

 「電子戦、プログラム作動中。いつでも行ける」

 ブリッジ各部署からの報告を受け、チアキが格納庫のアイに確認を取る。

 「サイレントウィスパー、用意はいい?」

 「はい、準備OKです。同乗のリリィさんもOKです」

 サイレントウィスパーには、操舵のアイ・ホシミヤと航法のリリィが乗り込んでいる。リリィはサイレントウィスパーの肝である電子戦を担当する。

 二一時の時報と共にチアキが宣言する。

 「では、『眼下の敵』作戦を開始します」

 

 オデット二世の護衛を請け負った弁天丸は、ずっとオデットを捕捉し周辺空域を監視していた。――今回は襲う側だが。

 「ん、オデット二世が動き出した」

 空域をモニターしていた百目が報告した。

 「動き出したって、予定の航路を変更したってこと?」

 船長服に身を包んだ茉莉香が確認する。これは弁天丸が請け負った正式なお仕事なので、船長服は当然なのだ。

 「いやコースはそのままだが、船首の方向を変えてる。後方に向かって立てて、――こっちに対して水平だ。」

 「エンゲージ領域から消える。船影が捉えられない」

 射撃担当のシュニッツアからも。

 「どういう事」

 「こちらからのレーダー波に対して反射を最小にさせてるんだ。船幅一〇〇メートル越えの大型船でもオデットの断面積はすこぶる小さい。小型船並みだ。反射面を最小にしてステルス波を掛けられたら、弁天丸でも捉えるのは厄介だぞ」

 「だって帆を拡げてるんでしょ、断面積は大きいじゃない」

 茉莉香の疑問にクーリエが答える。

「船長、オデットが太陽帆船だってこと忘れてませんか。あの帆は何を受けてます?」

 「何をって、太陽光。光、あそうか」

 太陽帆船は光を運動エネルギーとして航行する。その帆は光を輻射させる訳だが、透過率をゼロにすれば後方に逸らすことも出来る。ライトニングⅪはそうやって光学照準器を焼き撃退した。光は電磁波の一種、レーダー波も同じ。オデット二世の太陽帆はレーダー波も透過でき帆自体が巨大なアンテナとしても機能する。

 「オデットはこちらを見ることは出来ても、こちらには見えないって事ね。やるじゃないチアキちゃん」

 好敵手現る、と不敵な表情の茉莉香。

 「どうします船長。少し早いけど仕掛けますか」

 面白くなってきたというケイン。

 「まだ。もうすぐスイング・バイの地点だからソーラーセイルの操作が難しくなるわ。そのときどうしても輻射が出るし、まだ距離もある。もう少し近づいたところで、オデットの電子妨害を待ちましょ」

 茉莉香の判断に電子戦担当のクーリエがニンマリする。相手が妨害は出してきたその時は――。

 

 「弁天丸、ついて来てる?」

 背面航行を続けながらチアキが聞く。

 「はい。レーダー波の方向変わらず」

 一年生のグエン・ティ・ファムが報告する。

 「オデットの推力最低に近付きます。彼我の差およそ二〇〇万キロと推定」

 機関をヤヨイとともに任されたキャサリン・ミラー。

 「そろそろね。サイレントウィスパー、始めるわよ」

 はい。と二人の返事とともに、サイレントウィスパーから弁天丸に向かって強力なレーダー波が放たれる。と同時に広範囲にわたるジャマー。

 

 「来た。敵の妨害電波」

 虚空の一点から放たれた電波にクーリエの眼鏡が光る。

 「さあ乗っ取るわよ。子供たちに本物の電子戦を見せたげる」

 「お手柔らかにね」

 猛烈な勢いでキーボードをたたき始めたクーリエに、茉莉香がお願いした。

 「行きますよ船長」

 ケインが舵を切ると同時に、船内に警報が鳴り響き、戦闘態勢に入ったことが知らされる。

 電子戦の始まりに、隠密航行を取っていた弁天丸は、スラスターを吹かして電波の発信源に向かって加速を始めた。

 「みんな、本当にお手柔らかにね」

 

 「弁天丸の電子攻撃、始まりました」

 「弁天丸からのアクセスは隔離領域に回すんだったよね」

 しかし隔離領域は、みるみるうちに敵の乗っ取りを示す黒に塗りつぶされていく。対抗コマンドを打ち出力を上げるが追いつかない。手際はライトニングⅪと大違いだ。

 が、あまりオデットの中に危機感が漂っていなかった。

 「さっすがープロの手練だね」

 「うんうん、どんどん隔離領域が無くなってく」

 「こっちも出力上げてるのに、全然無問題」

 オデット二世は電子戦力なら戦艦並み。艦隊戦も指揮できるほどの容量と出力を持っている。だが弁天丸も、対グランドクロスのときに海賊艦隊の指揮を取るため、指揮管系統に大幅な強化が加えられている。加えてあちらの装備は最新型だ。

 だが最新型の装備なら、オデット二世側の方も――。

 

 「よし、隔離領域征圧完了。メインシステム頂くわよー」

 ものの数分で隔離領域を意味不明のコードで埋め尽くしたクーリエは、舌なめずりしながら主機の乗っ取りを開始する。このままいけばオデット二世は航行不能、指向性の射撃管制ビームを当てられてゲーム・オーバーだ。

 「ちょっと待って、これ、オデットのメインシステムじゃない!」

 いつもの乗っ取った時とは違う手応えに、クーリエは困惑した。

 「隔離領域がもう一つ? オデット二世の容量ってそんなに大きかったっけ。マズイ、バックドアを付けられる!」

 「サイレントウィスパー!」

 茉莉香が気付く。

 

 「遅い!」

 チアキが叫んだ。同時にオデットの側から乗っ取りが開始される。

 弁天丸が隔離領域にかまけている間にバックドアを仕掛けたオデット二世。電子戦なら戦艦並み、だが戦艦以上な怪物がもう一隻居る

 「空域をあらゆる手段で精密スキャン。仕掛けた相手はオデット二世じゃないわ」

 茉莉香の下知が飛び、百目がソンソールを操作する。

 「前方の船影は小型船、光学観測でサイレントウィスパーと思われる。オデット二世は、一〇時の方向、距離一二〇万キロ!」

 オデット二世はソーラーセイルを弁天丸の方に向けていた。続けてオデットの方から精密観測のレーダー波が放たれる。

 「クーリエ、電子戦の対抗は」

 「やってる。でもバックドア付けられちゃったから、隔離領域で対抗中」

 一方オデットの側ときたら。

 「それいけー、ウ・イ・ル・ス~~」

 妙な節をつけて成り行きを見守るヨット部員たち。

 「流っ石、帝国の最新鋭艇よね。弁天丸のシステムでもキツイわー、でも何で女子高があんな船持ってんのよ!」

 猛烈な勢いでコマンドを打つクーリエから意外な弱音。

 だが対応し切れない。

 「駄目、システムに侵入されちゃう!!」

 「コンピュータ切って!」

 叫ぶ茉莉香、ほとんど悲鳴に近い。

 動力系の三代目が主機動力を保ったまま制御システムをダウンさせる。百目は初期設定から始めなくてもよいようにOSを保存にしてメイン・コンピューターの電源を落とした。

 メインコンピューターに制御されていた弁天丸は、いったん非常用電源が灯り、すぐ通常に戻った。しかし通信もレーダーも切れたスタンド・アロン状態。クーリエは再立ち上げに備えて、ログに残っているバックドアとウイルス潰しに掛かった。

 「どうする船長。航行に問題はないが攻撃はおろか追跡も出来ないぜ。何しろ耳を奪われた」

 「いや、攻撃なら出来る。光学観測なら問題ない。初弾命中は無理だが、夾叉で一度だけ試射すれば――」

 射撃担当のシュニッツアが自信をもって言う。相手が一二〇万キロ先のぼやけた画像でも、確実に仕留めることが出来る。

 「だめー、それこそ向こうの手のツボだわ」

 「それを言うなら思う壺」

 観測ゴーグルをつけたままルカの突っ込みが入る。

 「オデットはそれを狙っているわ。今度は目もやられる」

 「オデットもだが、先ずはあの電子のバケモンをなんとかしないと電子戦で力負けしちまう。実際スタンドアロンにされるというカウンターパンチを喰らってるんだ」

 チアキの考えた手はライトニングⅪと同じだが、肝心の役割が違う。ライトニングⅪは観測用ポッドを乗っ取りのアンテナに使ったが、チアキはオデット自身を中継アンテナにし、弁天丸の乗っ取り攻撃をサイレントウィスパーに誘導した。こちらが対応している隙に、余裕が生まれたオデットからバックドアを仕掛ける。

 「やるわね、チアキちゃん」

 好敵手あらため強敵と思った。

 「こちらが撃てばロックオンされたも同じ。正確な位置測定で、精密射撃管制波で狙い撃ち。しかも太陽光で目つぶしされるというオマケ付きだ。やることがえげつないぜ」

 あの百目が舌を巻く。

 「ミーサの野郎、どんな教育しやがったんだ」

 舵輪を握ったままケインがぼやく。

 「まさに海賊の戦い方だ」

 シュニッツアからの評価に三代目もルカも笑みを浮かべている。弁天丸のクルーみんながニヤリとしていた。

 「勝ちたいですか、船長」

 笑みを浮かべたままクーリエが聞いた。

 「ヨット部部長としてではなく、海賊船弁天丸船長『加藤茉莉香』に伺います。この戦闘に勝ちたいですか」

 しばしの沈黙ののち茉莉香は答えた。

 「そうね、このままじゃ面白くないもん、だって海賊だよ。勝機があるならどんな手も打つ、ダメなら尻尾を巻いて逃げる」

 船長の決定に苦笑いなクーリエ。

 「子供相手に大人げないですが、海賊の戦い方パートⅡをレクチャーしましょう」

 キーボードにショートカットを割り付けながらケインに告げた。

 「正確な射撃には電波照準が必要だけど、バックドアが残っていないか心配。そこでギリギリまでスタンドアロンのままオデットに近付き、乗り込んでの白兵戦に持ち込む。射撃管制ビームと目つぶしがバンバン来るからうまく避けて。かなりタイトな操船だけどいける?」

 「帝国艦隊の十字砲火の中でも突っ切たことあるから、まあ大丈夫だろ。けど、タッチダウンにはどうしてもレーダーは必要だぜ。」

 「こちらからレーダー照射はやらないわ。けど一回だけ信号を送る。向こうから位置を教えさせるために」

 

 「弁天丸こちらに向かってきます」

 「目視航行してるわね。ソーラーセイル弁天丸に照準合わせて。目つぶし掛けるわよ」

 一斉にマストが動き出し、弁天丸に太陽光の焦点を結ぶ。眩い光条が空間を突っ切る。

 弁天丸は細かな操船で光線を避けながら、オデットⅡ世に近付いてくる。

 「弁天丸からのレーダー波ありません。電子攻撃はスタンバイ中」

 オデットの電子戦席に座るセンテリュオから。

 「このままスタンドアロンで行くつもり? 白兵戦!? でもタッチダウンにはどうしてもレーダーが必要になる。いつかはコンピューター立ち上げなければならないわ」

 その時は余裕の電子兵装で、あちらの動力コントロールを乗っ取って終わりだ。

 「あ、向こうから電波。船籍確認信号」

 船籍確認信号は、相手のトランスポンダーを照会するときに送るコードだ。トランスポンダーは航行している船は常に出しているものだから、もっぱら名乗らない相手に送られる。

 「え、こっちはずっとトランスポンダー出してるよ。白鳳女学院籍オデットⅡ世て」

 おかしいと感じたチアキは、こちらのトランスポンダーを確かめた。

 「名乗りは正常。でも出力が強くなってる。これじゃ、誘導灯と同じ! しまった、仕組まれた!!」

 オデットⅡ世は出港準備の段階で、既にクラッキングを受けていたのだ。恐らく荷物業者に紛れた弁天丸のクルーによって。レーダー・センサー系やメイン・システムのように再チェックをする部分ではなく、船の名札に。トランスポンダーの役目はそのままに、ただ発信出力を強くするだけの。それも相手の確認コマンドを受けた時に発動するよう仕込んで。

 「出航前からって、ズルイ!」

 ヨット部クルーから非難の声が上がったが、チアキは爪を噛みながら瞑目した。

 「これが海賊よ。打てる手は何だって打つ」

 この勝負は始めから決していたのだ。弁天丸は電子攻撃を仕掛けなくても、船籍確認信号を送るだけで良かったのだ。それに向かって精密射撃管制波を撃てば、オデットⅡ世は撃沈判定でゲームオーバー。

 オデットⅡ世は、サイレントウィスパーからも射撃管制波をバンバン撃つが、当たらない。正確な夾叉攻撃を紙一重で躱しながら肉薄してくる。

 やがて軽い振動がオデットⅡ世の船体を揺るがした。

 弁天丸がドッキングポートに接舷したのだ。

 あとは回線を開いてハッチを開けるだけ。向こうとコンピューターは繋がるが、いまさら乗っ取りを掛けても遅い。物理的に乗っ取られているのだから。

 まだ、茉莉香からの通信は無い。恐らく再ハッキングに備えて、弁天丸が予防線を張っているのだろう。ここの辺りも実戦を想定して慎重に進めている。

 やがて回線が繋がり、茉莉香の声がブリッジに響いた。

 「こちら海賊船弁天丸の船長、キャプテン茉莉香です。タッチダウンしちゃいました。これからハッチを開けまーす」

 いつもと変わらぬ緊張感のない声。

 「負け、か」

 そう呟くと、チアキ・クリハラは深くキャプテン席に沈みこんだ。

 ヨット部員たちが諦めムードのなか、ひとり電子戦席の一年生。センテリュオ・ルクス・スプレンデンスは拳を握り締めていた。

 「まだ負けじゃない…」

 そう呟くと、ディスプレイにファイルを開けている。

 それを見て、あっと気付くグリューエル。彼女が開いたものは、この船の帝国私掠船免状だった。

 何をと言いかける前に、センテリュオは開いたファイルにコードを打ち込んでいた。

 「打てる手は何だって打つ」

 

 ハッチを開けようとするが応答がない。

 機械の故障かと確かめようとしたところで、ケインからのインターホンが鳴った。

 『船長、開けるの待った。ブリッジに来てくれ、弁天丸がおかしい!』

 ブリッジに戻った茉莉香が見たものは、大騒ぎしているクルー達。

 百目もクーリエもシュニッツアも三代目もルカも、それぞれの持ち場で慌てている。それはまるで戦場だった。

 「何があったの! ケイン。オデットⅡ世は!」

 只ならぬ雰囲気に茉莉香が叫ぶ。

 「そのオデットから突然攻撃を受けた。メインシスレムのほとんどがいう事きかない」

 クーリエが必死で対抗コマンドを何度も打ち込むが、反応がない様子。

 「鼬の最後っ屁? バックドアは潰したはずじゃなかったの」

 「そんな生易しいもんじゃない! 基本言語ごとOSがどんどん書き換えられてる。」

 プログラムが見たことのない記号に変わっていくのに百目が悲鳴を上げる。

 「基本言語って、プロトコル違っちゃそもそも相互通信が成り立たないじゃない!」

 「それが成り立ってるんだな。意味不明の記号の羅列じゃなく、きちんとプログラミング言語として機能してる。その言語を追ってるんだが、まるで解析できない。――対抗が出来ない。完全な乗っ取りだ」

 弁天丸の全機能が謎の命令に支配されようとしている。このまま進めば船内の生命維持環境すら危険だ。

 「すぐ弁天丸の電源落して! 強制終了!」

 茉莉香は船長席のコンソールにIDリングをかざして安全弁を外す。船長IDを確認して、シュニッツアが船のブレーカーを切った。

 全機能が停止し、弁天丸は暗闇の中で沈黙した。

 

 再立ち上げ途中の弁天丸船内。

 「で、思わず船長は電源を切りましたって? いい判断だったわ」

 ミーサに言われて頭を掻く茉莉香。

 「でも百目、違う基本言語でOSの書き換えってできるものなの?」

 「普通は出来ない。基本言語が違っちゃプログラム構文もプロトコルも受け付けない。翻訳が必要なんだが、そんな事したら時間がかかるし、悪意のあるプログラムって弾かれる。

 でも弁天丸のOSはその言語をすんなり通した。これはその言語が、いま俺たちが使ってる基本言語と同じ由来のもので、しかも上位にある最も基礎的な言語である可能性が高い。強制終了で初期化されちまったが」

 「弁天丸の損害は、フェアリー・ジェーンが全額保証させて頂きます」

「物理的な損害はなかったんだが、全部が初期設定からのやり直しで、手間が大変――」

 済まなさそうなジェニー。

 「それが帝国私掠船免状で発動したって訳? 私が持ってるようなただの書状じゃなかったの?」

 「免状がひとつのプログラムになっていたようね。ちょうど船長のIDリングのように。あの子なに者なの?」

 「それは直接聞きましょう。グリューエルも交えて」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。